表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
219/424

第205話 情報共有

ーーーメインコンピュータールームーーー


『すまなかった。』


 おっさんに頭を下げられた。

 理由は、だいたい想像がつくが…まったく。

 普段はだらしないのに、こういうところは几帳面というか、責任感が強いというか。


『僕が早々に退場してしまったことで、皆に多大な重荷を背負わせてしまった。』


 仮想世界での俺達、クロノ・フィリアと神々との戦い。リーダーとしての責務を全う出来ず戦いの早期に殺されてしまったことを悔やんでいるんだろう。


『気にするなよ。あの戦いは神の勝利が決定していたようなもんだ。力の差は歴然。リスティナも退場した。最初から俺達に勝ち目は無かったさ。結局、全滅しちまったからな。』


 おっさんもクロノ・フィリアの全滅には気付いている。

 神王の力は絶対的だった。仮想世界での戦力では勝ち目のないこと。クロノ・フィリアの敗北は結果として見えていたんだろう。

 おっさんが神王と戦ったからこそ、結果を察してしまったんだと思う。


『実際、他の皆もおっさんに責任を取らせようなんて思ってないと思うぞ?。あの戦いは、皆もいっぱいいっぱいだったからな。そんなこと考える余裕すら無かっただろう。』

『だが…。いや、よそう。これ以上は皆にも申し訳なくなるね。』

『ああ。俺達に出来るのは神の野郎共をぶっ飛ばして、また皆で暮らせる毎日を取り戻すことだけだ。』

『…簡単には、いかないだろうね。』

『まぁな。』


 おっさんはモニターとの睨めっこを再開した。


『…閃君。君がこの世界に来てからのことを聞いて良いかい?。』

『良いぜ。』


 そのつもりでここに来たからな。

 

 俺は目覚めてから、この地下都市に来るまでの経緯を説明した。

 

『へぇ。そんなことが。じゃあ、閃君がこの世界に来てからまだ一週間も経っていないんだね。』

『ああ。そうだ。』

『僕が目覚めたのは今から半年くらい前なんだ。』

『半年…おっさんが神に殺されたのは俺達より早かったが…そんなに時間が違うのか。』

『どうやら仮想世界とこの世界では時間の流れ方が違うらしい。けど、最後に神に殺された閃君が、この前転生したとなると…単純な話、殆どのメンバーは半年以内にこの世界の来たということになるね。』

『そうだな。…んん。じゃあ、睦美や黄華さんや基汐はもっと前ってことになるよな。』

『うん。もしかしたら1年以上前かもしれない。無事だと良いんだけど…。』


 ああ。心配だ。早く見つけないと。


『閃君は今どんな能力を持っているんだい?。前は神具を使わずに他人を治療する能力は持っていなかったよね?。』

『ん?。ああ。そう言えば。俺が覚醒したのをおっさんは知らないんだよな。』

『覚醒?。』

『仮想世界での話なんだが。』


 仮想世界で俺は【観測神】へと覚醒したことを伝える。

 俺の中に流れる2つの神のエーテル。

 【絶対神】と【創造神】。

 そして、俺自身のエーテル。その性質は、【存在の有無】。対象の存在を消滅させたり復活させたり出来ることだ。

 要は、絶対神と創造神の良いとこ取りのような能力だ。


『観測の神か…。』

『この名前も神が話しているのを聞いただけだから詳しいことは俺も分からない。神達でも、その存在を知っている奴と知らない奴がいた。少なくとも、神王のクラスは知っているみたいだったな。』

『王と女王か。能力を使用して気を失ったということは、まだ、コントロールは出来ていないのかい?。』

『まぁな。創造神の…リスティナのエーテルの扱いには大分慣れてきたんだが、絶対神のエーテルは扱いが難しくてな。それに創造神のエーテルと違って練習のように何度も使える能力でもないし。』


 絶対神の性質は消滅の力だ。

 おいそれと使う訳にはいかない。


『成程ねぇ。』

『次はおっさんの番だぜ?。今まで何してたんだ?。』

『うん。目覚めた僕は、まずこの世界のことを調べ始めた。僕の能力は知ってるだろ?。空間転移を繰り返して最初に情報を集めたんだ。残念ながら仲間達にはまだ会えてないんだけどね。閃君達が初めてさ。』

