第282話 絶対神
【絶対神】グァトリュアル。
この世界の 全て を創造した最高神。
生命の命も。大地も。海も。空も。星も。宇宙も。全てが奴から始まった。
総ての神々を従え、束ね、神の頂点に君臨。
リスティールを侵略し、仮想世界を神々に創造させた。仮想世界で俺達を生み出し、リスティールの侵略に利用した張本人。
始まりの神。
そして、仮想世界で命を落とした俺達をリスティールに転生させ、神眷者や神々、リスティールの住人達と争わせている。
未だに謎な存在。
何を考え、企んでいるのかは分からない。
リスティナの話では、【絶対神】の【神人】である存在にリスティナの魔力が融合することで生まれたのが俺だという話だ。
つまりは、【絶対神】こそ意図せずに生まれてしまった俺の本当の父親ということ。
『久しいな。我が息子よ。こうして会うのは五順前の世界以来か。』
俺の言葉に奴はそう返した。
俺のことは当然ご存じらしい。当然か。
それに五順前の世界?。何を言っている?。
いや、今はそれどころじゃない。それよりも、なんて威圧感を放っているんだ。
そこに立っているだけなのに、まるで世界の中心がそこにあるかのように錯覚する存在感。
舞台に上がった有名人にスポットライトが一斉に照らされ全員の目が一ヵ所に集中するみたいに。
あの男から目が離せない。
そして、離せないが故に絶対的な存在感を認識させられる。
『お前には聞きたいことが山程あるんだ。この場に現れたということは、色々と説明してくれるんだよな?。』
『いや、まだ、その時ではない。……………ふむ、いや、ここは父親として息子に何かを言ってやるべきであろうか?。………ふむ。リスティナにも諭されたのだ。しかし、何を語るべきか…。』
何かを考える素振り、ぼそぼそ独り言を言っているが?。何だ?。コイツは?。
『我が息子。名は確か閃と言ったか?。』
『………ああ。』
『閃。貴様の力はまだ弱い。いや、弱いという壇上にすら上がれてはいない。最高神として貴様の力は未だに下の下。父としての優しさや恩愛を含めても下の中と言ったところだ。』
『何?。』
いきなり、ディスられた?。
『このままではこの先、我等が住む神の居城へと到るまでには相当な時間を有するだろうな。いや…辿り着くことすら出来ぬかもしれん。この時間軸、世界線は既に我が手を離れ独自の未来へと向かっている。閃。この先の未来を切り開くのは、お前次第だ。』
『っ!?。何を!?。』
『さて、父親としての助言はこの程度か。』
グァトリュアルの視線が燕に向く。
『な、何?。』
『【時間の神】。今回の目的は貴様だ。貴様の登場は些か時期尚早過ぎる。故に貴様を回収する。』
『っ!?。』
時間の神?。燕が?。燕を回収だと?。
コイツは…何を言っているんだ?。
『悪いが共に来て貰う。悪いようにはしない。大人しく着いてこい。』
『嫌だよ。私は仲間達と…閃さんといる!。その為にこの力を取り戻したんだ!。』
『燕?。』
燕の様子がさっきまでと違う?。
俺を見つめる眼差しが、今までと別の感情が混ざっている?。
『閃さん。いっぱい話したいことがあるの。だから、この場を乗り越える!。』
燕は俺の知らない情報を得ている。
明らかに纏うエーテルが変化し、人族だった燕とは別の神のエーテルが溢れ出ている。しかも、別のエーテルは俺のエーテルと酷似しているんだ。
この短時間の間に何かあったのか?。
『………そうだな。ここを乗り切ろう。話はそれからだ。』
『うん!。』
『神さま。私も。』
『閃君。私もいるよ!。』
八雲と奏他も神具を展開し臨戦態勢へと移行、グァトリュアルへと向き合った。
『ふむ。抗うか?。想定はしていたが、ふふ。思い通りにならんな。見えぬ未来がこうも心踊るとは、いや、これは不安か?。何にしても未知の感覚に近い。絶望ではなく、希望に染められた感情か。ふふ。やはり、悪くないな。』
『さっきから何を言っている!。』
『燕は渡さない!。』
『ほぉ。神獣との契約により神へと至った異界人か。見たところ、【機宙魚神】【地堕兎神】か。神獣との同化は種族神への進化を可能とする。しかし、その力は絶対神である我に通じるモノではない。』
『『っ!?。』』
馬鹿な!?。
奴は何をした?。八雲と奏他はエーテルによる肉体強化によって瞬時にグァトリュアルへと斬り掛かった。なのに、奴は攻めた二人の背後に一瞬で移動していた。
いや、違う。
自然に、流れるように、ただ、歩いて二人の間を抜けたんだ。
『速いっ!?。いつの間に後ろに!?。』
『うそっ!?。見えなかった!?。』
『暫く眠っていろ。貴様達も閃を愛しているのだろう?。それは、我が娘も同義。手荒な真似はせん。何かすればリスティナとアイツに怒られるからな。ふむ。父という立場とは難しいモノだな。』
『うっ!?。』
『そんな…。』
素早い手刀。
