番外編 恋人達との旅行 温泉旅館編①
『にぃ様!。着きました!。予約した温泉旅館です!。』
『おお。結構風情があるな!。空気も旨いしテンション上がるなっ!。』
山奥にある温泉旅館。
自然に溶け込むように建てられた木製の大きな旅館だ。整えられ綺麗に並ぶ木々に、山から流れる川、そこから汲み取られた水で人工的な池が作られ、そこに魚が泳いでいる。
ランタンのような照明器具が等間隔で並んでいて落ち着いた雰囲気を演出している。
早朝に出発した俺達はゆったりと観光を楽しみながら、夕方の今、一泊二日で予約した旅館に到着した。
何でも今日は俺達だけの貸し切りのようで施設内にある全ての遊具で遊び放題なんだとか。
『旦那様。既に荷物は受け付けに届いていると思いますので、いつでもチェックインは可能みたいです。』
『楽しみだ。私はこういう場所に来たのは初めてなんだ。凄いな。入る前からドキドキしている。』
『私も久し振りです。もっと小さかった頃に、家族で行ったっきりです。今度、儀童とも来ようかな?。』
俺、灯月、睦美、八雲、夢伽の五人は風情ある旅館の佇まいに感嘆しながら感想を述べあった。
何故、この様なことになっているのか。
それは、今から二週間前に遡る。
ーーー
コンコン。
『どうぞ~。』
何気ない平時の日常。
気ままに空いた時間で読書を満喫していると突然、ドアがノックされた。
何時ものことなので、声で合図だけして訪問者が入ってくるのを待つ。きっと灯月達の誰かだろう。
『失礼します。にぃ様。』
やっぱり灯月だったか。
静かに開いたドアからゆっくりとした動作で灯月が入室。
丁寧にお辞儀をした後に俺に近付いてくる。
『お邪魔しま~す。』
『やっほ~。』
『旦那様。失礼致します。』
『ス…ス…ス…。』
『こ、こんにちは…。』
ずらずらと、次々に入ってくる恋人達。
ちょっと待て、全員来たのか?。
あっという間に恋人達が部屋に収まったことで、人口密度が凄いことに。身動きも取りづらく。
『ど、どうしたんだ?。今日、何かあったっけ?。』
『それがですね!。にぃ様。』
『近い近い。お前しか見えないから。』
『きゅん。にぃ様ったら、こんな大勢の前で求婚ですか?。私はいつでもウェルカムです。式はいつにしますか?。』
『違うから。文字通りの意味だから。』
鼻先がくっついた状態で話し始める灯月を引き離す。
『で?。何があった?。』
『それがですね。にぃ様大好きクラブの皆で話し合ったのですが、にぃ様と一泊二日で旅行に行きたいという話になりまして。』
『ん?。旅行か~。良いな。それ。俺は賛成だぞ。けど、この人数で行くのは流石に大変じゃないか?。』
『ふふ。にぃ様ならそう言ってくれると思っていました。そして、にぃ様が仰った通り人数の問題、更に幾つか悩ましいことが私達の間で起きてしまいまして。結果として、私達で考えた案に対し、にぃ様の意見を仰ごうかと思いまして。その場合、にぃ様に多分な負担を掛けてしまうことになってしまうので…。』
『うん。良いぞ。その案っていうのは?。』
『えーと。私達の中で旅行先の候補を幾つか厳選しました。このリスティールには仮想世界の様な四季はありませんが、各国には各々の四季に似た環境があり、温泉施設、レジャー施設、ウィンター施設やキャンプ場などが充実してきています。』
『確かにな。仮想世界の情報を汲み取ってからの発展が凄まじいよな。どんどん近代化が進んでいるっていうか、近未来的になっているっていうか。元々あった魔力的な文明に、科学が吸収され始めたんだ。青国を中心にリスティールもどんどん変わっていくんだろうな。』
『はい。とても良いことです。…それでですね。私達の間で各々行きたい場所が分かれてしまいまして。』
『ああ。成程な。で?。分かれた人数は各々どれくらいだ?。』
『察しが良くて助かります。3から4人。場所にして五ヵ所です。』
