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第228話 死後の運命

 子供の頃から身体の弱かった私。

 名前はアクリス。

 動かない身体。数分ごとに咳き込み。時には嘔吐。微熱と高熱を繰り返して、立つことも、自分でトイレに行くことも出来ない身体。

 変わらない天井。変わらない私室。窓の外に微かに見える風景だけが私の世界だった。


 成長期にきちんと栄養を取れていなかったからか、小柄で何処もかしこも小さい。手足も細くて。お洒落とは程遠い見た目。

 興味がない訳じゃないけど、そんなことすら出来ない身体だしね。もう諦めてたんだ。


 科学的な医療も、魔力による治療でも治すことの出来なかった私の原因不明の病気。

 最近、更に症状が強くなってる。咳も止まらないし熱も下がらない。

 

 今日。掛り付けのお医者さんにママが呼ばれて行った。何かあったのかな?。


 暫くすると。ママとお医者さんが部屋に入ってきた。

 俯くお医者さんと必死に涙を堪えているママ。その2人の様子を見て私は何となく察したの。


 ああ。そうか…。私の身体…頑張ったんだなぁ…。


 私の手を優しく握ったママが優しい声で教えてくれた。

 どうやら、私の命の灯火はあと1ヶ月くらいみたい。

 そうだよね。最近、いつも以上に身体が重いし高熱も続いてた。呼吸も苦しくて、頭もずっと痛い。視界が常に回って…。



『はぁ…。はぁ…。ママ…。お医者さん…。今まで…どうも…はぁ…。はぁ…。ありがと…。』



 薄れ行く意識の中での私の最期の言葉。

 私が生まれてからずっとお世話になった2人。出来ることなら私の分まで…幸せになってね。


 これが、私が生きていた時の最期の記憶。

 このまま天国に行くのかな?。何て、死んでしまったのに冷静に考えてしまっていた私。

 あれ?。何でまだ 自分 を持っているのかな?。足も手もあるよ?。これが魂ってこと?。幽霊?。私、おばけになっちゃった?。


『あれ?。ここ…何処?。』


 格好は死ぬ前と変わらない寝間着姿。

 だけど、場所は知らない場所だ…ああ。私、自分の部屋以外の場所を見たことないし知らないや。

 それに、苦しくない。目眩もない。熱も出てない。死んでるんだし当然だけど。わぁ…自由に身体が動かせる。


 さらさらの足場。これが砂っていうモノかな?。本で見たことある!。確か砂浜って言うんだよね?。それと、ずっと向こうまで続いてる視界いっぱいの水。

 私、知ってるよ!。海だ!。海だ!。これ!。海っていうやつだぁぁぁぁぁあああああ!!!。凄い!。凄い!。広ぉぉぉぉぉおおおおおい!!!。


 私は走った。走るなんて初めてだけど。じっとしてなんていられなかった。

 身体が勝手に動いちゃった。走って。走って。頬を風が吹き抜けて。砂場に足跡が残ってる。それだけで感動する。


『はぁ…はぁ…はぁ…。こんなに…運動したの…初めて…。』


 砂の上に大の字で寝転がる。

 気持ちいい倦怠感。病気の時とは違う心地よく乱れた呼吸。


『は…はは…ははははは。』


 意味もなく笑っちゃう。

 楽しい。胸がドキドキしてる。病気の苦しさじゃない。全然違う。身体中を巡る血液が酸素を循環させる為に働いているんだ。不思議だ。死んでる筈なのに。私の身体が生きてるみたい!。


