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第250話 決着 閃 VS セルレン

 雷の放出。

 ラディガルの能力を解放した雷撃が神獣と一体化したセルレンの身体を駆け巡り、閃光と轟音を迸らせ地面へと走り抜ける。

 七つあるワニの頭部は黒と白の煙を立ち上らせて大きな音を響かせながら地面に沈んだ。


『がぐっ………ぐぅふっ………。』


 やっと、見つけた。

 この巨大な界樹の中で最も純度の高いエーテルで守られた場所。【それ】はこの神聖界樹の中に2ヶ所存在している。

 セルレンにとって最高の切り札。そして、最大の弱点。

 

 この神具の 核 だ。


 根に近い部分は美緑の神具によって支配された。

 セルレンに残されている支配エリアは界樹の半分より上のごく僅か。それでもかなり広いが…人族の気配感知で探せば大した時間は掛からなかった。

 おそらく、神具の侵食から核を守り、逃がすために移動させたんだろうな。

 隠すには雑だし守りも手薄になっている。


『なら、直接乗り込むか。』


 セルレンと融合しているワニの下に潜り込む。ラディガルの雷によって硬直して無防備となっている顎に拳を叩き込んだ。

 巨大な身体が浮き上がり幾重にも折り重なった根をぶち破っていく。


『ぐおあっ!?!?。ぐぶっ!?。』


 吹っ飛ぶセルレンへ続き追っていく。

 たどり着いた拓けた空間。

 自然に造られた場所じゃない。

 セルレンが核を守るために急遽造った空間だろう。

 その空間の中心に輝く深紅の宝石。

 あれが、核。

 天井と地面から伸びる木の根に支えられているようだ。


『こ、ここまでの力…が…。この私の身体を軽々と…。』

『やっぱ。これじゃあ終わらねぇよな。』


 身体全体から花が咲き雷で焼けた箇所が治っていく。

 緑竜の力…高速治癒か。本当に厄介だな…。


『この場所まで…たどり着いたか…厳重に隠した筈だが…。観測神の眼を欺くことは出来なかったようだ。』


 核を守護するように移動し立ちはだかるセルレン。


『この糸で探しだした。余程、慎重に移動させたんだろうな。俺の神眼を持ってしても途中から映像が途絶えていた。』


 張り巡らせた糸を引き寄せる。

 【念糸・探索】

 感覚を共有したエーテルの糸。実体がない為、何処までも伸び続け対象を探す能力。

 

『そうか…そのエーテルの糸で神聖界樹の中を…。やはり…貴様は、危険すぎる。』

『それを理解した上でどうするつもりだ?。俺はお前を倒すために全ての力を使っているだけだ。このまま、大人しく殺されるか?。』

『いいや。私がお前を殺す。正直、核の位置まで侵入されるとは思っていなかった。何重にも結界を張り仮想空間の中に隠していたのだからな。しかし、あの小娘の神具で仮想空間が破壊され露出した核を移動せねばならなくなったのは想定外だった。』

『はは。俺の仲間は凄いだろ?。』

『………どうやら、本当に最後の手段を使わねばならないらしい。貴様を相手に核を守りながら戦うなど不可能だろうからな。』

『なら、どうする?。』

『こうするまでだ。』

 

 ワニの口が大きく開き核を丸呑みにした。

 セルレンの野郎。核とも一体化しやがった!?。


『はぁぁぁぁぁあああああ!!!!!。』


 神獣だけじゃない。この神聖界樹とも融合した。


『これで貴様を殺す準備は整った。』


 神聖界樹から伸びる幹のような身体、背中からは鋼の硬度を持つ梟の翼、巨大なワニの頭と額から出現したセルレンの上半身。

 そして、身体から咲く緑竜の能力の花。


『随分と異形な姿になったじゃねぇか?。自分の大切なモノを捨てて手に入れた力はどうだ?。』

『素晴らしい力さ!。貴様には苦戦しているが、それ以外の異神ならば容易く屠れることを知れたからな!。貴様を殺し、後にゆっくりと他の異神を刈ることとする!。』


 ワニの口が開きエーテルが収束する。

 核を取り入れたことで変換という過程を省き直接エーテルを己の力として利用している。


『これで…この一撃で消し去ってくれる!。再生の隙すら与えず一瞬で…塵1つ残さずにな!。』


 尋常じゃないエーテルが集まっている。

 正真正銘、セルレンの最強の奥の手。

 星から汲み取ったエーテルをそのまま放つってことだ。

 そんなもん、今の俺でも防げないぞ。

 

