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第215話 開戦 VS緑国

ーーー光歌ーーー


 美緑の世界樹は、敵の切り札にして最強の神具 神聖界樹によって成長を妨げられた。

 樹海の内部のみで育てても大気までエーテルで侵食してくる神聖界樹の前には意味を成さず、地上での成長を放棄した。

 調べた結果、神聖界樹の根は地上の大樹程支配能力があるわけではないことが分かった。


 そこで、美緑は地中で世界樹を育て始める。

 

 世界樹の根を神力を使用し伸ばしていった。

 土や石、岩や粘土などを掻き分け急激に、急速に成長を続けていく。神力によって強化された世界樹の根は一週間程で緑国の地中を制圧、隙間なく張り巡らされた。

 もちろん、神聖界樹の根に触れては敵に計画がバレてしまう。そこで、神聖界樹の根が伸びる更に地下を世界樹の根で埋め尽くしたのだ。

 

 神聖界樹の根は大樹から離れれば離れる程散布するエーテルの質が落ちることも私達の追い風となって働いたのだった。

 緑国の軍隊が神聖界樹に近い位置で配備、待機していたのも、そのことが原因の1つと思われる。


 最終的に神聖界樹の大樹以外。緑国の大地全ての地中に何重にも絡まった世界樹の根が張り巡らされる。


『行きます。神力…発動!。望む結果は【緑国の地中に張り巡らされた世界樹の根よ 緑国を覆う壁となれ】!。』


 美緑が神力を発動する。


『結果の追加。【死人は奇跡的に出さずに。】。』


 美緑らしい願いが世界に聞き届けられた。


 緑国の大地に伸びた根が一斉に移動を開始する。地下を移動し緑国の国境へと。

 そして、国境沿いから緑国を取り囲むように大量の根がドーム状に形成され大国である緑国の全てを包み込んだのだった。

 同時に緑国の大地を支えていた世界樹の根が消失したことで根のあった空洞となった空間に地上が次々に崩落していくこととなる。住人、兵隊、軍隊の全てを巻き込み落下させた。


 凄まじい揺れと消えていく大地を目撃、巻き込まれた者にとっては、まさに地獄のような時間だったであろう。


 そして、ドーム状に展開した世界樹の根によって太陽の光を遮られた緑国は朝方にも関わらず夜のように薄暗くなる。


『ナイス!。美緑!。身体は大丈夫?。』

『はい。根を移動させただけですので。問題ありません。』

『よし。じゃあ。皆、手筈通り行くわよ!。』


 私達は成長する根に掴まり直接神聖界樹を目指した。


ーーー


ーーー神聖界樹 司令官室 ーーー


ーーーエンディアーーー


『何事ですか!?。今の揺れは!?。』


 突然、揺れ動く神聖界樹。

 こんなことは初めてだ。地中深くに根を張っている神聖界樹が中にいる私達が立てない程に揺れるなんて。

 地震?。いや、そんな観測はありませんでした。

 ならば、いったい何が…。


『エンディア様。報告いたします。』

『っ!?。』


 樹装軍隊の兵隊の1人が伝令としてやってくる。


『神聖界樹の周囲を除き、緑国の全ての支配エリアが謎の地盤沈下により崩落しました。現在、原因の究明と生存者の救出を同時に行っていますが、余りにも深い空間に出来た空洞へ落下したため困難を極めています。』

『っ!?。そんな…。』

『更に報告いたします。』


 続けてもう1人の伝令役が駆け込んできた。


『現在、緑国全土を取り囲むように植物の根がドーム状に張り巡らされました。エーテルによって成長していると思われますが詳細は不明です。』


 私は直ぐ様外の様子を確認した。


『まさか…。』


 神聖界樹の周囲に広がっていた広大な大地は消え去り深々と空いた底の見えない空間が地平線の彼方まで続いていた。


『配備していた戦力はどうなりましたか?。』

『…恐れながら…全滅です。』

『ぜっ!?。』


 これが…異神の力なの!?。

 有り得ない。私の想像を遥かに越えている。

 この状況…まるで厄災に見舞われた後みたいな…。


『伝令!。緑国を覆うように展開されたドーム状の植物を伝い異神が、この神聖界樹へ侵入したようです!。』

『そ、そうですか!。その手が!。空の軍は何をやっているのですか!?。迎撃の命令を出していた筈ですよ!。』

『そ、それが…ドーム状の植物から枝が伸び…空中で待機していた全てのヘリに巻き付きまして…身動きが取れず、その後、異神の1柱である鳥人族と思しき存在に次々に撃墜されたと…。』

