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第230話 アクリスとの交流

『お待たせ~。閃君~。』

『うっ…。』


 満面の笑みと幸せそうな雰囲気を漂わせた裸エプロン姿のアクリス。身体の色々なとこが揺れてる…。

 その手に持っていたモノ。テーブルの上に置かれた得体の知れない物体。皿の中に注がれていることと、手前にスプーンが置かれたところを見ると、おそらく食べ物だということは理解できる。

 しかし、色は紫、橙、青、ピンクが混ざる、混沌。水で薄めない絵の具を塗りたくったような光沢。吐き気をもよおす刺激臭は目と鼻に重大なダメージを継続的に負わせてきやがる。

 涙と鼻水が止まらねぇ…。胃が恐怖で震えてやがる。


『私ね。お嫁さんになるのが夢だったんだ~。』


 くっそ。お嫁さんとこの状況にどんな繋がりがあるんだ。俺にダメージを負わせて何を考えているんだ。

 可愛らしく笑うアクリスとは裏腹に俺の表情は引きつっている。


『あ、あのな?。アクリス。』

『ん?。なぁに?。閃君?。』

『色々とツッコミと質問をしないといけないんだが…。取り敢えず、このテーブルの上に置かれている物体は何だ?。』

『これ?。えっと。えへへ。シチューです。閃君。いっぱい戦ってお腹がすいたと思ったから沢山作りました。初めて作ったけど頑張って作ったんだ。口に合うと良いんだけど。』

『味見は?。』

『閃君が食べる分が減っちゃうからしてないです。えへへ。いっぱい食べてね。』

『…………。』

『上手に作れてたら嬉しいなぁ。』

『…………。』


 アクリス。俺の知る人物の中で、まさか豊華さん以下がいるなんて…。いや。豊華さんも何だかんだで上達してたし…。ワンチャン…。あるか?。


『あれ?。どうしたの?。早く食べないと冷めちゃうよ?。』

『………。なぁ。アクリス。』

『はい?。』

『こう言ってはお前を傷付けてしまうだろうが、この料理は失敗だ。普通の料理は目と鼻を刺激するような臭いも、無駄にブクブクと泡を立てたりしない。』

『え…。』

『………。はむ。』


 俺は覚悟を決めてシチューと呼ばれたダークマターを口に入れた。

 ぬちゃぬちゃぬちゃ。シチューとは思えないガムかゴムのような歯ごたえ。噛む度に頭が痛くなるような刺激と舌が痺れる感覚。

 意を決し呑み込むと胃に強烈な痛みと、急激な吐き気。体内に入った異物を全力で体外に出そうと身体が働いているんだ。


『はぁ…はぁ…はぁ…。』

『閃君…顔色悪い…。私…失敗?。』

『はぁ…。はぁ…。ああ。今回は失敗だな。』

『そ、そうなんだね。ごめんね。一生懸命作ったけど…はは。お料理って難しいや。』

『はぁ…。うっ…。はぁ…はぁ…。今はな。練習すれば上達する。今度、時間が出来たら…うっ…。料理を教えてやるよ。』

『っ!?。本当?。』

『ああ。上達したら、沢山食べさせてくれ。』

『うん!。うん!。私!。頑張るね!。』


 気持ち悪さでそれどころではないが…。裸にエプロン姿の状態で跳び跳ねるもんだから、色んな箇所が丸見えだ。コイツには羞恥心がないのか…。などと考えながら、戦いの時よりもダメージを受けた身体で椅子に座り直した。

 シチューもどきを片付けたアクリスが戻ってくる。


『でだ。色々と教えてくれるんだろ?。』

『うん。ああ。安心して良いよ。このお城の中は外の世界から隔絶された空間だから時間の流れが止まってるから。何時間ここに居ても現実世界の時間は止まってる。』

『そうか。』


 一先ず、安心か。

 すぐに駆け付けたいが、アクリスの秘密もこれからの行動を選択する上で重要なことだろうし。皆が無事でいてくれていると良いが…。


『なら、最初の質問だ。』


 今、最も確認したい事柄は…。


『その格好は何だ?。』


 何故、裸エプロンなのかだ。

 うら若き乙女が初対面の男の前でする格好じゃない。


『え!?。変かな?。私、お嫁さんには憧れてたんだけど、お嫁さんが具体的に何をするのかが分からなかったんだよね。大好きな人の為に全身全霊を持ってご奉仕するって教えて貰ったくらいで。』

『…どうも、偏りがある気がする。』

『そうなの!?。男性は女性、しかも、愛し合っている女性の裸にエプロンが大好きって聞いてたんだけどなぁ。特に結婚した伴侶の裸エプロンなら理性が吹っ飛んじゃうって。どう?。私を襲っちゃう?。えへへ。』


