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第236話 エンディア・リーナズン

 自らのエーテルによる攻撃を反射され召喚した兵力の大半が消滅したエンディア軍勢。

 土煙があがる中、よろめく身体で立ち上がったエンディア。

 美しかったドレスは土埃や塵で汚れ、袖や裾は破れていた。彼女の表情には余裕がなく焦りと激しい怒りの感情が読み取れる。


『私の…神具が…通用しない…。いえ、そんなことはない。私の神具はセルレンの能力も合わさり最強になっている!。そうよ!。戦略が間違っているの!。相手は一騎当千の異界の神。正面からの物量作戦では薙ぎ払われてしまうのは必然だった。』


 エンディアが三度目となる軍隊を召喚した。


『そうよ。場所が悪いのよ!。荒野ではダメ。もっと奇襲に特化したフィールドじゃないと。私の軍隊が得意とする場所にする!。』


 樹装軍隊が無差別に発砲を繰り返す。


『何度やっても無駄です!。』

『ウチ等には通じないし!。』


 詩那と兎針に向かう流れ弾は雷と鱗粉が全て防いでいる。既にエンディアの持つ神具では2人に傷をつけることが出来ない状況だ。


『防ぎますか。ええ。そうでしょうね。ですが。私の目的は別にあります。さぁ!。魔種よ!。神聖界樹のエーテルを吸収し成長しなさい!。』

『っ!?。兎針!。気をつけて!。』

『っ!?。これはっ!?。』


 兎針と詩那が同時に気がつく。

 無差別に放たれた弾丸は地面に深々と埋まり複数の穴を開けた。そして、地面を揺るがす大きな地震を発生させ急速に成長したのだ。

 地面を掘り進めた太く頑丈な根が張り巡らされ、荒野だった大地は一変し、木々が覆い重なる樹海が降誕した。


『あぶなっ!?。』


 急成長した木々の枝が槍のように突き刺さり、それを間一髪で避ける詩那。


『くっ!?。これでは身動きが…。』


 幾重にもうねり、重なった太い幹に囲まれた兎針。完全に閉じ込められた。

 唯一の脱出出来そうな穴は数メートル上。

 飛ぶことも出来ない広さの空間…いや、隙間ではよじ登る方法しかなかった。


『兎針!。大丈夫?。』

『ええ。何とか。私の力ではこの幹を破壊することは出来そうにありません。』


 2人は完全に分断された。

 互いの声が僅かに届く距離に。


『わかった。今助けに行くか…っ!?。』

『詩那!?。』


 姿の見えない詩那の焦り声に動揺する兎針。


『くっ!。コイツら…邪魔すんなっ!。』


 樹木の間を縫うように接近した軍隊。

 次から次に現れては詩那に攻撃を繰り出している。


『このっ!。』


 雷で牽制し、ラディカルから授けられた身体能力と柔軟性を人功気で強化し迎撃する詩那。

 だが、どんなに倒しても、焼き払おうとも即座に別の兵隊が襲い掛かる波状攻撃。

 尚も成長を続ける樹海は、その再生速度も凄まじく、雷で焼失させた瞬間、高速で元の形に復元してしまう。


『うっ!?。コイツら!。何体いるのよ!?。…っ!?。』


 木々と一体化し接近していた複数の兵が詩那に飛び掛かる。

 手に持つ木製のナイフを素早く振り抜き連携で攻撃を仕掛けた。幹が邪魔をし行動を制限された詩那の腕を木製のナイフが掠める。小さな切り傷から血が垂れた。


『こんなもん!。うっ!?。何これ!?。』


 突然、視界が回り始める。


『これ…毒?。』

『私の血液をエーテルに混ぜ合わせ媒体にした特殊な毒です。如何に異神といえど無効には出来ないでしょう。』


 何処から観察しているのかエンディアの声が樹海に響いた。


『くっそ。身体が痺れる。』


 手に持つ木製のナイフにはエンディア特製の神経毒が塗られている。

 詩那の肉体に僅かな痺れが襲う。同時に動きにキレが無くなり、集中力が散漫になってしまう。


『詩那!。ご無事ですか!?。』

『もう、1人の異神も逃がしませんよ!。』

『なっ!?。』


 太く巨大な幹の中に閉じ込められている兎針。

 唯一の出口である頭上の穴には銃口を向けた複数の兵士が兎針を狙っていた。


『撃ちなさい!。』


 逃げ場の無い兎針に狙いを定めた兵士が達が一斉に乱射。兎針にはエーテルによる砲撃が効かないことを踏まえ、全ての弾丸が植物の種に変更されていた。


『ぐっ!。蝶達よ!。壁に!。』


 無数の蝶を壁にし弾丸の雨を防ぐ兎針。

 しかし、蝶もエーテルも有限である以上、崩壊は時間の問題だった。


ーーー


ーーーエンディアーーー


 いけます!。いけます!。

 私は今、確実に異神を追い詰めている。

 ええ。そうです。私達の夢を勝ち取る為の戦いですもの。全てを投げ捨て、全てを賭けた戦い。

 セルレンと共に新たな世界を。私達の理想郷を作る為に。私達は必ず白紙の世界を手に入れる。

 だから、全てを利用する。

 国も、民も、兵も、部下も、娘や臣下も、私達に力をくれた神も利用して異神を必ず排除します!。


『さぁ。異神を休ませてはいけません!。全ての兵士達よ!。攻め続けなさい!。』


ーーー


 エンディアの翼からは羽が生え空中から樹海全体を見回していた。


『さぁ。そろそろ。私の世界です!。』


 日が沈み。夜の帳が下りる。


『ふふ。頑張りますね。樹海は暗闇の中。私の樹装軍隊は昼夜を問わずに攻め続けますよ!。視界を奪われれば集中力の維持も困難となる。エーテルを使い果たし力尽きて死になさい。』