『何で人族の…この場所に居たんだ?。』

『閃君達が燕ちゃんを探していた理由と同じだよ。閃君は人族だったからね。何か有益な情報を持っているかもしれないと思って探していた。あまり良い話じゃないけど。人族は他の種族にとって使い勝手の良い存在らしい。奴隷にしたりするね。情報を集めるのに苦労はしなかったよ。』


 腹立つ話だが、人族の扱いが酷いのは理解できている。きっと、他の国にも助けを求めている人族が沢山いるんだろうな。


『閃君ならもしかしてと思った訳。僕がこうして転生しているように他のメンバーも転生している可能性が高かったし、フットワークの軽さなら閃君が一番かなって考えてさ。まず探すなら閃君だと思ったんだ。』

『じゃあ。おっさんの計画通りに事は進んでいる訳だ。』

『そうだね。燕ちゃんにも会えたし。1日で仲間2人に会えたのは運が良かった。』


 どこかホッとしているようなおっさんの態度。普段はだらしなさが目立つが責任感の強さは、やっぱリーダーなんだと実感させられる。


『おっさん。確認だ。一応俺達の現状を照らし合わせようぜ?。』

『ああ。そうしよう。これからの事も考えたら世界のこともそうだけど、自分達に起きている状況を知っておく必要があるね。』


 俺達の現状。

 俺達の持つ能力は明らかに仮想世界にいた頃とは変化している。


『おっさん。俺はこの世界に来て魔力ではなくエーテルを扱えるようになっていた。おっさんはどうだ?。』

『同じだよ。それに人間の時のように心臓が鼓動していない。心臓の代わりに別の何か…そう。神々が持っていた核と同じものが心臓だった位置にあるんだ。』

『やっぱ同じだな。次だ。ステータス画面、アイテムBOX、スキル、神具が使えなくなった。』

『うん。その通り。同じだよ。』

『扱えるのはエーテルを利用したことで仮想世界の時より強力になった種族スキルだけだ。同じか。』

『同じだね。』

『そうか…。そうだよなぁ…。』


 俺とおっさんの身に起きたことは同じ。

 後で燕にも確認してみるが、燕も同じ状態なら他のメンバーの身にも同じことが起きていると考えて間違いないだろう。


『アイテムBOXを失ったのは辛いね。思い出のアイテムが全て失くなってしまった。』

『だな。ゲーム時代からの思い出のアイテムもあったしな…残念すぎる。』


 灯月達から貰ったモノも失くなっちまったしな。


『ところで閃君は女の子の姿になれるのかい?。』

『ん?。ああ。なれるぞ。俺のは人族固有の種族スキルだからな。』


 俺は女の姿に変化する。


『ああ。懐かしいね。またその姿を拝めるなんて!。南無南無南無南無。』

『拝むなっ!。ったく。終わり終わり。』


 俺は男の姿へ戻った。


『ああっ…残念。』

『言ってろ。で、それがどうしたんだ?。言っとくが神具が失くなったからな、女になるメリットが本当に正体を隠すくらいしか失くなったぞ?。』

『いや、燕ちゃんがここに居たから頭に過ったことなんだけど。代刃ちゃんの【男性化】は種族スキルじゃなかったでしょ?。』

『あ…。』


 そうだ。

 アイツの男になれるスキルはモンスターを倒して手に入れた素材を利用した獲得スキルだった…。じゃあ。代刃はもう…。


『うわっ…。これ、燕泣くぞ…。』

『伝える役目お願いね。』

『何でだよ!。おっさんが言えよ!。』

『おじさん。女の子が傷付くところ見たくないんだ。』

『俺だってそうだって!。』

『ごめんね。無理。』

『てめぇ…。………はぁ。分かった。それとなく伝えとく。』

『頼りになるなぁ~。』

『うぜぇ…。』イラッ!。


 おっさんに腹立ちながら俺は話を進めることにした。

 けど、こんなやり取りもどこか懐かしさを感じてしまっている自分がいるんだよなぁ。


 燕には、それどころじゃない話だけど…。

 はぁ…。傷付くだろうなぁ…。

 俺に出来るのは慰めることぐらいか…。

 せめて、本人が居てくれたら良かったんだが…。


 などとグダグダ考えながら口を開いた。


『おっさんはこれからどうするつもりなんだ?。俺的には一緒に行動してくれると有難いんだが?。』

『そのことなんだけど。2手に分かれようと思う。さっきも言ったけど僕は…黄華さん達を優先で探したい。はは…改めて言葉にするとリーダー失格だな…。』


 自虐的な笑いをするおっさん。


『はぁ…らしくねぇなぁ。』


