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第256話 睦美。キレる。

『いた!。さっきの奴等じゃ!。』

『ああ。あそこの岩場の陰に隠れよう。』


 翼を取り戻し飛行が可能になったワシは、基汐と共に家族を拐った不届き者共を追った。

 荷車で移動している奴等では、渓谷の入り組んだ。細道はさぞ移動しづらいことじゃろうな。

 現に、すぐに見つけることが出来た。

 むしろ良くこの渓谷を抜けワシ等の住む場所までやって来れたと感心の心すら湧いてくるくらいじゃ。

 まぁ。だとしても今回の行い。ワシは絶対に許さんが。


 奴等の死角。

 大きな岩肌の陰に身を隠す。

 どうやら奴等。この場所で一夜を越すようじゃな。夜営の準備をしておる。


 基汐に聞いた奴等の情報。


 奴等の組織名は華桜天。

 赤国の三大勢力の一角にして、赤国の経済面を取り仕切る巨大企業。

 主に、自国、他国からの取り引きや裏流通で流れてきた特異なアイテムの売買を扱い。時には今回のように稀少な種族を自ら捕え、各国へと売り捌く手段も取るという。危険な集団。

 他国と比較しても最大数の種族が住み、広大な土地を有している赤国を事実上、支配下にしている勢力の1つじゃ。

 そして、あの中心にいる女がリーダーか。

 仲間からは 楚不夜 と呼ばれておったな。

 煙管を咥え、部下が働く様子をつまらなそうに眺めておる。

 世話しなく多くの部下に指揮を飛ばしているスーツ姿の女。

 その横で刀を抱えながら寝ている侍風の男。

 楚不夜を含めたこの3人がエーテルを操っている。要注意であり、危険人物か。


 ワシ等が戦った神々、して、神になったワシ等以外にもエーテルを操る者が存在することを聞いた。

 それが神眷者と呼ばれる者達。

 神々から異界の神であるワシ等を倒すことを命じられた存在。この世界でのワシ等の敵だ。

 その神眷者が、あの者達か…。


 様子を窺う。


『っ!?。母様…。父様…。』


 鉄板のような薄い板に身体を大の字で固定された母様と父様。

 衣服を剥ぎ取られ裸の状態で拘束されている。

 周囲には数人の黒服。その手には、血で真っ赤に染まった様々な刃物が握られていた。

 耳を澄ませ会話を盗み聞く。


「30分経過した。おい。次だ。」

「っ!?。や、やめて!。来ないで!。」

「や、やめろ!。僕を!。僕にしてくれ!。妻には…やめてくれ!。妻には手を出さないでくれ!。」

「了解。へへへ。ごめんね。やっぱ、悲鳴なら男より女の方が良いよな?。それではまた失礼しますよ?。奥さん。」


 ノコギリのような刃物が母様の腕を何度も削り切断した。


「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!。あがっ…。あ、あぐぁ…。」

「んん。良い声だ~。次は足ね。」

「んんんんんんんんんん!?!?!?。あ…あ…。あ、あ…。」


 声にならない悲鳴を上げ、母様の片足は切断された。


「反対の腕も足もいっちゃいましょう!。」

「いだいっ!?。やめ…ぎゃっ!?。も…あぐっ!?。や…ぎゅあっ!?。あっ…。あ…。」


 全ての四肢が切断された頃。母様は全身から様々な体液を垂れ流し気を失った。

 直後、身体は炎に包まれ意識とは関係なく再生を始める。


「よし。また、30分の休憩だ。切断した手足は、またすぐに灰になる。余すことなく瓶詰めにしろ。」

「はい!。」

「さて、旦那さん。次はアンタだ。再生した手足をいただくぜ。」

「ぐっ…もう…解放してくれ…僕達が何をしたというんだ?。」

「何もしてないさ。ただ、そうだな。稀少種の不死鳥に生まれちまったことを後悔しな。安心しろよ。不死鳥だからな死にはしねぇ。永遠にその身体で金儲けさせて貰うだけさ。不死鳥の部位は高く売れるんだわ。」

