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第277話 狂嵐神 ジュゼレニア

ーーー夢伽ーーー


 大きな湖の真ん中に浮かぶ小さな浮島。

 そこには傷付き力無く倒れている小さな龍がいた。呼吸も小さく、自力で動くことが出来ないくらい衰弱している。

 龍の大きさは私の手のひらサイズ。龍を両手で持ち、意識を集中させる。


『待ってて、今、助けます!。』


 【人功気】と【魔力】を放出。

 【人功気】で私の生命エネルギーを分け与えて体力を回復させる。そして【魔力】を流して龍の本来持つ自己治癒力を強化させる。

 体力を回復させれば、私の本来の能力が強く発揮される。

 龍の身体は眩しい光に包まれ、傷が急速に癒えていく。


『ふぅ。成功。お兄さんと一緒に人功気で実験して良かったです。初めてでしたがこんなに上手くいくなんて。』

『ありがとうございます。優しい方。貴女のお陰です。』

『わっ。大きくなりました!?。』


 傷の癒えた龍は、さっきまで手のひらに乗っていたサイズだったのに、私よりも大きくなって嬉しそうに頭を下げた。


『元気になって良かったです。えっと…神獣さん…ですよね?。』

『はい。私は クミシャルナ と申します。ああ。この姿では話しづらいですね。暫しお待ち下さい。』


 そう言うと、クミシャルナさんの長い身体は輝き出し、姿が人型に変化した。

 とっても綺麗な長い髪の女性の姿に。

 あれ?。ちょっと、待って…クミシャルナ…何処かで聞いたことあるような………あ、もしかして、そうだ!。お兄さんの!。


『お待たせしました。改めて自己紹介をさせて頂きます。優しい方。私はクミシャルナ。主である閃様を守護する【五行守護神獣】、【土】の属性を司る【地母龍】です。優しい方。貴女のお名前を御伺いしても宜しいですか?。』

『あ、はい。私は夢伽です。』

『夢伽さん。良い名前ですね。改めて、この度は傷付いた私を助けて頂き誠にありがとうございます。感謝してもし足りません。』

『あの…さっき、お兄…閃さんが主って言っていましたが?。』

『閃様を知っているのですか!?。』


 この反応…やっぱり、ラディガルさんと同じでこの人もお兄さんと契約した神獣なんだ。


『え!?。あ、はい。今、一緒に旅をしていまして…。』

『そうなのですか!?。ご主人様が近くに…。やっと…お会い出来るのですね…。はぁ…。良かった…また、お会い…出来る…なんて…。』


 嬉しそうに涙を流すクミシャルナさん。

 私は疑問を彼女に質問した。


『貴方はお兄さんと契約している神獣なんですよね?。ラディガルさん達と同じように。』

『…あら?。ああ。ラディガルを知っているのですね。そうです。私達は閃様と契約した神獣。訳あって今は契約の繋がりが切れかかっていますが、正真正銘の契約神獣です。』

『そうだったんですね!。クミシャルナさんの話しはお兄さんから聞いています。ですが…どうして、ここで傷だらけで倒れていたんですか?。それに…ここは?。』


 私達が今までいた森の中とは違う。エーテルで守られているこの場所は、多分、クミシャルナさんが作り出したエーテルの結界で覆われている。


『ここは私の能力で結界を張った 本来 の森です。ここは ある神 に支配されている森なのです。』

『ある神?。』

『順を追ってお話ししましょう。』

『はい。お願いします。』


 クミシャルナさんは近くある木の根元に腰掛ける。


『こちらにどうぞ。』


 クミシャルナさんに導かれるように横に座る。


『ご主人様に聞いているかもしれませんが…私…達は、仮想世界という世界で神々と戦い。そして、敗北しました。』

『はい。私も仮想世界からこのリスティールに来た転生者です。』

『ああ。成程。どおりで…それに貴女は人族ですね?。ご主人様と同じ。』

『はい。そうです。この世界に転生して他の種族の人達に襲われているところをお兄さんに救われました。それ以降は、お兄さんと一緒にお兄さんの仲間達を探す旅をしています。現状は、緑国に来て、この国にいたお兄さんの仲間達と合流、その後、緑国の神眷者を倒しました。そして、私達はお兄さんの妹、灯月さんが白国に囚われている情報を入手し白国を目指すために、その手前にある青国を目座いているところです。』

