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第219話 過去の幸せ

ーーー美鳥ーーー


 戦闘が始まる。風を切り飛翔する。


 フリアさんとの空中戦。

 高速移動での飛翔戦闘を得意とした者同士の戦いは、序盤。私が優位に事を運んでいた。

 鋼鉄と化した羽を弾丸として飛ばし、強化し切れ味が増した翼と足の爪で斬り掛かる。

 

『ははは!。強いですね!。楽しいですね!。鳥人神様ぁ!。こんなに心踊る戦いは始めてです!。良い意味でも、悪い意味でも!。』


 肉体を羽の弾丸で撃ち抜かれても、爪で身体を斬り裂かれてもフリアさんは笑いながら鞭を振るう。嬉しそうに、楽しそうに。まるで

 

『ドMですか!。』

『ふふ。ふふふふふ。いつまでも逃げられませんよ!。うぐっ!。』


 意思がある生物のように自在に動く鞭を掻い潜り硬質化した翼を胴体へ叩き付ける。


『痛ぁい!。へへへ。けどぉ。捕まえましたよぉ!。鳥人神様ぁ!。』

『っ!?。いつの間に!?。』


 気付くと足の巻き付いていた鞭。

 振りほどこうとするよりも早くフリアさんが飛翔し足を拘束された状態のまま振り回される。


『ははは!。どうですか?。楽しいですか?。鳥人神様!。』

『このっ!。っ!?。うがっ!。ぐあっ!。』


 鞭から伸びる複数の枝。それが私の羽と首。胴と腰に巻き付き完全に身動きを封じられてしまった。そのまま、飛行速度に物を言わせて神聖界樹の側面に叩き付けられる。全身を襲う衝撃が何度も繰り返された。


『ふふ。呆気ないですね?。そんなことでは私達の神様とは名乗れませんよ?。神様は絶対的な存在だからこその神様なのですから。』

『そんな…こと、知らない。私は神じゃない。』

『いいえ。貴女は神。そして異神です。私達の世界の平和を脅かす異世界からの侵略者です。ふふ。貴女を倒したら、私が鳥人達の神になるんです!。皆で楽しく…何者にも脅かされない平和な国にするんです!。貴女達なんかに邪魔はさせません!。』

 

 空中で一回転し急降下。

 落下する勢いのまま私を地面に叩き付けた。


『があっ!。』

『まだまだですよ!。私!。打たれるのも。打つのも。大好きなのですよぉ!。』


 変幻自在。

 高速で振り回される鞭が全身を打ち付ける。


 視界が霞む。呼吸も。全身が痛い。

 身動きの取れないまま、身体がゆっくりと持ち上がっていくのを感じた。


『ははは。どうです?。貴女は神であるご自分を否定していたようですが、貴女の身体から溢れ出るエーテルが神であることを証明していますよ?。』

『………私は、ただ、皆と、静かに暮らしたい、だけ…。』

『それは、無理です。皆…というのが誰かは存じませんが、貴女方の存在はこの世界にとって害悪でしかありません。』

『何も…してない…。』

『そうですか?。十分に混乱を招いていると思いますが?。』

『そ、それは。貴女達が勝手に盛り上がっているだけじゃない!。』


 全ての羽を刃に変えて巻き付く枝を切断する。自由になり、一度距離を取る為に飛翔した。


『ふふ。まだ動けますか。あれだけ叩き付けて差し上げたのに。そうですか。まだ足りないのですね。』

『貴女達を倒して私達は平和な…あの時の時間を取り戻す!。』

『それは此方の台詞ですよ?。貴女方が歪めた私達の平和。その修正は貴女方の死を持って為し遂げられる。ふふ。ああ、それと貴女は時間を掛け過ぎました。不用意に飛ぶのはオススメしません。』

『なっ!?。あぐぁっ!?。な、何っ!?。』


 突然、前方に出現した網。

 全身が網の中に収まった。この網は柔らかい蔦で出来てる。動く度に手足に絡まって身動きが取れない。


『身動きが取れないでしょ?。女王の神具【デバッド・ヴァルセリー】の空軍部隊です。ふふ。既に取り囲まれていますよ?。』


 エーテルに溶け込んでいた実体が出現した。

 何十機ものヘリコプター。そして、次々に開く神聖界樹の表面。窓枠1つ1つにライフルを構えた兵士がスコープ越しに私に狙いを定めていた。


『身動きの取れない異神をなぶり殺す。今から貴女へ一斉射撃が始まります。貴女も覚えていると思いますが、樹装軍隊の操る弾丸は生物に寄生し宿主のエーテルや魔力を吸収して成長します。当然全てを搾り取られ宿主は力尽きて死ぬことになる。ふふ。ゾクゾクしますね。』

