第274話 神眷者の会合
響とゼディナハの戦い。
異神と呼ばれる転生者達、クロノ・フィリアと神から能力を与えられた神眷者達との戦い。
対立する二つの勢力の争い。その開戦の狼煙となった二柱の戦闘は響がゼディナハに殺される形で幕を閉じた。
これは、その約一ヶ月後の出来事。
場所は青国。
国の中心にある高々と天へと伸びる巨大な塔。
かつて、リスティールを侵略した神々が拠点とし、広大な宇宙を航行するために使用していた宇宙船。
エンパシス・ウィザメントをゲームとしていたプレイヤー達がゲーム開始直後に転送される 始まりの場所 でもあった。
その塔の中枢。
青国全体を見渡せる高さにある塔の頂上付近にある広い空間。
広い円柱形の内部。壁の隙間からの青い輝きが薄暗い空間の視界を確保する程度の灯りを与えている。
中心に設置される巨大な青い球体。星のようにも見える青く美しい球体だ。
それは、かつて神々の手によって創造された仮想世界と呼ばれるもの。
そして、そこから伸びる幾つものコード。その先端には数え切れない量のチップが所畝ましと並ぶ機械が取り付けられていた。
仮想世界に住む何十億という数の人間。個人個人が一つのチップにデータとしての人格を宿す。まさに、チップの一つ一つが一人の人間なのだ。
更にその上にあるのはエーテルの塊で作られたリスティールを模した球体。
球体から流れ落ちるエーテルは円形上に開けられた地下へと溜められている。
幾つものモニターには謎の文字が列を作り、止めどない速さで次々と流れていく。
その異様な空間内において更に不自然に置かれた円卓。
これから始まる、とある会合のためだけに用意されたものだ。
そう。もう数度目にもなる神眷者達による情報共有の場。
異神をより多く殺した神眷者には神から報酬として何者にも染められていない己の自由に創ることの出来る 白紙の仮想世界 が与えられる。
勝者は一人。
本来ならば敵同士である神眷者同士だが、噂に聞く異神の強さ、既に何人か接触した者がいる状況から得た感想。それらを踏まえ、単独で異神と戦うにはリスクが高過ぎると結論付け。
最終的に互いに有益な情報交換の場を設けることに一同が賛成したのだった。
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『おい。のろま。トロトロするな。今日は各国を代表する方々が来られるのだ!。気を引き締めろ!。』
『あんっ!?。は、はい…ご、ごめんなさい…。』
塔内を自由に移動できる備え付けられた転移装置から現れる数人の機械兵を引き連れた軍服のような制服を着た男女。
男の方は目付きが悪く、姿勢も、服の着こなしもだらしなく乱れ、歩き方にも品がない。
苛立ちながら後ろを頼りなく歩く女に罵声を浴びせた。
女の方は、その表情から自身の無さが窺えキョロキョロと周りを見渡しながら男の後ろを歩いている。
『やれやれ。ムダンさん。そう言いつつルクシエーナさんのお尻やら胸やらを触るのは止めなさい。問題ですよ?。それ?。』
『っ!?。イ、イグハーレン殿!?。これは、これはお見苦しい所を…。』
『すみません。私がトロいのがいけないのです…。はい…。ムダンさんは、わ、悪くありません。』
『…おやおや。まぁ…お二人の関係性にまで口を出すつもりはありませんが、時と場所は弁えて下さいね。』
『は、はい…申し訳ありません。』
そうして、ムダン、ルクシエーナは予め用意された定位置に移動。イグハーレンは円卓へ進み用意された椅子に腰を下ろした。
『イグハーレン殿。早いな。神眷者である貴方は、もう少し後でも問題ないだろうに。』
次に現れたのは5人の部下を引き連れたシャメラルアだ。
『シャメラルアさん。いいえ。主催である青国の神眷者が遅れてくるようでは、他国の皆さんに示しがつきませんのでね。これくらいが丁度良いのですよ。』
『そうですか。失礼しました。出すぎた真似を。』
『いいえ。お気に為さらず。』
深く頭を下げたシャメラルアは部下達を引き連れ定位置に。
『やあやあ。お待たせだね。』
『アクリスさん。お久し振りですね。』
『うん。イグハーレン君もね。この会合の後、緑国に行くからさ。旅の準備をしていたの。』
『ああ。そうでしたか。そう言えば、我等の神が啓示されたのでしたか。「緑国に最高神の一柱【観測神】が現れる」と、緑国だけの戦力では異神の相手は出来ても最高神までは手に負えないかもしれないでしょうしね。青国から神眷者を送る約束でしたね。私は…まぁ、ちょっとした用事がありましたので、代わりをお願いしてしまい申し訳ありません。』
