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第202話 イグハーレン

ーーーイグハーレンーーー


 異神とは何だ?。


 我々の世界の秩序を乱し崩壊させる存在。

 …と、この世界の最高神は各国の巫女へ神託を授けられた。


 我が神が語った。

 神々が創造せし仮想世界。

 そこで、誕生した…いや、発生した神が異神。


 我が神に匹敵する力を持つ異神が40体以上、この世界へやって来るという…。

 恐ろしい話だと。私は思った。

 

 仮想世界で行われた神々と異神との全面戦争において神々は全ての異神を倒すことに成功した。しかし、その代償は大きく2柱を残し我が神【音響の神】ハールレン様を含めた神々は仮想世界で殺されてしまったのだと言う。

 偽りの身体であったが故に助かったらしいが…ハールレン様方を殺した神こそ、最高神である【絶対神】に並ぶ最高神の1柱。


 名を、【観測神】。


 ハールレン様が…神々が最も警戒する神の名だ。 


 その者の姿は、力を与えられた時に同時に脳内に焼き付けられた。

 見間違えることなど有り得ない。


 ハズレを引いた。

 そうだ。ハズレだったのだ。

 異神に対抗する力を研究し、やっと成功したと確信した矢先。まさか、試運転前に現れた異神が…その【観測神】だったなんて…。

 自分の運の無さを呪いたくなる。


 もし、他の異神だったのならこうはならなかったかもしれない。

 いや、勝てた。勝てたに違いないのだ。

 だが、よりにもよって。

 何故。私の前に立つ存在が…私を睨み、全身からエーテルと人功気を迸らせている最高神なのだ!?。


『普通の人間なら苦しみを感じる間も無く跡形もなく溶けて即死する猛毒なのに…。』


 私は混乱しながらそんな言葉を口にした。

 何を言っているんだ私は…目の前に立ちはだかる奴が普通の人間であるものか。


『普通の人間?。今、お前の前にいるのは…。最高神…【観測神】だぜ?。』


 人功気の性質、人体の各部性能の強化による驚異的な速さで高められた治癒力により、外傷が消えていく。


『へぇ。驚いたぜ。毒に対する免疫力まで向上したみたいだ。身体の痺れが消えた。』


 馬鹿な。馬鹿な。馬鹿な。馬鹿な。馬鹿な。


『き、君は…さ、さっきまで人功気を使っていなかったではないか…何故急に…。』

『ん?。まぁ、俺にも良く分からねぇんだが…そっちの殺気立ってる奴に殴られてから身体から溢れるようになったな。多少、扱いにくいがエーテルに比べれば簡単だ。すぐに慣れるだろうさ。』


 そんな…。他者のエーテルに触れたことがトリガーとなった…とでも言うのか?。

 それが事実なら私は…【観測神】を更に強くする手助けをしてしまったということ…ですか。


『ははは…はははははははははは…。』

『お前に勝ち目はない。降参しろ。命は取らないでおいてやる。その代わり、お前に力を与えた神の奴等の情報を教えろ。』


 私は…なんということをしてしまったのだ…。

 

 だが…。まだ諦めてはならない。

 何故なら。私の研究結果は全て見せた訳ではないからです!。


『くっ!。まだ…終われない!。』

『っ!?。そのスイッチは!?。』

『ふふ。彼等の頭の中には特殊な小型の機械が埋め込まれているのです。このスイッチを押せば、彼等は体内のエーテルを無尽蔵に…それこそエーテルが尽きるまで暴走状態となる!。』

『なっ!。』

『エーテルとは、人族のみが固有に持つ特殊な生命エネルギーです。当然、その力を解放し使い切れば彼等は死ぬ。惜しいですが。貴方を倒せるのなら、もう手段を選んでいられない!。』

