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第221話 神獣同化 ラディガル

ーーー詩那ーーー


 広い森林の中にある唯一の拓けた場所。

 そこでウチとラディガルは戦っていた。


 圧倒的な迫力。絶対的な威圧感。その存在感を決定的なモノにする速さと攻撃の破壊力。

 巨大な大剣の一振で発生した衝撃で複数の大木が切断。吹き飛んだ。繰り返される大振りの斬撃をウチ達は紙一重で躱していく。

 しかし、厄介だ。大振り故の大きな動作。普通なら、いや、端から見れば簡単に躱せるように見えるかもしれない。けど。

 横に薙ぎ払う一撃をバックステップで躱す。又しても紙一重。いや、僅かに頬に掠った。


『ちっ!。コイツ…どんどん速くなってやがる!。』


 ラディガルが姿勢を低くし四足歩行の体勢で一撃を躱して舌打ちした。

 

 緑国の最高戦力。

【リョナズクリュウゼル】の【樹甲虫王】ゼグラジーオンって言ってたっけ?。


 複数の甲虫の特徴を持つ屈強な戦士タイプ。

 2メートルを越える身長。黄金に輝く鎧のような外骨格の肉体。武器は今振り回してる大剣。真正面から敵にぶつかっていく戦闘スタイル。腕力に物を言わせた怪力での大剣による連撃。


『うおぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』


 雄叫びを上げて振り下ろした大剣が地面に叩きつけられ、周囲に土煙を巻き上げた。

 マズイ!?。視界を奪われた。

 これじゃあ、攻撃のリーチの長い奴が圧倒的に有利だ。


『くっ!。急げ…急げ!。』


 魔力の波を飛ばし気配を感じ取る。先輩のようにエーテルじゃないから精度は落ちるけどラディガルとゼグラジーオンの位置を知るくらいなら出来る。


 っ!。見つけた!。


 今にもラディガルに斬り掛かろうとしているゼグラジーオン。ウチは急いでラディガルへ飛び付いた。


『っ!?。詩那?。あぶっ!?。』


 ラディガルと一緒に地面を転がる。

 刹那のタイミングで大剣が頭上を掠めた。


『すまねぇ。助かった。』

『気にしないで。それより。あいつを倒す手段ある?。』

『わかんねぇ…。色々試してぇが…。簡単にはいかねぇみてぇだ。』


 さっきの一振で舞い上がっていた土煙が消えた。ゼグラジーオンは大剣を持ち直し地面へと突き刺す。追撃が来ない?。


『先の一撃。良く躱したな。見事だ。人族の女子よ。我の攻撃から命懸けで仲間を庇うとは素晴らしい絆だ。』


 何か。急に褒めてくれた?。

 え?。どう返せば良いの?。素直に受け取るべき?。喧嘩売るべき?。訳わかんない。敵だよね?。コイツ?。


『へ、へん。アンタの攻撃が遅過ぎるのよ!。ウチには止まって見えたわ!。』


 何か。挑発みたいになっちゃった!?。

 自分で言っといてなんだけど、何言っちゃってんの?。ウチは!?。


『ほぉ。我がお主達の力量を測るため手を抜いていたことすら見抜くか。ますます、興味深い女子だ。』

 

 あれ?。何か。ウチが思ってたのと違う受け取られ方?。ますますウチが出来る女っぽく解釈されてる?。


『すまぬな。尋常なる勝負を所望しておいて、お主達の力を探り、推し測るような真似をした。謝罪する。』

『え?。あ、あ、はい。全然、大丈夫。』

『此方も敗けられぬ戦い故。慎重にならざる得なかった。特に相手は異界の神に連なる者。どの様な手札を持っているかを知らずに戦うのはあまりに危険なのでな。』


 めっちゃ喋るやん。

 しかも、丁寧に謝罪と説明まで。この大きな虫さん、絶対良い奴だ。戦いにくいなぁ。


『詩那。俺の後ろに。』

『え?。』


 ラディガルに肩を引っ張られて後ろに後退させられる。見ると、ラディガルがさっきよりも警戒しているのが分かった。バチバチと帯電し、耳と尻尾が逆立っている。

 それだけ、危険な相手ってことだよね。確かに話してみた感じ悪い奴には感じなかったけど、それと戦いは別物だ。こっちにも戦う理由があるんだから当然、アイツにもあるんだ。