 誰かの入れ知恵か?。


『じゃあ、何で俺にその格好をするんだよ?。初対面だよな?。俺達。』

『うん。閃君のことを映像付きで教えて貰ってる内に好きになっちゃった。対面して、戦って…間近で見た閃君は映像よりも格好良かったんだぁ。私よりも強いし!。だから、私をお嫁さんにして欲しいなって、そう思ったの。えへへ。本人目の前にして言うの、何かテレるね。』

『いやいや。展開が早い。それに俺はお前のことを何も知らないし…。』

『うっ…それはそうだね。あの。閃君。』

『何だ?。』

『私のこの格好、可愛くないかな?。その…スタイルとか?。どう?。』


 くるりっとその場で回るアクリス。

 マジで下着すら着けていないようで形の良いお尻が丸見えだ。


『…いや。まぁ。正直、男心は擽られるな。』

『っ!。えへへ。そうなんだ。嬉しいな。』

『因みに、誰に教えて貰ったんだ?。』

『それはね。カナリア様だよ。閃君と結婚したいなら全力で挑むんだよって教えてくれたの。』


 カナリアァァァァァアアアアア!!!。

 あの神、何を吹き込んでやがる。

 ………ああ。思い出した。結婚とか。アピールの仕方とか…。

 今、思い出したらカナリアの魔力は灯月と同じものだった。つまり、灯月はカナリアを基に造られた神人だったな。どおりで何となく灯月みたいな思考回路だと思ったよ。


『はぁ…。』


 アクリスの全体像を確認する。


『え?。どうしたの?。そんなにじっと見つめて?。』


 ウェーブがかったミディアムヘア。薄紫色の髪に黄と青のメッシュ。エーテルの影響なのか所々が白く輝いている。

 整った顔立ち。小さな顔。大きな水色の瞳。ふっくらとしら桃色の唇。柔らかそうな頬。

 身長は…灯月より少し高いくらいか。

 小柄で細いのに女性らしい柔らかさと凹凸。


『そ、その…せ、閃君に見られるのは嬉しいけど…あ、あの…そんなに、真剣に見つめられると…その…あの…。い、今は、私、殆ど裸だし…誘惑したのはこっちだから…あの。何も、言えないけど。ちょっと…変な気分に…なっちゃうかなぁ~って…えへへ………あぅ…。』

『こらっ!。動くな!。』

『はぅっ!?。は、はい!?。』


 身体を隠して丸まろうとするアクリスを止める。

 顔を真っ赤にしたアクリスが直立する。


『わわわわわ…ご、強引だよぉ…。』

『よし、こんなもんか。【神力】発動。』

『え?。』


 創造の力でアクリスの衣服を創造する。

 動きやすく日常でも着られる服を。


『ほれ。これ着ろよ。』

『わぷっ!?。これ?。服?。』

『いつまでも、そんな格好だと話しに集中出来ないだろうが。とっとと着替えて来い。』

『閃君が…私の為に…。出してくれた…。うんっ!。待っててね。すぐに着替えて来るから。』


 パタパタと奥に消えるアクリス。

 背中を見せる度に丸見えになるお尻から目を反らしつつお茶を創造して待つことに。


 創造神の力を繰り返し使用したことで分かったことがある。

 この力は、俺の想像力に完全に依存するということ。

 俺が知るモノ…知識として具体的なことを知っているモノは創造出来るが、アバウトな知識、想像力が追い付かない未知のモノは創造出来ない。

 最も簡単な使用方法として、目の前に本物があれば即座にコピーすることが出来る。アクリスとの戦いの時はこの使い方をした。ただ、複製するだけだからな。実物が目の前にある分簡単なんだ。

 あとは、世界のルールに反するモノは創造出来ない。この世に存在しないモノという意味だ。リスティナなら出来るだろうが、それは俺が本来の創造神ではないからだろう。

 神共が言っていた通り、俺の根底は【観測神】だからな。創造神としての力は本家のリスティナにどうしても劣ってしまう。


『お待たせ。閃君。こんなに可愛い服をありがとっ!。』

『気にするな。うん。似合ってるな。』

『えへへ。ありがとっ。けど…何かテレるね。サイズぴったり。私の全てを知られちゃってるみたいでドキドキするよ。』

『あそこまで裸同然だとな…。』


 ペンギンの顔のついたフード付きのパーカーとシャツ。短パン。完全な部屋着だけど…まぁ、良いか。アクリスの神具とかを見てしまうとどうしても青色が多くなってしまう。


『ねぇ。閃君。お話するのに隣に座っても良い?。』

『隣?。構わないけど。』

『やった。じゃあ、こっちの長椅子に座ってよ。』


 客室の奥にある長めのソファーに案内される。話が出来れば何処でも良いが、何故に腕を組んで来るのか…。隣に座ったアクリスとの距離が近いな…。


『それじゃあ。改めて自己紹介するね。私はアクリス。青国の辺境にある小さな村で育ったんだ。種族は【水魔族】。宜しくね。』


 水魔族。水鏡さんと同じ種族か。


『俺は閃だ。人族。宜しくな。』

『うん。閃君。えへへ。閃君~。』


 手を握り、満面の笑みで頷くアクリス。


『それで、お前の目的は何なんだ?。どうして俺に戦いを挑んできた?。』

『そうだな~。まず、順番にお話ししようかなぁ。』


 アクリスの顔から笑顔が消えて真剣な表情へと変わった。

 同時に組んでいた腕と握っていた手に力が入るのを感じる。


『私はね。小さな時…物心つく前からずっと身体が弱くてね。寝たきりだったの。熱も出るし、いつも目眩も吐き気がしてたんだ。自分で動くことも出来ないくらい重い病気だったの。』