 一応、元気付けたつもりだったんだが…おっさんの中では吹っ切れていないらしい。

 けど、おっさんがこんな風に弱音を見せるのは俺と黄華さんくらいだし信頼はされてるんだろうな。


『おっさんは、とっとと大切な人達を見付けて、他の仲間を探せば良いんだよ!。』

『閃君…。そう…なんだよね。いや、いつまでもグチグチ言うのもカッコ悪いな。ありがとう。励まされた。すまないね。弱音はこれまでにするよ。』

『ふっ。ああ。あと…。』

『ん?。』

『無華塁は俺が先に見つけるからな。』

『っ!?。はは、はははは。そうか。そうだね。その方が無華塁ちゃんも喜ぶよ!。』


 まぁ。無華塁にしてみたらどっちでも嬉しいって言ってくれそうだが。


『さて、そろそろ、この世界のことを話そうか?。閃君はどこまで調べているんだい?。』


 俺はムリュシーレアに聞いたことを説明する。


 この世界がリスティールと呼ばれていること。


 ・赤国 レディ・アッドレス

 ・青国 ブリュセ・リオ

 ・緑国 グレブ・リーナズン

 ・黄国 イセラ・エシルローナ

 ・紫国 パリーム・プルム

 ・黒国 ブセエル・ラック

 ・白国 ホシル・ワーセイト

 の七大国家が覇権を握る為に牽制し合っていること。


 【紫雲影蛇】のメンバーは前世の記憶を取り戻し仲間になってくれている可能性があること。


 そして…リスティナが敵かもしれないということ。

 絶対神と共にこの星の監視を行い、俺達に戦いを仕掛けてきていること。

 この星の住人に絶対神は異神である俺達の排除を命じた。その絶対神とつるんでいるリスティナ。敵と考える方が自然だろう。


『何より、俺達の仲間の1人が捕えられているらしい。誰かは分からない。』

『…思っていたより深刻、最悪に近いかもしれないな…。』

『その通りだ。リスティナは神の居城と呼ばれる場所にいるらしい。しかも、そこに行くには何かの条件をクリアするしかないとも言っていた。』

『…神の居城か…。七大国家に秘密がありそう…かな?。』

『多分な。明確に神の野郎が力を貸している存在がいるんだ。何かあるんだろう。』


 イグハーレン…神眷者達がこの世界にいる以上、敵と考えるのが妥当か。

 そして、神の居城…。何処にあるんだか。

 捕まってるって仲間も早く助けてやらないと…。


 はぁ…問題が山積みだ。


『…閃君は、人族が住む場所で目覚めたんだよね?。』

『ん?。さっき言った通りだ。だが、俺が目覚めた時にはもう皆殺しにされちまった後だったが。』

『彼女達もそうかい?。』


 夢伽達のことか。


『そうだ。夢伽と詩那は人族の里。兎針は虫型のモンスターの小国らしい。奏他は白国の支配下にある小国だと言っていた。』

『ゲーム時代に与えられた種族が住む場所で目覚める。間違っていないようだね。』

『ああ。そうだ。で、仮想世界から来た連中にも特長…いや、ルールのようなモノがあったんだ。』

『ルール?。』

『これも確証が取れた訳じゃないんだが、仮想世界で【限界突破2】のスキルを持っていた俺達のような存在は、記憶・種族スキルはそのままにエーテルによる強化が与えられた。』

『さっきの話だね。』

『ここからだ。俺達はリスティナの魔力の影響を受けていた。リスティナの魔力は俺達と心の繋がりを持った人間に伝染するとリスティナから聞いたよな?。それは【限界突破2】のスキルの有無は関係ない。そして、影響を受けただけの人間はエーテルは与えられず記憶、種族スキルのみを持って転生している。』

『じゃあ、ゲーム時代のままってこと…だね。』

『ああ。そして、リスティナの影響を受けずに転生した奴等は種族スキルのみを残した状態で転生する。』

『そう言うことか。彼女達の転生の違いか。』

『その通り。実証例が俺の周囲しか居ないから確証が取れないがな。』

『いや、有益な情報だよ。ありがとう。』


 もちろん、今話したことが全てでない可能性もある。


『おっさんは何処で目覚めたんだ?。』

『それが…ちょっと説明が難しいんだけど。僕は【虚空間】という何もない空間の狭間で目が覚めた…いや、自我が覚醒したと言った表現に近いか…。』

『どういうことだ?。』

『僕は虚空間という空間そのものだった。意思というものは無く、ただ、そこに ある って感じの存在。時折、この世界に干渉し不特定多数の物質が流れ込んでくる。そして、虚空の中に取り込んだモノを吸収し僕の腹が満たされる。』