「それじゃ。その身体。頂戴します。」

「ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああ!?!?。」


 父様の四肢が切断されていく。

 酷すぎる…。何で…こんなことを…。


『睦美…あっちにも別の男女が張り付けにされてる。』

『っ!?。』


 基汐が指差す方を見る。

 そこには座った状態で背中を上にした形で拘束されている伯父様と伯母様の姿があった。

 父様と母様同様に衣服を着ていない。

 これじゃあ、ただの家畜のようではないか。

 数人の黒服に翼を固定され羽を毟り取られている。全ての羽を取り除かれると再び再生し翼が蘇り、再度、毟り取られるの繰り返し。

 不死鳥の羽は貴重だと聞かされている。

 持っているだけで体力、魔力、疲労感を回復させ自然治癒力も高めてくれる。

 同じく不死鳥の身体から発生した灰は、ふりかければどんな傷も即座に完治させられる万能薬と言われている。

 それを奴等は高値で売買、他国との取り引きに利用するつもりなのだと。


『おのれ…。』


 身を乗り出そうとした、その時だった。

 聞き覚えのある声が耳に届いた。


「離せ。離せ。パパとママをいじめるな!。おじさんとおばさんに酷いことするな!。」

「暴れるんじゃねぇ!。餓鬼が!。まだ、お仕置きが足りねぇようだな!。」


 あれは…。フェリティス…。無事だった…。

 一瞬の安堵も束の間。暴れるフェリティスの頬を黒服が持つ鞭が叩き伏せた。


「ぎゃっ!?。」

「何度も。何度も。暴れやがって。子供の不死鳥じゃ。取れる素材の効果が薄いからって痛い目に合わずに済んでるのによ。脱走するわ。噛みつくわ。逃げ回るわ。俺の手を煩わせるんじゃねぇよ!。」

「あぐっ!?。いだい!?。やめて!?。」

「商品だからって傷付けないと思ったら大間違いだ。お前も不死鳥だ。多少の傷はすぐに治るだろ?。」


 何度も。何度も。鞭で打たれ続けるフェリティス。

 数分後、全身から血を滲ませ動かなくなった。


「さて、仕上げだ。お前の両親と同じ痛みを味わえば少しは大人しくなるだろう?。」


 ノコギリのような刃物を取り出しフェリティスへと近づいていく黒服の男。


 その瞬間、私の中で何かが弾けた。


『基汐さん。申し訳ありません。』

『睦美?。』

『この場は私にお任せください。お手数をお掛けしますが、基汐さんは周囲の警戒をお願いします。宜しいですか?。』

『え?。あ…はい。どうぞ。いやいや、急に口調が!?。』


 私は基汐さんの了承の言葉と同時に飛び出した。


ーーー


ーーー


『神具は失われたって言ったけどな。完全に消え去った訳じゃないみたいなんだ。』

『どう言うことじゃ?。現に神具を取り出せぬが?。』

『そうだな。簡単に言うと、今まで使っていた神具は俺達の中から消えたけど、神具自体を失った訳じゃないんだ。』

『ん?。良く分からぬが?。』

『見せた方が早いな。神具!。』

『な。何じゃ!?。その姿は?。それが…基汐の神具か?。じゃが、今までのお前の神具は、確か…。』

『ああ。仮想世界で使っていた俺の神具は竜族の秘宝だった水晶だ。けど、今は違う。この世界で新しい、自分自身の神具を創り出せたんだ。』

『自分自身の神具…。それは、どの様に手にしたのじゃ?。』

『俺も トゥリシエラに教えて貰ったことだけに、殆ど感覚で扱えるようになったんだ。だから、教えられた言葉通りに伝える。自分の種族を信じ、種族の特性を深く理解し、受け入れる。自身が世界の一部であることを自覚して…願う。』

『願う?。』

『自分が何をしたいか。何を目指すか。結果を定め、その為にどんな 力 を欲するか。自分の理想を現実へ投影して願うんだ。自分はこの力が欲しいってな。そうしたら、いつの間にか形になってた。』

