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第269話 響

 私の名前は(ヒビキ)

 私の性格は、真面目。融通がきかず、曲がったことが嫌い。ルールを守らない人には注意しないと気が済まない生真面目過ぎる性格…だった。

 自分でも自覚してるけど結構頑固だ。

 学園では風紀委員に所属していて、良く素行の悪い生徒との衝突を繰り返していた。

 教員、生徒会、保護者に悪事の証拠を突き付けて報告。生徒に反省させ罰を与えてもらい、時に暴力を振るう相手には幼い頃から習っていた柔術で撃退することもあった。

 いつの間にか 近寄りがたい完璧な人 というイメージが周囲に定着し、知れ渡っていた。

 

 常に独りで行動していて学園の風紀を守る。

 自分は正しく。間違った行動はしていない。

 校則は絶対。違反する人が悪い。悪い人は更正させなければならない。

 そんな私の行動は一般生徒から見れば異常だったのかもしれない。気が付けば、周囲に友人と呼べる人はいなくなっていた。

 皆、遠巻きに私を眺めるだけ。下手なことをすれば報告され怒られる面倒臭い人。そんな噂が私の耳に入るのに時間は掛からなかった。

 けど、当然のことをしている自分に誇りを持っていた私はそのことに不満はなかった。

 ただ1つだけ。ほんの少しだけ。年相応に寂しかったことを除いて。


 そんな私の趣味は意外かと思われるかもしれないけどゲームだった。

 学園の人、家族でさえも知らない私の趣味。

 世界的に人気だったゲーム エンパシス・ウィザメント。私はそのゲームにハマっていた。

 現実では真面目な女子として通っている私だけど、ゲームの中ではそういう自分の気持ちを押し殺して年相応の女の子として自由気ままに遊ぼうって決めて始めた。

 正しいことをしていてもストレスは溜まる。

 ゲームの中は丁度良いストレスの発散場所だった。


 そんな、ある日の出来事。

 その日の放課後。事件は起きた。

 放課後に帰宅前の見回りを行っていた私は、とある生徒に呼び止められた。

 その生徒が言うには、体育館裏の倉庫前で不良達が隠れて喫煙を行っているとのことだった。

 未成年の、しかも学園内での喫煙など許されない。急ぎ足で私は倉庫へと向かった。

 

 人気のない体育館裏。部活の生徒も帰宅し、残っている者も少ない。

 夕陽も傾き、もう程無くして夜の帳が下りる時間だ。

 私は倉庫の前まで着いた。けれど、そこには誰も居なかった。不思議に思い倉庫の中を確認する為に扉を開けたその時、背中を押された私は倉庫の中へと倒れ込んだ。


 暗がりの中。何が起きたのか分からなかったけど、ぼんやりとする視界で周囲を見渡した。


『っ!?。あ、貴方達?。』


 私は全身から嫌な汗を流した。

 想像したくない現実に直面したんだ。

 いや、想像はしていた。覚悟もしていた。私の行動が一部の生徒の間で気に食わないことも理解していた。だから、いつかはこんなこともあるだろうと想定し、心の準備も済ませていた。

 それだけ、自分の行動に正義を感じていたからだ。

 倉庫の中には今まで私と衝突し学園を停学になった生徒や普段から素行の悪い不良達が十数人。私を取り囲んでいた。

 倉庫の扉は固く閉ざされ逃げ場はない。

 

