第203話 合流
結果から話すと俺とフードの男との戦いは5分にも満たなかった。
エーテルと人功気を操れるようになった俺に対し、人功気しか操れない奴とでは戦力的にも差がありすぎた。
全力の俺との戦いを望んだ奴の願いを聞き届け現段階で用いる全力を出した。
結果、勝ったのは俺だ。
それが動かぬ事実だった。
だが、奴は強かった。そう思わざるを得なかった。
肉体の強化による打撃の速さと固さ、俊敏で素早い動き、高い耐久力と回復力。速い反射神経と適応力。勘も良く、頭の回転も速い。
同じ徒手空拳同士の俺との戦いは、接近戦。
乱打戦の中で互いの動きの読み合いとなった。
それは、互いの動きを予測し合い決定打を狙う戦い。
奴の強さは仮想世界での俺の【神化】状態と同等くらいの実力だ。
今の常時 神 となった俺には一歩届かない。
そして…決着。
奴の体勢を崩し拳を振り下ろす。顔面横の地面を抉った。
『終わりだ。』
『はぁ…はぁ…はぁ…ああ。俺の負け…だな。満足だ。俺の全力は貴方に届かなかったようだ。』
全てを出し尽くし大の字で横たわる男。
フードは破れ、その顔が露になっている。
乱れた息は戦いの激しさを物語る。
『ふっ…。』
流石に疲れたな。
俺はその場に座り込む。
それを見ていた八雲が俺に近付きコップに入った水を手渡してきた。
『あ、ありがとう?。』
『はい!。神さま!。』
何か嬉しそうだな…。
てか、コイツの扱いどうしよう…。
『ゆっくりしていて良いのか?。貴方の仲間の元へ急がずに?。彼女達が戦っているのは睡蓮と憧厳だ。チラリとしか確認していないが彼女達では【人型偽神】に敵うまい?。』
『ああ。問題ないさ。向こうの戦いも終わったようだ。皆生きてるぞ。俺の仲間…心強い助っ人が参戦してくれたからな。勝負は俺達の勝ちみたいだ。』
『っ!?。凄いな。俺ですら感じられない距離のことも分かるのか?。』
『エーテルと人功気の合わせ技だな。この地下都市くらいなら知っている気配を探せるようになった。まぁ…その分、疲労感が半端ないが…。』
まさか、無凱のおっさんと燕が助けてくれるとは…借りを作っちまったな。
エーテルで周囲を確認しながら戦っていた最中、2人の魔力を感じ取れたからな。正直、助かった。
『そうか…我々は負けたのだな…。異界の神…噂以上の強さだった。』
『…なぁ。お前の名前を聞いて良いか?。』
『名前…か。そんなものは、与えられなかったな。』
『どういう意味だ?。』
『言葉通りの意味だ。俺は物心つく前に奴等に拐われたらしくてな。小さな時の、古い記憶でも既に戦場を駆けていたくらいさ。戦闘技術を骨の髄まで叩き込まれ。徹底的に鍛えた人族が他の種族にどこまで通用するかの実験とか言っていたか。そうだな。強いて名前と呼べるモノがあるとすれば【番号0027】と呼ばれていた。まぁ…今では番号で呼ばれていたのは俺だけになってしまったがな。』
力無く笑う男。
『奴等の教えは人族は神に愛されている種族。神の教えは絶対。人族を守り他種族を倒せば神はその姿を現し俺達の願いを叶えてくれるとか何とか教えられて育ったよ。意味分からねぇだろ?。そういう、お前達は普段から神の加護を何故得られないっ!。とか言いながら愚痴ってんのによ?。』
見たところ男の年齢は17~20の間くらいか。
中性的な顔立ち。身体の線は細い。身長は170センチくらい。
コイツが子供の頃から奴等は動いていたということだ。
少なくとも10年以上前から…。
『奴等は頭のネジが外れてんのさ。そして…最近になって異界の神が世界を滅ぼしにやってくる。異神に対抗する戦力を生み出さなければ、とか言い始めて、この【人功気】の実験が始まったのさ。何人もの人族が実験の犠牲になり、最後に残った成功作が俺達3人だった。』
『そうか…なぁ。お前は…これから何をする?。もうお前を縛る奴は居ないだろ?。』
イグハーレンは、もうここには居ない。
機械による呪縛もない。
実質、コイツは自由になったわけだが。
