第229話 実戦の中の修行
私。アクリスと閃君との戦いが始まって、丸1日が経過した。
私の持ち得る神具、【魔水極魚星 シルクルム・アクリム】の全て、全性能を使って戦ってる。
なのに、全部が防がれる、避けられる。
最初…初見は命中する攻撃もあった。だけど、次第に防がれるようになって、掠るようになって、紙一重で避けられて、今、現在は当たりもしない。
閃君は肉体強化しか使っていない筈なのに。
『はぁ…はぁ…。強い…。これが…最高神の…。』
ははは。うん。そんなこと分かってた。
カナリア様とナリヤ様に聞いてた通りの強さ…ううん。それ以上だった。
閃君。仮想世界で偶然発生した最高神。
だけど、びっくり。出会った時でさえ強かったのに…私と戦うことでもっと強くなってる。凄い!。
未知の力を引き出しているという感じじゃない。
本来、閃君が持っていた眠っていた力、今まで操れなかった力を戦いを通じて自分のモノに…制御し始めているって感じだ。
『はっ!。』
水流を纏う槍の一突きを余裕で躱され、交差気味に放たれる拳を身体を反転させて回避し距離を取った。
渦を巻く水流は刺突と同時に螺旋状に対象を斬り裂くんだけど、閃君の身体から溢れてるエーテルに阻まれてしまう。
『ふぅ。お前の動きに。大分。慣れてきた。』
『そう…みたいだね。』
『どうする?。まだ、続けるか?。』
『……………。』
どうしようかな…。降参の選択肢はないからなぁ。私の考えは決まってるけど…。
【魔水極魚星 シルクルム・アクリム】。
十二の輝く星型の神具。
輝く星を組み合わせることで十二の効果を持つ武装を作り出すことが出来る。
一つ星、回復、再生能力を持つ金魚。
二つ星、圧縮した水流レーザーを撃つ鉄砲魚。
三つ星、飛行能力を持つ飛び魚と高速で突進し串刺しにするカジキ。
四つ星、防御結界を展開できる甲冑魚。
五つ星、素早く空中を泳ぎ、音波での探索や攻撃を行うイルカ。
六つ星、鋭く長い牙で敵を貫くイッカク。
七つ星、圧倒的な大きさと水流で攻撃する鯨。
八つ星、私が創造出来る最強の生物。二頭を持つ白龍。
九つ星、水中や空中すら航行できる大型船。
十つ星、顕現している間、私の全てを強化する神海の居城。
十一つ星、私の心の世界を創造する空間支配。広大な海と永遠に続く砂浜が合わさった海辺。
十二つ星。魔水を纏う聖なる鎧と槍。
これが私の神具の能力。
カナリア様とナリヤ様に貰った私の能力。
次々と攻略されちゃってるね。
だけど。
『まだだよっ!。もっと…もっと…。君に私を覚えて貰うんだっ!。私という存在を胸に刻んで貰うから!。』
その為に…それだけの為に。ここまで来たんだから。
クゥォォォォォオオオオオン………。
上空では 2頭 の鯨が戦っている。
そう。2頭なんだよ。私の召喚した白鯨と同じ大きさの鯨がいるんだ。互いに衝突を繰り返し、高い鳴き声を響かせている。
『くっ!。これなら!。二つ星!。』
鉄砲魚が放つ水流レーザー。貫通性のある鋭い連射。
『もう。くらわねぇよ!。』
私の能力と全く同じ能力で迎撃される。
同じ鉄砲魚を召喚して同じ威力のレーザーが相殺する。
『これも…。だめ…。』
鯨や。鉄砲魚だけじゃない。
金魚も。甲冑魚も。イルカも。イッカクも…。船も。居城も。龍でさえ。この空間に2つ存在しているんだ。
『アクリス。礼を言う。お前のお陰で俺は自分の力の一端を取り戻した。』
『え?。な、何…このエーテル!?。』
閃君の身体から溢れ出る異常なエーテル。
このエーテルの質は…。世界を塗り替えるくらい強大な力を持ってる?。
『決着をつけよう。こうしてる間にも仲間達が戦っているからな。』
その瞬間、私の海辺は閃君の世界に侵食された。
ーーー
数時間に渡るアクリスとの戦い。
アクリスが展開した、この支配空間を形成している膨大なエーテルは俺にとって追い風となった。
どういうわけか。この空間内では、俺のリスティナから受け継いだ力である【創造神】の力に変化があった。
このリスティールに転生して以来、創造の力を使用すると大量のエーテルの消費によって俺は気を失ってしまっていた。
俺自身の身体が神の能力に追い付いていなかったから…だと、考えている。
『これならっ!。』
アクリスが召喚したイッカク。
長い牙を振り回しながら突進してくる。
『【神力】…。』
創造の力を発動。
襲い来るイッカクと全く同じモノを創り出す。牙同士をぶつけ合い、最終的に互いの牙が突き刺さり相討ちした。
手のひらにエーテルを集める。