『ほぉ。其方の神獣様も我の力量を感じ取り警戒されている。この鍛え上げた力を見抜かれているとは。ふふ。人族の女子の洞察力と判断力。そして、神獣様の人知を超越した力。ならば、対抗する手段として我も力を隠すことは意味を為さん。全力でその胸を借りよう。』


 めっちゃやる気出しちゃってるし。

 何か勝手に此方のことを推察して持ち上げて自己完結したよ?。何なのコイツ?。馬鹿なの?。真面目なの?。


『詩那。絶対俺より前に出るなよ…多分、お前を守りながらは、無理だ。』

『………。うん。』


 ラディガルに言われて数歩下がる。

 先輩や夢伽達と練習して使えるようになった【人功気】を使えるようになった。【人功気】は確かに強力だけどエーテルでの強化には及ばないことは人族の地下都市での戦いで分かった。

 魔力で肉体を大きく強化できないウチは結局サポートに回るしかない…。それが、悔しい。

 強者との戦いじゃ足手まといなのは変わっていないんだ。


『駄目だ。弱気になるな。』


 先輩も言ってた。

 自分に出来ることをする。探す。見つけ出す。今、ウチに出来ることは…。魔力を高めて来るべき時に備えること。


『行くぞぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』


 地面を強く蹴り滑るように高速で距離を詰めるゼグラジーオン。移動と同時に構えた大剣の斬光が斜めに走る。


『しゃらくせぇ!。』


 全身から放電し、ゼグラジーオンを上回る速さで大剣を避けるラディガル。続く、連撃を掻い潜り徐々に懐へと近付く。


『くらいやがれっ!。』


 雷を纏う拳がゼグラジーオンの腹部に命中。


『っ!?。ぐっ…。』


 けど、すぐに距離を取ってしまう。


『硬てぇな。その鎧みてぇな外骨格。』

『そうだ。我の外骨格はその程度の攻撃では傷1つつけられん。はっ!。』

『ちっ!。』


 速い。

 ウチでも辛うじて見えていた、さっきまでのゼグラジーオンの動き。だけど、今は…見えない。動きは大振りなのに…大剣を振り回す速度が段違いだ。


『ぐっ…。けど、まだ!。』


 ウチじゃあ見えない攻撃を最低限の動きで躱していくラディガル。ラディガルにはあの速い攻撃が見えてるの?。

 

