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第283話 鱗壁絶甲華鏡盾 シルゼス・ミラリアフィリーゼ

 思い出すのは、奴の拳の重さ。

 放たれた言葉。その内容。込められた感情。その表情。

 そして、燕を連れ去った場面。


 【絶対神】グァトリュアル。


 初めての会合。

 圧倒的な力の差を理解させられた。

 俺の今まで積み重ねてきた全てが奴には通じない。そう認識させられた。

 実際には相手にすらなっていない。

 終始見せた奴は常に冷静で余裕を失うことなく淡々と自分の目的を完遂させていった。

 俺の抵抗を意に介さず、障害にすら感じずに対処した。


 悔しさ。が胸の奥から滲み出る。


 俺は…負けたんだ。

 いや、勝負にすらなっていなかった。

 同じ土俵にすら上がれていない圧倒的な力量差。

 強くなった。

 仮想世界での戦い。神々との接敵と戦闘。

 リスティールでの人型偽神、異界人、神眷者。

 彼等との戦いで培われた経験。勝利を納めたことによる自信。

 強くなったと確信した。このまま仲間を探し出し、やがては神々との戦いを終わらせられる。この世界でも俺達は勝ち抜ける。

 そう思っていた自信を奴は粉々に砕いていった。


 あんなに遠いのか。世界の頂点は…。

 手を伸ばしても掴むことの出来ない距離。

 悔しい…。負けたくねぇ…。

 そんな感情が胸の中を渦巻く。


 同時に別視点の考えが浮かぶ。

 それは個人としてではなく、俯瞰で現状の状況を考察する冷静な自分の考えだ。


 しかし、何だ。

 奴は何をしようとしているんだ?。

 俺に投げ掛けられる言葉。

 そこには、リスティナや神々、リスティールの人々から聞いた印象とは全く異なる意図を感じた。

 敵ではない?。いや、敵ではあるんだ。

 敵として立ちはだかっていた。

 だが、奴の視線は俺が想像している終着点とは別の場所に向けられている…みたいだった。


 俺の知らないことがまだまだある。

 それは理解している。

 リスティールに転生してから俺が旅したのは人族の里と地下都市、緑国だけだ。リスティールの七分の一程度でしかない。

 それでは全うな情報は得られない。それに情報の偏りだって発生するだろう。


 絶対神。奴は言った。

 強くなれ。と。奴は俺の力に期待していた。

 仲間を集めろ。とも。言っていた。

 燕を拐った本人がだ。燕の登場が早いとも言っていた。

 おそらく、燕は人族ではない何らかの神に覚醒したんだ。しかし、その登場は絶対神が想像、想定していたよりも早かった。故に回収しに来た。

 その場にたまたま俺がいたことで今回の戦闘が起きた。奴にしてみれば片手間の作業。…父親としてのとか何だか言っていたが…。

 奴はリスティールでの俺の行動に何かを求めている。

 遥かなる高みから。俺の…観測神としての覚醒を待っている。


 燕の身が心配だ。だが、何故だろう。

 拐われた筈なのに、何処か安心している自分もいる。奴に出会ったことで感じた感情。奴は燕を傷つける気はないと言った。

 そして、代刃のことも語っていた。

 この世界で最も安全な場所。もしかしたら、それは絶対神のお膝元なんじゃないか?。


 くそっ!。考えていても埒が明かない。

 情報が少なすぎる。

 それに、いつまでも寝ている場合じゃないな。戦いはまだ終わっていない。


