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番外編 閃と神獣達のお正月

明けましておめでとうございます。

このストーリーを読んでくれた方、ブックマークに登録してくれた方。どうもありがとうございます。

これからも読んでくれると嬉しいです。

『明けましておめでとう。』


 リスティールでの新年を迎え、1月1日の深夜。

 心象の深層。精神世界へとやって来た俺は仮想世界で住んでいた実家と同じ家にやって来た。

 俺の思い出が最も残っているこの家は精神世界の中にあって、ただ1軒だけ建っている。それ以外は白い砂の大地と星々が無限に輝き続ける夜空が広がっている俺の世界だ。

 精神世界への出入りが自由に可能になってからは、こうして、ちょくちょく訪れるようになった。

 アイツ等 にも会いたいしな。

 この精神世界で過ごす時間は、現実世界とリンクしている。現実世界の俺は今ベッドの上で就寝中だ。まぁ、神の力を使えば時間すらも操作できるんだが…。


 ガチャリ。と玄関の扉を開ける。

 すると、振り袖姿のクミシャルナと月涙が頭を下げて出迎えてくれた。俺の挨拶に笑顔で応えてくれる。


『ご主人様。明けましておめでとうございます。』

『主様!。おめでとうございます!。』


 そう。ここには俺が契約した神獣達が住んでいるんだ。俺と魂で繋がっているからか現実世界での肉体を失った今、俺の心の中である精神世界で暮らしているんだ。


『今年も宜しくな。』

『はい。此方こそ。本日はごゆるりとお寛ぎ下さい。用意は出来ています。』

『主様。此方にどうぞ。』


 2人に案内されるままリビングに案内される。勝手知ったる元自分の家だが。クミシャルナ達が住んでいるからか、内装が所々変わっていた。元々俺と灯月とつつ美母さんと氷姫の4人で住んでいた家だ。今は9人。部屋も増築しないと足りなかっただろうしな。