『俺を入れて五~四人で行く旅行か。良いんじゃないか?。人数もそれくらいが丁度良いだろうし。それで、俺は構わないよ。けど、俺だけ色んな場所に行けてしまうのは心苦しいな。』
『そんな心配は無用です。全員、行きたい場所で目一杯にぃ様と楽しみますので。』
皆を見ると、全員納得しているように首を縦に振っている。
『まぁ。お前達が良いなら。良いけどな。で?。メンバーと場所はもう決まってるんだよな?。』
『はい。最初は私、睦美ちゃん。八雲ちゃん。夢伽ちゃんの四人です。場所は温泉旅館です。思い切って貸し切りにしようかと思っています。ぐふふ…。』
『ふふ。旦那様と温泉。楽しみです。』
『私もだ。神さまと一緒。胸が高鳴る。今から既にドキドキしているくらいだ。』
『お兄さん。よ、よろしくお願いします。』
『ああ。楽しみだな。』
灯月と八雲の暴走を止めるストッパーに睦美と夢伽か。偶然か必然か。バランスが良いな。
それに温泉か。久し振りにゆっくり景色を見ながらお湯に浸かるのも悪くないよなぁ~。
『次はですね。氷山雪原エリアにあるウィンタースポーツが楽しめる宿泊施設です。メンバーは、氷姫ねぇ様、詩那ねぇ様。奏他ねぇ様。』
『ん。閃と一緒。一緒にかまくら作ろう。』
『スノーボードで滑る先輩かぁ~。格好いいんだろうなぁ~。』
『宜しくね。閃君。私、歌ってあげるから。』
『氷姫、ウィンタースポーツはどうした?。詩那も一緒に滑ろうな。奏他も楽しもうな。』
何か不思議な組み合わせだな。
恋人達は全員の仲は良いのだが、やっぱり趣味嗜好の違いや普段の生活習慣から気の合う者、生活リズムが近い連中同士で一緒に居ることが多くなってしまう。こういう機会を作ることで普段知らないお互いをもっと知って交流を深めて欲しいな。
『次は、緑国の樹海エリアにあるアウトドア活動が出来るキャンプ場です。森林浴や釣り、天体観測が楽しめるそうです。メンバーは美緑ちゃん、無華塁ちゃん。累紅ねぇ様。兎針ねぇ様です。』
『宜しくお願いしますね。閃さん。私、張り切っちゃいます!。』
『閃。戦う!。』
『閃君。いっぱい遊ぼうね。カレー作るよ!。』
『閃さんと…森の中で…。ふふ。楽しみですね。すぅ…はぁ…。すぅ…はぁ…。』
『ああ。こっちも宜しくな。戦わないって…。それよりカレーは良いな。キャンプといえば定番だ。俺も本気になるかな!。こ、こら兎針!。匂いを嗅ぐな!。』
美緑と兎針が居れば森の中での危険はないだろう。キャンプってことは、テントの中で夜を過ごす事になる。必要なモノが多そうだな。当日までに色々と調べて準備をしておこう。
『次は屋内プールや水族館が楽しめる水辺のリゾートホテルです。静かで涼しげな空間を満喫出来るとのことでメンバーは、代刃ねぇ様。翡無琥ちゃん。砂羅ねぇ様。』
『閃!。ぼ、僕、閃の為に新しい水着を用意したんだ。当日着るから…その、み、見てね。それで…褒めてくれると…嬉しいな。』
『お兄ちゃん。私…泳げないから、泳ぐの教えて下さい。』
『あらら。代刃さんは本気ですね。私もお兄様の為に本気出そうかしら?。』
『程程にな。翡無琥は安心しろよ。泳げるようになるまで付きっきりで教えてやるよ。』
『ふふ。は~い。』
『あ、ありがとう御座います。』
『あと、代刃。』
『な、何?。』
『新しい水着。楽しみにしてるな。』
『~~~。う、うん!。期待してて!。』
翡無琥は今まで泳いだことがないらしい。
そういえば、皆で海に行った時も波打ち際で楽しんでいたっけ?。
『最後は少々特殊でして、キャンピングカーで海まで行き、海で遊んだ後はキャンピングカー内で一夜を過ごすというものです。メンバーは、瀬愛ちゃん。智鳴ねぇ様。燕ねぇ様。最後に紗恩ちゃんです。ああ。因みにキャンピングカーは既に知人を通じて用意しています。にぃ様が運転することになると思いますが。』
『ああ。問題ないよ。それにしても、随分と変わった旅行だな。誰の提案だ?。』