『食らうがいいっ!。神技!。【神核撃緑王砲】!!!。』


 凄まじいエーテルの砲撃。

 空気を燃やす轟音と衝撃。

 真面に食らえば消滅必至。

 しかし、この砲撃が放たれた角度が問題だ。

 これだけの威力。俺が避ければ直線上にいる下層にいる美緑達まで巻き込まれる。

 そこまで計算されての一撃。

 避けるのは無理だ。

 なら、真正面から撃ち破るしかない。


『ちっ!。やるしかねぇか!。』


 セルレンも必死だ。

 この一撃に全てを賭けてきた。


『ラディガル!。』

「おう!。全力だっ!。」

『【雷貫・閃咆】!!!。』


 指先から放たれる一直線に走る貫通性能のある雷。

 これで… あれ を狙い打つ。それしか勝ち目がなくなった。

 セルレンの砲撃と俺の雷がぶつかり合う。

 極大のエーテルの塊に一点突破の雷。


『その程度の砲撃で私の切り札を止められると思うなあああああぁぁぁぁぁ!!!。』

『ぐぅ…ギギギッ!。こいつは…き、ついな…。』


 予想はしていた。

 だが、セルレンの砲撃は想像以上の威力を秘めていた。

 後退しそうになる身体を、歯を食い縛り、全身の力を足に込めて踏み留まる。

 雷に込めた身体を巡る全てのエーテル。

 だが、セルレンの砲撃はビクともしない。


『ぐっ!。なんて威力だよ!?。』


 貫通性能を持たせているのに貫けない。

 僅かずつだが押され始めている。呑まれ始めている。

 無理もない。こっちにはエーテルの限界がある。だが、セルレンは星のエーテルをそのまま放っているだけだ。星のエーテルが尽きることがない以上、この砲撃が止むことも衰えることもない。


『ははは!。流石の観測神もこの砲撃の前には無力のようだな!。ならば、抵抗虚しく消え去れ!。』

『ぐおっ!?。』


 まじか。まだ威力が上がるのか!?。

 徐々に、雷が呑み込まれていく。完全に威力が負けている。


『こ、こうなったら…これしか…ないか。』


 雷を放出したまま、左手にエーテルを込める。

 これは…無理しないと…いけないか…。


『行くぜ。クロノ…。』

「うん。いつでも。問題ない。」

『神技…。【絶刻…。』


 その瞬間。

 セルレンの砲撃が割けた。

 左右に別れた砲撃は神聖界樹を容易に貫き巨大な穴を開けた。


『馬鹿な!?。いったい、何が起きた!?。』

『…時死】。』


 神技の発動。

 セルレンにしてみたら、突然、エーテルの砲撃が中心から2つに割け、目の前に俺が現れた感覚だろう。


『ほぉら。抜けたぜ?。』

『っ!?。貴様っ!?。腕を捨てたのか!?。ごぶっ!?。』


 セルレンの顔面を殴る。

 セルレンを殴ったことでワニの胴体が拳の勢いで仰け反った。エーテルを放出し続けたまま。

 下方に放たれていた砲撃が上方へ向き、神聖界樹を抉り削る。

 

