第243話 和解
私達 元 緑龍絶栄の私、美緑。砂羅、累紅、涼さん。
対するは、かつての仲間達。
現在 緑国の最高戦力【リョナズクリュウゼル】の私の兄さんである律夏、多言、徳是苦、おそらく遠くに隠れている空苗さん。
そして、2人の王女。
緑龍絶栄と緑国との戦いが始まった。
私の相手。目の前には2人のエルフ。
2人とも綺麗な金髪。エメラルドグリーンの瞳。容姿も美しく。人とは明らかに違う美貌を持っている。
仮想世界で見た、ゲームやアニメに登場するエルフという種族そのものの外見です。
緑国の第一王女で姉のレルシューナさん。
第二王女で巫女。妹のシュルーナさん。
彼女達を守るように翼を広げる緑龍。
確か巫女を守護するために神から与えられた存在。その強さは神獣以上と聞きますが…。
強敵…ですが。私はお二人と戦うつもりはありません。
きっと、すれ違いから発生したこの戦い。
神による陰謀か、神眷者による策謀か。
彼女達の様子を見るに、本当にこの国を思って私達と戦っている。
そんな彼女達に兄さん達も協力しているようですし、彼女達が悪者にはとても見えません。
だから。話し合って誤解を解くのです。私達に戦う意思はないと知って貰うために。
『はい。私達はお友達になれる筈です。』
私の言葉に目を丸くするレルシューナさん。
信じられないといった表情。
構えている弓にエーテルが集まっていく。
『ふ、ふざけるな!。異神のくせに…友達だと?。この世界を滅ぼそうとしている奴の言葉などに耳を傾けると思うな!。信じられるか!。』
当然の反応でしょう。
彼女達はおそらく、物心つく前から異神がこの世界に及ぼすとされる恐怖を叩き込まれていたのでしょうから。
その情報が嘘でも真実でも彼女達にとって伝えられた神託と伝承にある異神の姿こそが信じさせられた事実。
洗脳に近い形でねじ曲げられた異神の幻像。
そう簡単に拭い去ることは出来ないことは分かっています。
『………貴女の名前はレルシューナさん。ですよね?。』
『っ?。あ、ああ。』
拒絶しようとも、私の言葉に反応を示してくれる辺り、彼女の人の良さと優しさ、そして、冷静さが鑑みえる。
きっと、戦いとは無縁な性格なのでしょう。
『貴女は、兄さ…律夏のことが好きなのですか?。貴女が彼に向ける眼差しに愛しさを感じるのですが?。』
彼女が兄さんに向ける眼差しは私達が閃さんに向けるモノと同じでした。
愛しくて堪らない。本当に心の底から愛している。そんな感情が伝わってきました。
『っ!?。い、いきなり何を?。今は、そんなこと関係無いだろう!。』
『答えてください。』
『………。』
顔を赤くし照れながらもレルシューナさんはモゴモゴと項垂れながらも答えてくれた。
『ええ!。好きよ!。愛しているわ!。将来を誓い合ったのです!。それに、私と共に緑国を導いてくれると約束もしてくれた。心から想う男性です!。』
必死なレルシューナさん。
過去の兄さんは女性にあまり興味がありませんでした。いえ、私がいたからかな?。そんな余裕が無かったからかもしれません。
ですが。今はこうして、互いを想い合える女性に巡り合えたのですね。
良かった…心から嬉しく思います。
『そ、それに、妹の…シュルーナも律夏を慕っている。シュルーナの苦しみを理解してくれる。解決するために尽力してくれる!。』
隣にいる妹のシュルーナさんがレルシューナさんの服の裾を掴み、隠れながらも同意するように首を縦に振った。
『そうですか。ふふ。けど、律夏は真面目でしょ?。気を使いすぎて、倒れるまで頑張ってしまう。』
『え?。ええ…。』
『誰かに頼ることもせず、全てを自分で抱え込んでしまうから…周りの人達に逆に心配されてしまう。』
『………。』
『けど、誰よりも仲間のことを考えてくれていることが分かってしまうから、皆も律夏を放っておけない。』
『………。』
『戦うの姿も、リーダーとして皆をまとめあげる姿も、日々の努力する姿も…本当に真面目で真っ直ぐでしょ?。』
過去の兄さんの姿を思い出しながら、言葉を紡ぐ。
『…貴女は…本当に…本当の律夏の妹…なのですか?。』
『はい。ずっと一緒に暮らしてきましたから。何でも知っています。』
『………異神は…いえ、貴女は、この国をどうするおつもりですか?。滅ぼすのですか?。』