『私と燕ちゃんだよ。閃ちゃん。』
『うん。海に行くって案が最初に出たんだけど、海辺のホテルに泊まるくらいなら、どうせなら自分達でキャンプみたいに一から十まで全部やってみたいと思ったの。』
『瀬愛も瀬愛も!。お兄ちゃんとずっと一緒が良いから!。お料理頑張るよ!。』
『えっと…その、宜しくね。閃兄。』
キャンプ組の海バージョンって感じかな?。
まぁ、何事も経験だし皆がやる気になっているんだ。俺が反対する理由も必要もない、良い思い出になるように目一杯楽しむことにしよう。
『ああ。宜しくな。皆。』
『ありがとう御座います。にぃ様。では、決定ということで、最初の旅行はツテがありますので、早くて一週間後になります。それまでに準備をお願いします。』
『おっけーだ。皆との旅行、楽しみだな。』
『はい。私達も楽しみです。』
~~~
そんなことがあり、本日、第一回目の旅行が始まったわけだ。
確かに、人数も多いから数人単位での旅行の方が楽しめるだろう。
フロントで受付を済ませ従業員に部屋へと案内して貰う。
通路を歩いていると、窓から見える紅葉の風景。青々しい緑は減り赤や黄色、橙色が美しい。
来る前に少し調べたけど、ここは露天風呂が有名らしい。
この風景を満喫しながら入れる露天風呂か。
楽しみだな。
案内された部屋は大きな部屋が二つ隣同士で並んでいる部屋だった。一つは和風な内装。このリスティールには珍しく客室には畳が敷かれ、窓は障子になっている。天井や壁に埋め込まれた照明が優しい灯りで部屋を照らしている。
もう一つは、カーペットが敷かれた部屋。アンティークなデザインの、大きいテーブルと椅子。それから照明が洋風な雰囲気を演出している。
和と洋に分けられた一つの部屋。
『おお。良い部屋じゃん。』
『お兄さん。上着を預かりますね。』
『ああ。すまん。』
夢伽がテキパキと俺達の荷物を仕分けしていく。着替えなど今必要ない物を備え付けの押し入れに入れていく夢伽。
『旦那様。靴は棚に入れておきます。旅館内では此方のスリッパをご利用下さい。』
『ああ。ありがとう。睦美。』
睦美と夢伽が部屋の中を動き回る。
あっという間に、部屋の中が俺達の…いや、主に俺が過ごしやすい空間に変えられていく?。
良いのかなぁ?。これ?。微妙にインテリアの位置とか変わってるけど?。
『安心して下さい。引き上げる時には元の形に戻しますので、何よりも旦那様が快適に過ごされる空間をご提供してみせます!。』
『うん!。その通りです!。お兄さんはゆっくり寛ぐことだけ考えていて下さい!。』
何か旅館の従業員みたいなこと言ってきた。
二人もお客様の筈なのに?。
『にぃ様。浴衣の用意が出来ました。夕食までには、まだ少し時間があるようです。その間に、汗を流して来ましょう。』
『神さまぁ。一緒に入りましょう。私達の貸し切りですよ。』
浴衣とタオルを持った灯月と八雲がテンションを上げて戻ってきた。
灯月は兎も角、八雲のテンションが高いのは珍しい。余程、旅行を楽しみにしていたんだな。
『おっ、待ってたぞ。温泉、楽しみだったんだ。露天風呂があるんだろ?。さっき窓から見えた景色は最高だったからな。』
『はい。私達も楽しみにしていました。では、早速、参りましょう。にぃ様。』
『おう!。』
通路の案内に従い浴場へと向かう。
途中、灯月と睦美が足を止めた。
『どうした?。』
『にぃ様。八雲ちゃん。夢伽ちゃん。先に行っていて下さい。私達は少し調理場に用がありますので。』
『え?。調理場?。』
普通、そういう所って従業員以外入っちゃダメだろう。
『はい。にぃ様にお出しするモノに不手際がないか確認してきます。』
『ええ…。やめなよ。迷惑だろう?。』
『いいえ。旦那様。その辺りの許可はここの支配人から受けておりますのでご安心下さい。』
支配人?。誰?。
『二人とも目が怖いって。』