『そういうことですか。理解しました。青国に向かう為に海へ出ようと森を進んでいたところ森から出られなくなったということですね。』

『はい。森から出られなくなっていることに気付いたのは、ついさっきですが。』

『分かりました。それを踏まえて説明致します。夢伽さんは七大大国のことは知っているのですか?。』

『はい。このリスティールにある七つの大きな国。緑国はその内の一つです。』

『その通りです。七大大国は神眷者を中心にご主人様達、この世界では異神の呼称で呼ばれている存在を排除することを目的としている。その様に神々と契約しているのです。』


 私はゆっくりと頷く。


『ですが、神眷者以外にも神々から異神と敵対する契約を交わしている者達がいるのです。敵対…とは少し違う表現だと思われますが…少なくとも味方ではありません。』

『だ、誰なの?。』

『このリスティールの姉妹星。つまり創造神リスティナ様の姉妹様達です。彼女達の目的は神眷者とは別に、この星から異神とその存在に連なる者、私達のような存在ですね。それと更に異界人、夢伽さん達の駆除が目的です。』

『わ、私達まで!?。』

『はい。彼女達は絶対神と何らかの契約を交わし、私達の敵となった。今となっては、リスティナ様の真意も分からないまま。』

『じゃあ、貴女を傷だらけにしたのは…。』


 その時だった。


『そうそう。私。私。まさかアレを食らって生きてるなんて思ってなかったけど。』


 空間が歪み。突然、現れた女の子。

 見た目の年齢は16歳前後くらいだ。けど、纏ってるエーテルが異常だ。

 緑国で出会った神眷者達と同等。いいえ。それ以上のエーテルだ。

 まるで、戦っている時のお兄さんみたいな強い力を感じる。


『っ!?。』

『夢伽さん!。私の後ろに!。』


 女の子の登場に警戒する私を庇うように前に出るクミシャルナさん。


『こんな場所に隠れてたんだ?。全然、気配が見つけられなくて死んだと思ってたよ?。神獣ちゃん。』


 肩まで伸びる緑色の髪。切れ長なツリ目。

 緑を基調とし金色に輝く装飾が施された衣服。短く白いスカート。

 何よりも目を引くのは、彼女の肩の上で浮遊している四つの球体と彼女自身を囲む円環。

 四つの球体は常に帯電しバチバチと音を立てている。

 アレ…神具だ。


『くっ…まだ、諦めていなかったのですね。』

『当たり前じゃん。死んだと思ってたけど、急に気配を感じたから来てみたら。…はは。私のテリトリ【迷いの森】からそう簡単に出られると思ってた?。けど、正直、びっくりした。ううん。感心したって感じかな?。私のテリトリの中で隠れるんじゃなく、テリトリ内を現実の空間を繋げて現実の空間で隠れるなんてね。あの傷じゃそんなに遠くへは行けなかっただろうし…灯台もと暗しだったね。』