『なぁ…。貴方は、神…何だよな?。』
『神か…と聞かれてイエスと答えられる程情報を俺は持って無くてな。実際のところ、今は神の力の一端を使える人族と言った方が正しい。』
『はは。あれだけの力を持っているのにか?。いや、十分だ。なぁ。俺に名前をくれないか?。貴方になら委ねても良い。』
『名前か?。名付け…あんまり自信はないが…。』
もうコイツを番号で呼ぶ者はいない。
コイツが俺にそれを望むなら…。
そうだな…。これからコイツは…。
『守理…何てどうだ?。』
『…守理か…。ああ。良いな。これからはそう名乗るとしよう。ついでに…っと言って良い分からないが…俺はこれからどうすれば良いと思う?。さっきも話したが俺はずっと戦いの中にいた。そして…敗れた今、本当の意味で何も失くなってしまった。』
それはお前自身が決めることだ…と言うのは酷だろうな。
『お前は何をしたい?。』
『………俺に出来るのは戦うことだけだ。だが、それにも限界があることを思い知らされた。俺1人では難しいことも…。』
『なぁ。ここで暮らしている人族は、奴等の実験の為に集められたのか?。』
『ああ。そうだ。人数にして5000人。保護を理由に集められた。彼等は自分達が実験の道具だということを知らない。知らされていない。』
地上の人族は常日頃から外部の種族に怯えながら暮らしている。
そして…ここは、かなりの広さだ。
『ここは、今までイグハーレンが統治してたのか?。』
『ああ。決して表には現れず、機械に全てを任せる形でな。あそこに高い棟が見えるだろう?。あれがこの地下都市の中心で中枢だ。今頃、奴等は全員撤退しただろうがな。』
思うところがあるのか、守理は棟を眺めながら溜め息をした。
『奴等自体が10人程度のグループで、あの野郎とデブの2人で中心となって、ここにいる人族を集めていた。そのリーダーであるイグハーレンが貴方に敗れたんだ。切り札であった俺達も敗北。異神に人族の力が通じないことが証明された訳さ。奴等は人族から完全に手を退くだろう。』
筆頭だったイグハーレンはいなくなった。
地下都市の中心に聳え立つ黒い棟。
奴等は青国を裏切ってここにいた。
逆に青国以外と繋がりがある可能性は考えておいた方が良いか?。
『奴等は、他の国との繋がりはありそうか?。』
『分からない。だが、他の神眷者が別の国にいる可能性は、あるな。』
だよな…。
ここでのことは外部に流れている…と考えるのが妥当か。
『ここを、人族の保護場所にするって言うのはどうだ?。』
『ここをか?。』
『ああ。そして、お前が中心に立って人族を守っていく。お前の力は俺が認めているしな。』
コイツ等の力は奏他や、ここにいる八雲など、仮想世界から来た【異神】以外の奴等より強い。並大抵の奴じゃ敵わないだろう。
『地上じゃあ、まだまだ助けを必要としている人族が多い。ソイツ等を助け、保護する人族の国にするのはどうだ?。』
人族自体が数の少ない種族だ。
ここの広さなら今の3倍近くの人族が入って来ても余裕で受け入れられる。
幸いなのは、食べ物なども自給自足が出来ているみたいだしな。地下なのに広範囲に畑があり、魚などの養殖場も完備されている。
驚異的な映像技術で映し出されている星空。
昼間には人工太陽も昇るらしい。完璧な空調システム、天候の管理も完璧。植物の成長にも問題ない環境が作られ、地上にいるのと変わらない生活を送ることが出来る。
青国の技術力の高さが窺える。
『分かった。貴方がそれを俺に望むなら。ありがとう。俺にも生きる意味が出来た。俺は人族を守る。』
『ああ。何かあったら俺も駆け付ける。』
『はは…頼もしいな…。』
『詳しい話しは皆と合流してからにしようか。』
俺は守理を背負う。
エーテルと人功気を使いすぎたようだ。足元が覚束ない。
皆の気配を探りながら歩く。
フラフラな身体を八雲が支えてくれた。
複数の気配が集まっている場所がある。
夢伽達もいる。無凱のおっさんも燕もいるようだ。
『あっ!。先輩!。』
