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第20話 少年と女神様

 僕は…歩いた。


 暗い…暗い…暗い…。


 怖い…怖い…怖い…。


 歩く…歩く…歩く…。


 走る体力など最初からない。

 どれだけの距離を歩いたのか…。

 わからない…。

 何日間…歩き続けたのか…。

 数日?数ヶ月?もしかしたら… 数時間 かもしれない…。

 体感時間なんて…とうに狂ってる…。

 でも…僕は…歩いた。

 『あの場所』には戻りたくない。

 その一心で僕は歩いた。

 脳裏に残る 友達 の顔。

 最期の顔は…真っ赤に…染まってた。

 

 『助けっ…。』


 その言葉がずっと耳に残ってる。


『はぁ…はぁ…はぁ…。』


 無我夢中で歩く…歩く…。

 逃げろ…逃げろ…逃げろ…。

 少しでも遠くに、逃げろ…逃げろ…。

 

『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。』


 身体も…心も…歩き続けたいのに…

 歩け…歩け…歩け…歩け…歩け…歩け…歩け…。

 

  僕は…     倒れ込んだ…


『はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…。』


 呼吸が一向に整わない。  苦しい

 身体が動かない。     辛い

 視界がボヤける。     暗い


『ここは…どこ?。』


 僅かに聞こえる水の流れる音。


『み…ず…。』


 気付かなかった。

 僕は渇いている。

 水…。水…。水…。水…。水…。

 音を頼りに…這う。

 必死に這う。這う。這う。這う。這う。


 ぴとっ。

 指先が何かに触れた。

 そして、無意識に握った。

 同時に雲の間から射し込む光が僕を包んだ。

 ボヤけた視界が一瞬晴れる。


『何だ!?急に裾を掴んで?わっ!?小っさいの!ボロボロではないか!どうしたんだ!?』


 僕が力無く握っていたのは…。

 僕を優しく抱きしめてくれたのは…。

 僕を…


『助けて…』


 くれたのは…。


『当たり前だ。必ず助けるぞ!。ウチに任せろ!。』


 1人の…女神様…だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


 夢を見た。

 いや…夢なんかじゃない。

 これは、現実で起こった真実だ。

 

 僕の名前は、栗栖(くるす) (ゆう)

 これが、世界が変わる前の名前。

 小学校の友達に勧められて、

    ゲーム エンパシスウィザメント

 のプレイヤーになった。

 楽しかった。

 でも、同時に難しかった。

 頑張ってモンスターと戦ってミッションをクリアしてやっとの思いでレベル20。

 嬉しかった。

 達成感で胸がいっぱいだった。


 でも…。


 次の日…


 僕は…。


 (ユウ)になった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ん…。ここ…。は?。』


 見覚えのないコンクリートの天井が視界いっぱいに広がった。


『ん…と。』


 上半身を起こす。身体に痛みはない。

 ただ、少し動きづらい。

 僕は、周囲を見渡し窓ガラスに写る自分の姿を見た。


『ぐるぐる巻きだ。』


 僕の姿は包帯でミイラ男みたいになっていた。


『おっ!』

『え?』


 部屋の奥から出てきたのは…女神…様?


『おお、目が覚めたか。大丈夫か?4日も眠り続けたんだぞ!心配したではないか!どこか痛いところはあるか?お腹減っていないか?どうだ?何でも良いぞ。して欲しいことはあるか?言ってみろ?』


 身体の至るところをぺちぺちと叩かれ、肩を揺すられる。

 揺すられる…揺すられる…。


『気持ち悪い。』

『おお、悪い。少し強くし過ぎたようだ。』


 今度は触れずに、僕をじっと見つめてくる。

 真っ直ぐで曇りのない金色の瞳に、ちょっとドキドキした。


『うん。大丈夫そうだな。だが、まだまだだ。そんな痩せっぽっちな身体では元気は出まい?今、ウチが消化の良いご飯を作ってやるから暫し待っとれ!。』


 そう言って、再び奥の部屋に消えていく女神様。

 暫くすると…。

 ガシャーン、ドーン、カーン、ゴーン、ガチャーーン。しーーーーーーーーーーーん。

 料理してるんだよね?。


『待たせたな!食ってくれ!。』


 ニコニコ笑顔でお粥の入った皿を持ってくる女神様。

 さっきまで無かった両指の絆創膏が痛々しい。

 女神様の全ての指に、はめられた宝石の付いた指輪がとても綺麗だった。


『はい。あーーーーん。』

『え?』

『ほら。食べんと元気にならんぞ?』

『いえ…自分で。』

『良いから、お食べ、な。』


 グイグイくる勢いに圧され仕方なく口を開けた。


『あーん。もぐもぐ。』

『どうだ?旨いか?』


 正直、美味しくはなかった。

 お米は焦げてるし、芯が残ってる。塩も砂糖と間違えてるし、かけ過ぎだ。

 でも、優しい味だった。


『うん…美味しい…。』

『そ、そうか!うん。いっぱいお食べ!。』


 女神様の笑顔は眩しすぎた。

 眩しすぎて…。

 僕は…泣いた。


『わっ!?どうしたのだ?おい?やっぱり美味しくなかったのか?どれ…え!?何これ甘っ!しかも固っ!す、すまん。いや、ごめん。作り直す!だから泣かないでおくれぇーーー。』


 僕は…嬉しかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 それから、30分くらいが経過した。

 僕は落ち着きを取り戻し、改めて作り直されたお粥を完食した。

 今度も美味しくはなかったけど。

 食べられなくはなかった。

 女神様の味がした。


『それで、お前の名前は何て言うのだ?』

『僕は…優。』

『優か。良い名前だな。』


 女神様は僕をベット座らせ、自分は床に座る。


『何であんなにボロボロで倒れていたのだ?』

『………。』

『んー。言いにくいことか?』

『僕は…逃げて…来たの。』

『逃げて来た?』

『うん。僕みたいな弱い人たちを捕まえて…研究する場所から…。』

『何と!?そんな場所があるのか!?』


 僕は…また、泣いた。


『…僕は…友達と…逃げて…でも…見つかって…友達…真っ赤に…死んだ…かも…最後に…助けて…って…僕を…見て…。』

『よい。もう何も話すな。』


 女神様が僕を抱き締める。

 とても強く、でも、凄く優しく。

 頭も撫でてくれる。

 ふと、お母さんのことを思い出した。

 今はもういない。お母さんのことを。


『女神様の名前…知りたい。』

『め?女神様!?それってウチのことか?』

『うん。』

『その呼ばれ方は、むず痒いぞぉ。』


 くねくねと身を捩る女神様。


『優はクロノ・フィリアを知っているか?』

『クロノ…フィリア?』

『何だ?知らんのか?まあいい、ついでに教えてやる!』


 そう言うと、女神様は立ち上がり腰に手を当てポーズをとる。


『ウチの名前は豊華(ホウカ)!レベルは150!伝説のギルド!クロノ・フィリア所属のNo.12!種族は妖精神族だ!よろしくぅーーーーー!』


 捲り上げられた服から覗いた左の腹部には 

ⅩⅡ の刻印があった。


 ぱちぱち ぱちぱち


 あまりに堂々とした自己紹介に思わず拍手をしてしまう。

 そうか…女神様は妖精さんだったんだ。


 これが、僕と豊華さんの出会いだった。

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