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第285話 赤国 レディ・アッドレス

【赤国 レディ・アッドレス】

 緑国に次ぐ広さの支配エリアを持ち、棲む種族は七大大国で最も多い。

 巨大で広く長い五本の川。広大な原野。高々と聳え立ち並ぶ山脈。底の見えない渓谷。深く重い霧が立ち込めた森林。

 そして、国の中心にある最も高い山の斜面には果てしなく長い石造りの階段が敷かれ、頂上には赤国を納める主神が鎮座していると言われている。


 種族の特徴として。

 炎を操る種族全般。竜種。妖怪種。仙人種。半人種。などなど。


 【武星天】【華桜天】【神凰天】の三つの組織によって統治されているという。

 【武星天】は国全体の治安を守る武闘派集団。強さこそが正義と掲げ、実力のあるもの、思想に共感するものを片っ端から勧誘しているそうだ。

 【華桜天】は他国との貿易、取引などの商業を生業としている。他の種族を捕え奴隷として売買したり、珍しい種族を捕獲しその身体の一部や身体から生み出される加工品を高値で売り捌くなどなど。赤国の裏を仕切っていると言っても過言じゃない組織だ。


 そして、【神凰天】。

 事実上、赤国のトップ。圧倒的な力で赤国の全てを統べる者がいるという噂だ。

 実際は【武星天】も【華桜天】も、ここの傘下でしかない。


 確認されている神眷者は二人。

 一人は渓谷で睦美達を襲った【華桜天】のトップ。名を楚不夜(ソフヤ)

 もう一人は【武星天】のトップ。

 生粋の武闘派で、おそらく単純な肉体を使った戦闘力なら赤国でNo.1だろうと噂。名を紅陣(コウジン)

 各々に神獣を従わせているが、どの種族かは分からなかった。

 

 そして、巫女の姿は確認されていない。

 これもおそらく、【神凰天】に所属しているのではないかと言われていた。

 もう一つ。詳細は分からないが無視できない案件として、神眷者でも、神獣でも、異界人でも、異神でもない存在が【神凰天】に所属しているらしい。

 これが本当なら、表立っての行動に危険が高まる。神眷者以上の存在が敵の中にいるとなれば戦力は未知数。戦うにしろ、仲間を探すにしろ更に注意し水面下で動かなければならなくなる。


『はぁ…。どうしたもんかねぇ…。』


 などなどと、色々な情報を掴んだ訳だ。


 睦美と別れて早いもんで一週間が経過した。

 この俺、基汐(キシオ)は赤国にいるであろう仲間を探しつつ、赤国の情報を集めていた。


 転生し【竜鬼神】としてリスティールにやって来た俺。個体数の少ない種族だった為か、目覚めた俺の周囲には誰もいなかった。

 周囲を探索しても限界があり、空腹と疲労で体力的にも限界を向かえていた頃、トゥリシエラに出会いこの世界のこと、俺自身に起きている現象を聞いた。

 エーテルの扱いを学び、神具を発現させ戦闘面の強化を行う。

 神との戦いで自分の力不足を痛感させられた。

 今のままでは駄目だ。閃に頼ってばっかりなのも、弱いままの自分も。

 強くなりたい。トゥリシエラとの出会いはそんな俺の願いを叶え成長させてくれる切っ掛けとなった。

 

 睦美はトゥリシエラとの同化によって失った力を取り戻した。しかし、大事な家族を守るために俺とは別行動。しかし、睦美の居場所は把握した。何かあればまた合流出来るだろう。