『ほ、本当はにぃ様が口にするものは私が作ったモノを提供したかったのに、この旅館は、そこは譲ってくれなかったんです。』
『はい。だから、せめて最後の確認くらいはしてきます!。旦那様?。何か食べたいものはありますか?。愚かにも旦那様の好物を用意していなければ私が作って参ります!。』
『いや、睦美まで暴走してどうするんだよ?。お前は、暴走する灯月を止める役割だろ?。』
『これだけは譲れません!。』
『……………。』
頑な。
『…旅館の人に迷惑は掛けるなよ?。』
『『はい!。承知しています!。』』
ハモるなぁ。
小走りで調理場に向かう二人。
最早、何もないことを祈るしか出来ん。
『ははは…料理のこととなるとお姉さん達は頑固ですね…。』
『しかし、気持ちは分かる。神さまの食べるモノは自分達で用意したい。あの二人にとっての生き甲斐なんだろう。もちろん、神さまが申し付け下されば私も神さまのご要望のモノを用意致します!。何を犠牲にしてもです♡。』
『物騒なことを言うな。ハートを付けるな。ほら、とっとと温泉に行こう。』
『はいです。』
『は~い。』
浴場に到着。
【貸し切り】と書かれた立看板。【男】と書かれた暖簾を潜り、脱衣所へ。
広っ!?。
思いの外、広い脱衣所。
恋人達全員で入っても余裕なくらいだ。
木製の床と壁。冷房の効いた室内。
洗面台が五つ。各々にドライヤーが設置してある。脱衣した服を入れるカゴが入っている棚が並び、その横にはフリーのドリンクコーナーが設置されてる。種類も豊富で、普通の水から始まり、炭酸飲料、スポーツドリンク、牛乳やコーヒーなどがいつでも飲めるみたいだ。
あっ。少し奥まった所にマッサージチェアがある。それも三つも並んでる。裸のまま寛げる様に木製の簡易ベッドや、テーブルに椅子も置かれて、リラックス出来るスペースまで。
凄いな。至れり尽くせりだ。
服を脱ぎ、タオルを持って浴場へ。
広い浴槽が沢山並んでいる。ジェットバスや水風呂、電気風呂。仮想世界で住んでいた拠点で無凱のおっさんが増築した浴場と大差ない。
これは、素晴らしいな。
『え~と。露天風呂は…こっちか。』
案内板に書かれた露天風呂という文字と矢印に従いドアを開ける。
そこには、色とりどりに染まった山々が夕焼けに照らされている風景が視界いっぱいに広がった。
『わぁお。やっぱ期待通りだ。来て良かった。』
タオルを横に置き、湯船へと浸かる。
『はぁ~。疲れが取れていく~。』
足を伸ばし、腕を背凭れにした岩の上に置く。リラックスした俺は眼前に広がる紅葉と、独特な山の香り、頬を撫でる秋の風を感じながら露天風呂を満喫する。
『凄いですね。山が光ってるみたいです。夕焼けに照らされて凄く綺麗。』
『ああ。見ろ。あそこの梺。小さな民家があるぞ?。こんな山奥に何の種族が住んでいるんだろうな?。』
何故だろう。一人で男湯に入った筈なのに…聞き知った少女達の声が聞こえ、隣からはお湯とは違う温かな温もりを感じ、山の紅葉を楽しんでいた筈の俺の視界…目の前の景色は小振りの桃のように形の良いお尻が被さった。
身を乗り出して梺の民家を指差してる。
『おい。何で、お前達までここに入っている?。確かに俺は男湯に入ったぞ?。』
『えへへ。お兄さん。恥ずかしいですが、一緒に入れて嬉しいです。』
俺の腕に抱きつく夢伽。
柔らかくて温かい感触が腕いっぱいに広がる。
いやいや、そうじゃなくてな?。
『神さま。灯月が言っていませんでしたか?。今回、この旅館は貸し切り。温泉は混浴になっていると。脱衣所も男女の境が無くなり一つになっていたと思いますが?。』
『え?。』
もしかして、だから広かったのか?。
てか、そうなの?。聞いてないよ?。
『多分ですが。混浴だと最初に言ってしまうとお兄さんが遠慮して一緒に入ってくれないから、お兄さんにだけ内緒にしていたんじゃないでしょうか?。』
『マジか?。てか、八雲せめて前を隠せ。あと、危ないから身を乗り出すな!。』
