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第232話 心象の世界での再会

 アクリスとの契約に成功した俺は周囲を見渡した。 

 一帯が白い砂で敷き詰められた夜空の世界。

 俺の心、心象の深層世界だ。

 そして。その中に、ただ一軒だけ建っている家。仮想世界で俺達家族が住んでいた一軒家。

 この心象世界で夜空に浮かぶ星々以外に光を灯している俺のかつての家がある。


『閃君。お家があるよ?。』

『ああ、昔、俺が住んでいた家だ。ここは俺の心象の世界だからか。俺が最も思い入れがある場所が具現化されたらしい。』

『へぇ。これが閃君の住んでいたお家かぁ~。やっぱり、私達の住んでいたお家とは違うね。』

『国が…いや、世界が違えば文化も違うしな。』

『えへへ。楽しみだなぁ。閃君のお家~。』

『多分、中に俺の契約している神獣が3体いる。今のアクリスと同じ魂だけの状態だ。』

『わおっ!。お友達まで、できちゃう!。』

『お友達…というか、家族だな。一緒に住むことになるんだし。』

『家族かぁ~。えへへ。嬉しいなぁ。独りは寂しいもんね。』

『だな。』


 俺達は家の敷地内に入り、玄関の扉を開けた。そして。視界に広がった光景は…。


『ははは!。どうだ!。鳥女!。どっちがボスか分かったか!。』

『誰が認めるか!。ボケ犬!。ウチに勝った気になるんは早いで!。』

『狼だって言ってんだろ!。クソ鳥!。』

『はん!。お前なんか犬っころで十分や!。てか、呼び方統一せいや!。』

『こっの!。焼き鳥野郎!。』

『誰が!。焼き鳥やねん!。ウチは不死鳥やっ!。』

『変わらねぇよ!。』

『全然ちゃうわ!。』


 ラディガル。元気そうで良かった。

 玄関では、ラディガルが赤いチャイナ服を着た少女の上に馬乗りになっていた。互いに両手を握り押し合っている。

 この気配…やっぱりアイツだよな?。

 2人共…女の子としてどうなんだ?。…って、くらい衣服は乱れ色々な箇所がポロンしていた。

 ガチ喧嘩なのか2人共全身が傷だらけだ。


『……………。』


 ガチャン。


 俺は静かにドアを閉めた。

 うん。何も見てない。そうしよう。


『閃君。凄いね!。色々と!。パンツとおっぱい!。丸見えだったよ!。おっきかった!。』


 この状況にアクリスが興奮している。


『アクリス。今のは夢だ。夢の中で鳥と狼が喧嘩をしていた。良いな?。そういうことなんだ。』

『ん~。良く分かんないけど、分かった!。』

『よしっ!。良いお嫁さんだ。』

『えへへ。でしょ~。』


 さて、どうするか。

 もう一度開けてみるか。恐いな。

 恐る恐る扉を開けると。


『はぁ…はぁ…。』

『はぁ…はぁ…。』


 人ん家。いや、もうアイツ等も一緒の家族だし住人か。まぁ、良いや。玄関で大の字で横たわる2体の獣。うん。獣だ。人の姿をした獣。そう結論付けた。だって羞恥心とか絶対無いだろ。あの2体の格好。

 

『はぁ…。はぁ…。やるじゃねぇか。焼き鳥のクセに。』

『はぁ…。はぁ…。うっさいわ。犬っころ。はぁ…。はぁ…。まぁ…。お前もな…。根性あるやないか…。見直したわ…。』


 何か不良同士が喧嘩し、お互いを認め合ったような光景になっていた。

 流石に指摘しておくか。目のやり場に困る。


『なぁ。2人とも。そろそろ服直せよ。色々と見えてるぞ?。』

『『っ!?。あ、あ、あ、あ、あ、主様!?。』主っ!?。』

『主様ぁ~。いらっしゃいなのですぅ~。』

『うがっ!?。』

『あぐぁっ!?。』


 やっと俺の存在に気が付いた2人。

 すると、奥から現れ横たわる2人を踏みつけたムリュシーレアが駆け寄ってきた。


『よぉ。ムリュシーレア。お前は本物だよな?。』

『はいです!。能力を失った瀬愛様と同化して力を取り戻して頂いたです!。消えるつもりで決心していたのですが、気付いたら主様の中に居たです!。主様!。お久し振りです!。』