『馬鹿な…。何なの…ですか…。この体たらくは…。』


 私の認識が甘かった?。最善の作戦を立てたというのに?。異神の力を見誤ったから?。

 こんな易々と神聖界樹への侵入を許すなんて…。


『エンディアよ。』

『っ!?。セルレン…。』

『失敗か?。』


 冷たい眼差しが私を見ている。

 失敗か?。そう聞いたのですか?。私に?。失望にも似た眼差しが私の心を鷲掴みにする。

 

『い、いいえ。まだです。王女達を含め、右大臣、左大臣、各【リョナズクリュウゼル】のメンバーへ伝令。敵の潜入を確認。各自持ち場にて異神を撃破しなさい。と。』

『はっ!。』


 伝令に命令。

 すぐにセルレン…王へと向き直る。


『お前の手腕には期待している。次はないぞ?。』

『はい…。私の全てを懸けて異神を倒します。』

『分かれば良い。私は念のため。中枢へ向かう。』

『はい。お気をつけて。』


 王は中枢へ向かった。

 全身から吹き出る汗。渇く喉。心臓の鼓動も速い。


『負けない。必ず異神を倒して王と私の理想郷を創造する。』


ーーー


ーーー燕ーーー


 拠点にしてた場所から真っ直ぐ神聖界樹に向かって走る。

 私の脚力なら15分くらいで到着する。

 見上げると、複数のヘリが伸びた木の根か枝かに絡め取られ身動きを封じられていた。

 そして、美鳥さんの攻撃で次々に爆発していく。


『どうやら、作戦は成功みたいだね。流石、光歌さん!。』


 ここまでは計画通り。

 後は私に与えられた仕事をこなすだけ…なんだけど。なかなか難しい難題を出してくるもんだよ…。


 それにしても、デカイよね。

 神聖界樹。もう壁にしか見えないよ。


『っ!?。』


 林を抜け神聖界樹の根元にある入り口が見えた瞬間。背筋を走る悪寒を感じ急停止。後ろに跳躍した。


『おっ!。流石に気付いたか?。不意討ちなら行けるかと思ったんだが甘かったみたいだ。』


 私が通る筈だった場所を鋭い斬撃が通った。


 和風の服に胸当て、籠手、脛当。腰布。手には長い鉾を持った青年。

 見覚えがある。話にも聞いていた。

 緑龍絶栄の幹部だったヤツ。赤蘭の幹部だった私とは同じような立場だった奴だ。


『私の相手は君?。』

『おうさ。ここで待機してれば、少なくとも弱くはない敵が来るって聞いてたからな。どうやら異神みたいだが合ってるよな?。』


 昨夜も前戦に出ていたって聞いてたけど。

 はぁ。改めて見ると化け物だわ。

 全身から溢れ出てるエーテルなんか私達と遜色ないよ…。


『うん。じゃあ。立ち話もなんだし、とっとと始めようか。』

『ああ。良いぜ。時間がないのは俺達もお前達も同じだろ?。お前達のせいで緑国は壊滅だ。復旧作業に奔走することになりそうでな。』

『そ。それはごめんだね。こっちも必死なんだよ!。』


 全身にエーテルを走らせる。

 肉体の強化。脚力の超強化。


『そうかよ!。なら、おっ始めるか!。緑国、【リョナズクリュウゼル】が1人。獏豊だ!。精々楽しませてくれよ!。』

『クロノ・フィリア!。燕!。全力で蹴り倒す!。』


ーーー


ーーー美鳥ーーー


『はっ!。』


 エーテルで強化した足の爪でヘリを切り裂く。同時に硬質化した羽をミサイルのように飛ばして撃墜する。


『これで、最後の一機ですね。』


 数にして50機以上。

 音速を越える飛行能力を持った私の方が強かったようですね。

 光歌さん達は無事に神聖界樹の中に入れたようですし、私もそろそろ潜入しましょうか。


 光歌さんに与えられた私の役割は彼女達が神聖界樹に入るまでの時間稼ぎと上空で停滞しているヘリの撃墜。その後、余裕があれば神聖界樹へ潜入し敵を撃破する。

 正直、混乱に乗じての奇襲に近かったのでヘリの強さは話に聞いていた程ではありませんでした。ましてや、空の戦いならば私に軍配が上がるでしょう。


