表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/424

第220話 飛斬空鳥虹翼 ピナグリヴ・ピラーチャ

ーーー美鳥ーーー


 私は…過去の思い出以上の幸せな日常を手に入れる。だから、力が…望む未来を掴み取る 翼 が欲しい。

 

 願いに呼応するように自分の中からエーテルが溢れ出す。身体全体に行き渡り巡る強大なエネルギー。まるで、身体の構造が変えられていくみたいな…いいえ。違う。本来のあるべき形に戻ろうとしている?。


 身体を蝕む植物による拘束されていた身体が動く。これなら。全身にエーテルを纏い。暗闇から飛び出した。


『くっ!?。』


 速い。軽い。

 一瞬で遥か上空まで飛翔する。視界いっぱいに広がる広大な大地。海。空。無限にも近い世界が私の前に広がり続いている。


『この世界で、私の幸せな日常を取り戻す。』

『あれでは…天使様では…ないですか!?。』


 ん?。天使?。誰が?。

 フリアさんの言葉が私の耳に届く。強化された視力と聴力でフリアさんを見る。その視線は私に注視していて驚愕の表情を浮かべていた。

 そういえば、身体に違和感が…って、あれ?。何でしょう?。今までと違います?。


 服装が変わっている。

 袖が羽のようにヒラヒラして、身体のラインがハッキリしているスーツのような衣装。短いスカート丈、足なんて生足が見えています。飛ぶことに必要ないモノを完全に排除したような扇情的な格好です…。いやぁ、恥ずかしいぃ…。

 何よりも驚くことは、今まで翼と一体化していた腕が人のモノになっていること。そして、背中には純白の翼。翼の先端には今まで手だった鳥の足がついていますし…腕が4本になったような感覚です。

 更には、大きな翼の間にも細目の小さい翼が2対…。


 これが…本当の姿…。


『ああ…分かります。ふふ。君達も、私と同じ気持ちなんですね。ええ。共に戦いましょう。』


 世界は私の願いを聞き入れてくれた。

 失ったモノを取り戻す力をくれた。そして、失ったモノでさえも。


『神具【飛斬空鳥虹翼 ピナグリヴ・ピラーチャ】。』


 発動。

 エーテルより生み出される私の子供達。

 私の周囲を旋回。飛び回る。虹の色に分かれた七色七羽の小鳥達。

 ふふ。さぁ。一緒に戦いましょう。


『フリアさん。決着をつけましょう。私はこの力で、過去の…幸せな時間を取り戻します。』

『っ!?。』


 再戦。一度は勝利を確信したことでしょう。

 ですが。私にも譲れないものはあります。黄華さんが教えてくれたのです。

 大切なモノは手放さない。欲しいモノは譲らない!。


『ま、まだです!。異神として覚醒したのであれば、私はそれを上回れば良いだけです!。樹装軍隊!。』


 フリアさんの号令のもと。

 再び無数の銃口が私へと向けられた。

 今までの私ならば躱すので精一杯だったことでしょう。しかし、今の私には通用しない。


『行きなさい。小鳥達よ。』


 七色の光が空中を縦横無尽に飛行する。

 右へ左へ上へ下へ。小鳥達は各々が放つ光の閃光となって高速で飛び回った。

 フリアさんの目には果たして見えたでしょうか?。


『そんなっ!?。一瞬であの数のヘリを…破壊した?。』


 瞬く間もなく、私を取り囲んでいた複数のヘリは、七色の輝きにその機体を貫かれ、回転翼及び後方のローター部を切断され煙を上げ降下していく。同時に複数の機体が戦闘不能となり落下中に激突し合い所々で爆発が起きた。


 七羽の小鳥達は私の意思のまま、自由に動かせる遠隔操作型の神具。エーテルで強化された肉体、嘴、翼は斬撃性能を持ち高速で動きながら対象を切り刻む。

 

『速…過ぎます…。私でも…一瞬の光が走ったとしか見えなかった…。』


 唖然とするフリアさん。

 同時に神聖界樹から放たれた兵士達からの射撃も小鳥達によって空中で切り払われました。

 この空の戦いによる制空権は、小鳥達により神聖界樹を含めフリアさんの持つ戦力を私は完全に上回りました。


『………ええ。認めましょう。貴女は強いです。七つの光。きっと遠隔での操作でしょう?。7つを同時に操る操作性、そして、的確に目標へ命中させる正確さ。それはきっと貴女の持つ並外れた空間認識能力があってこその能力。エーテルによって隠していた部隊まで撃墜されたことがその証拠。ふふ。これが…異界の神の本気ですか…。』