『いいよ。いいよ。急遽決まったから急いで準備してたんだ。それに、私もちょっと用事があったしね。』
アクリスはクルリと身体を回転させると円卓へと駆けていった。
そして、時間は進み、その時がやってくる。
左右に音もなく開く大きな自動ドア。
そこから次々と現れるは、機械人形に案内されながら入室する各国を代表する面々。
彼等は慣れた様子で円卓へと向かい引かれた椅子に座る。
『おい。緑国と黄国はどうした?。』
暫くして赤国の男が声を上げた。
赤国の三大勢力が一つ【武星天】を統べる男。
名を、紅陣。
突出した身体能力と卓越した歴史深い武術を操る武道家。赤国最強の男。
契約した神は、【流動の神】コルン。
それは、最後に登場した黒国の王が席についてから三十分が経過した頃だった。
『緑国の王 セルレン様。女王、エンディア様は欠席です。何でも、馴れ合うつもりはないとのこと。緑国有する国力だけで異神との戦闘に望むそうですよ?。』
紅陣の問いにイグハーレンが答える。
『黄国はご存知の通り神眷者を有しておりません。巫女だけでは戦力になりませんので、今回の件、裏方に回るようです。異神と戦う為の各国への資源の提供、避難民の保護などを行うそうです。』
『ふん。しかし、この場で決まったことをどう知らせるのだ?。巫女がいる以上、我々との情報共有は必要だろう?。それにあの国は男子禁制だ。女のみを保護するのか?。』
煙管で煙を蒸かしながら、つまらなそうに話す女。赤国、【華桜天】の当主。楚不死。
契約した神は、【静寂の神】リシェルネーラ。
『その点は問題ありません。今回は特例とし用意された保護地区のみ男性も受け入れるということです。それと、本日この場での会合にて決まりましたことは、この後、アルノエディル・プルムガル様が黄国に赴き直接巫女様に伝えることになっています。』
『その通りだ。黄国の難民を受け入れる保護地区が正常に機能するかを確認してくるつもりだ。』
『そうか。ならいい。』
紫国、第一王子 アルノエディル・プルムガル。
【死神】と呼ばれる程の絶対的な強さを持つとされる紫国の最高戦力。一度敵対すれば生きて帰った者はいないと言われている。
契約した神は、【吸収の神】ノイルディラ。
『ははは。しかし面白いではないか?。緑の国は?。』
『父上?。』
『確かにあの神具はデカイ。地下数キロと根を張り巡らせ、幹は巨大な壁を彷彿とさせ、生い茂る葉は雲を突き抜け天にまで到る。神聖界樹というのであろう?。あれだけデカければ態度も自信もデカくなるというもの。しかし、この場に来ないとは、ただの自惚れでしかない。くくく。滅ぶぞ。緑国は。』
豪快な態度。大柄な体格で専用の椅子にふんぞり返る男。
紫国、皇帝。ラグクディオ・プルムガル。
契約した神は、【感染の神】イルナード。
『ははは。良く言った。紫国、皇帝よ。その通りだ。画策も良い。目論みも良い。企むも良い。しかし、満身は身を滅ぼすだけよ。この期に及んで異神の驚異に危機感を持てん輩は早々に退場するだけよ。』
足を組み、頬杖をついて、この場に集まったメンバーを興味深く観察していた男が楽しそうに笑い始める。
白国。国王。ルクイジア・ワーセイト。
契約した神は、【無限の神】ガズィラム。
『まぁ。良いんじゃねぇの?。好きなようにすれば良いのさ。どうせ、お前等、裏では好き放題やってんだろ?。緑国がどーこー言ったところで所詮は敵同士。退場しようが、しまいが、俺にもお前達にも関係ないじゃねぇか。』
ただ一人。用意された椅子には座らず床に寝転ぶ男。退屈そうに欠伸をしながら言い放つ。
黒国。王。ゼディナハ。
契約した神は、【絶対神】グァトリュアル。
『偉そうだね。異神を一体殺したらしいけど、態度がデカイんじゃないの?。何かムカつくんですけど?。』
そんな態度のゼディナハに対し舌打ちをし睨み付ける天使の少女。
名を、シリュエル。
契約した神は、【略奪の神】アイシス。
『ん?。何だ?。天使の嬢ちゃん。俺と殺り合うか?。』
『ははは。良いよ!。殺ろうよ!。殺してやるよ!。丁度退屈してたしね!。』
『まぁまぁ。くくく。落ち着いて下さい。シリュエル。それと、ゼディナハさん。今は互いに争っている場合でも、場でもありませんよ。くくく。それに、シリュエル。貴女では彼の相手にはなりませんから。くくく。このまま戦っていたら瞬殺されていましたよ。くくく。』
『むぅ。ザレク君が言うならそうなんだね。分かった。死にたくないし。戦うの止めるよ。』
シリュエルの暴走を止める奇術師の風貌の男。薄気味悪い仮面をつけ素顔を隠した怪しい男。
名を、ザレク。
契約した神は、【万能の神】レジェスタ。
『ははは。冷静じゃねぇか。仮面の人。お前となら面白い殺し合いが出来そうだ。どうよ?。俺と遊ばねぇか?。』
