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第259話 聖愛とレティア

『レティア…さん?。』


 何やら長い名前を聞きましたが…珍しいですね。家名などといったモノがある人物なんて。私達ですら名字を捨て名前のみを名乗っているのに。


『はい!。あわっ…と。今のは私のフルネームでした。この世界ではレティアとお呼びください。』


 この世界?。


 気を失っていたところを起こされた私の目の前には金髪の美少女がいました。

 本当に綺麗で美しい。思わず見惚れてしまう容姿と、凛とした容姿とは掛け離れた可愛らしい仕草と愛嬌のある笑顔が特徴的でした。


 彼女は大聖堂を白国から任されている最高責任者。

 全てのシスター達の頂点に位置する方です。

 つまり、私を拷問していたシスター達に命令を出していた人ということ。


 私の…敵…の筈…。


 どういうつもりで?。目的は何?。何故ここにいるのですか?。

 彼女は信用できるのでしょうか?。安心出来ない。

 警戒心を解くことが出来ない。


 それに、彼女が纏っているのは魔力ではありません。

 何よりも、魔力の使えない私では彼女の相手にすらならない。

 魔力を使えない以上、私は彼女の話に耳を傾けることしか出来ないのです。


 それに、彼女が話した この世界 とはいったい?。

 

 しかし、彼女から伝わる雰囲気。あたふたと慌てる彼女の姿は他のシスター達とは何かが違っていました。

 彼女からは何処か私達に近いものを感じます。


『警戒する気持ちは理解できます。私達が今日まで貴女にしてきたことを考えれば、突然現れた私のことなど信用できる訳はありませんから。ですが、少しでも良いです。私の話を聞いて下さいませんか?。』


 確かに、現状。彼女を信用する要素はない。

 けど、私はあまりにも自分が置かれている状況に対して無知であることも否めない。

 ここは、彼女から情報を得ることを優先した方が良さそうですね。

 彼女の言葉を信じるかどうかを二の次にしても。


『わかりました。貴女の話を窺います。聞かせて下さい。』

『はい。では、まずそちらの拘束をお取りします。』


 レティアさんが私の両手両足につけられた拘束具を外してくれた。


『首のそれは私には取れないので我慢して下さい。』


 首にある首輪。

 私の魔力を封じている原因です。

 これを取れない。

 私が暴れ出すのを警戒しているのでしょうか?。それとも、何か別の理由が?。


『あっ。勘違いしないで下さい。その首輪はエーテルを無効にする効果がありまして、エーテルを持っている者が触れると能力が使えなくなってしまうんです。エーテルで強化される肉体も解除されてしまうので破壊することも出来ず。私が触っても無理なのです。』

『エーテル?。』

『はい。順を追って説明します。』


 私と向かい合う形になり話し始めるレティアさん。


『まず、この星はリスティールと呼ばれる惑星です。多種多様な種族の棲む大きな星。最高神の一柱で、有せられるリスティナ様が創造された星です。』


 リスティール。

 リスティナさんの話に出てきていた場所ですね。

 私達がエンパシス・ウィザメントをゲームとしてプレイし侵略をしていた異世界の星…いえ、こっちの世界が現実なのでしたね。

 仮想世界で死んだ私は、現実であるこの世界で目覚めた。


『リスティールには7つの大きな国があり、その支配エリアに住む種族や技術により個別に、固有の生態系をベースに社会を築いています。今、私達の居る国は白国 ホシル・ワーセイト。属する種族は神霊、天使、使徒、聖霊などです。』


 この国が白国と呼ばれているのはシスター達の会話で知っていました。

 レティアさんは7つの大国についても教えてくれました。


『仮想世界で命を失った貴女は…貴女方は、この世界に転生したのです。』

『転生…ですか。』

『はい。そして、この世界では貴女方。クロノ・フィリアに所属していた方々のことを異界の神、通称 異神 と呼んでいます。異神が転生する先は、貴女方の有する種族が棲む場所と決められているようです。』

