第217話 魔力とエーテル
ーーー光歌ーーー
この世界で目覚めてから自身の身体に起きた変化を調べていた。
私は、仮想世界でパパとマ…春瀬と一緒に神によって殺された。
次に目覚めた時、私は緑国の中にある獣人が中心になっている小国で目が覚めた。
祭壇、にも似た小さな祠の上。大きく柔らかな葉っぱの上。
獣人達は私を見るなり驚き、騒ぎ、震えていた。何よりも私を見る視線に恐怖が含まれていたのだ。
直感で歓迎されていないことは理解できた。
何体かの獣人が飛び出して行った。おそらく、私にとって都合の悪い 何かを呼びに行ったのだろうと考えた私は適当な布類を奪い身を隠した。
何せ、目覚めた私は全裸だったのだ。ダーリンや仲間以外に見せる肌は持ち合わせていない。
物陰を見つけ気配を殺す。
どうやら、私の身体能力は変わっていないようだ。いや、目覚める前よりも強化されている?。
現在、私の身体から溢れているのは魔力ではない何か。そう。私達を殺した神が使っていたエネルギーだ。魔力以上の高エネルギーが身体から溢れて出ているんだ。しかも、魔力と同じように自然と扱えている。
私の速さについてこれなかった連中には突然私が消えたように見えただろう。
暫く身を隠していると、明らかに武装した獣人達が現れる。手には剣などの武器を持ち殺気だっていた。
ソイツ等は、その場に私が居ないことに気付くと周囲の獣人達を問い詰めた。どうやら、異神という存在を逃がしたことに怒っているようだ。
異神…。私がそうなの?。流れ的にはそうだろう。ふーん。異界の神ね…。
コイツ等の会話から得た情報。
異神という存在は見つけ次第、確保及び拘束か、その場での排除。排除とは問答無用で殺すことのようだ。
私はそこまで危険な存在だと認識されているのか?。
エーテルという言葉が飛び交っている。異神が纏うエーテル?。つまり、この身体から溢れているエネルギーの呼称で良いのか?。
緑国・グレブ・リーナズン。
セルレン様、エンディア様へ至急報告。
リョナズクリュウゼルへ出動を要請。
緑国全域へ緊急警戒体制発令。
動ける者は神聖界樹の根本に武装し集合。
などなど。色々と興味深い単語が聞こえた。
その後、陰ながら情報を集め緑国のことを調べ回った。
途中、美緑と美鳥がこの緑国で私と同じ状況にあることを知り、無事に合流を果たし以後は3人で行動。
緑国は異神である私達に対抗する戦力を集めるため、見せしめに特に戦闘能力の劣る種族を対象に小国に住む民を皆殺しにした。
我々に殺されるか。異神と戦うかの2択を迫ったのだ。
当然、反発を行う者も出てくるが緑国の武力の前には為す統べなく殺されてしまう。
私達は、その様に緑国の行いに疑問を持つ者達、力無く見せしめの対象になりそうな小国の民、避難してきた者達を匿い美緑が作り出した世界樹の結界の中へと立て籠った。
『本当に閃達が来てくれて良かったわ。』
ライテアの短刀を身を低くして躱し、爪で迎撃。けど、これも軽く避けられる。
戦闘が始まり5分。
ライテアが私に斬り掛かり私がそれを迎撃するという流れのまま時間が過ぎていく。
互いに様子見といったところか。
後ろに控えているヴァルドレは動く気配すらない。ただひたすらにライテアと私の攻防を鋭い視線で観察しているようだ。
『はっ!。』
首筋を狙ってきた短刀を数歩下がって回避。
続けて放たれた回し蹴りを後転で避け、足で蹴り上げる。
『っ!?。まだっ!。』
片足を地面に突き立て軸にし回転。
『きゃっ!?。』
蹴りと短刀の二段攻撃を仕掛けてくるも軸足を狙った私の蹴りにバランスを崩して転倒した。
『ねぇ。そろそろ真面目にやらない?。肉体強化すらしてない。ただの身体能力だけの技術戦じゃ勝ち目無いでしょ?。それとも、このまま殺される?。』
『え?。バレて?。し、失礼しました。わ、私の体術が伝説の銀虎様に何処まで通用するのかを知りたかったのです。不快にさせてしまい申し訳ありません。』
律儀に頭を下げるライテア。
そうか、アイツ…ヴァルドレの作戦か…。
そんなに私の情報が欲しいわけね。おそらく、ライテアとの戦闘の中で私の動きの癖や、攻撃パターンなどを探っている。
まだ、全力でないとはいえ動き自体の癖は誤魔化せるモノでもない。