『お兄さん!。』
『閃君!。』
『閃さん!。』
俺の姿を見つけた4人が駆け寄って来た。
全員ボロボロだな。兎針なんて羽が千切れてる。何とか動ける程度に回復した、そんな状態だろう。
『皆…無事で良かった。助けに行けなくて、すまなかった。』
守理を下ろして俺も地面に座る。
限界だな。足に力が入らねぇ。
4人が心配そうに俺を覗き込んできた。
『夢伽、それ人功気か?。扱えるようになったのか?。』
『はい。睡蓮お姉さんの攻撃を受けたら使えるようになりました。』
『そうか。だが、使った後の疲労感が半端ないだろう?。良く頑張ったな。』
『はぃ…自分に出来ることをしました。けど…。』
『そんな顔をするな。それが大事なんだから。』
『はい。』
夢伽の頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
『奏他も良く夢伽を守ったな。』
『分かるの?。』
『ああ。そのボロボロの翼で夢伽を庇ったんだろう?。お前が夢伽を守ってくれて良かった。俺は助けに間に合わなかったからな。ありがとな。』
『閃さん…。うん。けど…守り切れなかった。』
『いや、無事に2人とも生き残ったんだ。お前が頑張ったから夢伽も無事だった。ちゃんと守ってるさ。』
『………ぅん。今度はもっと…強く…なる。』
『ああ、一緒に強くなろう。』
『うん。』
優しく頭にポンポンと手を当ててやる。
『兎針も頑張ったな。その羽、千切られたのか?。』
『はい。強敵でした。背中が物凄く。痛いです。』
『だよな。身体もボロボロで…アイツだろ?。あの筋肉を操作してた奴。』
『はい。私の能力が一切通用せず。助けが来なければ負けていました。』
『相性が悪かったな。けど、お前の性格なら詩那を守って戦ったんだよな?。良くやったよ。』
『…はい。その…と、ともだ…いえ、駄肉を守るのは仲間として当然ですので。』
『ははは。そうか。ちょっと待っててくれな。その羽も治してやるから。』
『はい。閃さん。私にも。お願いします。』
『ああ。良いぜ。』
差し出された頭を撫でる。
『先輩。ウチ…全然、役に立てなかった。蝶女に守って貰ってばっかりで…。うぅ…。足手まといだったよぉ。』
『詩那。けど、必死に足掻いたんだよな?。』
『うん。ウチだって友達を守りたかったから…けど。全然…駄目だったよぉ。』
『そんなことないさ。お前が居たから兎針も頑張れたんだ。それに人族のお前にも、まだまだ強くなれる可能性がある。一緒に強くなろうぜ。皆で。』
『ウチに…出来るかなぁ?。』
『勿論だ。誰よりも仲間を大切に出来るお前ならな。今よりももっと強くなれるさ。』
『っ!。うん!。ウチ…頑張る。』
涙を拭いながらも抱きついてくる詩那の背中を擦る。
激しい戦闘だったんだろう。
それは彼女達の様子と荒れた周囲の状況で理解できる。
仲間の助けがなければ、俺一人では守り切れなかったな…。
悔しいが、俺も…まだまだ…だな。
俺は助っ人の2人に視線を向ける。
『久し振りだな。2人とも。』
『そうだね。閃君も元気そうで良かった。』
『はい。またお会いできて嬉しいです。』
『そこに倒れている奴等を倒してくれたんだよな?。』
『ああ。そうだよ。頭の中に埋め込まれていた小型の機械に操られていたからね。取り出したんだ。そっちの女の子のも取り出しておいたよ。』
『私もです。私は破壊するだけでしたが。』
『いや、十分だ。今回の一件。コイツ等も被害者だからな。出来れば殺さずに済ませたかったから、助かったよ。』
機械を破壊し暴走を止めてくれた。夢伽達も生き残ったんだ。2人は感謝だな。
さて、俺達が居るのは街の中心だ。住民達は未だに混乱しているようだった。
ここじゃあ、ゆっくり話しも出来ないな。
『なぁ…おっさん。色々話したいことはあるんだが、ここじゃあ落ち着いて話しも出来ない。1つ頼まれてくれないか?。』
『ん?。何かな?。』
『おっさんの能力は仮想世界の時と同じか?。』
『そうだね。あの頃以上さ。』
