第240話 開戦 緑国 VS 緑龍絶栄
緑国の最高戦力【リョナズクリュウゼル】と、女王 エンディア・リーナズンとの戦いを終えた私達。
私、光歌。美鳥は軽傷。自然治癒で問題ない。燕は、動けるだけ回復。戦闘が可能になるにはもう少し掛かりそう?。
詩那は重傷。けど、神獣だったラディガルと同化したことで自己治癒力が強化されているみたい。大きな傷はもう塞がっている。人族特有の自己強化の影響もあるのかもね。凄まじい回復力だわ。
同化のことはラディガルから聞いていたけど本当に1つの身体から2つのエーテルを感じるわ。大きな犠牲から生まれた力…か。
兎針は、エーテルの使いすぎで動けない。まぁ、こっちも時間経過で回復するだろうけど、時間は掛かりそうね。
手痛くやられたわ。予想通り、敵は一筋縄じゃいかなかった。
『ねぇ。光歌さん?。』
『ん?。何よ?。燕。』
『あのぉ。今更なんだけど。何で敵の中枢に攻め込むメンバーを異神じゃないメンバー中心にしたのかなぁって。』
『ああ。その事。』
『魔力しか操れない3人じゃ。美緑ちゃんの負担が大きいような気がして。あっ!。勿論、役立たずとか酷いこと言うつもりはないよ?。けど、中枢には絶対に強い奴が待ち受けてると思ったからさ。魔力じゃエーテルに勝てないし。どうしてかなぁって思って。』
燕の発言はもっともだ。
扱うのが魔力ではエーテルを使う者に勝てない。
『3人の意思を尊重したのも分かってる。だけど、一番危険そうな場所に送り込んだ理由が知りたかったの。』
『簡単よ。あの娘達を死なせないため。』
『え?。どういうこと?。』
私は神具を取り出す。
一度、創造した神具はエーテルの状態に戻すことも、エーテルから再び創造することも自由だ。便利よね。それに自分自身の分身って感じがするし。
『今回の戦い。私達の成長…神具っていうイレギュラーがあったからこそ私達は勝てた。作戦が始まる前になんか、そんなこと考えてもいなかったし、敵全体の戦力も個別の戦闘力も不明。結果だけ見れば私達は真面にぶつかって神具を使ったから勝てたようなもの。現に、魔力しか操れなかった詩那はラディガルと同化することで勝利したみたいだし。夢伽達をこっちに回せば私達じゃ守りきれなかった。』
『そうですね。私達の中で回復するスキルを持っているのは美緑ちゃんだけ。』
『あっ…そうか。』
『美緑の負担は大きいけど。あの娘は強いから、私達よりも夢伽達が生き残る可能性が高いと考えた。』
『けど…敵も一筋縄じゃいかないよね?。』
『そうよ。けどね。ここには元【緑龍絶栄】のメンバー。つまり、美緑のかつての仲間達が敵として揃ってる。』
『美緑ちゃん。泣いてるよね。かつての仲間と戦わないといけないなんて…。』
『まぁ。当事者達で何かしらの結果が得られれば良いけどね。』
『どういうことですか?。』
『ふふ。気付かない?。美鳥も。燕も?。』
『え?。何を?。』
『強いエーテルの反応が増えてること。』
この気配は、私達がここに侵入した時から近くにいた。
しかも、緑国全体に発生している異常なエーテルの流れ。厄災と呼ばれる現象が緑国に発生している。
だけど。厄災を構成するエーテルは私達が良く知っている気配を漂わせていた。
『これ…砂羅さん?。』
『あっ…そうですね。彼女も助太刀に来てくれたのですね。』
『ふふ。それだけじゃないわ。』
その瞬間。
神聖界樹そのものが大きく揺れた。
2つの異なるエーテルが天に向かって柱を作り周囲に厄災をもたらす。やがて、放出され乱れていたエーテルは安定を獲得し私達の知っている気配が顕現する。
『美緑を守りたいって思っているのは私達だけじゃないわ。それに、敵と繋がりがある人選の方が良い結果になって終わりそうじゃない?。美緑の負担は、仲間達が引き受けてくれるわっ!。』
『何か、光歌さん…テンション高い?。』
『ふふ。嬉しいんですよ。光歌ちゃん。寂しがり屋さんですし。かつての仲間が集まっていくのがね。』
『っ!?。ち、違うし。そんなんじゃないし!?。』
からかわれて顔が熱くなる。
まぁ。図星だけど…。
『はぁ。良いわ。あの娘には先に行って貰ったし。私達も行くわよ。』
クロノには先に夢伽達の救出に向かって貰った。美緑の負担はこれで完全に消える筈。後は、当初の予定通り、美緑が作戦に集中するだけ。
私達は詩那と兎針を回復させながら中枢を目指す。
ーーー
『厄災が異神になった…だと?。』
驚愕する兄さん。
多言や徳是苦も驚いている。
私も驚いています。七つの厄災が私達の仲間だった?。では、7人の仲間が厄災と呼ばれていた?。
『累紅…。涼さん…。』
『ごめんね。美緑ちゃん。遅れちゃった。なかなか元の姿に戻れなくて。』
