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第272話 他勢力

 最高神。

 世界が、その在り方を成立させるための運営を行うために必要な原理を複数用意し、各々に定義された法則、規則の概念が個としての形を為した存在。

 神として最高位のクラスであり、その力は世界のルールそのものである。

 現在、リスティールには【観測神】の閃を含めて【絶対神】【創造神】【恒星神】など複数の最高神が確認されている。

 【最高神】が持つ共通の能力として、自らの在り方を周囲に展開し擬似的な仮想世界を別次元に創造するものがある。

 閃の場合、契約した神獣達が住む、【心象の深層世界】がこれに当たる。


 今、その仮想世界から現実の世界を観察している最高神の一柱がいる。

 玉座のような煌びやかな装飾の施された椅子に座る、年端もいかぬ外見の少女。

 金色の長い髪。藍色の澄んだ瞳。露出の多い衣服。

 その小さく幼い外見とは裏腹に何処と無く蠱惑的であり、妖艶な雰囲気を漂わせる。

 足を組み、頬杖をつき、小さなため息をした。

 その視線の先にはエーテルで作られた球体。

 下界の様子を映し出す投影機のような機能を持っている。


 少女の名は、アリプキニア。

 最高神の一柱にして【恒星神】と呼ばれる神。


『まったく。あんなものを、こんな早期から俗物に使わすなど…いよいよ何を考えておるのだ?。絶対神の奴は?。』


 球体に映し出されたのはゼディナハによって響の胸が貫かれ核が抜き取られる場面だった。


『概念どころか理や存在そのものを絶ち消失させる神具とは…。下界の者に渡すにはオーバースペックだろうに…。ちっ。転生して間もない奴等相手に準備万端で待ち受けおって、ゲームとしてフェアではないだろうが。』


 両足を上げて頭の後ろで腕を組む。


『気に食わんな。ふん。』


 椅子の上から飛び降り空中で止まる。

 浮遊しながら仮想世界から出ていこうとするアリプキニアに声を掛ける青い髪と瞳を持つ少女。

 全身が青系統の色に統一された衣服に身を包み、その周囲には水滴が彼女を取り囲むように浮遊している。


『どちらに?。お母様?。』

『アキュリマか。なぁに。ここで見ているのも退屈なのでな。下界に降りて直接世界の動きを肌で感じ取りたいのだ。』

『お母様。覚えていらっしゃいますか?。絶対神様との約束を?。』

『覚えておる。干渉はせん。ただ見届けるだけだ。まぁ、公平にするために僅かな接触はするがな。』

『絶対神様を敵に回すのですか?。』

『そうではない。ただ、気に食わんだけだ。ききき。奴のことだ。妾がこうして動くことも当然知っているだろうさ。どうせ。この世界は妾を含めて全てが奴の手中だ。妾が動いたところで…いや、動くことすらも奴の計画に入っているのだろうさ。』

『………。そうですか。決して無理はしませんように。』

『分かっておる。それにな。奴はこの妾の行動も視野に入れて今回の計画を実行しておるのは明確だ。でなければ、下界に降りた神の性能に対する弱体機能など世界に設定せんだろう?。』

『確かにそうですね。我々が下界に降りると神としての能力が著しく低下する。それこそ、リスティールに住む住人程度まで。ギリギリのラインを見定めても神眷者や異界の神に並ぶ程度。』

『だろ?。現に絶対神側の神は地上には降りてきていない。地上での目的を神々の代わりに遂行する為に神眷者を生み出したくらいだからな。』

『下界への干渉を自ら制限。いったい何を目的としているのか。』

『奴の最終目的は分からん。だが、妾がここにいると知っている上で放置しているのを見るに自由にして良いということだろう?。だから、妾は自由にすることにする。アキュリマ。お前はどうする?。妾につくか?。それとも他の姉妹達のように絶対神につくか?。』

『無論です。私は…お母様に。絶対神様には興味がありませんので。』

『ききき。お前も変わっているな。ああ、そうだ。奴を回収してきてくれ。折角の繋がりだ。ここで失わせるには惜しい。』

『畏まりました。』

『ねぇ。ママ。』

『ん?。どうした。チィ?。』


 アリプキニアに声を掛ける、この場にいたもう一人の少女。

 茶色の髪。青と緑のオッドアイ。瞳と同じく緑と青の色の衣服に身を包んだ少女。

 

