第27話 六大会議 前
『はぁ…。すっきり。』
満足そうで艶やかな、恍惚とした笑みを浮かべている…つつ美さん。
そう…俺たちは全滅したのだ。
『母様。やり過ぎです。』
『あら~?。灯月ちゃんだって~途中から止めなかったクセに~。』
『何度も止めたのに悉く受け流したのは母様ですし、吸うのも止めてくれませんでした。』
『だって~。久し振りの~。男の子~だったんだもん~。』
『はぁ…。』
『ああ~。溜め息とか~酷いな~。』
『そんなこと言ってないで涼さんたちを起こすの手伝って下さい。』
『は~い。』
そんな会話が力無く倒れている俺の頭上から聞こえてきた。
そして、時間の経過とともに少しずつ体力も回復してきた。
『では~改めて~。皆さん~。初めまして~。クロノフィリア所属~。影組の~。No.17 の つつ美と申しますぅ~。宜しくねぇ~。』
『なっ!?。』
そう言うと、着ている服を捲り上げ…その、ふくよかな胸の下部が露出される。
そこには、ⅩⅦ の刻印が刻まれていた。
『ひ…1つ伺っても?』
『どうぞ~。』
『先程の行為は何の意味が?。』
『あのね~。私の種族は~。聖淫魔神族なの~。平たく言えば~サキュバスねぇ~。』
『母様は人間の精力を吸収することで魔力に変換し能力やスキルを使用することが出来ます。この庭園も母様の能力で作り出された疑似空間なのです。ですが、魔力が少なくなると不足分を補おうとして他者を襲ってしまうのです。』
『な…るほど。』
つまり、魔力が少なくなったから俺たちの精力を吸収したと。
『涼ちゃんたちのお陰で~。当分は大丈夫よ~。』
『ははは…。』
この方、怖い…。
その後、俺たちは2人に連れられて庭園の奥にあったゲートを通る。
このゲートは無凱さんの能力であり、距離の離れた別々の場所を繋げているらしい。
『ここは?』
『ここは黄華扇桜の施設です。』
『黄華扇桜!?』
何故、六大ギルドの1つの黄華扇桜に?
『黄華扇桜とクロノフィリアは裏で協力関係にあるのです。』
『そうなの!?。』
『はい。黄華扇桜のギルドマスター 黄華様と無凱様は元夫婦関係にあります。が、詳しい話は口止めされているので申し上げられません。』
『はぁ…。』
驚きの連続だ。
成る程、黄華扇桜と繋がりがあるから他の六大ギルドの情報も入手しやすいということか。
クロノフィリア…いや、無凱さんだな。流石の情報網だ。
『それで?この施設は?』
『ここはまだ幼かったり、親を亡くしてしまった子供たちを保護している場所です。母様はよくこちらで子供たちと遊んでいるので用事がある時はここに来ることを勧めます。』
『ああ。分かった。で、つつ美さんはどちらに?急に居なくなってしまったが?。』
『母様ならあちらです。』
『ん?』
灯月ちゃんの手を差し出した方を見ると子供たちが走り回っていた。
あ、瀬愛ちゃんもいる。
その内の1人がこちらに走ってきた。
『涼ちゃんたちも~。一緒に遊ぶぅ~?。』
『え?遊ぶって?何で俺の名前を?』
『母様、涼さんが混乱していますので。あと、まだ話の途中です。』
『え!?この子供がつつ美さん?。』
『は~い。』
すると、目の前の子供が動画を高速再生したみたいに身体が成長していく。
あっという間に、さっきまでのつつ美さんの姿に変わる。
『えへへ~。凄いでしょ。私~年齢を操作して~好きな時代の姿に~なれるの~。』
『これも、スキルなんですか?』
『そうだよ~。夜のお時間も~殿方の~趣味に~合わせて~。』
『母様。子供たちがいる場所でそのような話はお止めください。』
『は~い。』
つつ美さんが子供たちの方を向く。
『皆~。少し待っててね~。』
『『『『『はーい。』』』』』
その姿は皆のお母さんだ。
『この周辺の建物は全て私たちと黄華扇桜が助けた保護施設となっております。涼さん方にはこれらの建物の警備をお願いしたいと考えています。』
『成る程、言っていたのはこの施設のことだったのか。喜んで引き受けたい。』
戦う力を持たない人々を守る。
こんなに誇らしく、遣り甲斐のある役目は他に無いだろう。
『皆も良いか?。』
『ああ、俺も構わない。』
『僕も。』『俺も。』『やるぞ!。』
威神。そして、部下たち全員が賛成した。
全員のやる気が1つになり、俺はとても嬉しかった。
『後のことは、母様に聞いて下さい。』
『は~い。何でも教えちゃうよ~。』
『はい。宜しくお願いします。』
『は~い。宜しくねぇ~。』
こうして俺たちは、つつ美さんが守るエリアの警護隊となった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『わーーーーおねぇちゃーーーん。』
『待ちなさーい。シュウちゃーーーん。』
2人の姉弟が追い掛けっこをして遊んでいる。
ここは、白聖連団が支配するエリアにある、とある教会。