『『主様!。』』


 俺に気付くとラディガルとムリュシーレアが近付いてきた。嬉しそうに触角を揺らすムリュシーレアと尻尾を振りまくるラディガルの頭を撫でる。


『明けましておめでとう。』

『『おめでとうございます!。』』


 リビングに入ると違和感に気が付いた。

 リビングの隅。結構な広さの座敷、畳が敷かれた部屋が出来上がっていた。


『どうだ!。主様!。風情があるだろう!。』

『皆で頑張って作りましたです!。主様の記憶をお借りしたです!。』

『ああ。凄いな。本格的な和式だ。掛け軸まであるし。これ、盆栽か?。』

『それはクミシャルナの趣味だ。庭にも色々並んでるぜ。』

『おお。意外な趣味だな。』

『主様!。こっちです!。コタツもありますよ!。』


 和式の部屋には大きなコタツが用意されていた。


『閃。おはよ。』

『おはよ。クティナ。コタツには入らないのか?。』


 部屋にはクティナが浮かんでいた。俺がプレゼントした抱き枕を抱き締めたまま。


『閃の枕。あるから。平気。』

『そうか。気に入ってくれて嬉しいよ。』

『うん。宝物。』


 するすると近寄って来たクティナを抱きしめる。暫くすると、元の位置へと戻っていった。


『主様。どうぞです。』


 ムリュシーレアに誘導され用意されていた座椅子に腰をおろす。フカフカとした座り心地。優しく背中を包み込んでくれるような柔らかいクッションが取り付けられていた。


『どうですか?。』

『どうだ?。座り心地は?。』

『ああ。ゆったり出来て良いなぁ。これ。このまま眠れそうだ。』

『へへ。だろ!。主様の体格に合うように作ったんだ。』

『はいです!。私とラディガルお姉さんはこういうの得意なのです!。』


 確かに2人は手先が器用そうだ。

 創造神としての力で何でも作り出せる精神世界で材料から作るなんてな。


『主ぃ~。あけおめや~。』

『おっと。おう。トゥリシエラ。あけおめ。』


 などと話していると、突然俺の顔は後ろから柔らかいモノに挟まれ包まれた。


『どうや?。主?。ウチのおっぱい気持ちええか?。』

『ああ。気持ちいい。けど重い。』

『ははは。堪忍や。ウチのおっぱいには主への愛が仰山詰まっとるんや。』


 赤いチャイナドレスに羽毛のあしらわれたもふもふのコート。髪を左右のお団子で結んだ少女。相変わらずのエセ関西弁。本人曰くキャラ付けらしい。

 空帝姫 トゥリシエラ。

 空を飛ぶ生物の頂点に君臨する不死鳥の神獣。俺の契約していた3体目の神獣だ。


『主~。』

『お前、相変わらず甘えたがりだな。』

『ええやろ~。ウチ。頑張ったんや~。昨日の朝から餅めっちゃついたねん。』

『いや、ついたのは俺だ。』

『そうや~。ウチは何故かこのアホ犬の意味分からん雷纏った高速杵の動きに合わせて餅に水つけたんや。信じられっか?。クミシャルナのヤツなんか。ウチに、不死鳥だから杵に潰されてもすぐ再生するから平気でしょ?。とかぬかしおって、ウチのこと贄にしやがったんやで?。』

『それは…。まぁ…頑張ったな。』

『おう!。主様!。沢山餅作ったぜ!。褒めてくれ!。』

『お、おう!。偉いぞ。』

『たまにウチの血肉が混ざっとるわ。何度腕を持っていかれたか…。』

『…頑張ったな。』


 褒めてほしそうなラディガルの頭を撫でつつ、別の感情を込めてトゥリシエラを撫でる。


『はぁ…。主ぃ~。』


 それにしても…。


『なぁ。他の連中はどうした?。』

『んー?。今、皆でお雑煮作っとるで~。』

『はいです!。アクリス姉が張り切ってましたです!。』

『いい匂いがするだろう?。朝っぱらから色々なモンを作ってんだ。他の奴等も手伝いだ。』


 アクリスか。料理出来たんだな。

 幼少の時からずっと寝たきりだったと聞いていたが。


『アクリスねぇ。クミシャルナに色々教えてもらってたんや。物覚えも意欲もあるからな。どんどん上手くなっとるわ。』

『そうか。本人が満足しているんなら良いんだ。』


 すると、ドタドタと慌ただしい足音が近付いてきた。


『閃君来てるの!。』

『主様。いらっしゃい。』

『主様。明けましておめでとうございます。』


 勢いよく開かれたドア。

 そして、雪崩れ込むように飛び付いてきた3人。


『すぅ。はぁ。すぅ。はぁ。はぁ~。久し振りの閃君の匂い~。』

『むぅ。負けない。すぅ。はぁ。すぅ。はぁ。』

『むっ…羨ましい…。いや、何を考えている。ここで私まで飛び付いては主様に迷惑が…いや、しかし…くっ。何と言う試練か。いっそのこと…「絶つ」か!。』

『何をだよ!?。危ないから刀を仕舞え。あと心の声が駄々漏れだ。』


 アクリス、クロノ、セツリナの頭を平等に撫でてやる。


『えへへ。閃君~。ありがと~。』

『主様~。もっと~。』

『…でへぇ…むっ!。はにゃ~。むっ!。』


 笑顔のアクリス。俺の胸に顔を埋めるクロノ。凛々しい表情が崩れるもすぐに凛とした表情に戻りまた崩れるセツリナ。


『さぁ。皆さん。自分の場所に座ってください。お料理。出来ましたよ。』

『主様!。お待たせいたしました!。』


 色とりどり、鮮やか。様々なお節料理。お雑煮がお椀に注がれ、あっという間にテーブルの上がお正月という季節に彩られた。

 各自に別々の飲み物が注がれる。種族が違うから好みが分かれるのは仕方がないか。


『それではご主人様。一言。お願いします。』


 クミシャルナが俺に向けて頭を下げる。


『分かった。皆。良いか?。』


 全員が俺に注目する。


『色々なことがあったが…クミシャルナ、月涙、ラディガル。仮想世界からこの精神世界まで俺を…俺達を助けてくれてありがとう。』

『いいえ。ご主人様に仕えることが私の役目…いえ、望むことですので。』

『俺の命は主様の為にある。』

『神獣としては新参者の私ですが、これからも精一杯お供致します。』


 各々が笑顔で応える。


『ムリュシーレア。トゥリシエラ。ゲーム時代に別れてしまったが、改めて再会できて本当に嬉しい。それに俺の恋人の為にその身を犠牲にしてくれて申し訳ない。そして、ありがとう。』

