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第235話 詩那と兎針

 合流した兎針と詩那の前に敵意を剥き出しにして現れたエンディア。

 展開された樹装軍隊が彼女達を取り囲む。


『A隊、そのまま前進。B隊及びC隊、敵の側面から集中砲火!。D、F、G隊!。作戦パターンAを実行!。』


 小隊規模で指示を出すエンディア・リーナズン。小隊15~20体位の樹装軍隊が荒野に変化したフィールドを土埃を巻き上げながら駆け巡る。上空には兎針、詩那を狙う空軍部隊。

 更にエンディアの奥には戦車が砲身を2人に向け狙いを定めていた。


『撃ちなさいっ!。』


 左右に展開した小隊からの一斉射撃。

 弾丸は話に聞いていた通りの特殊な植物の種だと2人は認識する。

 撃ち込まれれば、体内のエーテルと養分を吸収し急成長して対象を搾り殺す恐ろしい効果を持つ。

 

『兎針!。ウチの後ろに!。』

『はいっ!。』

『神具っ!。麗爆機雷球 ジグナザル・マイジラ!。』


 詩那と兎針を囲むように展開された8つの球体。雷を帯びた黒い塊が回転し、周囲に雷の壁を作り出す。

 数が多かろうと所詮は植物の種。強化された雷の前には全くの無力であった。

 次々に撃ち込まれる弾丸は雷に当たると瞬時に真っ黒な炭になり地面に落ちていく。


『ちっ!?。あのゼグラジーオンを倒した神具ですか!。全く、忌々しい!。小隊!。休むことなく撃ち続けなさい!。』


 舌打ちし、更に小隊を進行させるエンディア。


『これが…貴女の神具ですか?。クロノ・フィリアの皆さんが使っていた武装。』

『うん!。そうよ!。ラディガルと同化して手に入れたわ!。ラディガル曰く 心の具現化 らしいけど。』

『心の具現化…。』


 何かを考える素振りを見せる兎針。

 エーテル。心。同化。詩那の見た目。種族。

 ボソボソと考え込む兎針。


『ちょっ!?。ちょっと蝶女!?。敵の攻撃は続いてるんだからボーッとしないでよ!。』

『ああ、すみません。駄肉の能力が強力で安心していました。』

『え?。うん。まぁね。ラディガルとの絆の力だし負ける気ないけど…えへへ。そうかぁ!。安心しちゃうかぁ~。良いよぉ!。乗ってきたぁっ!。じゃあ、もっと安心させてあげるし!。』


 空を指差す詩那。

 壁として展開していた神具が周囲に八角形に等間隔で広がった。


『見ててね!。神技!。』


 雷が球体から放出。

 雷による閃光が球体と詩那の指先に繋がり周囲を巻き込んだエネルギーが迸る。

 雷の余波が周囲の軍隊が放つ弾丸を瞬時に焼き払い、接近していた小隊を吹き飛ばした。


『な、何をっ!?。このエーテルの流れ…神技ですかっ!?。』

『全部、薙ぎ払う!。【九天爆雷声咆】!。』


 指先から放たれる特大の雷。

 空中に隊列していた航空部隊を一気に焼き払った。


『馬鹿なっ!?。一撃でっ!?。』

『こんなもんよ!。』

『凄いですね。』


 ラディガルの雷を手にしたことで、詩那自身の能力である【自身の魔力を通したモノが身体を離れた時、その働きを強化する】が最大限に活かされている。

 

『どう?。まだ、する?。』

『くっ。小娘が…。』


 たった1撃。

 1撃で小隊の内7割が塵となって消失した。

 軍用ヘリも爆撃機も空に展開していた部隊は地面に落ちることなく消し炭だ。


『ま、まだ!。戦車がっ!。』


 指示を出そうと手を振りかざした直後、雷がエンディアの横を掠め、後方にあった戦車は貫かれ回転しながら吹き飛ぶ。

 指先から煙を立ちのぼらせる詩那。

 今の詩那は今まで足りなかった遠距離による攻撃方法を獲得した。故に人族である強化を十二分に発揮することが出来る。

 そして、ラディガルの雷を纏う性質で広範囲の気配すら関知することも可能だ。


『そこもっ!。』


 両手の指先から雷の光線を放ち、周囲に潜むスナイパーを撃ち抜く。


『っ…。くっ!?。化け物…。』

『心外ね。先に仕掛けたのは、そっちなのに…。』

『異神のクセに!。』

『異神。異神。異神。そればっかりね。』

『ふふ。ふふふ。まだよ。まだまだまだ!。私はまだ戦えるわ!。ええ!。そうよ!。私にはセルレンの力も、神の奇跡もあるのだからっ!。』


 詩那と会話をする気のないエンディア。

 何やら自己完結し神聖界樹からエーテルを吸収し始める。


『勝手に盛り上がっているようですが?。』

『しかも、何かやる気みたい。』


 膨れ上がるエンディアの纏うエーテル。

 

