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第223話 過去での出会い

 沈黙。静寂。

 室内にはウチ。紗恩。パパ…そして、頭を爆破されたママの死体。誰も喋らない中、ウチを見る妹、紗恩の冷たい視線。


『お姉。何してんの?。』

『っ!。ウ…ウチ…。』


 混乱する思考。

 自身が起こしてしまった出来事に思考が追い付いていない。上手く言葉が出ない。

 紗恩の視線に対しどう反応して良いのか分からず、ただただ視線から逃れる為に顔を背けることしか出来なかった。

 弁明しなきゃ。

 パパとママは紗恩を殺そうとして。襲われて。正気じゃなくて。咄嗟だったの。ウチは紗恩を守ろうと。ウチは悪くない。ウチの意思じゃない。紗恩…助けて。

 様々な考えが頭の中に渦を作る。

 けど、唯一。理解できること。おそらく、自分の中で最もショックだったこと。

 自分が大切な家族、ママを殺してしまったことだけは自覚していた。


『紗お…。』

『紗恩!。た、助けてくれ!。詩那の奴が突然暴れだしてママを…。』

『えっ?。』


 パパが紗恩に抱きついた。

 それを無視して紗恩はゆっくりと周囲を確認。パパ。ウチ。ママの遺体。部屋の様子。


『本当?。お姉?。』

『違っ!。』

『信じてくれ!。いきなりなんだ!。僕達が紗恩だけを甘やかしていると誤解して怒鳴って来て…そんなことはないと言ったママの顔を…。こんな…酷い…ことを。』

『………。』

『それに、詩那は次は紗恩を殺すとも言っていたんだ。自分よりも優秀で何でも出来る紗恩に嫉妬したと言っていた。次は紗恩を爆破する気なんだ!。コイツは!。』


 紗恩はゆっくりと機械の杖をウチへと向けた。そして、魔力が尖端に集束していく。


『紗恩…違うの…そんなつもりは…なくて…。ママを殺す気なんて…なかったの…。』

『嘘をつくな!。化け物が!。なぁ、紗恩。とっととあの親不孝者を殺してくれ。ママの仇をとってくれ!。』

『砲撃。』


 紗恩の魔力砲撃。

 ウチの横を掠め、家の壁に穴をあけた。


『紗恩?。』

『お姉。行って。次は当てるよ?。』

『っ!?。』

『なっ!?。おい!。紗恩!。何で外したんだ!。今ならアイツを殺せただろう!。』

『今、優先すべきはパパの安全の確保だよ。ここでお姉と戦えば、この辺り一面は吹き飛ぶ?。お姉の能力はさっき見たでしょ?。』

『っ!。そ、そうだな…。ママを殺されたショックで…つい、気が早ってしまった。』

『紗恩…ウチは…。』

『………お姉。行って。』


 小さな声で呟いた紗恩。

 ウチは紗恩のあけた壁の穴から外に逃げ出した。


ーーー


 あれから6時間が経過した。

 ウチは路地裏で膝を抱えて丸くなっていた。

 混乱状態だった頭は少しずつ冷静さを取り戻していき、同時に自分の能力でママの頭を爆破してしまった時の感覚を思い出してしまう。


『ママ…。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。』


 涙が頬を伝って首へ流れる。

 チクリッ。とした痛みに首を触ると、ママに絞められた跡が残っていた。

 ママも…パパも…人が変わったみたいに変なことを言い始めた。紗恩を殺すって言ってた。絶対におかしい。首を絞められた時のママの表情は明らかに狂っていたし…あの力…。ママには…いや、普通の人間にあんな力は出せない。有り得ない。