 神聖界樹への入り口を探そうとしたその時。


『なっ!?。』


 神聖界樹に開いた窓のような穴から鞭が放たれる。

 間一髪のところで急降下し鞭を避けることに成功する。


『避けられた。速いね。君。』


 桃色の髪を靡かせた少女が飛び立った。

 背中には白い翼。頭には小さな王冠。手足には鎧。白と桃色のドレスに身を包んだ少女だ。


『初めまして。異界の神。私は【鳥人族】の姫。皆からは【鳥獣姫】フリアって呼ばれてるよ。宜しくね。』


 空中でも優雅にお辞儀をする姿は、どこか気品があり、育ちの良さを感じさせる。


『クロノ・フィリア所属。【鳥人神】美鳥です。』

『わおっ。私の系統種族の神様ね!。ふふ。楽しくなってきたわ。』


 鞭を構えるフリアさん。

 自分達の種族の神であろうと異神であるなら戦うということでしょうか?。


『貴女を倒せば、実質的に私が神ってことよね?。ふふ。俄然やる気になってきた。』


 どうやら。

 好戦的な性格のようですね…。

 手に持つ鞭をしならせるフリアさん。


『さぁ。始めましょう。鳥人の神様。私達の国は私達で守ります!。』


 フリアさんは、私に向かって高速で飛び上がり突進する。


ーーー


ーーー詩那ーーー


『もうっ!。何なのこれ?。』


 大きな木の中に入ったら、また、森?。

 木、木、木。右も左も木しかないし!。


 神聖界樹とかいうデカイ木の中に入った。

 そこは草木、木々が生い茂る森中。大樹の中に別の森があるとか意味分かんないですけど?。


『なぁ。1つ聞いて良いか?。』

『な、何?。』

『詩那はご主人様の何処に惚れたんだ?。』


 そんな枝や草を掻き分けながら進んでいると、不意にラディガルが声を掛けてきた。

 先輩の契約神獣とか言ってたっけ?。

 前世の記憶が無いから、分からないけど。最初は先輩の敵だったって昨晩聞いたんだよね。

 けど。今では先輩に仕えてるって。


『そんなの全部よ。先輩の全てが大好きなの。』

『へぇ。確かご主人様に助けられたんだよな?。』

『ええ。ボロボロのウチを綺麗にしてくれたの。その後も色々助けてくれたし…そんなの惚れない訳ないじゃない。』

『そうか。へへ。何か嬉しいぜ。』


 ウチの前を進むラディガルが嬉しそうに尻尾を左右に振っている。


『何が嬉しいの?。』

『ん?。いや、自分の主人が他のヤツに好かれて心の底から惚れられてるんだぜ?。従者として誇らしい。』

『へぇ…そんなもんなの?。』

『ああ。俺もご主人様が好きだからな。へへ。仲間が増えるみたいで嬉しいんだ。』


 出会ってから1日しか経ってないけど、この娘は本当に先輩を慕っているのは理解したわ。

 一緒に行動するように言われてから、ラディガルと様々な話をした。

 その中でやっぱり話の中心に出てくるのは先輩で、ラディガルが先輩の為に役に立ちたいって気持ちが大きいことを知った。私と同じだ。


『一緒に生き残るわよ。』

『ああ!。』


 友情に近い感じかな?。

 ラディガルみたいなタイプと話すのは気が楽だし、楽しい。


『詩那。止まれ。』

『っ!?。このエーテル…。』

『ああ。敵だ。』


 茂みを抜けた先に一ヶ所だけ木々のない拓けた場所があった。

 そこからは、全く隠す気のないエーテルが流れてきていた。


『来たか。待っていた。』


 大剣を地面に突き刺し、仁王立ちの姿勢のままの敵がいた。

 何アイツ…。虫?。ゴツい鎧?。けど…身体は細マッチョな感じ?。


『気をつけろ。アイツ…強い。』


 ラディガルが一瞬で警戒体勢になった。

 尻尾の毛が逆立ち、全身からピリピリと放電が始まっている。


 敵は…鎧のような外骨格に包まれた2メートル以上の身長を持つ巨漢。カブトムシやクワガタなどの甲虫の特徴が見られる。

 

