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第244話 神聖界樹 ユゾ・ライドグラ

 シュルーナさんを吸収し、巫女としての能力を奪い取った男。

 緑国の王。 セルレン・リーナズン。

 私達が今いる場所。緑国の中心に聳え立つ数千キロの幹の直径と高さを持つ世界最大の神具。【神聖界樹 ユゾ・ライドグラ】を有している。

 

『王…聞かせてくれ!。貴方は…貴方の目的は何だ?。実の娘を殺してまで…何をしようとしている?。』


 兄さんは歯を食い縛り、拳を強く握る。

 今すぐにでもセルレンへ飛び掛かりたいという気持ちを必死に抑えている感じだ。


『ふむ。確かにそれを伝えねばお前達も死ぬに死にきれんか。…この世界からの異神の殲滅。お前達に伝えたことに間違いはない。だが、私が目指している最終地点は異神を滅ぼした後、神々から与えられる祝福に満ちた恩恵にある。』

『恩恵?。それは…いったい…。』

『神々の選別に選ばれ神眷者となった際、とある恩寵を与えられた。』

『恩寵?。』

『異界の神々を打倒し得るエーテルと神具、契約神獣。そして、世界の真実。』

『世界の…真実…それは…。』

『この世界は絶対神により創造されたことに始まり、現在に至るまでのありとあらゆる知識を得たのだ。もちろん、異神達がいた元の世界についても知識として賜った。』

『しかし。それでは答えになっていない。何故、シュルーナを殺す必要がある?。俺がこの国で目覚めて以降、貴方は国を…民を…俺達を…何よりも家族を大切にしていた王であったではないか!。』

『………。そうだな。確かに神眷者となる前は、お前の言うモノが大切であった。私の全てと言っても過言ではなかっただろう。この身は千年以上の長い年月を生きてきた。そして、この国こそが私の人生の全てをかけて築き上げた宝だったのだから。』

『では…何故?。』

『簡単な話だ。今まで築き上げた宝以上の報酬が約束されたのだから。』

『報酬?。何の話を?。』

『これは神々との契約に近い。神眷者となり力を与えられる代わりに私は異界の神と戦う運命を強制された。そこに私の意思は関係ない。神々の神託は絶対だ。しかし。それに見合うだけの報酬を約束してくれたのだ。』

『な…何を…。』

『神眷者の中で最も多くの異神を殺した者には、【1つの世界】が与えられる。』

『世界?。』

『空白、白紙、虚無、無。何者にも染められていない純白の世界。その世界に最初に踏み入れた者が創造神となることが約束される、世界の起源となる空間を手にすることが出来るのだ。我々の間では【新生界】と呼んでいる。』

『その世界を手に入れて…何をする気だ?。』

『簡単だ。我が望み、我の為だけの世界を創造する。欲する全てが手に入る。あらゆる傲慢も、欲望も、幸福も。それが許され手中にある世界を。誰にも干渉されず、我が崇められ、讃えられ、謳われる。自由な世界さ。その理想郷に比べれば、この世界に生きている者達など、例え血族であったとしても無価値に等しい。新生界を与えられれば直ぐ様手に入るモノだからな。』

『…何を…世迷言を…。では、この国の民はどうするというのだ!。そんな考えを聞いた民は、もう貴方を信じない!。異神の前に貴方の居場所は無くなるのだぞ?。』

『民か…。1つ、聞くが…民とは、何処にいる者達だ?。』

『は?。何を言って…っ!?。…ちょっと待て…まさか…シュルーナと…同じ様に?。』

『私の神聖界樹の能力の1つ。他者を吸収し魔力、エーテルを奪う。吸収した者達の経験も一緒にな。この国の地下には界樹の根が蔓延っている。その何処からでもコイツを出現させることが出来るのだよ。つい先程、我が緑国に地上にいる全ての民を食したばかりだ。1つ1つは微々たるエネルギーでしかないが、集まれば、ほれ。この通りだ。既にエーテルへの変換も終了している。』

『っ!?。馬鹿な!?。なんというエーテルの量と密度だ!?。』


 セルレンの身体から泉のように湧き出るエーテル。あの量…私達を越えてる…。どれだけの命を吸収したの?。


『さて、長話が過ぎた。お前達も異神共々消えて貰おうか。』


 セルレンの周囲から延びる蔦。その1つ1つの先端にある口が開き、酸の唾液を地面に落とす。

 あれで、この国の人達を吸収したの?。

 なんて…酷い…。


『お待ちください!。』

『っ!?。お母様!?。』


 必死な形相で現れた女性。


 美しい金の髪。美貌に満ちた顔。完璧な身体。美しさを形にしたような外見のエルフ。

 あの人…確か…この国の女王様?。

 レルシューナさんのお母様。


 エンディア・リーナズン。

 

