第199話 助っ人。異神の力
ーーー夢伽ーーー
空中を駆ける閃光。
強靭的な脚力で空気を蹴り、縦横無尽に移動する。その俊敏で不規則な動きで睡蓮お姉さんを翻弄しています。
回し蹴り、前蹴り、後ろ蹴り、跳び蹴りに、かかと落とし。などなど。高速移動から繰り出される蹴り技の数々。
燕さん。
かつて…前世で同じギルド 赤蘭煌王に所属していた幹部であり、仲間です。
私は赤蘭煌王に残り、燕さんはクロノ・フィリアへとギルドを移しました。行き違いで敵対することになってしまってからは会うことはありませんでした。
エンパシスウィザメントの認識がまだゲームだった時代。私と弟の儀童は燕さんにゲーム内で出会った燕さんによって赤蘭煌王に誘われたのです。
ギルドマスターだった赤皇お兄さんが掲げた方針は【兎に角強いヤツが偉い】でした。
赤皇お兄さんは間違いなく強くて、同じギルドの人達を圧倒していました。その強さで皆を引っ張って行ってくれたんです。
運悪く、ハズレ種族と言われていた【人族】を引き当ててしまった私がギルドで生き残るには弟と協力するしかありませんでした。
弟は巨大なロボットを召喚して、搭乗し操作することが出来る能力でした。私は弟とロボットに自身のスキルで魔力を流し込むことでロボットの出力制御、武装の強化、全てのステータスを向上させることで巨大ロボ【カルガディス】を完成させ赤蘭煌王の幹部になりました。
これも手伝ってくれた。赤皇さん。燕さんや玖霧さん。知果さん達のお陰でした。慣れないゲームを楽しめたのも皆さんがいたからです。
『はっ!。』
『ヴァアアアアアアアアアア!!!。ヴァッ!。』
燕さんの速く、鋭い蹴りが睡蓮お姉さんの横腹を蹴り抜いた。
蹴った反動を利用して軽やかに私と奏他お姉さんの前に着地する。
『凄い反応の速さだね。今より遅くしたら確実に捕まりそう。う~~~ん。気配を読むことに長けてるのかな?。交差する時に必ず掴もうとしてきてたし…関節技系か投げ技系か。』
強いです。
私も、横にいる奏他お姉さんですら唖然としてしまう程。燕さんの速さは私の視界から容易に消えてしまう。僅かに残った人功気を目に集め視力を強化しても追うことが出来ないのです。
ですが、睡蓮お姉さんはその速度に反応していた。暴走状態に陥りながらも燕さんを掴み投げようと手を伸ばしていました。
それも驚きですが、それでも捕まらない燕さんが速すぎるんです。
しかも、燕さんにはまだ余裕がありそうです。
燕さんの強さは知っているつもりでした。
ゲーム時代から一緒に行動していたんです。
けど、目の前の燕さんは同じ【人族】とは思えないくらい強くなっていました。
『これが…【異神】…。』
『夢伽…。』
『はい?。』
驚いている私に奏他お姉さんが声を掛けてきました。
横を見ると私と同じように驚いている表情の奏他お姉さん。
『私…閃君についてきて良かった…とてもじゃないけど【異神】の人達に勝てる気がしない…。』
同じ意見です。
『夢伽。久し振りだね。無事?。』
『あ、燕さん。お久し振りです。何とか無事です。全身傷だらけですが…。』
『そう。待っててね。すぐにアイツ倒しちゃうから。それで、隣に居るのは…確か…白聖にいた人だよね?。』
『え。あ、はい。奏他です。』
『奏他お姉さんは今私の仲間なんです。』
『ああ。そうなんだ。夢伽がお世話になってるね。燕だよ。宜しくね。』
『あ、はい。奏他です。宜しくお願いします。』
『で、2人聞きたいんだけど。アイツ何なの?。結構強いよね。2人が戦ってたってことは敵ってことで良いのかな?。』
『違います!。』
『おおう。びっくり。敵じゃないんだ?。』
『はい。睡蓮お姉さんは頭に埋め込まれた機械によって操られてるんです。本当は、娘さん想いの優しい人なんです。燕さん…お姉さんを助けてあげて…。下さい…。私じゃ…無理でした…。』