『うそ…また軍隊が復活した!?。』


 先程よりも大量の軍隊が出現する。


『うわぁ。もう、軍隊っていうかゾンビじゃん…。けど。数が増えたってウチの雷の敵じゃないし!。』

『作戦プランを変更します。パターンBへ!。』


 今度は接近せずに遠距離からの連射砲撃。

 地上、空中からの一斉掃射。


『何度、やっても無駄だし!。』

『っ!?。詩那!。これは先程までと違います!。』

『え?。ぐっ!?。』


 数え切れない数の弾丸は雷による防御に防がれるモノと、防御を貫通して詩那本体を貫く攻撃を含んでいた。


『詩那!?。大丈夫ですか?。』

『う、うん。大丈夫。ちょっと掠っただけ。けど。どうして…。』

『彼女の攻撃。今までの植物の種の弾丸からエーテルの弾丸に切り替わっています。おそらく、エーテルに貫通性を持たせた弾丸に変更したようです。そして、貴女の雷の影響を受けないように接近せずに遠距離戦闘に変更したみたいですね。』

『くっそ。どうしよう。撃ち合う?。』

『ええ。そうしましょう。』


 何故か嬉しそうな兎針。


『何で笑ってるのさ。』

『だって…今まで操作の効かない筋肉ダルマや食欲旺盛の軍隊アリ…私の能力…全然役に立たない相手ばっかりで…。』


 蝶の羽を広げ羽ばたかせる。

 周囲に大量の鱗粉が撒き散らされ漂い始める。


『やっと…やっと私の戦いが出来ます!。』

『っ!?。』


 雷を抜けて来たエーテルの弾丸は飛ばされた鱗粉に命中すると弾け反射を繰り返す。


『お返しします!。』


 鱗粉に含まれる兎針のエーテルを吸収したエンディアのエーテルが巨大な砲撃となって跳ね返される。

 