『ぐっ、奴は?。っ!?。しまった!?。核をっ!?。』


 透かさず俺はワニの頭部からの飛び降り、右手の拳をワニの胴体に突き刺す。

 そこには、取り込んだ界樹の 核 がある。

 全身が痛ぇ…。完全に防御を捨てたからな…。

 直接エーテルに触れた左腕は蒸発。肩口まで消えちまった。ついでに左半身も焼かれてボロボロだ。


『これで…最後だ。食らいやがれ!。【雷貫・閃咆】!!!。』


 めり込んだ拳から直に放つ雷。

 どんなに外郭が強固だろうと内側からなら破壊できるだろう…。

 残ったエーテルを注ぎ一気に放出した。


『ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?。』


 破壊した核からセルレンの全身に広がる雷撃。太い幹で出来たワニの身体がひび割れ、内部から雷が溢れ出る。

 核を失ったことで無限のエーテルも消失。

 神聖界樹がその力を失ったんだ。


『よ、よくも…よくも私の神具をっ!!!。』

『ぐっ!?。』


 力が入らねぇ。

 暴れるワニの身体に成す統べなく振り落とされ、巨大な頭部の突撃を食らう。

 そのまま俺の身体が空中へ投げ出された。


『許さん…許さん!。貴様だけは絶対に!。』


 猛突進するセルレン。

 強化された太い腕から放たれる拳が俺の身体を殴り続けた。

 

『許さん!。許さん!。』

『ぐっ!。』


 落下する俺を高速で移動し追撃してくるセルレン。

 眼前に大きく開いたワニの口、無骨に並ぶ鋭い牙が迫った。


『ちっ!。』


 牙に掠る身体。

 胸から腹を切り裂かれた。

 そのまま天井へと叩きつけられる。


『トドメだ。これで消えろ!。』


 セルレンの両手にエーテルが集まる。

 ここで神技だとっ!?。

 ちっ。神聖界樹からのエーテルではなく…身体に残ったエーテルを集めたのか!?。

 

『残念だったな!。私の身体の中には神聖界樹の核の破片が埋め込まれている。核そのものよりも性能は低下するが神技を放つ程度は余裕でこなすことが出来る!。消え去れ!。観測の神よ!。神技!。【神核撃…。』


 落下する身体。

 下で待ち受けるセルレン。

 手のひらに集まる破壊のエーテル。

 セルレンを倒すには、身体の中にある核の破片を破壊すること。


『かはっ…ああ。待ってた。このタイミングを…。』


 知ってたさ。【念糸・探索】で見つけた核は2ヶ所にあったってな。

 当然、セルレンの身体の中にあるモノにも気付いていた。

 だから、この最後の最後に賭けた。

 セルレン自身が一番無防備になるこの状況を。奴は今、攻撃のみに集中した。エーテルも神技にのみ注いでいる。防御に回せるエーテルはない。

 だから。俺は。手繰り寄せる。

 最初の【粘糸】を使用した時から俺の手と繋がっていた モノ を。

 エーテルが底を尽きた今。俺に残された唯一の攻撃手段。


『っ!?。馬鹿な!?。それは!?。さっき律夏が使用していた!?!?。』

『ああ。ずっと地面に転がってた神剣だ。知ってるだろう?。この剣の性質!。お前に残された回復方法を断たせてもらう!。』


 緑竜の能力はまだ生きている。

 例え核を破壊したところでセルレンを倒せない。すぐに緑竜の力で回復してしまうだろう。

 完全にセルレンを倒すには奴の持つ全ての能力をその身体から引き剥がす!。


『神剣!。【樹霊神剣】!。』

『くっ!。』

『これで…仕舞いだぁぁぁぁぁあああああ!!!。』

『があっ!?!?。』


 神技発動の際に収束させたエーテル。防御の為に交差した腕。身体の中心にある神聖界樹の核。そして、神から付与されたエーテルを扱うために心臓に埋め込まれた核。

 その全てを一太刀で両断した。


『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!?!?。私がぁ!。敗れたぁ!?。全てを捨て!。得た力がぁ!?。何故だぁ!?。私の…私だけの理想郷がぁぁぁぁぁあああああ!!!。』


 断末魔にも似た叫びを残しセルレンの身体は光の粒子のようになって砕け散った。

次回の投稿は11日の木曜日を予定しています。

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