『そうだよ。あの時…。』


 首を絞められた時。僅かに感じた違和感。

 ウチじゃない。紗恩でもない。別の魔力の波動を感じたんだ。それに…操られていた?。なら。ママとパパは何者かの能力を受けた…。


『プレイヤーだった。奴が…。この近くにいる。』


 紗恩の警戒にも引っ掛からずに潜伏している。能力を持たないママとパパを操っている奴が。


『許せない。絶対見つけ出して…殺してやる。』


 ウチは決めた。

 ウチ達の日常を壊した能力者を見つける。どれだけ時間が掛かっても。


ーーー


 次の日からウチは情報を集めた。

 遠くから家の様子を窺ってみたけど、もう紗恩もパパも居なくなっていた。

 良く良く観察していると近所の人達の様子もおかしいことに気付く。全員が能力を持っているウチ達のような存在を毛嫌いしているんだ。

 レベルの低く、一般人と変わらないような能力者を見つけ全員で袋叩きにしたりと攻撃性、狂暴性が向上してる。

 何よりも全員から微かに同じ魔力を感じるんだ。ママとパパから感じたものと同じ魔力を…。


『ママ…。パパ…。紗恩…。ウチ…頑張る。』


 ウチは魔力を辿ることにした。


ーーー


 意外にも犯人はすぐ近くに潜んでいた。

 ウチの家から1キロも離れていない古びた洋館屋敷。壁一面に蔦や苔が張り付いていて、人が住んでいる形跡はない。だけど。あの魔力が中から漂っているのを感じる。

 屋敷に入る。

 湿気ったカビの臭い。溜まった埃。何年も掃除も換気も行ってない。だから気付けた。埃の上に足跡が残っていた。その足跡は地下へと続く階段へ伸びていて、何度も言ったり来たりを繰り返しているみたいだった。


 静かに階段を降りていく。

 幾つもの部屋が並ぶ地下。その中に唯一明かりが灯いている部屋がある。人の気配も。そして、あの時に感じた魔力も。


 そっと中を覗くと1人の男がいた。

 薄気味悪い笑みを浮かべて…っ!?。何よ!?。この部屋…。


 ウチは信じられないモノを見てしまった。


 部屋には人が並べられていた。最初は人形かと思ったけど微かに肩が上下していて呼吸していることが分かった。

 全員が若い女。

 コスプレのような派手で様々な服を着せられた娘。下着姿の娘と全裸の娘が一番多い。

 近所に住んでいた娘も、同じ学園の生徒も混ざっている。


 何よりも、その娘達に対して男が厭らしい手つきで触ったり肌を舐めたりしているんだ。

 その異様な光景にゾクゾクとした寒気と鳥肌が立つ。気持ち悪い。何なのアイツ…。

 

 失敗だった。

 少し動いた拍子に立て掛けてあった棒状の何かが倒れてしまった。

 ガンッ!。という音が閉ざされた地下の空間に響いてしまったんだ。


『ん?。誰だ!。誰かいるのか!。』


 逃げるか。一瞬そう考えたけど。

 あの男が今回のことを引き起こした犯人なら逃げられない。絶対、殺すって決めたんだ!。


『女?。何だ?。お前は誰だ?。どうして…ここに居るんだ?。』


 深呼吸をして男の前に出る。


『お前が裏でコソコソと街の人達を操っていた能力者?。』

『は?。何でその事を?。いや、お前もプレイヤーか?。』

『そうよ。』

『成程~。つまり俺の魔力を辿ってきたってことか?。気付かれないように微弱な魔力で操ってたんだがな。』

『人族の魔力感知を舐めんな。』

『はん!。お前人族かよ?。全然ハズレ種族じゃん!。そんな雑魚種族でノコノコと俺の隠れ家までやって来たっての?。』


 【情報看破】で男のステータスを確認する。

 レベルは110。無所属。種族は【操針霧族】。

 やっぱり、六大ギルドのメンバーじゃない。分かっていた。顔に見覚えないし。


『どうして、普通に暮らしている人達に酷いことをするの?。』

『ん?。そりゃあ、ここをプレイヤーだった奴等に見つからないようにするためさ。見ろよ。この俺のコレクションを!。コイツ等は俺の言うこと何でも聞いてくれる人形なんだぜ?。こんな最高なことを邪魔されたくねぇだろ?。』


 操られた少女達を、さも自分の物のように話す男。反吐が出る。


『最低。』

『いや、最高だろう!。能力を使えば女に困らねぇハーレム生活だ。ひひひ。ここを俺の楽園にするのさ!。』

『ふざけんな!。何も知らない…力のない娘達をアンタの好き勝手に出来ると思うな!。』


 ウチは飛び出した。

 

『っ!?。速い!?。』


 男の右肩に触れ魔力を流す。設置完了。


『近づくんじゃねぇ!。』


 振り払われるも、こっちの能力の発動条件は満たされ、即座に魔力を起動した。


『アンタを殺してやる!。』

『なっ!?。ぶっ!。』


 男の右肩が爆発する。

 