 結論は単純。私は報復されたんだ。

 散々、自分達の邪魔をする生意気な女として、彼等の癪に障り、今までの仕返しをされた訳だ。

 正しさを押し付けたなんて思っていない。

 ただルールを守って欲しかった。だから、厳しくもしたし、無理矢理にでも押し付けた。

 それが学園が定めたルールであり、規則であり規律だったから。生徒である以上、守らなければならない。それが校則だ。

 社会に出れば校則以上のルールの中に放り込まれる。言うなれば社会に出るための練習だ。だからこそ、ルールを守れる大人になって欲しくて彼等へ訴えたのだ。


 まぁ。この状況を見るに無駄だったみたいだけど。

 何よりも私を失望させたのは、集まっている男達の中に教員が数人混じっていたことだ。

 彼等が言うには、仕事を増やされたことへの腹癒せらしい。良い迷惑だったと何故か私を怒るのだ。

 生徒を導く立場の者が、私と同じ考えだと思っていた人達はどうやら私とは違うものを見ていたみたいだ。

 裏切られた気分だった。


 小さく溜め息をする。


 男に取り囲まれた状況でも態度を崩さない私に腹が立ったのか一人の生徒が私を突き飛ばした。

 抵抗する気なんてない。いくら私でも所詮は女だ。これだけの男に取り押さえられれば何も出来ないことなど理解している。


 男達は予め用意してあっただろうテープで私の口を塞ぎ両手を縛り上げた。

 この時点で抵抗の意を示さない私を見た男達は好き勝手に私の身体を弄んだ。

 手足を押さえられ、服を剥ぎ取られる。

 写真と動画を撮られ、その場にいる全員に襲われる。辱しめられ、玩具にされた。

 助けなんか来ない。教師側がこの場にいる以上私の味方はいないだろう。

 今までの報いだと言わんばかりに私の身体は無茶苦茶にされた。


 気が付いた時には倉庫に一人で放置されていた。

 横に落ちていた紙切れには乱雑な文字で、「写真と動画を流されたくなければ、あまり調子に乗るなブス」、みたいなことが書かれていた。


 その後の事はあまり覚えていない。

 何か色々と問題になったようだけど、私自身は転校し、自室に引きこもることになった。それ以外のことは知らない。もう興味も無かった。

 恥辱を受けたことよりも、信じられるものを失ったことに対して強い喪失感を覚えたからだ。

 正しさとは何だったのか?。ルールを守ることは間違いだったのか?。どうして、正しさを訴えた側が仕打ちを受けるのか?。

 誰に聞いても曖昧な答えが返ってくるだけ。


 私は分からなくなった。


 私は心に出来た大きな溝を埋めるためにゲームに没頭した。

 分からないことをゲームの中で探してみようと考えた。

 エンパシス・ウィザメントの中にはルールはない。ルールは自分自身で作り出すものだから。正しさを義しとするならば、私は何を持って正しいと思えるのか。私の正義とは何なのか。それを知りたかった。

 

 ギルド 緑龍絶栄へと入会。

 初音や柚羽ちゃんと知り合い。

 クロノ・フィリアに入り共に戦った。

 裏是流君という大切な恋人も出来ました。

 それは私にとってとても幸せな時間の流れでした。


 ああ。私に報復をした十数人の男どもには報復のお返しをしたので、今はもうスッキリしています。

 全員の股間へ鎖を叩きつけて破壊してやりました。私を弄んでおいて、まだ使い物になると考えていたとは実に腹立たしい。


 結果として、私は答えを得た。

 【答え】と括れるモノではないけれど、クロノ・フィリアの皆さんが教えてくれ、私自身が納得した。


 自分が大切だと思うモノを全力で守る。


 それが、答えだ。

 私が大切だと思うものは、【困っている人や弱い人を守る心】。無慈悲に晒されている人や理不尽に抗う人に手を差し伸べて共に乗り越える力になる。

 それが、私が導き出した答え。それが私の【正義】だ。


ーーー


『ここ…は…?。』


 目を覚ました私は上半身だけを起き上がらせる。

 辺りを見渡すも、そこは知らない場所。

 薄暗く。黒い柱が何本も並び、紫色に輝く灯りが周囲を灯していた。


『ふむ。珍しい。転生者か。まさか妾の領域で目覚める者がおるとは驚いた。波長があったか、それか奴の気まぐれか。どちらにせよ。稀なことか。いや、そのような言葉では片付けられんか。よもや、近しい日の中で二回目の来客だ。はてさて、何が起きておるのか?。』


