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第209話 緑国、動く

 俺達は緑国へたどり着き、美緑、光歌、美鳥、ラディガルの4人と再会を果たした。

 仲間に再び会えたことに安堵したのも束の間、次の問題が俺達に突き付けられた。


 兎針が転生した先。

 虫族の国は緑国によって見せしめの為に 住人達の殆どが殺されたらしい。


『いったい。何があったんだ?。』

『虫族の小国に何があったのでしょうか?。』


 俺と同時に言葉を発した兎針が身を乗り出して光歌に尋ねる。

 短い時間だったが世話になった人達を殺されたのだ。兎針にとって最も重要なことだろう。


『私の力が足りませんでした。ごめんなさい。』


 俺の肩に乗っていた美緑がテーブルの上に移動して兎針に頭を下げた。


『貴女が【樹界の神】なのですか?。』

『はい。貴女に任された虫族を守るという約束を守れず、本当に申し訳ありません…。』

『………いったい。何が、あったのですか…。』


 震える声で兎針が聞く。


『簡単な話よ。緑国が私達、異神に宣戦布告してきたのよ。』


 美緑の代わりに光歌が答えた。


『宣戦布告?。』

『ええ。さっき閃の話にも出ていたけど七大国家には各々に【巫女】っていう神の声を聞くことの出来る、生まれながらの能力者がいるの。もちろん、この緑国にもね。』

『巫女…。』

『その巫女に7日前に神託が降りたそうよ。7日後の今日、複数の異神が緑国へと訪れ侵略を開始するってね。』


 複数の異神…。


『俺達のことか…。だが、侵略なんてする気は毛頭ないんだが。』

『方便でしょ。私達と緑国を戦わせるね。』

『だが…それだけじゃ…。』

『ん?。ああ。異神による侵略の前例がないのに国が動くか怪しいってこと?。そんな簡単に国が神の言葉を鵜呑みにするかって?。』

『ああ。そうだ。おかしくないか?。』

『簡単よ。だから神は閃の出会ったっていう奴等を作ったのよ。多分ね。』

『っ!。そういうことか…。』

『ええ。神眷者。神にとっては都合の良い連中よね。何を褒美にしたかは知らないけど。自分達の手足となって率先して異神と戦うために動く駒だわ。それが、国を動かせる立場にいる奴なら尚更ね。』

『じゃあ、緑国の…。』

『ええ。王か…。女王か…。あるいは両方って可能性もあるわね。』

『面倒だな。』


 イグハーレンクラスの強さを持つ奴がこの国にもいる。何人いるかは分からないが…能力次第じゃキツい戦いになるか…。

 いや、イグハーレンの強さは実際、俺達と並べるくらい強かった。そんな奴が複数いる可能性か…。


『考えたくないな。』

『そうね。けど、最悪は想定しておきましょう。話を戻すわ。神の言葉を聞いた緑国は、この国にある各種族が暮らす小国に宣言したのよ。』

『な、なんて…。』

『異神に連なる者。手を貸すもの。信仰する者。異神を匿う者。その全てを敵と見なす。助かりたければ、申し出よ。今ならば、全ての罪を水に流し、我が緑国の異神と戦う同士として迎え入れよう。尚、敵対するのであれば、この国のようになる…ってね。奴等、虫族の小国に最高戦力を投入してきたのよ。』

『最高戦力?。』

『緑国の幹部よ。そうね。分かりやすく言うと仮想世界でのギルド・緑龍絶栄の八龍樹皇って感じかな。』

『はい。間違いないかと。』


 光歌の問いに美緑が答える。


『虫族の小国はたった2人に滅ぼされたわ。』

『っ!?。』

『どんな手段を使ったんだ?。小国と言っても虫族の数は少なくないだろう?。』

『そうね。虫族は人族と並んで繁殖能力が高い種族だから5000から10000近くは居たかな。』


 思ったより多かった…。


『閃も見たでしょ?。あの大樹。』

『ああ。あれは何なんだ?。仮想世界で美緑が育てていた世界樹よりもデカイよな?。しかも、エーテルを生み出していた。』

『そうなのよ。あれは巨大な結界を発生させる起点になるものよ。』

『結界…。』

『あの大樹の根は緑国の全ての地面に伸びている。そして、エーテルをばら蒔いている。あの大樹のエーテルは他のエーテルを阻害する効果があってね。美緑が育てた世界樹も取り込まれたわ。』

『この世界でも世界樹を?。』

『はい。ちょうど兎針さんが旅立った後、10メートルくらいに成長したんです。ですが、急激に侵食してきた大樹の根に成長途中の世界樹の根が取り込まれて…。』

『そうか…。』

『虫族の小国は何の抵抗も許されずに、一瞬で奴等の支配下におかれたわ。けど、美緑も頑張ったのよ?。この場所を守りつつ、敵のエーテルを掻い潜って虫族の小国からの道を作ったわ。生き残った虫族の人達をまだ自分が支配しているエリアに移動させる為のね。』