こんな茶番でも私の動きは研究されているってことね。
『なら。とっとと全力になってもらおうかしら。』
『っ!。』
『っ!?。』
私は全身を巡るエーテルを解放する。
エーテルは肉体の強化を促し、仮想世界に居た時よりも身体能力、種族スキルが向上してくれる。
『行くわよ。』
銀虎神である私は獣人特有の強化が付与される。
身体能力、攻撃、耐久、速さ、回復。その全てが大幅に向上。そして、エーテルを鎧のように身体に纏うことで攻撃範囲も広くなっている。
『速っ!?。』
一瞬で間合いを詰める。
『はっ!。』
狙いは足。動きさえ封じられれば此方が有利になる。
『くっ!。』
ライテアは予想外の私の速さに対応出来ていない。しかし、この速度でも私の動きは見えているようだ。恐ろしい動体視力。けど、身体が追い付いていない。
懐に入り、交差する一瞬で斬り裂いた。
『手応えは…ないか。』
『様子見は終わり?。』
ライテアを担ぎ上げ私から距離を取るヴァルドレ。今の速さにも対応してきた。結構、ガチの全力だったんだけどな。
『お、お父様。』
『時間切れです。ライテア。もう十分己の力を試せたでしょう?。普段からエーテルに頼っていては肉体は強くなっても意識は追い付かない。まだまだ精進が足りませんね。』
『は、はい。申し訳ありません。』
『謝ることはない。彼女のあの素早い攻撃を見失わずしっかりと視界に捉えていた。素晴らしい上達ですよ。』
『は、はい!。ありがとうございます!。』
嬉しそうに笑うライテア。
やべぇ。普通に良い親子過ぎて戦いたくねぇんだけど…。敵なら敵らしくしてろっての。
『失礼しました。銀虎神様。』
『もっと続けても良いわよ?。』
『そういう訳にも参りません。申し訳ありませんが早々に貴女様を倒し他の異神の討伐に向かわねばなりませんので。』
『へぇ。私に勝てるの?。』
っ!?。マジか…。そういうことする?。
確かに、その方法なら考えていた。今まで気配を感じなかったから可能性から除外していたわ。
私の周囲を取り囲むように配置された無数の気配。完全に包囲されてるわ…。
『ん?。ほぉ。気が付かれましたか?。流石ですね。そうです。女王の神具。【樹装軍隊 デバッド・ヴァルセリー】。昨夜、貴女様方と戦った軍隊です。』
迷彩柄の布を捨てると隠れていた大量の木で出来た兵士達が私に銃口を向けていた。
『弾丸は言わずもがなかもしれませんが、【エーテルを吸収して育つ樹木の種】です。一発でも受ければ…どうなるかは貴女様が小国で見た通りです。』
木の養分にされて内側から破壊されて死ぬと…。
『私とライテアには、その効果は発揮されませんので私達を盾にする作戦は使えないとだけ先に言っておきます。』
ヴァルドレが腕を上げる。
それを合図に兵士達が一斉に発射体制へ。
『撃て。』
銃口を私に向けての一斉掃射。
兵士達は神聖界樹からエーテルの補給が行われるせいで弾切れがない。半永久的に私に標準を合わせて撃ち続けてくる。
『ウザい!。』
走る。走る。走る。
全力で、狙いをつけさせない為に右へ左へ。
避ける。避ける。避ける。
弾丸の雨を縫うように。
エーテルで強化されている弾丸。エーテルの気配を感じ取り最低限の動きで躱す。
1発でも当たれば動きが止まる。そうなれば、あっという間に蜂の巣だ。
戦場が草原なのが辛い。
隠れるもの、遮蔽物が何もない。地平線まで見渡す限りの平坦なフィールド。ある程度の距離を取られた状態で取り囲まれての休みない攻撃。本当に厄介な神具だ。
そして、最も私を苦しめているのは、フィールドが神聖界樹により創造された仮想空間であること。支配権が敵にあるが故に私はこのフィールドに干渉出来ないのだ。
つまり、草原のフィールドに生える草を私はむしったり、千切ったり出来ない。土も掘ることも掴むことも出来ないのだ。
そう。フィールドにあるモノを戦闘に利用できないのだ。
『マジでウザいわ。』
『失礼。弾丸ばかりに集中されてはいけませんよ。我々がいることもお忘れなく。』
もちろん、忘れてなんかいないわ。
けど、キツすぎでしょ。これ!。
『ふっ!。』
『ぐっ!?。』
ヴァルドレが接近し腕に装着した鉤爪と体術で攻めてくる。