『ちっ!。打撃も斬撃も駄目か。』

『ああ。お主の力では足りぬようだ。だが、油断はせん!。続けて行くぞ!。』


 蹴りも、パンチも、爪も。

 ラディガルの持つ攻撃が一切通用していない。あの金色の外骨格…硬すぎるよ…。


『こうも我が刃を躱すとは!。畏れ入る!。』


 絶えず帯電するラディガル。

 攻撃は分厚い甲殻に阻まれて通じないけど、攻撃自体は避けれている。けど…それじゃあ。


『しかし、それでは我に勝つことは出来ん!。』

『っ!?。』


 うそ…。大剣が半分に割れて双剣になった…。

 両腕を使い手数が2倍に…。しかも、大剣の時より速い。


『ぐっ…。速ぇ…。うぐっ!。』


 反応は出来てる。けど…身体が繰り出される双剣の速度に追い付いてない。少しずつ、ちょっとずつ。ラディガルの身体にかすり傷が増えていく。


『まだまだ行くぞ!。』

『うぜぇよ!。』


 帯電したラディガルの前方に雷の球体が作られる。


『くらいな!。』


 作られた球体にラディガルが拳を打ち込む。

 球体は砕け、内蔵されていた雷が砲撃となって一気にゼグラジーオンへ放たれた。


『っ!?。ぐぉぉぉぉぉおおおおお!?。』


 あっという間に砲撃に呑み込まれたゼグラジーオン。その後方の木々まで焼き付くす威力。流石の奴も、これなら。


『ふんっ!。』


 はっ?。あの砲撃が効かないの!?。

 双剣を地面に突き刺し雷に耐えるゼグラジーオン。


『マジか…まぁまぁ、全力で撃ったんだがな。』

『冗談が上手い。神獣の力は、その程度のモノではないと見るが?。我の攻撃を全身から放出し帯電させた放電を利用した反射速度を高める方法で回避を繰り返し。我の双剣での連撃中に発生する僅かな隙を見逃さずに攻撃を仕掛ける器用さ、度胸、正確さ。打撃系が効かぬと見るや即座に雷主体の攻撃に切り替える判断力。流石、神獣様…ということか。感服する。』

『へっ、随分と褒めてくれるじゃねぇか?。』

『当然だ。今だ力を隠してその技量。我が剣技を持ってしても攻めきれんのだ。しかし、惜しいな。』

『何がよ?。』

『いつまで力を隠しているつもりか?。』

『さっきから力を隠すとか俺の全力を冗談とか何言ってやがんだ?。』

『我はこれまでの生にて培われた経験と対峙した相手より僅かに感じる纏う空気から、おおよその力を感じ取ることが出来る。』

『………。』

『我の勘が警告を鳴らしている。我が前に立ちはだかる二者は我を倒すことの出来る力を有していると。故に先程から言っている。全力を出せと。このままでは、本気を出さずして我が刃の錆びになることは必然。』