その地下にある少し広さのある空間。
そこを遊び場にする2人の子供、姉がスイ。弟がシュウ。という名前だ。
2人はいつもこの場所で遊んでいる。
『あっ!?』
『あ…。』
シュウが躓いて転んでしまった。
膝を擦りむいてしまったようだ。
『うぁあああああああん。痛いよぉおおお。』
『わ!?だ、大丈夫?シュウちゃん?。』
泣き止まないシュウと、心配するスイ。
『シュウちゃん。おねぇちゃんに掴まって。』
『ひっく。ひっく。ひっく。うん。』
シュウを起き上がらせ2人で支えながら歩く。
傷は浅いが広範囲に擦りむいているようで血が垂れ落ちている。
『おばぁちゃーん。』
垂れ幕のある、とある部屋の中に入る。
そこには、かなり高齢のお婆さんが椅子に座っていた。
『おやおや、どうしたのかね?おや?シュウ。その傷、どっかで転んだかね?』
『うん。おばぁちゃん。痛いよぉおお。』
『これこれ。これっぽっちの傷で男の子がぴーぴー泣くんじゃないよ。』
『ひっく。ひっく。うん。』
涙を溜めながら必死な顔で泣き止んだ。
『よぉーし。良い子じゃ。どれ、傷を見せな。』
『うん。ここ。』
『おばぁちゃん。シュウちゃん。大丈夫?。』
『大丈夫じゃて。こんな傷。ちょちょいじゃ。』
お婆さんが傷に手を翳すと掌から、青、黄、白の3色の光が傷口を包む。
『綺麗…。』
姉弟はその光に見惚れている。
傷口は瞬く間に塞がり、最初から傷が無かったように痕すら残っていなかった。
『あっ!。痛くない。痛くないよ!。』
『わぁああ。すごい!すごい!』
『おばぁちゃん!どうもありがとう!』
『ははは、よいよい。これからも怪我を恐れず元気に遊べ。』
『うん。』
ぴょんぴょんと跳び跳ねて喜ぶ姉弟。
ふと、姉のスイがお婆さんの首筋を見て言う。
『ねぇ、おばぁちゃん。それ何?』
『ん?ああ、これか?』
『うん。何が書いてるの?』
お婆さんの首筋、そこには Ⅵ の刻印が刻まれていた。
『これは、こう書いてな。6と読むんじゃ。』
『6?数字の6?』
『そうじゃ。賢いなぁ。』
『えへへ。』
頭を撫でると嬉しそうに笑うスイ。
『ああ、僕も僕も!。』
『どれ、良い子じゃ。良く痛みに耐えたな。偉いぞ。』
『えへへ。』
姉弟は撫でられたことで満足したのか元気良く飛び出していく。
『おばぁちゃーん。ありがとーーーう。』
『ばいばーい。』
その姿を見送り、再び椅子に腰を下ろす。
『さて、そろそろ出てきたらどうじゃ?』
お婆さんが奥の部屋に声を掛ける。
『あれ?ばれてた?気配は消してたと思ったんだけどね。睦美さん。』
『バレバレな嘘をつくな。無凱。何の用だ?』
奥の部屋から出てきたのは無凱だった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
また、夜が来た。
私は夜が嫌いだ。
あの夜を思い出すから。
『お兄ちゃん…。』
目に焼き付いて離れない。
お兄ちゃんが…殺された。あの夜。
『黒璃。お前は、ここにいろ!何かおかしい…頃合いを見計らって逃げろ!。』
『お兄ちゃん!お兄ちゃん!行かないで!お兄ちゃん!』
それが、お兄ちゃんの最後の言葉。
次に見た時の、お兄ちゃんは数人の男に拘束され白蓮に首を斬られていた。
『白蓮…。白蓮…。白蓮…。殺してやる!』
白蓮は、そのまま逃げるように姿を消した。
『貴様等ぁぁぁああああああああ!!!。』
私は、そこにいた男たちを皆殺しにした。
ギルドの仲間たちが駆け付けた時に目にしたのは、全身が真っ赤な返り血に染まった姿で沢山の死体の上で立ち尽くす私の姿だった。
その日から私は、 深紅の呪毒姫 と呼ばれるようになり、お兄ちゃんの後を継ぎギルドマスターへ昇進した。
その夜も私は夢を見る。
見るのはいつも同じ、お兄ちゃんの首が斬られるところ。
大好きなお兄ちゃんが殺されるところ。
『お兄ちゃん!!!。』
いつも同じ夢の場面で目が覚める。
『はぁ…はぁ…はぁ…くっ…。』
立ち尽くす私を見る。
仲間たちの眼差し。
私の魔眼は、目が合った対象に【魅了】と【洗脳】の効果を与える。
でも、もう1つ、付加効果として視認した人間の感情を色で知ることが出来る。
怒りは赤、悲しいは青、嬉しいは白という感じだ。組み合わせで更に知れる感情の幅は広がる。
あの時の、仲間たちの感情の色は…。
黒と赤と黄と青と紫が暗く重い色合いで点滅していた。
その意味は…。
『恐怖、警戒、不安…。』
お兄ちゃん…私は、独りみたいだよ。
それでも、孤独が恐いから私は狂気を演じる。
『寂しいなぁ。』
私は、ずっと泣いている。
夜になると…泣いている。
昼間で、泣けない分を泣いている。
私は、浅い眠りを繰り返す。
眠る度にお兄ちゃんが殺される。
殺される度に私は泣いた。
『誰か…助けて…。』
私は…夜が…嫌いだ。