第218話 獣牙爪填銀銃 ガルファルス・ガン・アルセア
『むぅ?。私?。クロノ・ア・トキシルだよ?。』
突然、目の前に現れた謎の少女の名前。全然聞き覚えがない。見た目も美少女であるが見覚えもない。
けど。この娘から感じるエーテルは…私達とは違う気がする。生物じゃないような?。
すっぽりとボロボロなフードで体格は分かりづらいけど翡無琥と同じくらいかな?。外見的な年齢もそれっぽい。
『いや、知らないんだけど?。誰よ?。初対面じゃない?。てか、何で私の名前を知ってんのよ?。』
『むぅ。そう?。そうかな?。むぅ。いっぱい私を 使ってくれてた から覚えてると思ってたけど…。』
何かを考えるような仕草をするクロノ。
マジで。わかんねぇ。使ってくれてた?。
『銀虎神様の仲間…でしょうか?。ここまで単独で来るなんて…。』
『…くっ…折れたか…回復に数分掛かる。警戒を解くなよ。』
『はい!。お父様。』
フラフラな状態で立ち上がるヴァルドレとライテア。大きなダメージを与えられたみたい。
『ねぇ。光歌。主様知らない?。』
『主様?。誰よ。それ。』
『むぅ。主様は主様だよ。』
『いや、名前で言ってよ。』
『むぅ?。ああ。そうだね。閃様だよ。この辺りで気配を感じたから来たのに突然消えちゃったの。』
『閃?。主って閃なの!?。』
また、アイツはこんな少女まで手篭めに。
もう、ヒロイン何人いるのさ。
『閃は敵の結界の中。今も戦ってると思うわ。』
『ああ。結界かぁ。空間支配系の神具かな?。それじゃあ干渉できない。セツリナが居れば壊せるのに。』
セツリナ?。また、別の女の名前…アイツ…戻ったら説教だ。
『ねぇ。アンタ強いの?。アイツ等のこと弱いって言ってたけど。』
『私?。強くない。私は主様の道具だから。』
『は?。どういうこと?。』
主様…って閃だったよね?。閃の道具?。
ま、まさか。異世界モノで良くある売られている奴隷少女を買い、自分に都合の良いように調教するって、アレ!?。閃の奴、恋人があんなにいるのに…飽き足らず、こんな幼女まで!?。
『お話し中のところ申し訳ありません。銀虎神様に仲間が駆け付けたとお見受けします。此方の状況が不利になる前に勝負を付けさせて頂きます!。』
『覚悟!。』
『やべっ!?。』
『ん?。』
ヴァルドレとライテアが一瞬で間合いを詰める。
まだ立ち上がれない私と何考えているか良く分からないクロノ。話に気を取られてたわ。迎撃しようにも間に合わない!。
『むぅ。ねぇ。話の途中なの。邪魔しないで。』
『馬鹿な!?。』
『私達の攻撃を1人で止めるなんて。』
『うそ…。』
驚いた。
クロノは2人の攻撃を各々片手で止めた。
それも驚いた。けど。私を最も驚かせたのは、クロノの手に握られているモノ。
忘れるわけがない。何年も私が使い続けた。数々の戦いを共に乗り越えてきた。思い出深い。謂わば、仲間…いや、相棒に近い。
『邪魔。』
クロノの両手に握られたゴツい二丁の銃。
私の神具だった【獣神魔弾爪填銃】。
『ぐっ!?。離れろ!。ライテア!。』
『っ!?。は、はい!。』
獣の爪の形をした弾丸が連射される。
その連射性は私の持っていたスキル【獣爪早撃】と同等。いや、スキルそのものを使用している?。
『ねぇ。光歌は何で神具を使わないの?。』
『え?。』
神具を使う?。
そんなの神具が失われたから…。
『いや。もしかして…そうじゃない?。』
『………。ああ。成程。理解しました。』
『え?。』
急にクロノの口調が機械的なモノに変化した。これ機美姉のスキル【思考加速】【並列思考】【高速演算】の重ねて掛けだ。
何で、この娘はそんなこと出来るの?。
『貴女様はこの世界に来て神具が失われたと思われているのですね。ですが、それは間違いです。』
『ど、どういうこと?。』
『貴女様…いえ。貴女様方はリスティールに転生したことで本来のあるべき種族に身体が近付きました。そして、貴女様は究極系、最高到達点の神化を会得しました。貴女様の今の状態は神々の間で【界神化】と呼ばれています。』
『【界神化】?。』
神化とは違う。
本当の神になったということ?。