 欲を言えば光歌を探したい。大切な人だから当然だ。だが、種族的に考えて光歌は赤国にはいない。おそらくだが…緑国…無事だと良いんだが。


『てめぇか?。俺達のことを嗅ぎ回ってるって野郎は?。』

『俺達が【武星天】の者って知ってんのか?。』

『こそこそ動いているみたいだが、何処の者だ?。』


 俺は赤国と仲間達の情報を集めるために単独で行動していた。

 赤国は伝統的な建物や煌びやかな装飾の施された露店。伝統芸能を披露する演者などで賑わっている。

 しかし、その裏には大国ならではの闇が垣間見える。

 その日の生活のすら命懸けの者達が集まる陽の当たらない影の場所。

 そういう場所にこそ、表の社会では得られない情報があるものだ。

 これは仮想世界で仁さんの店で習ったことだ。


 ということで、人気の少ない裏路地、地下で情報を集めていた俺。

 大方の赤国での情報も出揃った。

 何よりも興味を引いたのは最近になり【武星天】【華桜天】【神凰天】の三つの勢力以外にもう一つ組織が増えたらしいこと。

 名を【妖炎天】。

 何でも、三勢力に敵対の行動を示し、事あるごとに三勢力の運営に介入。邪魔をするように戦闘を仕掛けているんだとか。

 もしかしたら仲間の誰かかもしれない。

 その情報だけでも、俺の心は高鳴っている。


 そんな気持ちで路地裏を歩いていたらこれだ。

 チンピラA、B、C。

 見た感じ雑魚だ。エーテルではなく魔力を纏い、その総量も微弱。仮想世界のレベル基準で言えば二十程度だ。

 大した能力もないのだろう。魔力も通っていない小さなナイフを取り出して振り回しながら威嚇している。

 あんなものではエーテルを扱えるようになり、竜鬼の神となった俺の肌に掠り傷すらつけられない。


『なぁ。俺はお前達に何もする気はないんだ。敵対する気ももちろんない。それに情報を集めていたのだって見知らぬ土地の事を少しでも知ろうとしていただけなんだ。だから、ここは穏便に済まさないか?。』


 コイツ等は敵ではない。

 だが、俺には一つの懸念があった。

 ここ数日の間、誰かに見られている感覚を覚えた。何処からかは特定できず、殺気も感じないので放置しているのだが…また、感じるな。


『うるせぇ。怪しいことには変わりねぇんだよ!。』

『死ねぇ!。』

『オラァ!。』


 会話も成り立たず斬りかかってくるチンピラ達。


『はぁ。仕方がない。少し痛い思いをするぞ。』


 ナイフを腕で防ぐ。


『ひゃははは!。刺さった!。刺さった!。』

『いや、刺さってないぞ?。』

『はっ?。』


 腕に当たったナイフが折れた。

 唖然とし目の前で起きた出来事を理解できないでいるチンピラA、B、Cはアホみたいな表情で折れたナイフと俺を交互に見つめている。


『呆けてて良いのか?。』

『ごぶっ!?。』

『ぐぶっ!?。』


 間髪いれずにチンピラAとBを殴り飛ばす。軽く殴ったつもりだったがゴム毬みたいに地面を跳ねて転がっていった。


『ひっ!?。』


 残ったチンピラCは怯えた表情で尻餅をつき俺から距離を取ろうとする。下半身から液体を流しながら。


『行けよ。』

『え?。』

『言っただろ?。争う気はないって。出来ることならもう二度と俺の前には現れないでくれ。』

『あ…ひっ…。ぐっ!。お、覚えてやがれ!。この事は【武星天】幹部に報告してやる!。せ、精々、今のうちに粋がってろ!。』

『お、おい?。』

『ひぃっ!。』


 気を失っているチンピラAとBを抱えてへっぴり腰で逃げていくチンピラC。途中何度も転びその度に此方を見て怯えて逃げるを繰り返す。

 威勢が良いのか。臆病なのか分からん。

 しかし、アイツ等に上の連中へ報告されるのはマズイか?。


『っ!?。』


 まただ。また視線を感じた。


『くっ!。』


 視線を感じた方向に走る。

 多分、二つ離れた角。そこから此方を覗いていた。


『ちっ…いない…か。』


 しかし、そこには誰もいない。

 また、逃した。


 ドゴオオオオオオオオオオォォォォォン…。


『は?。何だ?。』


 後ろの方角から凄まじい音が鳴り響く。

 耳を塞ぎたくなるような轟音と、少し遅れてやって来る衝撃。粉塵が空高くまでのぼっている。

 何があったんだ?。てか、あの方角ってさっきのチンピラが逃げた方向じゃ…。

 気になった俺は音がした方へ向かった。

 

