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第225話 獏豊

ーーー燕ーーー


 先陣を切った私は地を駆けた。

 光歌さん達が美緑ちゃんの世界樹の枝を伝って空から神聖界樹へ向かった。その別動隊として私は直接神聖界樹を目指した。

 そして、神聖界樹の根元まで近付いた私を待ち構えていた存在がいる。

 仮想世界では緑龍絶栄に所属し最高幹部、八龍樹皇の1人である獏豊。要は美緑ちゃんの部下…いや、その言い方じゃ美緑ちゃんが嫌がるね。仲間だった人だ。

 現在は、緑国 グレブ・リーナズンの最高戦力【リョナズクリュウゼル】の1人らしい。

 仮想世界で私との対面は無かった。

 私の所属していた赤蘭煌王と緑龍絶栄は位置的にも離れていたから直接的な戦闘は発生しなかった。

 ゲーム時代でも対面はない。

 つまりは、今が完全に初対面だ。

 けど、同じ六大ギルドに所属していたんだ。噂は聞いていた。

 緑龍絶栄の切り込み隊長。近距離戦闘では幹部のリーダーであった律夏を上回る戦闘バカって聞いてた。


 現に噂通り強い。想像以上の戦闘技能。


 神聖界樹の幹の側面を駆ける。

 集めたエーテルを瞬間的に放出して足場を作り空中を蹴って移動する。

 対して、獏豊は真横に身体が傾いている状態でもお構いなしに長い鉾を振り回している。


『はっ!。』

『なんのっ!。』


 エーテルの足場を蹴り、足の裏から一気に放出したエーテルを推進力に変えて獏豊に蹴り掛かる。

 蹴りを鉾で器用に受け流し、追撃の横への薙ぎ払い。神聖界樹の幹の側面を地面に見立て身体をくの字に折り曲げ躱し、反動を利用して両足で蹴る。

 けど、これも鉾を盾代わりに使われて防がれた。

 なら、こっちも追撃。上段の蹴り。これは簡単に受け止められた。そして、その勢いのまま身体を回転させた回し蹴り。


『おっと!?。』

『っ!?。』


 咄嗟に鉾を手放した獏豊。

 私の蹴りを片手で止めて掴んだ!?。


『ぐっ!。』


 逆立ちの状態になり、全身を回転。捕まれた足が解放される。

 足に手の…握り締められた痕が残ってる。なんて握力なの!?。私の身体はエーテルと人功気で強化されているのに!?。


『くっそ。器用な攻撃してきやがって。ちまちまとっ!。』


 互いに接近戦を主体にしてるけど、地の利は私にある。

 常時空中を移動出来る私とは違い、常に神聖界樹に接触し足場を確保しなければならない獏豊。だけど、普通の地面を走ってるみたいに側面を駆け上がってくる。

 良く見ると獏豊の足には神聖界樹に伸びる蔦が巻き付いていた。あれで落ちないように支えてるみたい。

 捕まれたら不利。ヒットアンドアウェイを繰り返し、蹴りを連打するも軽々と防がれてしまう。

 戦闘が始まって、かれこれ20分くらいかな?。

 地上から始まった戦いは神聖界樹を登り続け1kmは駆け上がったと思う。


『軽いな。それに…異神の強さってこんなモンなのか?。』

『そんなわけないじゃん!。まだまだ様子見よ!。』


 確かに様子見はしている。

 敵の強さの底が見えない以上、迂闊に手の内をさらすのは危険な気がする。


『ははは。だろうな。この程度なら世界全体で危険視される訳がねぇ。安心したぜ。』


 何処までも余裕そうな態度を崩さない獏豊。

 すると、遥か下の地面から何かが激突するような音が響いた。

 このエーテル、美鳥?。

 感じたエーテルは美鳥のものだ。確か上空を旋回していた部隊を任されていたよね?。

 空に停滞していたヘリコプター達はいなくなっていた。

 美鳥。作戦が成功したんだ。


『あっちゃ~。フリアの奴。負けちまったのかよ…いや、ちょっと待てよ。……………マジかよ。ゼグラジーオンに、ライテア…おいおい。ヴァルドレまで負けちまってんのか…。』


 神聖界樹に触れて独り言を呟く獏豊。

 どうやら私達の誰かは勝利したみたい。流石だね。


『はぁ…。やっぱ噂通り強いんだな。まだ発展途上のライテアやお姫様のフリアは兎も角、あのゼグラジーオンやヴァルドレまでやられちまうのかよ…。』


 仲間が倒されたことに落胆する獏豊。

 けど、何でだろう?。何処か嬉しそう?。


『なぁ。何個か質問しても良いか?。』

『………まぁ。良いけど。答えるかどうかは別ね。』

『ははは。ケチケチすんなって。別にお前達の不利益になることを聞こうって訳じゃねぇから。』

 

