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第222話 よみがえる記憶

 ウチは詩那。

 家族構成はパパとママと妹の紗恩が一人。ウチを入れた4人家族。パパは公務員。ママは専業主婦。紗恩は1つ下の妹。ごく平凡な普通の家族。

 昔から、出来の良い妹の紗恩とは違ってウチは特に目立った特技は持っていなかった。勉強も駄目。運動もそこそこ。何もかも平凡なウチと何でも出来る妹。比べられることが多かった。唯一の趣味がお菓子作りくらい。家事全般も一通り出来るけど。それでも妹の方が効率良く何でもこなしてしまう。

 だから、ウチは努力した。紗恩に勝てないのは努力が足りないからだと自分に言い聞かせて人の数倍努力した。凄く頑張った。けど…やっぱり紗恩には敵わなくて…。


 ウチは、妹に劣等感を抱いた。


 パパもママも何でも出来る紗恩が自慢だったのか。良く紗恩を褒めていた。

 だからかな。反抗期。少し悪ぶった。けど、根っからの不良にはなりきれなくて家出するくらいしか出来なかった。妹と一緒にされるのが嫌で家に居たくなかったから。

 けど。嫌いじゃないの。むしろ、家族は好きな方。姉妹の仲も良いほうだと思う。だけど、思春期特有の抑えられない感情が先行して上手に立ち回れなかった。


 ある日、ウチは妹に誘われてゲームをすることになった。巷で話題の大人気ゲーム。【エンパシス・ウィザメント】。


 小さな気持ちのズレから距離を取っていたウチとの関係を紗恩もどうにかしたかったみたい。昔みたいに一緒に遊ばない?。そう誘われた。


 そのゲームは、町に出れば広告が流れ。テレビでもCMが流れない日がないくらい人気だった。ウチも少し興味を持っていたくらいだ。

 それは紗恩も同じだったみたいでバイトの給料を貯めて買ったらしい。ウチもあまりお金を使う趣味は持っていなかったから貯金を卸して購入した。

 

 その日からウチと紗恩は一緒にゲームをするようになった。


 ゲーム開始直後。種族を決めるガチャ要素があった。ウチは外れ枠の【人族】。紗恩は【機巧魔女】という珍しい種族だった。

 その時点で 運 も負けていたんだ。表情には出さなかったけれど内心、複雑だった。

 悲しい。辛い。悔しい。ズルい。何でこんなに違うの?。ウチだって頑張ってるのに?。

 紗恩は悪くないのは分かってるんだ。けど。何でかな…一緒にいるのが凄く辛いんだ。


 暫くは2人でゲームをプレイしていた。

 モンスターを倒して、クエストをこなして、レベルを上げて。

 けど。やっぱり、紗恩は凄くて。種族の違いもあるけど、ゲームでも上手に立ち回ってウチよりもどんどん強くなっていったんだ。


 レベル50を越えた辺りでウチは決心する。


 それは、紗恩と別行動をすること。

 いつまでも妹の背中を追っているままじゃ駄目なんだ。もっと、自分なりに成長しないと…って、ずっと考えて…考えて…決断した。

 紗恩にもウチの考えが伝わったようで了承してくれた。

 

 暫くしてウチはギルド【黒曜宝我】。

 紗恩はギルド【青法詩典】に加入することになる。



【黒曜宝我】は黒牙(コクガ)がギルドマスターを務めるギルドだった。

 黒牙は黒璃の兄。聖愛とは恋人同士だったらしいけどウチは彼が気に入らなかった。

 アイツは身内以外。つまり他人、他のギルドのメンバーには冷たくプレイヤーキルを推奨していたんだ。聖愛や暗、黒璃にはそういう態度は見せていなかったけど。裏のある、腹黒い性格をしていた。


 けど。そういう環境がウチには必要だった。


 強くなるためには、モンスターとだけ戦ってちゃ駄目なんだ。もっと実戦経験、対人戦をこなさないと先には進めない。特に特徴の無い【人族】であるウチには他の種族にない利点を活かせる努力をする必要があったんだ。


 試行錯誤の末に辿り着いた戦闘方法。

 人族の特性の広範囲の気配感知と魔力強化を活かした戦い方。

 それは、設置型の爆発する魔力を扱うことだった。地雷のような性能。時限、センサー、リモコンなど爆発する際の起動効果を持つ魔力。

 そもそもが高い攻撃力、破壊力のある爆発の性質。ウチの得意とする手から離れたモノを強化するスキルを使用し爆発を更に強化できる魔力強化を駆使すれば格上の相手とも戦えた。