『私も動いて良い?。絶対神嫌いだから、私、異界の神の方につきたい!。』

『ふむ。好きにせい。妾は表だって動けぬが、お主達が動くことは止められていないからな。しかしだ。姉妹達と敵対することとなるぞ?。』

『良いよ。別に。絶対神は私の星を滅ぼしたんだ。絶対に許さないもん!。折角…沢山、命を創ったのに…。やっと、形に…なったのに…。私の…子供達を…。滅茶苦茶にして…。』

『はぁ…。それは仕方がないことと納得していた筈だが、根の部分では諦めきれぬか。まぁ、チィが頑張っていたのは見ていたしな。気持ちは分かる。ふむ。おい。アキュリマ。』

『はい。お母様。そのように。』


 アリプキニアの意図を察したアキュリマがチィへと近付く。


『お姉ちゃん?。』

『私も貴女に手を貸しましょう。』

『良いの?。』

『はい。大切な妹が一生懸命に育てた命の輪を破壊したこと。たとえ理由を理解したとしても納得はしていません。何よりも、大切な妹を悲しませたこと私は許していませんので。少し、足掻いてみようかと思いました。彼等のように。』

 

 アキュリマが向けた視線の先。

 映像に映るのはシャルメルアがポラリムから核を引き抜いたシーンだった。

 叫び、涙を流しながら倒れてる儀童を見てチィが胸を押さえた。


『ふっ。話しはついたようじゃな?。では、行くか。どうせ降りるんだ。途中までは共に行こう。』

『はい。』

『うん。』


 満足気に微笑むアリプキニアが踵を返す。

 その瞬間、彼女の衣服が捲れ上がり可愛らしい小さなお尻が丸見えとなった。


『…少々、お待ち下さい。お母様。』

『む、何だ?。』

『その服装で下界に降りるのですか?。』

『そうだが?。何か問題か?。』


 自分の容姿を確認する為にクルクルとその場で回転するアリプキニア。

 回る度に、服が舞い下半身どころか上半身まで丸見えとなった。


『下着…いえ、率直に申しますがパンツくらい穿いて下さい。』

『ええー。』

『ええー。では、ありません。一応、女神であるのですから、お淑やかと優雅さ、気品は持ち合わせて下さい。あと、羞恥心も!。』

『だがな…パンツを穿くと動きにくいし…。』

『如何に女神と言えど人前で下部丸出しなのは駄目でしょう?。まぁ、百歩、千歩譲って上は良しとしましょう。幼女の外見ですから胸の膨らみも僅かしかありませんし。ですが、パンツは別です。穿いて下さい。お母様は平気でも一緒にいる私達が恥ずかしくなるんです。』

