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第200話 神眷者

 両手に装備した機械から青色の魔力を噴出し、高速で空中を飛び回る少女。

 魔力の放出を調整することで急停止、急発進、ホバリング、急上昇下降、旋回を自在に行っている。

 その全てを高速で行っているのだから、まさに青い閃光のように見える。


 元 青法詩典 幹部【七詩法】の1人。

 八雲(ヤクモ)

 

 ギルドマスターだった青嵐(セイラン)に負けず劣らずの【創造神】崇拝者のようだ。

 リスティナが見たら引くだろうな…。

 

 その攻撃は、移動に使用している両腕の機械に全てを委ねているようで、魔力の噴出口とは逆に取り付けられている部分から魔力弾や魔力砲撃を撃ってくるわ、集束させた魔力で刃を生成し接近戦を仕掛けてくるわで、なかなか厄介だ。


『【異神】よっ!。滅べっ!。』


 高速で突っ込んで来る小柄な身体を紙一重で躱す。


『くそっ!。このっ!。』


 刃での攻撃も避ける。

 斬撃による連撃。魔力弾の連射。その全てを避ける。避ける。避ける。


 僅かに間合いが開いた瞬間に牽制の魔力弾の連射。隙のない連撃。そこからの極大の魔力砲撃。

 流れるような動き。相当な実力があるのは分かる。長い時間の鍛練も積み重ねてきたのだろう。


 だが、俺には通じない。

 魔力弾の連射を全て見切り八雲へと距離を詰める。急激に近付かれ焦りを見せた八雲が次に行うことが砲撃だということは気配の流れで読み取れた。


 腕にエーテルを纏い、全力で砲撃を殴りつける。俺のエーテルの密度、性能、出力が、八雲の砲撃の魔力を上回ったことで砲撃が霧散。光の粒子を撒き散らして消滅した。


『そ…んな…。』


 自身の攻撃を悉く防がれ生じた僅かな隙。


『悪いがお前に構っている暇は無いんだ。』

『うぐっ!?。』


 俺の拳が八雲のみぞおちを捉える。

 暫く気絶、もしくは動けなくなって貰おう。

 一刻も早く夢伽達の場所に向かわないといけない。


『はぁ…。はぁ…。これが、【異神】の力…。私の…力が通じない…。』


 マジか。


『防いだのか?。今の。』


 俺の拳は八雲の両腕の機械から出現した魔力のシールドによって防がれる。

 自動か…。任意か…。俺の拳よりも速く展開しやがった。手加減したとはいえ反応できるような速さじゃなかったと思うんだが…。


『お前…。』

『おや?。誰かと思えば八雲さん…ではありませんか?。こんな所で【異神】と戦闘とは、つくづく神の教えに従順ですね。』

『『っ!?。』』


 俺の言葉を遮り、コートの男が現れた。

 その後ろには、さっきの【人型偽神】の1体。あの3体の中で一番警戒した奴だ。


『イグハーレン…。』


 八雲の顔つきが怒りへと変化する。

 歯を噛みしめ、拳を強く握る。


『そう睨まないで下さい。恐怖で震えてしまいます。』

『黙れっ!。何故、青国を裏切った!。』



 まさか。裏切り者を追って訪れた先で【異神】に出くわすとは…。



 確か、八雲は始めにそう言った。

 つまり、俺と戦う為ではなく。国を裏切ったコートの男達を追っていたってことか。

 

『裏切った訳ではありません。私は最初から神を信仰していた。国に仕えていた訳ではなく…ね。』

『………どういうことだ?。お前は、あんなにも【創造神】様に対して熱心な信者だったではないか?。』

『ええ。今も神への信仰は変わりません。私に力を授けてくれた神へのね。』


 イグハーレン。

 その男は徐にコートと上半身の服を脱ぐ。


『っ!?。なっ!?。何をっ!?。』

『ふふ。男の身体を見るのは恥ずかしいですか?。可愛らしい反応ですね。貴女は幹部で一番ウブでしたからね。』

『う、うるさいっ!。っ!。お前…その身体…。』

『ふふ。気付きましたか?。』


 イグハーレンの上半身には淡く光を放つ刻印が隈無く刻まれていた。俺の身体にあるものとは違う模様…別の形をしている。


『ええ。私は神からの恩寵を受けたのです。私がどんなに願い、尽くし、愛し、捧げ、信仰しても天啓すら与えてくれなかった【創造神】リスティナとは違う。力を…。そう。神の力…エーテルを与えてくださった神。【音響の神】ハールレン様。私はハールレン様に忠誠を、信仰を捧げたのです。』

『馬鹿な…そんなことが…。』

『ですので、我が神を信仰していない青国には私の居場所が無くなりましてね。こうして、独自に【異神】に対抗する手段を模索しているところだったのです。ああ。ご安心下さい。寝蔵君はこのような力は持っていません。ですが、彼も戻る気はないようですよ。』

『…いや、まぁ…アイツは…いい…臭いから…。』

『ですよね~。私も一緒に居るのが辛いのですよ。ですが、能力は優秀ではないですか?。手放しづらいのですよ…。』

『私は助かる。アイツは気持ち悪い。』


 寝蔵…。目茶苦茶嫌われてるな。

 確かに臭かったからな…。

 話したこと無いんだが、少し不憫だ。


『こほん。話を戻しましょうか。現在、私も予想外だったことが起き、その対応に追われているところなんですよ。まさか、こんなにも早く【異神】と遭遇するとは思いませんでしたから…。』