『ぐっ!。この!。』

『暴れても無駄ですよ。気付いていますか?。その網もエーテルを吸収しているのです。』

『っ!?。』


 網に触れている箇所からエーテルが流れ出ている。徐々に力が入らなくなっていることに気付いた。これは…まずい…。どうすれば?。


『さぁ。鳥人神様。最期の時です。私達には時間がありません。速やかに侵入した他の異神も排除しなければいけませんので、これでお別れです。』


 手を上げるフリアさん。


『撃て!。』


 その言葉を合図に兵士達とヘリコプターからの一斉射撃が始まった。同時に神聖界樹でライフルを構えた兵士達による銃撃も。

 逃げられない。私は硬質化した羽で身体を覆い何とか防御を試みる。けど。無駄でした。

 感覚があったのは最初の数発。鋭い痛みの後に急激にエーテルが吸われていく感覚が襲う。

 その感覚が次々に広がっていき、身体を蝕んでいく。吸収と同時に成長が始まり身体の内側から皮膚を貫き植物の根と茎が飛び出した。


 私の意識はそこで途絶えてしまった。


『ふふ。そろそろ良いかしら?。あらあら可哀想に。神聖界樹に磔にされてしまって、ふふ。綺麗な木のアートみたい。』


ーーー


 これは?。

 周囲の景色が見覚えのある風景に変わった。

 さっきまで戦っていたのに、今は林の中にいる。それに…あれは…え?。私がいる?。楓ちゃんと月夜ちゃんも?。

 良く見たら、この場所はゲームの時の…。知ってる場所です。


『美鳥姉。まずは仲間を集めようよ!。私達だけじゃ、もう限界じゃん!。』

『何を言っているのですか!。もっと私達が強くなれば良いだけです!。月夜ちゃんは人見知りなんですから他の人を入れる何て考えられません!。』

『わ、私…我慢するよ?。』

『ダメです。折角のゲームなんですから、楽しめなくなるのは反対です!。』

『けど。今のままでもボスでつまずいてるし、楽しめてないじゃん!。』


 懐かしいですね。

 エンパシス・ウィザメントを始めて少し経った頃です。ある程度、ゲームにも慣れボスを何体か倒せるようになっていた。

 けど、私達は足踏みしていました。

 慣れてきた3人での連携が通じないボスに当たってしまったのです。何度も挑戦するも歯が立たず3人だけでは駄目なんじゃないか。という空気が流れ始めた頃でした。

 この時も、ボスに惨敗した後でした。

 他のプレイヤーは10人以上のパーティーで挑み勝利していると耳にしましたが、私達には重大な欠点があったのです。


 ていうか…自分を含めた3人の様子を上から眺めている私。どの様な状況なんですか?。


『美鳥姉。負けず嫌い過ぎだって。』

『む…。ですが…。他の人を入れるには…。』

『美鳥姉も月夜も男の人が苦手だもんね。男友達も一人もいないし。』

『そ、そんなの今は関係ないではありませんか!。』

『わ、私も…男の人は…ちょっと…。』


 懐かしいやり取り。

 こんなことがありましたね。社交的な性格の楓ちゃんは、男女問わず友達が多い。

 けど。私と月夜ちゃんは男性が苦手でした。

 特に、恋愛目的や身体目的で近付いてくる男性の視線が苦手でした。今思うと、潔癖過ぎたかもしれませんね。

 今では自分から威神さんを求めてしまっていますし。寡黙で真面目で、仕事熱心な彼の惚れてしまったのですから。


『ねぇ。貴女達。ちょっと良いかしら?。』


 ああ。そうです。この時が始めての出会いでした。


『え!?。ど、どなたですか?。』

『美鳥姉。めっちゃ綺麗な人だね!。やばっ!。スタイル良すぎ!。』

『し。失礼だよ…楓お姉ちゃん。』

『急に話し掛けてご免なさいね。貴女達の会話を聞いちゃったのよ。少し私とお話しない?。』

『え?。それは…どの様なことをですか?。』

『自己紹介がまだだったわね。私は黄華。私さ。新しいギルドを立ち上げようと思ってるんだけど。なかなか良い人材が見つけられないの。そうしたら、少し興味深い話しが聞こえてきたから貴女達に話し掛けたって訳なの。』