『ふむ。見たところ異神ではないようだ。神獣と異界人か。』

『異神じゃなくて残念だったわね!。』

『ふむ。いや、お前達が強者であるならば異神でなくとも構わない。我はただ強者と死闘を演じられればそれで良い。』


 敵は大剣を引き抜き構えた。


『我は、緑国、最高戦力。【リョナズクリュウゼル】に名を連ねる者。【樹甲虫王】ゼグラジーオン。お前達も名乗られよ。』


 威風堂々。そんな言葉が浮かんだ。

 私でも分かる…コイツ。前に戦った人族の憧厳よりも…強い…先輩…ウチ勝てるのかな…。


『雷皇獣。ラディガルだ。』

『人族。詩那。』

『いざ。尋常なる勝負を…。』


 威圧感に足がすくみそうになるのを必死に耐えながらゼグラジーオンに立ち向かう。


ーーー


ーーー兎針ーーー


 侵入に成功しましたが…。

 大樹の中は密林ですか…ジャングルですね…。


 日差しは容赦無しに照り付ける。

 湿度も高く、じわりと汗が滲むようなジメジメとした暑さ。樹木も隙間なく生い茂っているので歩くのすら困難です。


 毒蜂蝶を周囲に飛ばして探索と警戒を行っていますが、今のところ他の生物は居ないようです。


『私の密林へようこそ。貴女が神聖界樹へ侵入した緑国に敵対する異神ですね?。』


 密林の中に反響する女性の声。

 位置を特定できない?。


『どちら様でしょうか?。言葉から察するに緑国の方なのは理解できますが?。』

『これは、これは。失礼しました。私は緑国が持つ最高戦力。王の側近を任される者。名をベルスクア。【樹蟲】の通り名で呼ばれている者です。』

『これはご丁寧に。私は兎針。【黒羽針蝶王族】…いえ、皆様の言葉を真似るのであれば【黒蝶神】と名乗るべきでしょうか。』

『………ああ。成程。この緑国の片隅でひっそりと暮らしていた種族ですか。ふふ。そうですか…彼等の神…ですか。ふふ。』


 何でしょう?。

 私を嘲笑うような。不快に嗤う方ですね。


『何が可笑しいのですか?。』

『いえ。失礼しました。1つ質問しても?。』

『どうぞ。』

『異神は、自身の種族が住む場所で目覚めると聞いたのですが、貴女はどうでしたか?。』

『ん?。ええ。虫族達が暮らす小国で目覚めました。』


 それの何が可笑しいのか?。


『そうですか?。では、貴女と 同じ種族 の方々とはお会いしましたか?。』

『っ!?。』


 そうだ。

 私は様々な虫達が暮らす小国で目覚めた。

 けど…記憶を遡っても…。私と同じ…黒い羽を持つ蝶々の種族は…。


『いなかった…。』

『ふふ。でしょうね。ふふ。少し遅かったんですよ。貴女は目覚めるのがね。』

『っ!?。ど、ういうことですか?。』

『なかなか。美味でしたよ?。中身は身がびっしりで、特に羽にびっしりと付着していた卵が濃厚な味わいで。小さすぎるのが残念でしたが、その分数が多かったので満足していますよ。』

『…まさか。貴女…。』

『ええ。見せしめに滅ぼせと命令されたので1体残らず、いただきました。ご馳走さまです。』


 私と同じ…種族の…方々を…。

 食べたと言うのですか?。彼女は?。全員を?。


『少し不快です。』

『ふふ。正直なお話。残念に思っていたのです。何せ、今まで食べた虫達の中でも、格別の美味しさだったのですもの。何体か残しておくべきでした。諦めていたのですよ。ですが。こうして、貴女が現れてくれた。感謝しています。』