『今更ではないか?。妾は既にお主達、十の姉妹を産んでおるのだぞ?。謂わば老いぼれだ。今更、見られたところで何か減るものもあるまいて。』

『減るとか、増えるとか。そういう問題ではありません。見た目、幼女のクセに何言ってるのですか?。どれだけ、下着を穿きたくないのですか!。』

『むぅ。だって~。』

『何がだって~ですか!。いい歳こいて。子供ですか!?。はい。お母様。用意しましたので穿いて下さい。』

『仕方がないなぁ。』


 そう言うと渋々、下着…パンツを穿くアリプキニア。

 今までもこのようなやり取りが何度かあり、その都度アキュリマが下着を用意し穿かせていた。

 普通の下着はお気に召さないようで、なるべく動きを阻害しない紐パンのTバックで落ち着いたアリプキニアだった。


『け、けど…すぐ脱いじゃうよね。ママ。』

『大丈夫です。私が目を離しませんから。』

『うう…下着、やだぁ…。』

『泣かないで下さい!。』


 そんなこんなで三柱の神は下界へと降りて行った。


ーーー


ーーー儀童ーーー


 どれくらいの時間をそうしていただろう。

 ただ、ポラリムの顔を見ながら涙を流していた。

 頭の中はぐちゃぐちゃだ。


 呼吸が止まり、冷たくなったポラリム。

 もう温かさが戻らない。動くことも、話すことも出来ない。いつの間にか出血も止まり、俺の身体はポラリムの血で真っ赤になっていた。


『も………どったよ。』


 機械仕掛けの箒に乗って戻ってきた紗恩姉ちゃん。

 その表情は暗い。その表情で理解してしまう。


『響さんは見付からなかった。ううん。正確には着ていた衣服だけが残されていたの。地面に溜まった大量の血液の中に…。真っ赤になって…。』

『やっぱり。そ…う、なんだね。』


 紗恩姉ちゃんの腕の中にはお姉ちゃんの服が抱きしめられていた。

 紗恩姉ちゃんも震えてる。目を赤くして、頬には涙の痕が残ってた。


『ポラリム…。お姉ちゃん…。本当に死んじゃったんだ…。』

『そう…だね。私達…何も出来なかった…。』


 戦うことも。逃げることも。本当に何も出来なかったんだ。

 ただ一方的に敵にされるがままに大切なモノを奪われた。


『ポラリム…。』


 紗恩姉ちゃんがポラリムに触れる。

 冷たくなったポラリムを感じ、表情は見る見る崩れ、瞳からは再び涙が流れ落ちた。


『これから…どうすれば…。』


 分からない。

 敵は俺達を見逃した。大した驚異ではないと思われたから。いや、驚異とかそれ以前だ。眼中にすら入っていない。障害にすらなっていないんだ。

 このまま姿を隠して暮らす?。それとも、ポラリムとお姉ちゃんの敵討ちに動く?。

 駄目だ。無理だ。相手は青国の中心。力の差は歴然。

 確かにポラリムとお姉ちゃんを殺した奴等は憎い。許せない。だけど、俺は弱いから、弱いことを自覚させられてしまったから。敵に挑むことも。敵を討つことも。何も出来ない…。