 肉体をいくら魔力で強化したところで人族であるウチは結局他の種族に負けてしまう。

 必然的にウチは自身を強化するより遠隔、遠距離から戦う戦法をとった。

 

 気付けば、【黒曜宝我】の幹部。三陰六影の1人になっていた。

 仲間達と協力してクティナも倒しレベルは120にこれで紗恩にも負けない力と地位を手に入れた。ウチはそう思っていた。


ーーーそして。

ーーーーー運命の日が訪れた。


 目が覚めると身体に異変を感じた。


 昨夜はエンパシス・ウィザメントが、あのクロノ・フィリアによって完全クリアされたという告知とゲームクリアのテロップが流れた後に強制切断された。


 そして、ウチの身体はゲームの中で使っていたスキルや能力が使えるようになっていたんだ。


『お姉も?。』

『うん。これ…どうなってるの?。』

『分かんない。』


 妹の紗恩もそうだ。

 昨夜は紗恩もログインしていたようで、同じく強制切断されたらしい。

 ウチと同じで朝に目覚めると、スキルや能力、アイテムや武装を使用できるようになっていたみたい。

 何よりもその見た目だ。

 【人族】であるウチは外見的な変化は見られない。瞬時に爆発を行えるように腕に施した特殊な模様の刻印くらいだ。

 だけど、紗恩の種族は【機巧魔女】。

 身体の部分部分が機械化していて武器の機械型の杖も手放しで背後に浮いている。


 自分達の身体に何が起きたのかさっぱり理解できないまま。パパとママに報告した。

 最初は半信半疑だった2人も紗恩の姿を見た瞬間、驚愕しママに至っては気絶したくらいだ。愛娘が機械になっちゃったんだ。ショックを受けるのは仕方がない。


 その日から数日間。特に問題なく生活していた。

 調べると、街中…いや、世界中でエンパシス・ウィザメントをプレイしてしたプレイヤーの身体にウチ達と同じ異変が起きたらしい。

 学校でもその話で持ち切りだ。

 能力を使えるようになったことに歓喜する者、恐怖するものなど様々な人達が現状に混乱しているようだった。


 変化は次第に発生していった。

 2週間くらい経った頃だ。能力による殺人が起きた。その事件を皮切りに次々と能力者による犯罪が発生し連日のニュースで取り上げられていた。


 ウチの周りにはそう言った話しはまだなく。何気ない気持ちでニュースを見ていた。

 けど。変化はウチの気づかない間に忍び寄っていたんだ。


 最初に違和感を感じたのは両親だった。

 エンパシス・ウィザメントのプレイヤーではなかったパパとママは能力を持っていなかった。連日放送されるニュースを見ていたパパとママ。

 今までは紗恩のことを自慢気に褒めたり、気に掛けたりしていたのに僅かに距離を取るようになった。それも、紗恩に気付かれないような、ほんの些細な距離の取り方。

 紗恩は能力者による事件や危険が身の回り、ウチやパパ、ママに及ばないように日夜能力を使ってパトロールしていた。ご近所の人達にも配慮して能力者の有無を調べ、レベルや能力、家族構成まで調べ近所に不審者や不審なモノが無いかを調べていたから家を出掛けることが多かった。

 だから、余計に気になってしまった。

 今までウチに対しては、あまり褒めたりすることの無かったパパとママ。それでも愛情は感じていたし大事にもされていたのも分かる。けど。やっぱり、優秀な紗恩の方を自慢に思っていたんだと知っていたし。少しだけど贔屓していた。

 それは仕方ない。ウチが駄目なんだとずっと思っていたから違和感に気付けたんだ。


 紗恩が家に居なくなるとパパとママがウチを褒めてくれるようになったんだ。

 

『私達が大事なのは、やっぱり詩那ちゃんだよ。これからは今まで以上に大事にするからね。』

 