ーーー


ーーーフリアーーー


 ですが。貴女自身の力はどうでしょうね!。


 確かに小鳥達は目で捕捉するのが不可能な速さと攻撃力を有しています。内在するエーテルも通常の武器に付与させるには信じられない程強大です。常識では有り得ない武装。

 しかし。貴女自身のお姿は変わりエーテルの内在量は増加したようですが。それは、その七色の小鳥達にリソースの全てを注いでいるからではないですか?。


 つまり、貴女自身は先程までとさして違いはないということと推測します!。


『はっ!。くらいなさい!。』


 全力で飛ぶ。

 王に与えられたエーテルを高め、全てを推進力へ。全速力での飛翔に身体が悲鳴を上げるが気にせずに鞭を振るう。しかし。


『遅いですよ!。』


 鞭が空を切る。

 視界から一瞬で消えた鳥人神様。


『まだです!。上っ!。』


 速度は緩めない。

 鳥人神様のスピードに食らいつく。大丈夫です!。彼女の動きについていけている。

 いける!。瞬間的な速さは僅かに私が劣るけど最高速度は私の方が上です!。徐々に距離が詰まってきているのが証拠。


『まだまだですよ!。樹装軍隊!。』


 神聖界樹から次々と飛び出す戦闘機。

 1機1機が音速を越える速さでの飛行を可能とする。取り囲み一気に包囲して差し上げます!。


『撃ちなさい!。』


 次々に放たれるミサイル。

 標準を定めた対象のエーテルを追跡する特別製です。もちろん、受ければ侵食され植物にエーテルを吸収されます。

 これなら如何に速くても避けられません!。


『小鳥達よ!。行って!。』

 

 しかし、またしても七色七羽の鳥達が目にも止まらぬ速さでミサイルを迎撃していく。

 なんて、厄介な存在でしょうか!。


『はっ!。』


 しかも、翼から放たれる硬質化した羽も弾丸として発射してくる。まったく、どっちが戦闘機か分かりません!。


 瞬く間に出撃した戦闘機が撃墜される。

 完全に樹装軍隊を上回る戦闘力を手にしている…。

 ば、化け物ですか!?。

  

『フリアさん。そろそろ決着です。』

『くっ!。まだ…諦めません!。』


 何とか、何とかしなくてわ。

 考えなさい。考えなさい。考えなさい。 


『行きます!。』

『っ!。』


 時間を、時間を稼ぐのです。作戦を…異神に勝つための作戦を練るのです。 

 鞭を振り、発射される羽を打ち落とす。

 神聖界樹によって強化が施された神聖界十二樹宝でなければ、最初の一撃で鞭は破壊されてしまっていたでしょう。それだけ、一撃一撃の威力が桁違いです。


『ふっ…。』


 すると、突然彼女は踵を返し私から離れて行きます。罠?。ですが。ここは攻めるしかありません。遠距離からの攻撃手段を持たない私では距離を取られた時点で勝機は失くなってしまう。


『ま、待ちなさい!。』


 行けます!。やっぱり最高速度では私の方が上のようです。徐々に距離が近付いています。

 私達は神聖界樹の側面を一周するように飛行している。彼女の背中は目と鼻の先。鞭が届く距離にさえ近付ければ、まだ拘束できる!。


『くらえっ!。』


 鞭を振るった瞬間。

 彼女の背中は遠ざかった。


『さぁ。決着です!。』

『っ!?。そんな…馬鹿な!?。』


 先程までの考えが浅はかでした。

 いえ。わざとそう思わされていた?。最高速度は私が上。そう思わせる為に速さを抑えていた?。急速に速度を上げ神聖界樹の陰に隠れてしまった。

 嘘でしょ?。私は全力で…全速力で飛んでいる。なのに…。圧倒的な加速で消え…。いや、違う。


『後ろ!?。この短時間で!?。』


 振り向いた私が視界に捉えたのは、幹の直径が数千キロにも及ぶ神聖界樹を一周し、最高速度で飛んでいた私に追い付いた彼女の姿でした。

 

ーーー


ーーー美鳥ーーー


『さぁ。決着です!。』


 私の本当の飛行速度をお見せします。

 翼の先端にある鳥の手にエーテルを集める。同時に背中の小さな2対の翼にも。集めたエーテルを一気に放出することで発生する推進力で加速。最高速度で空中を駆け抜ける。


 私を追っていたフリアさんを置いていき、そのまま神聖界樹を一周。フリアさんの背後に回った。


『後ろ!?。この短時間で!?。』


 背後から追い付かれたことに驚くフリアさん。ですがもう遅いです。

 前面にエーテルの壁を展開。最高速度のままフリアさんへ突進します。


『ぐばっ!?。』

 