『エンディアか?。』


 だけど、様子がおかしい。

 髪は乱れ、呼吸も絶え絶え。綺麗なドレスもボロボロで…所々、焦げてる?。

 凄く弱々しいし、纏ってるエーテルも微弱…。


『セルレン!。私達の夢はまだ終わっていません!。私はまだ戦えます!。貴方の神聖界樹の無限のエーテルと、私の樹装軍隊が合わされば無敵です!。私に…もっとエーテルを!。』

『ああ。そうだな。私とお前の神具が合わされば無敵だ。』

『っ!。ええ。そうでしょう!。貴方と私の理想郷の為に!。一緒に異界の神々と戦いましょう!。』

『ああ。共に戦おう。ふんっ。』

『っ!?。』

『お母様!。お父様っ!?。』


 え?。

 何をしているの?。


『え?。セルレン?。何で?。私を?。』


 セルレンの蔦がエンディアの心臓を貫いた。


『1つになろう。互いに交わした理想郷の為にお前も私の一部となれ。』

『ぐぼっ!。そ…そんな…。一緒に…。理想の…。世界を…。って…。約束…。』


 大量の血液を吐き出したエンディア。

 セルレンに抱き付こうと手を伸ばすも、もう少しというところで2人の距離は離れた。


『セルレエエエエエェェェェェ……………。』


 エンディアの身体は地中から出現した植物…シュルーナさんを吸収した触手の舌と牙の生えた化け物に丸呑みにされた。

 そう。シュルーナさんと全く同じように。

 

『去らばだ。エンディア。』


 セルレンの身体を包むエーテルが更に上昇する。


『お母様!。お母様!。そんな…。お母様まで…。何が…何が…起きて…るの?。家族…なのに?。何で?。殺して?。お母様も?。シュルーナも?。え?。何が何なのっ!?。』

『レルシューナ…。』


 涙すら枯れたように絶望するレルシューナさん。

 兄さんにしがみつき、必死に沈む感情を踏み留めているみたい。

 彼女を、落ち着かせるように抱きしめる兄さん。


『悲しむことはないぞ?。レルシューナ。』

『…え?。』

『エンディアもまた。お前を産んだことを後悔していた。彼女も私と同じく理想郷の【新生界】を得るためにこの世界を切り捨てたのだからな。』

『…うっ…。私は…。』

『そんな奴の言葉、聞く必要はありませんよ!。王女!。』

『む?。』

『え?。』


 レルシューナさんの心を抉る言葉を空気と共に切り裂く少女が、高速でセルレンへと蹴り掛かった。


『フリア!?。』

『ええ!。王女!。貴女は間違っていません!。律夏さんと共に緑国の未来を見据えていた貴女は私達にとって心から信頼できる王ですわ!。決して失敗作でも欠陥品でもありません!。それは!。あのクソ王に向けられるべき言葉です!。』

『ほぉ。いつまで傍観しているかと気にはなっていたが…そうか。お前 達 も異神側につくのだな?。』

『ええ。そうです!。民や家族を使い捨ての駒のように扱う貴方など、もう王ではありません!。』


 フリアさんの蹴りを紙一重で回避するセルレン。


『はい!。私も!。レルシューナ様が正しいと思います!。かつて語ってくれた緑国の未来!。そのために頑張る貴女様のお姿!。私は貴女が好きです!。』

『その通りです。今や、この男は王ではない。乱心し、国を滅ぼす暴君。我々の手で止めましょう!。』

『ヴァルドレとライテアか。お前達は私に忠義を尽くしていると思っていたのだがな?。がっかりだよ。』

『戯れを!。』

『寝言は寝て言って下さい!。』


 左右から高速で間合いを詰めたのは2体の獣人。ヴァルドレとライテア。交差するように爪と牙がセルレンの身体を切り裂いた。


『切り捨てた御免!。』


 2人の攻撃に体勢を崩したセルレンに地中から現れた上下左右に開いた巨大なハサミのような角がその身体を両断する。


『ゼグラジーオン…まで…。』

『レルシューナ様…シュルーナ様を亡くされ、さぞ心を病んでいることでしょう。しかし、今はシュルーナ様の為にも前をお向き下さい。あの緑国の裏切り者を皆の力で討ち果たすのです。シュルーナ様の仇を!。』