 私を見下ろす長い金髪を漂わせた少女。

 外見的な年齢は完全に小学生です。瀬愛ちゃんよりも小さい。幼女と言っても差し支えないでしょう。

 そんな幼女が宙に浮いた状態でふんぞり返っている。とての偉そうに座ったポーズをとっています。私の位置からだと下半身が…女の子の大事な部分が丸見えですが…。


 彼女を見た最初の印象は眩しいだった。

 ただ、その場にいるだけなのに彼女は輝いていたのだ。全身から光を放っている。いや、全身が光っているんだ。

 幼い容姿ながら、不思議な…いや、服装どうなっているんですか?。あれ?。そうです、下半身が丸見えだということに疑問を持つべきでした。

 薄くて白い袖から伸びる長い帯状の布が、左右交差し肩を介して前後に垂れ下がっている感じでしょうか?。横からは幼い身体が丸見えですけど?。というより、布自体も薄すぎて色々な箇所がうっすらと見えてしまっている。

 しかも、幼い外見とは裏腹に妙な色気があるし。何者でしょうか?。


 それと、彼女の両脇に立つ2人の女性。

 ここからでも分かります。彼女達が纏う魔力でないエネルギー。

 私の勘違いでなければ、先程まで戦っていた神達よりも強い?。


 ………いいえ。今はそれどころではありませんね。私の身に何が起こっているのでしょうか?。それを知らなければ先に進めない。

 先程まで神と戦っていた筈、そして、私は命を落としたのに?。こうして、生きてる?。


『色々と混乱しているようだ。どれ、妾に引かれこの場に転生したお主に僅かながらの興味が湧いた。どれ少し施しをくれてやろう。』


 そう言った幼女は私の前まで移動する。


『頭の中を覗かせて貰おうか。妾の知識では聞き齧った程度のことしか知らん。苦痛はない。暫し、じっとしておれ。』


 彼女が私の額に触れる。

 同時に彼女から魔力でないエネルギーが私の中に流れ込んで来て、再び彼女に戻っていく感覚を感じた。


『ほぉ。噂には聞いておったが、仮想世界か…。よもや、機械仕掛けの玩具に仮初めの次元ごと世界を融合させるとは…なかなか無謀なことをする。一歩間違えれば現実の世界にも影響が出るだろうに…いや、この完成度…初めてではない?。ふむ…ああ。そう言うことか…だから娘が力を貸したのか。』


 何かに納得した様子の幼女。

 すると、私の顔を覗き込み意地の悪い笑みを浮かべた。


『お主も災難だったのう?。しかし、偶然か必然か。果ては意図的か。こうして輪廻の輪からの脱出をしたことだ。喜べ。』

『何を言って…それに、さっきから…貴女は誰なのですか?。』

『ん?。妾か?。ああ。そうだな。自己紹介など久しくしてなかったのでな。忘れておったわ。妾は最高神の一角【恒星神】。名を【アリプキニア】。お主の知るリスティナの母だ。』


 リスティナさんの母!?。

 え?。それって…リスティールの?。


『ここはリスティールじゃ。リスティナから話しは聞いているだろう?。お主等がゲームと称し侵略行為を行った惑星だ。今では神の影響を受け独自に進化と発展を遂げおったがな。』

『リスティール…。』

『ふむ。では、施しだ。しかと聞け。』


 アリプキニアさんは、まず私にリスティールのことを説明してくれた。

 神、神眷者、巫女、七大大国。

 現在、私が転生した世界がどういったモノかという説明だ。

 

 そして、私自身に起きていること。

 転生。異神。七つの厄災。種族。能力。神具。魔力。エーテル。

 彼女は私以上に私のことに詳しかった。

 

『どうして貴女はそんなことまで知っているのですか?。話を聞く限り貴女は表立って行動していないのでしょう?。むしろ傍観のみに徹し干渉は控えているようです。』

『妾の言葉を忘れたか?。妾は最高神だ。そうだな。お主の知る太陽があるだろう?。妾はリスティールの それ だ。お主等の中心にいる最高神の二柱【観測神】や【天真眼神】程ではないが 視る ことに関しては得意でな。リスティールの様々な出来事は把握しておる。その上で妾の力は強大でな。加担した方に戦況が偏ってしまっては奴も納得しないと思い、こうして傍観者に落ち着いておるのよ。』