『ワシの願いか…。欲する力…。不死鳥の在り方…。』


ーーーフェリティスーーー


 痛い…。痛い…。

 身体のあちこちが痛い…。

 この場所に連れて来られて、パパとママも、おじさんとおばさんも…ずっといじめられてる。何回も、何回も。傷が治る度にまたいじめられて…。

 どうして。僕達が…。こんなことされるの?。どうして…。


 倒れてる僕に近づいてくる男の人。

 何か持ってる?。

 っ!?。あれ、おじさんとおばさんの手と足を切ってるヤツだ。

 あれで、僕を?。やだ。痛いの嫌だ。

 来ないで…。来ないで…。

 願っても、男の人の足は止まらない。

 薄気味悪い笑みを浮かべて、僕を切ることを楽しもうとしてる。


『こ、ないで…。』

『だめだね。お前は一度痛い目に合うべきなんだわ。分かるか?。悪いことをしたら罰を受ける。これ、世界の常識だからさ?。お前もちゃんと罰を受けないとな。』

『嫌だ…嫌だ、助けて…。』

『無理無理。助けなんか来ないって。いくら叫んでも無駄なんだよ。そぉら。まずは腕から切っちまおうか!。』

『っ!?。助けて…お姉ちゃぁぁぁあああん。』

『ええ。勿論です。私の可愛い弟。貴方を傷付ける者は私が許しません。』


 僕の大好きな人の声が聞こえた。

 それに僕の身体を抱きしめてくれる温かい身体。


『お、ねえ…ちゃん?。』

『助けに来ました。良く頑張りましたね。偉いですよ。フェリティス。』


 いつもと変わらない優しい声。

 優しい笑顔で微笑んで僕を見てくれてる。

 お婆さんみたいないつもの口調とは違う、丁寧な言葉使いに胸がドキッとした。

 けど、それ以外はいつものお姉ちゃんだ。

 頭を撫でてくれる手が心地良い。

 1日しか経ってない筈なのに、もうずっと会ってなかったみたいに感じる。


『お姉ちゃん!。』

『はい。フェリティスのお姉ちゃんですよ。もう安心して下さい。私が、全てを終わらせます。』


 立ち上がるお姉ちゃん。

 その視線は、突然現れたお姉ちゃんの登場に驚いている黒い服の男の人に向けられている。

 お姉ちゃんの後ろ姿。

 良く見ると背中を大きく斬られていた。

 

『お姉ちゃん!。怪我してる!。僕を庇ってくれたから…。』

『ええ。ですが。大丈夫です。この程度、傷には入りません。』

『っ!?。炎?。』


 お姉ちゃんの傷口に炎が灯りあっという間に傷が消えちゃった。僕達みたいに。

 お姉ちゃんが本当の不死鳥になったんだ。

 黒かった髪も根元の黒から先端に行くに連れて赤くなっていく。僕達と同じ色になってる。


『お前は確か…不死鳥の隠れ家のところにいた人族?。生きていたのか?。いや、その治癒力…まさか、不死鳥だった?。だが、何故昨日は再生しなかった?。』

『ええ。不死鳥ですよ。ですが。貴方と問答する気は御座いません。貴方は私の大切な弟を傷付けました。万死に値します。』


 炎の翼が広がる。

 綺麗な…真っ赤に燃えるお姉ちゃんの炎。

 

『私は願った。大切な人達を守ると。神具…発動。』


 お姉ちゃんを中心に何個も炎の輪っかが現れた。


『どんな無慈悲な暴力からも。【極炎生命輪】…。』


 炎の輪っかが広がって僕達と男の人を包んだ。燃えてるのに全然熱くない。

 これ、何なの?。


『目に映る全ての人を守り抜く力が欲しいと。【フェニキシル・ソル・フェフィア】。』

『こ、これは!?。っ!?。何!?。身体が燃える!?。小娘!。何をした!?。』


 お姉ちゃんが手を男の人に向けた瞬間。

 突然、男の人の身体が燃え始めた。

 僕達を取り囲んでいる同じ炎が男の人を燃やしてる。何で?。全然熱くないのに?。


『消えない!?。地面を転がっているのに!?。そうだ!。水だ。すぐそこに水の入った樽があった筈!。』


 ゴロゴロと地面を転がる男の人。

 何度も燃えてる炎を消そうとしているのに炎はより勢いを強めて燃え盛る。

 諦めない男の人は近くにあった樽まで走って行き、一心不乱に樽の中に頭から飛び込んだ。


『無駄です。』


 お姉ちゃんの冷たい声が聞こえた。

 背中の辺りがゾクッて震えるくらい冷めた声。


『フェリティス。目を閉じて耳を塞いでいなさい。貴方には少し早いですから。』


 言われた通りに目を強く閉じて、両手で耳を塞いだ。何も見えない。何も聞こえない。だけど、恐くない。

 だってずっとお姉ちゃんが抱きしめてくれているから。


ーーー

 