『そうか。やっぱりそうだったんだな。色々と話したいことがあるが…また会えて嬉しいよ。』

『はいです!。私も嬉しいです!。』


 ムリュシーレアの頭を撫でる。

 さらさらの髪が心地良い。頭の触角がピクピクと動く。


『主!。主!。ウチも!。ウチも!。頑張った!。褒めて!。抱いて!。』

『わっ!?。』


 乱れた服を直した少女が、ムリュシーレアごと抱きついてきた。

 所々に孔雀の羽のような装飾が輝く赤いチャイナドレス。羽毛のあしらわれたもふもふのコート。髪を左右のお団子で結んだ少女。そして、エセっぽい関西弁。


『お前は…トゥリシエラで良いんだよな?。』

『そうや!。ウチはトゥリシエラや!。あれ?。そうやったわ。ウチ。この姿で主に会うの初めてやったわ。』

『お前、そんな喋り方だったんだな。』


 ゲーム時代。俺が契約していた3体の神獣の1体。クミシャルナ、ムリュシーレア、そして、トゥリシエラ。

 空帝姫の異名を持つ、空を飛ぶ生物の頂点に君臨する不死鳥の神獣だ。


『そや。主の記憶の中にあった漫画の本。片っ端から読破したんや。そして、ウチはあることに気付けたんや!。』

『あること?。』

『ししし。それはな!。関西弁を使うキャラは強いっ!。ってことや!。』

『………。』

『だからウチも真似たら強くなる思ったんや!。ついでに糸目か盲目キャラも強い法則に気付いたんやが…ウチは両方とも無理やったわ!。』


 おかしいな。記憶の中の不死鳥の姿をしていた時のトゥリシエラはこんなにアホな娘じゃなかった気がするんだが…。


『主様。』

『ラディガル?。』


 耳が垂れたラディガルが俺に近寄ってきた。

 尻尾がツンと立ちビクビクと震えている。


『俺…また、勝てなかった。』

『そうか。その話しもしたかったんだ。同化したんだな。』

『はい。敵が強くて…このままじゃ、詩那を守れないと思ったから。』

『そうだったのか。詩那と。』

『同化した詩那なら敵にも負けないから…。主様の許可も取らないで勝手に判断して…ご免なさい…。』

『気にすることはない。それにお前が謝る必要なんかもっとないよ。それより。よく詩那を守ってくれたな。ありがとう。』

『主様…。』


 ラディガルを抱き寄せる。

 普段、強気の姿は鳴りを潜め俺に体重を預けてきた。かなり自分を責めたようだ。


『また、一緒に戦おうな。』

『っ!。おうっ!。』

『ズルイわ!。主!。犬だけやない!。ウチも抱きしめてぇな!。いや、ウチが抱きしめる!。』


 今度はラディガルごと抱きしめてくるトゥリシエラ。

 ああ。ゲーム時代から甘えん坊だったのは覚えている。


『凄いね。あっという間に女の子に囲まれちゃった。』

『ん?。クンクン。お前。誰だ?。』


 冷静さを取り戻したラディガルがアクリスに近づいていく。アクリスの匂いを嗅ぎながら警戒しているようだ。


『知らない匂い。けど、主様の匂いもする。俺達と同じ神獣っぽいけど、違う気もする。』

『彼女はアクリスだ。詳しい話は後でする。いつまでも玄関で立ち話もないだろう。中に入ろうぜ。』

『はいです!。案内するです!。』


 リビングに案内され中を見渡す。内装は昔と変わってないな。所々、喧嘩の跡っぽく破壊されているが…うん。見てない。見てない。


『わぁ。これが閃君のお家なんだね。何か落ち着くよ。』


 アクリスは興味津々といった感じで家具を観察し始めた。あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。忙しなく、そして、楽しそうに。


