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第267話 始まりの青国

 【青国 ブリュセ・リオ】

 科学技術が大いに発展を遂げた大国。

 機械文明の更なる進歩とエーテルや魔力の解析による進化したテクノロジーを有する海上都市。そして、その都市は大海と氷山山脈に囲まれている。

 他の六国とは異なり、閃達がいた仮想世界での町並みに近い。いや、それよりも更に未来へと進化しているように見受けられた。

 更には動力として魔力の他に電力を使用しているのも特徴だ。


 大国を取り囲むように展開された複数のエーテルのリングが絶えず回転し、外部との連絡や移動を完全に遮断している。

 更には、地中から 星の中心 にアクセスしてのエーテルの汲み上げと、宇宙空間まで伸びる発電システムによる恒星の光エネルギーをエーテルに変換する技術によって半永久的なエネルギーの供給が可能になっている。

 入国には特殊なアプローチが必要であり、国の外は常にドローンが警戒と警備を行っている。

 天気、気象は制御され、自然災害などは予測された時点で消滅、鎮静化させるだけの技術力を有している。


 舗装された道。自然発光する素材を使用された道は夜でも明るく凹凸のない平坦で安全なものとなっている。

 移動には水と電気を利用した自動車が住人の交通手段として一般化され、街灯や自販機、コンビニなどが充実している。

 建造物などは機械的で未来的に構築されており、各地点に置かれた熱源探知の機能を内蔵した監視カメラ、機械兵や機械化生物、科学兵器など多種多様な機械技術の導入によって住人の生活の安全は守られている。


 何よりも注目すべきは、国の中心に位置する巨大な建造物。雲を突き抜ける高さまで聳える巨大な塔。

 かつて、神々の侵略に使用された宇宙船。

 そこには、国の全てを制御している高性能な人工知能、高速の演算速度と無限にも近いデータ、記憶を記録出来る容量を持つコンピューターがある。

 

 青国に住む種族は…。

 肉体の大半を機械化させた半生物、機械族。

 機械の身体と人工知能を持つ機械生物。

 水中での生活を可能とする水棲生命。

 氷山地帯を棲みかとする氷魔。

 …などが棲む。


 そして、その殆どが【創造神 リスティナ】を信仰し、その恩恵を受けている。


ーーー


『はぁ…はぁ…はぁ…。うっ…。はぁ…。はぁ…。』


 街灯が照らす道の端を動く小さな影。

 全身に細かい傷を負い、覚束無い足取りで人一人を背負いながらゆっくりと進んでいく。


『ご…め………ね。わた……しの…せ……で。』

『違うよ。ポラリム。お前が謝ることじゃないよ。全部、アイツらが悪いんだ。』

『ぅん…。あ……がと………ぎ…ど。』


 ポラリムと呼ばれた少女は少年…儀童(ギドウ)の背中で涙を流した。彼女の全身に巻き付けた包帯は赤黒く変色し、言葉も絶え絶えになっている。

 そんな彼女を小さな身体で背負い。よろめきながらも歩みを進める儀童。

 

