第249話 閃 VS セルレン
俺の仲間を傷付け、好き勝手にしてくれたセルレンを睨む。ついでにエーテルに殺気を込めて飛ばしてやった。
エーテルは感情を反映させやすい性質を持っている。
怒りや憎しみが強ければ高い攻撃性を持つエネルギーへと変換され、慈悲や愛情が強ければ高い治癒力を発揮する。魔力以上に過敏に反応するんだ。
『観測の神か…。貴様を倒さなければ我々、神眷者が【新生界】を得ることは困難を極める。我々にとって最大の壁であろうな。イグハーレンとの戦闘で収集した情報を持っても半信半疑だったが…こうして相対し、対峙して改めて理解した。…はぁ…貴様が最大の驚異であり、我々の越えねばならぬ壁だということを。どうだ?。この世界を侵食する寄生虫になった気分は?。さぞ、楽しかろう?。』
『はっ!?。この世界のがん細胞みたいな奴に言われたくねぇよ。てめぇこそ、自分を慕ってくれた奴等を裏切ってまで、神の野郎共の口車に乗せられてんじゃねぇか。今までの幸せや繋がりを持った奴等を捨て去って満足か?。』
『全てを捨ててでも手にしたい物が出来たのだ。それは、この長きに渡る人生を一変させるに相応しい 理想郷 だ。神の御告げは、積み重ねてきた窮屈な人生に光がさしたのだからな。』
『はぁ…曇ってやがるな。幸せは何気ない日常の中にしかないんだってこと知らねぇのか?。』
『そんなものは時間が掻き消したさ。確かに幸せを感じる時間もあっただろう。しかし、そんなものは些細な一時でしかない。結果として私は手放しても何も感じなかったからな。』
『はぁ…これ以上何を言っても無駄っぽいな。けどな。お前のそれは単純に日常に退屈してただけだ。幸せを感じるよりも刺激を優先しただけだろう?。』
『それの何が悪いのだ?。価値観など個人の自由だ。必要なのは生まれた溝を満たすモノと、成し遂げるための力だけだ。』
『………。そうか…なら、お前が神から与えられた力の全てを全部ぶっ飛ばしてやるよ!。ああ。そうだな。お前達の言葉を借りるなら…。』
散々、言われて来たんだ。なら、受け入れてやるよ。
異世界の神だの。災いだの。排除する対象だの。
いい加減、うんざりだ。
だから、神眷者相手ならなりきってやろうじゃねぇか。
コイツ等が言う 異神 に。
『お前の全てを侵食し、ぶっ壊してやるよ。』
『はっ!。ほざけっ!。異端者がっ!。』
戦闘開始だ。
セルレンの初手は先端の尖った蔦による全方位攻撃。
この神聖界樹の中。俺達が今いる樹海の空間の至る場所から蔦を発生させられるのか。
『こんなもんっ!。』
エーテルと人功気による肉体強化。
更に拳のエーテルを増やす。
迫る蔦を殴り、払う。数は多いが今の俺には少々物足りないくらいだ。
『ちっ。防ぐか。ならば!。』
続いては、蕾の化け物。
観測神が持つ神眼で見た映像。
セルレンは自分の実の娘を吸収するために、あの蕾で殺しやがった。
同じ神眷者だった妻ですら裏切りその力を得るために吸収した。
気にくわない。
『行け!。蕾達よ。観測神を吸収せよ!。』
開いた蕾の口。
夥しい量の触手と奥まで並ぶ無数の牙。あんなのに呑み込まれたら一溜りもないな。
けど、さっきの蔦に比べれば、でかくて遅い。
『おらっ!。』
一番手前に接近してきた蕾をぶん殴る。
根本から千切れそのまま数本を巻き込み飛んでいく。最後は樹木の激突し潰れて動かなくなった。
『まだまだ行くぜ。』
手当たり次第に殴り飛ばしてやる。