しかし、この空間はアクリスの支配下にある。だが、【創造神】の力を俺のエーテルで包んだ擬似的な結界内部で使用すれば創造が可能だ。
『私の…神具と同じものを…。くっ!。』
この海辺にあるアクリスが創造した全ての神具と同じものを創造する。
『な、何で?。これも神の力なの!?。』
驚くアクリス。
アクリスの魔水極魚星が召喚した生き物達が、俺の創造したモノと衝突し消滅していく。
これだけの創造を繰り返したにも関わらず、俺の身体に疲労は窺えない。
いや、それより。使用すれば使用する程。創造の精度が上がっていく。更には一度の創造に使用するエーテルの消費が減って…違うな。無駄がなくなり洗練されているんだ。
まぁ。練習する余裕も時間も無かったからな。
『アクリス。礼を言う。お前のお陰で俺は自分の力の一端を取り戻した。』
コツは掴んだ。
身体を巡るエーテルも充実している。
この戦いの中で俺は確実に成長した。
アクリス。どういう意図と目的があって俺に戦いを挑んだのかは分からないが、彼女が語った2柱の神の名前。カナリアとナリヤ。この戦いは神が糸を引いている。
そして、アクリスは神の情報を持っている。
なら、俺が取るべき行動は。
『決着をつけよう。こうしてる間にも仲間達が戦っているからな。』
速やかに戦いを終わらしアクリスに問う。
『【神力】発動。』
『っ!?。私の世界が!?。』
俺の世界がアクリスの世界を侵食する。
アクリスの心象の本質は 海 の方なのだろう。俺の世界を阻む力が強い。
だが、砂浜は別だ。俺の世界は完全に砂浜を支配権を奪い取った。
心象の深層にあった純白の砂が砂浜の砂と入れ替わる。創造の力を秘めたエーテルの砂に。
『っ!?。ラディガル?。それに…。』
俺の 中 から3人の気配を感じる。
この世界に来てから感じなかった契約による繋がりを強く。しかし、現実にいたラディガルの気配をより強く感じるのは何でだ?。
『まさか…ラディガル…。』
死んだのか?。いや、それなら俺の中からも消える筈。なら…。同化か…。ムリュシーレアが話していた他者と同化する能力を使った可能性が高いか。昨夜に再会した後に…敵の誰かと戦い味方の誰かと同化したってことか…。
それにムリュシーレアと…懐かしいな、ゲーム時代に契約した不死鳥の神獣であるトゥリシエラの気配もある。ムリュシーレアと同様に俺の仲間に能力を与える為に同化したんだろう。
同化すれば肉体は対象となった者と融合し失う。しかし繋がりが消えずに俺の中にいるってことは…。
『はぁ…分からねぇこと、ばっかだ。けど。今は目の前に集中か。待たせたな。アクリス。』
『ううん。大丈夫だよ。あ~あ。もうちょっといい勝負が出来ると思ったんだけどね。神様から聞いていたより君は強いよ!。』
嬉しそうに答えるアクリス。
無邪気な少女のような笑顔の中には満足感を感じる。けど。その奥に隠れている何かに俺は興味を持った。
『お前のことも…知りたいな。』
『っ!?。』
『どうして俺との戦いを望んだのか…目的と神との関係も。この戦いが終わったら話してくれるんだろ?。』
『うん!。もちろん!。ふふ。けど。私に勝たないと教えてあげないよ!。』
アクリスの周囲に十二の星が集まる。召喚され展開していたアクリスの魚や船が一斉に消滅する。
『そうか。…なら。勝たないとな。』
神具である1つ1つの星が強力であった。
そして、十二の星が1つに集まった今。おそらく、次にアクリスが放つのは彼女が持つ最大の一撃だろう。
ならば。俺もそれに相応しい攻撃で迎え撃つしかない。
神具を失っている今。創造の力を使っての迎撃ではすぐに限界が訪れるだろう。いくら、自由に扱えるようになったとはいえ、俺の想像力に彼女の技を受けきれる自信がない。
『なら。やることは1つだな。』
昔から俺が最後に頼るのはこれだけだからな。
自分の拳を見つめ、集中。
全身を巡るエーテルを放出する。
人族である俺が出来るのは強化することだけ。肉体を。エーテルを。限界まで向上させる。
『凄い…エーテル…。はは。ははは!。ありがとうっ!。閃君!。私も全開だよっ!。魔水極魚星!。』
『っ!?。へぇ…そういう切り札か。』
アクリスの背後に今までに召喚された全てが出現した。
上空に浮かぶ居城からオーロラのような魔力が降り注ぎアクリス達が大幅な強化を受けた。
各々の前方にエーテルの塊が生成されていく。凄まじいエネルギーだ。
『行くよ。閃君。』
『ああ。こっちも準備完了だ。来いよ!。お前の全力を全部ぶっ壊してやる!。』
