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第210話 樹装軍隊 デバッド・ヴァルセリー

 光歌達と再会し互いの状況、情報を共有していたのも束の間。緑国が動き出した。

 気配を感じた俺達は避難民を誘導する組と、緑国の進撃を妨害する2手に分かれた。


 俺、美緑、八雲、ラディガル、光歌の5人は地上に出て緑国が支配するエリアと美緑が支配する樹海との境へと到着した。

 境には光歌曰く、敵の進行を防ぐために50メートルの幅、底は100メートル程の溝が掘られていた。


 光歌はあくまでも時間稼ぎと言っていたが…確かにそうだ。

 こんなもの敵の能力の前には時間稼ぎにすらなり得ないことが眼前に迫る敵の大軍によって思い知らされる。


 ババババババババババババババババババババ……。


 回転するプロペラからの轟音と風圧、巻き上げられた土埃と木々の葉が激しく舞う。

 良く見ると、その全てが木製で作られているヘリコプターが6機。空中に停滞していた。

 更にその上空を旋回する軍用の輸送ヘリが5機。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ……。


 そして、地面を揺らし、木々をなぎ倒しながら進撃する木製の戦車が10機。キャタピラーや砲台に至るまで全てが木で作られていた。

 驚くべきは、光歌達によって作られた地面の深い溝。その端と端を繋ぐように太い木の幹が伸びて橋を形成していることだ。

 戦車は溝などお構いなしに進軍を続けている。


『こんなのアリかよ…。それに…。くそっ。エーテルで操られてやがる…。』


 ヘリコプターや戦車を動かしているのはエーテルだ。1つ1つが純度の高いエーテルで強化され操られている。

 

『閃。気をつけて。来るよ!。』


 敵は有無を言わさず砲撃を開始した。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……。


 ヘリから放たれる弾丸の雨。

 見るとヘリの前方には大型のガトリング砲が取り付けられていた。

 6機のヘリからの一斉攻撃が開始する。


『八雲!。ラディガル!。頼む!。』

『はい!。』

『おう!。』


 俺の合図に八雲は両腕の装備を前方に展開、魔力を放出し広範囲に盾を作り出し弾丸を弾いていく。

 ラディガルも全身から雷を放出し迫り来る弾丸を撃ち落とす。


『流石ね。閃。』

『そんなことより、何か作戦はあるのか?。』


 八雲とラディガルの後方で光歌に聞く。

 

『敵の狙いはおそらく、此方の戦力の炙り出し。これ、暫く続くわよ。』

『マジか。俺達はどうすれば良い?。』

『敵を指揮している奴を見つけられれば良いのだけど…。さてさて、何処に居るのやらね。』


 俺と光歌は広範囲の気配を探るも、周囲一帯からエーテル反応が感じ取れてしまい敵の正確な位置が特定できない。

 そうだった。森そのものがエーテルを放出してるんだったな。

 しかも、あのヘリと戦車も同じ木で作られている。何処も彼処も同じ気配で埋め尽くされてやがる。


『主様!。』

『神さま!。戦車が!。』

『っ!?。』

『動いたわね。』


 10機の戦車の砲台が俺達を捉える。

 

 ドンッ!。ドンッ!。ドンッ!。ドンッ!。ドンッ!。

 ドンッ!。ドンッ!。ドンッ!。ドンッ!。ドンッ!。


 戦車から巨大な砲弾の一斉掃射。


『ちっ。光歌!。美緑!。』

『ええ!。』

『はいっ!。』


 飛んでくる砲弾を鋭い爪で切り裂く光歌。

 周囲の樹木の根を操り盾にする美緑。


『っ!。なるほど。そういうことね…これは…やってくれるじゃない。』

『閃さん!。敵の弾丸に触れてはいけません!。』

『どういうことだ?。』

『八雲と美緑、ラディガルはそのまま私達を取り囲むように防御して!。』


 ヘリと戦車。上空と地上の絶え間ない砲撃を盾と雷、樹木で防ぎつつ一ヶ所に集まる俺達。


『奴等の使ってる弾丸が虫の国の住人に寄生して殺したモノの正体よ。』


 光歌の手のひらには、その正体となる物体が握られている。


『これは…種?。』

『ええ。何かの植物の種よ。私も知らない。おそらく、この軍隊を指揮している奴が生み出したモノだと思う。面倒なのは、エーテルで硬化して弾丸の代わりにしてるみたいね。』