『そうです!。共に戦いましょう!。レルシューナ様!。』

『私もお力添えします!。』

『姫様!。貴女が歩む道を我々も共に歩むことをお許しください。』

『皆…。』


 レルシューナさんも独りではありませんでした。彼女を支えてくれる仲間が沢山いる。


『はい!。皆さんの力!。私に御貸しください!。』


 兄さんの手を掴み立ち上がるレルシューナさん。目に残った涙を拭いセルレンを睨む。

 その瞳には、力強さが甦った。


『お前達。何か勘違いをしていないか?。』

『っ!?。』

『何!?。身体を切り裂いたのに?。』


 全員の視線がセルレンに集中する。

 未だに肉体は両手足を切断され、胴体を4つに分割されたまま倒れるセルレン。

 しかし、その身体からは血が一滴も出てはいなかった。


『馬鹿野郎!。速く離れろ!。』


 獏豊?。

 セルレンの近くにいるフリア、ヴァルドレ、ライテア、ゼグラジーオンの4人に大声で叫ぶ。


『っ!?。ぐあっ!。』


 その言葉に即座に反応する面々だったが、地中から剣山のように飛び出してきた蔦が彼等の身体を容赦なく貫いた。


『今のお前達は自分の変化に気がついていない。』

『ぐ…どう…いうこと…ですかな?。セルレン?。』

『ほお。辛うじて致命傷を避けたか。見事だ。ヴァルドレ。他の者もまだ生きているとは寄せ集めにしては最高戦力の名は伊達ではない…ということか。』


 倒れているセルレンの横にもう一人のセルレンが出現する。


『っ!?。セルレンが2人?。』


 全員が驚愕する。


『私の話を聞いていたであろう?。私は既に神具との【同一化】を果たしている。謂わば、この大地。神聖界樹そのものが私だということだ。この身体は、本体から切り離された端末機に過ぎん。何度倒されたところで私にダメージなどないさ。』

『馬鹿な…では、貴方を倒すには…。』

『察しが良いな。そう。私を倒すには、この巨大な神聖界樹そのものを破壊しなければならない。それこそ一撃で核諸とも消し去る威力でな。しかし、悲しいことに、この内部は私が完全に支配している。お前達程度では、その磨き上げた能力を十全に発揮することすら無理だろう。そして…。む?。』


 セルレンは、会話を遮るように飛んできた矢を指先のみで受け止めた。


『レルシューナか。』

『皆から離れて。』

『異な事を言う。近付いてきたのは彼等だ。私は攻撃されたから迎撃したまでのこと。』

『くっ!。』


 再び、弓を構えるレルシューナさん。


『未だに気付かぬか?。お前達は既に私の手を離れた。散々教えたであろう?。エーテルを持つ者には、魔力しか操れない者はどう足掻いても勝つことは出来ないと。』

『っ!?。』


 彼等は自分の身体から発せられるエネルギーがエーテルから魔力に変化したことに気が付いた。

 いつの間に、さっきまでエーテルを扱っていたのに…。


『エーテルが失われた!?。』


 兄さんも気が付いたみたい。


『お前達にエーテルを貸し与えていたのは私だ。当然、裏切り者達にいつまでも我が神具の恩恵を与えてやる筋合いはない。回収ついでにお前達がこれまで培ってきた経験も頂いた。レルシューナ。お前の弓術もな。ああ、そういえば、お前達の装備も私が授けたモノだったな。返して貰おう。』