『そうですか。だから、私はこの場所に…。』

『この情報はリスティールの住人の知れ渡った情報です。故に、貴女のように何も分からないまま敵対され拘束されることもあるのです。』


 異神。シスター達の質問で出てきた呼び名ですね。

 なるほど。仮想世界から転生したクロノ・フィリアのメンバーを称しての呼び名だったのですね。

 そして、転生先が種族によって決まると。

 そうなると、他の方々が心配になりますね。

 黒璃ちゃんと暗ちゃんは無事でしょうか?。

 他の皆さんは?。


『異神は、この世界を侵略し滅ぼす存在として神々によって星に住む住人達に伝えられています。異神はこの世界の害悪であり、野放しにしてはやがて世界そのものが崩壊してしまうと。故に、この世界の住人は異神の存在を畏れ排除しようとしている。』

『それで、シスター達は異神の情報を私から引き出すために拷問に掛け、処刑を実施しようとしていたのですね。』

『はい。白国の王の命令でした。』

『王…ですか。』

『はい。白国の王は異神を利用して力を手にしたと聞きます。おそらく、貴女方の誰かが…。』

『捕まっている?。』

『その通りです。そして、もう1つ。貴女の首にある首輪。それは神具と呼ばれるモノです。聞いた話ですが、貴女方も仮想世界で神具を使用していたと?。』

『ええ。ですが。今は使えないようです。この首輪のせいでしょうか?。』

『そうですね。この話もしておきましょう。現在、貴女の身体には変化が起きています。』

『変化?。』

『はい。貴女は転生をしたことで魂が神へと昇華しました。そのことで魔力ではなくエーテルが使用できるようになっています。』


 エーテルは星そのものが生み出すエネルギーであり、星とそれに連なる神々が扱うモノと教えてくれた。

 魔力はエーテルという強大な力の一端に過ぎず生物がエーテルを扱えるように弱めたモノを魔力と呼称していたようです。


『その証拠にその首輪には魔力を封じる効果はありません。エーテルのみを封じる首輪です。なので現在の貴女は魔力を出せなくなったのではなく、神になったことで変化したエーテルを首輪によって使えなくなっている状態なのです。』


 エーテルの力は強大。

 しかし、この首輪はエーテルを封じ無効にする神具。

 エーテルを扱う者はこの首輪を破壊できない。そして、神具故に魔力を扱う者ではエーテルで創られた神具を破壊できない。


『その首輪を破壊できるのは、取り付けた者。聖愛の場合は白国の王の側近。それか、首輪自体のエーテル以上の力を持つ神具で破壊することです。私の神具では無理でした。貴女を解放することが出来ず申し訳ありません。』

『神具?。貴女も神具を持っているのですか?。』

『はい。私はレティア。神々が異神を滅ぼす為にリスティールの住人に神としての力を与えた者。神眷者の一人です。貴女のことや仮想世界でのことなどを教えて下さったのも私に力を授けてくれた神の一柱です。』


 え?。異神を滅ぼす?。神に力を与えられた者?。神眷者?。

 それってつまり、私の…敵?。


『っ!?。』

『あわっ!?。あ、安心して下さい!?。私は貴女に危害を加える気はありません。それより貴女をこの場から助けたいのです!。』

『………どういうことですか?。』


 私を助けたい?。神の遣いのような存在が?。何か裏があるとしか思えませんが…。


『ええ…っとですね。私は他の神眷者とは少し在り方と事情が異なりまして。』

『在り方?。』

『はい。他の神眷者は神によって力を与えられ異神を滅ぼすことを目的に行動しています。ですが、私に力を与えてくれた神様は私に自由にして良いと仰ってくれました。貴女のしたいようにすれば良いと。拘束するつもりはないと。』