 轟音を聞きつけ集まっている野次馬達の間から覗き込む。

 すると、地面に星形の巨大な穴が空いていた。底が見えない程に深い穴。周囲に飛び散る血液。そして無造作に千切れた服の切れ端。どう見てもさっきのチンピラが着ていた服だ。


 つまりは、誰かがチンピラ達を殺した?。

 周囲に僅かに感じるエーテル。かなり強いエーテルだ。地面は焼かれたように黒焦げ。僅かに燃えているし…まるで、隕石でも降ってきたみたいだ。


『てか、この場にいない方が良いよな。』


 姿を隠すことにしよう。

 チンピラが死んで【武星天】の奴らに俺の情報が流れることはないだろうが、何処に眼があるかは分からないからな。

 

『それにしても、表の賑やかさと比べて裏の方の治安は悪すぎだろう…。』


 情報収集の最中、何度か命を狙われることになった。さっきのチンピラのようなごろつき。問答無用で斬りかかってくる身なりの汚い集団などなど。

 そんな奴等の相手を繰り返す内、どんどん金銭が増えていった。

 まぁ、ちょっとだけ拝借しただけだ。

 今ではちょっとした高めのお値段の宿に泊まれるくらいだ。

 最初は最も安い宿に泊まったのだが、初日からいきなり寝込みを襲われた。

 ナイフを持った男達が入ってきたんだ。

 ある程度、宿泊費の高い宿でないと安心して眠れないことを身を持って学習した。

 

『はぁ…。疲れた…。』


 食事を済ませ。部屋のベッドの上に横たわる。

 これからの予定を頭の中で整理する。

 情報は大体集まった。

 明日からは【妖炎天】の方に行ってみるか。


 トゥリシエラに聞いたこの世界の話。

 仮想世界で神に殺された仲間達は皆リスティールに転生したそうだ。

 今の俺に出来ることは一刻も早く赤国にいるであろう仲間と再会することだけだ。

 閃や無凱さんも動いているだろう。


『俺は俺に出来ることをやってやるだけだ。』


 不安を感じながらも、仲間のことを考えると僅かに希望が芽生える。

 様々な思考が渦巻く中、俺は眠りについた。


~~~~~


『ん…ん?。』


 まだ薄暗い時間。

 寝ている俺は右腕に違和感を感じて目を覚ました。

 動かない?。てか、熱い?。


『って!?。うおっ!?。誰だ?。』


 顔を腕に向けるとそこには頭があった。

 誰かが腕に抱きついていた?。


『お前誰だよ?。どうやって部屋に?。』


 鍵はかけた。窓も開いてない。どっから入ったんだ?。

 扉を見ても開けられた形跡はない。


『ん…ん…煩い。基汐…。すぅ…。すぅ…。』


 俺の名前を知っている?。

 見覚えはあるような無いような。

 少女は気持ち良さそうに寝息を立てている。


『いやいや、寝てんなって。何で俺の腕に吸い付いてんだよ!?。』


 少女は俺の腕を何故か吸っていた。よだれでベトベトだし、多分めっちゃ赤くなってるぞ。

 

『むぅ…。明日…話…すぅ…すぅ…。』

『お、おい、何なんだよ…。せめて、名前くらい教えてくれ…。』

『ちゅーーー。むにゃむにゃ…名前………紫音(シオン)…すぅ…すぅ…。』

次回の投稿は29日の木曜日を予定しています。

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