『遠慮しておきます。くくく。神眷者の中でも最強と名高い貴方様に挑む程私は愚かではありませんので。くくく。』
『ははは。そうか。そうか。なら良いわ。けどな、気が向いたら何時でも声を掛けてくれ。そのふざけた態度を止めたマジのお前となら本気で殺り合えそうだ。』
『はて、何のことやら?。』
『いや、戦うよりも引き込んだ方が有意義か?。どうだ?。俺の下で働かねぇか?。この世界を俺達色に染めようぜ?。』
『おい。ゼディナハ。我の側近に手を出そうとするな。これ以上の横暴は我が許さん。』
『ほぉ。許さんとはどうするのかな?。ルクイジア?。』
刀を握り立ち上がるゼディナハに対し、腰の剣に手をかけるルクイジア。
互いに殺気だったエーテルを放出し、周囲の空間を汚染し始める。
『ゼディナハ様。』
『何だ?。黒牙?。今、面白くなりそうなんだが?。邪魔する気か?。』
ゼディナハの前に黒い翼を広げた黒牙。
異界人でありながら神との契約を果たした神眷者。
契約した神は、【同調の神】キーリュナ。
『時間です。』
『………はぁ。そうかよ。命拾いしたなルクイジア?。』
『それは此方の台詞だ。ゼディナハ。ははは。しかし、本気になればどちらかは確実に死んでいたな。ははは。』
『ふふ。違いない。』
双方に神具を納め、自身の定位置へと戻る2人。
そして、その時が来る。
ーーー
ーーーアクリスーーー
ひゃ~。一触即発だったけど。何事も無くて良かった~。
私は表情には出さなかったけど、内心ハラハラしていた。
黒国の人と白国の人。ここに集められた神眷者の中でも実力が頭一つ抜けてるんだよね…。そりゃあ、自信過剰にもなるよね~。
何回目かになる神眷者同士の会合。
確か黒国の人はもう異神…クロノ・フィリアの人を殺しちゃったんだ。この会合はきっとその事を話すために用意された場なんだ。
私は薄目を開けて神眷者達を観察する。
何回か会ってるから見慣れた面々。
青国からは、私とイグハーレン。
赤国からは、紅陣と楚不夜。
紫国からは、ラグクディオとアルノエディル。
黒国は、ゼディナハと黒牙。
白国は、ルクイジアとシリュエルとザレク…と、あれ?。白国ってもう一人、神眷者がいたような?。
『おや?。そう言えばレティアさんはどうしました?。彼女の姿をお見受けしていませんが?。』
『アイツは留守番だ。我等とは違う生い立ち故に置いてきた。』
『違う生い立ち?。』
『なぁに。大したことではない。アイツは戦力にならん。それだけだ。』
『ふむ。そうでしたか。他国のことに踏み込むことも詮索する気もありませんが、分かりました。では、このメンバーで始めましょうか。』
緑国のセルレンとエンディアは欠席っと。
これから緑国に行くんだし、何か大事なことがあれば教えてあげても良いかな。
『さぁ。時間です。皆様。お立ち上がり下さい。』
イグハーレンの言葉に全員が立ち上がる。
円卓の中央が開き、エーテルの塊が浮上する。
そして、エーテルの中から現れた存在。
綺麗な。女性。
桃色の髪を靡かせた、美しいとしか形容しようがない絶世の美女。人では有り得ない美しさと輝かしさ、神々しさで見る者全てを魅了する。
まさに、女神だった。
『皆の者。妾の呼び出しに応じてくれて感謝する。』
彼女の登場と同時にその場にいた全員が頭を下げる。
『勿体なきお言葉です。』
『リスティナ様。此方のお召し物を。』
『ふむ。すまんな。』
リスティナ。
この星。リスティールを創り、星に棲む全ての生物を生み出した創造神様。
私達にとって、この世界を創造した絶対神よりも絶対的な存在であり、信仰が高い女神様だ。
どうして、青国にいるのかは分からない。確か神様は私達の住む下界に干渉できないって聞いてたけど。創造神様なら別なのかな?。
それに彼女が神眷者の味方なのは間違いなさそう。
リスティナ様が着替えている衣擦れの音だけが静かに聞こえている。
あの気性の荒い赤国の人や、さっきまで言い争いをしていた白国と黒国の人達も頭を下げた状態のまま動かないでいる。
それだけ、皆がリスティナ様を敬愛し、尊敬し、信仰しているんだ。
『待たせたな。面を上げよ。』
その言葉に一斉に顔を上げる面々。
リスティナ様を見る目が輝いている。
『全員、座るが良い。楽にせよ。』
その言葉に従って用意された席に座る。
全員の用意が出来たことを確認したリスティナ様は宙に浮かび上がり円卓の中央に移動する。
『さぁ。始めようか。異神との戦いを制する為の話し合いを。』
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