第195話 偽りの神
【人族】の里を探していた俺達。
里を発見したのも束に間、怪しい奴等を発見。その後をつけて辿り着いたその先には…。
『すげぇ…地下都市だな。地下なのに明るい。あの空って映してる映像だよな?。』
巨大な地下の空間に造られた都市。
アンダーグラウンドがあった。
『このエレベーターも…あの建物も…【人族】にこんな技術力があるのか?。』
『分からないよ。私も初めて知ったから。けど、【人族】だけの力じゃない気がする。さっきいた連中が青国の人達なら納得出来るけど。』
『青国は科学が発展した国だったか?。青国が【人族】に強力している?。確かにそれが本当なら、地下にこれだけの都市が造れても不思議はないか。』
『もしかしたら…利用されてる可能性もあるかと…。』
『………嫌な想像だけど、その線の可能性の方が高そうだな…。』
【人族】は弱い。
他の種族とは比べ物にならない程。
夢伽と詩那の話によると、俺達が転生した先にあった村人達は【人神】の出現を待っていた。
自分達を他種族や貧困などから護ってくれる存在を。
その未知の存在にすがりたくなる気持ちを利用された…容易に創造のつく展開だな…。
『だが…。それなら、青国の目的は何だ?。』
『【人族】を利用する。言葉にするのは簡単ですが。元々が弱い種族です。出来ることが限られるかと…。』
『だよな…。』
そこで、奏他が言っていた噂を思い出す。
【人族】は神を創っている。
『神…か…。』
そんなことをして青国にメリットがあるのかが分からない。
『お兄さん。そろそろ。つきます。』
『あ、ああ。』
憶測だけでは限界がある。
情報の収集が必要だな。
無事に目的地に降り立ったエレベーターが停止し扉が開く。
そこは…。巨大なゲートが聳え立ち、奥に見えるのは、多くの【人族】が賑わい合う繁華街だった。
人、人、人。幸せそうな笑顔で賑わう。
【人族】以外にも他の種族がチラチラと確認できるが圧倒的に【人族】が多い。
どこからか鼻と腹を刺激する食欲をそそらせる匂いが流れてくるし、聞いたことのない音楽がBGMのように聞こえてくる。
『こ、これは…凄いね。先輩…こんなにいる【人族】初めて見た。』
『ああ。何が何だか…。』
里や村にいた人口の数など比較にならない。
完全に大都市のそれだ。
『一先ず…散策してみるか…。お前ら離れるなよ?。』
『はい。』
俺達は地下都市へと足を踏み入れる。
様々な店。様々な露店。様々な建物。ビルらしき建物にはモニターが取り付けられ何かのキャラクターが動いている。
巨大な交差点も人の波をを作っているし、時刻を知らせる巨大な時計塔まで建っている。
何か、現代…俺達がいた世界に戻ったみたいだ。
『お兄さん。さっきの人達がいます。』
人混みの中。
さっきの連中が歩いているのが見えた。
その足は止まることなく繁華街の道を進んでいく。
『っ!?。ああ。確かに。何処に向かってるんだろうな。』
『追いますか?。』
『ああ。皆、気を付けろ。』
俺達は奴等の後を追う。
暫く追跡をしていると突然、とある建物の前で奴等の足が止まった。
『先輩…あれ、教会じゃない?。』
『みたいだな。神を創っているって教会でか?。罰当たりなのか何なのか…。』
『周囲には特に危険なモノや人物は居ないようです。』
『なら、俺達も入ろうか。物音立てずに静かにな。なるべく気配も消すように。』
『『『『はい。』』』』
なるべく音を立てないように教会の中に侵入。建物の中は普通の教会だ。静かで涼しげ。
奴等は横にある階段で更に下に降りていくようだ。後を追う。