『そうか。なら、あそこに高い棟が見えるだろ?。あそこが今回の首謀者がねぐらにしていた場所だ。首謀者は俺が倒した。恥ずかしい話、逃がしちまったけどな。もう奴はここには居ない。彼処に俺達を移動させてくれないか?。』
『へぇ。首謀者を。流石だね閃君。分かった。じゃあ、ちょっと残存してる敵が居ないか単独で確認してくるから少し待っていて。』
『ああ。頼む。おっさんが居てくれて助かった。俺だけじゃ時間が掛かったからな。』
『ん?。ああ。そういう。了解。 片付け もしてくるよ。』
『悪いな。』
『構わないよ。』
おっさんの姿が空間に消える。
【箱】を使わなくても能力が使えるのか…。
ますます、強くなってるな。
『さて、皆ここに集まってくれ。』
『ねぇ。先輩?。』
『ん?。何だ?。』
『気になってたんだけど。そっちの男はさっきいたから見覚えがあるんだけど…。そっちの女は誰?。知らない女なんだけど…。』
『私も気になってた。見ない顔だよね。』
『私には、見覚えがありますね。確か…青にいた…方。』
『ああ。そうです!。私も顔は見たことがあります。お話したことはありませんが。』
全員の視線が八雲に集まる。
兎針と夢伽は前世の記憶で知っているんだろう。
さて、何と説明すべきか。俺ですらコイツに関して良く分かっていない。
何故か信仰の対象を俺に移した以外は…。
『八雲。コイツ等は俺の仲間だ。自己紹介してくれ。』
『畏まりました。神さま。』
出会った時とは打って変わって、凄い従順だな…。
少し前に出た八雲が頭を下げた。
『初めまして。青国所属、八雲と申します。この度は、私の全てを捧げるべき存在である神さまに出会いまして身も心も捧げた次第です。皆様。今後とも宜しくお願い致します。』
『『『『『……………。どういうこと?。』』』』』
俺にも分からん。
『つまり…アンタは、先輩の…何なの?。』
『神さまに全てを捧げた信徒です。』
そうなの?。
『………どういう立場な訳?。』
『神さまの言いなりです。神さまに求められればどんなことでもやります。』
死ねと言われて迷いなく首を斬りつける女だしな…。
何か、こわいよぉ…。ヤンデレってやつか?。ちょっと違うか?。
『どんなことでも…。』
『はい。この心も身体も神さまのモノですので。』
このままだと。収拾がつかなくなるな。
『要は俺達の仲間になってくれるってことで良いんだよな?。』
『はい。神さまがそう望まれるのであれば。』
『そうか…だが、それは青国を裏切ることになるんじゃないか?。現にお前は創造神以外の神を信仰したイグハーレンを追ってきた訳だし。』
『創造神の力を使える神さまなら問題ないと思われます。ですので、裏切りではありません。』
『そんなもんか?。』
『はい。仮に裏切り者認定されても、私の心に決めた神は貴方様です。この心に揺るぎはありません。その場合は喜んで裏切ります。』
断固たる決意。
はい。これが裏切り者のイグハーレンを追ってきた奴の台詞です。
『はぁ…。』
何を言っても無駄っぽい。
『まぁ…良いや。そこで気を失ってる奴等を中心に皆集まってくれ。』
夢伽、奏他、兎針、詩那。
敵だった睡蓮、憧厳、守理の7人が集まる。
外傷のない燕と八雲は俺の後ろに待機だ。
こんな人数を一度にするのは初めてだな。エーテルを使い切りそうだ。当然、そうなれば俺は…。
『閃さん?。何をするの?。』
燕が聞いてきた。
ああ。そういえば、俺がリスティナの力を使えることは燕やおっさん達は知らないんだった。
『【神力】を使って傷を治す。リスティナの力を使ってな。多分、俺は気を失うと思う。おっさんが戻って来た後のことは八雲と守理に伝えてあるから、後のことは任せた。』
『神力…皆を治せるの?。』
『ああ。けど、俺はまだ神力のコントロールが出来なくてな。使うと気絶しちまうんだ。』
『そうなんだ。相変わらず凄いね。…うん。後のことは任せて。』
『ああ。頼む。』
俺は腕を突き出しエーテルを集中させる。