『病気か…。治せなかったのか?。』

『あの時はお医者さんにも原因が分からなかったの。カナリア様の話では、生まれつき高いエーテルを身に付けて生まれたことで身体がエーテルに耐えきれない病気だって教えられたよ。』


 この世界の住人は例外と神に連なる者を除けば、基本的に魔力を扱う。体内を巡っているエネルギーが魔力だ。

 エーテルは生物を越えた存在が操るモノ。謂わば、より自然に近く、世界の歯車的な存在が扱うエネルギーだ。

 ただの生物。しかも、普通の少女の身体を持つアクリスには扱えない強力な力だ。身体そのものがエーテルの強さに耐えられないだろう。

 むしろ、良くこの年齢まで持ちこたえたくらいだ。


『結局、私は死んじゃったんだ。』


 そして、夢なのか現実なのか分からない場所でカナリアとナリヤの2柱に出会ったという。

 カナリアが言うにはアクリスの心象世界だと言っていたらしい。

 

 そして、アクリスはそこでの出来事を語る。


 カナリアとナリヤはアクリスに交渉を持ち掛けた。

 それは、2柱の叶えられる範囲でアクリスの願いを叶えるということ。

 その代わり、2柱の願いを聞いて欲しいという内容だったようだ。


 アクリスは病気の身体が原因で何も残せていないことを後悔していた。

 自分を看病してくれていた母親と親身になって様々な治療を行い続けてくれた医師の2人にお礼と感謝をきちんと伝えること。

 それがアクリスの願いだった。


 それが出来るなら何でもすると2柱の交渉に承諾した。


 2柱はアクリスの願いを叶えた。

 アクリスに仮初の肉体を与え母親と医師に会う機会を与えてくれたという。

 

『ママね。笑ってくれたの。今までありがとうって言ったら抱きしめてくれて頭撫でてくれて。私が自分の足で立っている姿を見て凄く嬉しそうに笑ってくれたんだ。』


 母親に最期の言葉を残しアクリスは別れを告げる。


『ママ。幸せになってね。ママの子供で本当に良かったです。』


 笑顔の涙を流し合いアクリスという少女の人生は終わりを迎えたのだった。


『そうか…。本当に良く頑張ったんだな。』


 俺に出来ることは…ただアクリスの話を聞き、頭を撫でてやることくらいだった。


『えへへ。ありがと。閃君の手は大きいね。』


 そこであることに気付いた。

 いや、薄々勘づいてはいたんだ。


『アクリスの身体は今も仮初なんだよな?。』

『うん。そうだよ。私の本当の身体は死んで失くなっちゃったからね。カナリア様とナリヤ様に造って貰ったの。けど、2人とも創造と蘇生は専門外らしくてね。この身体も長くは持たないんだ。』


 アクリスの身体は例えるなら、液体のエーテルを無理矢理にアクリスという型に流し込んで固めたような状態だ。アクリス自身のエーテルで形を留めている。そんな感じか。

 

『この身体はね。私が健康だった場合の成長した姿なんだって。本当の私はガリガリだったからね。』

『…その身体で良く戦ったな…。』

『えへへ。頑張りましたっ!。』

『いや。マジで凄いよ。俺に全力を出させたんだからな。』

『うん。閃君の記憶に残れたのなら嬉しいな。』

『アクリス…。』


 仮初の肉体を手にした後、2柱の神の願いを受け入れたアクリスの戦いが始まった。

 肉体と同時に神具を与えられた。神具を扱えるようになるまで2柱の元で修行を行う。

 全ては神の願いを叶える為に。


『それでね。カナリア様とナリヤ様のお願いって言うのは、閃君に会って伝言を伝えることだったんだ。』

『伝言?。』


 カナリアには1度しか会っていない。

 ナリヤには一度も。

 その2柱が伝言を?。


『閃君には白国に向かって欲しいんだって。』

『白国?。』

『そう。ある理由でカナリア様は凄く困ってるんだって。神様としての務めが果たせないって。』

『ある理由…ね。カナリアは何を望んでいるんだ?。目的は?。』

『神様の目的は【自身を基に造り出した神人との会合】。白国にはカナリア様を基にした神人が囚われているんだって。』


 その言葉を聞いた瞬間。俺の身体に電流が走った。

次回の投稿は2月1日の木曜日を予定しています。

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