大丈夫か?。これ?。気付かれてないと良いが…。
ゆっくり階段を降りると広い空間があり、そこに奴等がいた。
俺が警戒しているエーテルを纏っている男。
その後ろに部下らしき連中が3人。
さっきの拘束された【人族】が3人。
連れて来られた老人達3人と、他にこの場には30人くらいの【人族】が目の前にある大きな3つのガラス製のカプセルに向かって頭を下げていた。いや、祈っている?。
そして、もう一人。
『ひひ。み、皆さん。お、お集まりで…ひひ。ひひひ。』
何か見たことあるような奴がいる…。
誰だっけな…確か…黒璃んとこにいた奴だった気がする。前世では、出会っていないが…ゲーム時代に何度か顔を合わせた…ああ。そうだ。確か、煌真達に目をつけられてギルド同士の戦闘になった時に【黒曜宝我】で作戦参謀をやってた奴だ。
名前は…確か…。
『ああ。寝蔵だ。』
分厚い丸眼鏡に、おかっぱヘアーのデブ。汗が染み込んだ白衣が異臭を放っている。
『ああ。そうですね。私も見覚えがあります。良かったですね。駄肉。記憶はお互いに失われていると思われますが、かつての仲間との再会ですよ?。』
『ええ。ウチ…の仲間…あれが?。何か…嫌だ。臭そう…てか、臭いわ。何かここまで臭ってこない?。しかも、何?。あの喋り方。気持ち悪いんだけど…。』
『あの怪しい男の人達も、あの人から少し離れて立ってますし。』
『ここ。そんなに暑くないよね?。何であんなに汗をかいてるのかな?。』
『詩那…。』
『な、何?。先輩?。』
『かつての仲間だ。挨拶してくるか?。』
『っ!?。絶対嫌っ!。』
俺達は物陰に隠れ奴等の様子を窺う。
『さて、皆様。お待たせいたしましたね。此れより貴殿方が目にするのは…奇跡、神秘と言われる幻想の中でも特に素晴らしい体験となることでしょう。何せ、神の誕生を拝むことになるのですから。』
おおぉぉぉ。…という歓喜の声。
『皆様方が求め、祈り、讃えていた存在である【人神】。その存在は【異神】と呼ばれるこの世界に破滅と終焉を招く邪神なのです!。』
『っ!。そ、それは本当ですか!?。』
『ええ。事実です。我が信仰する【絶対神】から巫女が賜った神託ですので。これは我々、青国だけに捧げられた託宣ではなく。七大国家全てに啓示された真実なのです。』
『…そ、そんな…。』
『ですが、安心してください。その絶望は今日…いや、この場で希望へと変わることでしょう!。【人族】の皆さん。貴殿方は他の種族に比べて脆く弱い。故に、他種族からの抑圧による恐怖。奴隷にされる不安。その全てから解き放たれることでしょう!。』
パチパチ。パチパチ。パチパチ。
『では、準備を。』
『はっ!。』
『ひひ。これで、ぼ、僕の研究が…ひひ。か、完成するるるるるぅ。』
拘束された3人の【人族】が小さめのカプセルに入れられた。
何をする気だ?。
あの…カプセル…。あれは、前世で見たことがあった。白蓮が研究していた【完成された人間】その被験体が…氷姫の父親が入れられていたモノに酷似している。
何か、嫌な予感がするな…。カプセルに入れられた奴等が無抵抗なのも気になる。洗脳でもされてんのか?。
『準備、完了しました。』
『では、始めましょうか。皆さん。新たな神の目覚めです!。』
『ぼ、ボタンを…お、押すぞぉ!。』
カプセルの中に液体が注がれ一瞬で中を満たした。そして、寝蔵がスイッチらしきボタンを押した…次の瞬間。
入れられた人の肉体が破裂。噴き出した夥しい血がカプセルの中を真っ赤に染めた。