最悪なのがヴァルドレの行動の隙間を的確に狙い弾丸が私へ飛んでくる。
防ぎつつ、避けつつ。防御が精一杯。
ヴァルドレ。
コイツは…強い。動きで分かる。全然、本気を出してないのに私と互角に渡り合えている。
『どうやら。考え事をしているようですが、それでは私の攻撃を防げませんよ?。時間も掛けていられませんし早々に勝負を仕掛けさせて頂きます。』
『っ!?。』
『がぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
ヴァルドレの姿が変化した。
狼の顔。全身の体毛が増え、肉体の筋肉が膨張。まさに狼男のような姿になった。
『はぁ…。この姿になると…俺は闘争心と残虐性が向上してしまうのが欠点だな。はぁ…。行くぞ。はっ!。』
『はやっ!。うぐっ!。』
口調と性格まで変わったヴァルドレが動く。
予想以上のスピードで腹部に拳がめり込んだ。一瞬呼吸が止まる。同時に思考も。
それは、つまり。
『続く弾丸は避けられまい。』
『あがっ!。うぐっ!。』
肩と太股に1発ずつ命中し、激痛で思考が戻る。だが、既に発射されている大量の弾丸が迫り来る。
私目掛けて発射された弾丸がスコールのようにあっという間に私の身体を呑み込んだ。
大量の弾丸により土煙が上がり、ヴァルドレの合図で銃撃が止んだ。
『まさか…あの状態から続く弾丸を回避するとは…。畏れ入る。』
『はぁ…。はぁ…。はぁ…。』
痛い。肩と太股から血が流れる。
『弾丸を受けた箇所を肉ごと抉り取ったか。』
地面には私の肉と纏うエーテルを媒体に成長した弾丸だった種が発芽し30cm程に伸びていた。
『はぁ…。はぁ…。はぁ…。うぐっ!。』
自己治癒力の強化で止血。失った肉を再生させる。
自身の身体の状態を自己分析。
体力は5割ってとこかな。エーテルは6割。まだ戦えるけど。また銃撃が始まれば逃げるしかない。ヴァルドレの攻撃を掻い潜り厄介な兵士軍団を先に倒そうとしても、倒している間にヴァルドレが仕掛けてくるだろうし…ヴァルドレはタイマンでも苦戦するような相手だし。
まったく。めんどくさいことになったわ。
『ほぉ。流石、伝説の銀虎神。瞳から強い闘志を感じる。俺達にまだ、勝つ気でいる。おい。ライテア。』
『は、はい!。』
『銀虎神の行動パターン。回避の癖。観察し学べたな?。』
『はい!。』
『なら。お前も加われ。銀虎神を狩る。』
『分かりました。全力でお相手します!。』
ライテアが短刀を構えエーテルを纏う。ヴァルドレと共に飛び掛かって来た。それを合図に取り囲んでいる兵士達の一斉掃射が再び始まった。
『ぐっ!。』
エーテルを纏う。爪と尻尾を使い2人の攻撃を捌きながら弾幕を躱していく。
ライテアの手数の多く素早い短刀と蹴りでの連続攻撃と離脱を繰り返すヒットアンドアウェイ戦法とヴァルドレの素早くも一撃一撃が重い蹴り主体の拳法と両腕の鉤爪の攻撃。
両者は此方の動きを観察し的確に攻勢に転じてくる。
『はっ!。』
『やっ!。』
2人が攻撃をしている間も銃撃の乱射は止むことなく続き。四面楚歌、八方塞がり。
『つ、強い!?。』
『この圧倒的状況ですら攻めきれぬとは!?。』
そんなことを言ってくれるのは嬉しいけど、こっちもいっぱいいっぱいよ!。ほんの僅かな隙を見逃さず爪で攻撃するも容易くあしらわれカウンターを狙ってくるし。
『くっそ。ウザい!。』
ずっと…考えていた。
神に殺されて、この世界で目覚めた。
自分の身体に起きている変化と違和感。
情報を集め、この世界が仮想世界でリスティナの言っていたリスティールという世界だとわかった。
私達がゲームだと思い込んでプレイしていたエンパシス・ウィザメントの世界。
つまり、本当の【現実】の世界だということを。
この世界で目覚めた私達。
普通に言葉のままに受け取った場合。リスティナが言っていたことを真実だと仮定して、データでしかなかった私達がこの世界で目覚めたことには意味がある。
偶然じゃない。明らかに何者かの意図があり役割を与えられているのは確実だ。
私達の身体に起きている変化。
魔力ではなくエーテルが身体を巡り、目に見えて能力の向上している。魔力よりも強力なエネルギーであるエーテルに変化しているんだ。