 ゼグラジーオンは私達に何かを感じ取った。

 けど、そんな隠し球なんか持ってない。ラディガルも全力っぽいし、ゼグラジーオンの過大評価なんじゃないの?。

 だけど、言われっぱなしなのは癪に障る。


『ラディガル!。来て!。』

『っ?。ああ?。』


 ラディガルが跳躍して私の元に戻る。


『何だ?。』

『アイツを見返したい!。さっきの雷もう一度撃てる?。』

『ああ。それが問題ないが…何をする気だ?。』

『良いから。おもいっきりぶっぱなして!。』

『何か考えがあるのか。はは。良いぜ!。乗った!。』


 ラディガルがエーテルを雷に変換し力を溜める。その身体に触れて魔力と人功気を流す。


『むっ!?。何かをするつもりか?。ふむ。良いだろう。正々堂々受けようではないか!。』


 でしょうね。

 アンタは絶対そうすると思ったわ。


『行くわよ。ラディガル。』

『ああ!。俺の…いや、俺達の正真正銘の全力だ。行くぜ。詩那!。』


 雷の球。

 さっきラディガルが放ったモノとは比較にならないくらい大きくて強力なエーテルが渦巻いている。


『くらいやがれ!。全力だぁぁぁぁぁああああああ!!!。』

『む!?。これは…。』


 拳を打ち込み球体が弾けた。

 ウチの魔力で強化されたラディガルの放出系の攻撃。ウチの能力とは相性バッチリよ。

 前方の全てを焼き付くす威力を持った雷の光線。余波だけでも一瞬で木々は燃え盛り焦げて崩れ落ちる。広範囲を巻き込みながらゼグラジーオンの身体は雷の中に消えた。


『はぁ…。はぁ…。はぁ…。すげぇ威力だ。ずっと向こう側まで地面が抉れてやがる。』

『これなら、アイツも一溜りもないでしょ!。』

『っ!?。いや、まだ…みたいだ。』

『えっ!?。』

『惜しい攻撃だ。もう僅かに強力であったのならば我も回避行動を行っていただろう。』


 嘘…今の一撃でも…無傷なの?。

 多少は焦げている部分があるけど、あんなの大した傷じゃない。


『野郎…大剣を地面に刺して雷を逃がしやがった。』

『な、何よそれ?。』

『あとは…アイツの黄金の身体だな…。あの外骨格。表面が金属みたいな構造だった。鎧の側面を雷が流れちまうせいでアイツ自身の本体に雷が届かねぇんだ。』


 そ、それじゃあ。ラディガルとは相性最悪じゃない。


『さっきの物言いだと。俺の攻撃を避けようとしてなかったのも…わざとだな?。』

『当然だ。効かぬと分かっている攻撃をわざわざ回避する意味はない。避ければ隙が生まれ、つけ込まれるからな。』


 アイツ…ただの馬鹿力じゃないわ…。

 的確にこっちのことを分析しながら戦っている。


『先の攻撃。本当に全力か?。避けるまでもなかったが?。』

『………。』


 全力も全力よ。

 アンタの周囲を見てみなさいよ。さっきまで森林だった場所あっという間に荒野よ?。

 私じゃ葉っぱも千切れなかった空間内をここまで破壊したのよ?。それが本気じゃなくて何だって言うのよ!。


『そうか…残念だ。我の勘が鈍ったのだと。思うことにしよう。』

『っ!?。ラディガル!。』

『っ!?。ぐっ!。速ぇ!。この野郎、今まで本当に手を抜いてやがった!。』


 一瞬。

 会話に気を取られた一瞬でゼグラジーオンが大剣の間合いへ移動しラディガルを捉える。

 速すぎる…今までも辛うじて反応は出来ていた。けど、今の奴の速さは…あの巨体からは想像も出来ないものだ。


『くっ!。あぐっ!?。』

『詩那!?。』


 ラディガルへ飛び付くウチ。

 今度は完全には避けられず背中を大きく斬られた。地面を転がるウチとラディガル。

 痛い…けど、それどころじゃない!。

 ゼグラジーオンが再び大剣を構えているんだ。


『ラディガル!。もう一発!。急いで!。』


 奴が振りかぶっている状態の今なら。


『ああ!!!。今度こそ、くらいやがれ!。』


 瞬時にエーテルを集め、雷の球を足で砲撃を放った。


『甘い!。我に飛び道具がないと思っていたのか!。』

『っ!?。』

『はっ!?。』


 ゼグラジーオンの角。おそらくカブトムシか何かの角だと思うけど、その尖端に急速にエーテルが集まってる!?。


『はっ!!!。』


 ラディガルの雷と衝突する角から解き放たれたエーテルの波動。至近距離での衝突だったが、奴の砲撃はウチの魔力を上乗せしている筈の雷を意図も容易く呑み込んだ。


『詩那!。』

『んっ!。』


 ウチの身体は強い衝撃に襲われ平衡感覚を失う。視界は回り、耳には耳鳴り。全身に何度も痛みが走った。吹き飛ばされたことだけは理解できた。

 全身の激痛。何度も地面を跳ね、転がり、最後は大木に打ち付けられる。


『詩那っ!。くっ!。』


 ラディガルの声に反応し僅かに開いた視界に飛び込んできたのは…。


『戦場では弱った者から死んでいく!。』


 角を向けてウチに突進する眼前に迫ったゼグラジーオンだった。


『ぐがっ!?。』


 全身を襲う衝撃で身動きも抵抗も許されず、腹部に角がめり込んだ。身体は九の字に折れ曲がり胃の中のモノと大量の血液が口へと逆流し堪らず吐き出した。

 そのまま、自分がどうなっているのかも分からずに浮遊感に包まれる。何度も身体に感じる激痛だけを感じながら。


『あぐっ…あ、あ…うっ…。』


 辛うじて意識は残ってる。

 けど、呼吸も出来ず。何もかもが…ぐにゃぐにゃだ。自分のことなのに訳が分からない。


『トドメだ。さらばだ。異界の者。』

『させねぇ!。』


 耳鳴りを掻い潜ってゼグラジーオンとラディガルの声が聞こえる。


『先程、言ったであろう?。力を隠している状態では貴女様の攻撃は我には効かぬと。暫し待たれよ。この少女を倒した後、我が全力で引導を渡してくれよう。』

『っ!?。うぐぁっ!。』


 ラディガルが引き飛ばされる音。

 徐々に近付いてくるゼグラジーオンの足音。

 身体は動かない。音だけが聞こえる。


 ああ。ウチ…ここで死んじゃうのかな?。

 先輩…ウチ…また、役に立てなかったよ…。

 先輩…。ウチは、先輩のこと…大好き…。


『覚悟!。』

 