 パチンッと指を鳴らすセルレン。

 同時に、手に持っていた弓と矢がバラバラに砕け灰のように消えてしまった。

 兄さんが持っていた刀も同様に。


『そんな…私達じゃ…戦うことも…出来ない…の…。』

『さて、と。異神の前に目障りな裏切り者達から始末するとしようか。』


 蔦に串刺しにされた4人に視線を向けるセルレン。


『律夏!。いつまで呆けてやがる!。』

『そんなわけないだろう!。多言!。徳是苦!。』

『はいよ!。そう言うと思ったぜ!。』

『了解した!。』


 兄さん、獏豊、多言、徳是苦が一斉に走り出す。


『お前達が動くことも想定内だ。だが、お前達では私を止められない。無駄死するだけだぞ?。』

『ああ。そうだな。』

『けど、私達もいますよ!。』

『忘れられちゃ困るよ!。』

『何?。』


 空苗。砂羅。累紅。皆も来てくれた。


『異神か!?。だが、如何にお前達だろうと、この支配空間の中では私に攻撃を加えることすら出来ん!。』

『それはどうかな!。砂姉!。』

『はい!。神聖界樹そのものなら無理でしょうが!。蔦程度なら!。』


 砂羅が触れた蔦が一瞬で干からびて砂となった。幾重にも張り巡らされた蔦に貫かれ自由を奪われていた【リョナズクリュウゼル】の皆さんが拘束を失い地面に落ちる。

 彼等を抱え、セルレンから距離を取る兄さん達。そのままレルシューナさんの元に駆ける。


『やはり!。累紅ちゃん!。』

『おっけー!。螺旋よ!。』

『こっちもです!。砂になれ!。』


 セルレンに触れた2人。

 累紅が触れた箇所は捻れ曲がり、砂羅が触れた箇所が砂になって消えた。


『馬鹿な!?。私の支配空間の中で、私に効果を及ぼす攻撃をしてくるだと!?。』

『やっぱり!。内功で練ったエーテルを直接流し込めば能力を使えるよ!。』

『ええ!。これならまだ戦えます!。』

『ええい!。鬱陶しい!。私から離れろ!。』


 ワニのような顔を持つ植物がセルレンの周囲に現れた。


『累紅ちゃん!。』

『うん!。』


 2人は跳躍し私の元に戻ってくる。


『皆さん…私の為に傷付いて…。』


 助け出された【リョナズクリュウゼル】の面々に近付くレルシューナさん。


『姫さんのせいじゃねぇよ。全部あの馬鹿が悪い。』

『ああ。その通りだ。』

『レルシューナ。皆を頼む。守ってやってくれ。』

『律夏?。…はい。分かりました。』


 兄さん達が私達に近付いて来る。


『兄さん…獏豊…多言…徳是苦…。』

『お前に放った数々の誹謗中傷、その他、罵詈雑言の全てを謝罪する。』


 兄さんが私に頭を下げる。


『え?。あの…その…。はい…。大丈夫です。気にして…ないと言えば嘘になりますが…大丈夫です…。』


 急なことに上手く言葉にならなかった。


『散々、酷く傷つけてしまったが…やはり、俺は…。』

『兄さん…。』

『なぁ。俺達は前世でお前さんのことを何て呼んでいたんだ?。』

『え?。その…。』

『獏豊、貴方は 姫さん と言っていましたね。』


 私の代わりに砂羅が答える。


『おお…と。それはこっちの世界の姫さんと被っちまうな…まぁ、良いか。俺は姫さんにつくぜ。色々、しちまったが…許してくれねぇか?。』

『言葉に気を付けろ!。お前はいつもいつも!。美緑様…私は貴女をそう呼んでいたのですよね?。』

『え?。あ、はい。空苗…。』

『俺達も姫さんかい?。』

『多言はそうです。徳是苦は姫でした。』

『了解。じゃあ、そうするかな。姫さんか…しっくり来るな。なんか。へへ。懐かしい感じがする。』

『ふむ。何故だろうな。心が満たされていく感覚がある。長年の心の重しが消えたようだ。』

『み…美緑…。だったな…。』

『兄さん…。』


 兄さんが再び頭を下げた。

 それに合わせるように他の4人も頭を下げる。


『未だに記憶も戻らず、謝罪のみの我々で身勝手かと思うだろうが、俺達に君の力を貸して欲しい。悔しいが、俺達ではセルレンを倒すことが出来ない。希望は君達だけだ。』


 見ると、レルシューナさんや他の人達も頭を下げていた。

 皆が緑国の為に1つになろうとしている。

 再び、私の元に集まってくれた…かつての仲間達…。

 私を求めてくれている…。

 じゃあ、私がやることは決まっている。


 流れそうになる涙を必死に堪える。

 今はまだ泣いちゃダメだ。


 そんな私の肩に手を乗せる3人。

 砂羅…累紅…涼さん…。私の視線に…頷いてくれる。私の好きにして良いと。何処までもついていくと。伝えてきている。

 なら、私は…私の成すべきことをするだけです!。

 涙を拭って兄さん達を見つめる。


『皆さんは私を信じてついてきてくれますか?。』


 そうです!。

 だって、私は…。


『『『『『はいっ!。何処までもっ!。』』』』』


 緑龍絶栄のギルドマスターですから!。

次回の投稿は21日の木曜日を予定しています。

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