『私からもお願いします!。あの人を助けて…。』
奏他お姉さんも同じ気持ちだったことが嬉しかった。
『そっか。おっけー。任せて。2人の願い叶えるよ!。あと、あの人が纏ってるの何?。魔力でも、エーテルでもないんだけど?。』
『あれは【人族】だけが扱える【人功気】と呼ばれる気の一種らしいです。主に【人族】が体得できたスキルを強化できるようです。』
『成程。了解だよ!。』
状況を把握した燕さんが改めて睡蓮お姉さんを見る。
『ヴァァァァァァァァァァ………。』
意識を失っていても燕さんを警戒しているのが分かる。
『ヴァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!。』
『頭ね。ちょっと調べてみますかっ!。とっ!。』
あれは、お兄さんが使ってたエーテルの波。
お兄さんはあれで旅の道中、危険な道やモンスターとの遭遇を回避してた。燕さんも使えるんだ。
『ふ~ん。あった。頭の前の方だね。君とは別の気を感じる。嫌な感じだね。君自身の気にべったり張りついて包み込んでる感じだ。』
燕さんが構える。
その構えは、クラウチングスタートのポーズ?。
『要は彼女にダメージを与えずに頭の中の機械だけを破壊すれば良いんだよね。なら、私も全力を出さないといけない。』
燕さんの全身からエーテルが放出される。
『っ!?。ヴァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!。』
異常なエーテルを感じ取った睡蓮お姉さんも全力で人功気を放出し始める。
互いの全力同士がぶつかる。
多分だけど。勝負は一瞬でつく。そんな気がします。
『【神力】発動!。欲しい結果は【彼女…睡蓮自身を傷付けず、頭に埋め込まれた機械だけの破壊】!。』
放出されていたエーテルが道を示した。
神が示した結果を世界が実現させる。
今、燕の目には結果へと導く未来の映像が映された。自らの動き敵の動き。その全てが示した結果への…未来を導いている。
『へぇ。これが…。行くよ。睡蓮さん。貴女を助ける。』
『っ!?。』
『消えっ!?。』
風が吹き抜けた。
瞬きをした瞬間。燕さんが消えた。
違う。睡蓮お姉さんの後ろに一瞬で移動していたんだ。
『あっ…。うっ…。』
額に僅かな傷を負った睡蓮お姉さん。
虚空を見つめ内に溜め込み、内在していた人功気を一気に周囲へ撒き散らした。
そのまま、白目をむき力無く倒れる。
『おっとと。やっぱり制御が難しいね。これ。』
睡蓮お姉さんが倒れたことを確認した燕さんも仰向けで倒れた。
『はぁ…。やっぱ、無傷は…無理だったね。けど、機械は破壊したよ。もう、彼女は大丈夫だと思う。』
『燕さん…。』
燕さんの戦いの最中、私の体力も少しだけど回復しました。まだ、体に力を入れづらいけど燕さんと睡蓮お姉さんの場所までなら歩いて行ける。ゆっくりだけど…。
『ごめん。夢伽。【神力】使うと暫く動けないんだよね…ははは。あと、彼女に傷付けちゃった。けど、機械は破壊したよ。』
『ありがとうございます。燕さん。助かりました。』
私は倒れている睡蓮お姉さんを抱き締める。
お姉さんは気を失っているだけみたい。静かな吐息が聞こえる。
『へへ。変わらないね。夢伽は。』
『燕さんも。強さは段違いに上がっていましたが…。』
『でしょ?。いっぱい頑張ったからね。』
今のメンバーの状態では回復能力が使えない。唯一、能力で回復出来る私だけど。人功気を使ってから魔力が全然回復してない。
倒れている全員を何とか壁際まで運んで体力の回復に努める。
『燕。』
『んーーー?。何ぃーーー?。』
自己紹介を終えた後、奏他お姉さんが燕さんに話し掛けた。
燕さんは丁度良いサイズのコンクリートの上で寝そべり、奏他お姉さんはそのコンクリートに背中を預けていた。