 イグハーレンが俺を見る。それに、つられて八雲も俺を見た。


『当たり…いえ、ハズレですか。最初に出会った【異神】が…貴方だったなんてね。少し早すぎです。』


 コイツ…何なんだ?。


『俺を知っているのか?。』

『ええ。勿論。私…達には神から恩寵を受け取った際に、貴方のいた世界のことも天啓で知らされたので…。仮想世界…と、言うそうですね。神々によって創られた偽りの世界。ああ。素晴らしいですね。私もその世界へ行ってみたい。』

『私達?。恩寵?。』

『ふふ…はい。私のような存在が他にもいるのですよ。神…この世界に君臨する神によって力を与えられた者。我々は自分達のことを【神眷者】…と呼んでいます。』


 神眷者…。


『我々の目的…偉大なる我が神から賜った啓示は【異世界より現れた【異神】を例外なく排除せよ】です。』

『っ!。』


 やはり、神の野郎共は俺達を消そうとしているのか。


『我々は同胞を集い、各々で【異神】を排除する方法を模索しているのです。私が辿り着いた方法の1つが【人型偽神】、彼等を生み出すことでした。』


 横に立つフードを被った男。

 フードで顔は見えないが、コイツはずっと俺に視線を向けている。その視線には殺気が込められているようで、ピリピリとした感覚が全身にまとわりついている。


『そして、今日。この時。【異神】が、私の前に現れました。ですが…まさか…現れたのが【異神】の中で最も警戒すべき方だったとは…これは、不運としか言い様がありませんよね?。我が神、ハールレン様は貴方を警戒…いえ、危険と称していましたよ。』


 ハールレン。

 【神兵】の1柱だったな。

 【観測神】の力で俺が倒した。

 成程…仮想世界で俺が倒した奴等が警戒しているのか。それなら納得だ。あの最期の戦いの場所にいた神を殆ど消滅させたからな。


 じゃあ。俺の情報も知られてんだろうな。


『最高神の1柱。この世界の頂点に君臨する【絶対神】と同格の神にして、【絶対神】と【創造神】の子…2つの神の力をその身に宿す【観測神】様。』

『なっ!?。』


 イグハーレンの言葉に八雲が驚きの声を上げた。

 俺自身、【観測神】の力は未だに使えない。

 【神力】でさえ、まともに使用できないんだ。そのことはバレてないと良いが…。


『それで?。お前は…お前達は俺に、【観測神】に挑むのか?。』

『はい。我が神がそれを望んでおいでですので。如何に【観測神】であろうと【異神】には違いありません。全ての【異神】を排除する。私達の目的はそれだけです。』

『なら、お前は俺の敵だな?。』

『その通りです。』

『ああ。分かった。』


 俺は全力で踏み込んだ。

 一瞬で男の間合いを侵略。強化した拳を叩き込む。


『っ!?。』

『なんと言う速い踏み込み。ですが、そんな単純な攻撃では【神眷者】の私には触れることすら出来ませんよ?。』


 俺の拳は奴の周囲に展開した複数の魔方陣によって防がれていた。


『これは!?。』

『ふふ。素晴らしいでしょう?。これは神がエーテルと共に私に与えてくださった【神壁】です。何重にも重ねられた防御結界が自動で私を守ってくれるのですよ。私を甘く見ないで頂きたいですね。』

『ああ。正直甘く見ていた。けどな?。お前も俺を甘く見てないか?。』

『っ!?。』


 俺の拳は確かに防がれた。

 だが、エーテルで強化された今の俺の本気の一撃は並の神では防御出来ない。

 何重にも重ねられた防御結界。関係ない。

 僅かなひび割れから始まり、防御壁全体へ広がっていく。そして、無惨にも砕け散った。


『なっ!?。これ程、とはっ!?。我が神から賜った能力をこうも簡単にっ!。』

『がら空きになったぜ?。』

『ふふ。だが、しかし。』


 悪寒。


『まだ。私を侮っていますね。これからですよ?。私が神から受けた寵愛。それは1つだけに在らず!。』


 マズイ!?。何かが、来る。

 直感が働く。気配感知が機能する。

 寸前まで何も感じなかった空間から突如として現れたエーテルの塊。

 直感と反射、危機感を信じて後ろに跳んだ。


『はっ!?。蛇!?。』


 俺がいた場所に大口開けて飛び掛かってきた巨大な大蛇。額にはエーテルが結晶化した宝石が埋め込まれている。


『し、神獣?。』


 いや、そんな筈はない。

 神獣はリスティナによって創造された各々の種の頂点に位置する5体の獣。

 俺が契約していたクミシャルナ達だけの筈だ。


『ええ。この大蛇は神獣ではありません。私がハールレン様より頂戴した切り札にして我が最強の武器。【聖獣】にエーテルによる強化を施した存在【神聖獣】です。』


 大蛇の聖獣。

 へび、か…。 


『この神聖獣は常に私を守護してくれているのです。そう、ずっと私の周りを…ね。』

『ああ。それで俺達の存在に気付いたのか?。』

『ええ。気配は無くとも体温による温度の変化を感じ取ってくれたのでね。そして、更にっ!。』


 イグハーレンが大蛇の口の中へ腕を突っ込んだ。


『っ!。へぇ…。』


 そして、取り出した。


『【毒蛇神剣】。これが私が賜った最高の秘宝です。』


 その輝きは、知っている。

 今の俺達には無いモノ…。

 失ってしまったモノ…。


『………ちっ。【神具】まで…。』


 どうやら、本当に一筋縄じゃ行かないようだな。

次回の投稿は5日の木曜日を予定しています。

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