『私も主様に再会できて嬉しいです。肉体を失ったことで今までよりも主様の一部になれたんです。結果的にですが私は満足です!。』

『かまへん。かまへん。ウチも主と1つになれたんや。大満足やって!。』


 この2人も人の姿を授かった。

 改めて見るが、ゲーム時代とは異なった姿が本人の性格に合っていて良く似合っているな。


『クロノ。セツリナ。ゲーム時代から今まで俺を支えてくれてありがとう。これからもお前達を使う機会は多いと思う。頼むな。』

『うん。主様。いっぱい。私を使ってね。』

『はい。主様の敵は私が絶ちます。今までも…これからも…。それは変わりません。私は主様の為に存在するのです。』


 俺の神具。まさか意思を持っているとは思いもよらなかったが、こうして人の姿で話せるようになった。意思の疎通が出来るのは嬉しいよな。


『クティナ。』

『良いよ。伝わってるから。閃。ずっと一緒だよ。』

『ああ。一緒だ。』


 深くは語らない。それだけ、クティナはこの世界の中心に近いんだ。神と生物とを繋ぐ存在なのだから。


『それからアクリス。』

『うん。』

『こんな世界に閉じ込めてしまってすまなかったな。不自由ないか?。』

『全然、閃君のお陰で私はまだ存在してるんだもん。それに閃君を通して世界を見られる。狭い一部屋と窓から眺める世界が全てだった私の視野を広げてくれた。閃君。ありがとっ!。』