『うっ…。くそ…。燕…。』

『閃君!?。気が付いた。良かった。』


 意識を取り戻した俺の目の前には奏他の顔がアップで映った。

 涙を流しながら嬉しそうに笑い俺の頬に手を添える。

 横たわる俺の身体。だが、頭後頭部には柔らかい感触を感じる。どうやら、膝枕をされているようだ。


『神さま!。うわあああああぁぁぁぁぁん。良かったですぅ!。もう、目が覚めないかと思いましたあああああぁぁぁぁぁ…。』


 顔を覗き込むように身体に抱きつく八雲。

 涙と鼻水、よだれまみれの顔で俺の胸に顔を埋める。


『二人とも。無事…みたいだな。』

『うん。無事だよ。』

『はい。神さまは、お体の具合はどうですか?。』

『俺も…大丈夫だ。…大きな怪我はない。なぁ…。』

『はい。』

『うん。』

『燕は…。いないか?。』

『『………。』』

『そうか…。守れなかったな…。くそっ…。俺は…弱いな…。奴に…何も出来ず、仲間を見す見す拐われて…。奴がその気なら全滅だった…。』

『私達も何も出来なかった…。チナトと同化して神になったのに…。全く相手にされていなかった。』

『私もです…。何をされたかも理解できないまま、意識を失ってしまった。強くなったと思って喜んでいた自分を恥じます。』


 戦闘前の姿とは変化している奏他と八雲。

 八雲はソラユマと同化したことで装いがソラユマの着ていたヒラヒラとした袖と裾に。且つ、本来の機械の装備を装着しやすいピッチリとしたスーツ姿は変わっていない。

 対して、チナトと同化した奏他は…。どうしてバニーガール?。


『っ!?。せ、閃君…あんまり見ないで…。』

『何でそんな格好に?。』

『チナトの趣味だって…。』

『そ、そうか…。ウサ耳。可愛いな。』

『そ、そうかな?。えへへ。実はちゃっとお気に入り。凄く遠くまで音が聴こえるんだよ。』


 後でチナトに色々聞かないとな。


『くっ…。』


 痛む身体に鞭を打ち立ち上がる。

 まだ、戦っている仲間がいる。こんな所で心傷に浸っている場合ではない。

 

『行こう。皆の所へ。』


ーーー


 暴れまわる風の狂乱。

 迸る、雷による光と咆哮。

 成長を続ける樹海は暴風により折られ、吹き飛ばされて宙を舞う。更に、無秩序に降り注ぐ万雷に撃ち抜かれ炎を宿し周囲に燃え移り拡大する。


『あはははははははははは!!!。防ぐね!。防ぐね!。』


 【狂嵐の神】ジュゼレニア。嵐の神。

 最高神の一柱にしてリスティナの妹。

 迷いの森を発生させ閃達を閉じ込めた張本人。


『くっ!?。なんて…見境のない攻撃を…。夢伽さん!。決して私の前に出ないで下さい!。』

『は、はい!。クミシャルナさん!。魔力を送り続けます!。』


 荒れ狂う大気。乱れ舞う嵐。飛び交う雷。

 地は裂け、大地は捲れ上がり、空気が振動する。

 そんな環境下で、唯一生存している者達。

 龍の鱗の盾を周囲に展開。襲い来る嵐を受け止めるクミシャルナ。

 転生の際、契約者である閃との繋がりが弱くなってしまったが、閃がエーテルを扱えるようになった為、クミシャルナもまたエーテルを操れるようになった。

 これにより、魔力しか操れなかった仮想世界よりも圧倒的な防御能力を持つ鉄壁の鱗の盾を展開できるようになった他、エーテルによる回復力の強化で破損した鱗は瞬時に回復し永続的な防御フィールドを作り出すことが可能になった。