『いってぇ~。あぶねぇなぁ~。』

『えっ!?。何で!?。効いてない?。』

『効いてる。効いてる。あと少し霧化するのが遅かったら右肩吹っ飛んでたわ。お前。結構えげつない能力持ってんな。』


 霧化。種族の特性?。


『へぇ~。ふぅ~ん。』

『っ!?。』


 男がウチの身体を舐め回すように厭らしい視線を向けてくる。頭から足まで、上に下に視線が移動する。


『何見てんの?。キモいんだけど?。』

『いんや。薄暗くてあんまハッキリ見てなかったけどさ。お前。結構良い身体してるじゃん。俺好みだわ。』

『は?。ふざけたこと言ってんなよ?。』

『いやいや。ふざけてないよ。へへ。決めた。お前も俺のコレクションに加えてやるよ。』

『お断り。アンタなんかに従うくらいなら死んだ方がマシ。』

『へへ。死んだ方がマシね。確かにそうだわ。お前は俺のモノになるんだ。勿論、死ぬまでな。へへ。楽しみだぜ。』


 男が一歩近づく。


『それ以上近づいたら爆破するけど?。』

『いや。近づかないよ。もう、お前は俺のテリトリーの中さ。』

『は?。テリトリー?。痛っ!?。』


 突然、首の後ろにチクリとした痛みが走る。

 何かに刺された?。いや、いつの間にかウチの周囲が霧で覆われている?。まさか?。アイツの?。


『さぁ?。どうかな?。身体の自由がきかなくなってきたでしょ?。俺の身体は自由に霧化出来て、部分的に実体化した針状の触手を出すことが出来るのさ。触手に刺された相手は俺の思い通りに操れる。ここにいるコレクション達は皆この能力で俺のモノになったのさ。』

『全然。動けるけど?。』


 確かに針に刺された。

 けど、それだけだ。ウチの身体の所有権はウチにある。自由に動かせる。操られていない。


『は?。どういうことだ?。あ、もしかして…お前…レベル111以上か?。』

『ええ。120よ。』

『マジかよ。格上じゃん。はぁ…めんどい相手に目をつけられたもんだな。はぁ…。まぁ良いや。操れないなら無理矢理拘束するまでだ。ここを知られちまった以上逃がすわけにはいかないしな。』

『アンタじゃ、ウチには勝てないわ!。さっきの見たでしょ?。アンタの攻撃はウチに効かない。近づけば爆破してやるわ!。』

『ははは。分かってないな。俺は後衛職だ。そもそも前線で戦う種族じゃないんでね。さぁ。俺の自慢のコレクション達よ!。あの侵入してきた女を捕らえろ!。』

『っ!?。』


 生気の感じない虚ろな眼差しを浮かべた娘達が機械のように一斉にウチへと顔を向けた。ロボットみたいに男の言うことだけを実行する人形。意識を奪われ操られている少女達が次々と襲い掛かる。


『くっ!?。』


 速く爆破を!。腕を翳すも魔力が集まらない。

 操られている少女達の姿に…ママの…ウチの能力で…爆発して死んだ…殺しちゃったママの姿が重なって…。


『能力が…。出ない…。』


 そんな!?。魔力が練れない!?。


『はは!。何か良くわかんねぇけど!。チャンスだ!。一気に取り押さえろ!。』

『っ!?。うぐっ!。』


 少女達が次々にウチへと飛び掛かってきた。

 複数の打撃が顔やお腹に命中する。

 そうだった。ママの時も…操られている人達は異常な怪力になるんだ。

 その場に崩れるウチの身体を数人が押さえる。2人ずつで両腕と両足。腰に1人。後ろから羽交締めで1人。もう1人が首を掴んだ。

 