ーーー


ーーーラディガルーーー


 ゼグラジーオンに吹き飛ばされる俺。

 駄目だ。俺の攻撃じゃあ、アイツを止められねぇ。詩那に近付いて行く奴を眺めているしかねぇのか!?。詩那が殺される…。ご主人様を好きって言ってた仲間を?。


『絶対…そんなこと…させねぇ!。』


 俺は帯電し駆け出した。

 吹き飛ばされた時の痛みなんか知らねぇ。俺は詩那を死なせねぇ!。


『覚悟!。』


 振り下ろされる大剣が詩那に届く前に間に割って入る。詩那を庇い、そのままの勢いで地面を転がった。


『あぐっ!?。』

『すまねぇ。詩那。』


 っ!?。ちっ…左腕を持っていかれた…。


 肘より先が大剣に切断されたみたいだ。出血が止まんねぇ。


『ラ、ディガル…。』


 駄目だ。もっと遠くに避難させないと。


『無駄な。足掻きだ。手負い2人。ならば纏めてトドメを刺すのみ。ぐぉぉぉぉぉおおおおお!!!。』

『っ!?。』


 マジかよ!?。

 大剣を分離させ双剣にした。更に今まで一本の角しかなかったのに、2本のノコギリ状の角が左右から飛び出しやがった。今度はクワガタかよ!?。


『今度こそ。迷うな!。』


 十字に放たれる双剣の斬撃と、挟むように断ち斬ろうとする角の同時攻撃。


『諦めねぇ!。絶対!。』


 力を振り絞り、詩那を抱えて横に飛び付く。


『がっ!?。』

『くっ!。しぶとい。だが、その足ではもう逃げられまい。』


 くっそ…。右足まで持っていかれた…。

 ゼグラジーオンの足元に転がる俺の片腕と片足。これじゃあ、詩那を庇いながら戦えねぇ。


『ラディガル…ごめん…。ウチ…足手まといだね…。』

『そんなことねぇ!。』


 倒れている詩那を抱え近くの木に背中をあずけさせ座らせた。


『けど…ウチを庇ったせいで…。』

『俺が自分からしたことだ。お前のせいじゃねぇ。俺に…決断力がなかったから…。』

『?。』


 そうだ。奴が何度も言っていた。

 力を隠すなと。俺達には奴を倒す力があると。けど…。俺が逃げてた。決心が…つかなかったから…詩那をこんなにボロボロにしちまった。ご主人様を慕ってる奴を…。


『どうやら、本当にここまでのようだな。実に惜しい。素晴らしい戦闘技能を持っていながら、最後まで何かに迷っているとは…。』


 ああ。迷ってたさ。

 俺が…俺の心が弱かったから…。

 くそっ…。敗けたくねぇ…。けど…。


『詩那…。』

『な、何?。』


 どうやら、視界が戻ったのか。焦点の合わなかったさっきまでとは違い、しっかりと俺を見ている詩那の瞳。


『ご主人様が好きか?。』

『え?。こんな時に?。え?。まぁ…その、大好き!。』

『はは。そうか。』


 大好きって言葉だけ迷いがないことに思わず笑っちまった。本気…なんだな。

 

『じゃあさ。俺はどうだ?。耳とか尻尾とか?。この銀色に青いメッシュの入った髪とか?。』

『どうしたのさ?。まぁ…可愛いと思うわ。』

『はは。可愛いか。俺的には格好いいって言われたかったんだがな。』

『どうしたのよ…急に変な質問してきて。』

『いや、そうか。俺は詩那をもう仲間だって思ってるぜ。まだ日は経ってないが、ご主人様を真剣に想ってくれている仲間だ。』

『う、うん。真剣だよ?。ラディガル?。何を考えてるの?。』

『俺の種族は仲間を大切にする。元々、個体数が少ないからな。だから、どんな状況でも仲間を見捨てない。自分よりも仲間を優先する誇り高い種族だ。だから、四足獣の頂点に君臨するんだ。』