中身の液体は、そのまま奥にある大きな3つのカプセルに流れ込む。
暫くすると、曇りガラスのように中が見えなかったカプセルが内側から割れた。いや、割られた。
『っ!?。あ、あれは…。』
3つのカプセルから出てきた3体の…【人族】?。
男が2人と、女が1人。全員が裸で周囲を見渡していた。
『ふふ。成功のようですね。』
『ひひ。ひひひひひ。か、完成だぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
満足気に笑う男。
興奮し鼻息が荒くなる寝蔵。全身から汗が噴き出し床に撒き散らした。
しかし、そんな気持ち悪い光景を注視している暇はない。
カプセルから出てきた3体の 何か 。その存在に俺達は釘付けになっていた。
『おお。素晴らしいです!。これが私達の救世主様…。』
『なんと神々しいお姿か…。』
『この方々が【人神】様…美しい…。』
口々に感嘆の声を漏らす【人族】の人々。
『さて、お目覚めのところ申し訳ありませんが、お身体の調子はいかがですか?。』
男が3体に話し掛ける。
すると、3体は自分の身体を確認し始めた。腕や首を軽く回したり、手を閉じたり開いたり。
『問題ない。すぐにでも動ける。が…腹が減ったな。』
3体の内の1体。
胴体、手足の全てが細い、2メートルを越える長身の男。
『動きには問題ないのぉ。じゃが、身体にぎこちなさを感じるのは何とかならんか?。』
3体の内の1体。
若い女。自身の身体を隠そうともせず大胆に動かす。その表情は【人族】達を見て妖艶に微笑んだ。
『……………。』
3体の内の1体。
若い筋肉質の男。
俺の直感が告げている。この3体の中でコイツが一番ヤバイ…と。
『最後の調整をしていませんから。』
男が、集められた【人族】を見る。
『どうです?。皆様。お腹の具合は?。』
『ああ。そういうことか。なら、なおのこと問題はない。』
『旨そうではないぞ?。ワッチに飢え死ねと?。』
『………。』
『ひひ。ひひひひひ。す、好きなだけ。た、食べると良いんだ。』
3体が【人族】に近づいていく。
『おお。神様…。』
【人族】達は深々と頭を下げた。
『ふふ。良い心がけじゃ。自ら首を差し出すとはのぉ。』
次の瞬間。
長老と呼ばれていた老人の首が飛んだ。
『え?。』
その突然の出来事に唖然とする【人族】達。
何が起きたのか。理解するのに数秒必要だった。
『ふふ。良い血じゃ。身体に馴染んで行くのが分かるわ。じゃが、足りぬな。』
女が指に付着した血を舐める。
『な、何をされているのですか!?。』
『貴殿方は我々の救世主の筈では!?。』
『何故、長老を!?。』
状況を理解できない【人族】達が次々に叫ぶ。
『うっさいのぉ。黙らせぇ。』
『あいよっ!。』
『は?。ぎゃぁぁぁぁぁあああああ!?。』
長身の男が次々に【人族】を殺していく。
『ははは。良いねぇ。もっと叫べよ!。』
数分後、集められた【人族】は全滅した。
その肉を食らい、血を飲む3体。その光景はあまりにも常軌を逸していた。
僅かに残った【人族】の骨と衣服が血で出来た水溜まりに浸かっていた。
『ふふ。お約束通り。解放して差し上げましたよ?。恐怖や絶望からね。そして、【人神】の血肉となれたのです。皆様にとってこの上なく幸福な最期だったのではありませんか?。ふふ。ふははははは。…さて、如何でしょうか?。【人族】の血肉は身体に馴染んだと思いますが?。』
『ひひひひひ。ど、同族の血肉で足りない分を補えるのが【人族】の特徴だなぁ。ひひひ。ほ、他の種族に比べて繁殖も早いし、じ、実験がしやすいのも良い。ひひひ。』