 と。明らかに今までと違う。

 それは日夜、犯罪が増え続けていくに比例してパパとママの紗恩への態度は一変していった。もちろん、紗恩の居ないところで。

 何がパパとママに起きているのか。あの時のウチには理解できなかった。


 そして、思い出したくない。

 全てが壊れた日が訪れた。


 自分の部屋から居間に向かっていると、居間からパパとママが話す声が聞こえてきた。


『はぁ…。何故なのかしら。紗恩…あんなに優秀で良い子だった自慢の娘だったのに。今は視界に入れるだけで気持ち悪くなるの。』

『そうだね。あの機械の身体。あんなガラクタみたいな奴を今まで大切に育てていたんだ。そう考えると自分自身が信じられない。』

『変なこともしてるし…見たかしら?。あの子が身体から炎や水を出していたのよ?。あんなのもう人間じゃないじゃない。』

『ああ。化け物だ。もしかしたら、良く映画である奴じゃないか?。宇宙人による侵略。人間の中に潜んで生活する化け物。』

『じゃあ、私達はずっと騙されていたって言うの?。』

『おかしいと思ったんだ。何をやらせても完璧に出来るなんて…詩那を見ろ。失敗しても努力する姿。あれが本来の人間だ。紗恩は優秀過ぎる。人間じゃないみたいに。』

『ええ。そうよ。あれは人間のフリをした機械の化け物なのよ!。』

『ああ。そうだな。なぁ。俺達の手でアレを殺さないか?。』

『っ!。ええ。そうね。今まで騙されて育てて来たんですもの。私達の大事時間を使ってね。これは復讐すべきだわ。』

『なら、そろそろ帰ってくる頃だし、帰って来た瞬間、隙を見て殺そう。』

『ええ。殺しましょう。』

『殺そう。』


 異常な光景だった。

 明らかに、いつものパパとママではなかった。何を言っているのか。意味が分からなかった。紗恩を殺す?。あのパパとママが紗恩を殺すって言ってるの?。


『パパ…。ママ…。何を…言ってるの?。嘘だよね?。紗恩を…殺すとか?。意味分かんないよ?。冗談だよね?。てか、冗談でもそんなこと言っちゃ駄目だよ…。』


 ウチはパパとママの前に出た。

 一瞬、凄く怖い形相でウチを見たパパとママ。


『んーーー。そうかぁ。聞いちゃったのかぁー。』

『しかも、紗恩を殺すのに反対されちゃったなぁーーー。』


 何もかもが棒読み。

 感情もない。ただ、笑顔でウチを見つめる2人。


『パパ?。ママ?。どうしちゃったの?。怖いよ?。』

『パパ達は怖くないよ。怖いのは人間をやめちゃった紗恩と、紗恩の味方をする詩那だーーー。』

『そうねーーー。悪い子にはーーー。お仕置きしないといけないわねーーー。』

『っ!?。きゃ!?。』


 パパに押し倒される。


『何を?。っ!。あがっ!?。』


 ウチの身体に馬乗りになって首を締め付けてくるママ。レベル120のウチは身体が普通の人よりも強化されている筈なのにママの力は信じられないくらい強くなっていた。

 左右の目が別々の方向に動いているママ。


『あぐぁっ!。や…めて…。うがぁっ!。ま…ま…。』

『あらあら。暴れるわーーー。貴方。足を押さえつけて。』

『おーけー。わかったーーー。』


 パパが暴れてるウチの足を全身で押さえる。

 パパの力も尋常じゃない。

 い…きが…出来ない…。この…まま…じゃ…。


 死んじゃう。


『ごめんねーーー。すぐ楽になるからねーーー。』

『辛いだろうけどーーー。我慢だよーーー。』

『うっ…がっ…。』


 遠退く意識。

 涙なのか、唾液なのか。顔がべちゃくちゃ。

 紗恩…逃げ…て…。パパとママが…おかしい…。


 ドゴンッ!!!。


 急に首を締め付けられた苦しさから解放された。

 そして、雨のように大量の液体がウチへと降り注いだ。


『げほっ。げほっ。げほっ。』


 涙目で歪む視界に映ったのは、ゆっくりと後ろに倒れたママの身体。


『ひっ!?。』


 ウチから離れ尻餅をつくパパ。


『あ…。』


 無意識だった。防衛本能か。反射的な行動か。ウチは能力を使ってママの頭を爆破してしまったんだ。

 全身がママの血で赤く染まっている。


『ママ…。あ…。ウチ…。』


 ママの頭だった小さな肉片を掴み取る。

 ウチ…ママ…殺しちゃった…。家族なのに…。大好きなのに…。大切なのに…。ウチ…。何で…。ママ?。ママ?。ママ?。


『ただいま~。あれ?。どうしたの?。パパ?。』


 最悪のタイミングで帰宅する紗恩。


『あれ?。何の臭い?。焦げ臭い?。生臭い?。え?。お姉?。何し……………。』


 紗恩が血塗れのウチと、頭の無いママの死体を見つめ目を見開いた。


『ママ?。え?。お姉…何してんの?。』


 その刃のような言葉がウチに突き刺さった。

次回の投稿は21日の木曜日を予定しています。

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