 静かに空中へと浮かぶ女の子。

 彼女の情報が欲しい。きっと、この人は私の…お兄さんの敵だ。


『貴女のお名前は何ですか?。』

『夢伽さん!?。』

『え?。私の名前?。てか、貴女、誰かと思ったら閃と一緒にいた子じゃん?。』


 お兄さんを知ってる?。

 それに私のことも知ってる…私達を観察していた?。


『こんなとこで何してんの?。あれ?。ちょっと待って、そこの神獣の怪我が完治してるってことは、君が治したのかな?。はは~ん。そう言うこと。』

『だったら、何ですか?。それより貴女のことを教えて下さい。』

『そんなに知りたいの?。まぁ、良いけど。私の名前は ジュゼレニア だよ。君達の知ってるリスティナの妹だよ。あ~。あと、君をこの場で殺す者だね!。』

『っ!?。』

『弱体化してる状態でも神獣と異界人くらいなら余裕で倒せるでしょ!。』


 ジュゼレニアが指を鳴らす。

 背後の球体が急速に回転を始め、発生した雷が夢伽へと放たれた。


『っ!?。』


 雷は夢伽へと命中。

 土煙を巻き上げ視界を覆う。


『良し。命中。さてさて?。これで倒せてはいないと思うけどぉ。ああ~。やっぱり~。面倒臭い能力だね。君の鱗。』


 土煙が消える。

 そこにはクミシャルナが展開した【鱗壁】が夢伽を取り囲み雷からその身を守っていた。


『お気をつけ下さい。夢伽さん。』

『クミシャルナさん…。』

『彼女はリスティナ様の姉妹…現在は何かしらの理由で能力に制限がかかり弱体化しているとはいえ、本来であれば姉妹全員が最高神です。』

『最高神…ですか…お兄さんと同じ…。』

『はい。彼女は【狂嵐の神】。暴風と嵐の神です。』


 ジュゼレニアを睨むクミシャルナ。

 

『ははは!。その鱗も、私の前じゃ紙切れ同然だし!。はは、ははははは!。異界人と神獣ごとき瞬殺してやるよ!。』


 力を解放したジュゼレニア。

 その瞬間、天は灰色の曇天へ。

 微風から始まった風は渦を作り地を走る。

 目を覆いたくなる閃光と轟音が彼女の笑い声と共に支配された空間を切り裂く。

 

ーーー


 森を焼き払う雷が疾走し。暴風が木々を軽々と吹き飛ばす。

 竜巻が過ぎ去った後のように、森は破壊され残骸の山が形成される。

 しかし、それでも絶えることなく樹装軍隊は出現し続け、その個体数を増やしていく。


『もう!。いきなり戦闘とか聞いてないんだけど?。先輩達とも離れ離れだし、てか、ここどこよ!。』


 神具【麗爆機雷球 ジグナザル・マイジラ】から発せられる雷の閃光が樹装軍隊の接近を許さない。一瞬でも雷に触れたならば、忽ち消し炭となる。

 それでも、再生し続ける軍隊を見て詩那の中の不安は少しずつ強くなっていく。


『どうやら、何者かによって生み出された結界の中に閉じ込められたようですね。蝶達で脱出を試みましたが一定距離を進むと同じ場所に戻ってきてしまう。』


 渦巻く暴風が前方にある木々を撒き散らす。巻き込まれた樹装軍隊はバラバラに砕かれ散り散りになって消えた。

 神具【黒蝶風翼鱗扇 バフュセル・リンロア】を構えた兎針が冷静に状況を分析する。


『そして、緑国、女王の樹装軍隊ですか?。女王は死んだ筈ですが?。』

『けど、これちょっと違くない?。敵意が無いっていうか、女王と戦った時はもっと動きが洗練?。されてたような?。正直弱い。』

『確かに、今の彼等はただ無闇矢鱈に目の前の私達に向かって飛び掛かって来るだけ…と。』

『クンクン。駄目だ。先輩達の匂いも感じない。完全に孤立させられてる。』

『敵の強さから見て、私達を倒すことよりも足止めするのが目的でしょう。樹装軍隊を操っている者の目的…幾つか考えられますが…推測の域を出ません。』

『何よ。それは?。』

『この脱出不可能な森と樹装軍隊から敵の明確な敵意を感じます。それを踏まえて、一つは単純に私達の各個撃破が目的。結界内に私達を閉じ込め戦力の分断、その間に樹装軍隊での時間稼ぎ。そうしている間に敵本体が私達を一人ずつ確実に倒していくこと。』

『え?。けど、それなら何でウチと兎針は一緒なの?。』

『推測でしかありませんが………敵本体の力が私達以下ということが考えられますね。これだけの強力な結界、そして継続的に生成される樹装軍隊。かなり強力な能力の持ち主であることは確実です。ですが、樹装軍隊のコントロールは女王以下。しかし、エーテルを扱えていることから、私達は纏めて見捨てられたと考えて良いかも知れません。』