『………。不愉快。』

『そう怒らないで下さい。食欲が刺激されてしまいます。』


 私の中で沸々と込み上げる怒り。

 この女は私達を餌さとしか見ていないのですね。


『いい加減姿をお見せください。私は貴女を許しません。食べられた同種の仇。伐たせていただきます!。』

『ふふ。良い覇気ですね。ふふ。ですが。既に姿は見せていますよ?。聞こえませんか?。私達の動く音。』

『っ!?。』


 ザザザザザァァァァァアアアアアアアアアア………。


 という木々が擦れる音とは違う。

 周囲から…違う。足下!?。


『なっ!?。』

『ふふ。気付きましたか?。そうです。貴女の目に映る全てが私です。』


 私の足に群がる蟻の大群。

 見渡すと目に映る全てのモノが黒く、真っ黒に染まっていた。

 しかも、その黒が動いて…蠢いている。


『言い忘れました。私達は、個としての思考を共有するグンタイアリの群れです。どうぞ。よろしくお願いします。美味しく頂きますね。』


ーーー


ーーー光歌ーーー


 潜入は成功。

 私の想像していた通り神聖界樹の表面には幾つもの穴が開いていた。

 遠くからでも部分的にエーテルの放出量が違っていたし、大樹の表面から飛び出すように出撃したヘリ達の気配を感じていた。

 開閉式の穴か、常時開いてる空洞か。近付くまでは分からなかったけど。どうやら後者だったようね。


 皆も無事に侵入出来たみたいだし。

 一先ず。出だしは順調。


 それにしても…。


『大樹の中は見渡す限りの草原ね…。』


 神聖界樹の中には青空と地平線まで続く草原が広がっていた。


『成程。ただエーテルを駄々漏れさせているだけじゃないみたいね。』


 空間支配型の神具か。

 内側に仮想空間を創り出せる。この様子だと、ここだけじゃないようだし。


 この神聖界樹という神具の能力で考えられる可能性。

 

 見た感じ空間支配型なのは分かる。

 問題なのは、支配できる環境にどれだけの自由度があるのか。再現できる環境に限界はあるのかということ。


 外部はエーテルを放出することで、他者のエーテルの阻害と味方の肉体強化+無限のエーテル供給。強化と供給はおそらく、内部にいるものにも同様の効果を与えられると考えて良いと思う。


 仮に内部の環境を際限無しに自由に変更可能ならば、個別に味方が有利になれる環境を用意できるし、上手く扱えば敵を周囲の環境だけで無力化だって出来るかもしれない。


 空間支配型の神具の場合、持ち主を倒すのはが解除の鉄則だけど…。


『簡単に見つかるような馬鹿じゃないでしょう…。』


 それに、もし…仮に…考えたくはないけど…。

 この神聖界樹と一体化とかするような能力があるのなら…。


『此方に火力が足りないわ…。』


 見渡す限りの草原。

 晴天の青空。そよぐ風。揺れる草。それだけのだだっ広い空間。

 そうよね。考えてみたら大樹の幹は、直径数千キロ。内部の空間だって広くなるわよね…。

 緑国の面積の半分を占める、遠くからでも大き過ぎる大樹だったし、近付いた時なんかただの壁だったし…。


『馬鹿げてる神具ね…。っ!?。』


 気配を感じた。

 ああ…ヤバい。ハズレを引いたかな?。


『お父様。来ました。異神です。ですが、報告にあった【樹界の神】ではないようです。』

『そのようだね。だが、異神であることには変わらない。くれぐれも油断をするのではないよ?。』

『はい。分かりました。』


 2体の獣人。

 気配…身体から溢れているエーテルの質が似ている…親子?。

 ここは、少しでも情報が欲しいわね。


『初めまして、アンタ達が私の敵かしら?。』

『はい。そのようです。お尋ねします。貴女は如何様な神でしょうか?。』

『答えても良いけど。そっちから名乗るのが礼儀じゃない?。』

『あ。失礼しました。私は【獣国】に住む【樹獣人】と呼ばれる種族の王の娘 ライテアと申します。』


 【樹獣人】。獣国の中の小国のその1つ。小国の中で最も強い種族だったっけ?。


『私は光歌よ。種族は【銀虎神】。』

『なんと!。あの伝説の!。御目にかかれて光栄です!。』


 え?。何で目を輝かせてるの…この娘…。


『これはこれは。銀虎神様であられましたか。私、緑国、国王。セルレン様に仕える【樹人狼】ヴァルドレと申します。【樹獣人】の国を任されている王も兼任しております。因みにこのライテアの父親です。』