『止めろっ!。』

『いいえ!。止めません!。絶対に、貴方を殺す!。』


 私はスイッチを押した。

 押した。押した。押した。研究が全て台無しになった瞬間です。

 ですが、これで異神を………。


『何も…起こらない?。』


 は?。

 確かに私はスイッチを押した。

 全員の視線が彼に集まる。


『無駄だ。』

『はい?。』


 無駄?。

 何を言って…いえ、それより何故、暴走しない?。


『お前達が俺の頭の中に埋めた機械ならここにある。』


 彼の手のひらに握られていた機械は確かに私達が彼の頭に埋め込んだモノ。


『な、何故…。』

『エーテルを放出し自己治癒を極限まで高めた状態で自ら取り出した。なかなか深く埋め込んだものだな…少しでも間違えば死んでいた。』


 自力で機械の支配から逃れたということか?。そんな馬鹿な…馬鹿なことが…。


『馬鹿なことがあるかぁぁぁぁぁあああああ!!!。』


 私は叫ぶ。

 しかし、現実は無情。

 既に最後の希望は絶たれ、眼前には絶対的な存在が立ちはだかっている。


『お前…コイツ等から自由になるために行動していたのか?。』

『………ああ。俺の目的はお前だ。コイツ等の意思ではなく。俺の意思で全快のお前…神と戦いたかった。』

『はぁん。だから、さっきの打撃。手加減してたのか?。』

『ああ。お前に気を流し傷と毒を癒そうとした。まさか、人功気を扱えるようになるとは思わなかったが…。』

『俺も驚いた。まぁ、俺も根本的なところは人族だからな。扱える可能性はあったんだろうさ。』

『そうか…。』


 私は…私は何の為に…。

 ハールレン様…。私は…どうすれば…。



 ならば、更なる力を授けましょう。



 心の中で、また声が。

 力を授かった時と同じく、あの方の…ハールレン様の声が心の中に響いた。


『ハールレン…様…うっ…ぁぁぁあああああああああああああああああああああ!?!?。』


 全身が痛い。

 

 裂ける。割れる。千切れる。折れる。伸びる。曲がる。軋む。剥がれる。削がれる。外れる。取れる。生える。交わる。

 

 そして…融合する。


 その場にいた 全て の蛇が私の身体に取り込まれた。巨大な大蛇も例外ではなく。神聖獣である大蛇を吸収し更なる高みへ私は昇る。


『何が起きて…。』


 ああ。素晴らしい…素晴らしい力だ。

 私は生まれ変わったのですね。

 ありがとうございます。ハールレン様。

 これで…私はまだ、貴方様の為に戦える。


『はぁ………。お待たせしました。戦いの続きを始めましょう。』

『馬鹿な…神獣になりやがった!?。』


 神具を手に…私は…いえ、私達が神を倒す!。


『【人型偽神】…お前達は失敗だ。私の手で神諸とも始末してくれるっ!。』

『………期待しないで待っている。』

『ああ。お前の相手は俺だ。来いよ。お前の手にした力、俺に見せてみろ。』


 どこまでも、私を舐めやがってっ!。

 

『しねぇぇぇぇぇえええええ!!!。』


 毒蛇の神剣よ!。異界の神を打ち砕け!。


『お前の全力確かに受け取った。だが、俺には届かない。』

『っ!?。ば、馬鹿なっ!?。片手で!?。』


 私の全エーテルを神剣に込めた一撃。

 猛毒を撒き散らし触れたもの、周囲のもの全てを溶解させる毒の斬撃。


 だが、しかし、彼は…神は…私の全力を片腕で受け止めた。


『ば…ばけもの…。』


 その瞬間。私の中で何かが崩れ落ちた。

 神への信仰。異神への敵対心。私自身の未来。今までの過去。

 私は…私の人生は…何の為に…。


『これで、終わらせる。』


 全身の力が抜ける。

 最早、抵抗すら諦めた私を神の拳が穿つ。


『ぐばぁぁぁあああああっ!。』


 神のエーテルが身体を破壊していく。纏っていた蛇達が次々に剥がされ神獣となった身体が朽ちていくのが理解できた。


『トドメだ。』


 霞む視界が捉えたのは、私にトドメを刺そうと拳を構えた神の姿。エーテルと人功気が渦巻くように集束し拳へと集まっていく。


『美しい…。』


 私は素直にそう思った。

 神を信じ、神に捧げた我が人生を…神の手で終わらせてくれる。

 こんなに素晴らしいことがあろうか?。

 そうか…これが神の思し召し…というモノですか…。


『はっ!。』


 放たれた拳はその衝撃だけでも周辺の地形を変える威力があった。

 背後の壁や建物は吹き飛ばされ破壊され。爆風にも似た衝撃があらゆるモノを巻き上げた。


 眼前に迫る拳。

 拳圧だけで自分の何倍も大きく感じた。

 当たれば死ぬ。

 即死だ。


 美しいエネルギーを纏い私へと迫る拳は、驚く程スローモーションに見えた。

 ゆっくりと流れる感覚の中で私は至極冷静に思考している。


 私は死ぬのか?。ここで?。何も成し得ていないのに?。神に選ばれたのに?。


 一度は受け入れようとした 死 という私の未来。だが、私は…。嫌だ。嫌だ。嫌だ。


 嫌だ。


 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。

 死にたくない。


 強く 死 を拒絶した。


 そして、響く声。

 頭の中に直接流れ込んでくる。


 良いでしょう。

 次に期待します。

 【神力】発動。

 

 イグハーレンよ。【逃げなさい。】


ーーー


 気が付いた時には、私は建物の間にある物陰に倒れていた。

 全身の傷は癒えており、痛みも消えている。

 