『うんっ!。期待してるねっ!。』
互いにエーテルの放出は最大値へ突入した。
『神技!。』
槍を掲げるアクリス。
エーテルを拳に集める俺。
先に動いたのはアクリスだった。
『魔水極星水波!!!。』
一斉に多方向から押し寄せる圧倒的な水流の暴力。
巨大な津波なんてもんじゃねぇ。複数方向から放たれた水流に巻き込めれれば肉体がバラバラにされるぞ。
この技は俺達の神技に劣らない威力だぜ。
『すげぇな!。アクリス!。』
強化したエーテルを人功気で更に強化。
この空間を形作るエーテルも巻き込む。
俺の神技で迎え撃つ!。
『オラァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!。』
拳を突き出し集束させたエーテルを一気に放つ。単純なエーテルの塊を放出しただけだが、膨大なエーテルと量と加速させた速度で威力を向上させた一撃だ。
互いの全力エーテルの激突。
その衝突によって互いに支配していた空間に亀裂が生じ同時に衝撃波が周囲に乱気流を生み出した。
『ぐっ…ただのエーテルなのに…強い…。』
『くっ…やっぱ…強いな…アクリス。想像以上だ。』
途轍もないエネルギーが周辺を巻き込み、アクリスが召喚した星達が形を保てず消滅していった。
『ま、まだ…まだっ!。』
『っ!?。』
違う。アクリスは神具の形成に使用していたエーテルを全てエネルギーに上乗せしたんだ。足りない分を補う為に。
『はぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
『うおっ!?。』
やはり。放出しているエーテルの威力が上がった。ぐっ…。負けねぇ。
『らぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
全身に残留するエーテルを一滴残らず拳に集める。
互いの限界を越えた衝突。その結果は…。
光の粒子が降り注いだ。
相殺。アクリスと俺の全力砲撃は全くの互角だった。
しかし、これまた驚いた。アクリスがこの結果を予測していたのだ。
鎧に使用していたエーテルを槍の先端、一点に集中させた刺突の一撃に賭けていたんだ。
『これで!。終わりっ!。』
だが。それは俺も同じだった。
アクリスの覚悟は理解していたからな。絶対に何かを狙っていることは分かっていた。
だから。
『神技。』
ーーー
ーーーアクリスーーー
私の奥の手。
エーテルの砲撃じゃあ閃君は倒せない気がしていたから。残りのエーテルを全部槍に集中させた一撃。これを叩き込むよ!。
閃君までの距離は5メートル。今の私なら間髪いれずに斬り込める!。
『神技。』
『えっ!?。きゃっ!?。あぐっ!?。』
瞬間。目の前から閃君の姿が消えた。
…と、思った途端。私の手に持っていた槍が弾け飛ばされ、同時に私の身体が地面に叩き付けられた。
『絶刻。』
閉じていた目を、ゆっくりと開く。
拳は私の顔の横に振り落とされていた。
倒れる私を見下ろした閃君の顔。
わわわわわ…初めて見る同世代くらいの男の人の顔だよ…。ち、近いよぉ…。
『俺の勝ちで良いか?。』
『………うん。私の敗けだね。』
閃君の手を借りて起き上がる。
見ると私の周囲は大きなクレーターのようになり白い砂で覆われていた。私のエーテルも吸収されたみたい。奪われたエーテルをそのまま跳ね返されちゃったんだ…。
『ははは。うん。満足だよ。ありがとね!。閃君!。』
ーーー
ーーー閃ーーー
アクリスに勝ってから30分くらいが経過した。
俺は今、アクリスの神具で出現させた居城の中にいる。
完全に制御出来るようになった創造神の力で回復したアクリスに導かれるように居城の中に入り、客室らしき場所に案内され、そのままに誘導されて椅子に座らされた。
さて、そこまでは良かった。
アクリスには色々と聞きたいこともあったしな。時間は無いが様々なことを聞きたい。少しでも時間は惜しい。
…と、いうことで『ちょっと待ってて』と言われて用意されたお茶…ではなく水…氷すら入っていない…海水を…飲み…眺めながらアクリスを待っていると。
『お待たせ~。閃君~。』
ブゥゥゥゥゥウウウウウ!?!?!?。
何故か裸エプロン姿のアクリスが、何故か物凄い臭いを撒き散らす 何か を片手に、何故か満面の笑みで。
『私ね。お嫁さんになるのが夢だったんだ~。』
などと宣った。
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