『さっき。彼女に何をしたの?。速すぎて全然見えなかったんだけど?。』
『ああ。さっきの【神力】?。』
『うん。』
それは私も知りたかったです。
本当に一瞬で勝負が終わってしまったんですから。
『えーとね。あの時、私が見た未来の行動は…彼女が知覚できない速度で近付いて、頭の…額のところにピンポイントで浸透系の蹴りを食らわせるってモノだったんだ。ああ。浸透系の打撃は普通の打撃じゃなくて肉体の内側に打撃を浸透させる攻撃ね。その攻撃を僅かなズレも許さず的確に額のど真ん中に叩き込む。その方法しかなかったの。彼女に反応されちゃったら打撃位置ズラされちゃってたからね。』
『ひえぇぇぇ…凄いね。神の力って…。』
『はい!。凄いです!。』
『えへへ。褒められるとテレるよ。けど、私なんて全然だよ。他のクロノ・フィリアの人達に比べたらね。』
『あっ!。そうでした!。お兄さん達…大丈夫でしょうか…。』
詩那お姉さんも兎針お姉さんも心配です。
けど、今の私達は動けない。
皆さんの無事を祈ることしか…。
ーーー
ーーー無凱ーーー
『ガァァァァァアアアアア!!!。』
唸り声、叫び声を轟かせ彼が巨大な拳を振り下ろした。もう何度目かになるその動作。数回目ともなると目が慣れてくる。僕はそれをバックステップで躱し、無防備な顔面に蹴りを放つ。
『っ!?。』
『ガッ!。』
これは驚いた。
反対側の手で防がれた?。先程までは、抵抗も出来ずに吹き飛んでいたのに。
僕に躱された拳はそのまま地面に突き刺さり、巨大なクレーターを増やしていく。周囲はクレーターだらけだ。
彼の名前は、憧厳。
一連の会話を空間操作で聞いていた。
【人型偽神】
人工的に創られた偽りの神。その成功作の1体、憧厳。他の2体は閃君と燕ちゃんが今戦っている。
彼等は頭の中に埋め込まれた小型の機械によって操られている。彼は今、その支配によって暴走状態と。
肉体強化を主体として戦う彼。
【人族】独自の能力【人功気】を使い、肉体と気配感知を強化した戦い方だ。
膨張した柔軟な筋肉を利用し高速で移動。大きな巨体から繰り出される太い腕での打撃。
成程。
前世で白蓮君は【完成された人間】という存在を研究し開発していた。それも十分に驚異的な存在だったが…。
彼はその強化を上回るな。
彼女達が苦戦する訳だ。
単純な肉体強化とは違う。【人功気】の力で強化の重ね掛け。煌真君の戦闘方法に近いか。
僕の空間を支配した転移にも即座に反応。背後でも、頭上でも関係ない。僕が移動した瞬間の気配を感じ即座に対応してくる。これは、光歌ちゃんと同じくらいの精度だ。
そして、何よりも。
反応してからの対応速度の速さ。
同じ攻撃は防がれるか、回避されている。
やれやれ、意識が無いのに本能だけでこれだ。本来のポテンシャルは計り知れない。
厚い筋肉の壁と人功気の放出でとてつもない防御力を発揮しているのも、厄介だな。
既に僕の通常時の攻撃はその2つの防御と反応速度で明確なダメージは与えられなくなっている。
此方の攻撃への対応速度が尋常ではない。
『ふふ。この感じ懐かしいな。』
種族は最弱。大したスキルはない。レベルも当時の僕と大差ない。それなのに僕と互角の戦いを繰り広げた。
出会った時の閃君を思い出す。
ーーー
ーーー数年前ーーー
『無凱君~。お待たせ~。』
『ああ。つつ美さん。大丈夫だよ。』
『この方が、母様の仰っていた、知り合いの?。』
『ええ~。そうよ~。学生時代の同級生~。ゲームの中で偶然再会したのよ~。』
『へぇ。聞いてるぜ?。ゲームの腕前凄いんだろ?。』
『ははは。それは嬉しいね。君達のことも聞いてるよ。つつ美さんの子。閃君と灯月ちゃん。無凱だ。宜しくね。』
『はい。此方こそ、宜しくお願いします。』
『宜しく。』