 少し特殊な状態のアクリス。

 本人は満足しているようだが。他にも方法があったんじゃないだろうかと考えている。本人には秘密だが。


『皆!。改めて、これからも宜しくな!。明けましておめでとう!。』

『『『『『『『おめでとうございます!。』』』』』』』


 精神世界での新年。ゆったりとした一時が流れていく。


 クミシャルナ達が作った料理を皆で食べる。

 灯月や睦美にも引けを取らない味付けだ。


『旨いな。』

『ふふ。ありがとうございます。』

『沢山練習したからね!。』

『お雑煮もどうぞ。』

『ああ。いただくよ。』

『へへ。主ぃ~。そのお餅にはウチの血肉が入ってるんやで~。味わって食いや~。』

『焼き鳥うま~い!。』

『ぎゃ~~~!。噛みつくなや!。駄犬が!。』

『犬じゃねぇ!。狼だ!。』

『クルルルルル!。』

『グルルルルル!。』

『お餅。美味しい…。』

『栗きんとん。甘いですぅ。』

『閃君これ自信作なの。食べて。あ~ん。』

『あ~ん。おお。旨いな。この伊達巻。』

『えへへ。でしょ?。閃君に食べて貰いたくてずっと練習してたんだぁ。』

『そうか。ありがとうな。凄く美味しいよ。』

『うん!。嬉しいよ!。』

『主様。私も頑張った。食べて。』

『こ、これも、どうぞ。私はまだ不慣れ故に。形は悪いが味は問題ないかと。』

『もぐもぐ。もぐもぐ。おお。里芋、味がしみてて旨い。この昆布巻きも旨いぞ。』

『ほっ。』

『うん。満足。』


 そういえば、コイツ等とこんなにゆっくり過ごすのは初めてだな。

 契約した神獣。武器。出会って間もない。色々な出会いだったが、結局それは戦いの中でのこと。こんな風に互いを知る機会なんて無かった。

 俺はコイツ等のことを、まだ全然知らないのかもしれないな。


『ご主人様ぁ~。』

『ん?。』


 程よく腹も満たされた頃、急にクミシャルナが寄り掛かってきた。珍しいな。クミシャルナが積極的に身体を寄せて来るなんて。


『あの~。私…身体が熱くて…。ご主人様ぁ~。脱がして下さいませんか?。』

『急にどうしたんだ?。てか、酒臭くないか?。』

『ふふ。ああ~。熱いです~。でも、ご主人様の身体…温かくて気持ちいいかも。あらあら。やっぱり服が邪魔ですね~。脱ぎますね~。』


 自らの服に手を掛けゆっくりと脱ぎ始めるクミシャルナ。その豊満な胸部が露になり次々と赤く染まった素肌が露出していく。


『わわわ。クミシャルナ姉様!?。お酒飲んじゃったんですか!?。』

『あれだけ、飲んじゃダメって言ったのに!?。』

『クミシャルナは酒に弱ぇからな。』

『そうなのか?。』

『そうなんです。しかも、すぐ脱いじゃうんですよ…。』

『ええ…。』

『気にすることないで?。どうせすぐ…ほれな。』

『きゅ~~~。』


 突然、その場に倒れるクミシャルナ。


『すぅ。すぅ。すぅ。』


 ほぼ全裸の状態で気持ち良さそうに眠ってしまった。

 これ、起きたらどうなるんだよ…。

 乱れた衣服をそっと直し、俺の上着を掛けてやる。


『主様の前で気が抜けちゃったんですね。』

『クミシャルナ姉様。頑張ってましたから。』

『そうか…。ありがとう。クミシャルナ。』


 頭を優しく撫でる。サラサラの長い髪が心地良い。


『えへへ。ご主人様…。お慕いしております。すぅ…。すぅ…。』


 普段は大人びた姿しか見せないクミシャルナだが、こうして女の子っぽい一面も持っていることに新鮮さと安心を覚える。


『あれ?。ラディガルは?。』

『ん?。ああ~。ここにいるぞ?。』


 座る俺の膝を枕にして寛いでいるコタツの中のラディガル。お前狼だよな?。何か猫みたいだぞ?。


『主様。寒ぃ。』

『ああ!。ズルいよ!。ラディガル!。私も閃君に膝枕されたいのに!。』

『へへへ。譲らねぇよぉ~。』

『くぅ~。幸せそうな顔をしやがって~。』


 アクリスが仕方なさそうに俺の横に座って身体を預けてくる。


『今度は私にもしてね。』

『ああ。良いぜ。』

『ししし。やったぁ。』


 この家の内装は、過ごしやすいように改装されている。それは内装だけに留まらず、庭にまで及んだ。

 ガラガラと障子窓を開けると、そこには広い庭が作られていた。芝生の地面、縁側から石造りの足場で伸びる鯉の泳ぐ池、大きな木も。端には、クミシャルナの趣味と言っていた盆栽が並んでいる。