【神力】発動。
選択した結果は【全員の傷を癒し健康な身体へ戻す】だ。
エーテルが輝きを強くし周囲へと放出される。
神の願いは世界によって聞き届けられ、神の持つ特性を利用した結果に導かれる。
【創造神】の力により失われた箇所、血液、皮膚、肉、骨などあらゆるものが創造され修復されていく。
『凄い…。』
『神さま…凄いです。』
その様子を眺めていた燕と八雲が呟いた。
やがて、エーテルの放出は収束し静けさが戻る。
全員の完治を見届けた俺。
あっ…。駄目だ。意識が…。消え…。
そして、案の定俺は気を失った。
ーーー
ーーー燕ーーー
閃さんの神力で傷付いていた娘達と敵だった人達が癒えた。
凄い。前は回復系のスキルを持っていなかったのに、しかもリスティナさんのエーテルまで感じたし…どんどん強くなってる。
やっぱり、私達みたいな後から加入したメンバーより、元々のクロノ・フィリアメンバーはどこか違うんだよね。
強さに上限がないというか…限界がないというか。
『先輩っ!。』
『お兄さん!。』
『閃君!。』
『閃さん!。』
『神さま!。』
力を解放して倒れた閃さんの身体を彼女達が支える。
『ちょ…何で蝶女が頭なのよっ!。しれっと膝枕してるしっ!。』
『ふふ。早い者勝ちです。駄肉。閃さん…貴方のお陰で失った羽も元通りです。ありがとうございます。』
『先輩の頭を撫でるなっ!。ウチだってしたいのにっ!。』
『お兄さん…無事で良かったです…。』
『閃君は凄いね。何でも出来ちゃう。私達の魔力も体力も全部回復しちゃった。』
『はいっ!。お兄さんは凄いです!。』
『神さまぁ。寝顔も素敵ですぅ。』
『なっ!?。こら新参者!。何してるのさ!。』
『ん?。私のことか?。』
『アンタ以外に誰がいんのよ!。』
『見て分かるだろう?。風邪をひかないように体温で暖めようとしている。』
『羨ま…違う。ズル…違う。もうっ!。良いから退けし!。』
『従う理由がない。私は身も心も捧げた身。神さまの布団代わりにこの身を使って頂こうと。人肌を暖めるには人肌が良いと言いと聞く。』
『そんな貧相な身体じゃ無理じゃん!。ウチみたいなナイスバディの女の方が良いに決まってるし!。』
『むぅ。胸のことを言っているのなら、その喧嘩買う。』
『おう!。やるかぁ!。』
『加勢します。八雲さん。』
『蝶女っ!?。』
『さぁ。夢伽さんも此方へ。』
『ええ…私…まだ成長期だから…括られたくない…です。』
『っ!。………ぐはっ!?。』
『蝶女が吐血した。夢伽、強いね。』
『ええっ!?。そんな…。私は…別に…。』
『因みに、そこの…えー。奏他…だったか?。貴女も敵だ。大きい…。』
『いや…巻き込まないでよ。私は閃君の手でも握ってるからさ。』
『どさくさに紛れて何してるの!。』
『閃君の手…大きくて温かい…。』
『私も反対の手を握ります!。』
『では、私は再び頭を撫でましょう。はぁ…閃さんの髪は少し癖っ毛ですね。いずれ一緒にお風呂に入りたいものです。お背中を流して差し上げたい。』
『っ!。良いアイデアだ。…兎針…だったか?。』
『はい。そうです。』
『私もお供しよう。』
『ええ。一緒に閃さんを癒して差し上げましょう。』
『ええ。ええ!。神さまの為に!。』
『閃さんの為に!。』
『何か結託し始めたね…。』
『でも…お兄さんとお風呂は入りたいなぁ~。』
『夢伽まで…。』
閃さん…。
女の子に囲まれるのも変わってないなぁ。
この状況…代刃君達が見たら、どう思うかな…。灯月ちゃんとか…想像するだけで怖いんだけど…。
それに、私も早く代刃君に会いたいなぁ。何処に居るんだろう…。
『ん?。あれ?。ワッチは?。』
『うっ!。ああ…。俺は…。』
向こうでは気絶していた睡蓮と憧巌が目覚めたみたい。
『目が覚めたか。』
『あれま?。0027はん。久し振りに声聞いたわ。』
『その呼び方は止めてくれ。今は神に頂いた守理と名乗ることにした。』
『あれまぁ?。随分とすっきりした顔をしてんと思った。では、これんからは守理はんと呼ばせてもらおうかね。』