的が大きいから殴りやすいな。気持ち悪いけど。
『馬鹿な!?。通じない…。しかし、その程度。所詮は打撃のみの戦闘スタイル。私の植物達は無限に再生する。そして、【樹装軍隊】も健在だ。』
引き千切られた蔦や蕾の根が急速に成長し再生する。ついでに初日に出会った植物の傀儡達が次々に召喚された。
アクリスに名前を聞いた。
神具【樹装軍隊 デバッド・ヴァルセリー】。
緑国の女王。エンディアが【生命の神】ライアゼクから与えられた神具だ。
ご丁寧に、美緑達との戦いでは使わなかったヘリコプターや戦車まで召喚してきやがった。
『この弾丸を撃ち込まれれば最期!。体内のエーテルは奪われ成長した植物に食い殺される!。如何に観測神だろうとエーテルを持つ以上、この弾丸は一撃で致死となる!。精々逃げ惑うがいい!。』
地上から、マシンガンを持った兵隊による一斉掃射。
飛び交う弾丸を掻い潜り片手にハンドガン、もう片方の手に短刀を握った歩兵が接近。
後方からは、戦車による砲撃が絶え間無く飛んでくる。
更に上空を旋回しているヘリコプターからのガトリング砲による連射が雨のように降り注ぐ。
おまけに、俺の動きを阻害する目的だろう、蔦や蕾が周囲をうねりながら這い回っている。
弾丸を受けるわけにはいかない。
受ければ忽ち、俺も植物の仲間入りだ。
逃げ場はない。回避は困難。防御も不可。
なるほど。皆が苦戦するわけだ。
今は美緑のお陰で失われているが、セルレンには神具【神聖界樹】による空間支配があった。
支配した空間では外効によるエーテルが使えない。つまり、エーテルを放出する系統の能力全てが無効化される。
更には自分と自身が操る植物には神聖界樹が星から吸いとったエーテルが無尽蔵に流れてくるため無限に再生するわ、エンディアから奪った一撃必殺級の神技【神核爆光弾】を連発出来る。
そんな悪条件の中、セルレン自身は神技【黄金果実】によって涼達以上の身体能力を獲得している。
無理ゲーにも程がある。
この条件下で、空間支配の能力を無効化したんだ。
本当によくやってくれたな。美緑。
『死ぬがいい!。観測の神!。今まで得た貴様の情報では、これだけの物量攻撃を防ぐ手段はあるまいっ!。』
ああ。お前の言う通りだ。
確かに人功気とエーテルで強化できるといっても、所詮は肉体強化の範囲でしかない。やれるのも打撃中心の攻撃のみ。
相手が不死や無限に再生する場合、俺一人の力では手の打ちようがない。
だが、それも。
『今までの俺ならの話だ。』
そう。この緑国に来て俺の能力は神獣達によって強化されている。
『行くぜ。トゥリシエラ。』
「はいな!。主。いつでもええで。」
トゥリシエラの神獣としての能力を発動する。
『『【炎翼・生転】!。』』
背中に現れた炎の翼。不死鳥であるトゥリシエラの翼を広げた。
その翼で迫る弾丸の雨を薙ぎ払う!。
同時に周囲に無数に舞った炎の羽が迫る蔦や樹装軍隊を燃やしていく。
『炎の能力だと!?。馬鹿な?。貴様は人族だろう!?。属性系統の能力を持っているなんて情報はなかった筈だ。』
「どうだ!。ウチの炎の味は?。そんな弱っちぃ植物なんて全部燃やしたるわ!。」
『悪いな。神獣を味方にしているのはお前達、神眷者だけじゃねぇんだよ。』
『神獣…だと?。し、しかしだ。私の植物は無限に再生する。エーテルが神聖界樹から流れ続ける限りどんなに切り裂かれようが、潰されようが。まして燃やされようとも全てが無駄なのだ!。』