『このソファーも懐かしいな。』


 俺はテレビの前に置いてある長いソファーに腰をおろした。その俺の姿を確認した面々が近くに座る。


『じゃあ。早速、話そうか。一応、俺なりの状況確認を憶測混じりに話すから間違ってたら言ってくれ。』

『はい。』

『はいです!。』

『はいよー。』

『うん。』


 ラディガル、ムリュシーレア、トゥリシエラ、そして、アクリスが首を縦に振る。


『じゃあ。俺が、この世界に来てからのことからだ。』


 仮想世界で死に、リスティールに転生した俺の新たな出会いと戦い、そして、再会した仲間達。無凱のおっさんとの情報共有から憶測とクロノ・フィリアメンバーの状況。

 敵である神眷者の存在。七大国家との予想される戦い。

 最後にアクリスから聞いた話を皆に聞かせた。


『こんなとこだな。』

『はい。合ってると思うです。』

『まぁ。ウチ等も全部知ってる訳やないしな。むしろ、主の話を聞いて納得したとこがあるくらいや。』

『俺は緑国で光歌に聞いたことしか分かんねぇ。』

『そうか。でだ。改めて自己紹介な。彼女はアクリス。さっき話した通り、俺が神獣契約した仲間だ。正確には神獣じゃないが、神獣に近い存在になったんだ。』


 話を振られたアクリスが深々とお辞儀をする。


『初めまして。閃君の愛人のアクリスです。これから宜しくね。』

『あ。』

『い。』

『じ。』

『ん?。何でだよ?。』


 コイツは何を言っているんだ。


『ええ。だって~。まだ、お嫁さんにはなってないでしょ?。それに記憶を共有して閃君を大切に想っている娘達もいることが分かったし。彼女達に対する閃君の深い愛情も理解したから。今は愛人って立場で良いかなぁって思ったの。もちろん、いつでもベッドに誘ってくれて良いからね!。』

