番外編 閃と恋人達のクリスマス
今日は12月25日。
昨日はクリスマスイブということで、新生クロノ・フィリア全員でパーティーを行った。
大所帯となったクロノ・フィリア。当初の人数から4倍以上になったメンバーでの大規模なパーティーだ。大いに賑わいを見せた。
そして、クリスマスの今日。
今は午前中。夜のパーティーに備えて準備を行っている最中だ。
昨日はメンバー全員で行ったパーティー。
今日は各々が自由に集まって楽しむことになっている。友人と過ごすも良し。恋人と過ごすも良しだ。
俺は自分の部屋にいた。
部屋に隣接しているキッチンでクリスマス用の料理を作っているんだ。
今日の予定は恋人達と過ごすことになっている。
いつの間にか17人に増えた恋人達が集まるんだ。料理の数も相当な量を用意しないといけない。
………まぁ。いつの間にか大所帯になってしまったな…。今の状況に後悔はないし、アイツ達を手離す気もないが…。
本当にアイツ等は俺なんかで良いのかと時々不安になる。あの人数だし。1人だけを愛してやることは不可能だ。全員を平等にと常に考えている。人だった時も、神となった今も。
間違いなく普通の恋愛ではない。
神となった俺達には寿命はない。
強いてあげるなら、この宇宙を内包した世界そのものが消滅する日。それが俺達の寿命だろう。だが、そんなことにはならない。それが俺の使命だから。…ということで、永遠に近い時間が俺達にはあるわけだ。やることは山程ある。
だが、恋人としての時間も大事にしてやりたいという気持ちも本物だ。アイツ等も普通の恋愛をしたいだろうに…。何とか叶えてやりたいが、俺に出来ることと言えば、前のように1日デートを個別にやるくらいしか思いつかない。
まぁ…今は満足してくれているみたいだが、これから先のことを考えるとな…。
いっそのこと分身してみるか。ああ。意外にいけるかも?。
『…何とかしてやりたいな…。』
まぁ。俺一人で答えが出るような問題じゃないし。現段階じゃ俺の我が儘なんだが。
『旦那様?。如何なされました?。』
『神さま?。何か考え事ですか?。何かをしてやりたいとは?。』
横で一緒に料理をしていた睦美と八雲が俺の顔を覗き込む。しまった顔に出てたか…。しかも声にも出てたな…。
『いや、何でもな…くはないが。今度話すよ。』
『そうですか?。』
『何でも一人で抱え込まないで下さい。』
『ああ。そうするよ。』
神でも解決できないことがある。
それが人の心だ。難しいな。
『にぃ様。味見してください。』
『ん?。ああ。いいぜ。あむ。』
灯月が差し出してきたヘラについていた生クリームを舐める。甘すぎない、フワッとした口溶けが口一杯に広がった。
『うん。美味しいな。』
『ええ。ふふ。にぃ様との間接キスです。ペロペロ。』
『『っ!?。』』
ヘラに残ったクリームを舐め回す灯月。
『旦那様。その…あ~ん。』
『ん?。あ~ん。』
睦美から小さく切り取られたミニトマトとチーズのカプレーゼ。トマトの酸味にチーズの濃厚な味わいが混ざり合う。美味しい。
『上手いな。』
『えへへ。ありがとうございます。』
嬉しそうに微笑む睦美。満足したのか再び料理に戻る。
『むっ!。神さま。あ~ん。』
『ん!?。むぐっ!?。』
今度は八雲に巨大なチキンを口の中にねじ込まれた。丁度良い焼き加減に塩コショウの絶妙な味付け。うん。旨い。けど、あ~んにはデカすぎるぞ。
『美味しいですか?。』
『モグモグ。モグモグ。んあい。』
口の端から骨が飛び出した状態で喋る。
『へへ。満足です。』
こんなことしてたらパーティー前に腹がいっぱいになるぞ。結構なボリュームだし。この肉。
『ちょっと!。3人とも!。何先輩に羨ま…じゃない。楽しそ…じゃない。むぅ…困らせてんのさ!。』
『そうだ!。そうだ!。私達も混ぜろ~。』
『お兄様。さぁ。お口直しの苺です。あ~ん。』
『あ~ん。』
『ちょっ!?。何どさくさに紛れて先輩にあ~んしてるのさ!。砂羅姉!。』
『そうだ!。そうだ!。私も閃君に食べさせたいぞ~。』
大量の食材とお菓子を抱えた詩那、奏他、砂羅がキッチンにやって来た。
『これじゃあ。料理が進まぬのぉ。』
『そうですね。にぃ様のお口にどんどん食べ物が入っていってしまいます。』
『神さま。もう一本いる?。』
『八雲…夜の分が無くなるよ…。』
『はぁ…先輩。ここはウチ達がやるから。あっちを手伝ってあげて。灯月もそれで良いよね?。』
『ええ。構いません。にぃ様。ここは私達に任せて先に行って下さい。例え何が起きようとにぃ様だけは生き延びて下さい。』