『はい。神さまぁ。』
注意されたのに嬉しそうに湯船に入る八雲はゆっくりと俺の横までやって来た。
自然に夢伽とは反対側に移動し俺の腕に抱きついて来る。
美少女二人に挟まれる形になった。
いくら恋人でも目のやり場に困る。
『神さまぁ~。神さまぁ~。一緒にお風呂~。』
『はぁ…。良いのか?。お前達はこれで。』
『はい。問題ありません。この身体は神さまのモノですから~。』
『いやいや。お前のだぞ。自分を大事にしなさい。』
『は~い。』
『私達はお兄さんの恋人ですから、恥ずかしいことなんてありません。むしろ…もっと見て欲しい…かも。』
夢伽…。お前吹っ切れたな…。大胆になったというか…。変わっちまったな…。いや、割りと最初から大胆だったか?。
はぁ...。というか、大丈夫じゃないのは俺の方か。恋人と入浴。しかも、互いに密着した状態。理性が持つのか?。これ?。
しかも、この後、あの二人も来るよな?。確実に…。
うん。無理だな。仕方がない。
『あ…。どうして、女性の姿になっちゃうんですか?。お兄さん?。』
『そうです。男の姿の神さまが良いです!。固くて逞しいのが好きです!。』
『言い方!。てか、うん…すまん。無理だ。』
『ええ…どうしてですか?。』
『何が無理なのですか?。』
『そ、それは…。』
その時だった。
ガラガラと中の浴場と露天風呂を繋ぐドアが開く。
『お待たせしました。にぃ様。八雲ちゃん。夢伽ちゃん。』
『旦那様。お待たせ致しました。湯加減の程は如何ですか?。』
やっぱ来るよな。女の姿になっておいて良かった。
身体にタイルを巻いた睦美と、タオルで前だけ隠した灯月。
両腕に抱きつく全裸の八雲と夢伽。
こんな四人に囲まれたら、俺の理性なんて軽く吹っ飛ぶぞ?。温泉を楽しみに来たのに、違うことに全力になるところだった。
『あら?。に、にぃ様!?。な、何故、女性のお姿に!?。』
『だ、旦那様!?。何かあったのですか!?。』
『いや、何もない。………何かある前に対処したって感じだ。』
『どういうことですか!?。折角混浴にしたのに!。折角、にぃ様との酒池肉林を楽しめると期待していたのに!。』
『おい。何を期待してんだ!。てか、混浴ってこと隠してただろ?。』
『………ふっ。』
『おい!。』
『そうです。旦那様にご奉仕しようと色々と考えていましたのに…女性の姿では準備したもの台無しに…。どうしましょう。男性用のモノしか…。』
『何を用意したんだよ…。普通に入浴しようよ。』
睦美が持ってきた風呂敷に入っている言葉にしてはいけない何かがチラリと見えた。
コイツら本当に何を考えているんだ?。
タオルを脱ぎ捨てた灯月と睦美が詰め寄ってくる。
四人の恋人。心から愛している少女達に囲まれ見つめられる。
『流石に、男の姿だとお前達の魅力的な身体に抗えないからな…我慢できずにお前達を襲っちまう。情けないが…今日は温泉を楽しみにして来たんだ。一緒にゆっくりと過ごす為にもこのままの姿で居させてくれ。』
『魅力的。嬉しいです。』
『はい。お兄さんが私達のこと大事に想ってくれているのが伝わって来ます。』
『神さまぁ~。』
『むぅ。私はいつでもウェルカムなのですが、分かりました。にぃ様の意見を尊重しましょう。』
『というか、温泉悩殺作戦とか言っておったが、冷静に考えると夕食前に何をしておるんじゃろうな…ワシ等は…。』
冷静になるのが遅いよ。睦美。
まぁ、睦美も何だかんだで楽しんでいるんだろうけど。テンション高いし。
『では、にぃ様。此方にどうぞ。頭を洗ってあげます。』
暫く、五人で露天風呂にゆっくりと浸かっていると、灯月が切り出した。
『え?。いや、自分でするよ。それくらい。』
『私がやりたいのです!。にぃ様を癒したい!。』
『ええ。』
『それに、女性の髪はデリケートなんです。普段は男性の姿のにぃ様は女性の髪を洗うのに慣れていない筈です。優しく丁寧に洗わないと傷めてしまいます。なので、私に任せてください。』