『私の植物も寄生されました。』


 見ると、防御にしようした美緑の木の根は細く枯れ果て内側から新たな芽が突き出ていた。


 あの弾丸1つ1つが生物に寄生して養分を吸い取って成長する寄生植物って奴か…。

 えげつない武器を使いやがる。

 つまり、種である弾丸を身体で受けることは出来ないってことだ。

 それに、敵の砲撃も止む様子が見られない。弾切れは無いと考えるべきだろう。

 このまま敵の攻撃を受け続ければ、此方が先に力尽きるのは明白。

 なら…。


『閃。』

『ああ。分かってる。ラディガル!。八雲!。取り敢えず、蹴散らせ!。』

『おう!。』

『はいっ!。』


 2人合図を送る。

 俺の意図を察した2人が同時に攻撃に移る。

 2人の背中に触れエーテルを送り込む。

 夢伽からコツを習い緑国への道すがらに扱えるようになった他者強化だ。


『落ちやがれっ!。』

『消し飛ばす!。』


 雷が走り、戦車の足場となっている木の根を焼き崩す。足場が破壊され10機の戦車は深い溝へと次々に落下していく。


 魔力放出による盾を展開しながら魔力を集束した八雲。溜めた魔力を一気に放出した極大の魔力砲撃が6機のヘリを消し飛ばした。


ーーー


ーーー緑国 王の間ーー


ーーーエンディア・リーナズンーーー


『私の種の秘密に気付きましたか。当たれば勝負が決していたものを…。流石は異神…ということでしょうか。…ですが、その程度では私の【樹装軍隊】は突破できませんよ?。』


ーーー


『今度はそっちか!。』


 急激に接近するローター音に反応し上空を見上げる。


『神さま!。私の後ろに!。』


 輸送ヘリが高度を下げ始め、視界で人影を確認した。

 人影が構えたモノに対し八雲が魔力放出を高めた。俺達全員を取り囲むように展開した大型の魔力場。全力で敵の攻撃に備える。

 

『来るぞっ!。』


 次々に投げ込まれた手榴弾。

 そして、撃ち込まれるバズーカ砲。


 一斉に爆発し周囲に植物の小さな種が散弾する。魔力場に阻まれた種は弾かれ地面にめり込んでいく。

 同時にバズーカ砲の砲弾も魔力場に命中するも爆発ではなく、周囲に大量の煙を放出した。

 

『これは…。』


 森全体を呑み込むような煙が充満する。


『何かの植物を粉末状にした霧みたい。毒ではないようね。多分、私達の視界を奪うことが目的…かな?。』

『皆!。注意しろよ!。』


 ふふ。ですが。既に此方の術中ですよ。


 何処からか聞こえた女の声。

 この軍隊の指揮官か?。


『閃さん!。足下です!。』

『なっ!?。』


 それは、今まで散々撃ち続けられていた弾丸の種。周囲の木々や草木に寄生して発芽しやがった。

 急激に成長する木々の数々は瞬く間に周囲を覆う巨大な大樹に育ち森を形成した。


 しまった。光歌達と分断された。

 視界を奪う霧と行く手を阻む木々によって行動範囲まで奪われた。


『閃!。聞こえる?。』

『ああ!。聞こえるぞ!。』


 くそっ!。音が反響して光歌との距離と方向が掴めない。


『皆!。気をつけて複数の…いや、大量の気配が接近してる!。』


 気配?。


『っ!?。』

『きゃっ!?。』


 肩の上に乗っていた美緑を抱き抱え地面を転がった。


『この野郎。霧に乗じて接近戦を仕掛けて来やがった。』


 木の影から現れた迷彩柄の軍服を着た兵隊。

 手には木製のナイフを持ち、身体中に様々な武器を忍ばせている。

 数人がナイフを構え、残りが銃口を俺に向けている。


『閃さん…囲まれています。』

『ああ…分かってる。』


 気配だけでも…10…16体か…。

 ここまで接近してくるなんて…。


 兵隊の1人が動く。


『美緑!。離れるなよ!。』

『はい!。』


 美緑がしがみついたことを確認し接近しナイフを構えた兵隊と対峙する。

 間合いを取りつつナイフで攻めてる。

 周囲の奴等は隙をついて銃を発射。


 ナイフを躱しつつ、弾丸を避ける。

 弾丸は先程と同じ寄生植物の種のようだ。

 木に命中した途端、木が急速に枯れ代わりに種が成長する。

 四方八方から発射される銃弾は的確に俺だけを狙い味方には当たらない。

 接近戦のナイフ使い達も交互に攻めと後退を繰り返し連続で攻撃を仕掛けて来やがる。


『だが、この程度なら!。』


 エーテルと人功気を混ぜ一気に肉体を強化する。


『らっ!。』


 銃弾、ナイフの嵐を掻い潜り、ナイフ使いを殴り飛ばす。


『っ!?。この感触…。そういう感じか…。こりゃ本体を潰すしかねぇな。』

『何か分かったのですか?。』

『ああ。見てみろ。』


 続く銃弾を躱しながら先程殴った兵隊を指差す。美緑も兵隊を確認すると理解したようだ。


『人じゃ…いえ、生物じゃ…ないですね。』

『ああ。道理で全員同じ気配だと思ったぜ。アイツ等全員ただの傀儡だ。エーテルによって形を与えられた木の人形でしかない。何度攻撃しても欠損パーツを組み換えられ再生する。』


