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番外編 閃の孤独な休日

 まだ空が薄暗く、日が昇るまで2時間くらい掛かるだろう時間に目が醒めた。

 いつもの習慣ってやつか、目覚ましをセットしなくても自然と同じ時間に起きてしまった。

 二度寝…とも考えたが、折角だ。いつも通りに過ごすか。


 不思議なことに今日は無華塁も累紅も都合が悪いらしく早朝のランニングは中止となった…のだが、毎朝同じ時間に起きているせいで身体が自然に覚醒してしまった。

 夜、部屋に忍び込んでくる奴もいなかったし、久し振りに目覚めるまで熟睡してしまった。

 なので、眠くない。

 いつの以上に寝たわけだから。


『起きるか。』


 身体を起こし洗面所へ。

 少し温めの水で顔を洗い。歯を磨く。

 軽く寝癖を整えて、タオルで顔を拭く。

 さっぱりした気分で、スポーツウェアに着替えた。

 まだ、朝方はひんやりと寒い季節。

 身体が温まるまでは上着を着ておこう。


 部屋を出て、外へ。

 ランニング前のストレッチ。

 まだ眠っている身体を伸ばし叩き起こす。


『よし、行くか。』


 いつもは決まったルートを無華塁達と走るのだが、今日は一人だし海岸の方まで行ってみるか。


『はっ…。はっ…。はっ…。はっ…。はっ…。』


 一定のペースで走る。

 神になってから人間だった頃とは比べ物にならないくらい体力が増えた。

 いや、エーテルを連続使用しない限り星そのものから自然にエーテルが吸収され自動で回復してしまうせいで、普通に走っても疲れることがない。

 なので、多少本気で走る。

 