『夢だった…のか?。』


 そんな筈はないと思いつつも言葉に出していた。


『いいえ。我が神に助けられたのですね。』


 私の手には神具が握られている。

 そして、私の身体は無数の蛇が住み着く宿主となっているようだ。つまりは、神獣となったまま。

 この私の身体の一部となった蛇達は自在に操ることが出来るようで視界や思考も共有できる。


 あの時、確かに聞こえた我が神の声。


『そう…ですか…。私は…生かされた。のですね。』


 私には、まだ使命がある。

 神が私に命じた使命が。


『今回のことを…他の神眷者達に伝え対策を練らなければ…。』


 そうだ。そうです。私は…まだ…終わってはいない。


ーーー


ーーー閃ーーー


 俺の拳は直線上にあった全てを薙ぎ払い衝撃で吹き飛ばした。

 エーテルと人功気を合わせた拳。

 手加減したとはいえ、これ程の威力か…。

 さっきまで目の前にいたイグハーレンの姿はない。もとより、当てる気の無かった一撃だ。

 アイツは多くの人族を実験の為に殺してきた。ならば、その罪は死では軽すぎる。

 だから、俺は圧倒的力で奴の心を折ろうとしたんだが…。


『ちっ。邪魔が入りやがった。気持ち悪りぃな。』


 腕に絡み付いた奴の脱け殻を投げ捨てる。

 イグハーレンは俺の拳を避ける為に脱皮しやがった。

 

『お見事です。神さま。』


 八雲が俺に話し掛ける。

 てか、まだ居たのか?。


『で?。お前は何でまだ居るんだ?。今の戦いを見て分かっただろう?。お前じゃ俺には勝てない。なのに、残っているってことは、まだ俺と戦う気があるってことか?。』

『いいえ。神さま。』


 八雲は片膝を地面につき頭を下げた。

 何これ?。


『先程、貴方様に刃を向けた無礼をお許しください。私は貴方様を我が神と定め、身も心も捧げることをここに誓います。』

『は?。何言ってんの?。』

『私は貴方様によって毒蛇の魔の手から命を救われました。神である貴方様の恩情を受けたのです。ならば、そのご恩に報いる為にこの身を捧げます。髪の毛の一本から爪に先まで、この身は全て貴方様のモノです。』


 ええ…。


『お、お前はリスティナ…創造神を信仰してたんじゃないのかよ?。』

『はい。私は創造神様を崇めておりました。それは今も変わりません。ですが、私を救って頂いたのは創造神様の子である貴方様です。なので、私の崇めるべき神は観測神である貴方様です。これより、私は貴方様のモノです。どの様なご命令でも喜んで従い実行致します。』

『いやいやいや。いらんわっ!。そんな忠誠心。それに、今の言い方だと俺がお前に死ねと言ったら死ぬのか?。』

『畏まりました。』


 その瞬間。

 八雲は自らの首に刃を突き付け斬った。


『ばっ!?。死ぬな!。【神力】っ!。』


 創造神の力を使い即座に傷を癒す。

 コイツ…本当に死ぬ気だったぞ!?。


『ああ~。貴方様は私に生きろと仰るのですね。畏まりました。私の身体を巡る貴方様のエネルギー。しかとこの身に刻まさせて頂きます。』

『くっそ。エーテル使わすんじゃねぇよ…。』


 一瞬。

 ほんの僅かな神力の発動だった為、気を失うまではいかなかったようだ。

 だが、さっきの人功気と今のエーテルの消費で全身の疲労感が半端ねぇ。


『お慕い致しますぅ~。』


 こ、こわいよぉ…。コイツ…。

 何か、すっげぇ…危険じゃん!?。

 誰か…コイツの取り扱い説明書を…。


『はぁ…。まぁ。さっきお前が狙撃して奴の攻撃の時間を稼いでくれたからな。そこは礼を言っとく、ありがとな。えーっと、八雲で良いか?。』

『はぃ~。神さまぁ~。』


 ちょうど良い位置に頭があったので取り敢えず撫でる。

 

『まぁ。お前の相手は後だ。待たせたな。』


 俺はフードをした【人型偽神】に声を掛ける。

 出会ってからずっと殺気を俺に向けていた男だったが、今は何も感じない。じっと俺の様子を観察しているみたいだ。


『構わん。お前の人となりを観察していた。1つ聞きたい。』

『何だ?。』

『何故、奴を逃がした?。お前なら奴を確実に仕留められただろう?。』


 俺は奴にトドメを刺さなかった理由を男に話す。


『………そうか。だが、実際は奴を取り逃がしたと…ふふ。甘いな。神のクセに。』

『うるせぇ。それで?。散々、殺気を飛ばして来てたな?。俺と戦うか?。』

『ああ。お前と戦うことに変わりはない。俺はお前達…神と戦うために作られたのだからな。』

『分かった。』


 コイツは俺に勝てないことを理解した上で俺に挑もうとしている。


『早速、やるか。』

『ああ。俺に生きる意味を与えてくれ。』


 互いに構える。

 徒手空拳同士の戦い。

 言葉も少なく。静かな…そして、短い戦いが始まった。

次回の投稿は12日の木曜日を予定しています。

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