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第254話 睦美とフェリティス

『ど、どうかの?。』

『っ!。おいしい…。』

『凄く美味しいよ。睦美ちゃんは料理も上手なんだね。』

『掃除も、洗い物も何でも出来ちゃうなんて、睦美ちゃんは凄いわ。ふふ。将来は良いお嫁さんになるわね~。』

『そ、そうかのぉ…。』


 種族、不死鳥の夫婦。フェリスとフェネス。

 2人の元に転生して5日が経過した。

 ここでの生活にも慣れ始め、少しずつ家事の手伝いをし始めている。

 今日は朝食を作って母様と父様に食べてもらった。

 仮想世界とは食材が異なっているが、似た味のモノを掛け合わせて何とか知っている料理を再現する。


『そうそう。睦美ちゃんにお願いがあるの。』

 

 食事中、ふと母様が切り出した。


『ん?。お願いとは?。』

『大したことじゃないんだけどね。今日、会って欲しい人達がいるんだ。』

『会って欲しい人達…ああ、もしかして他にこの渓谷に棲むと言っていた不死鳥の仲間達のことかのぉ?。』

『ええ。そうよ。仲間というより親戚ね。私の姉の家族なの。姉に旦那さんに、子供が一人。そろそろ顔合わせをしておいた方が良いと思って。』

『ほぉ。そうか。ご親戚の。大丈夫じゃ。是非会わせて欲しいのじゃ。同じ不死鳥。仲良くしたいのぉ。』

『はは。そう言ってくれると思ったよ。義兄さんと義姉さんも睦美ちゃんに会いたがっていたからね。』

『そ、その…その方達にはワシのことを?。』

『そうだね。簡単には説明したよ。少し特殊な事情がある子だってね。変に誤魔化すと誤解を生みかねないからね。異界の神ということは伏せて、能力が使えないことだけは教えたんだ。原因は不明ということにしておいたよ。』

『そのもの達は何と?。』

『気にしないってさ。僕達の間に生まれたことが事実なら問題ないって。不死鳥であるなら今後とも仲良くしたいから早く会わせなさいってしつこかったよ。まぁ。もしかしたら薄々気付いているのかもしれないけど、細かいことは気にしない人達だから安心して良いよ。』

