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番外編 過ぎ去りし青春の1日 ①

 ピピピピピピピピピピ…。


 目を覚ますには十分すぎる目覚まし時計の音に沈んでいた意識が浮上していく。

 慣れた動きで頭上の目覚ましを止めた。


『ん…。もう…あさ…か…。』


 目を開けると、カーテンの隙間から朝陽が射し込んでいた。

 遅くまでゲームをしていたせいか、まだ、目蓋が重い。頭もボーッとする。自業自得だが、実質、三時間も寝てないからな…。

 枕元に置いてある携帯端末に手を伸ばし手繰り寄せる。液晶画面には、午前6時45分と表示されていた。

 そろそろ起きないとな。…さて、と。退かすか。


『おい。灯月。いい加減に上から退けろ。』


 布団を捲ると俺を抱き枕にした灯月の頭が視界に広がった。さらさらとした髪がくすぐったい。それに、全身に伝わる柔らかで温かな感触。そして、女の子特有の甘い匂い。

 我が妹ながら魅力的だ。毎朝、これが繰り返されるんだ。俺の理性は常に鍛えられている。

 おかしいな。寝る時は自分の部屋に戻って行った筈なのに。何故かいつも朝には俺を抱き枕にして寝てるんだ。この義妹は。


『ん…。にぃ様…。まだ、眠いです。』

『いやいや、俺も眠いが起きないと遅刻するぞ。』

『んーーー。分かりました。起きます。』


 俺の上に乗ったまま上半身を起こす灯月。

 ネグリジェ姿でうっすらと覗く、年齢とは不釣り合いな大きな胸が揺れた。下着はショーツだけ履いているが上は何も着けていないようだ。ネグリジェが透けて…まぁ、色々と見えてしまっているな。

 中学生には見えない大人びた容姿と格好に内心ドキドキだ。


『おい。灯月。色々と丸見えだ。とっとと着替えてこい。』

『ふふ。いっぱい見て下さい。にぃ様。そして、大人になったら私と結婚して下さい。そうすれば、私の身体を沢山堪能できますよ。』

『いや、今でも十分堪能した…って、そうじゃない。俺達は兄妹で、しかも学生だ。結婚とかは考えてない。』

『むぅ。でも、義兄妹です。』

『そうだな。てか、朝から話が重い。とっとと起きろ!。』

『むぅ。…ふふ。は~い。』


 形の良いお尻を振りながら部屋を出ていく灯月。こんなこと毎日やられてたら思春期男子の俺の理性もいつかは崩壊しそうだな…。鍛えられていても限度がある。

 いや、今更か…。灯月には俺なんかよりも、いい男が見つかれば良いけどな。兄としてアイツには幸せになって欲しい。頑張り屋だし。努力家だし。変態だし。オタクだし。美人だし。可愛いし。暴走するし。


 そんなことを考えながら立ち上がりカーテンを開き窓を開けた。

 眩いばかりの陽の光と朝の涼しげな空気が部屋の中を満たしてくれる。


 Yシャツに袖を通し、ズボンを履く。

 そして、鞄の中身を確認する。

 筆記用具、教科書。ノート。宿題のプリント。体育で使うジャージは確か…ああ。タンスの中だ。あとは、ズボンのポケットに財布を入れて。

 

『よし。こんなとこだな。』


 自室を後に洗面所に向かう。

 階段を下り、扉を開けるとそこには…。


『っ!?。せ、閃。おはよう。汗かいたからシャワー浴びてたの。………あんまり見ないで。私の身体、傷だらけで汚いから。』


 下着姿の氷姫がいた。

 身体の痛々しい傷痕。虐待の痕。それをタオルで隠しながら目を逸らす氷姫。


『はぁ。そんなこと言うなって。氷姫の身体は汚くない。あと、色々と見てしまった。すまん。』


 慌てて後ろを向く。


『ありがとう。閃。………綺麗な身体だったら。閃にいっぱい見て欲しいのに。ごめんね。』

『いや、見ないって。それに謝る必要もない。風邪ひく前に着替えろよ。』


 俺は先にトイレに行くことにする。

 トイレのドアノブを捻る。


『あっ…閃…。』


 氷姫の声が聞こえた気がしたが、そのままトイレに入っ………てしまった。


『はぁ………。あれ?。』

『え?。にぃ様?。』


 トイレには先客がいた。座っている灯月。

 何故、お前はいつも鍵を掛けないんだ?。この家でお前だけだぞ。灯月よ。


『す、すまん。』


 俺は慌ててトイレから出ようとする。

 しかし、何故だろう。いつも以上に強い力で腕を捕まれた。


『何をする?。』


 あまり見ないように灯月の顔を横目で確認する。

 顔を真っ赤にし恥ずかしそうに俺を見つめる灯月。その顔は次第に変化し泣き顔に変わり、膨れっ面に変わり、何かを考える素振りを見せ、薄気味悪い笑いになり、最終的に艶かしい表情で俺を見た。