『何か起きるようなこと言うなよ。今の俺達じゃあ、洒落にならん。はぁ…まぁ良いか。わかった。行ってくる。』
言われるままに俺はリビングに向かう。
『え~っと。もうちょっと右です。もうちょっと。もうちょっと。はい!。そこです。』
『ん。了解。』
『ここと。ここをくっ付けて。はい。出来た。これで大体天井の飾り付けは終わりかな?。』
『はい!。バッチリです!。お疲れ様です!。無華塁お姉さん!。累紅お姉さん!。』
リビングに入ると夢伽の指示の下。累紅を肩車した無華塁とで天井の飾り付けをしていた。
色とりどりの飾りが天井からぶら下がっている。これを見るだけでもクリスマスなんだと改めて実感するな。
『3人とも、お疲れ。』
『あっ!。お兄さん!。』
夢伽が俺に気付くとそのまま抱きついてくる。その頭を撫でると嬉しそうに笑う。
『あっ!。夢伽ズルいよ!。』
『累紅。あんまり動くと倒れる。あっ。手遅れだった。』
『わわわっ!?。きゃう!?。』
バランスを崩し倒れる累紅と無華塁。
『あれ?。落ちたのに痛くない?。』
『いやいや。キャッチしたから。大丈夫だろ?。』
『はうわっ!?。閃君にお姫様抱っこされてる!?。夢かな?。』
『ズルい。累紅。私も。されたい。』
『私もです。』
『嫌だ。』
『『え?。』』
『譲んない。』
『め、珍しく累紅お姉さんが自己主張を…。』
『閃君。もっと~。』
『おっ?。』
累紅が顔を赤くしながらも俺の首に腕を回し抱きついてくる。自分から来るなんて珍しいな。
『えへへ。ちょっと。恥ずかしいけど。幸せだよ。これ。閃君を近くで感じられる。温かい。』
『ズルい。』
『ズルいです』
暫く抱き合い、その後は夢伽と無華塁にもお姫様抱っこをすることに。
『えっと。椅子はここ。テーブルはこっち。マットも敷こうかな。クッションを置けば皆で寛げるよね。』
『椅子ここ。うん。良い感じ。智ぃちゃん。掃除もバランスの良い配置も得意。』
『そうですね。人数が人数ですし。閃さんを入れて18人。全員が寛ぐにはこれくらいのゆとりが必要ですね。』
『そ、そんな褒めても何も出ないよ~。』
『けど、つつ美がいないね?。来ないのかな?。』
『つつ美。儀童達の面倒をみてる。子供好きだから。』
『ああ。そうなんだね。じゃあ、今日は本当にクラブのメンバーだけなんだ。はは、それでも凄い人数だけど。』
『代刃君と一緒のクリスマスなんて夢みたい。それに閃さんや皆とも一緒なんて。色々あったけど、なんか幸せだな。』
『そうだね。燕ともまたこうして出会えたんだ。また、皆で楽しいこと沢山しようね。』
『うん。』
『皆。お疲れ。順調みたいだな。』
『閃。』
『閃ちゃん。』
会話の区切りに合わせて声を掛ける。
すると、智鳴と氷姫がいつものように右と左にやって来た。変わんないな。この世界に転生してもコイツ等は俺の知ってる幼馴染みだ。
『閃。どうしたの?。キッチンにいたよね?。』
『くんくん。閃さんから良い匂いがする。』
『ああ。さっきまで料理をしてたからな。けど、次から次に口の中に食べ物が運ばれてくるから逃げてきた。』
『ははは…想像つくね。』
『私も、あ~んしたいなぁ。』
『今度な。燕の料理も食べてみたいな。』
『え?。良いんですか?。』
『ああ。勿論だ。』
『腕によりを掛けます!。』
『私も作る。』
『わ、私もだよ。』
『……………。よし、じゃあまた後でな。』
『あ…逃げた。』
『閃ちゃん…。うぅ…酷い。』
『ははは…。』
氷姫と智鳴の料理か。
万全の状態で挑まねば。
『はい。成長停止。大きさはこれくらいですか?。』
『はい。素晴らしいです。美緑さん。クリスマスツリーに本物のモミの木を用意できるとは。感服です。』
『えへへ。ありがとうございます。兎針さん。では、飾り付けをお願いします。瀬愛ちゃん。翡無琥ちゃん。』
『うん!。いっぱい付けるよ!。』
『飾りも沢山種類がありますね。あっ。雪に見立てた綿まであります。もふもふ。』
『あら?。蝶々の飾りまで。しかも私の蝶と同じ模様の?。』
『それは閃さんが用意してくれたんです。兎針の羽、凄く綺麗だからって。』
『っ!?。惚れます…。いえ、それは既に。』
『どうだ?。クリスマスツリーは?。おっ?。大きいな。』
『閃さん!。』
『『お兄ちゃん!。』』
『閃さん。抱いてください。』
『ええ…急にどうした?。』
『これです。』
『ああ。蝶々の飾りか。どうだ?。お前の羽を模したんだ。キラキラして綺麗だからな。嫌じゃなかったか?。』
