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第28話 孤独な二人

ーーー青法詩典 第4研究施設入り口ーーー


『こんにちはー。』

『っ!お前は黒曜宝我のギルドマスター 黒璃!何しに此処へ来た!?』

『あれ?青ちゃんから聞いてない?ここに捕まってるクロノフィリアの人に会いに来たんだけど?』

『は?どういうことだ?』

『むっ!だから、言ったままだってば!矢志路君に会いに来たの!』

『嘘をつくな!何故、貴様がそのことを知っている!』

『はぁ。本当に何も聞かされてないんだね。良いよ。わかった。』

『はっ!?』


 目と目が合わさり魔眼が発動する。


『いい?あなたは何も知らない。私を認識できない。見えない。触れな~い。』

『…わかりました。私はあなた様のことを知りません…わかりません…見えません…触れません。』

『よし!よし!これで良し!』


 何事も無かったかの様に巡回に戻る警備の兵。


『よしよし。これで心置きなく矢志路君に会えるぞーーーーー!。』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『……………。』


 今、何時かな?

 お腹が空いたな。

 あれ?今何日だっけ?

 わからない。

 でも、まぁ良いか。


『……………。』


 俺は、矢志路。

 こんな世界になってもう2年が経つ。

 ゲームをしていた時は楽しかった。

 仲間もいっぱいいた。

 尊敬できる人もいた。

 でも、彼らが今何処にいるのかもわからない。


『………。』


 俺のゲーム時代の種族は『呪血夜行神族』。

 簡単な話が吸血鬼だ。

 だから、太陽の下を歩けない。

 夜しか出歩けない。

 そんなんで仲間たちを探すことなんて出来ない。


『………。』


 ゲーム時代、結構有名なギルドに所属していたせいか、この世界でも逆恨みみたいに攻撃してくる奴が多かった。

 正直、鬱陶しかった。

 静かで安全に過ごせる場所が欲しかった。

 そして、見つけたのがこの監獄だった。


『………。』


 静かだ。落ち着く。

 俺は四方をコンクリートの壁と鉄格子で囲まれた牢獄の中にいた。

 ここなら、敵に襲われてわざわざ相手をする必要はない。

 地下にあるから太陽の光も恐くない。

 ここは…天国だったんだ。


『………。』


 最近、よく来る女がいた。

 背はそんなに高くない。むしろ低いくらいだ。

 幼く見える顔立ちと真っ赤な目が印象に残った。

 その女は、来る度に色んな話を俺にしてくる。鬱陶しいと思った。


『………。』


 女は初日以来、毎日弁当を持って来るようになった。

 俺の種族は他人の血以外では空腹を満たせない。正直、迷惑だった。


『………。』


 女は必ず階段を1段ずつ降りてくる。

 一瞬だけ見える顔は何故か寂しそうだ。

 だけど、俺の顔を見ると満面の笑みに変わる。

 不思議な奴だ。少し興味が湧いた。


『………。』


 この女は何だ?


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 その日は、鉄格子とコンクリートの天井の境目をずーーーーっと眺めていた。

 昨日は天井のシミを数えてた。

 一昨日はコンクリートブロックの隙間を見つめてた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『矢志路君。初めまして。私、黒璃っていうの。これでも、黒曜宝我のギルドマスターなんだよ。宜しくね。』

『………。』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『矢志路君、こんにちは。今日はお弁当を持ってきたよ?一緒に食べよ!』

『………。』

『あれ?食欲ないかな?じゃあ、私が食べちゃうね。欲しかったら言ってね。今日は上手に卵焼きが焼けたんだー。』

『………。』

『ほらね。良い感じでしょ?えへへ。明日も作って来るね!。』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『こんにちは。矢志路君。今日は私の大切な宝物を持って来たから見せてあげる。』

『………。』

『じゃーん。これね。むかーし、お兄ちゃんに買って貰ったパンダのぬいぐるみなんだー。名前は パンタ っていうの。可愛いでしょー。』

『………。』

『あっ。卵焼き。食べてないね。お口に合わなかった?ごめんね。えへへ。私が食べちゃうから大丈夫!』

『………。』

『さて、今日のは昨日のとは違うよ。えへへ。今日のお弁当はね。じゃーーーーん。サンドイッチだよぉ。一緒に食べよう!。あっ。お腹空いてない?じゃあ、私がまた食べるね。食べたくなったら言ってね。』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『矢志路君。こんにちは。今日はね。矢志路君に似合いそうな服があったから持ってきたよぉー。ここに置いておくから気が向いたら着てみてね。』

