第224話 麗爆機雷球 ジグナザル・マイジラ
ーーー詩那ーーー
神獣同化。
各属性、種族の頂点に君臨する生物。
神獣にのみ与えられた能力。心の通い合った相手を対象に自らの肉体、能力を融合させる。
『貴女の力…温かさが伝わってくる。』
ラディガルと同化したウチは、互いの心が融合した一瞬に出来た奇跡の空間で僅かな交流を果たした。短い時間だったけど、この同化についても教えてくれた。
自分の身体から溢れ出る2つのエネルギー。
ウチの魔力はラディガルのエーテルに引き寄せられてエーテルへと変化し、2つのエーテルは互いに引き寄せ合い、混ざり合い、1つの大きなエーテルとなってウチの身体を巡り始めた。
「同化は文字通り、1つになるってことだ。互いの特性は勿論、種族、スキル、特技、能力の全てが混ざるんだ。まぁ、良いことばっかりじゃなく弱点も2人分になるんだがな。」
ウチは人族。ラディガルは雷皇獣。
その2つの種族が合わさったことでウチの身体に変化が現れる。犬歯と爪は鋭く。獣の耳と尻尾。獣人に近い形へと変身した。
「俺とお前の能力も融合する。俺の雷。存分に扱ってくれ。」
ラディガルが戦闘時に身体全体に纏っていた雷。感情の高まり、戦闘の意思。そういった気持ちに反応して自然と放電される。
「へへ。それでな。最後が取って置きだ。お前の人族としての力と俺の雷皇獣の力を具現化する。主様が言ってただろう?。敵には神眷者っていう神から力を与えられた存在がいるって。詩那。お前も似たような状態に進化するんだ。」
漲るエーテルを自身のイメージと擦り合わせる。
「けどな。奴等と違う点が1つある。」
ウチの力を最も効率良く効果的に操れる武装。
「俺は契約神獣だ。主様と魂で繋がっている。つまり、神から与えられただけの神眷者とは違い、主様から直接的、且つ継続的に力を貰い続けているんだ。はは。強力だぜ。」
過去の記憶を取り戻したウチ。
ゲーム内で獲得し、仮想世界で培った戦闘技術やスキル。その経験を、今の思いと願い。そして希望と合わせて1つの形にする。
「これでお前も不自由なく戦えるだろ?。はは。そうだ。それが俺とお前の心の具現化。【神具】だ。」
神具。発動。
「お前に伝えるのはこれくらいかな?。」
「ラディガル…ウチ…。」
「主様を支えてやってくれな。俺じゃあ力が足りなかった。」
「そんなことないよ!。」
「いや。役に立てなかったんだ。それに…。一度は、この手で主様を…。はぁ。後悔が多いな。くそっ…はは。情けねぇな。俺は。女々しい。」
「ラディガル…。」
「詩那。」
「うん。」
「俺の 雷 は、お前に託した。」
「…うん。」
「おいおい。泣くなって。俺は消える訳じゃねぇ。お前と主様の中で生き続けるんだ。ただ、会えなくなるだけさ。まぁ、出会って間もない俺と詩那が何言ってんだ?。って思う奴もいるかもしれねぇが、こうして繋がって、1つになって。お前がどれだけ主様に惚れてんのか理解したからな。だから信じたんだ。はは。お前、どんだけ主様のこと好きなんだよ。エロい妄想し過ぎだろ。」
「っ!?。恥ずかしいから止めてよ。」
「ははは。まぁ。からかうのは勘弁してやるよ。詩那。」
「何よ。」
「負けんなよ。」
『ラディガル…感じるよ。貴女のお想い。ありがとう。一緒に行こう。』
迸るエーテル。その性質は【雷】。
周囲の閃光と轟音を響かせ大地を燃やす。
8つの雷から指先に集まる集束されたエーテル。それを敵。ゼグラジーオンに向けて放つ。
『っ!?。うぐっ!?。』
一直線にゼグラジーオンに放たれた雷の光線は、あの硬い鎧のような外皮を容易く貫通しダメージを負わせた。
『神具…【麗爆機雷球 ジグナザル・マイジラ】。』
発動した神具が展開される。
ウチの背後に並ぶ8つの球体。黒い球体の周りを雷が帯電している。これが、ウチの…いや。ウチ達の神具だ。
『うぐっ…馬鹿な!?。先程までのどの攻撃にも該当せん!?。』
『ごめん。先に謝っとく。尋常なる勝負を望んでたみたいだけど。無理っぽいわ。』
『っ!?。どういうことだ?。』