しかし、その言葉の直後。セルレンは異変に気付いた。
使役している植物の様子がおかしい。
炎は未だに燃え広がり、次々と灰や炭になって崩れていくのだ。
『な、何故だ?。さ、再生しないだと!?。』
『悪いな。この炎の効果だ。この炎は俺の身体を癒す能力を持つ不死鳥の炎。』
『っ!。不死鳥だと!?。それが、貴様の神獣か!?。』
『ああ。空を飛ぶ生物の頂点。全ての鳥獣を統べる不死鳥の神獣だ。生命を操る鳥獣。お前にとっては天敵だぜ?。』
『そうか…その炎…再生を阻害する効果も持っているのか…。』
『そうだ。炎に焼かれたモノは【再生】【治癒】の能力を受け付けなくなり、発揮されなくなる。能力を含め自己治癒も働かない。お前の植物はもう何も出来ずに燃えるだけだ。どうだ?。結構、えげつないだろ?。』
『ならば。新たに生み出せばいいだけのことだ。何度でも何度でも。貴様を倒すまで召喚する!。』
『へぇ。この現状を見ても諦めないか。なら、これならどうだ?。【炎爪・懺死】!。』
「ウチの爪は痛いでぇ?。燃えてぇ、爛れてぇ、腐っていくでぇ?。」
『はっ!。』
炎の翼で飛翔。
召喚され続ける植物を片っ端から炎を纏った手刀で切り裂いていく。
何度来ようと関係ない。全部燃やし尽くす。
俺の打撃からの発火。更には、物量で攻めたことで炎は燃え移り広がっていくこととなる。
『くっ!。止まらぬか!?。』
『ほぉら。抜けたぜ?。』
『っ!?。なめるなっ!。』
懐まで攻め入った俺。
セルレンへ拳を振り抜く。それに合わせるようにセルレンも拳で迎撃。
2人の拳が衝突し周囲に衝撃波を発生させた。
『やるな。神技の肉体強化がここまでなんて。力は今の俺とほぼ互角か。しかも、その巨体でかなり速い!。』
純粋な肉体強化を得意とする俺と同等。
これは他の仲間達じゃ接近戦に持ち込まれれば対応は難しいだろう。
コイツは…間違いなく。イグハーレンやアクリスよりも強い。
『だが、その肥大化した筋肉じゃ俺の方が僅かに速い!。』
『ぐふっ!?。』
セルレンの拳を紙一重で避け、分厚い腹部に拳を打ち込んだ。
『さぁ。どうする?。このまま本体も燃やしてやろうか?。』
『ぐっ!。勝った気でいるのは、早すぎるのではないか?。』
『何?。っ!?。下っ!?。』
嫌な気配を感じ、全力で後方に飛び退く。
途端。俺がいた場所に巨大な口が地面から現れる。
『神獣!?。』
あの口。鋭い牙。ワニか!?。
確かに俺が見た過去の映像に映っていたな。
神聖界樹の根が犇めく地面の中に溶け込んでいやがった。界樹と融合しているのか蛇のような胴体で這えずって移動してやがる。
『【炎羽・射弾】!。』
炎の羽を弾丸として飛ばす。
しかし、器用に身体を捩り回避された。
『今度は、上かっ!?。』
界樹の中を高速で移動して奇襲を掛けてくる。死角からその巨大な口を開いて飛び掛かって来るか。
なら、直接燃やせば!。
『【炎翼・陣柱】!。』
炎の柱。
奴の気配を察知し狙い撃つ。
『っ!?。へぇ…。さっきまでの軍隊とは違うってか?。』
炎の塊をぶつけても、分厚い皮膚に遮られ炎が効かなかった。
『ははは!。私の切り札の神獣だ!。私と共に神聖界樹からの恩恵を受けている!。その程度の炎では止められんよ!。』
飛び掛かるワニの神獣。
『はっ!。だろうな!。面白くなってきた!。ムリュシーレア!。行くぜ!。』
「はいです!。今度こそ!。主様のお役に立つです!。」
『【粘糸・鋼縛】!。』