『絶対神によって世界が創造され宇宙が誕生します。そして、星が生まれる。絶対神はその過程で神を誕生させ各々の役割を与えました。』
『じゃあ、私達は絶対神が創り出した世界のルールに無理矢理捩じ込まれたってこと?。』
そのルールというのが 神 って存在なんだよね?。
『はい。そしてルールを心より受け入れることが【界神化】への条件となります………ふぅ。疲れた。』
説明の間も弾丸を撃ち続けヴァルドレとライテアの動きを牽制。動きの先を的確に読み弾丸の雨を降らせる。連射性と命中精度で完全に2人を足止めしている。
これ…私より上手くない?。
『光歌は勘違いしてる。』
『勘違い?。』
『光歌達の神具は失われた訳じゃない。』
『え?。』
『私に返還されただけ。』
『は?。』
『クロノ・フィリアの神具は、ゲームだった頃に私がメンバー全員分の神具を貴女達に作らせたの。材料も内容も、条件も。』
それって…。
『クロノ・フィリアを特別な存在にするため。神具という魔力を安定させるアイテムを作らせてレベル120以上になった時の身体の負担を減らして魔力のコントロールを出来るようにしたの。』
確かにそうだ。
神具は強力な戦闘手段と同時に【神化】や【神技】を使用する際の膨大な魔力のコントロールを補助する役割も担っていたのだ。
『今まで貴女達が使っていた神具は私が貸していたの。ゲーム時代で使っていた神具やスキルは、仮想世界で私の中で保管、保存されていて必要に応じて私の中から貴女達が引き出していたんだよ。』
つまり、この娘がさっきからスキルや神具を使えていたのは…。
『貴女は…誰なの?。』
私の考えが間違えていなければ…彼女の言動から考えられる答えは1つしかない。
『私は閃様の神具。【時刻法神】って呼ばれてたの。けど。この世界ではクロノって呼んでね。』
やっぱり、そうなんだ。
確かに灯月の神具とかは、神具自体に自我があった。【時刻法神】にも同じことがあってもおかしくはないか。
『このリスティールで神具を失ったって言ってたけど。それは違うの。私との繋がり。クロノ・フィリア同士での繋がりが切れたせい。』
『そうか…今まで 借りて たんだもんね。』
『そう。種族スキルは光歌達自身のルールから生まれているスキルだから残った。だから使えるの。』
合点がいった。
私達の身に起きていること。
それが仮説でなく真実に近付いたんだ。
『それで?。神具を使わないって言ってたわよね?。それは?。』
『魔力で作られていた神具。なら、魔力よりも強力なエネルギーであるエーテルで作れないと思う?。』
『っ!?。』
そうか。そうよね。
神具が魔力によって生み出された素材で作られていた。なら、エーテルそのものを扱える今の状態なら。
『エーテルは星そのものが持つエネルギー。自然から発生する【マナ】や生物が生み出す魔力である【オド】の根底にあるエネルギー。』
成程。なら。私は、いや私達は作り出せる。
魔力を制御させる目的ではない。
神が神としての在り方を形にする為の象徴。
『ヒントはおしまい。上手く出来ると良いね。』
ええ。やってやるわ。
私が成功させれば、皆の道標のなる。
この世界で進む道の分からなかった私達の未来が開かれる!。
『エーテル!。銀虎神が在り方を形に…。』
エーテルが渦となり私の周囲で荒ぶり始める。
『っ!?。またっ!?。』
『何なのだ!?。次から次へと…まさか!。神も成長しているとでも言うのか!?。』
私達がゲーム時代で神具は様々な素材を集めて作った。
だけど。その全ては基をたどれば星の生み出したエーテルからこぼれ落ちたモノだ。
ならば、エーテルそのものを使用するのであれば…。
『何だって出来る!。』
目を閉じて体内に内在するエーテルを放出。
界神化した私のエーテルは周囲に影響を与え神聖界樹自体を震えさせた。大きく揺れる大樹の中をエーテルが四方に走る。
イメージを形に…。
戦いで培い積み重ねた経験とゲーム時代から与えられ長年付き合ってきた種族と、その特徴。身体に染み込んだ銀虎神としての動きと馴染んだ性質。その全てを統合。