 観測神?。天真眼神?。

 知らない単語が次から次へと。

 

『奴?。』

『【絶対神】の奴よ。アヤツの企みによって世界は動き始めたのだ。何処までが奴の企みか…ふむ、面白いわ。ききき。』


 説明は終わったと言わんばかりに最初にいた位置へと戻っていく。


『さて、こうして妾の時間を使い説明をしたわけだが…お主が下界に降り簡単に死んでしまってはその時間も無駄に終わることとなる。ききき。お前に力の使い方を教えてやろう!。妾は優しいからな。』

『力の?。それは?。』

『なぁに。簡単だ。お前に神具の顕現の仕方を教えてやる。』

『神具…ですか?。』

『ああ。今のお前は少々特殊な状態でな。妾に引き寄せられたせいで種族に変化が起こっておる。』


 私の今までの種族は【鋼鉄身物神族】。

 鋼鉄に身体を変化させることが出来る種族だった。


『今のお前の種族は【黄金輝神】へと変化した。』

 

 黄金…輝神?。

 

『お主が生み出す金属は妾のエーテルの影響を受け、他者のエーテルを封じることが出来るようになった。そして、神具を顕現させる条件とは、己の種族を自覚し受け入れること。その上で願え、お主は何がしたい。これから何を為す?。』

『私は…。』


 私のしたいこと…。これから…。

 アリプキニアさんの説明を聞き、この世界のことを知った今、私は何を望んでいるのか。

 決まっている。

 皆を、クロノ・フィリアの皆さんを探し出し、いつか夢見た平和で穏やかな日常を取り戻す。

 初音。柚羽さん。時雨さん。白さん。

 そして、裏是流君。

 皆と再会する。邪魔する者は一人残らず私が取り押さえる。


『それが私の定める【正義】です。』

『ききき。そうか。ならば行くが良い。お前の願いが叶うこと傍観しておるぞ。おい、響を送ってやれ。』


 後ろに控えていた2人が私を出口へと案内してくれる。


『おい。』

『え?。』


 出口であろう扉に差し掛かろうとした時、アリプキニアさんが小さく呼んだ。

 扉が閉まろうとしている最中、振り向いた私にアリプキニアが言う。


『お主、愛されているな。ずっと、近くにおったぞ?。』

『え?。何のこと?。』


 彼女の言葉は分からなかった。

 扉は閉まり、長く続く階段を下りた先には機械で構築された街が広がっていたのだった。


ーーー


 物音は感じなかった。

 だけど、僅かに…本当に極僅かな殺気を感じ取り目を覚ました。

 いる!。敵が。漏れ出た殺気を一瞬で消した反応。此方の位置を既に掴んでいる。


『お、おねえさん…。こ、こわい。』


 流石巫女ですね。今の殺気を感じ取ったポラリムさんが目を覚まし震えていた。


『大丈夫。安心して下さい。紗恩さん。起きて下さい。』

『ん…響姉さん?。』

『敵です。私の後ろに、ポラリムさんを背負って、いつでも逃げられる準備を。』

『っ!。う、うん!。分かった。』


 出来るだけ静かに指示を出す。

 二人とも良い子ですね。疑うことなく私の指示に従ってくれます。


『ん…お姉ちゃん?。』

『しーーーです。』


 私の行動を確認して周囲を見る儀童さん。

 ポラリムさんを背負う紗恩さんを見て状況を理解したようです。

 早い判断です。すぐに私の視線の先を見る。


 その瞬間。


 一瞬で天井が切り刻まれ爆発音にも似た崩壊の中から黒ずくめの男が刀を振りかぶり飛び掛かってきた。


『なっ!?。』


 驚く儀童さん。

 安心して下さい。私が皆さんを守りますから!。


『神具!。【金縛鎖封枷 シルクォード・アリプチェリシャーラ】!。』


 地下室を覆うように展開した黄金の鎖で迎い撃つ。

次回の投稿は16日の日曜日を予定しています。

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