『何もしませんよ。私達は緑国が牙を向けて来たから迎撃し、暴走を止めようとしているだけです。それに、この戦いが終われば国の復興作業を手伝うつもりでした。私が目茶苦茶にしてしまいましたし。ですが。死者は出ていません。神力を使ったので。』
『ね、姉様…。』
『シュルーナ?。』
黙って話を聞いていたシュルーナさんがレルシューナさんに呼び掛ける。
『このお姉さん。嘘を言ってない…と思います。それに、信じても…良い、気がします…。危険な感じ…しないから。』
『シュルーナ…ですが…異神を倒さなければ…貴女はずっと苦しむことに…。』
シュルーナさんの苦しみ。
彼女達の言動から神託を受けることで苦しんでいることが窺えます。巫女としての宿命というべきもの…なのでしょうか?。
『あの…。異神のお姉さん。』
『はい?。何ですか?。え、と…シュルーナさん?。』
『はい。あのね。お兄様の昔の話を聞きたいなぁ…って。』
『シュルーナ?。』
『お姉様も気になってたの。お兄様。この世界で目覚めてからずっと何かに悩んでいたから。』
兄さんが悩む?。
『どういうことでしょうか?。』
『…律夏は、過去の記憶を失ってこの国に現れた。律夏だけじゃない。異界人である多言や獏豊、空苗、徳是苦も。自分達は大切な何かを忘れていると。記憶は失われているのに、後悔の感情だけが残っているのだと語っていました。』
皆が…後悔…していた。
それって…。もしかして…。
『貴女のことを見て直感しました。きっと律夏達の心に残っている感情は貴女なのだと。だから、教えて欲しいのです。貴女方が生きていた世界での皆さんの繋がりを。』
弓を下げるレルシューナさん。
『………。少し、長くなりますが?。』
『構いません。』
『うん。知りたいです。』
『そうですか…分かりました。私の知っていることを全てお話しします。』
私は仮想世界でのことを全て話す。
兄さん達との関係も、エンパシス・ウィザメントでの出会いも、侵食された世界でのことも、彼等の最期も…。
時間にして20分くらいでしょうか。
クロノ・フィリアの話はせずに、あくまでも緑龍絶栄の皆との話を中心に彼女達に語りました。
『以上です。』
『そうですか。教えて頂き、ありがとうございました。ええ。貴女のお話で彼等の後悔も理解できた気がします。』
『お姉さんは…お兄様が好きですか?。』
シュルーナさんが真っ直ぐとした瞳で尋ねてきます。私はその瞳を真っ直ぐに見つめ素直な気持ちを伝えます。
『はい。大好きです。私の大切な家族ですから。』
『えへへ。そうですかぁ。』
『シュルーナ?。』
『お姉様。お姉さん嘘は言ってません。やっぱり神様が言ってたことは嘘みたいです。うっ…。』
『シュルーナ!?。』
笑顔から一転。
頭を押さえて座り込むシュルーナさん。
『だ、大丈夫…です…声が…神様の声が…大きく…なった…だけ…です。』
神の声。
神から巫女に伝えられる神託。それが、シュルーナさんを苦しめている。
『くそ…どうすれば…。何か…シュルーナを救う方法を知りませんか?。』
『すみません。私では…何も…。』
『そうか…。』
その時でした。
『うぐっ!?。』
激しい土煙を上げながら兄さんが私達の方向に地面を転がって来ました。頬に傷を作り、仰向きで倒れる兄さん。
その後を追うように涼さんが兄さんへ近付いていき、2人で何やら話しています。
ふと、気が付くと。2人の隣に夢伽さん達を守っていてくれた女の子が現れ、二言三言告げると兄さんは何かに納得したかのように握っていた刀を離しました。
『律夏!。』
『お兄様!。』
兄さんの元に駆け寄る姉妹。よろけるシュルーナさんを支えながら兄さんに近付いていく。
私もすぐに駆け寄りたかったけれど。
きっと、今、この世界でそれが許されるのは私ではなく。あの2人なのだと思い、身体にブレーキをかけて踏み止まりました。
『すまない。美緑。少々、手荒くなった。』
『涼さん…。いいえ。謝らないで下さい。私は平気です。』
そんな私に話し掛けてくれた涼さん。
涼さんも私のもう1人の兄さんです。
大切な存在です。私は全然、独りではありません。だから、例え兄さんに忘れられようと堪えられます。
『律夏!。大丈夫!?。酷い傷!。今、治療を!。』
『お兄様!。』