後は…自分自身を信じ、未来を見つめ希望を持つ。
多分、こうでしょ!。
稲妻のようなエーテルが周囲に放出。
渦巻くエーテルの奔流が徐々に両手へと集束していく。
形を与え、意味を与え、効果を与え、在り方を与える。
荒ぶるエーテルが終息。静けさが戻る。
ゆっくりと目を開ける。
確かに感じる両手の質量。手に馴染むグリップ。銀色に輝く銃身と引き金。
まるで、長年愛用していたような感覚。
『出来た…。』
『うん。成功。やったね。光歌。』
『ええ。色々、思うところはあるけど一応礼は言っとくわ。ありがとう。』
『気にしない。』
『まだ、貴女には聞きたいことが沢山ある。けど。少し待っていて。』
私は、此方を警戒しているヴァルドレとライテアへと向き直る。
『お待たせ。ごめんなさい。少し戸惑ったわ。』
『っ!。勝てない…。』
『逃げろ。ライテア。ここは私が食い止める。』
顔を青く全身を震わせるライテア。獣の耳と尻尾が警戒で逆立っている。そのライテアを庇うように前に出るヴァルドレ。
どうやら、野生の勘で私との戦力差を感じ取ったみたいね。その警戒心は正解よ。もう負ける気がしないもの。
『終わらせるわ。』
ヴァルドレへ狙いを定め引き金を引く。
極大のエーテル弾が直線上の全てを蒸発させながら呑み込んでいく。エーテルはヴァルドレの横を掠め神聖界樹に大穴を開けた。
『何て…威力…。』
『む、無…理…で…す。やっ…ぱ…り…伝説…の…。』
ガチガチを歯を鳴らし、恐怖でその場に座り込んだライテア。
『終わりよ。』
一瞬で背後に移動した私。狙いは…。
『ライテア!。』
『お父様!。』
2人を一瞬にして呑み込みだ2発目のエーテル弾。威力は抑えてある。本来なら連射も出来るけど。
この2人は最初から殺す気はなかったしね。
威力は抑えたが2人の意識を刈り取るには十分だった。気を失った2人を横に寝かせて界神化を解除する。
『ふぅ。』
『光歌。凄かった。【獣牙爪填銀銃 ガルファルス・ガン・アルセア】。光歌の新しい神具だよ。』
『ええ。少し…この世界のことが分かった気がするわ。』
『最初から殺すつもりでなら苦戦くらいで済んだのにね。殺さないように戦うから…あれ?。』
色々、聞きたいけど。今は少しでも体力を回復したい。私はそのまま気を失った。
『お疲れ様。スキル【救済の福音】。』
ーーー
神が住まう場所から地上の様子を観察している者がいた。
見た目は閃と似た雰囲気を持つが、その瞳は世界の全てを見透かすような、包み込むような底知れない何かが含まれていた。
ラウンジ。観賞植物に似たモノが部屋中に飾られた木製の部屋。アンティークのような家具が置かれ、小さな鳥が飛び回る。
穏やかな空気の流れる空間だ。
『ほぉ。まさか、神具の助言を受けたとは言え、自分達の在り方に気付き、それを受け入れる者がもう現れるとは…。想定より早かったな。』
満足気に、それでいて少々落ち込んだような表情を浮かべる男。しかし、声はどこか嬉しそうだ。
『本来なら我が息子が最初に辿り着くかと考えていたんだが…なかなかどうして、他にも優秀な者がいるではないか。しかも、我の創造せし神の映し身ですらない者がだ。』
男はゆっくりと湯気をたてるコップを口に運び中身の飲み物を口に入れる。
『お前の仲間は、なかなか優秀じゃないか?。我が義娘、代刃よ?。』
『………。』
手足を手錠と足枷で拘束されている代刃。
拘束は金色の鎖が天井と床に伸びている。
自身が置かれている状況も分からないまま目の前で優雅に黄昏ている男を睨み付けていた。
『君…閃じゃないよね?。誰なの?。』
『ん?。我が分からぬか?。そうか…そうだな。この世界では名乗っていなかったか?。いや。ここ最近、外を眺めているだけだったからな。皆が我を忘れてしまっていても仕方がないか?。いや、それは少し寂しいな。だが、それは我が望んだことか?。』
良く分からない自問自答を繰り返す男。
『ふぅ。まぁ。よい。我は…グァトリュアルだ。我が子達からは絶対神と呼ばれている。』
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