『何だそれ?。突然、現れて無差別に取り込んでいく空間ってことか?。』

『そう。あれは生物ではなく【現象】に近い存在だった。』

『それが、おっさんだったのか?。』

『そうだ。虚空間という現象そのものが【虚空間神】という僕だったんだ。』

『傍迷惑過ぎるだろ…。』

『ははは。その感想は予想してなかったよ。だね。この世界の住人達に聞いてみたんだけど、【七つの厄災】って呼ばれている1つみたいだ。』

『七つの厄災か…。』

『この事を踏まえての僕の仮説なんだけど、生物系統の種族を持つ仮想世界からやって来た者達は、その種族が住む国や里等の場所で目覚めるのに対し、僕や…多分、代刃ちゃんもそうだね。あと、無華塁ちゃんや裏是流君と賢磨もか、現象を操る種族を与えられた人達は…。』

『現象そのものになっている可能性が高いってことか。』

『そう。』

『どうやって自我を取り戻したんだ?。』

『僕は虚空間という現象だった。それは、この世界の何処にでも存在し、何処にでも接続・出現出来る現象なんだ。距離も広さも関係無い。この世界の全ての空間に起こり得る現象。ある時、世界各地で急激にエーテルが増大した。虚空間はエーテルすら取り込む現象だからね。自制が働くこともなく世界中のエーテルを吸収した。やがて取り込む量と吸収する量のバランスが崩れた時、余剰分となったエーテルが僕の意識を覚醒させたんだ。けど、完全にこの姿を取り戻すのに時間が掛かってね。まともに動けるようになったのは、実は、つい最近なんだ。1ヶ月くらい前かな?。』

『意識を取り戻したのが半年前で動けるようになったのが1ヶ月前か…。かなり時間が掛かったんだな。』

『ああ。大変だったよ…。空間そのものが再び僕を吸収しようと襲い掛かってくるし、自由に動けるようになっても今までと能力の使い勝手が違うから慣れないし…。』


 魔力からエーテルへと変化し、自らの身体も神に近付いた。今まで以上に強力になった能力を使いこなすには時間が必要なんだよな。

 俺も神力はまだまだだし。おっさんも苦労してるんだな…。


『現象になっちまってる奴等を探すのは骨が折れそうだな。』

『そこは手分けして探すしかないね。』

『ああ。そうだな。』

『取り敢えず、今掴んでいる仲間の居場所なんだが。』

『へぇ。そこまで分かっているのかい?。』

『まぁ、2人しかいないがな。しかも1人は確定じゃない。』

『それでも教えて欲しい。』

『ああ。瀬愛は紫国にいる。これはムリュシーレアから得た情報だから間違いはないと思う。』

『瀬愛ちゃんか…。早く合流したいね。』

『ああ。で、緑国には【樹界の神】がいるらしい。これは兎針からの情報だ。名前は分からなかったらしいが兎針に協力してくれたと言っていた。』

『樹界の神か…。美緑ちゃんかな?。』

『そうだと。俺は思っている。』


 もしかしたら、他のメンバーも既に何処かで集結している可能性もあるしな。


『最後に敵の共有だ。俺達に明確な敵意を向けているのは絶対神だ。まだ姿も見たことはないが。奴はこの世界から俺達を排除するために、リスティールに住む七大国家へ神の天啓という形で命令を下した。俺達、異神を殺せってな。』

『そして、その命を受けた七大国家の全てが敵と。』

『七大国家が支配する辺境等は各々の種族が暮らす小国が属国という形で連なっているらしい。兎針が目覚めた虫の国もそうだった。虫の国は緑国の中心から離れた樹海地帯にある小国だそうで、結構肩身の狭い暮らしをしているあしい。そういう小国は異神のことを救世主として崇めているらしいな。』