 俺が殴り飛ばした兵隊も周囲の木々を吸収し破損部分を修復。再び立ち上がり攻撃を開始した。


『ですが。本体なんて周囲には…。』

『ああ…遠隔操作だろう。この樹海にはいない。』

『そんなことが…可能なのですか?。』

『普通の奴なら無理だろう。だが、奴等は神具を持ってる。おそらく、この兵隊を含めた軍隊そのものが、コイツ等を操っている指揮官の神具なんだろう。』

『っ!?。出鱈目ですね。』

『ああ…しかも、コイツ等、地面から、あの馬鹿デカイ大樹のエーテルを吸い上げてやがる。弾丸…エーテル切れが無いのもそのせいだ。』


 マジでコイツ等、永遠に攻撃してくるぞ。

 一撃必殺の種の弾丸に再生する兵隊。そして、エーテルを吸収することでの永久行動。

 おまけに、指揮官はこの場にいないと…。


『くそっ!。皆が心配だが、こっちも手一杯だな…。』


 攻撃を避け続けることしか出来ねぇ。

 何とか周囲の気配を探りながら移動しているが、この霧がエーテルの流れを歪めてやがる。

 

『閃さん!。』

『おっと!?。』


 木々の影を利用した兵隊の待ち伏せ。

 美緑が咄嗟に木々の蔓を伸ばして兵隊を取り抑えた。


『すまん。助かった。』

『いいえ。私も役に立ちたいですから!。』


 っ!?。

 刹那。俺の気配感知に僅かに引っ掛かった違和感。


 これは…殺気だ。


 同時に霧の中、木々の影に潜む兵隊達による一斉射撃が放たれた。

 無数の銃弾の軌道を加速する思考の中で捉えた。狙いは正確に俺の急所を捉えている。だが、大丈夫だ。これぐらいなら躱せる。正確さ故に軌道を読みやすい。


 だが、1つ。1発の弾丸だけは違う。

 唯一、殺気を含んだ一撃。


 操り人形の兵隊達は殺気を持たない。

 命じられたままに行動し対象を殲滅する。


 その中に紛れるように、隠すように放たれる弾丸は 俺が回避した先 で待ち受けている。

 無数の弾丸を回避した先にいる。俺の肩にいる美緑を狙って。


『ぐっ!。』


 迫る弾丸。

 美緑は弾丸に気付いていない。

 回避行動の最中、左手を美緑と銃弾の間へ。


『ぐあっ!?。』

『え!?。閃さん!?。それ…え!?。その能力は空苗さんの!?。』


 俺の左手に当たった弾丸は今までの敵が撃ち続けていた弾丸とは違う。受けた箇所に弾丸が発芽し 同化 していく。つまり、腕が…。


『木に…植物になって…。』


 しかも、コイツは…俺のエーテルと人功気を吸収して成長してやがる。全身に激痛と脱力感が襲い、強化していた肉体が解除されていく…。


『閃さん!。待っていてください!。今、私の能力で。』

『ふふ。駄目だよ。閃君。集中力を乱しちゃ。』

『っ!?。あがっ!?。なっ!?。』


 左手と右肩。左腹部。右太ももを 何か が貫通した。左手は切断され吹き飛んでいった。


『閃さん!?。また、別の敵が!?。』

『悪いけど君は邪魔だね。少し閃君から離れてもらうね。神具【魔水極魚星 シルクルム・アクリム】!。いけぇ!。』

『くっ!?。狙いは私ですか!?。』

『み、美緑…離れ…ろ!。』

『え?。閃さん!?。閃さん!。』


 美緑の小さな身体を放たれたモノの軌道から外す。そのまま葉の中に埋もれた美緑を確認した直後に俺の身体が串刺しにされた。


『な!?。カジキが…何でこんな森にいんだよ!?。』


 魚のカジキが二匹。

 俺の身体に、その長く鋭く伸びた上顎がダーツのように突き刺さり、そのままの勢いで後方にふっ飛ばされた。


『閃さん…閃さぁぁぁぁぁん!。』


 美緑の叫びだけが虚しく森に反響した。

次回の投稿は9日の木曜日を予定しています。

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