『はっ。はっ。はっ。』


 移り変わる自然の風景。

 身体を切り抜け過ぎていく風。

 徐々に明るくなっていく空。時間経過による自然の変化を全身で楽しみながら走り続ける。


『はっ。はっ。はっ。はっ。はっ。』


 気付けば、あっという間に海岸に到着していた。

 走りづらい海岸の砂浜をリズムよく走っていく。


『ふぅ…。まぁまぁ、だな。』


 足を止め。水平線から昇る朝陽を眺める。

 早朝の海岸には誰もいない。

 静かで波の音と自分の呼吸だけが聞こえる。

 まるで、この広い世界に自分だけしかいないような、そんな感覚に浸る。

 誰かと走るのも楽しいが、たまに一人で走るのも悪くないな。


『さて、戻るか。』


 深呼吸し、来た道へと走り出す。


『489…490………498…499…500っと。』


 ランニングを終え部屋に戻ると腹筋、背筋、腕立て、スクワットを500回ずつこなす。

 良い感じに汗をかいた。

 そのまま、シャワー室へ向かう。


『はぁ。すっきりした。』


 汗を流し部屋着へと着替える。

 何故か今日は全員に用事があるとかで、俺の予定はポッカリと空いてしまった。

 つまりは、することがない。

 いつも恋人達の誰かが部屋にやって来ては色々なことを一緒にしているせいか、相手に合わせることが普通になってしまっていた。

 当然、誰かしらがやってくるので俺自身の予定をいれると訪問してきた奴と過ごせなくなってしまうから自然とそうなってしまった。

 で、今日はその誰かしらも来ないことが決定している日だ。

 色々、悩んだ末に自分のための時間を使うことにしたのだった。


 ということで、まずは…。


『玉子を2つ。』


 フライパンの上に落とす。

 ジューーーっという音。そのまま蓋を被せた。

 米もそろそろ炊きあがる。

 適当に野菜を切って、睦美に教えて貰ったドレッシングを混ぜる。


『そろそろか。』


 フライパンの上の蓋を取り、焼き加減を確認。

 良い感じに玉子の下のベーコンが焦げている。少し焦げてパリパリになったくらいが旨いんだよな。

 香ばしい匂いが空腹の腹を刺激する。

 出来上がった目玉焼きを皿にあけ、サラダと共にテーブルに運ぶ。

 タイミング良くご飯も炊きあがった。


 お椀に豆腐とネギの味噌汁を注ぎ。納豆をとかす。

 ホイル焼きにした魚を取り出し、さっと醤油をかける。


『さて、出来た。腹減ったぁ~。』


 テーブルの上に並んだ朝食。

 ベーコンエッグ、魚のホイル焼き、味噌汁、サラダ、納豆。

 まぁまぁな出来だな。食欲がそそられる。

 腹もなりっぱなしだ。


『いただきます。』


 一人で食べる朝食も久し振りだ。

 普段は料理が出来るメンバーが作ってくれるから自分ですることなんて殆どなくなってしまったが、これはこれで良いな。

 あっという間に朝食を平らげる。


『さてと。』


 次は洗濯機に汗で濡れたランニングウェアを入れて回し始める。

 その間に朝食で使った食器を洗い、部屋に掃除機をかける。

 普段から自分でもしてるし、灯月達が俺のいない間にやってしまうからか、あまり汚れていない。

 智鳴に至っては埃1つないくらいピカピカにしてしまうしな…。

 現に窓の溝や、天井のライトの裏、棚やテレビの裏にも埃がない…。

 よって、軽く掃除機をかけるだけで終わってしまった。


 これまたタイミング良く、洗濯機も終わりを告げる音を鳴らした。

 洗濯物を乾燥機に入れて、空いた洗濯機に次は下着とトレーニングシャツを入れ再び回す。


『よし、時間はあるしゲームでもするか。』


 昔にやっていたゲームを取り出し、テレビに接続。そして、ゲームを起動!。


 こんなものまで出せるんだから【創造の力】には感謝だな。


 画面には懐かしい音楽と共に懐かしい映像が流れる。

 当時、流行っていた格闘ゲーム。

 灯月や基汐達とよく遊んだ思い出が蘇る。


『腕は鈍ってないな。』


 難易度 ハード。

 当時最弱と呼ばれていたキャラクターでラスボスまで持っていく。


『このキャラの対空技使えなさすぎじゃね?。発生は速いけど、ダメージ判定狭すぎだろ!?。あたんねぇ…。隙も多いし、当たってもダメージ量が少なすぎる。技なのに普通の強攻撃の方が強いくらいだ。』


 どうでも良いし、慣れた今なら問題ないけど。

 まだゲームを始めたばかりの時、左向きでの対空コマンド、←↓↙+Pって難しかったよなぁ…。

 今の俺からしたら何で出来なかったんだろって思うけど。当時は目茶苦茶練習したなぁ。


 そんなことを考えながらラスボスを撃破。

 一定の得点を稼いだことで裏ボスとのご対面だ。

 開始直後にガード不可能な画面全範囲の必殺技を使ってくる。当然、成す統べなく体力ゲージの半分は消え去る。全ての攻撃が防御不可。仕舞いにはスーパーアーマーまで持っている。化け物だ。


 そんな裏ボスを記憶を頼りに撃破する頃には11時30分を過ぎていた。

 