 何か…凄いことになってるな…。


『主様!。色々、遊ぶモノを用意したんだ!。一緒に遊ぼうぜ!。』


 フリスビーを持って尻尾を振るラディガル。


『いや、その前にもう少しお正月の雰囲気を出そうぜ。』


 俺は創造の力を使い全員分の振り袖を出現させる。クミシャルナは既に着ているし、熟睡してるから、まぁ良いか。

 全員が着替える為に奥の部屋に入っていく。

 さて、もうちょい改良するか。ここは俺の世界だからな。何でも自由に作り出せる。それは環境も含まれ天候すら自由自在だ。

 指を鳴らす。

 すると、静かに深々と雪が降り始めた。


『ある程度、雪が積もってた方が雰囲気出るよな。それと、あれも造るか。』


 俺は皆が造ってくれた中に少し手を加えた。


『わっ!。雪だ!。雪が降ってる!。』

『すげぇ!。真っ白だぜ!。』

『おお~。ええなぁ~。主の記憶にあったお正月のイメージにピッタリや。』

『あっ!?。何あれ!?。何か建物が建ってる!?。』

『あれは神社ですね。これ主様が造ったです?。』

『ああ。雰囲気あるだろ?。人はいないけど。』

『庭も広くなってます。この広さならいつでも 絶つ 練習が出来ますね。』

『いや、お前が刀振ったら俺の精神世界が持たねぇから。』


 全員が振り袖だ。各々のイメージの柄と色。凄く似合ってるな。


『皆。似合うな。可愛いぞ。』

『えへへ。ありがとうございます!。』

『ちょっと動きづれぇが、主様に出して貰った服だからな!。ちゃんと着たぜ!。』

『サイズもピッタリやわ~。主はエッチやな~。』

『エッ…。です。』

『いや、まぁ。そこは否定できないが。俺とお前達は一心同体というか。全部分かっちまってんだろ?。色々と。』

『はは。そうだよね。私達も閃君の色んなこと知っちゃってる訳だし。お互い様かな?。』

『ふむ。隠し事のない主従関係。素晴らしい。』

『私。別に構わない。』

『私も。眠い。…寝る。』


 俺の造り出した神社。参拝とかする習慣とかは持ってないメンバーだが、雰囲気は感じて欲しいと思い形として造り出した。てか、この世界じゃ俺達が神だからなぁ…。


『さて、皆で遊ぶか。』


 クミシャルナとクティナはお昼寝。

 他のメンバーと遊ぶことになった。


『くらいなっ!。駄犬がぁ!。』

『狼だって言ってんだろうが!。』


 羽根つきを始めた2人。炎を纏う羽根がラディガルに放たれる。それを雷を乗せて打ち返す。


『ぐぼっ!?。』


 真正面に突き刺さるように放たれた羽根は軽々と構えた羽子板を破壊し、そのままトゥリシエラの胴体を貫いた。大量の血を噴き出し黒い煙を上げたトゥリシエラはその場に倒れ込んだ。


『へっ!。他愛ねぇな。』


 そして、飛び散った血液を含めた全てが炎に包まれ復活を果たすトゥリシエラ。


『この駄犬が!。本気で殺す気でやりやがったな!。』

『はっ!。先に仕掛けたのはそっちじゃねぇか!。』


 最早、エセ関西弁を話す余裕すら失ったトゥリシエラとラディガルとの接近戦が始まったのだった。


『くっ…。何故だ…。勝てん…。』

『えっ…と。すみません。』

『それでは。負けたセツリナさん…。えっ…と。バツっです!。』


 顔が墨で真っ黒になったセツリナ。

 どうやら、手にした羽子板にすら切断する効果が付与されてしまったようだ。打ち返そうとした羽根が悉く真っ二つに絶ち切られ雪の上に転がっている。

 申し訳なさそうにオドオドする月涙と容赦なく顔に墨を塗りたくるムリュシーレア。


『えいっ!。』

『よっと!。』

『はっ!。』


 それに比べて俺達は平和だ。

 