 何…この百面相…。怖いんだけど。


『にぃ様。大胆です。こんなところまで私を追ってくるなんて、愛に場所は関係ないということですね?。密室の空間、半裸で満足に動けない義妹の身体を弄ぶつもりですよね!。はぁ、朝なのに元気ですね。仕方がないにぃ様です。ですが良いですよ。私はいつでもウェルカムです。どうぞ。私の身体を好きに使って下さい。子供は沢山欲しいです。男女半々くらいで22人くらい作りましょう。サッカーチームです!。この人数なら野球も、バスケも何でも出来ます!。少し都会から離れた場所に大きな庭付きの家を建てて、サッカー場も野球場も、バスケットコートもテニスコートも作っちゃいましょう!。』


 マシンガンの如く話続ける灯月。

 軽く頭を撫でる。


『に、にぃ様?。』

『すまん。覗くつもりはなかったんだ。だから、テンパらないで落ち着いてくれ。あと、その格好で立ち上がるな。せめてパンツを上げてくれ。あと、鍵はかけてくれ。それじゃあな。』


 掴んでいた灯月の腕が緩んだ隙にトイレから脱出した。


『閃のエッチ。』

『………。』


 氷姫の冷たい眼差しを受ける。

 何も言えねぇ。

 

 顔を洗い。寝癖を整え、リビングへと移動。

 テーブルの上にはラップが掛けられた朝食とメモ紙が置いてある。

 メモの内容は、つつ美母さんからだ。


「仕事があるのでぇ~。先に出るわねぇ~。簡単なモノだけどぉ~。朝ごはん用意したのぉ~。温めてぇ~。食べてねぇ~。♡。」


 だ、そうだ。メモの中くらい普通に話せば良いのに。


『にぃ様。氷姫ねぇ様。パンと白米どちらにしますか?。』

『ああ。じゃあ、米で。』

『私。パン。』

『は~い。少々お待ち下さい。』


 キッチンに消える灯月。

 つつ美母さんが用意してくれた朝食を温め直してくれている。


 俺の向かい側の椅子に座る氷姫。

 既に制服に着替えている。あの事件での傷痕。数年経った今でも消えないその傷が見えないように、普段から露出の少ない服を着ている氷姫。夏でもセーターを上に着ているし、黒いストッキングは常に履いている。

 体育の授業も、長袖、長ズボンのジャージが常だし、水泳の授業も見学だ。身体測定も別室で個別にやっている。

 教師達は事情を知っている為に氷姫に対し深く言及しない。


『お待たせしました。にぃ様。氷姫ねぇ様。』

『ああ。ありがとう。灯月。』

『ありがと。』

『それでは、時間もありませんし食べてしまいましょう。』

『『『いただきます。』』』


 俺達は無言のまま食事を始める。

 食事中は静かにするのが我が家の決まりだ。

 