『くそっ…。』

『儀童…。』


 紗恩姉ちゃんも言葉が出ないみたいだ。

 黙ったまま、ポラリムをニ人で見つめた…その時だった。


『『えっ!?。』』


 それは突然だった。

 ただ、そよ風みたいな弱い風を感じ顔を上げた俺達の目の前に男が現れたんだ。


『お前達の生きようとする強い意思。見せてもらった。強大な敵にも足掻くその姿は儚くもあり、輝かしくもあった。』


 男の顔には見覚えがあった。

 智鳴お姉ちゃんや機美お姉ちゃんの…そうだ、クロノ・フィリアで一番強いって言われてた人だ。名前は…確か…閃。


『あ、貴方は誰ですか?。』


 紗恩姉ちゃんが俺の身体を抱き寄せて男に質問する。

 その身体は震えていた。それは俺も一緒だ。

 一目見ただけで分かってしまった。

 この人…さっきの俺達を襲ってきた女なんか比べ物にならないくらいに強いって。

 戦えばそれこそ瞬殺される。それだけ絶望的なまでのエーテルを身体に纏っていた。


『安心しろ。敵ではない。』


 男は俺の顔、紗恩姉ちゃんの顔、ポラリムという順番で瞳を移動させる。


『貴方はクロノ・フィリアの人?。』

『クロノ・フィリア?。………ああ。異神のことか。それは違う。………彼等とは…そうだな。敵対者のような関係…になる者だ。』


 閃っていう人じゃない?。

 顔は似てるけど、別人?。


『敵なの?。』

『いや、今はまだ。…と、言っておく。いつの日か敵対する時が来る存在。ただそれだけだ。』

『?。』

『お前達には関係のないこと。俺がここに来た理由は、その巫女だ。』

『ポラリム!?。』


 ポラリムの亡骸を奪いに来たのか。

 そう思いポラリムを自分の身体で隠す。


『お前が考えているような理由ではない。彼女に危害を加えることはない。約束しよう。』

『それを信じろって?。』

『ああ。信じてくれ。その巫女は十分に働いたからな。今後の人生。大切な者と共に幸せに暮らす権利がある。俺はその権利を渡しに来たんだ。』

『どういうこと?。』

『こういうことだ。』

『『えっ!?。』』


 目の前にいた筈の男の姿が消えた。

 次の瞬間、男は俺と紗恩姉ちゃんの間に現れてポラリムの胸に手を当てていたんだ。


『何を!?。』

『少し待て。』


 男の手のひらから発生したエーテルがポラリムに流れていく。

 見ると、死んで白くなったポラリムの肌が徐々に色艶を取り戻していき、血色が蘇っていく。エーテルによる肌の損傷、火傷のような痕も消えていく。


『これで良い。そこの娘。彼女の包帯を取ってやれ。もうこの娘には必要ない。』

『え、ええ。』


 男に言われた紗恩姉ちゃんがポラリムの全身に巻かれた包帯を取っていく。


『治ってる!?。』


 乱れた衣服を整えたポラリムの姿は、元気だった頃の普通のポラリムに戻っていた。


『ん…儀…童?。紗恩姉さん?。』


 そして、目を覚ましたポラリム。

 俺の名前を呼んでくれた。生き返ったんだ。


『ポラリム!。』

『ポラリムちゃん!。』


 俺と紗恩姉ちゃんは同時にポラリムへ抱きついた。


『わっ!?。びっくりした。二人とも、くすぐったいよ。』

『良いんだよ!。ポラリム!。生き返って良かったあああああぁぁぁぁぁ…。』

『ポラリムちゃぁぁぁぁぁん!。良かったよおおおおおぉぉぉぉぉ…。』


 ポラリムは不思議そうに周囲を眺めた。

 その後、俺達の身体を触り、自分の身体を触り、取れた包帯を確認する。


『私…生きてる?。何で?。傷も火傷も治ってる?。』

『そうだよ。この兄ちゃんが生き返らせてくれたんだ。』


 ポラリムが男を見る。


『青の巫女。よくぞ。巫女としての務めを全うした。現時刻を持って巫女の任を解く。今後の人生。大切な者と共に幸せに暮らすがいい。』


 男は背中を向けると、瞬きの間に姿を消してしまった。


『彼は何者だったの?。』

『分からない…けど。恩人だね。』

『私…もう、巫女じゃないんだ。神の声も聞こえないんだ。』


 ポラリムはその場で崩れて泣いた。

 巫女としての苦しみから解放されたんだ。

 嬉しさで暫く泣き続けた。


『儀童。これ何?。』


 落ち着きを取り戻したポラリム。

 俺達は男が消えた場所に不自然に置かれていた紙を広げた。

 あの男が俺達に残したモノなのかな?。

 そう思い広げた紙を見ると。


『…地図みたいだ。』

『これ、あの氷山脈じゃない?。ここが青国の中心で、こっちが海だし。』

『印がついてるね。』

『氷山脈って滅茶苦茶寒い場所じゃなかった?。』

『ええ。氷点下のニ、三十度は間違いなく。』

『ひぇ~。』

『けど、身を隠すには絶好の場所かも。青国の中心からはかなり離れてるし、もしかしたら響姉の仲間がいるのかも。』

『罠の可能性は?。』

『ポラリムを生き返らせてくれた人の残したモノだし俺は信じても良い気がする。』

『なら、そうしましょう。儀童リーダー。期待してるわ。』

『え?。俺がリーダーなの?。』

『当たり前じゃない。男の子だし。ポラリムを守る王子だしね。』

『うん。儀童は私の王子様だよ!。』

『ポラリム…くっつきすぎだよ。』

『えへへ。良いの。だって言ったよね?。大好きって。私の気持ちは伝えたもん!。』

『あらら。ポラリムちゃんは大胆だね。』

『~~~~~。も、もう、早く行こう!。お姉ちゃんの仲間を探すんだ!。』


 俺達は氷で出来た山々が並ぶ山脈。氷山脈へと向かうことにした。

 響お姉ちゃんの仲間を探して…いつか、お姉ちゃんの敵を討つんだ。

 そのためにも、もっと…強くなる。

 お姉ちゃん…俺達を見守ってて。

次回の投稿は27日の木曜日を予定しています。

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