『それっ!。』


 クロノは何でも簡単にこなす。

 全ての神具を内包し扱えるからか羽根つきですら軽々と楽しんでいる。


『ははは!。これ楽しいね!。そりゃっ!。』


 初めてやる筈のアクリスも既にコツを掴んだようで楽しみながら打ち返してくる。


『ほれっ!。』


 俺も久し振りだが、難なく打ち返す。

 打ち返しながら他の連中を確認。


『うぅ…。私は…。私は…。しくしく…。』


 全身真っ黒に染まったセツリナが泣いてる…。


『えいっ!。』

『あっ!。はいっ!。ですっ!。』

『よっ!。』

『せいっ!。です!。』


 体育座りで泣くセツリナの横で良い勝負を繰り返すムリュシーレアと月涙。ほぼ互角のラリーが続いていた。

 平和だ…。対して…。


『死ねぇ!。駄犬がぁ!。』

『お前が死ねぇ!。』


 純白の砂の大地に砂の柱が噴き上がる。

 はぁ…。仲悪すぎだろ…。仕方ねぇ。あっちを構ってやるか。


『クロノ。アクリス。すまんが離れるぞ。』

『うん!。大丈夫だよ!。クロノ!。真剣勝負だよ!。』

『うん!。身体。温まってきた。』

『良し。ラディガル。トゥリシエラ。来い!。』

『『っ!。』』


 俺の掛け声に同時に反応する2体。

 地を駆ける狼と、空を駆ける不死鳥。


『呼んだか!。主様!。』

『呼んだぁ?。主~。』

『お前らな、折角のお正月なんだから仲良くしろよ。』

『主様!。遊んでくれるのか?。』

『ええやん!。遊ぼっ!。』

『良し。なら来い。遊んでやる!。』


 そう言って2体の獣を縁側へ来させ大きな紙を広げた。


『あっ!。これ見たことあるぜ!。』

『ああ~。主達がクリスマスにやっとったな~。双六やったか?。』

『まぁな。そう双六だ。この世界で作ったオリジナルのな。クリスマスに灯月達とやってたのは人生ゲームで、それを参考に作った。このサイコロを振って、出た目に自分の駒を進める。止まったマスに書いてある内容を実行し互いに繰り返してゴールを目指すってゲームだな。実行内容はさっきアクリスとクロノで考えて貰った。』


 内容は俺も知らない。めくりになってるし。


『うっし!。分かった!。やるぜ!。』

『ええで。おもろそうや。』


 こうして、俺とラディガルとトゥリシエラでの双六が始まった。

 広げたマップを囲み、俺とラディガルとトゥリシエラ。俺の膝の上でまだ泣いているセツリナ。アクリスとクロノはゲームのアシスト。月涙とムリュシーレアは応援。クミシャルナとクティナは爆睡中だ。