『ぐっ…。動け…ない…。』


 なんて、力なの。

 か細い少女達の腕からは想像できないくらい強い力で締め付けてくる。大の字のまま固定されたウチ。

 安全を確信した男が近づいてくる。


『へへ。動けないでしょ?。そうだよね?。コレクション達はただの被害者だ。まともな理性の持ち主なら何も罪のない少女達を爆破なんて出来ないよねぇ?。』

『くっ!。』

『いやぁ。怖い怖い。けど、その状態じゃ睨むくらいしか出来ないねぇ。へへ。動けないでしょ?。こんなこともしちゃうよ?。』

『ひっ!?。てめぇ!。やめろっ!。』


 おもむろにウチの胸を触る男。

 抵抗しようにも動けないウチには叫ぶか睨み付けるしか出来なかった。悔しい。こんな最低な野郎に。良いようにされて…。


『あれあれ。泣いちゃった?。安心しなよ?。抵抗しなければ何も痛いことはしないから。これから長い時間を掛けて俺のモノにしてあげるからさ。』

『クソが…。』

『ははは。いいね。いいよ。自分の立場が分かってないみたいだし。じっくり教えてあげよう。おい。剥ぎ取れ。』

『んっ!?。ひゃっ!?。』


 男の命令に少女達がウチの服を破り取る。

 一瞬で下着だけの姿にされたウチに再び気持ちの悪い視線を向ける男。


『やっぱ。良い身体だわ。マジ最高だ!。』

『くっ!。ぺっ!。』


 完全に勝った気でいる男が顔を近づけて来た。唯一の抵抗に唾を吐いてやる。 


『………。へぇ。自分の立場。まだ、分からない?。おらっ!。』

『うぐっ!?。』

『へへ!。少し痛い思いをすれば大人しくなるな?。おい。口も塞げ。』

『むぐっ!?。』


 口の中に何かを入れられ喋ることすら出来なくなった。これ…猿轡ってヤツ?。


『へへ。これで少しは静かになるよなっ!。』

『んぐっ!。』


 何度も。何度も。何度も。

 殴られ続けた。


『へへ。人族は回復力を強化出来るんだろ?。なら、多少強めのお仕置きをしても問題ない訳だよなっ!。』

『んっ!。ぐっ…。』

『おらっ!。おらっ!。おらっ!。』

『うぐっ!。んぐっ!。んんっ!。』


 どれくらいの時間が経ったのかな。

 男が殴るのをやめたのは…。


『……………。』


 もう…疲れちゃった…。

 爆破の能力を使えば、ここにいる全員を殺すことが出来る。けど。ママの…あの姿が脳裏に焼き付いて…手が震えて…息が苦しくて…。

 はは…。完全にトラウマじゃん…これ。ママ…。ごめんなさい…。


『はぁ…はぁ…。ははは。やっと抵抗する気がなくなったみたいだね。ひひ。安心していいよ。今まで痛いお仕置きを我慢してたからね。もう、酷いことはしないさ。気持ちいいこと沢山しようね。』