『本当に…ここ、何処なんだろ?。』


 確かに私は死んじゃったのに。

 なのに身体がちゃんとあるし、自由に動ける。病気も治ってる?。


『ふふふ。教えて上げよー!。ここはね。貴女の心の世界だよ。』

『え?。』


 寝転がる私の顔を覗き込む女の人の顔。

 凄く綺麗な人だ。


『どう?。初めての自由は?。アクリス?。』

『どうして?。私の名前を?。それに心の世界って?。』

『ふふ。当然だよ。私は神様だもん!。』

『神…様?。』

『そ。何でも知ってる神様だよ。』

『はぁ…カナリア。何だ、その抽象的な自己紹介は?。』

『ちょ、ちょっとナリヤ君!?。もうちょっと楽しませてよぉ。』


 見ると、女性の奥に腕組をして呆れ顔の男性も立っていた。


『さてさて。はい。そろそろ起き上がりなよ。いつまでもそんなとこで寝てたら風邪…はひかないか。うん。とりあえず汚れる気がするから立ちなよ。』


 そう言った女性は私の身体を持ち上げ立たせてくれた。パンパンとお尻についた砂を払ってくれる。


『あ、ありがとう。ございます。』

『いえいえ。大したことじゃないよ。ふぅ。立ち話も何だし。ちょっと失礼するね。えっと。ナリヤ君。』

『ああ。これくらいの広さで良いか?。』


 ナリヤと呼ばれた男性が指で空間を描く。

 同時に砂浜に四角い光の線が引かれた。


『うん!。上出来。じゃあ、始めるよ。【神力】発動。【言霊の神】が世界へ願う。暖かな家が欲しい!。』


 カナリアと呼ばれた女性が四角い光の線が描かれた空間に手を向けると、大きな木製の家が出現した。


『ええっ!?。何これ!?。』

『えへへ。凄いでしょ?。私達が神様だって信じてくれた?。』

『う、うん…。』


 カナリアさんとナリヤさんの後に続いて家の中に入っていく。

 ランタンの灯りが部屋の中を照らしている。

 大きな暖炉に燃える火によって部屋の中が暖かい。それに木製の家具が置いてある。


『こっちに座りなよ。』

『あ、はい。』


 招かれるままに椅子に座る。


『ほら。お茶だ。落ち着くぞ。』

『あ、ありがとう。ございます。』


 ナリヤさんが用意してくれたお茶を一口。

 っ!?。美味しい。こんなに美味しいお茶は初めて飲むよ!。


『さてさて。それじゃあ。話を始めようか。色々、知りたいでしょ?。』


 私の前に座るお二人。


『改めて自己紹介だね。私は神様の1人。【言霊の神】カナリア。』

『【空間の神】ナリヤだ。』

『宜しくね。』

『あ、はい。宜しくお願いします。私は…。』

『ふふ。知ってるよ。アクリス!。』

『我々は神だ。世界で生まれ生存する全ての者の情報を得ている。』

『あ、そうなんですね…。』


 どうしよう。この状況が良くわかんないよ…。


『まずね。貴女に言いたいことがあったんだ。』

『え?。』


 立ち上がったカナリアさん。

 ゆっくりと椅子に座る私の横にやってくると私を抱き締めた。

 え?。え?。急にどうして?。何が?。


『良く頑張ったね。』

『え?。』

『ずっと辛かったよね?。苦しくて。けど、貴女は最期まで頑張った。凄く頑張った。最期の最期まで自分を看病てくれていたお母さんやお医者さんのことを想っていた貴女は立派だったよ。』

『っ!?。』

『本当に貴女は良い娘だった。偉いね。』


 優しく私の頭を撫でてくれるカナリアさん。

 初めて出会う人なのに。私の全てを知って…包み込んでくれているみたいな感覚で…。

 

『お疲れ様だったね。』

『うん…うん…。うぅ…辛かった…苦しかった…です。けど、ママやお医者さんを…心配させたくなかった…の…。』

『うん。ずっと見てたよ。ごめんね。もっと早く会えれば良かったんだけど。私達も復活するのに時間掛かっちゃったの。』

『え?。復活?。』

『………はぁ。カナリア。余計…いや、説明がまだだ。混乱させるな。』

『ははは。ごめん。ごめん。それじゃあ。ちょっとお話しようか。』


 私から離れて目の前の椅子に戻るカナリアさん。去り際に涙を拭ってくれた。


『まず、最初に私達のことを教えてあげるね。』


 こうして、神様と名乗る謎の2人との会合が始まった。

 身体の弱くて死んでしまった私の運命が死後に動き出したんだ。

次回の投稿は25日の木曜日を予定しています。

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