 そう。仲間を守る。

 自分がどんなことになろうと。決して諦めない。


『腕を貸してくれ。』

『何を…ラディガル…あんた…。』

『ああ。俺の力をお前にやるよ。』


 【神獣】には特殊な能力がある。

 それは、他の種族と同化すること。対象者と融合し1つの存在になる能力。自分の全てを託し、与える最終手段。条件は自らがその運命を受け入れる。そして、対象となった相手を心の底から信頼すること。そうすることで発動する切り札。

 代償は…自らの意思の消失。と聞いている。


 俺はそれが怖かった。

 それはつまりご主人様とのお別れだ。

 思い出も消え、俺の性質、特性だけが詩那の中に引き継がれる。

 だから…渋った。俺自身が消えるのが恐怖だった。それがこの現状だ。情けねぇ。


『力を…やるって…どういう…。』

『良いから。腕を出せって。』


 無理矢理、詩那の手を取り自分の残った右腕に接触させる。そして…同化を発動する。


『っ!?。これって…ちょっと!。ラディガル!。何して…え?。同化?。神獣の能力?。何で…何かが流れ込んで…記憶?。ラディガルの?。』


 詩那も混乱しているようだが。

 同化の影響で俺の思考と同調して何が起きているかを理解したようだ。


 俺の身体が少しずつ光の粒子になっていく。

 その小さな輝きの1つ1つが詩那へと流れ、俺の全てが詩那のモノになっていく。


『な、何でこんな…いや、この方法しかないのは分か…違う…違う。そうじゃない。ラディガル…自分を犠牲に…。いや、してない…。もう!。……………ばか。』


 俺の考えを読み取り理解した詩那。

 涙を流しながら俺の手を強く握った。


『あったけぇな。』

『ラディガル…。』

『詩那。ご主人様を頼むな。俺じゃあ。どうやら力不足みたいだ。』


 折角、リスティナ様に人の姿を与えられたのに何も出来ずに神に殺された。

 俺は…弱かった。もっと、ご主人様の役に立ちたかった。


『これからは、お前が俺の変わりにご主人様を支えてやってくれ。』

『うん…。うん…。』

『はは。泣くな。………勝てよ。詩那。』

『うん!。』


 こうして俺の意識は詩那の中へと溶け込んでいった。


ーーー


『俺が神の奴らにこの世界に連れて来られた時、ご主人様を殺しちまったんだよな…。すまねぇ。』

『気にするなよ。ラディガル。あの時は敵だったんだ。それにお前は支配された状態だったからな。そんなに自分を責めるなよ。』

『ご主人様。』

『それに今はこうして仲間になったんだ。これからは一緒に…ああ。雷皇獣ならこうか。仲間になったんだ。背中を預けられるな!。だから一緒に戦おうぜ。』

『っ!?。ああ…。おうっ!。絶対、役に立つからな!。ご主人様!。』


ーーー


『ははは!。ご主人様!。遅せぇな!。』

『いや、何でランニングなのに本気で走ってんだよ?。しかも、雷まで纏いやがって!。』

『だってよ!。ご主人様と走るのが楽しいんだ!。ほら、向こうの木まで競争しようぜ!。』

『ったく。仕方ねぇな!。ならこっちも本気だ!。』

『ああ!。ははは!。楽しいな!。』


ーーー


『どうだ?。ラディガル?。気持ちいか?。』

『ふえぇ~。気持ちいぃ~。』

『へ、変な声出すなよ…。ブラッシングくらいで…。』

『だって~。あんっ…。そ…そこ…もっと優し…やんっ…。尻尾の付け根、弱いからぁ~。』

『キャラ変わってんじゃねぇか…。てか、そんな声も出せるのかよ?。』

『そうだぜぇ~。俺も~。一応、メスだからな~。んんっ…。気持ちいい…。』

『普通に変な気分になるから止めてくれ。』

『へへ。ご主人様だったら、いくらでもメスになるぜ?。いっぱい子供つくりたいしな。』