指先をゼグラジーオンに向けると同時に8つの球体から放電が始まる。放電は雷となり、指先に8つの閃光が集まっていく。
『ウチの能力。真っ向勝負をするタイプじゃないの。』
再び。指先から光線が発射された。
ーーー
ーーーゼグラジーオンーーー
『うごぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』
先程と同じ雷の閃光。一度の不意打ちとは違い真正面から放たれた一撃だ。反応することは容易い。
しかし、速すぎる。
回避には間に合わず、大剣の側面で防ぐしかない。
我が王に頂戴した神聖界十二樹宝の1つである大剣は僅かに側面を傷つけるも娘の雷を防ぎ切った。
『強い。我の勘は間違っていなかった。お主達は決して油断ならぬ敵であった!。』
角の先端にエーテルを集束。
あの娘の変化した外見から推測するに、後ろに円形状に浮かぶ8つの球体。あれは、エーテルで固められた雷そのものだ。それを指先に集め一点に圧縮して放つ。それにより我でも躱せぬ速度ど貫通性で攻撃しているのだろう。
あの球体が神具と言っていた。近づく様子を見せぬことから娘の戦闘方法は遠距離からの雷での砲撃と見て間違いないだろう。
『ならば!。』
大剣を盾のように構え突撃する。
防げる攻撃だと分かれば対処することなど容易い。大剣を盾に我が間合いまで一気に近付き仕留める。防御に回している大剣ではない。
我が最大の切り札。
エーテルを帯びた角で突き刺す。突き刺された対象の内部からエーテルを炸裂させ周囲一帯を爆発させる奥義。先程は飛び道具として放ったが、それは角に纏ったエーテルから溢れた余剰分を飛ばしたに過ぎん。
『っ!。そう!。ならこれで!。』
『なぬっ!?。うぐっ!。』
娘が展開した8つの球体から直接雷が発射されただと!?。先程までの一直線に伸びる光線とは違う。雷の塊。弾丸のように飛ばして来ている!。大剣で防ぐも、その重い威力に後退させられた。
成程。指先に集中して放つことで貫通性を増した先の光線とは違い。威力重視ということか。一撃一撃が何という威力だ。驚くべきは、その威力で連射が可能だということ。
弾丸を受け止めている内に元の位置まで戻されるとは…。
『はっ!。だが!。この攻撃でも我は倒せぬ!。』
大剣の一薙で全ての弾丸を欠き消し体制を整える。
『確かに強力な攻撃だ。しかし、連射し過ぎたな。既に主の攻撃には慣れた。先の攻撃で我を仕留められなかったこと後悔するが良い。』
『ううん。ウチの本命は飛ばす攻撃じゃない。』
『何?。っ!?。』
気付くのが遅かった。
『もう。仕掛け終わった。』
我を取り囲むように身体のすぐ近くで浮遊する娘の後ろに浮かんでいた球体。触れるか触れないかの距離で停滞している?。
いつの間に飛ばしたのだ?。いや。それよりも何だ!?。この異常なエーテルの塊は!?。
『勝負アリだと思う。触れたらタダじゃ済まない。』
『何を言う!。たかがエーテルの塊に恐れを抱くなど有り得ん!。』
我は大きき大剣を振りかぶった。
その刹那。触れた球体から雷が炸裂した。
『ぐおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!?。』
全身を襲う激痛。触れた箇所の鎧は砕け、焦げ、消失した。皮膚を、肉を、骨を焼き尽くす。
『あがっ!。あっ!。うっ!。』
恐らく数秒の炸裂だっただろう。
しかし、我には永遠に近い時間を体感した。
意識が途切れそうになるのを必死に耐えた。
『な…うぐっ…んと、はぁ…いう…一撃…だ…あぐっ…はぁ…。』
『驚いた。まだ意識あんの?。』
『当たり前だ。お主程の強者。早々御目に掛かれるモノではない。我の全てをぶつける。その為に女王の軍隊を下がらせたのだ。』
我には大剣を構える。
この球体に触れるのは危険。宙に浮遊する球体を潜り抜け、一振で仕留める。既に外骨格による鎧は失われた。防御力の低下は明らか。しかし、その分、身軽となった。
いける。我には見えている。勝利への映像が!。
『アンタ…凄いね。何処までも…戦士って感じ?。』
『嬉しい。賛辞だ。戦士として戦い死ぬ。それが我が望み。』