『ふふ。無凱君はね~。新しいギルドを作りたいんだって~。』
『へぇ。どんなギルドを?。』
『そうだね。皆が互いを信頼した家族のような関係のギルドにしたいな。』
『ははは。何だそれ?。強いギルドとか、最強を目指すとか言うと思ったのに家族か。面白いこと言うなっ!。おっさん。』
『そうかな?。けど、一緒に戦う訳だし。背中を預けて困難に挑むなら。家族の様に信頼しあった関係はきっと強い絆を生んでくれると思うんだよね。』
『ああ。別に反対している訳じゃない。むしろ、賛成だ。そんな深い絆で繋がれるギルドなら、強さも自ずとついてくるだろうし。』
『そうかい?。それは嬉しいね。それでね。つつ美さんにお願いして君達を呼んで貰ったのは、勧誘が目的だったんだ。』
『だと思ったよ。母さんはどうしたいんだ?。』
『んーーー?。私は~。無凱君を昔から知っているから力になってあげたいわ~。彼、結構リーダー気質だから~。』
『灯月は?。』
『にぃ様に従います。』
『そうか。なぁ。おっさん。』
『なんだい?。』
『家族のような絆。関係。それを求めるのは良いことだって思う。けど、それにはやっぱり絶対的な支柱。ギルドを…これから仲間になる奴等の心の支えが必要だと思うんだ。コイツがいれば安心できる。コイツがいるから頑張れる。コイツがいるから信頼出来るってな。』
『うん。その通りだね。』
『母さんからおっさ…貴方の人と成りは聞いている。けど、俺は自分自身で確かめたい。貴方の強さと人としての器を。見せて欲しい。貴方がリーダーに相応しいかを…。』
『そうだね。僕も示そうと思っていたんだ。結局はリーダーに求められるのはカリスマ性の他には、結局 強さ だってことも分かっている。』
『ああ。だから。受けて欲しい。俺からの挑戦状を。』
『うん。良いよ。僕の全力を君にぶつけよう。僕を認めて貰う為にね。』
『タイマンだ。母さん達は見ててくれ。』
『ふふ。嬉しそうね。2人共。』
『にぃ様。ご無事で。』
『行くぜ。おっさん。』
『ああ。行くよ。閃君。決闘だっ!。』
ーーー
『懐かしいな。』
『ガァァァァァアアアアア!!!。』
鋭く速い拳を躱す。
さて、そろそろ良いかな。彼から得られる情報はこんなところだろうし。
『悪いけど。終わらせるよ。』
空間支配。
虚空間神である僕は指定した空間内部を己の支配下におくことが出来る。
前世で使用していた 箱 は無くなってしまったけど、箱で出来ていたことは全て支配した空間内で出来るようになった。何も制限はない。
今の僕。いや、僕達は前世での【神化】状態が通常化しているんだ。
『ガッ!?。ガッ!?。ガァァァァァアアアアア!!!。』
空間を固定して彼の動きを封じる。
『悪いね。早く解放してあげたかったけど。君達の情報が少しでも欲しかったんだ。もう十分に暴れただろう?。終わらせよう。』
彼の頭の中にある小型の機械だけを空間を繋げて手元の空間に引き寄せた。
一瞬で僕の手の中に小型の機械が転移した。
その瞬間、今まで怒号を上げていた彼は電池が切れた玩具のように崩れ落ちる。僕の手の中の機械も静かに停止。
『終わったね。』
【人型偽神】。
強さは【異神】以下【異界人】以上と言ったところか。
【人功気】のことを考えると【人族】限定でしか創れないのか…。
まだまだ。分からないことが多いな。
それに、今、閃君と対峙しているエーテルを纏った男。彼から感じる気配は僕達と戦った神々と異様に酷似している。
いったい、何が起きているのか。
『あ、あのぉ。』
『ん?。ああ。ごめんね。助けるのが遅くなった。』
声を掛けられた。
閃君の新しい仲間。
かつては敵だったギルドの少女達。
僕はボロボロになっている少女達に近付いた。
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