エーテルを使用し兄さんの治療を始めるレルシューナさん。治療中、兄さんにしがみついて離さないシュルーナさん。
必死な表情。2人は本当に兄さんを大切に想ってくれている。
そう思うと嬉しい。…だけど。やっぱり少し寂しいですね。
『レルシューナ…。シュルーナ…。すまない。敗けてしまった。』
『ううん。律夏は悪くない。謝らないで!。』
『うん!。お兄様は頑張ってました!。』
『………2人共。聞いてくれ。』
『え?。う、うん。』
『…はい。』
『俺達は…間違っていた…のかもしれない。』
兄さんが私を見る。
さっきまで視線から感じていた殺気や憎しみが消えて、昔の…私に優しかった兄さんの眼差しに変わっていた。
『兄さん?。』
私は小さな声で兄さんを呼んだ。
そんな私の肩に手を置く涼さん。
『この戦いを通じ、異神と俺達は分かり合える。そう思えた。争い合う必要も、国の為に戦うことも。全ては…神の都合で仕掛けられた。謂わば。俺達は世界という盤上で異神を倒すための駒に過ぎなかったのではないか…と、考えている。』
『それって…。』
『彼等はシュルーナの苦しみを取り除く方法を知っていると言った。』
え?。そうなのですか?。
私は涼さんを見る。すると、涼さんは横に立つ女の子に視線を向けた。
『試しに。してみる?。』
少女はシュルーナさんに向かって神具を発動した。
え!?。あれって、無凱さんの【箱】?。彼女はいったい?。何者なのですか?。
『どう?。まだ。声する?。頭。痛い?。』
シュルーナさんを包み込む【箱】。
『あっ…。声…。消えた…。』
驚いた表情。
徐々に顔が歪み、止めどなく涙が流れ始めた。
『痛くない…全然、声も聞こえないです!。聞こえなくなったぁ!。お姉様!。痛くありません!。』
『え!?。そう…なの?。シュルーナ!?。』
『うん!。私…これで、怖い夢見なくて良いの?。もう、声を聞かなくて良いの?。』
『今は。急場しのぎ。閃。戻って来たら。固定する。そうすれば。苦しみから解放。良かったね。』
『っ!?。お姉様…。お兄様…。』
『シュルーナ…。』
『本当に…良かった…。』
抱き合う3人。
これで戦いは終わる。私とかつての仲間達との辛かった戦いが…。
『貴女は…誰なの?。』
『私?。私はクロノ。閃の神具。』
閃さんの神具?。
彼女が?。意思を持ってる?。
不思議な存在ですね…。私では何が何だか分からないです。
灯月さんの神具が意思を持っていましたが、似たようなモノ…なのでしょうか?。
『律夏。これからどうするつもりだ?。さっきも言ったが、俺達はそちらに戦う意思が無いのなら無理に戦う気はない。過去を受け入れてくれるのならば、共に手を取り合えるだろう。』
涼さんが兄さんに質問する。
『………。』
兄さんが姉妹に視線を向ける。
レルシューナさんは首を一度縦に振り、シュルーナさんは何度も頷いた。
『ああ。俺達に戦う意思はもうない。お前達は、伝承や神託に伝えられた悪しき存在ではなかった。お前達にした数々の無礼。深くお詫びする。』
座り直し、深々と頭を下げる兄さん。
『そうですね。貴女達は聞いていたような存在ではありません。王女として、非礼をお詫び申し上げます。』
レルシューナさんも頭を下げる。
彼女を真似るシュルーナさん。
『こうしてはいられません。きっと、まだ戦っている方々もいる筈です。それに、お父様やお母様にも異神の方々が邪悪な存在ではないと伝えなければ!。真実を知れば2人も納得してくれる筈です!。』
立ち上がり走り出そうとするレルシューナ。
その時、律夏が気付く。
『レルシューナ!。』
『え?。きゃっ!?。』
『ぐあっ!?。』
突然、出現した硬質化した大量の蕀のような蔦の触手がレルシューナさんへと放たれ、それに気付いた兄さんが間一髪で彼女を庇った。
蔦に掠った肩の鎧が容易く貫通し破壊されてしまう。その勢いに地面を転がる2人。
『律夏!?。誰だ!。っ!?。』
『これ!?。空間支配?。』
『あ。間に合わなかった。所有権。最初から。相手だったから。割り込みも。失敗。』
周囲の環境が一瞬でエーテルに満たされる。
このエーテル。私達よりも強い!?。
動きが…エーテルが…外に出せない?。
『きゃっ!?。何これ!?。』
『っ!?。シュルーナ!?。』
全員が虚をつかれた一瞬。何本もの触手がシュルーナさんの四肢を拘束し樹海の奥へと引き寄せた。