『………それは。もし僕達が目覚めたのが小国なら崇められ、七大国家直属の場所で目覚めるといきなり命の危険に晒される可能性がある。そういうことかな?。』

『考えたくはないがな。更に今回の件で神々は次の手を打っていることが分かった。』

『神眷者か…。』

『ああ。神々自身が直接選び力を与えた住人だ。イグハーレンはハールレンって神から力を授かったらしいな。ソイツ等も俺達の命を狙っている。』

『神々から直接与えられた力か。僕達にとって一番警戒しないといけない敵かもだね。』

『神聖獣、神具、神技、神獣化。エーテルを扱う奴等だ。要注意だ。』

『僕等が失った力を使ってくるだけでも厄介だね。』

『ああ。おっさんも気を付けてくれ。』

『分かった。』


 互いに無言になる。

 話すべき事は話した。情報の共有も済んだ。


『おっさんはこれから何処に向かう?。』

『僕は黄国に向かうよ。おそらく、黄華さんがいる確率が一番高いから。』

『そうか。俺は緑国に向かうつもりだ。他の仲間にも、会ったら宜しく言っておいてくれ。』

『もちろん。皆、閃君に会いたがってると思うよ。』


 黄国と緑国は地図によると人族の住むこの場所を境に正反対の場所に位置する。



『互いに仲間探しと行こうじゃないか。』

『ああ。またクロノ・フィリアの皆で集まろう。』


 クロノ・フィリアは仲間であり家族だ。

 また全員揃いたい。俺はそう願っている。


『じゃあ、俺は部屋に戻って休むよ。』

『ああ。お疲れ様。僕はもう少しここで機械と睨めっこだ。』

『守理達が扱いやすいように書き換えてるのか?。』

『そっ。当分の間、ここは彼等だけで守っていかないといけないからさ。』

『そうか。おっさんが居てくれて助かる。俺じゃ時間が掛かってただろうからな。』

『まぁね。こういうのは慣れてるから。』

『頼もしいわ。』


 俺は部屋に戻る。

 戻る途中、風呂上がりの女子達に遭遇した。


『先輩!。起きて大丈夫なの!?。』

『お兄さん!。大丈夫なんですか!?。』

『閃さん…良かった…。』

『閃君!。目が覚めたんだ!。』

『神さまぁ~。お目覚めになられて…。』


 燕を除いた全員に囲まれた。


『心配かけたな。お前達こそ傷は癒えたか?。』

『うん!。バッチリ!。』

『閃さんのお陰です。』

『傷1つありません。』

『先輩!。ありがとっ!。』


 神力の治療は上手くいったようだ。

 その後、俺達は部屋に戻り今後の話を始める。

 俺は緑国に向かうことを伝えると全員が同意。


『ウチは先輩についてくよ!。何処までも!。』

『わ、私もです!。お兄さん!。』

『同じく。です。』

『私も問題ないよ。』

『神さまと共に。』


 ああ。八雲は完全に俺達と同行するみたいだな。風呂で何かあったのか、随分と仲良くなってるみたいだし。


『燕どうする?。』

『私も一緒で良い?。元々、夢伽を探しにここに来たから。』

『ああ。勿論だ。助かるよ。』

『うん!。』

『ああ。それと、ちょっと話があるんだが後で時間を貰えないか?。』

『え?。良いけど?。何かあったの?。』

『ああ。燕にとって重要なこと…。あくまで俺の憶測だが、伝えておこうかと思ってな。』

『?。』


 夢伽達はどうしても俺と一緒の部屋が良いと言い張り、仕方なく全員で雑魚寝をすることになった。

 流石に、男の姿で寝るのも気が引けるので女の姿で寝ることにした。


 八雲は始めて見る俺の女の姿に目をキラキラさせて手を合わせていた。


 全員が寝静まったころ、女の子達に拘束されていた俺は静かに部屋を抜け出し燕に合う。因みに燕はちゃんと別の部屋で休んでいた。


 外で俺と燕は待ち合わせた。


『それでどうしたの?。閃さん?。』

『ああ。言いにくいんだが、代刃のことでな。』

『えっ!?。代刃君!?。もしかして、見つかったの!?。』


 うっ…。目を輝かせる燕。

 マジで、伝えないといけないのか…。

 いや…黙ってて代刃に再会した時に、いきなり事実を突きつけられるよりはマシなのかもしれないが…。

 辛いだろうな…。


『いや。違う。これから話すことは、あくまでも可能性がある。そういう話だと前置きした上での内容だ。』

『?。うん?。何?。』


 俺は意を決して燕に代刃の件を伝えた。