『消えない!?。消えない!?。どうして消えない!?。』


 水の入った樽を幾つも壊していく黒服の男。

 何度も水を被り、頭から爪先までを水中の中に沈めても一向に炎は消えなかった。

 焼かれる身体。熱さと苦しさにのたうち回る。

 朽ちていく。黒く炭のように脆く砕ける指先を見て男の心を恐怖が支配した。


『無駄です。燃えているのは貴方の身体ではなく、貴方の魂です。私の神具は結界内の魂を燃やして奪う。貴方の魂は燃え命の灯となり私に集まって来ます。』


 睦美の手のひらに集まる小さな薄い緑色の光。


『これが燃え、貴方の身体から溢れた命の灯です。まぁ、冷静さを失っている貴方には私の声など聞こえていないでしょうが。』

『助け…助けて…誰か。熱い!。死ぬ!。楚不夜様!。助けてくださ…。』


 冷静な睦美とは裏腹に、何とかして炎を消そうと踠く黒服の男。


『貴方はもう助かりません。精々、私のフェリティスが受けた苦しみを己の身で体験し見苦しく踠きながら残りの命を吐き出しなさい。』


 炎の勢いは、止まることを知らず燃え盛り、男の身体は徐々に黒くなっていく。揺れ動く炎とは裏腹に男の動きは硬直し始め男は事切れた。やがて黒い人型の炭だけを残して。

 黒服だった黒い炭に近づく睦美。

 軽く触れた瞬間。細かく崩れて風に乗って消えてしまった。


『彼の命の灯。この乾燥した岩場で活用しましょうか。』


 手のひらに集まった命の灯を握り潰すと、周囲に散布された。

 次の瞬間。岩と石しかなかった周囲は草や花が芽吹き茶色の大地が緑に変化する。


『もう目を開けても良いですよ。フェリティス。』


 フェリティスの頭を撫でる。


『お姉ちゃん?。終わったの?。』

『ええ。貴方を苦しめた男は私が倒しました。フェリティス。無事で良かった。本当に…。』

『お姉ちゃん…。お姉ちゃん!。わあああああぁぁぁぁぁん!。』


 フェリティスを抱きしめる睦美。

 安心したのか泣き始めるフェリティスを優しく包み込む。その姿は血の繋がりは無くとも本当の姉弟だった。


 暫くして落ち着いたフェリティス。

 その手は睦美の手を強く握っている。


『お姉ちゃん。ママとパパとおじさんとおばさんが…。』

『ええ。分かっています。基汐さん。』

『おう。』


 睦美に呼ばれ上空から降りてくる基汐。

 

『えっ!?。誰?。』

『安心して下さい。私の仲間です。』

『お姉ちゃんの?。』

『初めまして。睦美の仲間の基汐だ。宜しくな。』


 基汐の差し出した手を怯えながらも握り返すフェリティス。


『基汐さん。フェリティスをお願いします。』

『フェリティス。離れていて下さい。母様方は私が必ず助けますので安心して下さい。』

『お姉ちゃん…。気をつけてね。』

『睦美。無理するなよ。』

『ええ。無理などしませんよ。あの方々は唐突にやって来ました。何の前触れも無く、無理矢理に、強引に。私達の毎日を、日常を破壊しました。今も私の家族を傷付けている。なら、同じことをされても文句は言えませんよね?。』

『………あ、ああ。そう…かもな。』

『お姉ちゃん…。こわい…。』

『ええ。そうですよね。私の大切な人達を傷付ける存在を許すことなど出来ません。殲滅…致します。全てを燃やし灰に帰させましょう。』


 背筋が凍りつくような殺気。

 その視線の先には華桜天。冷たく光のない瞳。言葉は穏やかなのに、何処か棘のある口調。近寄りがたい雰囲気に基汐もフェリティスも後退る。

 睦美が大好きなフェリティスは基汐の後ろに隠れる始末。

 長年共にいる基汐ですら、いや、恋人である閃も、こんなに怒りを露にする睦美の姿を見たことは…ないのではないだろうか?。

 そんな睦美の姿を見て、2人は無言で心に刻んだ。


 彼女を決して怒らせてはいけないと。

次回の投稿は2日の木曜日を予定しています。

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