『それが…。』

『ええ。彼等よ。助けられたのは500人弱。あとは…見た通りよ。植物に寄生されて根こそぎ養分を吸いとられて死んだわ。』

『………そうだったのですね。』


 兎針が美緑に頭を下げた。


『私の恩人達の為に…どうもありがとうございました。』

『い、いいえ。全員を守れなくて…ごめんなさい。』


 互いに頭を下げている美緑と兎針。


『ここにはどれだけの人数がいるんだ?。』

『ここの更に下に、樹木を編んで作った地下空間があるわ。そこが一応避難所になっていて地上も含めると…鳥系の種族が約200。獣系の種族が約300。虫系の種族が約500。植物系の種族が約400。で、更に少ない少数種族が約100。全部で大体1500体前後ってとこね。』

『約1500…。』

『戦力として数えたらダメよ?。女性や子供、老体が1000。戦えるのは、500体くらいよ。けど、私は彼等を戦場に立たせることは考えていない。』

『そうか…避難民だもんな。その考えは俺も同感だ。これは俺達の戦いだからな彼等は巻き込まれただけだし。』

『そうよ。やっぱり閃もそう考えるわよね。』

『じゃあ、相手の戦力は?。』

『少なく見て…1000倍ってところかしら。』

『せっ…。』


 戦力差が絶望的なんだが…。

 

『絶望的でしょ?。更に言うなら私達は相手の能力すら分かっていない。…まぁ。それは向こうも同じだろうけど…。私達が分かるのは、相手の主戦力が8人。王に仕える切り札が2人。巫女が1人。ああ。この巫女の娘に姉がいたわね。それを入れて2人か。で、最後に王と女王。全部で14人が注意しなければならない敵ね。』

『14体か。』


 対してこっちは、

 俺、夢伽、詩那、兎針、奏他、八雲、燕、美緑、光歌、美鳥の10人か…。

 

『ちっ。おっさんと別れるんじゃなかったぜ。』

『ぼやかない。気持ちは分かるけど。これでもアンタが来てくれて私は助かったと思ってるんだけど?。』

『まぁ。嬉しいが今の俺じゃ何処まで出来るか分からねぇぞ?。能力も使いこなせていないのが現状だからな。』

『それでもよ。しかも、仲間も集めてきてくれた。私等3人じゃ手詰まりだったもの。』


 確かにそうだよな。

 むしろ良く3人で持ちこたえてたよ。


『正直、詰んでたわ。逃げる計画まで考えていたくらいに。』

『逃げる計画?。』

『ええ。閃達が入ってきた細道よ。まぁ、それは後で説明するわ。今は閃と合流出来たことを喜びましょう。』

『お前はどう考えてるんだ?。これからのことを。』

『そうね…。』


 光歌が額を人差し指でトントンとつつく。

 マジで真剣に考えている時の仕草だ。


『敵は間違いなく攻めてくる。これは決定事項ね。その上で、私等が一番されたくないのは、物量に物を言わせた戦力でのここ…拠点の侵略。それと、戦力を分断されること。』


 そうだろうな。

 敵は1000倍の数の戦力だ。敵がその差を利用しないわけがない。


『これは敵も当然考えているわ。』

『何か手を打ってるのか?。』

『ええ。美緑の植物を使ってこの拠点の周囲を囲むように巨大な溝を掘ったわ。幅50メートル、深さ100メートルくらいのね。最新部には硬くて鋭利な剣山みたいな植物を敷き詰めた。落ちても即死する高さ。落下で死ななくても串刺し。古典的な罠だけど無いよりはマシってレベルで考えておいて。』

『時間稼ぎか。』

『そ。敵は鳥族や虫みたいに飛べる奴等もいるから過信はできないのよ。』

『だな。』

『敵の切り札は間違いなくあの大樹よ。私達が勝つには、あの大樹の支配権を美緑が奪うことがカギになるわ。』

『あの大樹か。』


 エーテルの影響は、そこに住む生き物に影響を及ぼしている。肉体も自然に強化されているだろう。

 確かに【樹界神】である美緑が大樹に直接触れれば支配権を奪えるかもしれない。


『私等が勝つには敵の戦力を倒しつつ美緑を大樹へ接触出来る距離まで運ぶこと。そうすれば、美緑がこの地を支配できる。他人の能力の発動すら封じることが出来るわ。』


 仮想世界での世界樹と同じことが出来るってことか。神が最初に世界樹を狙ったのは、戦力の分断と通信の阻止。そして、支配エリアの解除が目的だったからな。


『簡単にはいかないよな。』

『ええ。考えたくないけど、色々なパターンの戦略を練ったわ。けど、敵の能力が分からない以上、殆ど私の空想と妄想。この状況で考えられる敵が持っていたら最悪だと思う能力をピックアップして練った作戦。もちろん、おじさんの 箱 みたいな能力とかそもそもが規格外の能力を持っていたら、こんな作戦無意味だけどさ。無いよりはマシってとこ。』