『じゃあ。エーテルを使えない夢伽と八雲と奏他が狙いってこと!?。』

『可能性の一つです。憶測に過ぎない。』

『他の目的は?。』

『敵が私達の誰かとの対話を望んでいる場合。敵意があるにしろ無いにしろ、兎に角一対一で話したいことがある…時間と場所を作りたかった場合。その他、これが私達にとって一番辛いです。考えられるのが…敵が一人ではなく複数、足止めをされているのが私達だけ。という状況…。』


ーーー


『ぐっ!?。』


 八雲の腕に装備された機械。その左腕の装備が砕かれ破壊された。

 片側の推進力を失った八雲はバランスを崩しながら地面へと着地する。


『はぁ…はぁ…。くそっ…。何処から来る?。』

『後ろ。』

『っ!?。』


 振り向き様に後退。

 間一髪で敵の斬撃を躱す。


『このっ!。』


 残った右腕の機械を構え魔力弾を発射するも、既に敵の姿は森の中に消えた後。放たれた魔力弾が、その奥にある木々を薙ぎ倒した。


『はぁ…はぁ…。また…消えた。あの…白い女…。誰だ?。』

『そういえば。自己紹介を。していなかった。』


 八雲の言葉に反応した声。

 全くの無音のまま、八雲の目の前に飛来する白い少女。

 純白の翼。黄金の瞳。白い髪。鳥の羽を思わせる白い衣服。全身が真っ白に染まった朧気な少女。その手には自らの羽を短刀に変え握られている。


『貴女方に。ご主人様を。殺された。神獣。【白夜梟】。ホワセウア。貴女を殺す者。』


 ホワセウアが翼を広げると同時にその姿が八雲の視界から再び消える。

 