『そうか…うむ。異論ない。会おう。』


 そうして、食後。

 不死鳥の渓谷に棲むもう1つの家族と会うことになった。


『初めまして。フェリスの姉、フェリナだよ。宜しくね。えっと…睦美ちゃん?。で良かったかな?。』

『私は、フェリナの夫でフェリオです。宜しくね。睦美さん。』

『うむ。初めましてじゃ。睦美という。今後とも宜しくなのじゃ。』


 フェリスとフェネスと同じ赤い髪。

 不死鳥は皆そうなのか?。そうなると黒髪のワシは何なのじゃろうな?。

 フェリナは、フェリスの姉だけありそっくりじゃ。瓜二つとまではいかないが姉妹であることは分かるくらいには似ておる。少しフェリナの方気が強そうな感じかのぉ?。

 フェリオは、丁寧な動作でしっかり者といった感じかのぉ?。フェネスは優しそうな雰囲気を纏っておったが、彼からは真面目さが伝わってくる。


『ねぇ。フェリス。何よ!。この娘!。』

『おわっ!?。むぐっ!?。』


 挨拶の後、突然抱き寄せられた。

 大きな胸に顔面が埋まる。


『可愛すぎるわ。しかも、面白い言葉使いだし、ねぇ。ちょうだい!。私の娘にしたいわ!。』

『嫌です。睦美ちゃんは私と旦那の子供ですから。姉さんにはあげません!。』

『ええ。ケチィ~。』

『そろそろ睦美ちゃんを解放してあげなさい。苦しくてバタバタしてるわ。』

『あら。ごめんなさい。』

『はぁ、はぁ、はぁ。大きく…素晴らしいモノを…はぁ、お持ちですね…。』

『ふふ。でしょう?。自慢なのよ。』


 解放されたかと油断した。

 ワシの身体は背中から抱きしめられ完全に抱き枕状態じゃ。


『はぁ~。睦美ちゃん~。』

『ふむ。ワシ…どうすれば?。』

『やれやれ。フェリナ。そろそろ落ち着こう。睦美ちゃんも困っているよ。』

『むぅ。貴方までそういうこと言うの?。女の子よ?。着せ替えだってしたいし、一緒にお風呂だって入りたいわ!。』 

『駄目です!。睦美ちゃんは私達の娘なんですから!。』

『ははは。気に入って貰えて何よりだよ。』

『ええ凄く気に入ったわ。睦美ちゃん。生まれてきてくれてありがとう。改めてこれからも宜しくね。』

『う、うむ。よ、宜しく頼むのじゃ。』


 フェリナの拘束から解除される。


『ほら、フェリティス!。いつまで隠れているの?。ちゃんと出てきて睦美ちゃんに挨拶しなさい。』


 フェリティス?。

 

『………。』


 小さな男の子?。

 赤い髪。生意気そうにワシを睨んでおる?。

 フィリナの後ろに移動しワシを覗き込んでおるな?。何でじゃ?。照れておるのか?。


『ほら?。何してるの?。挨拶は?。』

『ふ、ふん!。ぺたんこ。』

『なっ!?。』


 ワ、ワシの、む、胸を指差しながら、このガキはぁ!?。

 ワシの胸を…胸を…ぺたーん…じゃないもん!。

 ズーーーーーーーーーーン…。


『こらっ!。何言ってるのよ!。この子は!。』

『ベーだ。』


 フェリティスは舌を出し、挑発しながら走り去ってしまった。

 その日を境に、フェリティスはワシの周囲を付け回すようになった。

 上手に隠れているつもりなのだろうが、バレバレじゃ。全身隠して頭隠さずと言ったところか。


 フェリナとフェリオの夫妻の家は、実はワシが住んでいる家の目と鼻の先にある。

 徒歩5分といったところじゃ。

 よって、互いの生活は殆ど丸見えじゃ。

 しかも、両家族は当然のように仲が良く、毎日一緒に過ごしておる。2家族、それも親戚同士だ。仲が良くて当然か。


 ワシは自分から家事の手伝いを申し出た。ワシに出来ることはそれくらいじゃ。一緒に住まわして貰っている以上…いや、こんなことを言っては母様と父様に怒られてしまうな。

 家族の役に立ちたい。ワシはそう思っておる。家族だからこそ、力を合わせて生きていくのじゃ。

 ワシが家事の手伝いをしていると、決まってフェリティスが物陰から覗いている。

 特に何をするわけでもなくワシを眺めておる?。


『なぁ?。ワシに、何か用かのぉ?。』

『っ!?。』


 ワシが話し掛けると、顔を引っ込め逃げてしまう。

 さてさて。どうしたものか…。

 

 そうじゃな。相手は子供。この作戦でいこう。


 次の日。作戦を決行。

 準備はフェリティスに気付かれぬ早朝から。

 

