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第24話 笑顔のさよなら

『やれやれ。何処に行ったのやら。』


 この僕、クロノ・フィリア所属 No.5 賢磨は、豊華さんが普段使用している隠れ家までやって来た。が、もぬけの殻。

 だが、豊華さんが普段使わない食器や大量の包帯、見慣れない布で作られた雑巾、極めつけは保管してあった回復薬が全て使われているということ、など豊華さん以外の誰かが居たことは明白。

 また、豊華さんが気に入っていた服が、採寸の末に不要になった布切れになっていたことから、恐らく。


『小さな…子供かな?』


 まだ、隠れ家を空けて時間は経っていないようで僅かに豊華さんの魔力を感じる。


『ここで魔弾を撃ったのかな?』


 隠れ家の入り口。

 豊華さんの魔力の残留を感じる。

 地面には粉々になった何かの破片が落ちていた。


『ん?金属…何かの機械の破片?』


 これを撃ち落としたのか?


『こっちか。』


 僕は豊華さんの魔力を辿ることにした。


『ここでも、魔弾を使っている?』


 周囲には撃たれた形跡が無い。

 また、残留魔力も小さい。


『第2の魔弾か。』


 第2の魔弾は超遠距離射撃。

 つまり、何処かを狙撃した?


『こっちか。』


 辿ってきた道を更に進んでみることにした。


『あそこか。』


 シャッターの壊された入り口と散乱するカメラと何かしらの武器の残骸。

 残骸から感じる豊華さんの残留魔力。


 その時。

 ドカーーーーーーーーーーーーン!!!