 男が俯くウチの顎をクイッと持ち上げ顔を近づけてきた。ブサい顔が目の前に…はぁ…こんな最低な男に…良いように弄ばれるのか…。

 はは…ママを殺しちゃった…罰だ…よね。


 抵抗する気を失ったウチは目を閉じた。


 ドゴンッ!!!。


 その時、物凄い音と共に地下室の天井が抜けた。大きな穴があいて外の…空から陽の輝きが地下室へ降り注いだ。


『なっ!?。何だ!?。いきなり!?。』


 薄暗かった地下室に射し込んだ光に目を細めたウチの視界には…おそらく天井を突き破って侵入してきた1人の男の人が…。


 あ、あの人…。


『瀬愛は…いないか。魔力の動きを感じたんだが。ここにはいないな。ハズレか…。』

『お、お前は…誰だよ!?。俺の楽園に何てことしてくれたんだぁ!。』

『あん?。』


 【あの人】は部屋の中を見渡す。

 様々な姿の女。怪しげな道具が並ぶ地下室を。

 そして、ウチと目があった。ウチの姿は複数の女達に四肢を拘束されて、身体は殴り続けられて傷だらけのボロボロ。


『へぇ…。お前…良い趣味してやがるな。』

『は?。』

『ここ数日、スキルを悪用して私利私欲を満たしてる奴等が多かったが…ここまでのことをやってる奴は初めて見たぜ。』

『な、何だ!?。おまブッ!?。』


 あの人の拳が男の顔を殴り付けた。

 軽々と男は吹き飛び壁を破壊しめり込んだ。


『痛い!?。痛い!。な、なんなんだぁ!。お前はぁぁぁぁぁあああああ!!!。』

『はん?。うるせぇよ。口を閉じろクズ。てめぇと会話している時間が無駄だ。』

『へへ。まぁ。ここを知られたからには俺も黙っているわけにはいかねぇからな!。』

『ん?。魔力の霧?。何か違和感が…。ああ。そう言うことか。お前、操針霧族か?。霧に隠れて他の種族の生物を操る種族だったな。』

『馬鹿な。針が刺さらねぇ。』

『レベル110か…それじゃあ、どう足掻いても俺にダメージは入らねぇよ。』


 あの人の姿が…はっ?。女になった!?。

 銀髪の超絶美人に!?。なにそれ!?。


『は?。何を!?。え?。何だ?。この魔力の四角い空間は?。』

『知る必要はねぇよ。これから死ぬ奴にはな。』

『へ?。し、死ぬ?。』

『ああ。死ね。』

『ひっ!?。魔力が!?。収縮して!?。いてぇ!?。いだい!?。いだいいだいいだいいだいいだいぃぃぃぃぃいいいいい!?。がぁぁぁぁぁあああああ!?!?。』


 男の身体はあの人が出現させた四角い空間の収縮に巻き込まれて小さな点となって消滅した。


『あんなの一人一人を更正させる時間なんかねぇからな。この短期間で世界が変わっちまった。………さて。【転炎光】。』


 3色の光がこの場にいた全ての女の子達へ降り注ぐ。ウチの身体も光に包まれて全身の傷が癒えていった。次々に倒れる女達。ウチの拘束も解かれ自由になる。


『さて、これで洗脳は解けただろう。この娘達のことは…仕方ねぇ。一先ず灯月と智鳴に任せるか。てか、裸のまま放置は流石に不味いか。』


 あの人は女の子達に布を掛けていく。


『もう少しで助けが来るからな。あと少しだけ辛抱してくれ。』


 最後にウチの前に立つあの人。

 去年、卒業してしまった憧れだった【先輩】。ずっと片想いのまま終わってしまった人。

 その人が、ウチを助けてくれたんだ。


『良く頑張ったな。ほら、これでも羽織ってな。』


 懐かしい先輩の顔。

 ウチの肩に先輩の優しい匂いのついたジャケットを掛けてくれた。


『それじゃあ。行くな。』


 ああ。先輩が行っちゃう。

 けど、安心したせいか急激に眠気に襲われて視界がぼやける。


『せん…せん…ぱい…。』

『ああ。また、いつか会おうな。後輩。』


 あっ。ウチのこと。覚えていて…。

 ウチは嬉しさに満ち溢れた気持ちの中で気を失った。最後に見えた先輩の後ろ姿は、去年までと何も変わってなかった。


 その後、ウチは目を覚ました。

 多分5分くらいしか経ってなかったと思う。

 まだ、先輩の言っていた助けは来ていないみたい。


 助けが来る前に屋敷を後にした。

 ウチには、まだ出来ることがある筈…だから。紗恩に会う。そう決めたんだ。先輩のジャケットを握り締めながら…。


 結局、その後。

 ウチはゲーム時代に所属していたギルド【黒曜宝我】に合流した。六大ギルドの一角。そこでなら、紗恩にまた出会えるチャンスがあるかもしれない。あの日の真相を話すことが出来る。そう考えたからだ。


 けど、ウチの思惑とは裏腹に。それ以降、紗恩と出会うことはなかった。


 暫くして黒曜は白聖との大きな戦争を始めてしまったから。その戦いでギルドマスターだった黒牙が殺された。

 正直、焦った。

 黒牙の強さはウチ達の間でも頭一つ抜きん出ていた。他の六大ギルドと並んでいたのも黒牙がいたからだ。そんな絶対的なギルドの象徴を失ったんだ。

 後釜になった黒璃も何処か気にくわない。無理にキャラを作っているようで…。けど、戦争で多くの白聖の奴等を殺したのも事実だった。

 ウチはそれでも良いと思った。紗恩にまた会うことが出来るなら誰の下につこうが構わない。強い奴の下にいればそれだけ自由に動けるから。


 最終的に黒璃を気に入ったクロノ・フィリアの矢志路っていう先輩の仲間に殺されるまで、ウチは紗恩を探し続けたんだった。


ーーー


『ははは…何やってたんだろう…ウチは…。』


 思い出した記憶。

 ただただ不器用に振り回されて右往左往してた人生だった。

 結局、最期まで紗恩に会えないし…。

 自分のことに精一杯で自分を守るために他人を盾にして…。


『思い出しても…嬉しくないな…。』


 けど、だけど。先輩…。ウチ達…会ってたんだね。先輩は、やっぱり、ウチの先輩だったんだ。


『成程な。これがお前の記憶か。』

『!?。ラディガル?。』


 声を掛けられて驚いたウチの前に現れたラディガル。

 気付くと、そこは今までいた森じゃなく白い砂の足下が地平線まで続居た場所。夜空の星の輝きが満天に広がっている。


『ははは。同化した影響だと思う。少しだけどお前と静かに話す時間が出来たみたいだ。』


 ラディガルが指を指す。

 ウチは自分の指先に視線を向けた。


『っ!?。』


 これって…。指先から少しずつ光になって消え始めていってる?。


『元の世界に戻ろうとしているのさ。ここは謂わば心と心の中間点。狭間だ。残された時間でお前に同化のことを教えてやるよ。』

『ラディガル…。』


 ラディガルはウチに近付き、話し始めた。

次回の投稿は25日の月曜日を予定しています。

次回は番外編となります。

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