『なっ!?。』


 複数の弾丸のエネルギーが1つになって返されたことで、樹装軍隊は自分達の放ったエーテルに兎針のエーテルを上乗せされた砲撃を受けることになった。


『ああ。言い忘れていました。私の鱗粉は他者のエーテルを弾く性質を持ちます。』


 砲撃の直撃に大爆発を起こした軍隊。

 大きな音と衝撃に荒野に暴風が吹き荒れた。


ーーー


ーーー神聖界樹 とある空間ーーー


 そこは、光歌とヴァルドレ及びライテアが戦闘を繰り広げた草原だった空間。今では仮想空間は消滅し神聖界樹の幹を折り重なり剥き出しになっただけの広い空間に戻っていた。


『うっ…私は…。』

『あら?。ライテアがお目覚めになりましたわ!。』

『フリア?。っ!。お父様は!?。』

『ここだ。その様子だと怪我は回復しているようだな。』

『お父様。ご無事で…それに皆さんも。』

『ああ。ライテア嬢。ご無事で良かった。』

『ゼグラジーオンも。』


 広場に集まっているのは戦いに敗れた、緑国が王の右腕ヴァルドレ、最高戦力【リョナズクリュウゼル】のライテア、フリア、ゼグラジーオン。そして…。


『おっ。ライテア、起きたか?。』


 獏豊だった。


『獏豊…いったい。皆さんはここで何を?。』


 困惑するライテア。

 無理もない。光歌との戦いに敗れ気を失い、目が覚めると仲間達が目の前にいる状況なのだ。


『俺達は負けちまったのさ。ついでに言うとベルスクアは死んだ。まぁ、アイツは自分以外を餌さとしか思ってない奴だったからな。殺されても仕方がねぇさ。』

『戦いは…戦いはどうなったのですか?。』

『まだ、続いている。今はお姫さん達が戦ってるさ。』

『そう…ですか。では、早く助けに向かわねばっ!。』

『はい。ストップ。』

『はぎゃっ!?。』


 急ぎ立ち上がろうとしたライテアの髪を掴む

獏豊。そのまま尻餅をつくライテア。 


『な、何をするんですか!?。姫様達を助けに行かなければ!。』

『落ち着け、ライテア。』

『お、お父様?。』

『そうですわ。少し落ち着きなさいませ。』

『フリア…まで。』


 困惑を深めるライテア。

 その場の仲間達の様子がおかしい。


『姫様達を助けるのは同感だ。早く向かいたいのもな。けどな。誰の手から助けるんだ?。』

『え?。それは…その…異神から…。』

『俺達の傷、治したのは誰だと思う?。』

『え?。』

『何よりも、神託通りなら何故負けた俺達が生きているんだろうな?。』

『………。』

『傷付いた我等をこの場に集めたのは1人の少女だった。』

『どういうことですか?。』


ーーー


ーーー1時間前ーーー


ーーー獏豊ーーー


『はぁ…行ったか…痛っ…。まったく。良いもん貰っちまったな…。あれで、まだ発展途上ってか?。冗談きついわ…。』


 俺は神聖界樹に埋まったまま空を眺めていた。界樹を取り囲むように展開された異神の植物。陽の光も僅かにしか届いていない。

 内臓に大きなダメージを負った身体。エーテルを利用しても回復するには、あと2時間くらいは動けねぇな。


『はぁ…疲れた…。』


 異神との接触、戦い。話に聞いていたのと違ったな。それに…。


『やっぱ。裏がある…気がするよな…。』


 王に、女王。神から直接、力を貰った神眷者。

 異神を排除することに躍起になっているみたいだが。その目的が本当に国を…この世界を異神から守るということに、俺は疑問を抱いていた。

 思い返せば、2人が神眷者になった日から様子が変化したような…。最初は考え過ぎかと思ったが…。


『異神より国民殺してる王とか…。はは。昔はそんなことする王とは思わなかったが。神と何か契約でもしたか?。』


 王は見せしめに多くの小国の民を殺した。

 今回の戦いもそうだ。

 国全体が異神の力によって崩壊しているというのに王は民の心配を一切していない。

 俺達にも同様だ。

 俺達を使って異神を観察しているのは知っていた。しかし、それだけだ。全く動く素振りを見せない。界樹の中枢近くまで異神が侵入しているというのに。


『分からねぇな。』

『見つけた。』

『は?。』


 突然、目の前に現れた女。子供?。

 何処から現れやがった?。転移?。瞬間移動?。


『誰だ?。お前?。』

『誰でも良い。もう面倒見切れない。』

『何をっ!?。はっ!?。』


 周囲の空間が歪んだかと思えば、俺の身体は別の場所に転移させられていた。

 …って、ここ界樹の中じゃねぇか?。それに…。


『お、お前ら?。』


 連れられた場所には、気絶しているライテア。傷付き休んでいるヴァルドレとゼグラジーオンがいた。


『もう1人。』

『あうっ!?。ら、乱暴ですわよぉ。』


 再び。歪む空間。

 今度はフリアが少女に連れられ投げ込まれて来た。ゴロゴロと転がるフリアを受け止める。


『フリア…。』

『あら?。皆さん。ふふ。ボロボロですね。』

『ああ。我等は敗北した。』

『流石は伝説の存在ですな。相手になれた…かすら怪しい。』

『全員じっとしてて。傷。治す。』


 少女の手からエーテルが放たれ俺達の傷が瞬く間に治癒された。

 コイツも異界の仲間なのか?。

 しかし、戦った異神とは何かが違う気がする…。何にしても警戒が解けねぇ。


『お前は…いったい?』

『彼女は異神の仲間だ。いつの間にかこの場所に現れ異神に協力していた。その後、私とライテアを介抱してくれていたんだ。』


 ヴァルドレが語る。


『そうか…。だが、何故だ?。それなら俺達は敵の筈だろう?。』

『別に。お前達。悪者じゃない。から。でも。面倒見るのここまで。じゃあ、後は好きにして。』


 そう言い歪んだ空間の中に入ろうとする少女。


『ああ。1つ。言い忘れてた。』

『?。』

『今は助けたけど。次はないから。』

『っ!?。』

『ひっ!?。』

『こ、これ程か!?。』


 空間の中に消える少女。

 最後に放たれた殺気とエーテル。

 おいおい。俺達が戦った異神より強いんじゃねぇか?。


ーーー


『…ということがあった。』

『………異神よりも強い存在がいる。考えたくないです…。』

『まぁ。異神に負けた俺達じゃ相手にならないだろうな。けど。敵対しない限りは安心だろうさ。』

『ですが…では、私達は、これからどうすれば良いのでしょうか?。』


 異神に敗北し助けられた。

 敵が分からなくなってしまった。


『よしっ!。そろそろ行くか?。』

『え?。ど、何処にですか?。』

『お前が気絶している間に話し合った。俺達の意見は一途した。』


 立ち上がる獏豊と面々。


『本当の 敵 を見定めにさ。』

次回の投稿は18日の日曜日を予定しています。

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