 空に向かって飛んでいく極大の魔力砲。


『あれは!豊華さんの第10の魔弾!』


 第10の魔弾は自身の魔力と周囲に散布された残留魔力を集束して放つ豊華さんの切り札。

 それを使わなければいけない状況か。


『今、行く。』


 僕は、第10魔弾で空いた穴の中へ飛び降りた。


『お前が!お前がぁぁああああああ!!!』

『レーザー…照準…完了。左レーザー…。』


 落下の最中に見えたのは、ボロボロの姿で這っている豊華さんと、その豊華さんを球体型の機械が狙撃しようとしていた場面だった。

 僕は魔力を集め重力の塊を掌に作り出す、同時に自身に掛かる重力を減らし落下の衝撃を緩和。


『…発射…。』


 豊華さんと機械の間に降り立ち、レーザーの軌道を重力球で折り曲げる。

 軌道を変えられたレーザーは床に命中した。


『やれやれ、やっと見付けました。何故、貴女はいつも厄介ごとに巻き込まれているのでしょうね。』

『!!!』

『なっ!?』

『探しましたよ。豊華さん。』

『賢…磨…。』


 僕は周囲の状況を確認する。

 目の前の球体型の機械。

 動く赤いカメラのような目が付いており足が4本。左腕が1本。右腕が破壊されているのは豊華さんがやったのか。

 あの豊華さんが腕1本しか破壊出来ないとは。何かあるな。

 そして、豊華さんを見る。

 腹部から血を流し、口からも血を吐いた跡がある。

 そして、小さな子供服らしきモノを抱き締めている。あれは、隠れ家にあった布の切れ端と同じモノか。

 周囲を見渡しても子供らしき人影はない。

 ということは…。


『…賢…磨…。』

『ん?』

『…優…が…ウチを…庇って…くれて…。』


 絞り出すように話す豊華さん。

 普段の姿では想像出来ない程弱々しい。

 こんな姿を見たのは久し振りだ。


『豊華さん。これを。回復薬です。』

『………。』


 僕は豊華さんに回復薬渡すと視線を目の前の敵に向ける。

 全ての元凶は目の前のコイツ。


『てめぇ。俺の嫁に何手ぇ出してんだ?』

『ピピピ…!?』


 俺は、魔力を全身に纏わせ全力で機械兵を殴り付けた。

 腕には重力球を作り威力も上げる。

 ゴーーーーーーーーーーン!!!。

 と重低音が周囲に響く。


『っ!コイツは…。』


 腕に作り出した重力球が魔力に戻され霧散した。


『成る程な。豊華さんが苦戦するわけだ。』


 今の一撃でこの状況は理解出来た。


『我々でさえ、魔力を無効化する装置は、その大きさのせいで運搬用の通路でしか使っていない。それを、1つの独立型の兵器に搭載するとはね。』


 豊華さんの戦闘スタイルは魔弾による、中から遠距離での弾幕戦闘。

 攻撃は全て魔力の弾丸で行う為、魔力そのものを無効にされると攻撃手段が無くなってしまう。

 それでも、腕を1本破壊したのは豊華さんの意地だったのだろう。流石だ。


『ピピピ…データ…照合…無し。…アンノウン…アンノウン…アンノウン…イレギュラー…危険因子…ト…指定…直チニ…排除行動二入ル…。』


 機械の左腕の赤いコアにエネルギーが集中する。


『ターゲット…照準…完了。エネルギー…チャージ…完了…左レーザー…発射…。』

『やれやれ。攻撃手段がレーザーだけなのが君の敗因だ。』


 俺は、小さな重力球でレーザーの軌道を変えて、機械の頭上に跳ぶ。


『ピピピ!!!???』

『魔力を無効化するから体外で発生させる外効魔力で作られた重力球での攻撃ではお前を倒せない。だが、体内で留めた内効魔力を込めた拳で外面の装甲が破壊できたということは物理攻撃が有効だということ。』


 俺は神具を取り出す。


『神具 重力剣!。』

『ピピピ!?』

『これはただ 単純に重い だけの剣でね。つまり。』


 俺は重力剣を振りかぶり。


『物理的に潰せば君を倒せる。』


 投げた。


 ガーーーーーーーーーーーーーーン!!!


 剣は命中し、その機械を圧し潰す。

 重さによる衝撃で周囲に円形状のクレーターができる。剣は、機械を巻き込み、そのままの勢いで地中深く埋まっていった。


 ドーーーーーーーーーーーーーーン!!!