 優しい笑顔の中に紛れた鋭い眼光。

 こっちの僅かな動作も見逃さない。僅かな情報でも得ようとしている。


 コイツは侮れない。


『そ。で?。銀虎神は貴方達にとってどんな存在なの?。』


 私にとってはゲームで与えられたガチャ要素の1つ。なら、アイツ等にとっては?。


『【銀虎神】は古の時代に獣族系統の頂点に君臨していた伝説の種族です。全ての獣族を束ね。他種族と獣族を繋ぐ架け橋となり道標として種族を率いた存在です。とうの昔。既に絶滅したとされております。現在、獣系統の頂点には雷皇獣様がおりますが、雷皇獣様の種族も元を辿れば銀虎神様に仕えていた存在なのです。』

『へぇ…。』


 雷皇獣。ラディガルのことよね。

 確かにゲーム時代は限定イベントでのボスだったけど…。尻尾振って閃に甘えてる姿を知っていると…威厳の欠片もないわ…。


『で?。その伝説の存在である私とどうするの?。』

『もちろん。戦わせていただきます。貴女様は銀虎神様である前に…では、語弊がありますか…。銀虎神様ですが異神なのです。我々は異神からこの国を守る為にここに立っております。故に…。』


 ヴァルドレが両手に鉤爪を装着する。


『あっ!?。私もっ!。』


 それを見たライテアが急いで短刀を抜いた。


『貴女様には伝説へ帰還していただきます。私達の記憶と書物の中で、ごゆるりとお過ごし下さい。』


 うわぁ…。やる気満々じゃん…。

 

 2対1とか不利すぎ。マジで逃げてぇ…。


ーーー


 光歌達が神聖界樹へ侵入した同時刻。

 緑国の支配エリアへ踏み込んだ存在がいた。


『あれ?。ここで主様の気配が途切れてる?。むぅ…。やっと見つけたと思ったのに…。』


 ボロボロのコート。

 フードのせいで顔は隠れているが体つきから女だということは分かる。身長はそれほど高くはない。精々が150より少し高いくらいか。

 隙間から覗く瞳は歯車のような不思議な形をしている少女。


『スキル発動【広範囲気配感知】。』


 仮想世界で光歌が獲得していたスキル。

 エーテルの波動が波となって周囲へと放たれる。しかし、神聖界樹によってすぐに打ち消されてしまった。


『むぅ…。厄介。じゃあ、スキル【広域サーチ】。』


 同じく仮想世界で機美が獲得していたスキル。

 レーダーのようなエーテル波を様々な方角へ飛ばし目的の人物を探そうとするも、同じく打ち消されてしまった。


『むぅ…。これも駄目。あの神具のせいだ。あれは何?。邪魔過ぎ。 私の中 にも無いし、世界樹とも違う。むぅ…。あんなの知らない。けど、周りを取り囲んでるヤツ。あれは美緑の世界樹。形は違うけど。スキル【千里眼】。』


 今度は豊華のスキルを発動した。

 上空には爆発しながら墜落するヘリコプターを捉えた。


『あれ。美鳥だ。あの飛んでるの神具?。あれも中にない。むぅ…。何が起きてるの?。』


 崩落した足場を飛び越えながら周囲を確認する。


『何でこんなに崩れてるの?。』


 崩落した穴の中には数え切れない人数がいた。だが、死人は居ない。


『神具【天神眼】。』


 世界の構造を視る翡無琥の神具。

 それで、穴の中を注意深く視る。

 

『主様…居ない…。』


 次は、あの聳え立っている巨大な大樹を見た。


『…こっちも居ない。けど、知ってる気配もある。もう少し調べる。神具【虚空神庫空間】。』


 緑国の全てを包み込む【箱】を展開。

 しかし、神聖界樹の支配する付近では箱自体が形を保てず破壊されてしまう。


『駄目だ。主様…見つけられない。光歌に聞いた方が早いかな?。』


 神聖界樹を見る少女。


『あの辺り…かな?。神具【神脚靴】。』


 燕の持っていた靴の神具を出現させ足に装備。


『スキル【空力瞬動】。』


 空中を足場に高速移動。

 空中から緑国全体を観察しながら神聖界樹へ向け少女は走り出した。


『主様。何処かなぁ。』


 空中を蹴り少女は神聖界樹を目指した。

次回の投稿は26日の日曜日を予定しています。

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