第196話 露天風呂の女子会
ーーー夢伽ーーー
『じゃあ。俺は先に上がってるな。あんまり長湯するなよ?。』
そう言って女の人の姿になったお兄さんは露天風呂から上がって行った。
動きはお兄さんの…男性特有のものだけど、女の人の姿だと妙に色っぽい。おっぱいも大きいし…お尻も形が良くて大きくて…お腹まわりはキュッってして細くて。髪もサラサラで長くて、お肌もスベスベでピチピチでモチモチでした。チラッと見えたけど腹筋もうっすら割れていて…綺麗で、格好いい…。
私もだけど、この場にいた詩那お姉さんも兎針お姉さんも…たった今仲間になった奏他お姉さんまでお兄さんの姿に釘付けでした。
『胸も…お尻も…腰も…くびれも…顔も…肌も…う、ウチ…ま、負けてるし…。うぅ…先輩…。強敵過ぎるよぉ…。最大のライバルが惚れた本人って…難易度高過ぎるぅ…。』
詩那お姉さんは涙を流してる…。
私も自分のスカスカの胸をペタペタと触る。
お兄さんはぺたんこ好きかな?。
『はぁ…。いい匂いです。残り香だけでも、ずっと嗅いでいられます。すぅ…はぁ…すぅ…はぁ…。』
何か…変態みたいです兎針お姉さん…。
匂いが好きなのかな?。私の匂いもよく嗅いでいる気がするし…詩那お姉さんの匂いも然り気無く嗅いでいるし。今は、お兄さんの動いた場所を追うように鼻をヒクヒクさせてる。
私もクンクン。お兄さんの匂い。何か…甘い匂い?。
『ヤバイね…。男の人なのに…。色気が半端ないよ…。』
奏他お姉さんもお兄さんの後ろ姿を凝視してる。
偶然見つけた天然の露天風呂。
疲れた身体を癒すために、この場所で野営をすることになった私達。
遠慮して私達に先を譲ろうとしたお兄さん。
けど、一緒に入りたかった私達はお兄さんを先に入らせて後から追う形で混浴に成功した。
渋っていたお兄さんが取った行動は女性化。
まさか、女の人の姿になれるなんて…しかも、凄く?。いいえ。絶世の美女になれるなんて誰も想像していなかったですよ?。私も詩那お姉さんも兎針お姉さんも驚いてビックリ。
何でも神様の力が関係しているとか教えてくれたけど難しくて良くわかりませんでした。
ますます興味を惹かれてしまいます。
お兄さんに先に露天風呂を上がってもらった私達。
ここからは女の子同士の会談です。
新しく仲間になった奏他お姉さん。
私達ですら、まだ2日くらいの関係だもんね。こういう交流の時間は大切だと思うんです。
よぉし。この場を仕切っちゃうぞ!。
『改めて、自己紹介しましょう!。』
『畏まりました。夢伽さん。私達には互いを知る時間が必要ですね。過去のいざこざがあったとは言え、これからは背中を預け合う仲間です。お互いのことを知る良い時間かと。』
『ふぅん。良いんじゃない?。』
『そうだね。問題ないよ。私も君達のことを知りたい。迷惑掛けちゃったから…。』
落ち込む奏他お姉さん。
きっとお姉さんの中では凄く許せないことだったんだね。
『えいっ!。』
『はうっ!?。』
詩那お姉さんが奏他お姉さんの頭にチョップした。
『もし、ウチのことを気にしてるなら気にしなくて良いって言った。アンタの部下がやったこと。アンタは悪くない。夢伽ちゃんも許してくれた。だから、この話でお仕舞い。アンタはもう落ち込むな。』
『っ!?。』
『それにアンタは部下達を始末してここにいるんでしょ?。』
『う、うん…。ゆ、許せなかったから…。』
『なら。アイツ等に殺られた【人族】の人達もアンタに感謝してる筈だよ。自分の立場すら危ぶんで敵討ちをしてくれたんだから。』
『そ…そうかな?。けど、私がもっと彼等を疑っていれば…こんなことには…。』
『終わったことを嘆いても仕方がないよ。最初から【人族】のことを玩具みたいにしか考えてなかった連中と、【人族】を救いたかったと思っていたアンタ。連中とアンタは一緒じゃない。立ち位置からして全然違うよ。それでも、アンタを逆怨みするような【人族】が出るんならウチが許さないから。アンタはこれからのことを考えれば良いんだ!。』
『…と、駄肉は仰っていますが。実際は閃さんとお近づきになれたことが、あらゆる感情より上回っているだけなのです。なので、本当にお気になさらないで大丈夫ですよ。』
『うん!。そうなのっ!。先輩!。さいこー!。』
あれぇ?。凄く格好いいこと言ってたような気がするのに…素直…。
『………馬鹿ですね。』
『はぁっ!?。』
『私も、気にしてません。お兄さんが助けてくれましたし、兎針お姉さんとも蟠りがなくなりましたし。あの時は大勢の男の人に囲まれて怖かったですが、今はお友達が増えて嬉しいです。』
『夢伽さん…。』
『目をキラキラさせんな。まな板。キモい。』
『あぁん!?。』
『ははは…。』
『もう!。喧嘩は駄目です。』
そうです。この時間は皆さんと親睦を深める時間なんですから!。