 地中深くで起こる爆発。

 これで、戦いは終わった。

 重力剣は自動で僕の元に戻ってくる。


『豊華さん。無事ですか?』

『賢…磨…。』


 豊華さんが子供服の切れ端を抱き抱えながら僕を見る。目に涙を沢山溜め込んで。


『…優…とな…約束…した…んだ…守って…やると…。』

『………。』

『…お前の…成長を…見守って…やる…と…』

『………。』

『…母に…なって…やる…と…。』

『……。』


 僕は何も言わずに豊華さんの横に腰を下ろす。


『…それ…なのに…ウチは…最後に…助け…られて…。』

『………。』

『…優…は…ウチを…守って…くれたんだ…。』


 僕は豊華さんの頭を撫で深く息を吐いた。


『やれやれ。こんな時くらい、泣いても良いんですよ?』


 豊華さんは涙を沢山溜め込んで笑っていた。


『…な…にを…言う…ごご…で…ウチが…な、泣いで…じまっだ…ら…優…が…安心…じ、じで…天国…に…行げん…でば…ない…が…。』


 まったく。こういうところが、ほっとけない人なんですよ。

 僕は、豊華さんが落ち着くまでずっと頭を撫で続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


『落ち着きましたか?豊華さん。』

『ああ。心配かけたな。賢磨。』


 それから20分くらいの時間が流れ、急に豊華さんが立ち上がった。

 服の切れ端を大事に両手で抱き抱え笑顔で応える。

 だが、手は小刻みに震え無理をしているのが伝わってくる。

 こんな時の彼女は強情だ。意地でも平常を装うだろう。

 こういう時、彼女を支える術のない自分が情けない。


『ああ。豊華さん。』

『ん?何だ?』

『今度、喫茶店に戻ったら、つつ美さんの所に顔を出して下さい。呼んでましたから。』

『おお?つつ美からか?珍しいな。わかった。近い内に寄ろう。』

『はい。お願いしますね。』


 すると、今度は豊華さんの方から話し掛けてきた。


『でも、どうして此処がわかった?』

『ああ。豊華さんの隠れ家に行ったんですがね。もぬけの殻だったので、豊華さんの残留魔力を辿ったんですよ。何発か外で魔弾を撃ちましたよね?』

『ああ。そうか。すまんな。手間を取らせた。』

『いいえ、慣れてますから大丈夫ですよ。』


 僕が笑うと、豊華さんも笑う。


『それは?』


 僕は今回の事件のことを豊華さんに聞きたく質問を始めた。


『ん?このヒラヒラか?イヒヒ。ウチの大切な思い出だ。』

『成る程。良い子でしたか?彼は?』

『ああ。とってもだ。ウチは沢山の元気も愛も貰ったぞ。』

『そうですか。』


 豊華さんが僕にヒラヒラの布を見せニヤリと笑う。


『それで?何かウチに用事か?』

『そうです。クロノ・フィリア全員集合です。』

『む?何かあったか?全員とは。』

『ええ。詳しくは皆のところに着いてからするとして…。』

『賢磨よ。少し見て欲しい物がある。』


 突然、真剣な表情で僕を見る豊華さん。


『ん?何でしょうか?』

『此方へ来てくれ。』


 中身の無いカプセルが並ぶ薄気味の悪い空間を豊華さんの後ろをついていく。


『あれだ。』

『こ…これは…。』


 そこには見覚えのある宝石が飾られていた。


『リスティナの持っていた宝石だろう?』

『ええ。確かに似ていますね。』

『どうするべきか相談したかったのだ。』


 難しい相談ですね。

 リスティナの宝石があるということは最悪リスティナ本体もこの世界に存在する可能性だってある。

 リスティナはクロノ・フィリア23人全員が全ての力を集結させて、尚、ギリギリで勝利した最強の裏ボス。

 それが、この世界にいるとなると…。


『これは、流石に僕の手には余る。取り敢えず持ち帰り無凱に相談しましょうか。』

『そうだな。それが良いぞ。』


 僕は宝石を手に取り『アイテムBOX』に収納した。

 アイテムBOXは、ゲーム内のアイテムを入れておける異空間に作られた箱。

 アイテムは99種類99個まで収納でき、取り出しも自由。

 別枠に装備枠が10と武装枠が1つ用意されている。


『賢磨よ。』

『どうしました?』

『これから何処に向かう?仁の店に戻るのか?』

『いいえ、その前に寄るところが。』

『何処だ?』

『残りのメンバーを探します。まずは閃君たちに合流し矢志路君を回収。その後は皆で役割分担です。』

『おお、閃がいるのか?懐かしいな。最近会ってなかったからな。楽しみだ。』

『ええ。彼も豊華さんに会いたがってましたよ。』

『そうかそうか。』

『では、行きましょうか?。』

『なぁ。賢磨?。』


 僕の服を軽く引っ張り呼び止める豊華さん。


『どうしましたか?』

『出発前に少し時間を貰えんか?』


 豊華さんがずっと抱き締めているヒラヒラの布を見て、なんとなく察した。


『…良いですよ。お供しますとも。』

『そうか。助かる。』


 この地下施設から出るには豊華さんが開けた大穴から出るのが手っ取り早い。


『豊華さん。失礼しますね。』

『わぁ!?』


 豊華さんの後ろに回り抱き上げる。

 所謂、お姫様抱っこだ。

 自身に掛かる重力を軽くする。


『このままこの巨大な穴を駆け上がりましょう。』

『これは…恥ずかしいな。…あっ。』

『回復薬で治したからといっても、まだ怪我人です。我慢して下さい。』


ーーーーーーーーーーーー


『………。』


 これ…ちょっと恥ずかしいよ。


 ウチが優をからかう度に言っていた言葉。


 今度は自分が言うことになるなんてな。


ーーーーーーーーーーーー


『ふふ。』

『ん?どうしました?急に笑って?』


 嬉しそうに笑う豊華さん。


『いんや。何でもない。』

『そうですか。』

『なぁ。賢磨?』

『何です?』

『ウチ、子供が欲しいぞ。』


 頬を赤く染め少し照れながら言う豊華さん。


『え!?あっ!?』

『おっ!?』


 その言葉に驚いて重力制御を誤ってしまった。


『『あぁぁぁああああああああああああ。』』


 僕と豊華さんは元居た場所まで落ちてしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


『随分と大きいお墓にしましたね。』

『ああ!大きくなった優はこれくらい大きかったからなっ!!』


 2メートルを余裕で越える黒い金属。

 それが、コンクリートの壁で囲われた中庭の真ん中に建てられた。

 豊華さんはドヤ顔でポーズを決めている。


『それにこれ…ゲーム時代の素材アイテムの中で最も硬く、重く、錆びないという鉱物でしたよね?故に加工することが出来ず素材アイテムなのに武装に出来ないという…何故こんな物を数に制限のあるアイテムBOXに入れていたんですか?』

『む?何か面白いことに使えないかと思ってな塊を1つだけ持っといたんだ!。』

『おう…。』


 それだから回復薬ですら入ってないんですね。

 それにさっきチラッと見えましたが…何でアイテムBOXに『ただの石』と『大きな石』がカンスト状態で入っていたのでしょうね?。


『そして、見事に子供服だらけに飾られて。』

『これで服には困らぬだろう?』

『自分の持ってる服を全て子供服に作り直すことはなかったのでは?』

『優の為なら惜しくないぞ。それに天国で友達と一緒に着れば良かろう?』

『そ…そうですね。』

『さて…と。』


 豊華さんは、そう言うとお墓の前にしゃがみ手を合わせる。


『優よ。お前との長いようで短かった1週間。ウチにとっての最高に幸せな日々だった。ウチは、まだそっちに行ってやることは出来んが…いつかまた会える日を楽しみにしていてくれ。なんなら、優の方から来てくれても一向に構わんからな。にしし!』


 静かに立ち上がる豊華さん。


 コンクリートに囲まれている筈の中庭に温かな優しい風が吹き抜けた。

 そして、雲の隙間から射し込む光がお墓と豊華さんを見守るように包み込んだ。


『なぁ。優よ。守ってくれて…ありがとうな。』

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