神ですら特定の個体しか扱っていなかったエネルギー。絶対に何かの目的で与えられているのは確かだ。
まぁ。現段階で色々模索したところで答えがすぐに出るものではないから今は良いわ。
じゃあ、魔力とエーテルの違いは何か。その事を考えましょう。
エーテルを扱えるようになり、魔力との違いを感覚として感じ取った。
魔力は、私達がゲームをしていた時から与えられたモノだ。身体を流れる特殊なエネルギー。自然界から生まれるエネルギーを肉体の中に取り込み生物の身体の中で発生するエネルギーと合わせ、混ぜ合わせ個人で扱えるように弱めた固有のエネルギーが魔力。
そういう説明がゲーム初期でされていた。
故に個人個人の性質により個に合わせた多種多様な能力として発現する。
これだけの話で私が思ったこと。
これだけの万能なエネルギーである魔力。
ゲーム時代、プレイヤーの種族による制約はあれど、ほぼ望んだ能力や武器を獲得出来る自由性、万能性。極めれば擬似的な仮想世界だって創り出せるのだ。
なら。エーテルとの違いは何なのか?。
エーテルを扱えるようになった今。
私達の身体は、仮想世界で切り札にしていた【神化】の状態が通常化し、通常攻撃では奥の手であった【神技】が扱えている。
ゲームで【神化】と【神技】を獲得した時の条件は【魔力を100%使いこなせるようになること】だった。
私達はクティナを倒し、レベル120へ至る。
その後、出現したリスティナの迷宮を攻略するためには自身の種族の能力を100%引き出すことが必須条件だった。
そこで、私達は【神具】を生み出すことで更なる戦闘力の向上と魔力操作の補助を行った。
結果として【神化】は完成。各種族の最強の必殺技である【神技】を獲得したのだ。
なら。今の状態は?。
切り札であるモノが通常時の状態になった。
与えられた種族の神となった私達。
けど。ゲーム時代、仮想世界の時との違和感が【神化】と【神具】にあった。
まず、【神具】が消えた。
正直、それは大した変化ではない。何故か。それは、神具で行っていたことは今の状態で普通に扱えるということだ。いや、神具を使用していた時よりも強力な力を使えるんだ。
無理もない。
神具は謂わば補助装着のような役割だった。
造るために様々な素材やアイテムを集め、色々な条件をクリアした。簡単な話。種族で固定された今の状態とは違う紛い物なのだ。
だから、各種族の神となり頂点となった私達の前から消失したのだ。
次が【神化】だ。
ゲーム、仮想世界での【神化】は能力の向上だけでなく姿も変化した。姿も神々しいモノに変わり、体格や雰囲気。髪が伸びたり、身長が伸びたり、瀬愛や白なんかは年齢すら上がっていた。
けど。今の状態は…。
私の【神化】は。
レオタード型の薄着姿になり全身に独特で特徴的な模様が浮かぶ。手足に鋭い獣の爪が出現し全身に雷にも似たエネルギーが放出し迸る。見た目は獣の姫と言った感じだった。
現在、そんな姿に変化をしていない。
仮想世界の時とは確かに違いがあるが。【神化】時のような大きな変化は無かった。美緑ですら手のひらサイズになって葉っぱの羽が生えたくらいだ。サイズは違えど外見に差程変化は少ない。…って…結構変わってるわ…。
魔力からエーテルに変化した影響かは分からない。
だから、仮説を立てた。
もしかしたら、私達はエーテルを完全に使いこなせている訳じゃない?。
魔力を完全に掌握して会得したのが【神化】なら…エーテルを完全に自分のモノに出来たなら。
私達には、まだ。【上】があるってことよ。
『やってみる…しか、ないわね。』
目覚めて、仮説へ考えが至ってから アレ は何度も試した。けど。一度も成功はしていない。
だけど。今回は成功させる。させないと。死ぬ。
『何かをしようとしている?。お父様、お気を付け下さい!。』
『むっ?。この状況で何を!。ライテア!。一気に攻める!。隙を与えるな!。』
『はい!。』
時間を作る。
少しだけ。僅かな。エーテルをコントロールし支配するだけの時間を。
『させるか!。』
『はぁっ!。』
甘いわよ!。
『『っ!?。これはっ!?』』
襲い掛かる2人の足に絡み付く植物の茎。
自由を奪われ動きが止まった。
『馬鹿な!?。この草原にこんなモノがあるわけ!?。』