『興味深い?。私等、そんな大層な話してないよね?。』

『うんうん。』

『ふふ。そっちの娘とこっちの娘。男性が苦手なんでしょ?。』

『え?。ああ…その話ですか。はい…恥ずかしながら…男性に馴れてないんです。』

『わ、私も…。』

『ちょうど良いわ。私のギルドね。女性限定のギルドにしようと思っているの。男性の入会はお断り。そんなギルド。』

『ええ!。マジですか!。美鳥姉。月夜。それなら大丈夫じゃない?。』

『女性限定…。』

『そ、それなら…。』

『別のギルドだけど手を組んでいる小規模なギルドがあってね。そっちには男性のメンバーもいるんだけど。基本は私くらいしか交流しないし、殆ど会わないと思うわ。』

『うん。それくらいなら美鳥姉も月夜も大丈夫じゃない?。今までギルドに入れなかったのも男性のプレイヤーがいたからだし。』

『ええ。私は賛成です。月夜ちゃんは?。』

『2人が一緒なら。大丈夫。』

『そ。決まりね。改めて、黄華よ。宜しくね。』

『美鳥です。宜しくお願いします。』

『楓です。宜しくね。黄華姉。』

『月夜…です。宜しく…です。』


 こうして、私達はギルド 黄華扇桜に加入したのだった。

 手を組んでいるって言ってたギルドがゲーム内でトップの成績と成果を収めているクロノ・フィリアだったことには驚きましたね。


ーーー


『もう!。無凱の馬鹿。どうして相談なしに何でも決めちゃうのよ!。もうっ!。昔から全然変わってないわ!。』


 急に場面が変わりましたね。

 これは、黄華扇桜が軌道に乗って来た頃の話です。

 私達は毎日お茶の時間を楽しむようにしていました。

 エンパシス・ウィザメントでは様々な茶葉が簡単に入手出来たのでお菓子と一緒に頂くのが私達姉妹と黄華さんとの楽しいひとときでした。


『ど、どうしたのです?。』


 楽しい時間は、不機嫌そうに、それでいて嬉しそうに無凱さんのことを話す黄華さんによって中断しました。


『それが…無凱の馬鹿にクティナの討伐に連れていかれたの…。勝手に。連行されたの!。』

『えっ!。クティナってラスボスの!?。』

『クロノ・フィリアの皆さんが討伐に成功して以降、様々なギルドが攻略してレベルの上限を上げてるって聞いたよ?。』

『そうなの。それよ。それでね…。クティナ倒しちゃったのよ…。』


 黄華さんがステータス画面を見せてくれた。

 黄華さんのレベルがクティナを倒したことで上限の120になっていた。


 懐かしいですね。


『す、凄いです!。黄華お姉ちゃん!。』

『ありがと。けどね。嬉しくないのよ!。クティナを討伐したのが無凱と2人でなの?。分かる?。一気に噂が広がっちゃったのよ!。』

『ああ…。クティナの討伐って50人以上のパーティーでやるのが常識だもんね。それを2人でかぁ…。』

『ふふ。黄華さんはトッププレイヤーの仲間入りですね。』

『凄い!。凄い!。』

『ははは…黄華姉…可哀想。』


 同情する私達。

 けど、その後すぐに思い知ることとなる。


『はぁ。貴女達。笑っていられるのも今のうちよ?。』

『え?。』

『無凱からの提案…というか、もう承諾したわ。全員出かける準備をしなさい。』

『え?。あの?。黄華姉。何処に?。』

『行くの?。』

『貴女達も道連れよ。クティナ討伐。行くわよ。今から。』

『『『ええーーーーーっ!?。』』』


 こうして、私達はクティナを討伐しレベル120へ到達。見事に黄華扇桜は六大ギルドに名を連ねることになりました。


ーーー


 今度はキッチンですね。

 月夜ちゃんと一緒に料理をしているところです。

 月夜ちゃんは最初の頃。玉子を割るのすら手こずっていましたのに、あの頃にはもう片手で上手に割っていましたね。


『月夜ちゃん。本当に料理が上達しましたね?。』

『うん。お姉ちゃんに教えてもらったから。それにね。灯月お姉ちゃんも睦美お姉ちゃんも沢山教えてくれたの。』

『ふふ。良かったですね。』

『うん!。威神お兄ちゃん。喜んでくれるかなぁ?。』

『ええ。絶対に喜んでくれますよ。そうだ。このままお菓子も作りましょうか。』

『っ!。うん!。バームクーヘン!。食べたい!。』

『あらあら。』


 楽しかったですね。

 何気ない日常。大切な人のために料理を作る毎日。


ーーー

 