いや、見えていた。あまりにも速く、優しい一撃が二人の首へと落とされ…軽く当てられた。
気を失った二人の身体を優しく支え、その場に寝かせたグァトリュアル。
今の一瞬の動きで理解できてしまった。
コイツには勝てない…。いや、勝負にならない。実力の次元が違いすぎる。
『化物か…。』
燕も、奴の強さに気付いているようだ。
俺の服の裾を握り僅かに震える燕を守るように身体で隠す。
退くわけにはいかない。
奴は燕を連れ去ると行った。俺の仲間を。目的は?。いや、そんなこと、今はどうでもいい。
ここは…戦うしかない。
『ふむ。敵わぬと理解していても構えるか。まぁ、良い。まずは…。』
『きゃっ!?。』
『なっ!?。』
刹那。瞬きするよりも速い。
接近にすら気付けなかった。
数メートル離れた位置にいた奴は俺の視界から一瞬で消え、再び目の前に、同じ場所に出現した。
俺の後ろにいた筈の燕は気を失い奴の腕に抱えられている。
いつの間に…全く分からなかった。
『さて、これで目的は達した訳だが…これでは貴様は納得しないだろう?。』
奴が手を翳すと空間が歪む。
空間の歪みを利用した門のようなものを作り出し、そこに燕を放り投げる。
『燕っ!。』
『心配するな。無碍には扱わん。さて、これで邪魔なものは消えた。貴様の力。我に見せてみよ。勿論。全身全霊の全力を、な。』
『ああ。やってやるよ。燕は返して貰う。そして、全ての元凶であるお前を倒し平和な日常を取り戻す。こんな馬鹿げた世界で命を危険に脅かされない仲間達と過ごす平凡な毎日を。』
『………。』
全身にエーテルを纏う。
人功気を混ぜ、契約した神獣達の力も込める。混ぜ。溜め。練り。高め。一気の放出。
全身を巡るエーテルの流動。それを全身から外へと吐き出し肉体を強化。そして、攻撃の意思を込めたエーテルを右腕に収束させる。
今の俺に出来る最高の一撃。
圧倒的な実力の差。小細工は通じない。
ならば、真っ向から打ち崩す。
『行くぜ。親父!。』
『っ!。ふふ。悪くないな。来い!。我が息子!。』
大地を抉る踏み込み。
爆風と共に初速から最高速度に達し、一気に奴との距離を縮める。
『神技!。』
一秒以下の交錯。
俺の切り札にして最強の一撃。
『絶刻っ!。』
突き出した拳。
加速からの一撃は…。
『速いな。しかし、まだ、この程度か…。やはり、我と戦うには早すぎたようだ。』
拳を頭をずらし紙一重へ躱し、伸びた腕を添うように接近される。
『何!?。うぶっ!。』
顔面を奴に捕まれ、そのまま地面へと叩きつけられた。
背中と後頭部が地面へと埋まる。
『ぐっ…くそっ。こんなに違うのか…届かねぇ…。』
完全に見切られ対処された。
俺の決死の一撃を、奴は全力を出すまでもなく容易く処理されてしまった。
倒れている俺を見下ろすグァトリュアル。
『確か…こうだったな。成程。人族が持つ固有のオーラ。人功気と言ったか?。人族から派生した神に相応しい強化だ。そして、全身の生命エネルギーを一点に収束させ拳に乗せて放つ切り札。音や光。時間すらも置き去りにした回避不可能、防御不可能の一撃。悪くない。この絶対神以外が相手ならば勝負は決していたかもしれないな。どれ。我も試してみるか。』
『なっ!?。』
グァトリュアルの拳にエーテルが集まる。
これは…俺の…。
『ふむ。やはり、悪くない技だ。しかし、これではまだ足りない。閃よ。仲間を集め、真に【観測の神】へと覚醒せよ。それで我と同等だ。今は我の力の一端をその身に刻め。』
『くっそ…燕…ぐばっ!?。』
振り下ろされる拳が俺の腹にめり込んだ。
真似され、自らの編み出した神技の衝撃によって折れ曲がる身体。身体を貫通した衝撃が背後の地面に広がり大きなクレーターを作る。
落下する身体。薄れ行く意識。
最後に見たグァトリュアルの顔。
俺と同じ顔が笑っていた。
『ではな。閃。貴様に再び会える時を楽しみにしているぞ。仲間と共に、この星で強くなれ。期待して待つことにする。我が息子よ。………ああ。伝え忘れていた。貴様の恋人…代刃は元気だ。安心して励め。』
期待の眼差しを俺の脳裏の植え付けたグァトリュアルが空間の歪みの中へと消えていった。
俺は何も出来ず、燕を奪われ、意識を失ったんだ。
ーーー
ーーークロローーー
ありゃりゃ。酷いなぁ。
コテンパンじゃん、ご主人様~。
可哀想…グァトリュアルの奴、何もあそこまですることないじゃない!。
それに燕まで拐ってっちゃうし。
はぁ…やっぱり早すぎたのかなぁ…。
まさか、グァトリュアル自らが動くとか思ってなかったし…。
こっちの世界に干渉するなら、あの女かと思ってたけど…。ああ、そうか…あの男はその為に…。
『はぁ…。これじゃあ、当分は様子見してるしかないじゃん。はぁ…ご主人様…もっとイチャイチャしたいよ~。』
次回の投稿は18日の日曜日を予定しています。