『ここが。貴女の死地。弱い者から狩る。次に。獣の奴。次に。蝶の奴。ご主人様の。敵討つ!。』

『っ!?。ぐあっ!?。』


 無音。死角。そして、鋭さ。

 白夜の梟が八雲の背中を斬り裂いた。


ーーー


『ぐっ!?。痛ぁ…。うっ…。』


 肩口から肉を抉られ噴き出る血が地面に飛び散った。

 肩を押さえながら片膝をついた奏他が鈍い悲鳴を上げる。


『もぐもぐ。ごくん。うん。まぁまぁな。肉だね。柔らかいし。とってもジューシー。肩だけでこんなに美味しいなら、身体はどれだけ美味しいのかな?。』


 小柄な少女が口元についた奏他の血を舐め取った。ギザギザと先端の尖った歯がキラリと光り、その瞳は品定めでもするように奏他の身体を吟味する。


『き、君は誰かな?。いきなり噛み付いて来て、流石のビックリしたんだけど?。』

『え?。これから私に食べられちゃうのに聞きたいの?。はは。そんなの知ってどうするの?。どうせ、もうすぐ死んじゃうのにさ!。』


 そう言うと、小柄な少女が地面の中へと溶け込んで行った。

 土の地面なのに少女が触れた箇所だけ沼のように変化している。


『どこでも、潜伏し泳げる能力かな?。』


 奏他は方翼を広げ、跳躍。視界に映る最も高い大木の枝へと飛び乗った。

 地面に接触している面積を減らすことで奇襲への反応を少しでも上げるために。


『何処からでも来い。ぐっ…ここなら…はぁ…はぁ…。手痛いの貰っちゃったな。腕まで動かない。』


 肩の肉を抉られ、腕全体が麻痺している。

 痛みと、痺れで腕の感覚を失っていた。


『はは。余所見しちゃ駄目だよ。頂きま~す。』

『しまっ!?。ぐっ…っ!?。』


 木の幹から現れた少女。大きく口を開き奏他へと飛び掛かる。

 しかし、反応は遅れたが奏他は反応した。

 反応し、幹から離れようとした。しかし、足が枝から離れない。


『尻尾っ!?。あがっ!?。』

『逃がさな~い!。』


 バギッ!。という奏他の骨が砕ける音が森に響いた。


『がっ…ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!?!?。』


 地面へと落下する奏他。

 受け身も取れず、地面に激突する。大量の血液が噴き出し、彼女の周囲に赤い池を作った。


『あっ…。あっ…。うっ…。ぐっ…。』


 腕を押さえ声にならない悲鳴を上げる。

 しかし、そこに腕は無かった。


『んん~。美味しい~。』

『私の…腕…を…。』


 少女は奏他の腕に貪りついていた。

 皮や肉。爪や骨まで。バリボリと音を立てて美味しそうに、嬉しそうに食していたのだ。

 その光景に奏他は恐怖を覚えた。同時に何処か冷静に、冷めた頭である答えに辿り着く。


『ワニ…みたいだね。神獣さん。』

『あれ?。私の正体に気付いたの?。』

『君…セルレンの神獣だったよね?。あの時、私は気絶してたかな?。けど、戦いの後で話しは聞いたよ。私達はずっと疑問だったんだ。神眷者が死んだのに神獣の姿が探しても見つからなかったからね。神聖界樹の幹の中を泳いでいた鰐の神獣ってさ。』

『ははは。分かったんだ。そうか。なら自己紹介しようかな。あ~ん。もぐもぐ。ごくん。』


 最後に残った奏他の腕が少女の口の中へと消える。

 小柄な身体。緑がかった灰色の髪と青い瞳。鋭い牙。水着のように肌にピッタリとくっついた薄着の上にパーカーのような大きい服を着た少女。服の隙間から見える肌には鱗が見える。そして、太くて長い尻尾。


『私は、セルレン様に仕えていた神獣【地泳鰐】。アリガリナ。まぁ、私はセルレン様の敵討ちとかどうでも良いんだけどね。君をまず食べることしか考えてないのだ!。』


 舌舐めずりをし、再び地面に潜るアリガリナ。


『さ~て、次は足にしようかなぁ~。脹ら脛に太股~。柔らかそうで美味しそうだね~。』

『くっ!。』

『足の後は~。もう片方の腕~。次はもう片方の足~。頭は最後にしてあげるね~。』

『ぐっそっ!。』


 全身を打ち付けた痛みと失った腕の痛みに耐え奏他は走り出した。


ーーー


『はぁ…。はぁ…。君…閃さんじゃないよね?。誰…なの?。』


 燕はかつてない程緊張していた。

 閃達と離れ離れになり、森をさ迷い歩くこと数分。燕の前に突如現れた男。

 姿は閃に酷似していた。しかし、纏うエーテルが異質過ぎた。

 その強さ、質、禍々しさ。かつて、仮想世界で対峙した神々。その存在に近い…いや、彼等よりも…強い?。そして、結論付けた。閃と同等…それ以上のエーテルをその身に宿していると。

 全身の毛穴から汗が噴き出る感覚。

 身体の表面は熱く、急激に身体の芯が凍えていく。


 私じゃ…この男に…勝てない…。


 対峙しただけで理解させられる実力差。

 この男は、燕が今までにあった閃以外の誰よりも強い。そう考えずにはいられなかった。


『名か…。まだ名はない。』

『名前がない?。』


 男は燕へと近づいていく。


『お前達の誰かが門を開き。神々の住む場所へと道が開いた時。俺は俺自身の意味を与えられ、その瞬間に名が刻まれる。そういうルールだ。この世界の法則に新たに書き込まれた俺という法則。それまでに準備を整える必要があってな。お前の前に現れた訳だ。異界の神の一柱。お前で俺の力を試すとしよう。』


 男が臨戦態勢へ移行し構える。

 エーテルを纏い、徒手空拳で戦うようだ。


『閃さんと同じ戦闘スタイル…。くっ!。このおおおおおぉぉぉぉぉ!!!。』


 この男からは逃げられない。

 仮に、この誰かに支配され脱出不可能な森が無かったとしても、目の前の男からの逃走は無駄に終わる。

 ならば、全力でぶつかるしかない。

 それしか燕が生き残る手段が残されていなかったから。

次回の投稿は25日の木曜日を予定しています。

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