『…俺達が倒れて、お前がここにいる。そうか…俺達は負けたんだな…。』
『ああ。そうだ。異神は強かったよ。特に…。』
『あの嬢ちゃん達に囲まれている奴か…はは。手合わせしてみたかったぜ。』
『俺に名をくれたのも彼だ。俺は相手にすらならなかった。』
『そうか…なら、俺達でも無理だな。』
『モテんになっとるなぁ。女子にあれだけ好かれとってる。ふふ。ワッチも混ぜてもらおうかのぉ?。』
『やめとけ。やめとけ。見てみろ。あの嬢ちゃん達の目。こっちまで火の粉が来そうだ。』
『…そやな。ワッチは断然、夢伽を推すわ。』
『ふふ。火の粉で済めば良いがな。』
『……………。』
『……………。』
『……………。』
『はぁ…これじゃあ。俺達の身体を作る為に犠牲になった奴等に顔向け出来ねぇな。』
『そうやわな…。』
『その事でお前達に話がある。』
『何だ?。』
『何じゃ?。』
『詳しい話しは後で話す。だが、悪い話ではない。俺達の今後のことだ。神からの提案だからな。』
『あれま?。随分と御執心じゃのぉ?。』
『お前達の傷を治療してくれたのも神だ。俺は信じられる。』
『そうなんか?。それは、感謝じゃわ。』
『ああ。謂わば俺達を救ってくれたってことだろう?。あの糞野郎の洗脳からよ。』
『ああ。もう俺達を縛るものは何もない。』
『そうだな…。』
『ワッチも…救われたんですなぁ…。』
うん。何か上手くいきそうな気がするね。
『戻ったよ。…って、おやおや。閃君が寝てる?。いや、皆の傷が治っている…閃君が治したのかい?。』
無凱さんが歪んだ空間の中から現れる。
あの棟の様子を見終わったみたい。
『はい。神力で全員元通りです。』
『凄いな。それに…はは。女の子に囲まれているのを見るのは何だか懐かしい感じがするね。無華塁ちゃん達が、この様子を見たら取り合いになっちゃうね。』
『ええ。そうですね。同じことを考えていました。』
やっぱり、そうだよね…。
『閃さんはこれからのことを守理と八雲に話しておいたって言ってましたよ?。』
『そうかい?。まぁ、だいたい閃君の考えは分かるけどね。どれ、ちょっと確認して来るよ。』
そう言った無凱さんは守理。閃さんが背中におぶって来た男の人と一緒についてきた女の子に話を聞きに行った。
2人から話を聞いた無凱さんが私のところに戻って来る。
『うん。僕の考えとほぼ一緒だったよ。あの棟で休息だ。』
『さっき話していた 片付け って何ですか?。』
『ん?。ああ。あの棟には、さっきまで敵が住んでいた。敵のボスが倒されたことで連中は一斉に逃げ出した筈だからね。敵の痕跡を消してきたんだ。ついでに外部との繋がりも空間を歪ませて絶ち切っておいた。』
『ああ。成程です。閃さんはそこまで考えて無凱さんに頼んだんですね。』
『だね。【虚空間神】の僕なら一瞬だしね。』
『流石です。2人とも。』
『ふふ。そうかな。さて、閃君は僕が運ぼう。今、見てきた結論だけど。敵は完全に撤退したとみて間違いない。それと少し中を調べて来たけど、凄かったよ。この地下都市の運営を全て機械が行っているようだ。人の手が加わらなくても自動で人族が住みやすい環境を維持してくれるみたいなんだ。凄い技術だよ。』
『青国の技術ですか。侮れませんね。けど。一先ずは、安心なんですよね?。』
『うん。そうだね。それは保証するよ。全員で移動しよう。』
私達は無凱さんの能力で棟の中枢へ直接転移した。
そこは、凄い数のコンピューターが点滅を繰り返してる広い部屋。
機械に詳しくない私には、何が何だかちんぷんかんぷん。
けど、幾つも重なり並んでいるモニターには、この地下都市の様々な場所が映し出されていることから、ここで地下都市の監視を行っていたことは分かった。
『そこの角を曲がった所から居住スペースになってるみたいだ。僕は閃君を部屋に寝かせてくるから、皆も各々で休むと良いよ。奥には大浴場もあるみたいだから後で入っておいで。』
大浴場まであるんだ。