 光歌が数枚の紙を手渡してきた。

 光歌の予想した敵の能力は主に仮想世界での緑龍絶栄のメンバーの能力を参考にしているようだった。

 追加で、緑龍には無かった能力がちらほら。

 ああ、確かにな。

 倒しても再生する死なない兵隊。こんなものが来られたら防衛だけで手一杯になるな。

 あとは、兵士に無限にエネルギーを供給出来るとかか…。

 そして、仮にその能力を敵が持っていた場合の行動パターンが書かれていた。


『だが、どの作戦も避難民を守りながらだとかなりキツいな。それに…。』


 この紙に書かれている内容は…。


『ええ。ただの時間稼ぎよ。言ったでしょ。詰んでたのよ。私達に出来るのは避難民を緑国の外に逃がすことだけ。その方法も一応は考えて実行しているんだけどね。まだ、数日時間が必要なのよ。』

『具体的に何をしてるんだ?。』

『閃達が通って来た道は敵の目を引くのに用意したの。通れるのは、あの道だけで他は深い溝。誰が見てもあの道に注意が向くでしょ?。本命はその地下。ここの地下空間から外に伸びるトンネルがあるのよ。』

『そこから、避難した奴等を逃がしているってことか。』

『ええ。けど、1500人なんて簡単に移動出来ないじゃない?。緑国の外は未開の地。住める環境すらないんだし。少しずつ移動させて住める環境を作る。それしかないのよ。』

『そうか…。』

『現状敵がいつ襲ってくるか分からないから出来る限り急いでいるの。明日かもしれないし。明後日かもしれない。もしかしたら…。っ!?。はぁ…最悪なんですけどぉ~。』

『っ!?。マジか…。』

『閃さん…。これ…は…。』


 光歌の言葉が止まる。

 銀色の猫耳がピクピクと動き、尻尾が立つ。

 美緑も気付いたみたいだ。話の途中だって言うのに…。

 

『先輩?。』

『お兄さん、どうしたんです?。』


 突然立ち上がった俺達に詩那と夢伽が戸惑いの声を上げる。


『敵が…来た…。』

『っ!?。』


 俺の言葉に全員に緊張が走った。


『くそっ。まだ早いっての!。くっ…仕方がない。美鳥は避難民の誘導を急いで。』

『はい。分かりました。』


 この場にいた虫族を連れ美鳥が部屋を出ていった。


『お前達も頼む。手伝ってやってくれ。』

『はい。お兄さん。』

『分かりました。』

『うん。閃君。』

『うん。先輩。』

『頼む。』


 夢伽、詩那、兎針、奏他に美鳥の手伝いを頼む。


『八雲。戦闘準備をして俺についてきてくれ。』

『はい。神様。』


 両腕に板状の武器を装備した八雲。


『美緑は、植物を使って現状の把握。逐一報告して。』

『はい。』

『美緑。来い。一緒に行くぞ。』

『はい。閃さん。』


 美緑は俺の肩に乗ると、意識を集中させる。

 周囲の植物の意識を繋げているようだ。


『光歌。ラディガル。八雲。行こう。』

『ええ。』

『ああ!。主様!。』

『はい。』


 俺達は地上へ向かう。

 入り組んだ植物の通路を抜けると樹海の端へとたどり着いた。


 緑国は樹海以外の全てを手中に納めている。

 案の定、樹海との境に敵がいた。そして、俺達は驚愕することになる。


『馬鹿な!?。』

『そういうので来るのね…。参ったわ…。』

『閃さん…。この世界に…。何故…。』

『神さま。けど…あれ、機械じゃないです。』


 地上に出た俺達の前に立ちはだかっていたもの。それは…。


『マジか…。ヘリまで出てくんのか!?。』

『それに…戦車まで…。何処の軍隊よ!?。』


 空気を振動させながら回転するプロペラ。周囲へ豪風と暴音を撒き散らせる。

 木々に紛れる為か迷彩柄に施されたヘリコプターだ。

 そして、地上をけたたましい音と共に木々をなぎ倒しながら突き進む戦車。

 

 その数はヘリが6機。戦車が10機。

 緑国はとんでもないモノを用意してやがった。


ーーー


 女王は戦場の全てを見通している。

 美しい容姿とは裏腹に、殺戮を楽しもうとする死神の笑みが閃達へと向けられていた。


『さぁ、異神達よ。開戦と行きましょう。私の神具【樹装軍隊 デバッド・ヴァルセリー】がお相手します!。精々、楽しませて下さいな。』


 女王 エンディア・リーナズンが牙を向く。

 開戦の狼煙が今、上がる。

次回の投稿は5日の日曜日を予定しています。

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