『………。』

『あっ。サンドイッチ食べてないね。嫌いだったかな?それとも中身が苦手だった?ごめんね。苦手だったら全然残して良いからね。じゃあ、気を取り直して、今日のお弁当だね。今日のお弁当は凄いよ。じゃーーーーん。ハンバーガー!ポテトもあるよぉー。ジュースはコーラだよぉ!一緒に食べよ!。』

『………。』

『あっ。お腹空いてないかな?良いよ。置いておくからお腹が空いたら食べてね。私は朝から何も食べてないからお腹ペコペコだよ。先に貰うね。いただきまーす。』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『矢志路君。こんにちは。今日はね。私のとーーーっても大切な御守りを見せてあげる。えへへ。矢志路君だけの特別だよ。じゃーん。これねロケットネックレスっていうの。中に写真を入れられるんだ。見てこれ、これが小さい時の私で隣に写ってるのが私のお兄ちゃん。とーーーっても優しかったんだよ。でもね。殺されちゃったんだ。白蓮の馬鹿に…。』

『………。』

『あっ。でも、もう気にしてないよ?。過ぎちゃったことは仕方ないしね。暗い話してごめんね。』

『………。』

『じゃあ、今日のお昼ご飯だね。じゃーーーーん。おでーんだよ。これね。熱さを保ったまま持ち運べるんだぁー。ここ地下だからちょっと冷えてるしね。これ食べて。身体温めてね。』

『………。』

『あっ。おでん。嫌いかな。食べれそうなのだけ食べてくれれば良いからね!。』

『………。』

『お腹空いてないかな?良いよ。置いておくからお腹が空いたら食べてね。私はこれとぉこれ貰うね。いただきまーす。』

『………。』


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『こんにちは。矢志路君。今日は仲間に不信がられちゃった。私は矢志路君とお話しに来てるだけなのにね。裏切りじゃないか!だってさ。酷いよね。』

『………。』

『今日のお弁当はね。じゃーん!おにぎりづくしだよ。色んな具が入ってるんだ。しかもハズレもあるロシアンルーレットおにぎりだよ。当たりはねぇ。梅干しとぉ、おかかとぉ、シャケとぉ、ツナマヨとぉ。…いっぱいあるからね。一緒に食べよー。』

『………。』

『あっ。お腹空いてないかな?良いよ。置いておくからお腹が空いたら食べてね。私はこれとぉこれ貰うね。いただきまーす。』

『………。』

『うっ!?かっらーーーい!えへへ。ハズレ引いちゃった。これ見て辛子入りぃ。』


 コイツは誰だ?。

 何故、俺に話し掛けている?。

 何故、毎日通う?

 何故、弁当を用意してくる?。

 何故、いつも嬉しそうに話す?。

 何故、いつも…寂しそうな顔で此処に降りてくる?

 何故、いつも…幸せそう、に去って行く?