敵の人達。本当にここで生活してたんだ…。
無凱さんの話じゃ10人くらいって言ってたけど、凄く良い暮らしじゃない…。
私達が…どれだけの苦労を…あっ…駄目だ。泣けてきた。
私達は適当な部屋割りで決め自由時間とした。
暫く、部屋で寛いでいると遠くの方から声が聞こえた。気になって部屋から出ようとする。
ああ。そうだ。ついでに大浴場に行ってみようかな。
即断即決。大浴場に向かう。
通路に出ると、5人の少女が…。
夢伽。
そして、詩那、兎針、奏他…八雲。
彼女達との自己紹介は閃さんと合流前に済ませた。見事に仮想世界で絶大な力を持っていた六大ギルドと、それに負けず劣らずの戦力と言われていた紫雲影蛇のメンバーが揃ってる。
閃さん…これ、ギルドコンプリート間近じゃない?。
緑龍のギルドは美緑ちゃん達がいるし、黄華扇桜のメンバーは流石にいないけど。改めて、閃さんのモテモテ具合に驚いてるわ。
そんなことを考えていたら彼女達の話し声が聞こえてきた。
あれは閃さんの寝ている部屋の前だよね?。
その扉の前に行く手を阻むように詩那が陣取り、その前に立つ八雲………はて、小柄だけど形の良いお尻が見えるんだけど?。あれ?。もしかして…Tバックってやつじゃ…。上は…うん。白い下着が丸見えね…。何してんだか…。
『ちょっと、待つし。何処に向かってる?。』
『勿論、神さまのところだが?。』
『先輩は今、ウチ達を回復したせいで眠ってる。ゆっくり休ませてあげるべき。』
『そうでしょうか?。独り寂しく眠るより、人肌に触れながら眠った方が癒されると思う。それが女体なら尚更。』
『だからって、お前のその格好はどうなの?。』
『はて?。下着だが。何か?。』
『何か?。じゃないよ!。先輩に何する気さ!。』
『勿論、寝ている神さまと同じ布団に入る。そして、目覚めた神さまは…私と目が合うの…。じっと見つめるその瞳は力強くて情熱的なんだ。』
『え?。そ、それで…。』
『反応した…。』
『そして、回復した神さまは目の前にある女体を上から下まで眺めると我慢できなくなり。』
『ご、ごくり…。』
『聞き入ってる…。』
『私の身体を使い、欲望を発散させるのだ。それはもう激しく、溢れんばかりの欲望と欲情で私を包み込んでくれるんだ。』
『は、ハレンチだっ!。』
『この身体は神さまに捧げたモノ。何をしようが神さまの自由。私は全てを受け入れ喜ぶだけで良い。はぁ…はぁ…はぁ…。少し興奮してきた。神さまに私の初めてを捧げたい…いや、貰ってもらう!。』
『なっ!?。』
『ひぇぇぇぇぇえええええ。八雲お姉さんエッチだよぉ…。』
『凄い。行動力。見習わなくちゃ。』
『ははは…兎針も大概だね。』
『う、ウチだって初め………て、じゃないけど…。ああ…そうだ…あの馬鹿騎士達に…奪われて…ぐずっ…ぐずっ…。けど…。けど…。あ…ああ…どうしよう…ねぇ。兎針、夢伽、奏他…。先輩は、やっぱり…その…初めての娘じゃないと好きになってくれないかなぁ?。』
『ガチ泣き!?。』
『普通に駄肉に名前で呼ばれた…よっぽど大事なこと。みたい。』
『そ、その…私は、うぅ…私にはそういう話はまだ早いですぅ…。』
『いやぁ…その…私の部下が…本当にごめんなさい。』
『ふむ。どうやら事情があるようだな。貴女に少し興味が湧いてきた。身体を清める意味も込め、一緒に湯浴みに行こう。詳しい話はそこで聞く。』
『うん…。ウチ…。先輩に嫌われちゃうかなぁ…。』
『お兄さんは気にしないと思いますけど。』
『うん。詩那は閃さんを…自分が好きになった人を信じるべき。』
『うん。うん。信じる…。』
『はぁ…私がもっと早く行動していれば…。』
『奏他も気にしない。』
『う、うん。ごめん…。』
『では、皆で大浴場に行きましょう。』
ズラズラと大浴場に入っていく面々。
うわぁ…どうしよう…。
『時間…ずらそうかな?。』
嫌な予感と雰囲気を感じつつ、おずおずと大浴場へ入っていく私でした。
次回の投稿は15日の日曜日を予定しています。