『その神の名前は?。』

『宇宙の神、メリクリア様です。』

『っ!?。』


 確か神々の間でもリスティナ様に匹敵する位を持つ方でしたよね?。その方が?。レティアさんに?。それに私達との敵対の意思を与えない?。


『なので私は、貴女を助ける為に動きます。』

『で、ですが…それだと貴女の行動に疑問が生まれます。何故、見ず知らずの私を助けようなどと?。この行為自体が白国に対する裏切り行為の筈です!。』

『メリクリア様に力を授けられた際に、仮想世界での貴女方の活動や生活の様子を教えて頂きました。それで思ったのです。貴女方は普通に、平和に生活をしたいだけなのだと。神々の身勝手で生み出され、都合が悪くなり排除されようとしているなんて余りにも酷すぎますから。』

『…ええ。その通りです。』


 世界が侵食され混沌となった2年間は兎も角、クロノ・フィリアの皆さんと過ごした2年弱の時間はとても充実していました。

 あの時間をもう一度取り戻したい。そう何度も檻の中に隔離されていた時も、拷問を受けていた時も考えていました。


『ふふ。正直に白状すると、放っておけなかったんです。私と同じ近況の人を。』

『ん?。それは?。どういう?。』

『私も貴女と同じ転生者なんです。ですが、私の場合は貴女のいた仮想世界ではなく、多数ある世界そのものを内包するパラレルワールドの中にある別の世界から、ですがね。どういう理由で元いた世界から飛んだのかは分かりませんが私には前世の記憶があるんです。』


 パラレルワールド?。別の世界?。

 知らない単語が複数出てきて混乱します。


『貴女は…誰何なのですか?。』

『私はレティア。魔法の栄えた世界にある【エンパシア】という大陸にある国【エンパルメラ】から来たお嬢様です。………えへへ…自分で言うと少し照れますね。』


 お嬢様?。

 確かに仕草や言動に気品を感じますが…ああ。ダメです。更に混乱してきました。


『私のことは同じ境遇の方を見捨てられなかったお人好しとでも思ってくれれば大丈夫です。話を戻します。』


 真剣な表情に変わるレティアさん。


『貴女に伝えなければならないこと。まず、この世界で神々が扱う神具とは自らの心と精神の具現化です。仮想世界で使用していた神具は貴女自身ではなく様々な素材を使用して作られていた謂わば兵器です。ですが、神々の使う神具とは己の世界に対する在り方を認め世界の一部になることで発現します。』

『世界の一部?。』

『簡単に言うと自分の種族を受け入れて、自分に出来ること、したいことを願えば良いのです。そうすれば、自ずと神具を自分のエーテルのみで創造出来ます。』


 む、難しくないですか?。それ?。


『自分を信じろっ!。って、ことです。』

『………。』

『では、次です。貴女は今心臓を失っています。それは、神の心臓である核が代わりの働いているからです。』

『心臓を?。』


 確かに胸に手を当てても鼓動を感じない。

 ですが、何か熱い脈動を感じます。これが、核?。


『核は周囲のエーテルを吸収することと、自らがエーテルを生成する2つの機能が備わっています。核があるということが神の証なんです。』


 首輪のせいでエーテルを感じることが出来ません。


『そろそろ。時間ですね。』


 レティアさんが私の身体を両手で触れ、手のひらから温かな輝きを放つ。これがエーテル?。

 私の身体の傷が全て治癒された。

 もう痛みも感じない。


『これが私の能力です。治癒と防御。今まではシスター達に気付かれないように最低限の治癒しか出来ませんでした。』

『もしかして、毎晩、傷が治っていたのって...。』

『はい。私です。夜中に忍び込み最低限の治療を施しました。私の治療は精神的な疲労も軽減できるので少しでも楽になればと思いまして。私も立場上行動しにくく、ごめんなさい。』

『い、いえ。それよりも…ありがとうございます。けど…ここで傷跡を消してしまって良かったのかと?。』


 朝には、またシスター達による拷問が始まるだろう。

 その時に傷が消えたことを知られれば、レティアさんが怪しまれるのではないか?。


『安心して下さい。拷問は終わりです。シスター達には、これ以上情報は引き出せないだろうと言っておきましたので。それと、セラ。入ってきて。』


 レティアさんが入り口の方に声を掛けると小柄な少女が入ってきた。

 茶色の髪をおさげにした可愛らしい娘。


『紹介しますね。私の側近でお世話係のセラです。』

『セラと申します。聖愛様。宜しくお願いします。』

『これから、聖愛さんの朝の水浴びなどは彼女に任せることにしました。なので傷が他のシスターにバレることはありません。ですが、行進は行われてしまいます。その際は、出来るだけ布で身体を隠して下さい。』