『『『ご馳走さまでした。』』』


 ほぼ同時に食べ終わる俺達。


『にぃ様。お片付けは私がやっておきますので智鳴ねぇ様を起こして来て下さい。おそらく、まだ寝ていると思いますので。』

『ああ。分かった。終わったら外で待っていてくれ。』

『灯月。私も手伝う。』

『分かりました。お願いしますね。にぃ様。それと、ありがとうございます。氷姫ねぇ様。』


 俺は自室に一度戻ると制服に袖を通す。ネクタイを締め、腕時計を着ける。そして、鞄を持ち、玄関へと向かう。

 玄関に付けられた姿見で服装のチェック。


 問題ないな。


 そのまま外へ出て隣の家へと歩いていく。

 ピンポーン。と、機械的な呼び鈴を鳴らす。


『は~い。あら、閃ちゃん。おはよう。』


 俺を迎えてくれたエプロン姿の女性。


『おはようございます。蕾美(つぼみ)さん。』


 琴撫 蕾美。智鳴のお母さんだ。

 智鳴そっくりな顔立ち。お母さんというより、お姉さんって呼ばれても間違えてしまうくらい若々しい。元気なママさんだ。

 つつ美母さんとは昔ながらの知り合いらしい。家族ぐるみの仲ってヤツだ。


『智鳴を起こしに来てくれたの?。助かるわ。あの子、いくら呼んでも返事だけなの。一向に起きてこないのよ。』

『いつものことですね。起こしてきます。』

『お願いね。閃ちゃん。あの子。閃ちゃんじゃないとすんなり起きてくれないから。』


 慣れた足取りで智鳴の部屋に。

 部屋のドアには ちなりのへや と書かれたドアプレートが掛けられている。


 コンコン。軽くノック。

 しーーーーーん。反応無し。

 コンコンコンコン。少し強めのノック。

 しーーーーーん。反応無し。

 ゴンゴン。ゴンゴン。強めのノック。

 しーーーーーん。反応無し。


 ドアノブを回して部屋の中へ。

 綺麗に片付けられ整理整頓された部屋。

 ピンクとオレンジを基調とした女の子らしい部屋の所々にキツネのアイテムが飾られている。棚の上にあるぬいぐるみまでキツネだ。

 

 ベッドに近づく。


『ふにゃあ。閃ちゃ~ん。お寝坊さんは~。ダメだよぉ~。早く起きないと~。いたずらしちゃうよぉ~。むにゃむにゃ。えへへ。』


 いったいどの口が言っているのか。

 俺を起こしに来る夢を見ているようだが、朝に俺が智鳴に起こされたことは未だかつて無い。

 それと、寝相が悪い。布団はベッドから全て落ち、枕を抱き締めて寝ている智鳴。

 口からはだらしなくヨダレを滴し、幸せそうな寝顔で笑っている。

 パジャマの下は半分脱げキツネの刺繍が施されたパンツが丸見えだ。おそらく、寝る前はキチンと掛けられていた筈のボタンは外れ、胸の前、一箇所以外の全てが露出している。可愛らしいおへそが丸見えだ。

 灯月といい。丸見え過ぎだろう…。


『おい。起きろ。智鳴。腹出して寝てたら風邪ひくぞ?。それと、そろそろ起きないと遅刻だ。』

『遅刻!?。あぐっ!?。』

『うごっ!?。』


 遅刻という言葉に反応し勢いよく起き上がった智鳴の頭部が俺の顔面と激突した。

 お互いにぶつけた箇所を擦りながら目を合わせる。


『せ、閃ちゃん?。あれ?。私の部屋だ。私、早起きして閃ちゃんを起こしに行ってたのに?。あれ?。あれ?。』

『痛っぅ。いつまで夢見てんだよ。朝だよ。寝坊だよ。とっとと起きて着替えて学校行くぞ。』

『あ…ああ…そうなんだ…夢だったんだ。うぅ、閃ちゃんの寝顔を堪能してたのに。』

『夢の中で俺に何してんだよ。』

『そ、そんなの言えないよ。閃ちゃんのエッチ!。』

『ええ…。理不尽…。はぁ、それより、起きたんならとっとと準備しろ。あと、色々見えてるからな。早く隠せ。』

『え?。』


 自分の格好を確認する智鳴。

 暴れたせいで、パジャマのボタンは全て外れ胸やら腹やら前面丸見えだった。


『にきゃぁぁぁぁぁあああああ!?!?!?。見ないで閃ちゃぁぁぁぁぁあああああん!?!?!?。』


 悲鳴を上げながら色々な物が飛んでくる中、逃げるように智鳴の部屋から退散する。

 俺の周りの女子達は羞恥心はあるのに無防備過ぎる。

 そんなことを考えながら外に出て女子達を待った。


ーーー


『ふわぁぁぁ…。』


 学園への通学路。登校中に大きな欠伸を一つ。


『閃ちゃん。昨日は何時までやってたの?。』


 左を歩く智鳴が尋ねてくる。

 俺達が現在プレイしているゲーム【エンパシス・ウィザメント】という実体験型フルダイブMMORPG。そのゲームで【クロノ・フィリア】というギルドで俺達は遊んでいる。

 智鳴は昨日…いや、正確には今日だが午前1時に眠気に負けログアウトしていた。


『確か3時くらいまでだな。』

『うわっ。凄い頑張ったね。』

『私も智ぃちゃんと同じくらい。ログアウトした。』


 右にいる氷姫が智鳴に言う。

 その手には文庫本。静かにページを捲っていく。


『最後までいたのは無凱さん。仁さん。にぃ様。煌真さん。母様。私です。他のメンバーは本日、お仕事や学校に差し支える為に早めにログアウトしていました。』


 俺達の後ろを歩く灯月が付け加える。


『俺達も学生だけどな。流石に、もう少し早めに切り上げれば良かったな。ふわぁぁぁ…。』

『何だ?。寝不足か?。閃?。』

『ん?。ああ。基汐に光歌か。おはよう。』

『うっす。』

『おはー。』


 交差点に差し掛かり、再び、欠伸をしていると基汐と光歌が合流する。


『また、遅くまでやってたのか?。』

『ああ。止め時を見失ってた。』

『ははは。そりゃあ自業自得だな。仁さんは元気そうだったけど。』

『パパはいつ寝てるか分からないわ。』

『だな。いつも、変わらないから。』


 仁さんもそうだが、つつ美母さんも、無凱のおっさんも、いつ寝てるのか分からないメンバーだ。母さんも俺と同じくらいまでログインしてたんだけどな。朝食まで作ってくれてたし。