『シュルーナ!。』
『くっ!。間に合うか!?。』
『『うがっ!?。』』
兄さんと涼さんが助けに入ろうとするも、地面から急成長を遂げた大量の木々が生え2人の身体を突き上げる。
隙間なく成長する木々によって身動きが取れない。シュルーナさんを救出しないといけないのに。いったい何が起きているの!?。
『ダメ。この空間。完全に支配されてる。』
少女の言う通りだ。
私の手に持っている種も成長出来なくなっている。これは…。まさか…。
『やだ!。やだ!。来ないで!。お姉様!。お兄様!。助けて!。ユーグちゃん!。助けて!。』
『コォォォォォン!!!。』
シュルーナさんを助けようとする緑竜。
しかし、ユーグドラミラさんも必死に近付こうとするも翼も胴体も木々に拘束され身動きが取れていない。
いや、それどころか。緑竜を取り込もうと何本もの触手が伸びてエーテルを吸い上げている?。
『シュルーナ!。くそっ!。邪魔をするなっ!。』
踠く兄さん。
けど、暴れれば暴れる程絡まり肉体に食い込んでいく木々や蔦。
『シュルーナ!!!。』
『お姉様!。お兄様!。助けて!。』
どんどん奥に連れていかれるシュルーナさん。その前方に植物の蕾のような物体が出現した。
『あれは…何?。』
そして、ゆっくりと開く蕾。
『ひっ!?。いやぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
まるで生き物のように口を開いた蕾。
その中は、大量にうねる触手。その一本一本から強烈な酸の臭いを撒き散らす液体を分泌していた。
何よりも恐怖を掻き立てるのは、内側にびっしりと並んだ鋭く尖った無数の歯だった。まるで、鮫かワニのような。
『やだ!。やだ!。やだ!。お姉様!。お兄様!。』
『シュルーナァァァアアア!!!。くそっ!。このっ!。離せ!。シュルーナ!。シュルーナ!。』
『シュルーナァァァァァアアアアア!!!。』
『動けない!!。エーテルが働かない!。』
『ぅぅ…。神具…。出せない…。』
行動を阻害する植物とエーテルを出せないことによる攻撃方法の消失によってシュルーナさんを助けることが出来ない。
『熱い!。熱い!。痛い!。痛い!。やめて!。やめて!。助けてぇぇぇ!。』
涙でぐちゃぐちゃになった顔で助けを求めるシュルーナさんは、その姿を触手に包まれていく。消化液なのか。溶解液なのか。分泌される液体に身体が徐々に腐ったように変色していってる。いくら暴れても無意味。
私達の必死の抵抗も空しく、植物の蕾の中に消えていく。
『やだぁ!。やだぁ!。助け………。』
蕾の口は閉じられた。
シュルーナさんを丸呑みにして。
『そ…そんな…。シュルーナ?。』
力なく膝から崩れるレルシューナさん。
私達を拘束していた木々は成長を止めた。
『コォォォォォン………。』
緑龍の消滅。
それは、巫女のシュルーナさんが本当に死んだことを意味している。
あの植物っていったい何なのですか?。
『やれやれ。役立たず共が。所詮は有象無象の寄せ集めだと証明されてしまった訳だが…。はぁ…。まぁ、良い。異神よ。私が自らお前達を滅ぼしてくれる。』
閉じた蕾の横に現れた男。
あの人は…。レルシューナさん達に似た風貌。金髪とエメラルドグリーンの瞳。美男子という言葉を形にしたような容姿。
しかし、その瞳から発せられる輝きは黒く淀んでいる。
緑国の王。
【樹聖霊神】セルレン・リーナズン。
レルシューナさんとシュルーナさんの父親。
見た目は若いけど、数千年は生きてるって聞いたことがある。
この人…凄く。嫌な感じがする…。
『お父様!。何故…何故、シュルーナを!?。』
『レルシューナか…。』
『待て。レルシューナ!。』
『律夏?。』
セルレンへ歩み寄ろうとしたレルシューナさんを止める兄さん。
『王…。何故。自分の娘であるシュルーナを殺した?。』
『王である私にお前が意見するのか?。』
『答えて貰う。あんなに…大切にしていた実の娘をその手に掛けた理由を!。』
『ふん。お前がそこまで感情を表に出すとはな。良いだろう。私は今気分が良い。特別に教えてやろう。今日、この日。私の懇願する夢への大幅な一歩を踏み出すことが出来るのだからな。お前のつまらぬ質問にも答えてやる。』