 何を考えているの?。戦闘中なのに。

 獏豊は神聖界樹に鉾を突き刺すと、その場で胡座をかき始める。

 因みに、獏豊は神聖界樹の側面を足場にしているからずっと垂直でいる状態。平然と地上にいるように行動してる。


『はぁ…。分かったわ?。それで?。何が聞きたいの?。』

『おっ!。その気になったか?。サンキューな。でだ。質問1つ目は、お前達がこの戦いで勝ったら…この国をどうするつもりだ?。』


 急に真剣な顔つきになり質問してくる獏豊。


『は?。降参する気になったの?。』

『そんな訳ねぇだろ。単なる好奇心だ。俺達は異神が世界を滅ばす為にこの世界に侵略してくるって教えられてたからよ。本当かどうか。目の前にご本人様がいるんだ。答え合わせをしたくてな。』

『はぁ。そういうこと…そんなことする訳ないじゃない。世界を滅ぼすとか下らない。』

『へぇ…。』

『良い?。聞きなさい!。私達は仲間の為に戦っているの!。』

『仲間?。』

『そうよ!。アンタ達が私の友達の命の恩人達を見せしめに殺したからよ!。』

『………。』

『あとは、アンタ達が忘れちゃった娘。私達の友達を傷付けたから!。』


 美緑に兎針。私の友達は傷付いていた。

 私が戦う理由なんてそれだけで十分だ。


『なぁ。お前達は俺達の過去を知っているんだよな?。』


 俺達の過去?。

 仮想世界でのことを言っているんだよね?。


『そうね。敵同士だったけど。噂くらいは。』

『そうか。じゃあ、あの小さな妖精みたいな女。アイツは俺達の仲間だった。違うか?。』

『アンタ…記憶が?。』

『いや、ない。けどな。昨夜。奇襲した際にあの女を見た瞬間に感じたんだ。』


 獏豊の表情は何かが自分の中で噛み合っていないような思い詰めたような雰囲気を匂わせている。


『何を?。』

『…後悔と、無念さ。何だろうな。俺は何かを…やり残しているような…悔しさを感じたのさ。』


 記憶はないけど、心に…魂に刻まれた思いが微かに残っているっていうこと?。


『なぁ。あの女は、大将…いや、律夏と兄妹だったんろ?。兄さんって言ってたしな。』

『ええ。そうよ。美緑ちゃんがギルドマスター。リーダーで律夏を含めて貴方達はメンバーだったわ。』

『美緑…か…。』


 はぁ…。と、深い溜め息。立ち上がる獏豊。


『ありがとよ。納得したわ。王と女王…。ふっ…俺達は駒ってことか…。誰かに何を吹き込まれたのか…。』


 再び、鉾を握る獏豊。

 ボソボソと何かを呟いている。


『敵だけど。私が言ったこと信じるの?。』

『ん?。ああ。当たり前だ。お前は嘘を言ってねぇだろ?。それくらいは分かる。俺はそういうの見抜くの得意なんさ。』

『なら、戦うの止めない?。別にアンタが戦う理由なんて無いでしょ?。』

『そうはならねぇよ。過去がない俺達には 今 があるんでね。この国の生活にも慣れた。大切な奴もいる。今更過去に振り回されてたまるかよ。』

『何か無理してない?。』

『………。さぁてな。俺のことなんてどうでも良いさ。大将がそう決めたんだ。なら、俺はそれについていくだけさ。…仲間だからな。はは、らしくねぇこと言ったわ。ははは。』


 鉾を持ち上げエーテルを集中する獏豊。


『さぁ。質問タイムは終わりだ。色々聞いて悪かったな。』


 頭上で鉾を回転させる。

 集中したエーテルが周囲に放出され始めた。


『ついでに様子見も終わりだな。こちらの戦力が4つも落ちた以上、俺ものんびりと遊んでられなくなっちまった。他の奴等の分も働かねぇとな。』


 鉾に纏ったエーテルが空間を歪ませている。

 どれだけのエーテルがあの鉾に!?。


『お前も全力で来いよ?。じゃないと。』


 全力で鉾を神聖界樹へ突き刺した。


『後悔するぜ?。』


 その瞬間、神聖界樹が揺れた。

 突き刺した鉾を取り囲むように枝や幹が伸び巨大な植物の胴体を作り出す。樹木の巨人が出現した。神聖界樹のエーテルを取り込み巨人を更に巨大化。巨人の額にある緑色の結晶の中に獏豊が飛び込んだ。


『こ、これって!?。で、でかっ!?。』


 巨大な神聖界樹に根をはる巨人。

 その大きさは100メートルを優に越えていた。

 

『悪いが早々に倒させてもらうぜ!。』


 獏豊の切り札が襲い来る。

次回の投稿は14日の日曜日を予定しています。

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