 場面が変わり…今度は楓ちゃんの部屋ですね。

 姿見の前に座らされて前髪を上げられている私と様々な化粧品を両手に抱えた楓ちゃんがいます。


『もう!。何で美鳥姉は自分のことには無頓着なのよ!。』

『え?。そんなことないですよ?。お化粧だって人前に出て恥ずかしくない程度にはしていますよ?。』

『しゃらーーーーーっぷ!。』

『あぅ!。急に声大きいですよ。女の子なんですから。お淑やかに。』

『い、ま、は!。私じゃなくて美鳥姉!。ねぇ!。もっとお洒落しようよ!。』

『ええ…。楓ちゃんみたいに似合わな…。』

『良いから。黙ってて!。』


 あれよかれよと30分程のお化粧タイム。

 その後、服を脱がされてドレスに着替えさせられて…気付いた時には…。


『威神兄。』


 威神さんが目の前に…。


『ん?。何だ?。楓。』

『じゃっじゃーーーん!。見て見て!。美鳥姉の本気だよ!。』

『ちょっ…と、楓ちゃん…。』


 威神さんの前に押し出される。


『っ!?。み、美鳥…。』

『い、威神さん…。』

『ほら。美鳥姉。教えた通りに言って!。』

『ほ、本当に?。』

『言って!。』

『い、威神さん。どうですか?。威神さんのために…お洒落しました。』


 驚いている威神さん。

 ああ。冷静に自分の姿を見るのは…ちょっと恥ずかしいです。


『凄く似合ってる。普段も綺麗だと思っていたが。今の姿も綺麗だ。ますます。好きになった。』

『威神さん…。』

『俺の為に…ありがとう。』


 ふふ。甘酸っぱい思い出ですね。


ーーー


『なぁ。美鳥はずっとクロノ・フィリアの人達と知り合いだったんだよな?。』

『はい。ギルド 黄華扇桜を設立してからの知り合いです。』


 ああ。このシーンは、威神さんと搬入口の緊急通路の点検を2人で行っていた時ですね。


『そうか…。』

『どうしましたか?。』


 口ごもる威神さん。


『いや、もっと早くにクロノ・フィリアと出会い加入していれば…色々と、変わっていたのかと考えていた。』

『もっと、早く。ですか?。』

『ああ。お前達3人に出会えたこともそうだが。今よりも強くなっていたのではないか。と、つい考えてしまってな。』


 この頃は既にリスティナ様に力を頂いた後のことでした。


『威神さんは十分強くなりましたよ。』

『いや、まだだ。俺の力など元々いるクロノ・フィリアのメンバーに及ばない。もちろん、日々の鍛練は欠かさず行っている。新たな力も既存の力も十二分に使いこなせるよう努力も惜しまない。だがな。鍛えれば鍛える程。能力が自身の身体に馴染んでいく程感じるんだ。閃さんや、無凱さん。基汐さん達との絶対的な差を。』

『威神さん…。』

『俺はお前達を守れるようになりたい。だが、俺は弱い…それが悔しい。』


 私は威神さんの真面目で真っ直ぐなところを好ましく思っています。それはあの頃も、今も変わらない私の気持ちです。


『威神さん。それは私も同じですよ。』

『え?。何がだ?。』

『威神さんが私達を守りたい気持ちと同じで私も…私達も威神さんを支えたいと思っています。守られてばかりの存在ではなく、一緒に同じ道を歩める関係になりたいんです。』

『同じ道を…。』

『楓ちゃんも月夜ちゃんも同じ考えです。威神さん。』

『ああ。』


 威神さんの手を取る私。

 今考えると、とても大胆でしたね。


『一緒に強くなりましょう。皆で楽しい毎日を送れるように。』

『美鳥…。ああ。お前の言う通りだ。俺は一人で強くなろうとしていた。お前達の気持ちを考えず、ただお前達を守りたいという俺の考えを押し付けていた。すまない。』

『謝ることなんてありません。威神さんの気持ちは凄く嬉しかったですから。』


 こうして私と威神さんは同じ方向を見て歩くことになる。


ーーー


 そして、視界が暗転した。

 何も見えない。何も聞こえない。

 誰もいない。大切な人達も。大切な仲間も。大切な友人も。大切な家族も。

 

 皆…死んでしまった。


 神に殺された。


 私、自身も…全てが失くなったのです。


『貴女は、もっと自分に自身を持ちなさい。』


 え?。


『美鳥は優しいわ。凄くね。』


 黄華さん?。


『けどね。その優しさは他人を思うものじゃない。自分自身が傷付かないようにするための優しさよ。』


 かつて、黄華さんに言われた言葉が響いてる。


『それは悪いことじゃない。けどね。それはいつか貴女自身を殺すわ。誰に対しても優しい貴女。だけど。それじゃあ、本当に欲しいモノが出来た時。欲しいモノは手に入らない。』