『基汐君に光歌ちゃん。おはよう。』

『おはよう。』

『おはようございます。お二方。』

『おはよう。三人とも。』

『おっは~。』


 いつものメンバーが揃った。

 この六人で俺達は行動することが多い。


『それにしても昨日の閃は凄かったな。まさかボスキャラをテイムするなんて。あれ、確率どんだけだよ。てか、ボスなんてテイム出来るんだな!?。』

『ああ。【地母龍】な。1%切ってたんじゃないか?。』

『それを一発成功させるとか。相変わらずの化物じみた運だな。』

『ははは。酷い言われようだな。そうそう。テイムしたモンスターに名前をつけたんだ。【クミシャルナ】って名前だ。』

『クミシャルナねぇ…。これで何体目だ?。テイムしたの?。』

『四体目だな。ラスボスのダンジョン攻略も順調だしこのまま戦力を増やしていければ良いな。』

『最近だと、イベントが起きる度に閃がテイムするから戦いにならないんだよな。しかも、最速クリア。また俺達の噂が広がっちまう。殆ど戦闘もしてないし。』

『良いんじゃないか?。どうせ、ゲームの中だけの噂だし。身バレもしてない。このまま最強ギルドになろうぜ。』

『まぁ…そうだな。ラスボスも俺達が一番最初に攻略しようぜ。』

『当たり前だ。その為にあのゲームをやり込んでるんだからな。』


 基汐と昨夜のゲーム談議で盛り上がっていると、ふと、周囲の視線が気になった。

 慣れたモノだがこの六人で歩いていると、登校中の生徒や行き交う人々が必ず俺達を見てくるのだ。

 何故か此方を見ながらひそひそと小声で話している奴等もいるし。

 チラリと灯月達を見ると、女子同士の話で盛り上がってる。視線には慣れているのか、気付いていないのか。


『どうしたんだ?。閃?。急にキョロキョロと。』

『いや、やっぱ。灯月達みたいな美少女軍団といると目立つなと思ってな。周囲の視線が気になった。』

『今更だな。あと、おまいうだ。』

『どういう意味だ?。』

『はぁ、気付いていないのなら良い。』

『何だよ…。』


 呆れた様子で溜め息をする基汐。


ーーー因みに。


 女子の集まり。


『ねぇ。凄くない?。あの六人。毎朝一緒に登校してるよね。』

『うん。私、毎日見てるよ。この辺りじゃ有名だよね。美男美女ばっかりグループ。しかも、凄く仲が良いよね。』

『ねぇねぇ。あの男子二人ヤバくない?。格好いいわ…。マジでイケメン。どっち好み?。』

『私はあの左の人。めっちゃイケメン。私…声かけて来ようかな?。』

『止めなよ。あの一番後ろの小さい子。さっきからこっち睨んでるよ。』

『うわっ…本当だ。睨んでるのに可愛すぎない?。天使みたいなんだけど?。』

『あの制服。あの子だけ中等部なんだね。誰かの妹なのかな?。』

『私はあの身体の大きい人が良い!。はぁ、あの太い腕で抱きしめられたい。』

『あんなに格好いい人と一緒にいるんだよ?。あの中の誰かが付き合ってるに決まってるよ。もしかしたら、全員と?。』

『何それ。ハーレムじゃん。ははは。』


 男子の集まり。


『見ろよ。いつもの男女だ。』

『ああ。可愛い女子達だ。はぁ、あの娘達を見るために俺は早起きをしているのかもしれない。』

『確かに、そこらにいる連中は皆あのグループを見るためだけにこの通学路を通っていると言っても過言ではないしな。』

『なぁ。お前はどの娘がタイプだ?。』

『俺か?。あの男の左側にいる娘だ。元気に跳ねて楽しそうに話してる。はぁ、あの笑顔を見るだけで癒されるな。』

『俺はあの読書をしている娘だ。静かそうだけど、会話にはキチンと参加してるし。マジで綺麗だ。』

『あの、端末を弄ってるギャルっぽい娘も良いな。』

『俺は断然、一番後ろを歩いてる中等部の娘だ。見ろよ。あのスタイルの良さ。制服の上からでも分かる発育。やべぇ。俺ちょっと声掛けて来ようかな?。』

『止めとけ。あの真ん中を歩いてる男。お前のこと凄ぇ睨んでるぞ?。声は聞こえてないと思うけど…。』

『ひぇっ!?。こえぇ…。』