『ああ。良いなぁ。』
『ワッチも問題ないのじゃ。』
『………。』
3体は各々に用意された衣服に着替えた。
『ふふ。完成ですね。【人型偽神】。【人神】の伝承や神から与えられた記憶・知識を基に創られた偽りの神です。【異神】に対抗する戦力として期待していますよ?。』
『ああ。任せろ。』
『ふふ。任せんし。』
『……………。』
マズイな…。ここから離れた方が良い気がする。
『皆。この建物から出るぞ。』
俺の言葉に頷く面々。
夢伽達も危機感を感じ取ったようだ。
俺達は物陰から移動し入ってきた階段へと戻る。
ーーー
『ひひひひひ。ぼ、僕の目的…目的は達成されたので。ひひひ。さ、先にきょ、拠点へ。も、戻ります。ひひひひひ。』
小型の端末機。複数枚の資料などを両手に抱え寝蔵が奥の扉へと移動する。
『ええ。御苦労様です。後のことは我々にお任せください。』
『ふひっ!。で、では、これで。』
寝蔵が扉の奥に姿を消したことを確認したイグハーレンは深く溜め息をついた。
『やれやれ。彼の能力は優秀ですが。あの体臭は何とかならないのでしょうか?。【異界人】でなければ即刻首を跳ねているレベルですよ?。あの臭い…。』
霧吹きのようなモノで寝蔵がいた場所、及び、彼の歩いた箇所に水飛沫を散布していくイグハーレン。
『さて、すみませんね。お待たせしてしまって。』
『構わない。俺もあの臭さが気に入らなかった。』
『ワッチもじゃ。鼻がひん曲がるかと思うたわ。』
『……………。』
全員が同じ意見に笑うイグハーレン。
『さて、早速ですが。貴殿方に 命令 を下させて頂きます。』
その言葉に、3体の偽神が反応し直立する。
『どうやら、我々はつけられていたようでして…この場から逃げ出した【異神】とその仲間達が数人いるようなのです。』
『っ!。』
『【異神】の力は未知数。しかも、どの種族の【異神】なのかも分かりません。ですが。逆にチャンスと考えましょう。貴殿方の力が【異神】に通用するのかが証明できるのですから。』
イグハーレンは階段を指差し上の階層へ指を移動させた。
『【異神】とその仲間達を殺しなさい。』
その命令と同時に3体の偽神が動く。
長身の男が天井を素手で破壊したのだ。穴の開いた天井から飛び出していく3体。その様子を見てイグハーレンは2回目の溜め息をした。
『階段を使って下さい。誰がこれを修理すると思っているのですか…。ふふ。さて、どの【異神】か楽しみですね。』
ーーー
来るっ!?。
教会から外に出た俺達。
その直後、俺の直感が働いた。
『皆っ!。伏せろ!。』
『『『『っ!?。』』』』
俺の叫びと同時に教会の扉が…いや、壁を含めた一面が爆発した。その衝撃に俺達は吹き飛ばされる。
『はっ!。お前達が覗き見してた【異神】か?。』
『良く見んさい。【異神】は2人やん。残りは【異界人】じゃわ。』
『………。』
やっぱ気付かれていたみたいだ。
追ってきたってことは話し合いが目的って訳じゃないよな…。
『お前達の目的は何だ?。』
『は?。決まってんだろ?。お前らを殺すのよ。そんで俺達の強さを証明すんのさ。ええ…1、2……5人か?。誰が誰とやる?。俺は【異神】のどっちかと戦いてぇ。』
『ワッチはどちらでも。野蛮なことはしとぉない。』
『……………。』
『じゃあ。くじ引きの…あれ、すっか?。』
『ふふ。好きじゃな~。』
『………。』
長身の細身の男が前に出る。
『ほんじゃまぁ。やるか。はぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