 エンディアの瞳には詩那と兎針の姿がハッキリと確認できている。

 自身の軍隊の動きも全てが手のひらの上。


『私の神獣からは逃げられませんよ。』


 エンディアの肩に留まる梟の神獣。

 夜の狩人がエンディアの神獣だった。 


『あと数分後。私の勝利です。…きゃっ!?。』


 詩那は軍隊の攻撃をフラフラの身体で防ぐ、しかし限界が近い。

 兎針の蝶はその数を減らし続け、ベルスクア戦のように服に擬態した蝶達も防御に回していた。

 このまま攻め続ければエンディアの勝利が確定する。

 そう確信したエンディア…だったが。


 瞬間。地上から雷の砲撃がエンディアを襲う。

 直撃は免れるも、衣服を掠めた。


『馬鹿な!?。私の居場所が!?。』


 詩那は樹海の中。空すら生い茂る葉や枝で見えない。エンディアの居場所を視認することは不可能。


『いえ。無差別な攻撃ですか。往生際が悪い。』


 エンディアが樹海を見ると、様々な方向に雷が迸っていた。凡そ、狙いなどない。残り少ないエーテルで運に任せたのだとエンディアは考えた。

 上手くいけば偶然、エンディアに命中するのではないかと。


『ふふ。確かに惜しかったですよ。ですが、ただの足掻きです。自分の寿命を縮めるだけですよ。ほらね。』


 雷の砲撃が止む。


『どうやら、力尽きたのでしょう。異神にしては情けない最期ですね。』


 これで、あと一人。


『さぁ。トドメを刺しなさい!。デバッド・ヴァルセリー!!!。』

『フルッフォー!!!。』

『っ!?。これは!?。この風は!?。』


 樹装軍隊に命令を下した直後。

 彼女の神獣である梟が警戒を呼び掛けた。

 それと同時に巻き上がる巨大な竜巻。木々は次々と空中に舞い上がり、倒れ、折れ、吹き飛ばされる。


『このエーテルは!?。神具!?。』


 強力なエーテルが形になる瞬間に発生するエネルギーが樹海の中に出現した。


『馬鹿な!?。この状況で神具を!?。創り出したというのですか!?。』


 覚醒。

 エーテルを扱うものにのみ許された特殊武装。

 エンディアの瞳に映るのは、全身が血で真っ赤に染まり気を失った詩那を抱き抱える兎針の姿だった。

 手には黒い蝶の羽のような美しい扇を持っていた。


『今度は、私が友達を守ります。神具…。』


 扇を振るう度に巻き起こる旋風。


『【黒蝶風翼鱗扇 バフュセル・リンロア】。』


ーーー


ーーー心象世界ーーー


ーーー閃ーーー


『あっ。待って。閃君。』


 心象の世界から現実に戻ろうとした時、アクリスに呼び止められた。

 振り返った俺に慌てた様子で駆け寄るアクリス。


『どうした?。』


 近付いてくるアクリスの手には2つの宝石。

 これは…神獣石か。神獣の核となる部位。力の源。クミシャルナ達の身体にも埋め込まれている。

 それを何故、アクリスが持って…いや、そうだ。神眷者のイグハーレンが蛇の神獣と契約していた。同じ神眷者のアクリスが契約していてもおかしくはないか。