『お前、さっきまでそういう知識無かったよな?。』


 アクリスの記憶を共有したが性的な知識は皆無に等しかった。つまり…。


『えへへ。閃君達から学びました。ふふ。あの娘達がしてたこと全部してあげるよ!。私!。頑張るね!。』

『………。』


 純粋だったアクリスが消えてしまった。

 アクリスのお母さん。申し訳ありません。


『オッケー。その話しは2人きりの時にしよう。』

『わおっ!。いきなり押し倒されちゃうかも?。閃君、大胆だね。そんなところも大好きだよ!。』


 アクリスが止められない…。

 純粋さが残っている分、灯月よりも対応が難しい。


『こほん。それで、まずはムリュシーレアだな。お前から見たこの世界はどんな感じだった?。』

『そうですね。各国同士が牽制をし合って辛うじて平和が続いていた。そんな感じです。』

『そこに俺達が…異神が現れたことで平和な均衡が崩れたと?。』

『はいです。今はどの国が異神を多く倒すかということで躍起になっているです。』

『紫国に行ったんだよな?。瀬愛に会いに。』

『はいです。』

『瀬愛は無事だったのか?。』

『はいです。少し危ない状況でしたが、今は他のメンバーとも合流出来ていたです。』

『そうか…。』


 瀬愛が独りでないことに安堵する。

 早く迎えに行ってやりたいな。


『トゥリシエラはどうだ?。』

『ウチは睦美に力を渡して来たで。』

『睦美か…。無事か?。』

『問題なしや。赤国に居たんやけど、あそこは内戦を繰り返しててな。正直、宜しくない状況やった。』

『赤国…。』

『赤国は最大の広さを持ってて、暮らしてる種族も多い。ソイツ等が自分んとこの種族が最強だと知らしめる為に小国同士の小競り合いが絶えんのや。』

『マジか。そんな所に睦美がいるのか。』

『けど、安心せい。種族が多いってことは主の仲間も多いってことや。基汐と合流出来てたし心配ないと思うで?。』


 基汐。俺の頼れる幼馴染み。

 その名前を聞いた瞬間、一気に安心感が心の中に広がった。


『良かった。』

『ししし。睦美は閃君のお気に入りだもんね。特別。特別。』

『茶化すな…。』

『えへへ。羨ましかっただけだもん。』


 睦美も瀬愛も無事か。

 それに仲間と合流出来たようだし。

 一先ず、当面の問題、俺の目的は白国か。


『主。これからどうすんるんや?。』

『それは…。』


 俺の目的を伝えようとしたその時だった。

 2階への階段に続くドアが開いた。テトテトと小さな少女が小走りに近づいてきて座っている俺の足の間にすっぽりと納まった。


『せんーーーーー。』

『ク、クティナ!?。』


 小柄な少女。

 神々によって創造された創造神リスティナのコピー体にして、全神獣の神。

 クティナだ。

 居たのか?。この家に!?。いや、俺の中に!?。全然気付かなかった。

 仮想世界で神に殺されて以降音沙汰が無かったが。まさか。こんな身近に。


『んーーー。閃の匂い~。久し振り~。』

『あかん。伝えんの忘れてたわ。』

『ずっと寝ていたです。』

『クティナ様…俺も気付かなかった。』


 ラディガルはここに来たばかりだから知らないのも無理はないが…。


『クティナ。今まで何してた?。』

『んーーー。冬眠してた~。閃のベッド気持ち良かったのーーー。』

『冬眠って…。』

『閃君!。閃君!。この娘がクティナちゃん!?。可愛すぎるね!。記憶にいたから知ってたけど実物がこんなに可愛いなんて!。』


 興奮したアクリスがクティナの頬を指先でつつく。


『ぷにぷにだ~。』

『くすぐったい。』


 アクリスから逃げるように俺に身体を埋めていくクティナ。


『あらら。』

『なぁ。クティナ?。』

『なぁに?。』

『この世界のことお前はどれくらい分かる?。』


 リスティナのコピー体であるクティナなら俺達の知らない情報を知っているかもしれない。


『分からない。閃の中から見てたけど。ここ。もう私の知っている世界じゃなくなってる。ルールも。生態系も。全部違う。』

『そうか。』

『ごめんなさい。』

『気にしなくて良い。仕方ないさ。』

『うん。けど。閃。強くなれること知ってる。』


 え?。


『どういうことだ?。』


 強くなれること?。


『閃。今。私とも契約してる状態。だから。今までよりも。強くなってる。私の能力使えるようになった。神獣の神の力。』

『そう言われても。特に変化はないが。具体的に何が出来るようになったんだ?。』

『閃が契約している神獣、アクリスの能力を全て使える。』 


 アクリスのことまで知ってるのか。本当に俺のことずっと見てたってことか…。


『あと。閃を中心に。一定範囲内限定で。私達を一時的に 召喚 出来る。エーテルで作った仮初の肉体を与えて。』

『マジで?。』

『まじまじ。』


 それって。凄いこと。だよな?。

 神獣達の力も使えて、且つ、一緒に戦えるってことだよな。


『女の子の姿になって見て。見た目に変化があるよ。』

『女に?。』


 言われるがままに姿を変えた。


『あっ。髪の色が違うな。』


 女の姿の髪の色は銀髪だった。

 今は前髪の色が変わっていた。それは、ここにいるメンバーの髪の色と同じだった。


『それが契約の証。閃と私達。もう。ずっと一緒。ふぅ~。眠くなった。閃。おやすみなさい。』


 話しは終わったとばかりに浮かび上がり眠り始めるクティナ。


『………。』

『主様。』

『ん?。何だ?。』

『さっきの話の続きです。これからどうするですか?。』

『そうだな。まずは緑国との戦いを終わらせる。そして、次は白国を目指し…灯月を助け出す。』

『分かりましたです!。』

『お前達の力を貸してくれ。』

『ははは。当たり前や!。ウチ等は主とずっと一緒や!。離れていた分、仰山働くで!。』

『俺もだ!。主様と一緒!。』

『私もです!。今度こそ、主様と一緒ですよ!。』

『私もだよ!。閃君の敵は私の敵だもん!。』

『皆。ありがとう。』


 その後も、今までの時間を埋めるように互いのことを話続けた。

 俺達が仮想世界にいる間のリスティールのことや、ムリュシーレアとトゥリシエラがその間どの様に行動していたか。リスティナとの間に何があったか。などなど。興味深い話が出来た。

 数時間に渡り、互いに情報共有を行い、同時に再会の他愛ない会話も楽しんだ。


『さてと。』


 立ち上がった俺に続く面々。話しは終わりだ。そのままの足で外に出る。

 何処までも続く砂の世界。今までは感じられなかったが、俺の中にいる神獣達のお陰で心象世界の存在を強く感じることが出来るようになった。

 つまり、出入りが自由に行える。


『また、来るな。それまで仲良くしろよ?。特にトゥリシエラとラディガル。』

『っ!?。くっ。はい。』

『っ!?。ぐっ。了解や。』


 そんなに嫌か…。


『うん。閃君も気をつけてね。ずっと見てるからね。』

『主。何かあればすぐに呼ぶんやで。』

『すぐに駆け付けるです!。』

『俺もだ!。主様!。』


 皆に見送られ俺は意識を本体に向けた。

 自然と何かに引き寄せられる感覚の後、はっきりと肉体へ戻った感覚を自覚する。


ーーーそして。


 現実の世界に戻った俺の目の前には、小さな身体が崩れ悲痛な声で泣いている美緑の後ろ姿があった。

次回の投稿は8日の木曜日を予定しています。

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