 そして、この場には他者の能力を強化できる夢伽がいる。

 クミシャルナの防御力は更にはね上がり、この風や雷が乱舞するジュゼレニアの世界で生存出来ている。


 しかし、敵は最高神の一柱。


 その能力は未知数。

 本人曰く弱体化しているようだが、その力はクミシャルナ達を圧倒している。

 防御に特化したクミシャルナだが、防ぐだけで精一杯の現状。且つ、エーテルを扱えない夢伽を守りながらの戦闘。完全に身動きが取れなくなっていた。


『ははははは!。ここまで防ぐなんて面白いねぇ!。ならさ。これならどう?。』


 ジュゼレニアの掌に発生する小型の竜巻。

 それを両手に纏わし同時に振り下ろす。


『なっ!?。そんな!?。ぐあっ!?。』

『クミシャルナさん!?。』

『あははははは。どう?。防御できないでしょ?。どんなモノでも切り裂く風の刃。エーテルめっちゃ込めたから、そんな鱗じゃ防げない。このまま切り刻んでやるよ!。』


 再び振り下ろされる手刀。禍々しいエーテルが荒れ狂う波のようにうねりを上げる。

 三日月状の風の刃がクミシャルナ、夢伽の二人に迫る。


『くっ!。夢伽さん!。後ろに!。』

『は、はい!。』


 周囲に展開していた鱗を重ねる。

 しかし、それも無駄に終わることとなる。

 真っ二つに分断された鱗。十を越える数を重ねたのにもかかわらず、鋼以上の硬度を持つ龍の鱗は紙でも切断するように容易く切れる。


『ぐっ…。ぐぐ…。わあああああぁぁぁぁぁ!!!。』


 重ねた鱗は最後の一枚まで切断される。

 尚も、威力が衰えない風の刃。

 全身を巡るエーテルを一枚の鱗に全力で注ぎ硬度を維持。切断された箇所から即座に再生させ続けた。


『ははは!。粘るねぇ!。楽しいよ!。』


 やがて、風の刃はその威力を失い微風となって霧散する。宿していたエーテルも自然へと帰化していった。


『はぁ…はぁ…はぁ…。なんとか…守り…抜きまし………。』

『クミシャルナさん!。』


 その場に倒れるクミシャルナの身体を支える夢伽。

 見ると、肩口から腹部までを切り裂かれている。


『夢伽さん…だ…け…でも、まも…り、ます。いのち、の、恩人…で…すから!。』


 立ち上がろうとするクミシャルナ。

 しかし、傷が想像以上に深いのか、すぐに力が抜け突っ伏してしまう。

 クミシャルナを支える夢伽の身体は彼女の身体から止めどなく流れる血液で真っ赤に染まっている。


『ははは。まだ、立とうとするんだ。良いよ。良いよ。なら次ね!。これ!。防いで見せてよ!。』

『あれは…。』

『ぐっ…夢伽…さん…伏せて下さい!。』


 ジュゼレニアの掌で発生した小さな竜巻。

 それを軽く地上へと投げた。


『っ!?。』

『大きく!?。』


 地面に降り立った小型の竜巻は一瞬で周囲の大気を取り込み巨大化。先程の風の刃を無差別に振り撒きながら二人に向かって移動を始めた。竜巻の通り過ぎた場所は地面以外の全てが吹き飛ばされ荒れ果てた荒野だけが残っていく。

 先の刃一つですら防ぐことが出来なかった。

 それが無造作にありとあらゆる方向に放射しながら暴れまわり近付いて来るのだ。


『駄目…こんなの…止められないです…。』

『………。夢伽さん…後ろへ。』

『クミシャルナさん?。』

『夢伽さん…ご主人様はお好きですか?。』

『え?。どうしたんですか?。急に?。』

『ご主人様を愛していますか?。』

『………クミシャルナさん………はい。私はお兄さんが大好きです!。』

『そうですか。では、貴女は何が何でも私がお守りします。』

『駄目です!。クミシャルナさん!。そんなことしちゃ!。』


 自身が出せる鱗壁を全て皮膚から引き剥がし全面を覆い尽くす。全身の鱗を失ったクミシャルナの肌は血が滲み出ていた。


『はあああああぁぁぁぁぁ!!!。』


 持ち得る全てのエーテルを込めた巨大な鱗壁と巨大竜巻の衝突。


『ははははは!。まだ、防げるの?。びっくり、びっくり!。けどさ?。もう限界でしょ?。私の竜巻は周囲のエーテルを取り込んでどんどん大きく激しく回転するよ!。けど、君のそれ回復できるエーテルには限界があるでしょ?。そんなボロボロになった身体じゃ時間稼ぎにもならないよ!。』

『ぐっ!。この…。強すぎる…。』

『私の…魔力も…もう…。』


 砕け散っていく鱗。

 徐々に回復速度は落ちていき、次第に数が減っていく。

 