 そうですね。


『必ず後悔することになる。』


 忘れていません。


『もっと、わがままを言いなさい。やりたいことをやりなさい。他人に優しく出来るなら自分にも優しくなりなさい。』


 黄華…さん…。


『本当に大切なモノは手放しちゃダメよ。』


 はい。


 暗闇が晴れる。

 青空が広がり、地平線まで続く天空。

 風が吹き抜け、太陽光が照りつける。

 

 そうです。私には、大空を駆ける翼がある。


 大切なモノは奪われてしまった。

 けど、この世界に私は転生した。光歌さんも、美緑さんも、閃さん達も。

 なら、楓ちゃんも。月夜ちゃんも。黄華さんも。………威神さんも。この世界にいる筈。

 いいえ。必ずいる。なら。また。


『欲しいモノが出来ました。』


 また。あの過去が…。

 けど、今のままじゃ無理です。


『力が欲しいです。あの時と同じ…楽しくて、平凡で、幸せな毎日を…未来を手に入れるための力を…。』


 だから…。

 強く…今よりも…全てを受け入れて…。


 高く。高く。速く。飛べる翼をっ!。

 

ーーー


『スキル【思考同調】解除。ふふ。これで。美鳥も大丈夫。強くなれるよ。』


ーーー


『はは。ははは。やりました!。女王の力を借りたとはいえ異神を私は倒しましたわ!。これで、私の力が異神の通用することが証明されました。ああ…何て素晴らしい日でしょうか。これで…また、皆で平和に暮らせるようになる…。皆が笑顔で暮らせる毎日を取り戻せます。』


 純白の翼をバタつかせ、優雅に空中を回るフリア。

 彼女の目の前には植物に呑まれ、木の一部となった美鳥がいた。


『さぁ。この調子で他に潜入した異神も倒してしまいましょう!。報告では沈下した場所に暮らしていた者達に死者は出ていないようですが、復旧を急がなければ住民達が安心して生活出来ないままです!。やることは多いですよ!。』


 異神に勝つ。

 それがフリアにとって、とても大切なことだった。

 世界は異神の出現によって混乱している。

 人々は神託から教えられた神の恐怖に怯え、いつ異神による侵略が始めるのか。不安と戦いながらの生活を余儀なくされる。

 彼等が安心して生活するためには、異神を倒すこと。

 そうでなくとも、異神を撃退、撃破出来る存在が自分達を守ってくれるという安心感を与えれば良いとフリアは考えた。

 そして…今、まさに考えていた2つのことが達成されたのだ。

 自分は異神を倒した。異神を倒せる力を持っている。それが証明されたのだ。

 民を思うフリアにとってこれ程嬉しいことは他にない。身体全体で喜びを表現した。


 だが…。


『え?。な、何?。このエーテル…。何処から!?。』


 今まで感じたこともない強大なエーテルの流れを感じた。

 即座に気付き臨戦態勢へ。エーテルの流れを辿ると…そこには…。


『ま、さか…。銃弾は確実に撃ち込まれた筈…。もうエーテルを根こそぎ吸収されて…死んだ筈です!?。なのに…何で…まだ…こんなに強いエーテルを!?。』


 その瞬間、美鳥の身体を蝕んでいた植物の幹にヒビが入る。ヒビは徐々に広がり…そして…。


『くっ!。』


 弾ける幹。中から何かが飛び出した。

 速い。エーテルによって強化されたフリアの動体視力ですら何かの影が一瞬で上空に上昇したとしか確認出来なかった。

 見上げるフリアの瞳に映る ソレ を見て、彼女は目を見開いた。


『あ、あれは…あの姿は!?。』


 衣服が違う。服装そのものが変化した。装飾まで変わり、まとう雰囲気すら別物。


『な、何と言うことでしょうか…。はは…私は異神を…その存在を…強さを…測り間違えていた…と、いうことですね?。あれは…本当に鳥人神様なのでしょうか?。』


 純白の翼が左右に大きく広がり太陽光に照らされ輝いている。今までは腕と翼が一体化した鳥人の姿だったが、今は人の腕と背中から生える翼。


『あれでは…天使様では…ないですか!?。』


 激変する美鳥の姿に驚くフリア。

 美鳥は自身の身体を確認し片手を前に突き出した。


『神具【飛斬空鳥虹翼 ピナグリヴ・ピラーチャ】。』


 美鳥の身体を中心に七色七羽の小さな鳥型のエーテルが出現する。


『フリアさん。決着をつけましょう。私はこの力で、過去の…幸せな時間を取り戻します。』

次回の投稿は10日の日曜日を予定しています。

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