『あら?。甘い匂い。睦美ちゃん。今日は何を作っているの?。』

『母様。ししし。フェリティスと仲良くなるための作戦のおやつじゃ。母様と父様。あと、伯父様と伯母様の分も作ったのじゃ。後でおやつに食べて欲しいのじゃ。』

『あらあら。嬉しいわ。ええ。後で届けておくわね。』

『フェリティスと仲良くなれるといいね。あの子は人見知りだから警戒しているだけだと思うけど。頑張ってね。睦美ちゃん。』

『勿論じゃ。』


 ということで、洗濯物を外にある竿にかけていると、いつものようにフェリティスがワシを見ていた。

 全ての洗濯物が干された後、ワシは木陰にある岩の上に座り、用意したおやつを包んだ風呂敷を広げた。中身はお饅頭じゃ。


『あむっ。うむ。我ながら上出来じゃ。』


 もぐもぐ。もぐもぐ。

 ワザと大袈裟に食べる。

 すると、一口食べる毎にガサゴソとフェリティスが隠れている茂みが揺れた。

 出てこんか…。仕方ないのぉ…。


『ほれ。フェリティス。いい加減出てきたらどうじゃ?。お主の分も用意しておる。一緒に食べよう。』

『っ!?。』


 ワシの言葉に反応し顔を覗かせるフェリティス。


『い、いつから、気付いてたの?。』

『最初からじゃ。ほれ。お前の分じゃ。そんなところにいないで横に来い。』

『………いい…の?。』

『構わん。お前の為に作ったのじゃ。お腹空いておるじゃろ?。朝からずっと隠れておったしな。』

『っ!?。うん!。』


 フェリティスは周囲を確認し小走りでワシへと近付いて来る。

 やれやれ。子供というのは難しいの。


『ほれ。おいで。』


 小さな布を敷きフェリティスを座らせる。

 小さいのぉ。瀬愛よりも年下か。


『ほれ。お饅頭じゃ。お食べ。』

『うん!。もぐもぐ。っ!?。美味しい…。』

『じゃろ?。沢山あるからな。ゆっくり食べな。』

『うん!。』

『お茶もあるぞ。』


 横で無邪気にお饅頭を食べるフェリティスを眺めながらゆったりとした時間が流れる。

 弟がいるとはこのような感覚なのじゃろうか?。一人っ子じゃから分からぬが…悪くない感覚じゃな。


『ごくごく。ぷぅ~。ご馳走さまでした。』

『ふふ。お粗末様じゃ。ちゃんと言えて偉いのぉ。』


 ワシはフェリティスの頭を撫でた。

 最初は驚いたフェリティスじゃったが、大人しく撫でられてくれる。気持ち良さそうに目を細めてワシを見つめている。


『して、何故に今までワシを遠巻きに眺めていたのじゃ?。』

『………ママに怒られたの。』

『フェリナに?。』

『あのね。ちょっと前にね。お姉ちゃんのお風呂覗いちゃったの。』

『ん?。お風呂?。ああ、あの時か…。』


 家の裏手にある天然温泉。

 そこで湯浴みをしていた時の…あの子供の足跡はコヤツじゃったのか。


『見るつもりじゃなかったの。けど、お姉ちゃん…凄く綺麗で…動けなくて…。それで、お家に帰ってママに凄い綺麗な裸の女の人がオジさんとオバさんの家の居た。って、言ったら女の子のお風呂を覗いちゃ駄目だって言われて謝っておいでって…。』

『おお。成程のぉ。で?。何故に逃げておった?。それに…いや。認めたみたいで癪じゃのぉ。言うのはよそう。』

『お姉ちゃんの前に出るの。恥ずかしかったの。お姉ちゃん見てたら、何て言ったら良いか分からなくなって…。胸のところドキドキするし…。』

『そうか。』


 ワシはフェリティスの頭を撫でる。


『怒ってないの?。』

『当たり前じゃ。ワシは理由が知りたかっただけじゃ。怒る程のことではない。しかしのぉ。』

『ん?。あたっ!?。』


 デコピン。


『ワシが唯一許せんのは、女性に胸のことを指摘したことじゃ!。いい男とはどんな女性にも紳士的に向き合わなければならん!。まぁ、ワシはぺたーんではないがな!。ちゃんと ある のじゃ!。』