 レティアさんは本当に私を助ける気なのですね。


『聖愛さん。あと、一週間だけ我慢して下さい。一週間後の深夜。私とセラで貴女を脱出させるために行動を起こします。どうか。それまでは、辛いでしょうが…耐えて下さい。』

『…はい。ですが、レティアさんは本当に大丈夫なのですか?。危険では?。その…白国の王の命令なのですよね?。シスターや王を裏切ることになってしまいますが?。』

『大丈夫ですよ。私のことは気にしないで下さい。バレるつもりもありません。ねぇ。セラ。』

『はい。レティア様!。セラ。頑張ります。』


 両拳を握り、レティアさんにアピールするセラ。


『ええ。一緒に頑張りましょうね。』


 セラの頭を撫でるレティアさん。

 なんだか、姉妹みたいですね。


『最後に1つだけ。聖愛さんに伝えておかなければならないことが。』


 真っ直ぐ私を見つめるレティアさんの表情に一瞬怯んでしまう。


『は、はい…何でしょうか?。』

『先程、貴女の首の首輪は神具とお伝えしました。』

『え、ええ。』

『その首輪は青国から七大国家に配られた神具です。そして、その神具は………異神の核を加工して創られ、量産された。』

『っ!?。それって…まさか…。』

『………はい。お心苦しいですが…異神の…貴女の仲間の中で誰かが命を散らしたということです。』

『……………。』

『その方は、転生した異神の中で最初に神具を顕現させた人物です。誰の手によってかは分かりませんが、神眷者の誰かであることは間違いないと思います。』


 その言葉の後のことは良く覚えていません。

 気付くとレティアさん達は牢獄から消えていて、日が昇り掛けていました。

 セラさんが時間になって再び現れるまで、私は呆けていたのです。

 誰かが…仲間の誰かが死んだ。

 いいえ。誰かではありません。この首輪から伝わってくる感覚。覚えています。

 いったい。彼女に何があったのでしょうか…。


 その日から夜になると、決まった時間にレティアさんが牢獄に訪れるようになりました。

 仲間が殺され神具の材料にされたことに傷心していた私を元気づける為に自分の過去話をしてくれるのです。


『私はね。何度も人生をループしてたんです。魔法学園…の高等部2年生からの人生を…。』

『人生をループ?。』

『転生の繰り返しとでも言いましょうか?。どの人生も一生懸命に生き、天寿を全うし生涯を閉じました。そして、再び17歳の年に戻るのです。』

『どうして?。』

『分かりません。ですが。辛いことなどありませんでした。各々の人生で異なる出会いや別れを経験し、それによって起こる問題や壁を乗り越え、最後には幸せの結末を迎えたのです。満足しています。』

『…そうだったのですね。不思議な現象…とでも言いましょうか?。しかし、では何故、そのループを抜け出し、今はこのリスティールへ転生したのでしょうか?。』

『それも、分かりません。偶然か、何かの意味があるのか。知る術もありませんしね。』


 日を重ねるに連れ、互いに自分のことを語り合いました。

 出会った人々。起きた出来事。

 気付けば気心の知れた友人とも言える存在となっていたのです。

 レティアさんの来れない時はセラさんが来てくれ私の話し相手になってくれました。

 彼女は病気の両親の為に大聖堂で働く見習いでした。

 その話を聞いたレティアさんは2つ返事で癒しの力を用いてセラさんの両親の病を治癒し、以降、レティアさんの侍女として働いているということだった。

 レティアさんを見つめるセラさんの視線は憧れや心酔に近い感情が含まれているようでしたし。


 そして、7日が過ぎた。

 ついに、脱走の日を迎えたのです。

次回の投稿は12日の日曜日を予定しています。

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