『じゃあ。俺からな!。』


 サイコロを振る。出目は5。駒を5マス移動させて、マスをめくる。そこに書かれる内容は…。


『………。おい。アクリス。クロノ。』

『なぁに?。閃君。』

『なぁに?。主様。』

『私達に内容は任せてって言うから任せたが…ハメたな。』

『『えへへ。』』


 見事なシンクロ。ニヤニヤの笑み。


『さぁ。さぁ。閃君!。内容を実行してよ。』


 内容は一番近くにいるモノにキスをする。

 おいおい。こんな内容ばっかりじゃないよな?。


『一番近くか…。なぁ、セツリナ。』

『はい?。主様?。如何なさいましたか?。んっ!?。』


 涙目のセツリナの唇を奪う。


『はわわわ!?。主様!?。大胆です!。』

『は、恥ずかしいですね…。』

『…はぁ。セツリナ。元気出たか?。』

『…はい。主様…。お慕いしております。ふふ。今年も良い年になりそうです。』


 泣き顔から一転。顔を真っ赤に染めたセツリナが腕を組んできた。元気出たみたいで良かったが…こんな内容のゲームが続くのか…。


『なぁ。駄犬。』

『何だ?。焼き鳥。』

『何やろうな。この敗北感は…。』

『ああ。既に俺達を余所に勝負を決めたような空気が…。セツリナ…。強敵だ。』


 そんなこんなで始まった双六は続く。


『はっ!?。隣にいる奴に殴られる!?。うぶっ!?。』

『ははは。気持ちええなぁ!!!。』


 鳥に殴られる狼。


『あれま!?。衣服を脱ぐかいな。』

『脱がしてやるぜ!。らっ!?。』

『ぎゃぁぁぁ!?。下着まで脱がすなや!。』


 狼に振り袖を引ん剥かれる鳥。


『えーと。背の低い人物(2人)を膝の上で抱きしめるか…ムリュシーレア、月涙。おいで。』

『はいです!。』

『あ、はい!。』


 小さな2つの身体が膝の上に乗る。小さな背中を包むように抱きしめる。力を入れると折れてしまいそうな華奢な身体を持つ2人だ。優しく力を込めた。


『どうだ?。』

『温かいですぅ~。』

『恥ずかしいですが…幸せです。』


 まだまだ続く。


『す、スクワット1000回…。嘘やろ…。ウチ…下着姿やで…。』

『ほれ。やれよ焼き鳥。主様に無様な姿を見せろよ。』

『くそ~~~~~~~~~~。主~。見んといてぇ~。』


 俺はそっと視線と顔を逸らした。

 女の子として見てはいけない姿のトゥリシエラから。何がとは言わないが、めっちゃ揺れてるし…。


『俺だな。えっと…。げ。逆立ちで家の周りを一周だと!?。』

『はぁ…はぁ…。ほれ!。行けよ!。はぁ…。はぁ…。とっとと回ってこいや!。惨めにな!。』

『お前が言うなぁ!。』


 スクワットする鳥と逆立ちで外へ向かう狼。


『対戦相手がいなくなったぞ?。』

『まぁ。まぁ。閃君だけでも進めちゃおう!。』

『うんうん。』


 アクリスとクロノの言葉に従いサイコロを振る。3か。その内容は…。


『なぁ。絶対仕組んでるだろ?。』

『何のことやら~。』

『うん。何言ってるか分かんない。』


 このゲームを作った2人の頭を撫でる。


『はいっ!。どうぞ!。閃君!。優しくしてね。』

『はい。主様。』


 自分の頭を差し出す2人。まぁ。良いか。

 俺は2人の頭を撫でた。


『えへへ。何か幸せだなぁ。』

『うん。幸せ~。』

『はぁ…。はぁ…。うぅ…幸せそうにしてぇ…はぁ…はぁ…。ウチが裸で汗だくになっとる間に…他の奴に主を取られる…はぁ…。はぁ…。なんて…。』

『はぁ…はぁ…。くっそ…。やっと終わったぜ。俺も…撫でられてぇ…なぁ…。』


 スクワットを終わらせたトゥリシエラと戻ってきたラディガル。2人とも汗だくだ。


『次はウチや今度こそ主に、ちゅーしてもらうんや!。』


 サイコロを振るトゥリシエラ。


『4か。1、2、3、4と。何々、4マス戻るか。はっ!?。まてまて。4マス戻るやて!?。…ってことは…。』


 さっきと同じマス。つまり。


『くっそ~。またスクワットかいな~~~。』


 再び顔を背けとこ。可愛そうになってきた。


『次は俺か…。くそっ!。緊張してきやがった。』


 ラディガルがサイコロを振る。


『…マジかよ。』


 めくられた内容は…。


『一番近くにいる奴に抱きつくだぁ!?。』


 現在、ラディガルの一番近くにいるのはトゥリシエラ。


『さぁ。ラディガル。行きなさい!。』

『うん。いけいけ!。』

『ぐっ…。焼き鳥…。』

『はぁ…はぁ…。何や?。駄犬?。何が書いてあったんや?。』

『くっ。おらっ!。』

『はっ!?。いきなり何ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!?。死ぬ死ぬ死ぬ。背骨折れるわ!。この駄犬がぁぁぁぁぁあああああ!!!。』

『くっそぉ。鳥クセェ!。』


 トゥリシエラに近づき全力で抱きしめるラディガル。ボキッと音を立て力無く崩れる無惨な姿となったトゥリシエラ。

 

『さて、俺だな。』


 サイコロの目は6。あと1でアガリだ。次で終われるかな。さて、内容は…。はぁ…。最後までこれかよ。


『おい。トゥリシエラ、ラディガル。』

『おう。主様。』

『はぁ…はぁ…。な、何や?。主?。ウチは今、この駄犬に復讐を…。』

『いつもありがとな。いつも助かってるよ。』

『はぁっ!?。え!?。急に何や!?。ん!?。』

『主様!?。流石に俺でも緊張する…ぜ?。んっ!?。』


 内容は。対戦相手全員にバグし感謝の言葉とキスを贈る。だった。

 チラリとアクリスとクロノは相変わらずニヤニヤしてるし、いたずらっ子みたいにはしゃいでる。


『主ぃ…。好きや…。ずっと一緒やで?。』

『主様…。俺も…。雌として…好きだぜ?。』

『そうだな。俺もお前達のことが好きだし大切だ。ずっと一緒だ。』

『はは。そんなん当たり前やん。』

『おぅ。ずっと一緒だ。』


 パンッと手を打ち合わせるアクリスとクロノ。この状況を作りたかったのか?。まどろっこしいなぁ…。けど…うん。悪くはないか。


『すぅ…。すぅ…。ふふ。皆…仲良く、ですよ。すぅ…。ご主人様…。すぅ…。すぅ…。今年も宜しくお願いします。』


 寝言なのか。起きているのか。

 部屋の奥で寝ているクミシャルナの声が聞こえたような気がした。


 ああ。そうだな。今年も宜しくな。

次回の投稿は7日の日曜日を予定しています。

次話から本編に戻りますので読んでくれると嬉しいです。

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