『…う、うん。分かった。もう言わない。ごめんなさい。』

『分かれば良い。さてと、では、フェリティス。今後はこそこそせずにワシと一緒にお手伝いをしようか。』

『っ!?。一緒に…良いの?。』

『勿論じゃ。沢山お手伝いして立派な男になるのじゃぞ。』

『うん!。』


 その日を境に、フェリティスはワシにべったりになった。

 料理作りも、洗濯も、掃除も、庭の手入れも。何でもワシと一緒になって手伝ってくれておる。

 母親であるフェリナも驚いておったくらいじゃ。

 布団で一緒に寝ることもあるし、今では一緒にお風呂に入る仲じゃ。


『お姉ちゃん。』

『ん?。どうしたのじゃ?。のぼせたか?。』

『ううん。大丈夫。』


 ワシはフェリティスの小さな背中を抱きしめながら問うた。

 旦那様が良くしてくれたな。とても安心する。体温を近くに感じ、ずっと触れていられる。

 フェリティスは小さくなって体育座りをしておる。恥ずかしがらんでも良いじゃろうに。


『あのね。僕、大きくなったら…お姉ちゃんと結婚したい。』


 意を決したように、想いを告げるフェリティス。真剣な表情。ワシに向けられる気持ち。

 その顔つきは、幼い子供でも立派な男性のモノであった。


『そうか…ふふ。嬉しいぞ。けどな。それは無理じゃ。』

『…ど、どうして?。僕、お姉ちゃんのこと大好きだよ?。』

『ワシもフェリティスが大好きじゃ。じゃが、ワシには既に生涯をかけて愛すると決めた方がいるのじゃ。とても大切な人。故にフェリティスの想いには応えられん。すまんな。』

『………。』

『それにな。フェリティスはまだ若い。これから、多くのことを学び。沢山の人達と出会い。様々な経験を積み重ねる。常に自分を高め、立派な大人になるんじゃ。そうすれば、必ず運命の出会いもあるじゃろう。ワシなんかよりも素晴らしい女性など世界に巨万といるじゃろうからな。』


 ワシもまだまだ発展途上じゃ。

 終着など在りはしない。

 精神も肉体も高め続ける場所。

 それが人生じゃ。


『…でも、僕は…お姉ちゃんがいい…。』

『気持ちだけ受け取っておこう。ワシはフェリティスのお姉ちゃんで家族じゃ。フェリティスの両親と同じくらい主の幸せを願っておるぞ。』

『………。』


 抱きしめる力を強める。

 これでワシの気持ちが伝わってくれるといいが…。


『お姉ちゃんはずっと僕と一緒に居てくれる?。』

『ずっと…か。それは難しいのぉ。これからのことは分からん。それに、フェリティスにはもっと広い世界に飛び立って欲しいのじゃ。ワシが一緒では主の枷になってしまう。じゃが、お主が困難にぶつかり、道を踏み外したり、間違った道を歩もうとしたら必ず駆け付けて叱ってやるからな。』

『お姉ちゃんの話し…む、難しいよ…。けど、怒られるのは嫌だよ。』

『ふふ。そうか。なら、いい男になるんじゃ。誰もが認める立派な男にな。』

『うん………。』


 暫く。沈黙。


『ねぇ。お姉ちゃん。』

『何じゃ?。』

『さっき言ってたお姉ちゃんの大切な人ってどんな人?。』

『ん?。何じゃ急に?。』

『知りたいなぁって。』

『そうじゃな。旦那様は可愛らしい人じゃ。』

『可愛いの?。』

『そうじゃ。常にワシ等のことを考えてくれて、悩んで、色々と行動してくれる。その一生懸命さが可愛いのじゃ。自分の時間の殆どをワシ等の為に捧げてくれておる。そんな人だからこそワシも全身全霊でお世話をしたいとご奉仕したいと思っているし、旦那様の為にこの身を捧げ生涯の伴侶になりたいと真剣に考えておるよ。』

『………。』

『フェリティス?。』

『僕ね。その人に会いたい。会って色々なことを教えて欲しい。そしてね。お姉ちゃんみたいな人を探すの!。』

『ワ…ワシみたいな人か…。フェリティスにはワシなんかよりも素晴らしい女性が良いと思うのじゃがなぁ…。』


 子供とは難しいのぉ…。

 何を考えておるのやら。


『お姉ちゃん。大好き。』

『ふふ。ワシもじゃよ。』


 頭を撫で、額に口づけをしてやった。

 

 フェリスとフェネス。ワシの母様と父様。 

 フェリナとフェリオ。両親とは血が繋がっていないが、ワシの伯母と伯父にあたるのか?。

 そして、フェリナとフェリオの子供のフェリティス。ワシの可愛いの弟じゃ。

 ワシを含めて6人の生活。衣食住の全てを共有した、決して裕福ではないが幸せを感じられる生活。


 その生活も半年が過ぎようとした頃のことじゃ。

 運命は動き出した。

 

 その日の午前中。

 時計は無いが、時刻はだいたい午前10時くらいじゃった。

 