『こほんです。えーと。私からです。夢伽です。前世の記憶を持ってます。【人族】です。得意なのは整理整頓です。能力は【触れているモノの魔力や働きを強化すること】です。宜しくお願いします。』
小さくお辞儀。
ちゅっと恥ずかしかったのでお湯の中に沈みます。
『素晴らしいです。それでは次は私が…。兎針です。閃さんの従者に出会い前世の記憶を取り戻しました。今は夢伽さんの目的達成の為に、この力を使います。特技は…誰かが行っている物事の補佐をするのが得意ですね。種族は【黒羽針蝶族】です。宜しくお願い致します。』
黒い蝶の羽を広げて種族のアピール。
キラキラと輝いて光の反射で色が変わっています。凄く綺麗…。兎針お姉さんも妖精さんみたいで凄く美人です。
『次はウチね!。ウチは詩那!。【人族】!。特技は料理全般…だと思う…。前世の記憶無し!。能力は【自分の魔力を通したモノが身体を離れた時に、その魔力と働きを強化する】こと!。宜しく!。』
ぶるんっ!。って、大きな…お、お、お、お、おっぱいが揺れました!。お兄さんも凄かったけど。詩那お姉さんも十分なボリュームですよぉ!?。スタイルも綺麗だし…ズルいです。
『駄肉。その肉の塊を揺らすな。』
『はっ!?。っ!。ふふふ。そうか~。羨ましいんだろぉ~。まな板だもんね~。どう?。ちょっとなら触っても良いよ~。けど、触ったら自分と比較しちゃうよねぇ~。現実を突き付けられちゃうね~。』
『イラッ!。ふんっ!。』
『にゃぁぁぁあああああ!?。鷲掴みするなっ!。痛いっ!。もっと優しくしろしぃ…あっ…きゅ…急に…や、優しく…するなし…うっ…。あんっ…。んん…。』
何か…エッチです。
『次は奏他お姉さんです。』
『うん。』
奏他お姉さんは立ち上がると身体に巻いていたタイルを取って岩場に置きました。白い綺麗な素肌が露になります。
『仲間だから…だよね。何事も包み隠さず。』
そして、右の背中から白い羽が現れました。
『名前は奏他だよ。種族は【地堕天光翼族】。堕天した天使の種族。方翼なのがその証拠。私は岩石や土を操れるの。飛ぶことは出来ない。行き場を失くした私を仲間にしてくれたこと凄く嬉しい。どうもありがとう。これから宜しくね。』
『うん!。宜しくお願いします!。』
『お願い致します。』
『よろ~。』
『そして、これが最後です。きっちりしておきたいから。この度は、皆さんにご迷惑を御掛けして申し訳ありません。今後、私の力は貴女方の為に使います。』
深々と顔がお湯の中に入るくらい頭を下げる奏他お姉さん。
『アンタも律儀だね…気にしてないって言ったのに。』
『真面目なことは良いことです。駄肉とは大違い。』
『は?。喧嘩売ってる?。余裕で買うけど?。』
『良いでしょう。私の税は高いですよ?。』
『喧嘩は駄目です!。』
『うっ…。はい…。』
『失礼致しました。』
『ふふ。あはははは。うん。君達に出会えて…仲間になれて良かった。人間関係も概ね理解したし私とも仲良くしてね。』
『はい!。仲間です!。』
『ありがとっ。』
掴みはバッチリです。
『ねぇ。彼…閃君は何者なの?。あっ…さっきの説明は聞いてたよ?。あの…彼は前世?。どんな人だったの?。』
奏他お姉さんもお兄さんが気になるようですね。
無理もありません。お兄さんに出会ってから驚くことばっかりですから。
出会って2日の私達でも、お兄さんのことは全然分かりません。女の人の姿になれるなんて初めて知りましたし。
『ウチは記憶が無いから分からない。けど、凄かったって話は聞いてるよ。でも、先輩は凄いのっ!。強いし!。格好いいし!。ウチ達に気も使ってくれるし!。』
『お…ぉぅ…迫力が…。』
『お兄さんのことは先程本人が話していた通りだと思います。前世では噂くらいしか聞いたことのなかった方ですから。』
最高成績でエンパシス・ウィザメントをクリアしたギルド クロノ・フィリア。
そのギルドで一番強かったのがお兄さん。
私達との戦いにも勝利して…最後に神様と戦った。
『私が知っているのは、この世界に来てからのことしかありません。それもさっき話した通りです。お兄さんの能力に驚いてばっかりです。』
『閃さんは私共全員に気を使ってくれています。ここまでの道のり、危険なモンスターとの接触がなかったのも彼が気配を感知し安全な道を選択し続けた結果です。』
『ああ。成程。だからだね。私も君達の後を追跡している時に疑問に思ってたんだ。全然モンスターに会わなかったから。』
『ふふん!。先輩は凄いの!。』
『何故、駄肉が誇らしげなのか?。』
『見た目も格好いいし頼りになる…か。やっぱり詩那は閃君が好きっぽいね。』
『なっ!?。何故それを!?。』
『そりゃあ。見てたら分かるよ。』
『はぅ。』
『告白しないの?。』