『ははははは!。きえちゃえええええぇぇぇぇぇ!!!。異界人!。』

『ウチ達の大切な友達を虐めるなあああああぁぁぁぁぁ!!!。』

『ええ。その通りです。夢伽さんを苦しめる者は誰であろうと許しません。』


 巨大化した竜巻を切り裂く雷。

 左右から出現した別の竜巻が切り裂かれ弱まったジュゼレニアの竜巻を呑み込む。


『え?。うそっ!?。何でここにいるの?。まさか、無理矢理突っ切ってきたの!?。』

『詩那お姉さん!。兎針お姉さん!。』


 夢伽の前に降り立つ詩那と兎針。


『やっと見つけたよ!。夢伽!。』

『ご無事ですか?。』

『はい!。大丈夫です!。ですが…クミシャルナさんが…。』

『貴女達は…。貴女のエーテル…ラディガルの?。それに…貴女からは僅かにムリュシーレアのエーテルを感じる…。貴女達も、ご主人様と。』

『はい。私の仲間です!。詩那お姉さんはラディガルお姉さんと同化しています。兎針お姉さんはムリュシーレアさんのお陰で神になったと言っていました。』

『そうですか…。ラディガルと…。それにムリュシーレアが動いているのですね。貴女方の為に…。』


 合流する二人を見てあからさまに不機嫌となるジュゼレニア。


『何さ。何さ。異神が合流?。はぁ。有り得ない。弱体化してるって言ってるじゃん!。ああ。分かったわよ!。もう良い!。出し惜しみなんか!。止めてやる!。』

『あれ、何ですか?。凄いエーテルの塊が…。』

『あれは…。』


 ジュゼレニアの掲げた掌に集まるエーテルの塊。エーテルは小さな球体、野球ボールくらいの大きさに収束した。

 小さいながらも構成するエーテルの密度は、緑国の女王 エンディアが使用した神技よりも強く強力なエネルギーを内包していた。

 まるで、一つの惑星をも想像させた。


『これでも!。くらえ!。』


 放たれるエーテルの球体。

 その内部では、高速で回転する風の渦。複数の台風と乱気流のように乱れるエーテルの嵐。球体の外部まで放電される雷。


『駄目です!。あれは…防げない!。』

『兎針!。』

『ええ。いきますよ!。詩那!。』

『【麗爆機雷球 ジグナザル・マイジラ】!。』

『【黒蝶風翼鱗扇 バフュセル・リンロア】!。』


 迫る球体に対し神具を取り出す二人。

 高められたエーテルが神具を通して外部に漏れ出す。空間が震え、一気に神としての在り方を地上に証明した。


『『神技!。【嵐鱗獣雷】!!!。』』


 二つの神具から放たれる合体神技。

 雷獣の咆哮にも似た雷と蝶が一斉に羽ばたて発生する突風が合わさり暴風となってジュゼレニアの球体と激突した。

 衝突の瞬間。ジュゼレニアの球体は急速に巨大化。効果はそのままに乱気流を内包した球体が周囲のものを薙ぎ払った。

 二つの嵐の激突。弱体化した最高神の一柱と二柱の異神。二つの攻撃は互いに喰い合い、呑み込み合い、反発し合う。

 結果。


『相殺?。もう!。まじムカつく!。くっそ!。弱体化してなければ余裕なのに!。』

『す、凄い…ですね。夢伽さんのお友達は…。』

『はい!。凄いです!。お姉さん達!。』

『えへへ。やったわ!。兎針!。また、成功だし!。』

『はい。詩那。このまま、行きましょう。』

『『『『!?。』』』』


 瞬間。その場にいる全員に悪寒が走る。


『はははははははははは!!!。なら、これならどう?。この森を支配してたエーテルを全部使って纏めて吹き飛ばしてやるよ!。』


 先程と同じ嵐の球体。

 しかし、此度の球体の大きさは十メートルを優に越えていた。

 野球ボール程の大きさだった先程の威力でさえ詩那と兎針の神技を合わせたものと同等だった。それが、今度は十メートル以上。未だに大きくなっている。

 

『嘘でしょ…。』

『残念ながら…あれは…。』


 唖然とすることすら出来ない詩那と兎針。

 あれは、相殺も出来ない。二人は瞬時に理解する。いや、それ以上に。仮に二人の合体神技を再びぶつけた場合、同種の性質上更に相手の技の威力を底上げしてしまう可能性もある。

 

『消えろ!!!。異神!!!。』


 振りかぶり巨大な塊が投げられた。

 四人を余裕で呑み込む死の嵐が迫る。

 全身傷付き鱗を全て失ったクミシャルナ。

 魔力が尽き他者の強化が出来ない夢伽。

 神技が通用しない詩那と兎針。

 四人に死の嵐に抗う術は残されていなかった。


 球体は地面に接触。

 その瞬間。何倍にも膨れ上がった球体。

 解き放たれる嵐と乱気流。そして、雷と高熱が周辺を巻き込み大爆発を起こした。


『ははははは。やったわ!。弱体化してたけど、本気を出せばこの程度よ!。ははは。ははははは。』


 嬉しさを隠しもせずに飛び回るジュゼレニア。

 だが、突如。その表情は真顔に。動きも止まり、その鋭い瞳は一点を睨み付けた。

 

『………そう。アレでも倒せないんだ。ふふ。』


 その視線の先。嵐が去り。舞い上がった土煙の中から現れたのは…。

 輝く六弁の花形の神具。六枚の花弁が合わさる花の形をした鱗の盾。

 複数個浮遊する、その神具によって守られた無傷の三人がいた。


 詩那と兎針の前に出た夢伽。


 彼女の手の動きに呼応する神具。身体も人族から変化し龍種の特徴が垣間見える。


『神具。【鱗壁絶甲華鏡盾 シルゼス・ミラリアフィリーゼ】。私が皆さんを守ります!。』

次回の投稿は22日の木曜日を予定しています。

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