んー。確かにそうなのか?。
『分かった。じゃあ、お願いしようかな。』
『やった!。ふふ。ありがとう御座いますにぃ様!。沢山、ご奉仕しますよ!。だって妹メイドですから!。』
滅茶苦茶嬉しそうに俺の手を取りシャワーの前まで連れていく灯月。
子供のように跳び跳ねてるけど、我が妹ながらスタイルが良すぎて目のやり場に困る。
『さぁ。さぁ。にぃ様、此方に。』
鏡の前にある風呂椅子に座らされる。
頭にシャンプーをつけられ、優しく頭皮をマッサージされる。おお。気持ちいい。
『どうですか?。にぃ様?。』
『ん。灯月。上手いな。凄く気持ちいい。』
『ああ、にぃ様のうっとりとした顔。幸せですぅ。』
『灯月。ズルいぞ。ワシにも。旦那様の…そうだな。背中を洗うのじゃ!。』
『わ、私もしたいです!。えっと…あの、じゃあ、胸…上半身を…。』
頭をマッサージされながら、睦美には背中を、夢伽には前を、全身が泡まみれに…。
気持ちいいが、くすぐったい…。
『私も、神さまにしてあげたい。しかし、あと、洗っていないところは…。』
そーっと近付いてきた八雲。
その視線が俺の頭から少しずつ下に移動していき…。その瞳が俺の…。下半…。
『…ごくり。失礼します。神さま。』
顔を真っ赤にして一礼する八雲。
『いや、すまん。そこだけはやめてくれ。』
『むぅ。』
『何でガッカリするんだよぉ…。』
ーーー
『そうです。にぃ様。見ましたか?。さっき、ここに来る途中で見つけたんですが、ゲームコーナーがあったんです。』
『ゲームコーナー?。』
『はい。結構レトロなゲームの筐体が並んでました。後でやりましょう!。』
『おっ!。良いな。何でリスティールにレトロゲームの筐体があるのかは敢えてツッコまないが、面白そうだ。』
『あと、卓球台もありましたよ!。皆で遊びましょう。』
『ヤバイな。温泉旅館、楽しい。ワクワクしかしないじゃん!。来て良かったな!。』
『はい!。にぃ様!。』
『ふふ。旦那様。今晩は晩酌などどうですか?。』
『晩酌?。』
『はい。この日の為に旅館にお願いして取っておきを用意して貰いましたので。』
『だが、俺達は…。』
仮想世界の頃と違い、俺達は完全に神になった。神になった今、エーテルの通っていない毒などに対する耐性が強化されてしまい、酒を飲んでも酔うことが出来ない。
『ふふ。安心して下さい。取っておきです。ちゃんと、酔うことが出来ますよ。』
『そうなのか?。それなら嬉しいが。期待しちゃうよ?。』
『はい。期待していて下さい。』
睦美のことだ。嘘ではないんだろう。
本当に酔えるんなら久し振りの酒になる。
楽しみが増えたな。何だよ。ここ。幸せしかないぞ?。
『にぃ様。申し訳ありません。少し、のぼせてしまったみたいです。先にあがりますね。』
『そうか。一人で大丈夫か?。』
『はい。脱衣所で涼んでいますので。にぃ様方はごゆっくり。』
『俺はもう少し入ってるが、お前達はどうする?。』
『私ももう少しだけ。』
『私もです。』
『同じくです。』
『分かった。のぼせる前に出るんだぞ?。』
ーーー
ーーー睦美ーーー
『旦那様。私もそろそろ失礼します。』
『ああ。灯月の様子を見てやってくれ。』
『畏まりました。』
ワシは旦那様に一礼し身体にタオルを巻いて、浴場を後にした。
脱衣所に入ると、そこには…。
グォン。グォン。グォン。グォン。
ヴゥ。ヴゥ。ヴゥ。ヴゥ。ヴゥ。
『あら~?。むづみぢゃん~。あがっだのでずね~。』
『あ、ああ。その様子だと大丈夫そうだな。』
グォン。グォン。グォン。グォン。
『はい。あっ…これ、ん…。気持ちいいですね。私…すぐ肩が、あん、凝っちゃって…。』
ぶるんっ。ぶるんっ。ぶるぶるぶるっ。
マッサージチェアに座っている灯月だった。
どうやら、回復したようじゃが、ワシの視線は灯月のある一部分に釘付けになっていた。
ぶるんっ。ぶるんっ。ぶるぶるぶるっ。