『安心しろ。もう。お前を悲しませない。』
『私達がついています。美緑ちゃん。これからもずっと一緒です!。』
『砂羅…。』
『それに、私達以外にも。』
砂羅は夢伽さん達の方に目をやる。
私もつられて見ると、知らない少女が夢伽さん達を治療していた。
『誰ですか?。』
『私にも分からないけれど。あの娘から閃さんと同じエーテルを感じます。』
『あっ…本当だ。』
私達の視線に気付いた少女が無表情のまま、Vサインで応えた。閃さんの知り合いですか?。何にしても、夢伽さん達を治療してくれて助かります。
『これで、貴女も前を向けますね。』
私を立たせてくれる砂羅。
『はいっ!。』
私の心は高揚を感じています。
『さてと。それじゃあ。始めましょうか?。元【緑龍絶栄】のメンバーによるケジメの戦いを。』
『うん!。』
『ああ。』
砂羅。累紅。涼さん。そして、私。
対するは、兄さん率いる。多言と徳是苦。そして、2人のエルフ。
『涼さん。』
『ああ。了解した。俺の相手は律夏だ。美緑にしたこと必ず謝らせる。』
『累紅は、あの2人を。』
『うん。多言と徳是苦だね。砂羅姉。分かった。アイツ等の目を覚まさせてやる。』
『美緑ちゃん。エーテルを消費して辛いでしょうが、あのエルフの姉妹をお願いできますか?。時間を稼ぐだけで構いません。』
『う、うん。大丈夫。砂羅は?。』
『私は遠くから此方を窺っている、かつての仲間に会ってきます。殺気は感じませんが、混乱しているようなので。』
『それって。』
『ええ。そうです。では、行きましょう!。』
砂羅の姿が砂になって消えた。
『美緑ちゃん。無理しないでね!。近くいるから!。』
累紅が跳躍し多言と徳是苦の所に向かう。
『美緑。律夏は任せろ。必ず謝らせてやるからな。』
『涼さん…。』
『お前の思いは俺達全員に届いている。俺達の役目はその思いを現実にしてやることだ。』
涼さんが兄さんに向かって対峙した。
私の相手は…。
『ひっ…異神っ!?。』
『来るか!?。』
2人のエルフの元に飛ぶ。
この国のお姫様だよね?。確か。
お姉さんのレルシューナさんと妹のシュルーナさん。
怯えるシュルーナさんを庇うようにレルシューナさんが壁になった。
私は躊躇わず2人の前に進み出る。
『きゅぅぅぅ!!!。』
『緑竜…。』
2人を守るようの翼を広げる竜。
この竜もシュルーナさんを守ろうとしている。
『初めまして。私は美緑です。』
『………。』
『………。』
自己紹介をしても睨まれるだけ。
相当警戒されていますね。どうにかお話が出来れば良いのですが…。
レルシューナさんがシュルーナさんの前に出て弓を構える。
夢伽さん達を貫いた彼女の武器。弓を引けば引くほどエーテルが増していき威力が上昇する。
夢伽さん達を貫いた矢。
『私はお話をしたいだけです。』
彼女達にとって私は緑国の平和を脅かす存在。警戒されて当然ですし、彼女達にすれば未知の驚異でしかない。
更に言えば、シュルーナさんはおそらく巫女。神の言葉を直接受けとることが出来る存在。
異神に関した情報も彼女が神から聞かされ緑国の方々に伝えたのでしょう。
『それ以上、此方に近付けば。射つ。』
レルシューナさんは震えながらも弓を構えた。
彼女達が異神を恐れているのは明白。
『っ!?。』
私は妖精の手のひらサイズの姿から、仮想世界での人の時の大きさに変わる。今じゃ、こっちの姿の方が偽りの姿になってしまったけれど。
エーテルを消費して肉体を変化させる。
『私に戦う意思はありません。貴女方とお話をしたいだけなのです!。』
『は、話?。』
『何を言って…。』
『はい。私達はお友達になれる筈です。』
ーーー
スコープから仲間達と異神のやり取りの様子を眺めていた空苗。
彼女の中では先程の八雲との戦闘で、この戦いに違和感を感じ始めていた。
異神と、それに連なる者。異神にも、連なる者にも各々に 思い があった。
樹界の神は必死に律夏に対し訴え掛け、機械の少女は自らが崇める神と樹界の神の為に戦っていた。
3人の連なる者もそうだ。
彼女達は自らの身を挺してまで樹界の神の為に身体を投げ出した。重傷を負い、一歩間違えれば死んでいた筈なのに。仲間の為に…。躊躇いもなく。
『伝承とは違うな。』
伝承での異神。神からの神託により聞き及んだ異神の偶像。そこから想像した異神の幻想。
侵略し、生物の死を望み、破壊を楽しみ、世界を滅ぼす。異世界からの侵略者だ。
そう聞いていた。
空苗は思う。
自分達と何が違うのか?。
愛する者。愛する国の為に戦う我々と。
大切な者の為に戦い、大事なモノを取り戻そうとする異神。
同じではないか?。