 激突した衝撃に吹き飛ぶフリアさん。

 しかし。彼女はまだ諦めていませんでした。


『うぐっ…ま…け、られない!。民の…平和を…取り戻す…のです!。』


 ええ。貴女の思いは伝わりましたよ。

 ですが、この戦いは私の勝利です!。それだけは譲らない!。

 

 私は更にエーテルの放出を強め加速。

 加速。加速。加速。加速。加速。


 音を切り裂き、通過した後方の大地を抉る衝撃波。神聖界樹を貫通し潜んでいた兵士達を全滅させる。大きく開いた神聖界樹の穴を抜け、大きく旋回、最大加速で空中で体勢を崩しているフリアさんへ突進。


『速すぎるっ!。こ、来ないでっ!。』


 鞭とエーテルを器用に使用し前方に盾を作り出したフリアさん。ですが、無駄です!。


『【ピナグリヴ・ピラーチャ】!。』


 視覚ですら捉えることの難しい速度で飛行する神具の小鳥達。その鋼以上の硬度を持った身体と翼で盾を粉砕。エーテルは霧散し、鞭は粉々に破壊される。


『はっ!。』

『盾が!?。ひっ!?。あぐぁっ!?。うぐっ!?。うぶっ!!!。』


 続いて、羽の弾丸の連射でフリアの翼、全身に撃ち込み。最後は、無防備になったフリアさんへ突撃。

 そのまま、地面目掛けフリアさんの身体諸とも突っ込む。

 大量の土煙が巻き上がりと盛大な衝撃で地面が数メートル陥没。巨大なクレーターを形成した。


『うぐっ…。はぁ…。はぁ…。う…。い、生き…てる?。』

『私の勝ちです。フリアさん。』


ーーー


ーーーフリアーーー


 呼吸が苦しい。

 激しく地面に叩きつけられた。エーテルに強化された身体でもあの高さから、そしてあの速度で激突すれば無事では済まない筈なのに…どうして?。生きてるのですか?。


『私の勝ちです。フリアさん。』


 私を見下ろす女神様。

 鳥人神様。神々しいお姿。優しい眼差しで私を見ていた。

 ぐっ。命は助かったけど…身体は動きませんね。


『戻りなさい。』


 私の下に隠れていた七羽の小鳥達が鳥人様の元へ戻っていく。

 ああ。成程。それで私を衝撃から救ってくれたのですか。

 翼は…うぐっ。骨が折れていますね。これでは飛べません。身体は彼女の硬い羽によって受けたダメージで…うっ…腕も、足も、身体も動かせません。エーテルの力を持ってしても即座に戦闘を行えるコンディションに戻すことは不可能でしょう。


 …ですが、何故、異神である貴女が私を救って?。


『私の敗けです。殺して下さい。』

『………。』

『ですが、民は…お願いです。私の命1つで民の命だけは助けて頂けないでしょうか?。彼等に罪はありません。我等に従い共に行動しただけ。貴女様方に敵意はありません…。』

『ふふ。』

『?。』

『安心して下さい。私にそのようなつもりはありません。』

『え?。ですが…貴女は異神…世界を滅ぼす存在と…。』

『最初から言っています。私達に争う気はないですよ。襲われたから迎撃したまでです。後は、大切なモノを取り戻す為に…ですね。』

『そ、そうなの…ですか?。』

『ええ。それに、貴女は国の人達の為に戦ったのでしょう?。なら、優しい良い方です。なら、私は貴女を殺すなんてしません。これからも多くの人達が幸せに暮らせるような国を目指して下さいな。私も…この戦いの結果がどの様に終結するのかは分かりませんが。出来ることならお手伝いしたく思いますので。』

『貴女は…貴女達は…敵ではない?。』

『ええ。そうです。少なくとも貴女の敵ではないようですね。』


 そうなのですね。

 彼女が嘘をついている雰囲気はない。なら、最初に戦いを仕掛けたのは緑国…ああ。そうですか。異神の危険性を説いたのは…。それを信じた。私は…私達は…。もしかしたら…王と王女に…。

 

『どうやら、私は間違えてしまったようですね…。結局、緑国の民を苦しめていたのは…。はぁ。』

『安心して下さい。私達は確かに地面を沈下させましたが美緑さん…樹界の神の力で誰の命も奪っていません。なので、貴女の大事な住民達は 奇跡的 に無傷です。まぁ、救助は必要でしょうが。』

『………はは。そうですか。私達は…最初から貴女方に負けていたのですね。ふふ。普段は身体の痛みが快楽に感じる私ですが…今は身体の痛みが辛いですね。嬉しくない痛みも…あるのですね。』


 私は晴天の空を眺める。


 いったい…この世界に何が起きているのでしょうか。異神とは…。王と女王の意思が…。

 まったく分からなくなってしまいました。

次回の投稿は14日の木曜日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