『これ。閃君に渡すよ。カナリア様とナリヤ様に貰ったんだけど。私には最初から必要無かったから、この子達には石の中に入っていて貰ってたんだ。私に勝った閃君なら主として認めてくれると思うの。』


 アクリスは自分の力で俺と戦うことが目的だったから神獣の力は必要なかったのか。

 案の定、カナリア達から神獣を受け取っていたらしい。

 神獣石を受け取ると、2つの宝石が輝き始め、核とした生物が出現した。2体の神獣。


『こぉぉぉぉぉおおおおおん。』

『きゅっ!。きゅっ!。』


 淡い光を放つ透明な身体と星空のような煌めくヒレを持つ金魚。

 純黒の体毛に輝く金色の瞳。長くうねる7本の尻尾を持つ兎。


 かなり強力なエーテルに身を包んだ神獣だ。


『初めまして。閃だ。』

『こぉぉぉぉぉおおおおおん。』

『きゅっ!。きゅぅぅぅ!。』


 俺の周囲を回る金魚と足元に身体を擦り付ける兎。


『ははは。閃君。気に入られたみたいだよ。契約しちゃいなよ。』

『良いのか?。』


 アクリスを含め、2体の神獣にも確認する。

 仲間が増え、戦力の向上は嬉しいことだ。

 しかし、相手の意思を無視することは出来ない。


『こおぉぉぉおん!。』

『きゅっ!。』

『神獣ちゃん達も良いって。』

『そうか。なら、早速。』


 俺は2体の神獣に埋め込まれている核。

 神獣石にエーテルを流し込む。そして、神獣達のエーテルと俺のエーテルが混ざり合い、再び俺へと還元される。共有されるエーテルが満ち溢れる感覚。同化に近い現象なのかもしれないな。

 暫くすると、神獣達の身体が輝き始める。神獣達の姿が変化していく。どうやら、契約は成功したようだ。

 神獣契約は互いの心からの同意が必要だからな。神獣達は俺を受け入れてくれたようだ。


『成功だね。閃君と契約した神獣は皆人型になるんだね。不思議。神眷者達は誰一人として神獣の姿を変えることは出来なかったって聞くのに。これも最高神の力なのかな?。』

『どうだろうな?。ただ、リスティナのエーテルが影響しているのは間違いないと思う。お前も俺の記憶を見たから知っているだろうが、ラディカル達を人型にしたのはリスティナだ。俺の中に流れるリスティナのエーテルが何かしらの影響を及ぼしている可能性は高いな。』


 正直、その辺は俺にも良く分からない。

 再度、神獣達に視線を向ける。そこには2人の美少女がいた。って、また女の子かよ!?。神獣って雌しかいないのか?。


『わお。これがワイの姿なの?。凄い美人だわぁ。服も可愛いし、ヒラヒラ。ユラユラだぁ。』

『私の…姿…。ふん。まぁ。良いんじゃない?。ちょっとエッチな気がするけど…。動きやすいし…。』


 金魚だった神獣は、空中を浮遊する金魚のヒレのような美しいドレスを身に纏った、天に並ぶ星の海をイメージ出来るような美しい髪を持つ少女へ。

 兎だった神獣は、兎の耳が特徴的なフードつきの被り物、上半身はバニーガールのような扇情的なバニーコートに赤と黒のスカート。つり目で、グレーの髪色の少女へ各々に変化した。