なら、何故、我々は戦っているのだ?。互いが戦う理由は無いのではないか?。
『見つけました。』
『っ!?。』
そんな疑問と戸惑いが脳内で渦巻く中。
背後に気配を感じ瞬時に距離を取る。同時にライフルを構え戦闘態勢へ。
『お久し振りですね。空苗さん。』
『新たな異神…。』
自分の名前を知っている女。
『砂羅です。覚えていませんか?。』
『………。』
女が名乗る。
しかし、名前に聞き覚えが無い。
無い。筈なのに。空苗は砂羅の顔に…声に…全てに見覚えがあった。
『やはり、覚えていないのですね。』
『お前に尋ねたい。』
空苗はライフルの銃口を下げた。
『ん?。何でしょう?。』
『お前は私の…前世を知っているのか?。』
『ええ。知っています。貴女だけではありません。律夏も。多言も。徳是苦も。獏豊のことも。仲間…でしたから。』
『そう…か。頼む。私に教えてくれないか?。私達がどんな生き方をしていたのかを…。』
ーーー
『さてさて。やりますか?。多言に徳是苦。』
私は2人に話し掛ける。
私が最期に見た2人の姿は端骨に操られ自我を失った可哀想な姿。
ずっと後悔していた。悔しかった。
皆が端骨に操られた瞬間。助けに入れなかった自分が。何も出来ず美緑ちゃんと砂羅姉に助けを求めた自分の無力さに。
『俺達の名前を知っている異神か。さっきの男も女もそうだよね?。前世の知り合い多すぎでしょ。それに1人で俺達の相手をする気?。随分と余裕だね。もしかして、俺達舐められてる?。』
『我等の力。前世での記憶で知っているのだろうが。我等がこの世界で何も成長していないとでも考えているのではないか?。』
2人のことは良く知っている。
何せ、ゲーム時代2人とも私より強かったんだから。神との戦いで更に自分の力不足を痛感させられたし、2人が思っている以上に私に余裕なんて無い。
『いいえ。舐めてないんていないわ。貴方達は前世でも強かった。真面目で頑張り屋だった。特に徳是苦には良くサボっていたのを怒られたくらいよ。サボり仲間だった多言なんて隠れて強くなる努力をしていたことも知っている。』
『『………。』』
『貴方達がこの世界での平和を守りたいという理由で戦っていることも知っているし、仲間思いなことも知ってる。』
そう。ずっと一緒にいた仲間だもんね。
『けどね。前世の貴方達が今の貴方達を見たら多分こう言うわ。俺達の姫を侮辱し悲しませた馬鹿に天誅を。ってね。それだけ。貴方達は美緑ちゃんが好きだった。』
『美緑か…。あの…小さい。妖精のガキだよな?。』
『ええ。そうよ。だからね。私が良く知っている貴方達の代わりに、今の貴方達にお仕置きしてあげる。』
私はエーテルを放出する。
『ああ。安心して殺す気はないわ。これは、あくまでもお仕置き。私達の美緑ちゃんを悲しませたね。』
私のエーテルに反応し戦闘態勢を取る2人。
相変わらずの反応の速さ。長年の戦闘経験がここでも活かされている。
けどね。今の私は美緑ちゃん達のような異神とは異なる存在の神。
七つの厄災となった神の1柱。
その力は、世界の現象そのもの。
武器となる神具を持たず、その代わりに空間そのものを支配することが出来るようになった。
支配した空間の厄災を発生させる神。
『厄災を操る神の力…【歪曲界】を見せてあげるわ。』
ーーー
俺は律夏の前に立った。
子供の頃以来の再会。大人になっても、子供の頃の面影は残っている。
『貴様も。俺の過去を知っている異神か?。』
『ああ。俺は涼という。最も、俺が知っているのは幼少期の頃だけだ。それ以降は…結局、会えなかったからな。』
『そうか…。しかし、先程も語った通りだ。俺は 今 を守るためにお前達…異神を殲滅する。この命を捧げ、大切な者達を守る。』
『ああ。お前ならそう言うだろうな。その真面目で一直線な性格は昔と変わらない。』
刀を構える律夏。
噂には聞いていたが全く隙の無い構え。技量の高さが窺える。
俺は律夏が戦う姿を見られなかったからな…。同じギルドに所属していたのに下っ端の俺では会うことも叶わなかった。
だが、今はこうして対面し、対峙している。
やっと同じ土俵に立つことが出来た。
懐かしさ。そして、許せなさ。
それが俺を突き動かせる感情だ。
律夏の気持ちも分かる。だが、美緑の気持ちも理解できる。
互いに大切なものを手離したくないだけ。
立場も。存在も。違えてしまった兄妹だ。そう簡単に互いの距離を縮めるのは難しいだろう。
だから…。
『来い。全力で。』
俺は、2人の仲を再び繋ぎ合わせる為に戦う。
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