『なっ!?。ば、馬鹿な!?。ゆ、揺れっ!?。』
ぶるんっ。ぶるんっ。ぶるぶるぶるっ。
揺れている…じゃと!?。
マッサージチェアの振動でギリギリまではだけた胸元から覗く巨大な二つの山。
それが、縦横無尽に暴れまわっておる。
ヴゥ。ヴゥ。ヴゥ。ヴゥ。ヴゥ。
『ど~じまじだ~。むづみぢゃん?。』
いや、冷静になれ。
灯月程の大きな胸ならば、マッサージチェアの振動であれだけ揺れても不思議ではない。
ああ。そうだ。何も不思議ではない。一般的な自然現象だ。
『わ、ワシ…だって…。』
自分の胸を触る。
揺れるか?。マッサージチェアで?。
この僅かな膨らみが…揺れるのか?。
『いや…。』
揺れる!。ワシだって全く無い訳ではない。
ちゃんと年相応にある…気がする。なら、揺れる!。揺れるんじゃ!。
自分の胸に手を当てる。むにっ、とする柔らかさ。うん。膨らみはあるんじゃ。
問題は…。
ぶるんっ。ぶるんっ。ぶるぶるぶるっ。
揺れるか…じゃ。
『あれ?。どうしたんですか?。睦美お姉さん?。入り口で固まって?。』
夢伽が風呂場から出てくる。ワシと同じで身体にタオルを巻いて。
立ち止まり一点を見つめるワシを不思議そうに眺め、ワシの視線を追って顔を動かした夢伽。その瞳がワシと同じものを映した。
『な!?。揺れっ!?。はっ!?。』
『何してるんだ?。二人で、こんなところで固まって?。』
夢伽の後に続いてやって来た八雲。タオルを片手で持ち前だけを隠した彼女もまた、ワシと夢伽の視線を辿りあの地点へと導かれる。
『なっ!?。揺れっ!?。はっ!?。』
眼前のあり得ない…信じたくない光景に静かに落下するタオル。
夢伽、八雲が同時に自分の胸元に手を添える。
『何で三人とも固まっているんですか?。』
ワシ等を不思議に思った灯月がマッサージチェアを止め上半身を起き上がらせる。
はだける浴衣からこぼれる双丘が更に揺れる。
『『『………っ!?。』』』
ぶるんっ!。だと!?。
『あ、あの…三人とも…目が怖いんですが?。何で、私の胸を睨み付けているのですか?。』
『『『………げろ。』』』
『え?。何て?。え?。どうしてジリジリと歩み寄って来るんですか?。どうして、手をワキワキさせてるんですか?。』
『『『もげろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!。』』』
『はえ?。なっ!?。うにゃっ!?。きゃあああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?。』
『無い者の恨みじゃあああああぁぁぁぁぁ!!!。』
『にゃあああああぁぁぁぁぁ!?。おっぱい鷲掴みにしないでえええええぇぇぇぇぇ!?。』
灯月の胸に恨みと憎しみと妬みと悲しみを込め、ワシ等三人は灯月の胸を揉みしだいた。
『何してんだ?。お前等?。てか、全員が全裸で取っ組み合いして…どうした?。…それに、何で全員泣いてるんだ?。』
『『『………なっ!?。』』』
『え?。何だよ?。』
泣きながらも灯月の胸を掴んでいたワシと夢伽、八雲の三人の視線が旦那様の胸に固定されている。
余りにも、女性であるワシですら見惚れてしまう肉体美。羨ましいを通り越して信仰すらしてしまいたくなる裸体が、腰に片手を当て、もう片方の手で肩に掛けたタオルを握り男性の様に立っている。
そして、睦美よりも大きな胸…。
旦那様…。いや、今だけは昔に戻るとしよう。
なぁ。閃よ。お主の胸…。
『『『もげろおおおおおぉぉぉぉぉ!!!。』』』
『はっ!?。何言って…やめっ、ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?。』
ワシ等の暴走は、旦那様が男性の姿に戻ったことで終息した。
その後、ワシはマッサージチェアを試したのだが…。
次回の投稿は11日の木曜日を予定しています。