『もう少し。もう少しで隠れ家に着くから。そうしたら、その傷の手当てしよう。包帯も替えて、ゆっくり休もう。』

『ぅん。』


 動けないポラリム。

 そんなポラリムを必死に運ぶ儀童。

 どんなに急いだところで幼い儀童の力では移動の速度にも限界がある。

 彼等を青国の監視用ドローンが発見するのに、そう時間は掛からなかった。


ーーー


ーーー儀童ーーー


 苦しい。でも、ポラリムを安全な場所まで運ばないと。

 俺も、身体中痛い、けど…ポラリム程じゃない。もう1つの隠れ家に行けば…。ポラリムを休ませてやれる。それまでは、弱音を吐かない。

 智鳴お姉ちゃんや機美お姉ちゃんみたいに強くなるんだ。


『はぁ…。はぁ…。も、う少し…。』


 あと五百メートルくらいで路地裏から下水道に入れる。そうすれば、もう少し。

 そうすれば、姉ちゃんも待ってる。


『早く知らせないと…。』

『なかなか遠くに逃げたではないか?。少年。子供といえ流石は異界人とでも言おうか。』

『っ!?。』


 見つかった。追い付かれた。

 街灯の上に立つ一人の女。所々に鎧に似たプロテクターを装着したボディースーツに身を包んだ、両手には二本の刀型のデバイスを持った女。

 銀色の長い髪が月明かりに輝いていた。


『くっ!。まだだ!。』

『無駄だ。既にお前達に逃げ場はない。』

『うぐっ!?。このっ!?。』

『ぅっ!?』


 女が手を上げた瞬間。

 突然、俺の足に激痛が走った。バランスを崩してポラリムごと倒れ込む。

 何とか自分の身体を下敷きにしてポラリムが地面にぶつかることを避ける。

 

『っ…。』


 足からは出血。小さな穴。

 何かが貫通したんだ。撃たれた?。けど、目の前の女は何もしていない。手を上げただけ。

 合図だった?。他にも、もしかして…。


『察しが良いな。その通りだ。お前達は既に私の部隊が包囲している。逃げ場などない。』


 その冷たくて赤い眼差しが俺達を見ている。


『ご、ごめん。ポラリム。』

『ぅん…だ……じょ…ぶ…。』


 ポラリムを庇う。

 両手を広げて壁になる。


『一つ提案しよう。その【巫女】を引き渡せ。そうすれば、この場でのお前の追跡は止めてやろう。』

『っ!?。何言ってんのさ!。』

『この状況でお前が生き残る方法を提示した。もし、拒むのであれば、お前を殺し巫女を回収するだけだ。結果は決まっている。それでもお前が生きたいと思うのであれば私が提示した提案に乗れ。そうすれば、今は生かしておいてやる。』


 完全に勝った気でいる。

 あの女にとって俺なんか何の障害ですらないんだ。

 ああ。確かにその通りさ。

 身体はボロボロ。立ってるのもやっとさ。

 だけど…。


『お前達にポラリムを渡せば、今度こそ殺される。』

『…そうだな。しかし、その巫女はもう死に体だ。放っておいても数刻の内に死ぬだろう。早いか遅いかの違いだ。』

『お、お前達が無理矢理酷いことをしたからじゃないか!。エーテルの塊に突き落として…無理矢理、青竜を引き剥がして繋がりを切り離したクセに!。』

『ああ。命令だったのでな。そして、次は巫女としての核を摘出する。そうすれば、その巫女も生まれた時から続く苦行の責務から解放されるだろう?。』

『そ、そんなことしたら、ポラリムが死んじゃうじゃないか!。』

『ああ。それがその巫女の運命なのだろう。しかしな、それで我々を恨むのは間違いだろう?。巫女としての苦しみからの解放を願ったのは紛れもない巫女自身だ。我々はそれを叶えてやっているだけだ。』