 突然、外から悲鳴が聞こえた。

 家の裏手で洗い物をしていたワシは大急ぎで表に回った。

 そこには、数人の見たこともない者達がいた。黒いスーツを着た複数の男女。


『ち、父様っ!?。』


 父様は全身を切り刻まれて倒れていた。

 母様は男の足蹴にされ背中に刀を突き刺されている。

 それを見たワシは躊躇うこと無く其奴等の前に出た。


『貴様等何をしている!。母様を離せ!。』

『む、睦美…ちゃん…。に、げて…。』


 ワシの言葉を受け全身の視線がワシに集まった。


『母様ねぇ…。子供が居たのか?。しかし、赤髪ではなく黒髪とは…お前…本当に不死鳥か?。』

楚不夜(ソフヤ)様。此方にも隠れておりました。』

『っ!?。伯父様!。伯母様!。』


 数人の黒いスーツを着た男女に力無く気を失っているフェリナとフェリオが引き摺られていた。


『これで全員か?。』

『家の中には2体だけでした。』

『そうか。さて、残るはあの小娘か。』


 リーダー格であろう女性。

 赤みがかった長髪を束ね。チャイナドレスと和服が合わさったような衣装にロングコートを機織り、煙管を持った美女。

 いきなり来て何なのじゃ。コヤツ等は?。

 何故?。ワシを襲う?。

 それにリーダー格の女と、横に立つスーツを着た女。と隣の男。彼等が纏うのは魔力ではない?。もっと、強い…エネルギーが溢れ出ている?。


『パパとママを離せ!。』

『フェリティス!?。』


 伯父様と伯母様を運んでいた黒服達に掴み掛かるフェリティス。

 しかし、小柄で子供のフェリティスでは、どんなに暴れても簡単にあしらわれ振り払われる。


『餓鬼か?。まだ、隠れていたのだな。はぁ。耳障りだ。黙らせ。』

『あいよ。』


 深編笠を被った侍のような風貌の男。

 真っ赤な刃を持つ刀を抜き放ちフェリティスへと近付いていく。


『わりぃな。姉さんは餓鬼が嫌いなんだわ。ちっとその口閉じて貰うぜ?。』

『っ!?。』


 男が振り上げた刀がフェリティスに振り下ろされた。


『うぐっ!?。フェリティス…逃げ…ぐぶっ!?。』


 背中に鋭い痛みが走る。

 フェリティスの身体を抱きしめ、そのまま倒れ込んだ。同時に背中を踏みつけられる。


『お姉ちゃん!?。お姉ちゃん!?。』

『おっと。まさか不死鳥のクセに仲間を庇うとは、そんなことしなくても勝手に再生するじゃねぇか?。』

『よく見よ。その娘、傷が再生しておらん。魔力も感じぬ。おそらく人族だろう。こんな場所に人族がいる理由は分からんが。まぁ。どうでも良いことだ。』

『どうすんだ?。姉さん?。これ?。どっかに売り飛ばすか?。』

『ふん。顔は良いが、今ので傷物だ。どうみても致命傷。もう治療してやる費用以下の存在だ。はぁ。商品にならん。その辺にでも捨て置け。』

『あいよ。わりぃな嬢ちゃん。お前さんはいらねぇとさ。』

『うぐっ!?。』

『お姉ちゃん!?。お姉ちゃん!。』


 横っ腹を蹴られ、身体が宙に浮く。フェリティスから引き離された身体は激しく地面を転がった。

 呼吸が苦しい。背中が熱い。背中の傷は内蔵まで届いている。駄目じゃな…これは…助からん。

 視界が霞み周囲の音だけが大きく聞こえる。


『お姉ちゃん!。お姉ちゃん!。』

『早く黙らせろ。』

『あいあい。』

『うぐっ!?。お、ね……ちゃ…。』

『楚不夜様。荷車の準備が整いました。』

『よし。不死鳥共を運べ。逃げ出さぬように手足と翼を縛り上げろ。逃がすなよ?。意識を取り戻し逃げようとするなら各部位を切断することも許可する。』

『はっ!。』 


 奴等の気配が消えた頃。

 ワシの意識は静かに沈んでいった。

次回の投稿は25日の木曜日を予定しています。

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