男の身体から溢れ出る莫大なエネルギー。
『っ!?。先輩!。あれ!。魔力じゃないよ!?。』
『エーテルでもありません!?。』
全身から放出されたエネルギーが奴の右腕に集中していく。同時に、細く長かった腕は常人の何倍にも太く、そして脈動と繰り返す。筋肉が風船のように急激に膨らんでいった。
『ははは!。すげぇな!。これが【人功気】ってヤツか?。ははは!。力が漲って来やがる!。』
男が跳ぶ。
『マズイ!。皆!。俺の近くに!。』
魔力でも、エーテルでもないエネルギーによって強化された奴の拳が地面に叩き込まれた。その威力は特大の衝撃波を発生させ教会はおろか、周囲の繁華街すら吹き飛ばすこととなる。
突然の爆発に巻き込まれた【人族】の悲鳴や叫び声でさえ消し去る程の爆風だ。俺達は為す統べなく巻き込まれ各々別の場所に吹き飛ばされた。
ーーー
爆発から5分後。
『最悪です。』
『それ、こっちの台詞だし。』
『まさか。一緒の方角に飛ばされたのが駄肉とだなんて。』
『だから、それ、ウチの台詞。うぜぇ。まな板。』
『駄肉。』
『まな板。』
『……………。』
『……………。』
『取り敢えず、抱きついて宜しいですか?。』
『は?。』
『流石に、私も状況に慌てていまして。駄肉の匂いを嗅げば落ち着けるかと。』
『………嫌。』
『………。』
『ちょっ。来るなし。てか、やっぱウチのこと好きだろ?。てめぇ。』
『………ちっ。』
『何の舌打ちやねん。』
詩那、兎針の飛ばされた先。何処かの路地裏。
周囲には目新しい物はなく、廃材と木材が並んでいるだけ。
『ははは。【異神】くじ引き。当たりぃ。』
『『っ!?。』』
2人の前に現れた長身の男。
先程の爆発を引き起こした男だ。
『俺的には、一番強そうだった男の方とやりたかったんだが。おい、そこの触角を生やした女。お前も【異神】だろう?。お前で我慢してやるよ。』
『は?。私のことを舐めてます?。』
『いんや。お前さんの身体から溢れてる…エーテルだったか?。その力強さを見るだけでなかなかなモンだということは分かる。だがな。お前さん。真っ向勝負とかするタイプじゃねぇだろ?。どちらかというと自分は隠れて安全な場所から暗殺するようなタイプだと思うんだが?。違うか?。』
『……………。』
『アイツ…筋肉馬鹿かと思ったけど。以外に洞察力があるかも?。』
『ええ。』
『まぁ。良いや。【異神】には違いないしな。行くぜ?。俺の 人生の全て を捧げた 力 だ。頼むぜ?。後悔させてくれるなよ?。はぁぁぁぁぁあああああ!!!。』
男が【人功気】を放出。
全身から漲るエネルギーにより、今度は全身の筋肉が膨張し細く長かった身体は筋肉の鎧に覆われた巨漢へと変貌を遂げた。
『【人型偽神】が1柱。憧厳だ!。【異神】と【異界人】よ!。俺の血肉となれ!。』
巨体が跳躍し、同時に戦闘が始まった。
ーーー
『けほけほ。夢伽。大丈夫?。』
『う、うん。奏他お姉さん。ありがとうございます。助かりました。』
夢伽は奏他の片翼に包まれたことで吹き飛ばされた衝撃から守られた。
無事着地に成功した2人は公園のような場所にいることに気付いた。
いくつもの遊具が並び、砂場や芝生が確認できる。
先程の爆発で人々が逃げてしまったようで、周囲から人影は消えている。
『ふふ。ワッチの相手はお主等2人のようじゃな?。』
2人の前に現れたのは、着物を着崩した面妖な雰囲気の女。
『どうやら、【異界人】のようじゃが…。…やれやれ… ハズレ のようじゃ…。』