『そんなのポラリムは望んでない!。ポラリムはもっと普通の、笑顔で過ごせる日常を望んでたんだ!。』


 俺は能力を発動した。

 触れた物質を変化させ、巨大なロボットの腕を造り出した。今の俺の魔力じゃ部分的にしか造れないけど、ポラリムに酷いことする奴等は許せない。


『ほぉ。物質の変換か。面白い能力を使う。多種多様な能力が仮想世界にはあったと聞くが、お前のそれは珍しい部類ではないか?。』

『くらえっ!。』


 巨大な腕を魔力の噴射で発射する。

 俺一人の魔力じゃ威力不足だけど逃げる時間を稼ぐくらいは出来る筈。


『ポラリム。今のうちに逃げよう。』


 俺はポラリムを背負い直し、傷ついた足の痛みを我慢し、庇いながら歩き出す。


『無駄だ。エーテルを持つ私には魔力による能力は効かない。こんなもの中身の無い風船のようなものだ。』

『っ!?。そ、そんな…。』


 俺の…出したロボットの腕があっさりと斬り払われた。豆腐みたいに軽々と…。


『何なんだよ…あのエネルギーは…。』


 魔力じゃない。知らないエネルギーを纏う女。あんなのクロノ・フィリアの姉ちゃん達も使ってなかった。


『詰みだ。大人しくしろ。』

『うぐっ!?。』


 いつの間にか接近されていた女の刀が無事だった方の足に突き刺さった。

 痛みに倒れ込む。痛い。痛い。必死に堪えても流れる涙。


『諦めろ。そして、最後にもう一度問う。その巫女を置いて去れ。そうすれば、お前の命は見逃してやる。』

『…い、嫌だ。ポラリムは、俺が守るんだ!。』


 痛めた両足で這いながらポラリムと女の間で手を広げた。

 もう、ポラリムの壁になることしか出来ないけど、最後まで足掻いてやるんだ。


『儀童………に、げて……わ、たしは…もう…じゅうぶん……だよ。』

『ポラリム?。』

『さい…ごに………あなたに、あえて…よかった。にげて。おねがい…。』

『嫌だ。嫌だ。嫌だ。ポラリムを置いてなんて行けない。いや、行かない!。』

『儀童………。ダメだよ。』


 弱々しいポラリムの言葉。

 もう喋るのもやっとの筈なのに、少しずつハッキリした言葉に変わっていく。

 最後の力を振り絞ってるみたいに。

 俺の…為に…。


『貴方は生きて。お姉さんを探すんでしょ?。こんな場所で私の為に死ぬなんて駄目だよ。だから、逃げて。お願い。』

『ポラリム…。』


 俺が下手くそに巻いた包帯の隙間から、俺を見つめる強い瞳。

 死にかけのクセに最後まで他人のことを心配してさ。


『儀童…大好きです。ありがとう。私を外に連れ出してくれて…。』

『…やっぱ。駄目だ。』

『はぁ...。はぁ...。ぎ、どう?。』


 俺は出来ない。逃げない。


『俺、馬鹿だから色々考えても正しい答えなんか分からない。けど、ここで逃げるのだけは違うのは分かる。』

『最後の別れにはならないようだな。少年。今までただ波に流されているだけだったお前の心が変わった。自らの意思で進むべき方向を定めた。そして、その方向へと向かう心の強さを手にしたようだ。見事だ。まだ幼いながら立派な男だよ。お前は。…だが。』

『儀童!。』

『うがっ!?。』


 斬られた。

 肩から腹にかけて。大量に血が噴き出して初めて自分が斬られたことを理解した。


『三度目はない。安らかに眠れ。』

『ま、だ…だよ。』

『む?。まだ、立ち上がるのか?。』

『ポラリムは俺が守るんだ。』

『ギ…ドウ…も…やめ…て。』


 ポラリムの頼みでも聞けない。

 俺はポラリムを守る。一分でも。一秒でも。

 もっと短い時間かもしれないけど…最後まで守るって決めたんだ。


『ちっ。無駄なことを。仕舞いだ。これで眠れ。』


 刀の切っ先が俺の心臓に伸びてくる。

 立ってるのがやっとの俺には防ぐことも避けることも出来ない。

 ゆっくりと感じる感覚で自分の胸に刀が近付いて来るのを見ているしか出来なかった。


 けど、一向に刀は俺に届かなかった。

 いつの間にか、刀は止まっていた。

 違う。刀に何かが巻き付いてるんだ。

 金色の…鎖?。


『このエーテルは?。まさか!?。ちっ。想定より早い接敵だ。』


 周囲から金色の鎖が色んな場所から出現していた。壁や地面。空間からも。


『ちっ。囲まれたか。』


 大量の鎖が重なって女に襲い掛かった。それは巨大な蛇のように大きくうねって女を追い詰める。


『何て頑丈な鎖か。断ち斬れん。』


 女は後退していく。

 十メートルくらい後ろに跳躍したところで鎖の動きが止まった。


『何処の誰かは知りませんが。幼い子供達を苦しめることは許しません。一度目は警告です。次は仕留めます!。』


 知らない女の人が俺の前に舞い降りた。

 紺色の髪が夜の暗闇に輝いている。

 幼さの残る外見。けど、月明かりに照らされた横顔は凄く綺麗だった。

 その背中からは安心感を感じる。この女の人は敵じゃないことを直感で理解した。智鳴お姉ちゃん達を思い出す雰囲気も俺を安心させた。

 俺達を守るように周囲に鎖が取り囲んで巨大なバリケードを作り出した。

 このお姉ちゃんも魔力じゃない力を使ってる?。

 