『いったい!?。いつの間にこんな罠を!?。』
このフィールドは神聖界樹によって支配されている。草も土も私には形状を破壊することが出来ない。そのことは当然、2人も知っている。いや、そこが2人にとって強みであり私に有利を取れる1つだったのだから。
けど。このフィールドにあって1つだけ罠として使えるモノがある。
それは…。
『そうか…樹装軍隊の銃弾!。自身のエーテルを糧に成長させた小さな樹木か!?。』
『くっ!。絡まって取れない!。』
ええ。逃げ惑いながら作らせてもらったわ。
途中でエーテルを流し込んで更に成長させ網のように絡めた罠を。
そして、今がチャンス!。
『はぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
『っ!?。このエーテルの奔流は!?。』
簡単な話。魔力はエーテルを生物が使えるように薄めたもの。
そして、エーテルは星が持つエネルギーだ。
神としてエーテルを扱えることになったのは、神が星という巨大な存在の一部であり。最も影響を受ける存在だから。
なら。神がエーテルを完全に自分のモノにするには、疑わず、星に与えられた種族というカテゴリを受け入れ、役割に身を委ねること。
単純だけど。それが難しい。
人間として生まれた自分を、別の存在として受け入れる、今の自分という存在を心の底から信じることだから。
『私は…。』
迷わない。
どんな姿に。どんな存在になろうと。
『私は。私だ。』
身体の中に渦巻いているエーテルが周囲に放出される。神聖界樹がフィールドを形成するのに使用していたエーテルまでも巻き込んだ竜巻が発生した。
『ぐっ!?。我が王の世界が、崩壊していくだと!?。』
『凄い、力です!?。吹き飛ばされそう!。』
荒れたエーテルが止み、静けさが戻る。
配備され銃を構えていた兵士達の半数が吹き飛んだようだし。草原だったフィールドは普通の木の内部へと戻っていた。
『これが…エーテルでの【神化】。』
いや、もう【神化】じゃないわね…これ。
銀虎神。しかも女神の姿は自分でも見惚れてしまう程の神々しい姿だった。全体像は見えないけど着ている衣装も、手足も身体も、綺麗で美しく思う。本当に自分の身体なのかと疑いたくなるくらい。
これが、銀虎神の…いえ。私の本当の姿なんだ。へへへ。コスプレしてるみたいだわぁ。
『ライテア。気を付けろ!。これは…今までの銀虎神ではない!。』
『はい!。伝わります!。これが伝説に残る本当の銀虎神様…。』
『軍隊よ!。残っている者だけで構わん!。弾の続く限り撃ち続けろ!。』
残った軍隊が銃を構える前に私は手を払う。
同時に発生した巨大なエーテルの爪が兵士達を薙ぎ払った。これは、【神技】だった攻撃。
それを、手を動かすだけで発生させた。
『っ!?。馬鹿な!?。一撃で!?。』
『っ!?。お父様!。後ろです!?。』
『ええ。アンタのね。』
『ライテア!。』
移動速度も、瞬発力も強化されている。
これは瞬間移動に近い感覚だ。
『ぐっ!。はっ!。』
『遅いわ。』
ヴァルドレの連撃を受ける。
速かった打撃を止まって見え、重かった攻撃は羽のように軽い。
『ふん!。』
軽く腕を振った。
『ぐあっ!?。』
『お父様っ!?。きゃっ!?。』
防御したヴァルドレの腕が折れライテアを巻き込み吹き飛んだ。
『凄いわね。これ…うっ!?。』
安定していたエーテルが乱れ始める。
出力を下げるも今度は急激に体力が失われていった。
『だ。だめ…立ってられない…。』
まさか、こんなに消耗が激しいなんて。エーテルを完全に掌握しても維持が難しい。
立つ力も失い、その場に倒れた。
頭も体力も使いすぎて、もう帰りたい。
『ねぇ。光歌。何で、あんな弱い奴等に苦戦しているの?。』
『は?。って、誰よ。アンタ。』
仰向けに寝転がる私を見下ろす形で座る少女が突然現れた。
フードから覗く目の中の瞳が歯車の形をした見知らぬ少女。
何処かで会ったのか?。向こうは私を知っているみたいだけど?。全然、記憶にないんだけど…。
『むぅ?。私?。クロノ・ア・トキシルだよ?。』
ごめん。名前を聞いても分からないや。
次回の投稿は3日の日曜日を予定しています。