『ばか…たれ。』

『へへ。もっと頭撫でてぇ~。』

『はいよ。』

『ん、んふぅ~。』


ーーー


『ほれ。ラディガルの好きな肉だ。』

『わあぁぁぁ!。マジか!。これ全部食べて良いのか!?。』

『ああ。お前のために用意したからな。』

『おっしゃっ!。けど?。何で俺に?。今日なんかの日だったか?。』

『いや、この前お前が肉をおもいっきり食いたいって言ってたのを思い出してな。日頃から色々手伝ってくれてるし、俺からのお礼のプレゼントだ。』

『マジかよ!。けど。俺、あんまり役に立ててない気がするけど?。』

『そんなことねぇよ。お前は頼りになってる。もうお前の居ない生活なんて考えられないくらいにな。』

『っ!?。へへ。嬉しいな。ご主人様。じゃあ、遠慮しないで頂くぜ!。』

『いや、もう既に半分食べ終わってるじゃねぇか…てか、話し始めた瞬間に食べ始めてたぞ?。』

『おっと…本能が。』

『まぁ、ゆっくり食えよ。何処にも逃げねぇから。』

『ご主人様。食べ終わるまで居てくれねぇか?。』

『勿論だ。』

『へへ。サンキュッ!。』


ーーー


『なぁ。ご主人様。今日は一緒に寝ちゃ駄目か?。』

『どうした?。珍しいな。ラディガルがそんなこと言うなんて。』

『ちょっとな。柄にもないけど。ご主人様が恋しくなった…。』

『はは。別に構わねぇよ。来いよ。』

『っ!。うんっ!。…あ。お、おう!。』

『しかし、暑くないか?。そんなに抱き付いて?。』

『全然。むしろポカポカで気持ちいい。』

『尻尾まで巻き付けてくるし…。どんだけ寂しかったんだよ。』

『へへ。沢山だ。ご主人様。良い匂いだ。凄く安心する。』

『そうか。』

『なぁ。俺が寝るまで撫でてくれないか?。』

『どこをだ?。』

『背中と頭が良い。』

『2箇所かよ。難しい…が、頑張ってみるか。』

『へへ。ありがと。ご主人様。』


ーーー


ーーーゼグラジーオンーーー


『何が…起きている!?。』


 神獣様の姿が光になり少女の身体に吸い込まれ…いや、一体化していった。

 まさか、これが…神獣という世界に生きる全ての種族の頂点に位置する者のみが扱えるという…。


『同化…というものか…。』


 我の感じていた、彼女達の持つ強大な力は これ のことだったか!?。


『ぐっ…なんという、エーテルの渦。この神聖界樹で造られた空間すらも歪ませるとは!?。』


 すると、エーテルの渦の中から先程の少女の声が聞こえた。


『ラディガル…感じるよ。貴女のお想い。ありがとう。一緒に行こう。』

『っ!?。うぐっ!?。』


 突如、輝く何かが我の右胸を貫通した。

 鎧のような硬度を持つ我が外骨格を容易く貫く光線!?。身体には小さな穴があり、周辺を焦がしている。つまりは、先程の雷の光線と同じ系統の攻撃の筈だ。だが、これ程の威力など持っていなかったぞ!?。こんな鋭い攻撃…我ですら反応出来ん。


『馬鹿な!?。先程までのどの攻撃にも該当せん!?。』


 エーテルの渦の中から現れた少女。

 人族だった筈だ。しかし、今の姿は…。獣の耳と尻尾まで…消えた神獣様の特徴を、その身に宿したというのか!?。

 しかし、更に我を驚かせる現象。少女の背後に出現した雷を纏う黒い球体。あれは、危険だ。今まで以上に我の勘が告げておる。


 全力で逃げよ…と。

 

『神具…【麗爆機雷球 ジグナザル・マイジラ】。』


 なんと…神々しいお姿か!?。


『ウチ…思い出した…。』 

次回の投稿は17日の日曜日を予定しています。

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