『ふぅ。お腹いっぱいになっちゃった。残りは食べて良いからね。あっ。でも、食べ過ぎちゃダメだよ。』

『………。』

『そろそろ時間だから。帰るね。また来るね!矢志路君。ばいばい。』

『…待て。』

『え?』


 俺は立ち上がり、黒璃という女の近くまで移動する。

 俺のスキル 干渉拒絶 によって鉄格子が勝手に折れ曲がり俺の身体の通り道を作る。

 俺の言葉に驚き振り返った黒璃の瞳を間近で見る。


『なるほど。魔眼持ちか。だが、脆弱。』

『あっ…。』


 スキル 隷従神の魔眼 によって黒璃の瞳から光が消え、ただそこに突っ立っている状態になる。


『お前に質問する。嘘、偽りなく応えよ。』

『…。』

『抵抗するな。心の内をさらけ出せ。』

『…はい。』


 俺はいくつかの質問をした。


『お前は誰だ?』

『…私は…黒曜宝我の2代目、ギルドマスター…黒璃です。』


『…初代ギルドマスターは?』

『私の…お兄ちゃん…黒賀(コクガ)です。』


『何故、毎日此処に通う?』

『矢志路君に…会うために…。』


『何故、俺に会おうとする?』

『好きだから…一目惚れ…でした。』


『そんなことで、俺のところに通ったのか?。』

『…お兄ちゃんに…似てたの…。』


『何故、毎日、弁当を持ってくる?』

『お兄ちゃん、美味しいって食べてくれたのが…嬉しかった…から。』


『この俺を兄とやらに重ねたか?』

『は…い…。』


『何故、いつも寂しそうに此処へ来る?』

『…夜が…怖くて…その…影響で…。』


『何故、俺に話し掛け続ける?』

『お話…した…かったから。』


『それも、兄に重ねてか?』

『違う…矢志路君と…お話…したかったの。』


『一人で喋り続けることがか?』

『矢志路君…の…目が…寂しそうに…見えた…から…。』


『は?おい。どういうことだ?』

『私と…一緒に…見えたの…。』


『………俺が?寂しそう?だと?』

『は…い…でも…少し…私とは…違って…。』


『…何だ?言え。』

『信頼できる…仲間が…いる。温かさも…感じました。私には…無いもの…だから…少し…羨ましく…思いました。』


『お前は、いないのか?ギルドマスターなのだろう?』

『…私の…ギルドの人たち…皆…裏の顔があって…何を…考えているのか…わからない…知るのが…怖い。感情の…色が…重くて…見るのが…辛くて…。』


『感情の色とは何だ?』

『私の…魔眼の…能力です…相手の…感情が…色で…わかります…。』


『それは、お前が知ることから逃げているだけだろう?』

『皆…の…私を見る目…冷たい…感じがするの…だから…私は…少し…狂っている…自由奔放な…キャラを…演じたの…。』


『…そうか。お前の家族は?』

『お兄ちゃん。』


『両親は?』

『………私たちを捨てた………。私を育ててくれたのは…お兄ちゃん…。』


 黒璃は泣いていた。

 魔眼の影響下にあっても尚、感情が表に出てきたのだろう。


『…最後の質問だ。』

『…はい。』

『お前は俺に何を求める?』

『一緒に居て欲しい。私を守って欲しい。私を寂しさから…解放して欲しい。』


『ふん。良かろう。だが、代償を払って貰う事となるが良いか?』

『…何を…払えば…良いですか?』


 この質問だけは応えることへの強制力はない。だが、より深い深層意識への問い掛けとなるため本当に望んでいる答でしか応対出来なくなる。

 この女は、躊躇わずに返答してきた。

 つまり、この女にとって 孤独 こそが最大の 敵 なのだろう。


『お前が差し出すモノは 血 だ。』

『…血ですか?』

『だが、俺に血を差し出すということはお前は俺に絶対服従となる。俺の出す命令に逆らえなくなるが良いのか?』

『…はい。私を…孤独から…解放して下さるのでしたら…。』

『ふっ、契約成立だ。首を出せ。』

『…はい。』


 黒璃は長い髪を上げ首を傾ける。


『どうぞ。』

『ああ、頂こう。』


 俺は黒璃の首に噛みついた。


『あ…。』


 血だ。血だ。血だ。

 喉を潤す血。

 旨い。美味すぎる。

 かつて口にしたことの無い濃厚な味わいが口に広がり喉を流れる。

 力が溢れてくる。


『はははは!最高の気分だ!久しぶりに本来の姿になったぜ。』


 今までの不気味な雰囲気は鳴りを潜め、垂れていた黒髪は逆立つと赤く染まり、目の下のくまは消え。力強く体格の良い肉体へと変化した。


『ふぅ。さて、契約成立だ。お前は今日から俺の奴隷となったわけだが。おっと、すまないな。首に牙の後が残ったままだった。治してやる。』

『は…い。ありがとう…ございます。』


 俺は黒璃の瞳を見つめる。


『さあ、記念すべき最初の命令だ。』

『……どうぞ。何なりと。』

『今からお前の隷属神の魔眼による暗示状態を解く。ただし、お前は暗示状態の時の記憶を全て忘れろ。』

『はい。』

『そして、黒璃よ。お前が寂しい、辛い、助けて欲しい時、必ず俺を思い出せ。』

『はい。』

『後はお前の好きにするが良い。次に俺が指を鳴らすとお前は正気に戻る。』

『はい。』

『おっと。この姿では怪しまれるか。久しぶりの力だ、残しておかねばな。』


 俺は得られた力を内に蓄え、いつもの姿へと変化する。


 パチンッ!


『あれ?私、何してたんだっけ?あっ、そうだ帰るところだった!じゃあね。矢志路君!また明日来るからね!。』

『……。』


 いつものように階段を駆け足で上がっていく黒璃。

 その顔はいつも通り幸せそうだった。


『黒璃よ。お前の願い叶えてやる。約束だ。』


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


『矢志路君。こんにちは。ってあれ?その服着てくれたの?え?え?どうして急に?』

『……。』

『あっ。やっぱり、その服似合うね。格好いい…///。』

『……。』

『え?おにぎりが…無くなってる!?…矢志路…君…食べて…くれたんだ…。』

『……ありがとう。…美味かった。』

『え?喋った?え?え?美味しかったって?そんな…そんなこと…こと…急に…言われたら…私…私…泣いちゃうよ…。うぁああああああああん。』


 これが俺と黒璃の出会いだった。

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