『ハズレかどうかは分かんないよ!。』
『いんや。ハズレじゃ。特に童。』
女が夢伽を指差す。
『え?。』
『お主は邪魔じゃ。とっとと去るが良い。』
『何言って…。』
『伝わらんか?。力不足だと言っとるんじゃ。ワッチの前から消えよ。』
『っ!?。私…は…。』
『そんなことないよ。この娘だってちゃんと戦える。』
『っ!?。お姉さん…。』
『一緒に戦おっ!。』
『は、はいっ!。』
溜め息をする女。
『そうか…。口で言って分からんのじゃな…。気に入らんのぉ。…はぁ。ならば仕方がない。その矮小な身体に刻んでやろう。』
女が【人功気】を纏う。
『【人型偽神】が1柱。睡蓮!。【異界人】!。女、童とて容赦せん!。逃げなかったこと死して後悔するがよいぞ!。』
『っ!?。がはっ!。』
『お姉さん!。』
並んで立っていた夢伽と奏他の間。
瞬き程の一瞬の時間で睡蓮は2人の間に移動した。
2人が気付いた時には奏他の身体が宙に舞い地面に頭から叩き付けられていた。
ーーー
エーテルで身体を強化したことで、コンクリートや鉄の塊にぶつかることでのダメージを防ぐ。身体を丸め衝撃に耐える。何処かの建物の中に突っ込んだようだ。
『いてて…。なんつぅ馬鹿力だ。だいぶ吹っ飛ばされたぞ?。』
レンガやコンクリートを退かしながら外に出る。外は大惨事だ。さっきの衝撃で男が殴った場所以外にも被害が出ている。色んな場所から煙が立ち上っていた。
『やべぇな。皆とはぐれちまった。』
エーテルの波を周囲に飛ばし気配を探る。
『駄目だ。人が多すぎる…。アイツ等を見付けられねぇ…。もっと、深く…兎針のエーテルを…夢伽…詩那…奏他の魔力を…。』
アイツ等の吹き飛ばされた方向さへ分かれば見付けられそうだが…如何せん、この巨大な地下都市が広すぎる…。
俺は更にエーテルの波を強め夢伽達を探そうとした…その瞬間だった。
急速に近付いて来る魔力に気付く。
しかも、これ敵意を持って………来るっ!?。
『くっ!?。』
俺はその場から跳び退いた。
何者かが物凄い勢いで俺に突っ込んで来やがった!?。土煙の中に消えたソイツを警戒しながら全身を強化する。
さっきの奴等が追ってきた?。
いや、突っ込んで来た奴は魔力を扱っていた。怪しい男はエーテル。3体の偽神は【人功気】と言ってたか?。それを使ってた。
このタイミングで新手の敵ってか?。どうなってやがる?。
『まさか。裏切り者を追って訪れた先で【異神】に出くわすとは…。我が信仰する神【創造神】の思し召しでありましょう。』
両腕に六角形の板のような機械をつけた少女。
見た目の年は…睦美と同じくらいか…。
コイツもさっきの寝蔵と一緒でどっかで見たことある顔だな…。誰だったか…。
『青国、ブリュセ・リオ所属、【機甲重武装族】!。名を八雲!。』
そうだ!。八雲!。
ああ、青嵐のとこの幹部だったヤツか…。転生してもリスティナを信仰してんのか?。筋金入りだな…。
それに、機美姉と同じ種族か…。
あの両手の機械が武器ってことだよな。
『邪悪なる【異神】よ!。この世界を滅ぼせさせはしない!。』
『ちょっと待て。今はお前の相手をしている暇はな…。』
『黙れ!。』
両腕の機械。六角形の3つの点からレーザーが照射され1つの点で交わる。そこに魔力が流れ刃が出現した。同時に反対側の辺からは魔力放出が行われ、魔力による推進力を利用した高速移動で距離を詰めてくる。
『覚悟!。』
『ちっ!。うぜぇ。』
予期せぬ出会い。戦いが始まった。
次回の投稿は17日の日曜日を予定しています。