 他の神獣の例に漏れず、人型になると美人になるな…。


『さてさて。言葉を話せるようになったので、早速ここ紹介だぁ。初めましてだぁ。ご主人様。宇宙を漂い、泳ぐ神獣。宙魚の神獣だぁ。宜しくね。』

『地底に住む大地の神獣。地底兎よ。べ、別に宜しくしなくて良いわ。勝手について行くから。ご、ご主人様!。…幾久しく。』


 何か…クセが強いな…。

 クミシャルナ達は各々の種族の頂点に位置する神獣だったが、彼女達は違うようだし。

 神が特別に創造した生物、モンスターをこの世界では神獣と呼ぶのかもしれないな。

 契約すると互いの全てが分かる。彼女達も俺の記憶を見た筈だ。

 俺が覗いた彼女達の能力はクミシャルナ達にも引けを取ってない。頼もしい味方だ。


『なぁなぁ。ご主人様。ワイ等にも名前をくれないかぁ?。』

『わ、私も…欲しい。…ふん!。』

『名前か。アクリスはつけなかったのか?。』

『うん。私はその子達の主に、ならなかったからね。折角の名前は本当のご主人様になってくれる人が良いと思ったんだ。』

『そうか。分かった。じゃあ。』


 暫し考える。

 彼女達の外見、性格、能力に合った名前。


『お前は、ソラユマ。』

『お前は…チナト。なんてどうだ?。』

『ソラユマかぁ。うん。良いよぉ。気に入ったぁ。ししし。てか、ご主人様がつけてくれた名前なら何でも良いんだぁ。』

『チナト…。い、良いんじゃない?。別に普通だけど。その名前にしてあげる。…ありがとっ。』


 どうやら気に入ってくれたようだ。改めて、2人が俺の前に立つ。


『ソラユマ。これからご主人様の為に頑張るよぉ!。どんどん命令しちゃってねぇ。ししし。エッチなことでも良いよぉ?。ご主人様の恋人さん達みたいにぃ~。ししし。』

『別にご主人様の為じゃないけど、何でも言いなさい!。適当に頑張ってあげるわ!。』

『適当とか。こんなこと言ってるけど。チナトはねぇ。さっき神獣石の中で見てた、ご主人様の戦う姿に完全にメスの顔になっていたんだぁ。』

『ソラユマっ!?。そ、そんな顔になんてなってないわよ!。ちょ、ちょっと…格好いいなぁって思って………ないからっ!。』

『ししし。素直じゃないなぁ。ワイは格好いいと思ったし、この人ならご主人様に相応しいと思ったよ。神獣は強い異性に惹かれる習性があるから。ワイは惚れ惚れだぁ。』

『っ!?。私もっ!。だからね!。ご主人様!。』


 フワフワと浮かぶソラユマが抱きついてくる。

 チナトは恥ずかしそうに近付いて俺の小指を掴んだ。


『これから宜しくな。』

『はいは~い。』

『…ふんっ。』

『ははは…あっという間にモテモテだね…。』


 すると、ソラユマとチナトがアクリスの元に飛んでいく。


『アクリス。良かったね。思った以上の結果になって。』

『うん。満足だよ。君達の主になってあげられなくて、ごめんね。』

『何を言ってるの!。これからご主人様の為に戦う仲間になれたの!。だから、謝る必要なんかないんだから!。』

『そうだね。2人共。これから宜しくね。』

『はいは~い。』

『ええ。勿論よ。』


 互いに握手をかわす3人。

 その後、アクリスに暫しの別れを告げ、増えた仲間達と共に俺は現実へと向かったのだった。

次回の投稿は22日の木曜日を予定しています。

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