ーーーこれが真相である。


『では、にぃ様。放課後にお会いしましょう。』

『ああ。しっかり勉強しろよ。』

『はい。お任せ下さい。』


 学園へと続く坂道。

 途中、二つに分かれる道路があり各々に高等部と中等部へと続いている。

 灯月とはここでお別れだ。小さく頭を下げた灯月がゆっくりとした動作で坂道を上っていく。

 灯月を見送り、俺達も坂道を上り出す。

 と、言っても高等部は目と鼻の先だ。五分程で校舎に到着。

 玄関に入り、下駄箱へ。男女で分かれているので氷姫達とは別の下駄箱へと向かう。

 そして、上履きを取り出そうとした。その時だった。

 上履きの上に置かれていた何かがヒラヒラと足元に落ちる。


『これは…。』


 ♡型のシールが貼られた可愛らしい封筒。


『おっ。今日は一枚か。少ないんじゃないか?。』

『いやいや。いつも貰ってるみたいに言うなよ。』

『いつもは言い過ぎだが、週一くらいで入ってないか?。』

『………。』


 俺は足元に落ちた可愛らしいイラストの書かれた手紙を拾う。

 内容は、「昼休みに校舎裏の中庭で待っています。とても、大切なお話があります。」とのこと。♡マークが多いな。

 どう見てもラブレター、だよな。


『名前は…ないな。』

『行くのか?。』

『ああ。俺なんかの為にこんな勇気のある行動をしてくれたんだ。返事はしっかりと返したい。』

『俺…なんか、ね。』


 上履きに履き替えた俺と基汐を教室へと向かう廊下に出る。

 すると、基汐が俺の方を見ながら何かを言いたそうにしている。


『何だよ。』

『お前って自己評価低いよなって思ってな。』

『…だってな。年がら年中ゲームやアニメのことしか考えてないオタクだぜ?。こんな俺に告白をしてくれるとか、申し訳なくてな。』

『はぁ、そんなことないだろう。閃はよく独りでいる奴に率先して話し掛けに行ってるよな?。』

『まぁ、どうしても寂しそうに見えた奴だけな。迷惑かもしれないが、どうにも放っておけないんだ。』

『氷姫の時もそうだったもんな。そして、最後には互いに笑顔になっている。なかなか、出来ることじゃないと思うがな。』

『そうかね。自己満足だぞ?。』

『それでもさ。それに、困っている奴も良く助けてるだろ?。先輩、後輩に関わらず色々手伝ってるみたいだし。』

『普通じゃねぇか?。困ってたら助けるだろ?。』

『頻度の問題だ。お前を頼ってくる奴等も多いだろ?。』

『まぁ、そうだな。色々と手助けしてるから顔も名前も覚えられちまったし。それに助けるのは相手と内容によるぞ?。皆が困っててもクラス委員とかにはなりたくないし。そういう場合は寝たふりしてる。』

『ははは。確かにな。その場面は俺も良く見てるわ。』

『まぁ、俺には裏方が合ってるのかもしれないな。表だって行動するのは性に合わない。』

『ははは。そういうことにしておくわ。』

『何か含みがねぇか?。その言い方。』

『さてな。裏方とか言ってる奴が氷姫のピンチに真っ先に行動するとは思えないけどな…。』

『そんなもん友達を助けるのに形振りかまっていられないだろうが。理由だっていらん。助けたいから助けた。それだけだ。』

『そうだな。お前の友達で良かったよ。』

『何を今更恥ずかしいこと言ってんだか。』

『『ははははは。』』


 基汐と二人で笑い合いながら階段を上がっていく。

 

『閃ちゃん、基汐君。どうしたの?。』

『楽しそう。』

『ダーリンが高笑いするの珍しいわね。』


 氷姫と智鳴、光歌と合流した。


『ちょっとな。俺は最高の親友を持ったなって話してたんだ。』

『やめろって。恥ずかしい。』


 嬉しそうに俺と肩を組む基汐。そんな基汐を見ながら、こんな朝も悪くないと思っている俺がいた。

 そのまま、他愛ない会話を交わしながら俺達は教室へと入っていった。

次回の投稿は1日の木曜日を予定しています。

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