『はぁ…。ウチ、そういうの柄じゃないんだけど。良いよ。最大の攻撃で受けてあげる。』
『っ!。ははは。ありがたい。感謝する。はっ!。』
身体を巡るエーテルを、全て肉体強化へ。
『いざ…尋常に…勝負!。』
我は駆ける。
娘までの距離は凡そ5歩。前方に浮遊していた球体を触れるギリギリで潜り抜ける。
『下にもあるっ!。』
『っ!?。ぐっ!?。だが!?。』
まさか地中にも仕掛けていたとは!?。
だが、一歩目で加速した我の速度は球体が炸裂する前に過ぎ去ることが可能。抜ける!。
地中にも仕掛けている可能性があるならば、跳躍に切り替えるまで。
球体を我の前方に移動させる娘の更に上から斬りかかる。全エーテルを乗せた一撃に全てを賭ける!。
跳躍し目標である娘に狙いを定めた。
『神技…。』
『っ!?。』
瞬間的なやり取り。その間で我は勘違いをした。
我の突進を妨げる為に球体を戻したと誤認した。実際は、そうではなかったようだ。
娘を中心に等間隔で配置された8つの球体。
そして、娘が指先を天に向けた。同時に8つの球体から雷が放出され始め娘の指先、そして隣り合う球体同士が惹かれ合うように雷で結ばれる。
『九天爆雷声咆!。』
全てを呑み込む雷の咆哮。
8つの球体。一点の指先。その全てが繋がって作られた巨大な砲台。空中にいた我のエーテルなど容易く巻き込み全身が雷の中に呑み込まれた。手に持っていた大剣は跡形もなく灰となり、我が肉体も為す統べなく雷に蹂躙され尽くす。
激痛を感じる間もなく五感、平衡感覚を失い。最後は意識すらも消え失せた。
ーーー
『はぁ…はぁ…はぁ…。』
砲撃を止める。
凄い威力。この仮想空間を破壊して壁に巨大な穴を開けた。周囲には燃える間も無く焦げて灰になった植物が地面に積もってる。
ドダッ!。っと、大きな音を立ててゼグラジーオンが地面に落ちた。
『ぁ…。ぅ…。ぁ…。』
良かった。生きてる。
何か真面目な奴っぽいし、殺すのは何か違う感じがしたんだよね。手加減…って程じゃないけど直撃はさせなかったんだ。
『はぁ…。ウチ…。勝った。』
その場に座る。
さっきまで、一緒に戦っていたラディガル。
けど、もういない。
『ラディガル…。勝ったよ。約束通りに。貴女の力…ううん。ウチ達の力で。』
気付けばウチは泣いていた。
胸に手を当てればラディガルのエーテルを感じる。この耳も尻尾もラディガルのだ。
『先輩…。ラディガル…居なくなっちゃったよぉ…。』
ラディガルがどれだけ先輩のことを好きだったのかは同化した時に伝わってきた。先輩とラディガルだけの思い出も、その時に感じた感情も、先輩への想いも。全てがウチの中にある。
『なんだよ。ウチと同じくらい先輩のこと大好き過ぎじゃん…。』
今のウチよりも近い距離で先輩と過ごしていたラディガルの記憶に軽く嫉妬する。
『ラディガル…。そうだね。止まってなんていられない。ウチは…ウチ達は行かなきゃね。』
ラディガルが言ってた。
神獣は主人と魂で繋がっているって。
そして、ウチは今、ラディガルと一体化したことで先輩と繋がってる。
分かるよ。先輩のいる方角も。今も先輩が戦っていることも。
『行こう。ラディガル。この戦いを終わらせよう!。』
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気が付くとラディガルは見知らぬ場所に立っていた。
足下には細かな白い砂。まるで海岸のようにさらさらとした砂が地平線の彼方まで広がっていた。
空を見上げる。満天の星空。こちらもまた地平線の彼方まで続いている。
『家?。』
明らかに怪しい家が広い砂の上に一軒だけ建っていた。家の中に光が見える。
『誰かいるのか?。…まぁ。考えていても仕方ねぇか。』
頭を掻きながら溜め息。
ラディガルは家のドアを開けた。
『ん?。誰や?。犬臭いわ?。』
『知らない方です?。どちら様です?。』
ドアを開けたラディガルを出迎えたのは、ラディガル曰く、鳥臭い女と虫の匂いの少女だった。
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