『やべ、やり過ぎた。昼飯食わねぇと。って、洗濯も終わってんじゃん!?。』


 ゲームに集中しすぎた。慌てて乾燥機の中の物を取り出し、洗濯機の中の物を乾燥機に突っ込む。

 取り出した服を綺麗にたたみ。タンスの中へ。

 毎日着るからって出しっぱなしにしていると、夢伽や智鳴に怒られるからな。


 キッチンへ向かい簡単な昼飯を作る。

 下準備を終え、フライパンに火をかける。

 バターとオリーブオイルを熱して細かく刻んだニンニクを投下。みじん切りにしたニンジンと玉ねぎを入れてピーマンを入れて炒めて。エビっぽい味の生物を投入。


 何せ、リスティールにはエビが生息していないからな。流石に食べる為だけに生物を生み出すのもどうかと思うし…。


 あとは、コンソメ、塩、コショウで味をつけて。

 更に炒めて完成!。


『おっし。エビっぽい生物のピラフの出来上がり。お供にワカメとネギのコンソメスープだ。』


 男の一人飯なんてこんなもんで良いだろう。

 早速、頂こう。


『いただきます。』


 モグモグ。あぐあぐ。

 うん。我ながら上出来だ。

 あっという間に完食し、洗い物も済ませる。


『さて…と。』


 俺は仁さんに貰ったインスタントのコーヒーをカップに注ぎ、氷姫から借りている本を持って椅子に腰掛けた。

 午後は読書と洒落込もうか。

 最近、忙しかったせいか趣味に時間を使うことなんてなかったからな。

 ゆっくりと過ごすのも悪くないだろう。

 そうして、静かな時間が過ぎていく。

 本の内容は、良くある推理もの。

 犯人を想像しながら読み進めていく。

 氷姫がオススメと言っていただけあって終盤になるに連れて怒涛の展開だった。


『まさか、犯人が主人公自身だったとは…それを気付かさず物語が展開していく。推理しているように見せ掛けて証拠隠滅をしてたとか。てか、本当の主人公が恋人の方だったのか…。これは読めなかったな…。』


 読み終わると同時にカップの中のコーヒーも無くなっていた。


『ん…っと。』


 身体を伸ばして立ち上がる。

 集中していたからか時間が結構経っているな。

 午後4時。


『さて、どうするか。風呂でも入っとくか?。』


 少し早いがゆっくりと入浴でも良いかも。

 早速行動。てか、ここも掃除が行き届いていらっしゃる。水垢一つないや…。

 洗面所にある大きな棚の中には恋人達が各々に置いてあるシャンプーや歯ブラシが並んでいる。

 凄いよね。俺の部屋なのに泊まる気まんまんだもの。自分達の部屋だってすぐ隣だった数秒で行ける距離にあるのにな。


 お湯を張り準備完了。


『さて。入るか。』


 頭と身体を洗い。

 程よい湯加減の湯船に浸かる。


『はぁ~。生き返る~。』


 無凱のおっさんに作って貰った屋根が自動で収納され露天風呂にもなる部屋の風呂。

 足を伸ばせる広さに加え、ボタン1つでジャグジーバスにも電気風呂にも、水風呂にも出来る優れものだ。

 恋人達と入ることも考えてそれなりの広さもあり、今は俺一人での貸し切りだ。


 何か…寂しいな…。


 いつも誰かと居ることになれてしまったせいで、独りでいることに孤独を感じてしまう。

 俺、こんなに弱かったっけ?。

 てか、こんな性格じゃないだろう…。


『はぁ…。』


 取り敢えず1人の入浴を満喫するけど。

 心のざわめきは取れなかった。

 

 入浴後。

 着替えを済ませ、夕食を何にするか考えていた。

 いつもは賑やかな時間帯。

 しーーーん。と、静まり返った部屋の中で改めて実感した。


 独りの時間もたまには良い。

 けど。俺はやっぱり皆で賑やかに過ごす日常が好きなんだと。自覚した。

 自覚したらしたで、途端に寂しくなってきたな。


『はぁ…情けねぇ。何歳だよ。俺は…とっくに大人だろうに寂しいとか。てか、神になってんのに、今更こんなことで意気消沈してんのか俺は…。何やってんだか。』


 コンコン。

 そんな羞恥に震えていた時だった。

 部屋の扉がノックされる。


『誰だ?。てか、皆忙しいから今日は会えないって言ってなかったっけ?。』


 だからこそ、今日一日を一人で過ごした訳なんだが。


『誰だぁ?。』


 扉を開けた俺の目の前には。


『お兄ちゃん!。今、時間大丈夫ですか?。』

『少しお時間を頂きたいのですが?。来て頂きたいところがあるんです。』

『お兄さん?。元気がないようですけど?。大丈夫ですか?。』


 瀬愛と翡無琥と夢伽が並んでいた。

 今日初めて出会う仲間達。恋人達。俺の家族。

 