『何を…言っている。』
セルレンはシュルーナさんを呑み込んだ蕾を撫でた。
『なぁ。律夏よ?。お前の戦う目的、最大のところは、シュルーナの巫女としての神託によるところだろう?。あの娘は生まれて物心つく頃には神の言の葉に苦しんでいた。夜も眠れぬ日が続き、まだ見ぬ異界の神に怯え、恐怖する。そんな日々が続く毎日から解放する為に戦っていたのだろう?。』
『………。』
『なら、この状況はどうだ?。シュルーナのことは私も苦しんでいたのだ。神の言葉を受け入れればもっと楽な人生になっていただろうに。いつまでも振り回され泣きわめく。私も悩んでいたのだ。何故。娘は神を受け入れないのかと。』
『何を…言っているんだ?。』
『まぁ。あの娘は心が弱かったのだ…そう結論付けた。だからこそ長年に渡る苦しみからの解放。それを今実現させてやったのだ。現に見よ。シュルーナは長年の苦しみから解放されたではないか?。これが親心であろう?。』
『お父様!。律夏は何故シュルーナを殺したのかと聞いているのです!。何故…お父様が…シュルーナを…。貴方は…シュルーナを愛していなかったのですか?。』
レルシューナさんの悲痛な叫び。
『レルシューナ…。ああ。愛していたとも。だからこそ。私はシュルーナを吸収することを選んだのだ。お前とは違ってな。』
『きゅう…しゅう?。私とは違う?。』
『レルシューナ。私はお前に失望していたのだ。』
『え?。』
『私やエンディアのように神々に選ばれ神眷者になることも、シュルーナのように巫女として生まれることもなかった不出来な失敗作であるお前にな。』
『しっ…ぱい…さく…。』
『故に、私が 愛 を与えていたのはシュルーナのみだった。最後の希望としてこの戦いで異神の1人でも道連れにしてくれればと淡い期待をしていたのだが…私の神具の力を貸し与えてすら実行できないとは…。失望を通り越し絶望していたところだ。つまらん。欠陥品だとな。』
『………。そ、それは…お父様…の…本心…ですか?。』
『ああ。紛うことなくな。』
『そんな…ひどい…。』
自分の身体を抱きしめ泣き崩れるレルシューナさん。実の親に言われた酷い言葉に堪えられなかったんだ。
『セルレン!。』
我慢できずに刀を構え突進する兄さん。
『はぁ…。お前にも失望しているのだぞ?。律夏?。お前なら異神を倒すまでも、手傷くらいは負わせられると考えていたのだが。結果は裏切りだ。この世界で目覚めたお前に不自由のない生活を施してやったというのに。』
兄さんの鋭い斬撃を完全に見切り、身体を逸らすことで回避するセルレン。
『まぁ。良いだろう。お前がこうなるだろうとは考えなかった訳ではない。最初から誰独りとして信頼していたわけではないからな。』
『う…ぐはっ!?。』
『いつでも盤上で倒れる駒にしか思っていなかった。なら、その駒を倒すのは私であっても何も問題ないだろう?。』
地面から飛び出した蔦に貫かれた兄さんが地面を転がった。
『律夏!。』
『うぐっ!。』
兄さんを抱き抱えるレルシューナさん。
『お前達。忘れてはいないか?。ここが何処なのかを。』
セルレンが両手を広げると同時に地面から芽が頭を出し発芽する。急成長し各々に花が咲いた。
『馬鹿な。これは…緑竜の能力…。』
緑竜…シュルーナさんを守護していた神獣の能力をセルレンが使用した。ということは…。
『シュルーナの巫女としての能力も私は引き継いだ。我が神具の力にはこう言う使い方もあるのだよ。神託を直接受け取ることも可能になった。』
咲き誇る花から生み出されるエーテルによって、今まで支配空間を満たしていたエーテルの濃度が上昇した。
『紹介しよう。これが我が契約した神獣だ。』
セルレンの肩から現れる獣。
あれは…ワニ?。
『更に私は神獣との融合を成功させ、今では【神獣化】も果たし、同時に神具との同一化も成功させた。この意味が分かるか?。』
セルレンの意思に呼応するように神聖界樹が揺れ動いた。
『さて、いつまでも無駄話しているのも時間の無駄だな。律夏、それにレルシューナよ。異神共々ここで私自らの手で殺してやろう。我が神、アーニュルィ様より賜った神具、【神聖界樹 ユゾ・ライドグラ】でな。』
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