『そんなことはありません。抱いてください。』
『こ、今度な。』
『………わかりました。この飾り、1つ貰っても良いですか?。』
『はい。沢山あるので構いません。』
『やったっ!。』
『ええ。良いなぁ。瀬愛も欲しい。』
『私も…。』
『閃さん?。良いですか?。』
『ああ。大丈夫だ。』
『わ~~い。』
『ありがとうございます。』
こんなことでも喜んでくれるのか。微笑ましいな。
『閃さん。高いところの飾り付けをお願いしても良いですか?。』
『ああ。良いぜ。』
『お兄ちゃん。瀬愛も付けたい。』
『じゃあ、肩車してやるよ。ほれ。』
『わーーー。高いぃ!。』
『あんまり暴れるなよ。』
『はーい。よいしょっ。これはここだよね。』
『そうです。ああ。あまり近くに付けないで下さい。雪の綿を間に付けますので。』
『はーい。』
瀬愛の手によって次々に飾りが付けられていく。
『綿は翡無琥がするか?。』
『え?。あ…。はい。』
『よし、ほら行くぞ。それ。』
『ひゃぁ。た、高いですね。』
翡無琥も肩車する。
『おいしょ。よいしょ。』
あっという間にツリーに雪が乗っかった。
雪を付けるとクリスマス感が増すなぁ。
『これで完成ですね。』
『ああ。後は時間までゆっくりしてろ。俺は色々用意してくる。』
俺はリビングを後にした。
ーーー
『皆。グラスは持ったか?。』
俺の言葉に全員がグラスを持ち上げた。
『よぉし。じゃあ、始めるぜ。』
メリークリスマス!!!。
全員の声が重なりパーティーが開始した。
テーブル並ぶ様々な料理。様々な飲み物。
マットに座り、ソファーに座り、各々が自由に食事を楽しんでいる。
天井の飾りも、クリスマスツリーもライトが彩り取りに点灯し雰囲気を作り出している。
『にぃ様。あ~んです。』
『お前…さっきキッチンでもしただろそれ?。あ~ん。』
『と、言いつつも普通に食べるし…。』
『閃。なんだかんだで灯月に甘い。』
『そうじゃな…。』
『睦美にも。』
『うむ…。』
因みに俺は敷いてあるマットのど真ん中に座っている。てか、そこに座るように誘導された。
さて、時間的にそろそろ良いかな?。
『ちょっと立つぞ。』
立ち上がり、大きな袋を持ってくる。
『にぃ様?。それは?。』
『決まってるだろ?。俺からのクリスマスプレゼントだ。』
『っ!?。』
全員に用意したプレゼントが入っている大きさが様々な箱を渡していく。
喜んでくれると良いが…。緊張するな。
『行き渡ったな。それじゃあ、開けてくれ。』
各々がプレゼントの包装に使用していたリボンをほどいていく。
『っ!?。閃さん…これ。』
『あ…。あの時の…。』
最初に開いた美緑が涙を流しながら口を押さえている。どうやら、喜んでくれたようだ。
『ああ。美緑達には仮想世界の時にホワイトデーで渡したモノをアレンジしたのをプレゼントだ。』
仮想世界で渡したプレゼントは世界消滅と神に殺されたことで持ち物から消失した。
大切にしてくれていたのは知っていたから、改めてプレゼントすることに決めたんだ。
神になった俺達にとって前回のプレゼントに付与していたような効果は既に自身で扱えるようになっている。
だから、皆から意見を募って決定し付与した効果は2つ。1つは俺が今何処にいるかが分かるサーチ効果。もう1つは、俺の近くに誰がいるかが分かる効果だ。
『先輩…これ…。』
『ああ。詩那達にはこういった形で初めてのプレゼントだからな。俺なりに似合うと思って用意したんだ。受け取ってくれ。』
燕を含め、詩那達。リスティールで出会った娘達には新作のプレゼントを作成した。
燕には、鳥の刺繍の入った靴下とサンバイザー。
夢伽には、小さな兎のぬいぐるみ。
詩那には、ピアス。
兎針には、蝶のアクセサリの付いたネックレス。
奏他には、マイク。
八雲には、リスティールのクリスタルボール。
『可愛い。ありがとうございます!。お兄さん!。』
『嬉しい。閃さん。ありがとうございます。』
『わぁ…。閃さん…。ありがとう。大切にするね。』
『先輩…マジ好き。大好き!。』
『閃君の為に今度、歌ってあげるね。』
『神さまのプレゼント…。宝物にします。』
良かった。喜んでくれたみたいだ。
プレゼントを考えるのと用意するので精神世界で3ヶ月掛かったからな。苦労した分喜んで貰えて嬉しいな。
全員に用意したプレゼントは好評だったようだし。後はパーティーを楽しもう。
次回の投稿は明日の26日を予定しています。
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