『きゃう!?。』

『お、お兄ちゃん?。』

『ど、どうしたんですか?。』


 無意識に三人を抱き締めていた。

 三人の身体の温かさを感じ、心が満たされるのを感じた。


『こっちですよ。』

『皆さんが待っています!。』

『えへへ。驚きますよ~。』


 三人に手を引かれ食堂へと連れていかれる。

 理由は秘密とのことなのだが、どうやら俺はこの後、驚くことは確定のようだ。


 食堂の扉が瀬愛と翡無琥によって左右に開かれる。

 食堂から溢れる眩しい光と共に聞き覚えのある破裂音と紙吹雪が舞った。


『『『『『閃。誕生日。おめでとう!!!。』』』』』

『え?。』


 色とりどりに飾り付けられた食堂。

 テーブルに並べられた数々の料理は俺の好物ばかり。

 クロノ・フィリアのメンバーを含め、この世界で仲間になった全ての連中が笑顔で迎えてくれた。


『にぃ様。お待ちしてました。お誕生日おめでとう御座います!。今日1日、お会いできなくて凄く寂しかったです。』

『閃。お誕生日おめでとう。閃の為に沢山飾り付けしたんだよ!。』

『うん!。閃ちゃんに喜んで欲しくて頑張っちゃった!。』

『私も。頑張った。』

『旦那様。お誕生日おめでとう御座います。腕に縒りを掛け、旦那様のお好きなモノを用意させて頂きました。』


 マジか。こんなに盛大なパーティーを?。

 企画して?。俺の、誕生日。


『そうか…忘れてた。』

『ははは。閃君は皆の誕生日は率先して準備してくれるのに自分のことは忘れてるみたいだったからね。皆で話し合って決めたんだ。サプライズしようってね。』

『おっさん…。』


 リスティールには暦がなかった。

 だが、四季もあり。1日の長さも、仮想世界と殆んど変わらなかった。

 だから、仮想世界と同じように暦を作ったんだ。

 僅かな違いはあるけど誤差の範囲だったしな。

 そして、その暦通りなら今日は俺の誕生日だ。

 正確には、俺が俺としての自覚を持ち、天蔵の家に引き取られた日付けを誕生日にしたんだっけな。

 

『そうか…。』


 皆、俺の為に…。

 さっきまでの孤独感と仲間達からの温かさが同時に押し寄せる。

 マズイな。らしくない。

 涙腺が緩んできやがった。こんな大勢の前で泣きたくないんだが…恥ずかしいし。


『ふふ。どう?。先輩?。感動した?。』

『閃さんは私達の誕生日も祝ってくれました。』

『お返ししたかったんだよ。ずっと。』

『いつも。貰ってばっかりだったからさ。』

『はい。私もお菓子を沢山作りました!。』

『お兄様、お誕生日おめでとう御座います。』

『いつも。ありがとっ!。閃君!。』


 恋人達が優しい笑みで迎えてくれた。


『あ。閃。感動してる。』

『あらあら。閃ちゃん。感動で泣いちゃうかもしれないわ。』

『にぃ様の泣き顔!。貴重です!。ぜひ、私の胸でお泣きください!。沢山濡らしてくれて結構ですので!。』


 あ。無華塁にバレた。

 母さんにも、灯月に至っては両手を広げて待ってるし。

 泣かないように耐えてるところなのになぁ。

 ああ。くそっ。でも、やっぱ俺は仲間達と一緒に騒いだり、遊んだり、助け合ったりする方が良いな。

 こんな時間がずっと続くように…これからも頑張んないと。


 けど。やっぱ、男が泣く姿を見せるのは恥ずかしいから。

 俺は女の姿へと変化し。


『皆、どうも。ありがとう。凄く嬉しい。』


 と。女の姿で正直に気持ちを伝えたのだった。


『あ…逃げた。』


 と。小さな声で何人かが言ってたけど、気にしないでおこう。

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