『っ!?。私の神獣が!?。止まった!?。貴様、支配下にしている神獣は一体ではないな!。』
粘着性と弾力。伸縮性に優れ、鋼のように丈夫。それが、ムリュシーレアの能力だ。
しかも、細く長く伸びる為、視覚にも捉えにくい。
それを周囲に張り巡らし神獣に巻き付かせ、絡めて動きを封じた。
『ああ!。その通り!。言っただろ?。俺の全てを使って殺してやるってよ!。』
『ちっ!。厄介な!。ふふ。しかし、それは私も同じだよ。』
『っ!?。くっ!?。そうだったな!?。』
ワニの背中から翼が生えた。
周囲を窺う頭部が異常に曲がる。
この翼。それに首の柔らかさ。ということは。
『女王の神獣もか!?。』
『ああ。融合させてもらった。梟の神獣だ。』
その羽は鋼並の硬度を持っているのか、はたまた刃のような鋭利さか、俺の糸を切り裂きやがった。
『なら、直接拳を打ち込んでやるよ!。【炎翼・飛翔】!。』
炎の翼で空を飛ぶ。
飛行能力を獲得した神獣に対抗するためには俺も飛ばなければならない。
『おらっ!。』
幸いなことに神獣は、空中ではそこまで速くはない。早々に追い付き、拳を土手腹にめり込ませる。
俺の強化した拳で、神獣の身体の一部が消し飛んだ。
『ふふ。それも想定内さ。忘れたか?。私にはもう1つの能力があるのを。』
『ああ。忘れてないぜ。緑竜も取り込んでるんだよな?。』
『ああ。そうだ。貴様の炎に侵されていない私の神獣は問題なく癒しの能力を受けることは出来る。』
だろうな。
その巨大な身体には、花が芽吹きエーテルを放出。瞬時に失った欠損を修復した。
これじゃあ、何度でやっても同じだろうな。
『ふふ。足が止まったよ。では、切り札をもう1つお見せしよう!。』
『っ!?。八体!?。』
『そうだ。神獣は1体ではない。八頭の神獣なのさ!。もちろん、強さは全て同じだ!。』
八匹の頭が次々と襲い掛かり、無数の牙が俺を狙う。
『ちっ!?。』
炎も、糸も、効かない化け物。
打撃は有効のようだが数と再生能力で決定打がない。
なら、本体を。
俺は翼を消し、全力で地面を駆ける。
一撃で仕留める。
『ふふ。その行動も!。想定内だ!。』
『っ!?。やっぱ!。そう来るかよ!?。』
『ああ。私を取り込め!。神獣よ!。』
俺は足を止める。
瞬間。8つの頭を持つ神獣の1つがセルレンを丸呑みにした。
『これが…私の最後にし、最強の切り札。持ち得る全ての力を1つにした。神聖界樹、神具、神獣、緑竜。その全てが 私 だ。』
中央にいるワニの額からセルレンの上半身が出現する。
これが奴の最終形態か。なら…。俺は…。
『はぁ~~~。これで貴様を殺…。何?。何処へ…消え?。』
『散々、色んな奴を取り込んで来たんだ。俺が、今のお前の状態を想定していないと思ったのか?。』
『何ぃ!?。』
俺はセルレンの上半身が出現した真後ろに跳躍していた。手をセルレンへ向けて…。
『お前の背後を取れ、尚且つ、一撃で 全て を攻撃範囲に収められるこの状況を待っていた。行くぜ。ラディガル。』
「ああ。全力でぶちこんでやるぜ!。」
『や、やめっ!?。』
『【雷天・降落】!。』
『ごぅぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!?!?!?。』
神獣と融合し巨大化したセルレンの全身を覆う、極大の雷が落ちた。
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