 俺達の現状を説明し確認した上で、代刃が持っていたスキル【男性化】が【種族スキル】ではなく、【獲得スキル】だということ。

 今の俺達は種族スキル以外が失われたということ。


『そ…そんなぁ…。じゃあ、もう、男の代刃君には…会えないの?。』

『可能性の話だ。俺達に起きていることを考えると…その…可能性が高い…。確定ではないが…こればっかりは再会してみないと分からない。』

『そ…そう、だね。うん。ああ。うん。その…事も…頭の中に…うん。覚えておく…ね。教えて…くれて…ありがと。閃…さん。ははは。ちょっと…疲れちゃったからもう寝るね。お休み。』

 

 フラフラとした足取りで燕は部屋へと戻って行った。


『…やっぱ、伝えるの辛いって…。』


 俺は誰も居なくなったのを確認し小さな声でぼやいた。

 まるで本物の星空のように輝く映像を眺めながら。


~~~


 3日が過ぎ。

 俺達の旅立ちの時が訪れた。

 この3日間の間、この地下都市の中心に位置する棟を守理達が運営しやすいように、おっさんが調整し説明した。

 暫くは、俺達の力を貸せない。

 守理達自身で人族のことを守っていかなければならないのだ。


『…と、まぁこんなところかな。そっちのページに詳しいことを、まとめておいたから分からないことがあったら見ておいて。』

『ああ。助かる。こういう機械に触れる機会がなかったからな。慣れるのに時間を有する。』

『なるべく簡単な操作にしておいたから、すぐに覚えると思うよ。』


 おっさんと守理が話している。


『夢伽。それに奏他。身体に気を付けよ?。』

『はい。睡蓮お姉さんも気を付けて。』

『また、会える日を楽しみにしています。』

『ふふ。ワッチもじゃ。それと…ちょい。耳貸し。』

『ん?。』

『何ですか?。』

『恋も頑張りんし。ワッチは2人の恋が実ること、応援したるよ。』

『っ!?。ひぇぇぇぇぇえええええ…。』

『わ、私は…まだ…その…。』


 あっちでは夢伽、奏他と睡蓮。


『悪かったな。羽を千切っちまって。』

『もう。治して頂きました。貴方の故意ではないことも理解していますので謝る必要はありませんよ。』

『ははは。そうか。すまねぇな。お前達には感謝してる。これからも大変だろうが頑張れよ。』

『ええ。貴方も。』


 こっちでは、兎針と憧厳が会話している。


『神さまぁ~。』

『代刃君…代刃君…。代刃君…。代刃君…。』


 ……………そっとしておこう。


『はぁ…。それと、どうしたんだ?。お前は?。』

『え?。な。何が…で、すか?。』


 朝から決して俺と顔を向けず、目を合わせない詩那。だが、その手は俺の服の裾を握ったまま放すことはしない。

 顔を赤らめ、チラチラと俺の様子を窺っている。その繰り返し。


 本当に何があったんだ。

 昨日まで普通だったんだが…。


『我が神。』

『ん?。ああ。守理。これから大変だろうが、お前なら乗り越えられる。頑張れよ。』


 守理の首には水色の宝石がさげられている。

 おっさんが特別に守理と俺に渡してくれた特別製だ。

 おっさんの力を封じ込めた魔石。

 旅をし動き回る俺に対し、守理側から転移するには相当の座標制御技術とエネルギーが必要だという。

 よって、守理の持つ魔石は送信機能のみ。1度だけだが本当にピンチに陥った場合に人功気を込めることで、守理側から救援要請の信号を受け取ることが出来るのが俺が持っている魔石だ。

 俺の魔石はエーテルを込めれば守理の持つ魔石のところまで転移することが可能。それも1度だけだ。


『何かあれば呼んでくれ。文字通り飛んで来るから。』

『頼もしいよ。けど、それは切り札ということにさせてもらう。1度しか使えないしな。』

『ああ。使わないで済むことを祈ってるよ。』


 守理は頭を下げる。


『この度は、本当にありがとう。貴方の未来に幸があることを力不足ながら願っている。』

『俺もだ。人族を頼むな。』

『…了解した。』


 こうして、地上へ向かうエレベーターへと乗り込む。

 次の目的地は緑国だ。

 途中で地上に住む人族を地下都市へと導きながら…。

次回の投稿は22日の日曜日を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