『きょ!?。きょきゅぴゃく!?。』
詩那お姉さんの顔が真っ赤になる。
けど、すぐに落ち込んでしまいます。
『え?。ど、どうしたの?。』
『お兄さんには既に恋人がいるんです。』
『はぁ。そうなんだ。いや、そうだよね。実際、モテそうだし。どんな人なんだろう。あの人が選んだ人って…。』
『そ、それがですね。』
『ん?。』
『11人いるそうです…。』
『え?。何が?。』
『恋人の方が…です。』
『マジ?。』
『はい。本人が言っていました。』
『ひぇぇぇぇぇえええええ。ハーレム王だ。本当にいるんだね!?。どっかの王族なんじゃないの!?。本妻と妾とかの関係とか?。』
『いえ。お兄さんは全員を平等に愛しているって言ってました。』
『なんという…。』
『ウチのね…入る場所はなさそうだし…。』
『ほ、ほら。11人もいるんだし…1人くらい増やして貰えば…。』
『閃さんは、かつての仲間を含め恋人達を探すために行動しています。恋人がこの世界にいるのに他の女性と新たな恋人になんてなれないと仰っていました。その瞳には堅い決意を秘めていましたのでそれも難しいかと。』
『あれ?。もしかして…兎針も?。』
『え?。いえ。私は…お役に立てるなら…それで…。』
『お兄さん格好いいですもんね。騎士の人達から救ってくれたお兄さんの姿…登場から始まり全て覚えています。』
『ああ。夢伽もかぁ…。罪作りな人だなぁ…。』
何か納得したように頷く奏他お姉さん。
『先輩はね!。凄いの!。』
『え!?。いきなり!?。』
『先輩はね!。ボロボロなったウチを助けてくれたんだ!。痛くて辛くて、けど、死ぬたくなくて、泣いていたウチを優しく包み込んでくれたの!。先輩のエーテルに包まれている時、抱きしめられてるような、幸せな気持ちが溢れてきて、気持ち良くて…ウチは、もう!。先輩無しでは生きていけない自信がある!。』
『駄肉が壊れた…。いえ。元々でしたか。』
『熱弁ですね。』
『奏他こっち来て!。』
『え!?。』
『先輩についてもっと語ろう。』
『えぇぇぇぇぇえええええ。』
詩那お姉さんに手を引かれ温泉の端っこに移動する奏他お姉さん。
『奏他にも先輩を好きになって貰うんだから!。赤信号皆で渡れば恐くない!。』
『え?。いや、私、今さっき仲間になったばかりだから…。』
『ふふふ。こちら側にようこそ。』
『こわぁぁぁ…。』
その後は奏他お姉さんの耳元で囁くようにお兄さんのことを話し続けた詩那お姉さん。
途中から奏他お姉さんの瞳から光が失われ、ただ頷くだけの反応になっていました。
『はぁ…駄肉は本気のようですね。夢伽さんもうかうかしていられませんよ?。』
『ふふ。大丈夫です。きっと何とかなる気がします。だって、お兄さんは凄いですから!。』
私を助けてくれたヒーロー。
いつか、助けてくれた恩返しがしたいですね。
そう心に誓い。私はお風呂から上がりました。
ーーー
ーーー?ーーー
意識が戻ると、ガラスに囲まれた液体の中にいた。
苦しくはない。
理由は、口に…違う。顔半分を覆うように装着された機械で呼吸が出来ているからだ。
裸の身体に何本ものコードが繋がれている。
コードの続く先はいくつもの小さなカプセル。
動かない身体。
指1本すら自分の意思では動かせない。
けど、頭はハッキリしているし、視界も正常。
だけど、口は動かない。話せない。
見える景色は厚いガラス越し。
その奥の風景、何人もの子供が並んでいる。
あ…。
気付いた。
自分の娘が…いる。
何で?。
ここに?。
ここ?。
少しづつこの状況に至る経緯を思い出してきた。
そうだ。確か…。
虚ろな視線の娘。
隣にいるコートの男の指示に逆らうこと無くカプセルの中に。
やめて。
その中は…。
知っている。あのカプセルの中に入れば…。
ああ。駄目。入らないで。
駄目。駄目。駄目。駄目。駄目。
願いも虚しく娘がカプセルの中に収納される。
太っている男が笑ってる。
手には…機械のボタンを持って。ボタンに親指が添えられる。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
そんなこと。
何の為にここに居ると思ってる?。
娘を守りたい。
それだけ。
それだけなのに…。
やめてぇぇぇぇぇえええええ………。
届かない叫び。心の中の叫び。
無慈悲に。外道に。躊躇い無く。容赦なく。
娘の身体は破裂した。
赤い液体へと変化し。身体の中に流れていくる。
あ。ああ…。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
自分の身体が娘と1つになった。
娘を糧に身体が完成する。
守るために欲した力を手にしたのに…。
守りたかったモノが失くなった。
次回の投稿は21日の木曜日を予定しています。