『ちっ。異神か…。しかも神具の顕現を済ませ覚醒に至っているだと!?。』

『どうしました?。質問をしています。答えないのであればこのまま戦闘に移りますが?。』

『………イヤ。退くとしよう。今の我々の装備では神具持ちの異神との戦闘は少々厳しい。良くて相討ち…っと言ったところだろう。』


 そう言うと刀に宿っていたエーテルを解除し踵を返して女は夜の闇へと消えていった。

 助かった?。お姉ちゃんのお陰で?。


『ふぅ…。ん?。あれ?。あ…。』


 こっちに振り向いたお姉ちゃん。

 目の辺りに手を持っていって何かを触ろうとしたみたいだけど、何も掴めずにあたふたしてる。眼鏡?。


『ははは。眼鏡、無いんでした。つい癖で。』


 こほん。と軽く咳払いをするお姉ちゃん。


『お二人とも大丈夫…では無いですね。魔力とエーテルの乱れを感じて急いで来たのですが、君は…出血が酷いね。それに…。』


 お姉ちゃんがポラリムを見る。


『だ、れ…です…か?。』

『安心してください。敵ではありません。貴女を助けます。』

『………。そ…う…ですか…。あり…。』


 そう言ったポラリムは気を失ってしまった。

 さっきあんなに頑張って喋ったんだ。きっと残った力を絞り尽くしたんだ。


『一先ず、お二人を安全な場所に移します。何処か心当たりはありませんか?。』

『それなら、ここを真っ直ぐ行って路地裏に入った所に地下に続いてるマンホールがあるんだ。そこを降りていけば俺達の隠れ家があるの。仲間が一人待っていてくれてるんだ。』

『そうですか。分かりました。急ぎます。』


 お姉ちゃんは鎖を俺達に巻き付ける。

 すると、鎖ごと俺達の身体が宙に浮いた。


『場所は分かりました。後は私に任せて少しお休み下さい。それと…良く彼女を守り、頑張りましたね。格好良かったですよ?。』

『っ!?。ぅん…。頑張った。』


 お姉ちゃんが俺の頭を撫でてくれた。

 褒められたのが嬉しくて、恥ずかしくて、少しドキドキした。

 暫く撫でられ続けると徐々に瞼が重くなってきて、意識が薄れて。


『お休みなさい。』

『あっ…待って…お姉ちゃんの名前…。』


 これだけは聞かないと。

 声にならない声でお姉ちゃんに聞いた。


『私ですか?。私は(ヒビキ)です。宜しくお願いしますね。』


ーーー


ーーー高層ビルの屋上ーーー


 昼間のように明るい夜の街並み。

 天の星を欠き消すように輝く人工的な光を見下ろしながら、彼女は自らの創造主と通信していた。


『はい。ターゲットの捕獲に失敗しました。』

『そうか。それでどうだ?。巫女の捕獲の続行は可能か?。』

『現段階では厳しいです。異神の妨害。対異神用の装備…神具を現在所有しておりません。このままの作戦継続は難しいと判断します。』

『そうか。ならば仕方がない。多少乱暴だが奴を向かわせるか。』

『奴…ですか?。危険では?。最悪、此方にまで被害が。それに下手をすれば捕獲対象の巫女まで殺害される可能性が?。』

『そうだな。ならばこうしよう。お前を残し、部隊は撤退させ、お前も傍観に徹し決して戦闘には参加するな。事の顛末を見届け、巫女の回収のみに注力せよ。』

『了解しました。』

『期待しておるぞ。シャルメルア。』

『はい。リスティナ様。』


 シャルメルア。そう呼ばれた女は、切れた通信機を見つめながら静かに溜め息をついた。

次回の投稿は9日の日曜日を予定しています。

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